複比

同義語:cross ratiocross-ratio非調和比

概要

複比(cross ratio)とは、体 $k$ 上の射影直線の 4 点 $a,b,c,d$ に対して、座標で $(a,b;c,d)=\dfrac{(a-c)(b-d)}{(a-d)(b-c)}$ と定まる量で、斉次座標では 2 次の行列式の積の比として書ける。複比は 1 次分数変換(射影変換)で変わらず、最初の 3 点が相異なる 4 点の組が射影変換で移り合うことは複比が等しいことと同値で、複比を保つ全単射は射影変換に限る。4 点を並べ替えると複比は $\lambda,1/\lambda,1-\lambda$ などの 6 つの値をとり、複比 $-1$ の 4 点は調和点列である。透視で保たれ、円錐曲線 $x_0x_2=x_1^2$ の上の 4 点をその上の点から見た複比は見る点によらず(Steiner の定理)、双曲平面の距離も複比の対数で表される。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 射影直線, 射影平面, Möbius変換, 行列式

何を測る量か

1 点から 4 本の直線を見て、それを 2 本の直線で切ると、切り口の 4 点の間の長さや比は切り方によって変わるが、複比 という 1 つの量は変わらない。高校の記事 射影変換と複比 では、実数直線の上でこのことを符号付き面積で証明し、円周上の4点の複比 では円周上の点から見た 4 本の直線の複比が見る点によらないことを、調和点列 では複比が $-1$ になる 4 点を扱った。
この記事では、任意の体 $k$ の上の射影直線・射影平面で複比を定義し、次のことを証明する。

  1. 射影直線の上の 4 点の配置は、射影変換で動かす限り、複比という 1 つの値で完全に決まる。複比を保つ全単射は射影変換に限る。→ thm-cr-main
  2. 4 点の並べ方を変えると、複比は $\lambda,\ 1/\lambda,\ 1-\lambda,\dots$ の 6 つの値をとる。並べ方によらない量で、4 点の集合の射影同値類が分類できる。→ thm-cr-permutation、cor-cr-j
  3. 透視(中心射影)は複比を保ち、円錐曲線 $x_0x_2=x_1^2$(実数では放物線、座標を変えれば円)の上の 4 点を同じ曲線の上の点から見た複比は、見る点によらない。→ thm-cr-perspective、thm-cr-conic
    高校の記事で示したことこの記事で示すこと
    実数直線の上の 4 点の複比、透視で不変(射影変換と複比)任意の体で、行列式から定義し、射影変換で不変
    3 点を 3 点に移す射影変換はただ 1 つ複比が等しい 4 点の組は射影変換で移り合う
    円周上のどこから見ても同じ複比(円周上の4点の複比)円錐曲線についての Steiner の定理
    複比 $-1$ の 4 点(調和点列)並べ替えで値が 3 つしかない特別な配置
    複素数の場合の応用として、双曲平面の距離が複比で表されることも見る(prop-cr-hyperbolic)。

定義

$k$ を体とする。射影直線 の記事と同じく、$\mathbb P^1(k)$ の点を $0$ でないベクトル $v=(v_0,v_1)\in k^2$ の比 $[v_0:v_1]$ で表し、座標 $t=v_1/v_0$ によって $a\in k$ を $[1:a]$ と、$\infty$ を $[0:1]$ と同一視する。

括弧と複比

$v,w\in k^2$ について、2 つを列に並べた行列の行列式を
$$ [v,w]=v_0w_1-v_1w_0 $$
と書く。$\mathbb P^1(k)$ の 4 点 $a=[\alpha]$、$b=[\beta]$、$c=[\gamma]$、$d=[\eta]$($\alpha,\beta,\gamma,\eta\in k^2\setminus\{0\}$)のうち少なくとも 3 点が相異なるとき、
$$ (a,b;c,d)=\bigl[\,[\alpha,\eta][\beta,\gamma]\ :\ [\alpha,\gamma][\beta,\eta]\,\bigr]\in\mathbb P^1(k) $$
を 4 点の 複比(cross ratio)という。座標で書けば $(a,b;c,d)=\dfrac{[\alpha,\gamma][\beta,\eta]}{[\alpha,\eta][\beta,\gamma]}$(分母が $0$ なら $\infty$)である。

