Gabriel–Popescuの定理

概要

Gabriel–Popescuの定理(Gabriel–Popescu theorem)とは、生成対象 $G$ を持つGrothendieck圏 $\mathcal A$ が、環 $R:=\operatorname{End}_{\mathcal A}(G)$ 上の加群の圏の局所化として実現されることを述べる定理である。抽象的な公理だけで定義されたGrothendieck圏が、実は具体的な加群の圏の「良い商」として常に具体的に表せることを保証する、Grothendieck圏の理論における中心的な構造定理である。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: アーベル圏, Grothendieck圏, 加群, 随伴関手, 充満忠実関手, 完全関手

Gabriel–Popescuの定理は、Grothendieck圏が必ず環上の加群の圏の中に「良い形」で埋め込めることを述べる定理である。生成対象 $G$ からの $\operatorname{Hom}$ をとる関手は充満忠実であり、その左随伴は完全になる。したがって Grothendieck 圏は、加群の圏をある部分圏で割った商と同値である。この記事では定理を述べ、左随伴の構成から始めて定理を完全に証明する。さらに (AB5) 条件や生成対象の仮定を外すと結論が崩れる例を確かめる。

定理

以下、$\mathcal A$ をGrothendieck圏、$G$ をその生成対象(Grothendieck圏の記事の定義「生成対象」)とする。

Gabriel–Popescuの定理

$R:=\operatorname{End}_{\mathcal A}(G)$($G$ の自己準同型環。積は射の合成 $r_1r_2:=r_1\circ r_2$ で定める)とする。$\operatorname{Hom}_{\mathcal A}(G,X)$ に、$r\in R$ を $f\mapsto f\circ r$ で右から作用させることにより右 $R$ 加群の構造を与え、関手
$$ T\colon\mathcal A\longrightarrow\mathrm{Mod}\text{-}R,\qquad T(X):=\operatorname{Hom}_{\mathcal A}(G,X) $$
を考える。このとき:
(i) $T$ は充満忠実関手である。
(ii) $T$ は完全な左随伴関手 $F\colon\mathrm{Mod}\text{-}R\to\mathcal A$ を持つ(すなわち $F$ は完全関手である)。
したがって $\mathcal A$ は、$\mathrm{Mod}\text{-}R$ のある局所化する部分圏($F$ の核 $\{M\mid F(M)=0\}$ として定まる。ここでSerre部分圏とは部分対象・商対象・拡大で閉じた充満部分圏のことをいい、局所化する部分圏とはさらに任意個の直和で閉じたSerre部分圏をいう)による商圏に圏同値である。

証明の構成

証明は下の節「証明」で行う。左随伴 $F$ を加群の表示から構成し(lem-gabriel-popescu-left-adjoint)、「単射の随伴はモノ射」(lem-gabriel-popescu-mono)を (AB5) と生成対象から示す。そこから、余単位 $FT(A)\to A$ が同型射であること((i) にあたる)と、$F$ がモノ射を保つこと((ii) にあたる)を導く。

$(f\cdot r_1)\cdot r_2=f\circ r_1\circ r_2=f\cdot(r_1r_2)$ なので、$T(X)$ は確かに右 $R$ 加群である。定理は Gabriel と Popescu による(KS06 Theorem 8.5.8、p. 191、StacksGP Theorem 19.14.3)。KS06 は $\operatorname{End}(G)^{\mathrm{op}}$ 上の左加群で述べるが、同じことである。以下の証明は StacksGP の筋に従う。

直感

生成対象の定義は、$\operatorname{Hom}(G,-)$ が忠実関手であることしか保証しない——これは「異なる射を異なる写像に区別できる」という弱い情報である。Gabriel–Popescuの定理の主張はこれよりはるかに強く、$\operatorname{Hom}(G,-)$ が充満でもあること、すなわち $R$ 加群としての $T(X)\to T(Y)$ の準同型がすべて $\mathcal A$ の射から来ることを述べる。これは(AB5)条件と生成対象の存在を同時に使う、Grothendieck圏に特有の現象であり、(AB5) を外すと成り立たない(ex-gabriel-popescu-ab-op)。
$\mathcal A=\mathrm{Mod}\text{-}S$、$G=S$ なら $T$ は恒等関手と同じもので、定理は自明である。興味深いのは、$\mathcal A$ が加群の圏そのものでない場合である。層の圏や捩れ群の圏(Grothendieck圏の記事の例)など様々なGrothendieck圏は、この定理を通じて加群の圏の言葉に翻訳して調べることができる。