$[v,w]=0$ は $v$ と $w$ が平行、つまり $[v]=[w]$ であることと同値である。

複比が定まることと座標の式
  1. def-cr-cross-ratio の複比は代表ベクトルの選び方によらず、2 つの成分が同時に $0$ になることはない。
  2. $a,b,c,d\in k$ がすべて $\infty$ でなければ
    $$ (a,b;c,d)=\frac{(a-c)(b-d)}{(a-d)(b-c)} $$
    であり、1 点が $\infty$ のときは $\infty$ を含む 2 つの因子を消した式になる。とくに $(\infty,0;1,d)=d$ である。
  3. $a,b,c$ が相異なるとき、$(a,b;c,a)=\infty$、$(a,b;c,b)=0$、$(a,b;c,c)=1$ である。
括弧を計算する

要点:代表を定数倍しても 2 つの成分が同じ倍率で変わること、2 つの成分がともに $0$ になるのは 3 点が一致するときだけであることを確かめ、残りは括弧を座標で計算する。

詳しい証明を開く

1. $\alpha$ を $s\alpha$($s\in k^\times$)に替えると、2 つの成分はどちらも $s$ 倍になり、比は変わらない。ほかの代表も同じである。2 つの成分がともに $0$ なら、「$a=d$ または $b=c$」かつ「$a=c$ または $b=d$」である。4 通りの組合せのどれでも、4 点のうち 3 点が一致する(たとえば $a=d$ かつ $a=c$ なら $a=c=d$)。これは少なくとも 3 点が相異なることに反する。

2. $\alpha=(1,a)$ などとすると $[\alpha,\gamma]=c-a$ なので、$\dfrac{(c-a)(d-b)}{(d-a)(c-b)}=\dfrac{(a-c)(b-d)}{(a-d)(b-c)}$ である。$a=\infty$ なら $\alpha=(0,1)$ で $[\alpha,\gamma]=-1$、$[\alpha,\eta]=-1$ なので、複比は $\dfrac{d-b}{c-b}=\dfrac{b-d}{b-c}$ となり、$\infty$ を含む因子 $a-c$、$a-d$ を消した式に一致する。ほかの位置に $\infty$ があるときも同じである。$(\infty,0;1,d)=\dfrac{0-d}{0-1}=d$ である。

3. $d=a$ なら第 1 成分 $[\alpha,\alpha][\beta,\gamma]=0$、第 2 成分 $[\alpha,\gamma][\beta,\alpha]\ne0$ で、値は $\infty$ である。$d=b$ なら第 2 成分が $0$ で値は $0$、$d=c$ なら 2 つの成分がともに $[\alpha,\gamma][\beta,\gamma]$ で値は $1$ である。$\square$

並べ方は Möbius変換 の定義「複比」、射影直線 の系「複比の不変性」、Hit18 Definition 3.4.10(p. 57)と同じである。文献によっては、この逆数や $1$ から引いたものを複比とよぶので、比べるときは並べ方に注意する。

複比を計算する
  1. $k=\mathbb Q$ で $(0,1;-1,2)=\dfrac{(0+1)(1-2)}{(0-2)(1+1)}=\dfrac{-1}{-4}=\dfrac14$ である。
  2. $k=\mathbb F_5$(5 元体)で $(0,1;2,3)=\dfrac{(0-2)(1-3)}{(0-3)(1-2)}=\dfrac{4}{3}=4\cdot2=3$ である($\mathbb F_5$ で $3^{-1}=2$)。
  3. $(\infty,2;-2,\tfrac52)$ は $\infty$ を含む因子を消して $\dfrac{2-\frac52}{2+2}=-\dfrac18$ である。

主定理 1:複比は 4 点の配置を決める

$g\in\mathrm{GL}_2(k)$ は $[v]\mapsto[gv]$ によって $\mathbb P^1(k)$ の全単射を定め、スカラー行列は恒等写像を定める。こうして得られる変換の群が $\mathrm{PGL}_2(k)$ で、座標 $t$ で書けば 1 次分数変換である(射影直線 の節「1 次分数変換と 3 点」)。