証明

記法

集合 $I$ に対し、$\bigoplus_IG$ の $i$ 番目の入射を $\iota_i$、$\bigoplus_IR$ の標準基底を $e_i$ と書く。直和の普遍性と自由加群の普遍性から、任意の $A\in\mathcal A$ に対し自然な全単射
$$ \operatorname{Hom}_{\mathcal A}\Bigl(\bigoplus_IG,A\Bigr)\cong\prod_IT(A)\cong\operatorname{Hom}_R\Bigl(\bigoplus_IR,T(A)\Bigr),\qquad\psi\longleftrightarrow\bigl(e_i\mapsto\psi\circ\iota_i\bigr)\qquad(\star) $$
がある。$R$ 線形写像 $\varphi\colon\bigoplus_JR\to\bigoplus_IR$ を $\varphi(e_j)=\sum_ie_ir_{ij}$(有限和、$r_{ij}\in R$)と書き、$\varphi_G\colon\bigoplus_JG\to\bigoplus_IG$ を $\varphi_G\circ\iota_j:=\sum_i\iota_i\circ r_{ij}$ で定める。$(\star)$ で $\psi$ に対応する写像を $\theta$ とすると、$\psi\circ\varphi_G$ に対応する写像は
$$ e_j\mapsto\sum_i\psi\circ\iota_i\circ r_{ij}=\sum_i\theta(e_i)\cdot r_{ij}=\theta(\varphi(e_j)) $$
すなわち $\theta\circ\varphi$ である。つまり $(\star)$ のもとで $\varphi_G$ との合成は $\varphi$ との合成に対応する。
さらに、有限個の直和 $G^n$ への射 $v\colon G\to G^n$ は $v=\sum_k\iota_k\circ v_k$($v_k\in R$)と書け、これに $x_v:=\sum_ke_kv_k\in R^n$ を対応させると、$(\star)$ で $\psi\colon G^n\to A$ と $\theta$ が対応するとき
$$ \psi\circ v=\sum_k\psi\circ\iota_k\circ v_k=\sum_k\theta(e_k)\cdot v_k=\theta(x_v)\qquad(\star\star) $$
が成り立つ。

左随伴の構成

左随伴 $F$ の存在

$T$ は左随伴関手 $F\colon\mathrm{Mod}\text{-}R\to\mathcal A$ をもつ。自然な全単射を $\Phi\colon\operatorname{Hom}_{\mathcal A}(F(M),A)\cong\operatorname{Hom}_R(M,T(A))$ と書く。$F$ は直和を保ち、$F(\bigoplus_IR)=\bigoplus_IG$、$F(\varphi)=\varphi_G$ ととれ、このとき $\Phi$ は $(\star)$ に一致する。

右 $R$ 加群 $M$ に対し、完全列 $\bigoplus_JR\xrightarrow{\varphi}\bigoplus_IR\xrightarrow{\pi_0}M\to0$(表示)を 1 つ選び、$F(M):=\operatorname{coker}(\varphi_G\colon\bigoplus_JG\to\bigoplus_IG)$ とおく。余核の定義から、各 $A$ について
$$ 0\to\operatorname{Hom}(F(M),A)\to\operatorname{Hom}\Bigl(\bigoplus_IG,A\Bigr)\xrightarrow{\varphi_G^*}\operatorname{Hom}\Bigl(\bigoplus_JG,A\Bigr) $$
は完全であり、$\operatorname{Hom}_R(-,T(A))$ の左完全性から
$$ 0\to\operatorname{Hom}_R(M,T(A))\to\operatorname{Hom}_R\Bigl(\bigoplus_IR,T(A)\Bigr)\xrightarrow{\varphi^*}\operatorname{Hom}_R\Bigl(\bigoplus_JR,T(A)\Bigr) $$
も完全である。$(\star)$ により 2 つの列の右 2 項は $A$ について自然に同一視され、$\varphi_G^*$ と $\varphi^*$ が対応するので、核どうしの自然な全単射 $\Phi_{M,A}\colon\operatorname{Hom}(F(M),A)\cong\operatorname{Hom}_R(M,T(A))$ が得られる。
すなわち各 $M$ について関手 $\operatorname{Hom}_R(M,T(-))$ は $F(M)$ で表現される。$R$ 線形写像 $u\colon M\to M'$ に対し、米田の補題(系「米田埋め込み」)により、$\Phi$ を $M$ についても自然にする射 $F(u)\colon F(M)\to F(M')$ がただ一つあり、この一意性から $F$ は関手になる。よって $F$ は $T$ の左随伴である。
表示として $\bigoplus_IR$ 自身($J=\emptyset$)をとれば $F(\bigoplus_IR)=\bigoplus_IG$ で、$\Phi$ は $(\star)$ そのものになる。このとき $F(\varphi)$ は「$\Phi$ で $\varphi$ との合成に対応する合成を与える射」として一意に決まり、上の計算から $\varphi_G$ がその性質をもつので $F(\varphi)=\varphi_G$。左随伴は余極限、とくに直和と余核を保つ(随伴関手の記事の命題「随伴による保存」)。$\blacksquare$

以下、$\Phi^{-1}(f)$ を $f^\flat$ と書く。随伴の自然性から、$R$ 線形写像 $u\colon M'\to M$ と $f\colon M\to T(A)$ について $(f\circ u)^\flat=f^\flat\circ F(u)$ である。$\varepsilon_A:=(\operatorname{id}_{T(A)})^\flat\colon FT(A)\to A$ を余単位、$\eta_M:=\Phi(\operatorname{id}_{F(M)})\colon M\to TF(M)$ を単位と書く(随伴関手の記事の命題「随伴から単位・余単位を取り出す」)。

単射の随伴は単射

単射の随伴はモノ射

右 $R$ 加群の単射 $f\colon M\to T(A)$ に対し、随伴な射 $f^\flat\colon F(M)\to A$ はモノ射である(StacksGP Lemma 19.14.2)。

段 1(有限の場合):$R$ 線形写像 $\varphi\colon R^n\to M$($n$ は有限)について、$G^n$ の部分対象として $\ker(f^\flat\circ F(\varphi))=\ker F(\varphi)$ であることを示す。$v\colon G\to G^n$ が $f^\flat\circ F(\varphi)\circ v=0$ を満たすとする。$f^\flat\circ F(\varphi)=(f\circ\varphi)^\flat$ は $(\star)$ で $f\circ\varphi$ に対応するので、$(\star\star)$ により $f^\flat\circ F(\varphi)\circ v=f(\varphi(x_v))$ である。これが $0$ で $f$ は単射だから $\varphi(x_v)=0$。同様に $F(\varphi)=(\eta_M\circ\varphi)^\flat$ に $(\star\star)$ を使うと $F(\varphi)\circ v=\eta_M(\varphi(x_v))=0$。
こうして「$f^\flat F(\varphi)v=0$ なら $F(\varphi)v=0$」がすべての $v\colon G\to G^n$ で成り立つ。$k\colon K\to G^n$ を $f^\flat F(\varphi)$ の核とする。$F(\varphi)\circ k\neq0$ なら、$G$ は生成対象なので $F(\varphi)\circ k\circ h\neq0$ となる $h\colon G\to K$ があるが、$v:=k\circ h$ は $f^\flat F(\varphi)v=0$ を満たすので矛盾する。よって $F(\varphi)\circ k=0$、すなわち $K\subseteq\ker F(\varphi)$ で、逆の包含は明らかである。
段 2((AB5) による極限移行):全射 $\pi_0\colon\bigoplus_IR\to M$ を 1 つとり、$\pi:=F(\pi_0)\colon\bigoplus_IG\to F(M)$ とおく。$F$ は余核を保つので全射を全射に写し、$\pi$ はエピ射である。有限部分集合 $J\subset I$ について $\bigoplus_JG$ を $\bigoplus_IG$ の部分対象とみなすと、$\pi$ の制限は $F(\pi_0|_{R^J})$ に等しい(lem-gabriel-popescu-left-adjoint の $F(\varphi)=\varphi_G$)。段 1 を $\varphi=\pi_0|_{R^J}$ に使うと
$$ \ker(f^\flat\pi)\wedge\bigoplus_JG=\ker\bigl(f^\flat\pi|_{\bigoplus_JG}\bigr)=\ker\bigl(\pi|_{\bigoplus_JG}\bigr)=\ker\pi\wedge\bigoplus_JG . $$
部分対象の族 $(\bigoplus_JG)_J$ は有向で、その和は $\bigoplus_IG$ 全体である(Grothendieck圏の記事の命題「(AB5) なら直和はモノ射を保つ」の証明の中で示したことと同じ)。(AB5) の分配律を $B=\ker(f^\flat\pi)$ と $B=\ker\pi$ に使うと
$$ \ker(f^\flat\pi)=\bigvee_J\Bigl(\ker(f^\flat\pi)\wedge\bigoplus_JG\Bigr)=\bigvee_J\Bigl(\ker\pi\wedge\bigoplus_JG\Bigr)=\ker\pi . $$
段 3($f^\flat$ はモノ射):$u\colon X\to F(M)$ が $f^\flat\circ u=0$ を満たすとする。$\pi$ の $u$ に沿った引き戻し $P$ と射影 $p\colon P\to X$、$p'\colon P\to\bigoplus_IG$($u\circ p=\pi\circ p'$)をとる。アーベル圏ではエピ射の引き戻しはエピ射なので $p$ はエピ射である(KS06 Lemma 8.3.11、p. 180)。$f^\flat\circ\pi\circ p'=f^\flat\circ u\circ p=0$ だから $p'$ は $\ker(f^\flat\pi)=\ker\pi$ を経由し、$\pi\circ p'=0$、すなわち $u\circ p=0$。$p$ はエピ射なので $u=0$。とくに $f^\flat$ の核の包含に当てれば、$f^\flat$ の核は $0$ である。$\blacksquare$

定理の証明

(i) $T$ は充満忠実:まず余単位 $\varepsilon_A\colon FT(A)\to A$ が同型射であることを示す。

  • モノ射であること:$\varepsilon_A=(\operatorname{id}_{T(A)})^\flat$ で、$\operatorname{id}_{T(A)}$ は単射だから lem-gabriel-popescu-mono による。
  • エピ射であること:$h\colon G\to A$ を任意にとり、$\lambda_h\colon R\to T(A)$ を $1\mapsto h$ で定める。$(\star)$($I$ が 1 点)により $\lambda_h^\flat\colon F(R)=G\to A$ は $h$ に等しく、$\lambda_h=\operatorname{id}_{T(A)}\circ\lambda_h$ から $h=\lambda_h^\flat=\varepsilon_A\circ F(\lambda_h)$。よって余核への射 $q\colon A\to\operatorname{coker}\varepsilon_A$ はすべての $h\colon G\to A$ について $q\circ h=0$ を満たし、$G$ が生成対象なので $q=0$。$q$ はエピ射だから $\operatorname{coker}\varepsilon_A=0$ で、$\varepsilon_A$ はエピ射である。
    アーベル圏でモノ射かつエピ射の射は同型射なので、$\varepsilon_A$ は同型射である。
    次に、$X,Y\in\mathcal A$ について、$T$ が与える写像 $\operatorname{Hom}(X,Y)\to\operatorname{Hom}_R(TX,TY)$ と全単射 $\Phi^{-1}\colon\operatorname{Hom}_R(TX,TY)\to\operatorname{Hom}(FTX,Y)$ の合成は、余単位の自然性により $g\mapsto(T(g))^\flat=\varepsilon_Y\circ FT(g)=g\circ\varepsilon_X$ である。$\varepsilon_X$ は同型射なので $g\mapsto g\circ\varepsilon_X$ は全単射であり、したがって $T$ が与える写像も全単射である。よって $T$ は充満忠実である。

(ii) $F$ は完全:$F$ は左随伴なので余核を保ち、右完全である。あとはモノ射を保つことを示せばよい。

  • 自由加群の部分加群の場合:$P=\bigoplus_IR$ とその部分加群 $k\colon K\hookrightarrow P$ をとる。$R$ 線形写像 $j\colon P\to T(\bigoplus_IG)$ を $e_i\mapsto\iota_i$ で定める。$\sum_i\iota_i\circ r_i=0$(有限和)なら、$i_0$ 成分への射影 $\rho\colon\bigoplus_IG\to G$($\rho\iota_i$ は $i=i_0$ で $\operatorname{id}$、他で $0$)を合成して $r_{i_0}=0$ となるので、$j$ は単射である。$(\star)$ により $j^\flat\colon F(P)=\bigoplus_IG\to\bigoplus_IG$ は $j^\flat\circ\iota_i=\iota_i$ を満たす射、すなわち恒等射である。lem-gabriel-popescu-mono を単射 $j\circ k$ に使うと、$(j\circ k)^\flat=j^\flat\circ F(k)=F(k)$ はモノ射である。
  • 一般の場合:単射 $m\colon M'\to M$ に対し、全射 $p\colon P\to M$($P$ は自由)をとり、$P':=p^{-1}(m(M'))$、$K:=\ker p$ とおく。$p$ の $P'$ への制限は全射 $p'\colon P'\to M'$ を与え($m$ を通して同一視)、$m$ が単射なので $\ker p'=K$ である。2 つの短完全列 $0\to K\to P'\to M'\to0$ と $0\to K\to P\to M\to0$ の間に、$(\operatorname{id}_K,\ P'\hookrightarrow P,\ m)$ が射を与える。$F$ を施すと、右完全性と上の場合($K\subset P$、$P'\subset P$ はどちらも自由加群の部分加群)から、行が完全な図式
    $$ \xymatrix{ 0 \ar[r] & F(K) \ar[r] \ar@{=}[d] & F(P') \ar[r] \ar[d]_{F(j')} & F(M') \ar[r] \ar[d]^{F(m)} & 0 \\ 0 \ar[r] & F(K) \ar[r] & F(P) \ar[r] & F(M) \ar[r] & 0 } $$
    が得られる($j'\colon P'\hookrightarrow P$。上の行の左端の単射性は、合成 $F(K)\to F(P')\to F(P)$ が単射であることから従う)。蛇の補題の記事の定理「蛇の補題」により $0\to\ker\operatorname{id}\to\ker F(j')\to\ker F(m)\to\operatorname{coker}\operatorname{id}$ は完全で、$\ker F(j')=0$、$\operatorname{coker}\operatorname{id}=0$ なので $\ker F(m)=0$。よって $F(m)$ はモノ射である。

商圏との同値:$\mathcal S:=\{M\mid F(M)=0\}$ は局所化する部分圏であり、$F$ は Serre 商を経由する完全関手 $\bar F\colon\mathrm{Mod}\text{-}R/\mathcal S\to\mathcal A$ を与える。$\bar F$ が忠実・本質的全射・充満であることを示す。

詳しい証明を開く

$\mathcal S:=\{M\mid F(M)=0\}$ は Serre 部分圏である。実際、短完全列 $0\to M'\to M\to M''\to0$ に完全な $F$ を施すと $0\to F(M')\to F(M)\to F(M'')\to0$ が完全なので、$F(M)=0$ なら $F(M')=F(M'')=0$ であり、$F(M')=F(M'')=0$ なら $F(M)=0$ である(StacksSerre Lemma 12.10.4)。また、$F$ は直和を保つので直和でも閉じ、局所化する部分圏である。商 $P\colon\mathrm{Mod}\text{-}R\to\mathrm{Mod}\text{-}R/\mathcal S$ は完全・本質的全射で核が $\mathcal S$ であり、$F=\bar F\circ P$ となる完全関手 $\bar F$ がただ一つある(StacksSerre Lemma 12.10.6)。$\mathcal S=\ker F$ なので $\bar F$ は忠実である(StacksSerre Lemma 12.10.7)。

本質的全射:$X\cong FT(X)=\bar F(PT(X))$($\varepsilon_X$ は同型)。

充満:$\alpha\colon F(M)\to F(N)$ をとる。三角恒等式 $\varepsilon_{F(N)}\circ F(\eta_N)=\operatorname{id}$ と $\varepsilon_{F(N)}$ が同型であることから $F(\eta_N)$ は同型で、$F$ は完全なので $\ker\eta_N$、$\operatorname{coker}\eta_N$ は $\mathcal S$ に属し、$P(\eta_N)$ は同型射である($M$ についても同様)。$\beta:=P(\eta_N)^{-1}\circ P(T(\alpha))\circ P(\eta_M)$ とおくと、$\bar F(\beta)=F(\eta_N)^{-1}\circ FT(\alpha)\circ F(\eta_M)=\varepsilon_{F(N)}\circ FT(\alpha)\circ\varepsilon_{F(M)}^{-1}=\alpha$(余単位の自然性)。

よって $\bar F$ は充満忠実かつ本質的全射であり、充満忠実関手の記事の命題「圏同値の特徴づけ」により $\mathrm{Mod}\text{-}R/\mathcal S\simeq\mathcal A$ である。$\blacksquare$

(i) のうち忠実性は、生成対象の定義だけから直接わかる。

$T$の忠実性

$T=\operatorname{Hom}_{\mathcal A}(G,-)$ は忠実である。

$G$ は生成対象であるから、Grothendieck圏の記事の定義により $\operatorname{Hom}_{\mathcal A}(G,-)\colon\mathcal A\to\mathbf{Ab}$ は忠実である。$T$ はこの関手に $R$ 加群としての追加構造を与えたものにすぎず、台となるアーベル群の間の写像は $\operatorname{Hom}_{\mathcal A}(G,-)$ が与えるものとまったく同じであるから、$T$ もまた忠実である。$\blacksquare$

充満性は (AB5) を使う点で本質的に難しい。証明の段 2 だけが (AB5) を使っており、ex-gabriel-popescu-ab-op はこの段が崩れる例になっている。

例

加群の圏自身の場合

$\mathcal A=\mathrm{Mod}\text{-}S$ 自身とし、生成対象を $G=S$(右正則加群)に取る。このとき $\operatorname{End}_{\mathcal A}(G)=\operatorname{End}_{\mathrm{Mod}\text{-}S}(S)\cong S$($\varphi\mapsto\varphi(1)$、左からの掛け算を右加群の自己準同型とみる)であり、$T=\operatorname{Hom}_{\mathrm{Mod}\text{-}S}(S,-)\colon\mathrm{Mod}\text{-}S\to\mathrm{Mod}\text{-}S$ は(米田の補題の意味で)恒等関手と自然同型になる。この場合、$T$ の左随伴 $F$ も恒等関手であり、局所化する部分圏は零部分圏(自明な局所化)である。

$T$ が完全でない例

$\mathcal A=\mathbf{Ab}$、$G=\mathbb Z\oplus\mathbb Z/2$ とする。$\mathbb Z$ を直和因子にもつので $G$ は生成対象である(零でない $f\colon A\to B$ に対し $f(a)\neq0$ となる $a$ をとり、射影 $G\to\mathbb Z$ と $1\mapsto a$ の合成を $h$ とすればよい)。定理により $T=\operatorname{Hom}(G,-)$ は充満忠実だが、完全ではない:全射 $\pi\colon\mathbb Z\to\mathbb Z/2$ について
$$ T(\mathbb Z)=\operatorname{Hom}(\mathbb Z,\mathbb Z)\oplus\operatorname{Hom}(\mathbb Z/2,\mathbb Z)\cong\mathbb Z\oplus0,\qquad T(\mathbb Z/2)\cong\mathbb Z/2\oplus\mathbb Z/2 $$
であり、$T(\pi)$ の像は第 1 成分の $\mathbb Z/2\oplus0$ だけなので $T(\pi)$ は全射でない。一般に $T$ が完全であることは $G$ が射影対象であることの定義そのものであり(入射対象・射影対象)、$\mathbb Z/2$ は $\mathbf{Ab}$ の射影対象でないので $G$ も射影対象でない。定理 (ii) が完全性を主張するのは右随伴 $T$ ではなく左随伴 $F$ の方である。

反例

(AB5) を外すと $T$ は充満でない

$\mathcal A=\mathbf{Ab}^{\mathrm{op}}$ は (AB3) を満たし生成対象 $G=\mathbb Q/\mathbb Z$ をもつが、(AB5) を満たさない(Grothendieck圏の記事の例「アーベル群の圏の反対圏」)。このとき $T$ は充満でない。
$\mathbf{Ab}$ の言葉で書くと $T(X)=\operatorname{Hom}_{\mathbf{Ab}}(X,\mathbb Q/\mathbb Z)$ で、$r\in R=\operatorname{End}(\mathbb Q/\mathbb Z)$ は $\chi\mapsto r\circ\chi$ で作用する。$T(\mathbb Z)\cong\mathbb Q/\mathbb Z$($\chi\mapsto\chi(1)$)であり、$R$ 加群の自己準同型は、$\mathbb Q/\mathbb Z$ の加法的な自己写像のうち $R$ のすべての元と可換なものである。一方 $\mathbf{Ab}^{\mathrm{op}}$ での $\operatorname{End}(\mathbb Z)=\mathbb Z$ の元 $n$ は、$T$ で $n$ 倍写像に写る。
$\mathbb Q/\mathbb Z=P_2\oplus P'$($P_2$ は位数が 2 の冪の元全体、$P'$ は位数が奇数の元全体)と分け、$e$ を $P_2$ への射影とする。アーベル群の準同型は元の位数を割る数に写すので $P_2$ と $P'$ をそれぞれ保ち、したがって $e$ はすべての $r\in R$ と可換である。よって $e\in\operatorname{End}_R(T(\mathbb Z))$。しかし $e$ はどの整数倍写像とも一致しない:$e=n$ なら $e(1/2)=1/2$ から $n$ は奇数、$e(1/3^k)=0$ から $3^k\mid n$ がすべての $k$ で成り立ち $n=0$ となって矛盾する。よって $T\colon\operatorname{End}_{\mathbf{Ab}^{\mathrm{op}}}(\mathbb Z)\to\operatorname{End}_R(T(\mathbb Z))$ は全射でない。

生成対象でない対象からの $\operatorname{Hom}$

$\mathcal A=\mathbf{Ab}$、$G=\mathbb Z/2$ とすると $R=\mathbb Z/2$、$T(X)=\operatorname{Hom}(\mathbb Z/2,X)$ は $X$ の位数 2 以下の元の群である。$T(\mathbb Z)=0$ なので $T(\operatorname{id}_{\mathbb Z})=T(0)$ となり、$T$ は忠実でない。$\mathbb Z/2$ は $\mathbf{Ab}$ の生成対象でない。

外す条件反例成り立たなくなること
(AB5)$\mathbf{Ab}^{\mathrm{op}}$、$G=\mathbb Q/\mathbb Z$(ex-gabriel-popescu-ab-op)$T$ が充満であること
$G$ が生成対象$\mathbf{Ab}$、$G=\mathbb Z/2$(ex-gabriel-popescu-not-generator)$T$ が忠実であること
$G$ が射影対象(定理は要求しない)$\mathbf{Ab}$、$G=\mathbb Z\oplus\mathbb Z/2$(ex-gabriel-popescu-not-exact)$T$ が完全であること

3 行目は定理の反例ではなく、定理が $T$ の完全性を主張しないことの確認である。

関連項目

参考文献

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