複比の基本定理
  1. (不変性)$g\in\mathrm{PGL}_2(k)$ について $(ga,gb;gc,gd)=(a,b;c,d)$ である。
  2. (3 点の正規化)$a,b,c$ が相異なるとき、$\varphi_{a,b,c}(d)=(a,b;c,d)$ で定まる写像 $\varphi_{a,b,c}\colon\mathbb P^1(k)\to\mathbb P^1(k)$ は $\mathrm{PGL}_2(k)$ の元で、$a,b,c$ を順に $\infty,0,1$ に移す。
  3. (配置の分類)$a,b,c$ が相異なり、$a',b',c'$ が相異なるとき、$g(a)=a'$、$g(b)=b'$、$g(c)=c'$、$g(d)=d'$ となる $g\in\mathrm{PGL}_2(k)$ があることは、$(a,b;c,d)=(a',b';c',d')$ と同値である。
  4. (複比を保つ写像)全単射 $f\colon\mathbb P^1(k)\to\mathbb P^1(k)$ が、少なくとも 3 点が相異なるすべての 4 点について $(fa,fb;fc,fd)=(a,b;c,d)$ を満たせば、$f\in\mathrm{PGL}_2(k)$ である。
括弧は行列式倍される

方針:括弧は行列式なので、1 次変換で行列式倍されるだけである。2 は $d$ の代表ベクトルについて 1 次式であることから、3・4 は 2 から従う。
段 1(1)。$g$ を行列で表すと、$[g v,g w]=\det(gv\ gw)=\det g\cdot[v,w]$ である。複比の 2 つの成分はどちらも括弧 2 つの積なので、ともに $(\det g)^2$ 倍になり、比は変わらない。
段 2(2)。$a=[\alpha]$、$b=[\beta]$、$c=[\gamma]$ を固定し、$\eta\in k^2$ に
$$ L(\eta)=\bigl([\alpha,\eta][\beta,\gamma],\ [\alpha,\gamma][\beta,\eta]\bigr) $$
を対応させる。括弧は各変数について 1 次なので、$L$ は $k^2$ から $k^2$ への 1 次写像である。$L(\eta)=0$ なら、$[\beta,\gamma]\ne0$、$[\alpha,\gamma]\ne0$ から $[\alpha,\eta]=[\beta,\eta]=0$ で、$\eta$ は $\alpha$ にも $\beta$ にも平行である。$\alpha,\beta$ は平行でないので $\eta=0$ である。よって $L$ は可逆で、$\varphi_{a,b,c}([\eta])=[L(\eta)]$ は $\mathrm{PGL}_2(k)$ の元である。$a,b,c$ の行き先は prop-cr-well-defined の 3 による。
段 3(3)。$g$ があれば 1 から複比は等しい。逆に複比が等しいとき、$g=\varphi_{a',b',c'}^{-1}\circ\varphi_{a,b,c}$ は $\mathrm{PGL}_2(k)$ の元で、$a,b,c$ を $\infty,0,1$ を経て $a',b',c'$ に移し、
$$ g(d)=\varphi_{a',b',c'}^{-1}\bigl((a,b;c,d)\bigr)=\varphi_{a',b',c'}^{-1}\bigl((a',b';c',d')\bigr)=d' $$
である。
段 4(4)。相異なる 3 点 $a,b,c$ を 1 組固定する。$f$ は全単射なので $fa,fb,fc$ も相異なる。任意の $d$ について、仮定から $\varphi_{fa,fb,fc}(fd)=(fa,fb;fc,fd)=(a,b;c,d)=\varphi_{a,b,c}(d)$ なので、$f=\varphi_{fa,fb,fc}^{-1}\circ\varphi_{a,b,c}$ で、これは $\mathrm{PGL}_2(k)$ の元である。$\square$

相異なる 3 点を $\infty,0,1$ に移す $\mathrm{PGL}_2(k)$ の元はただ 1 つなので(射影直線 の定理「3 点を 3 点に移す変換はただ 1 つ」)、複比とは「最初の 3 点を $\infty,0,1$ に置いたときの 4 点目の座標」である。3 点まではどこへでも動かせるので、4 点の配置で残る情報はこの 1 つの値だけで、これが 3 の意味である。

主定理 2:並べ方を変えたときの値

括弧の Plücker 関係式

$\alpha,\beta,\gamma,\eta\in k^2$ について
$$ [\alpha,\beta][\gamma,\eta]-[\alpha,\gamma][\beta,\eta]+[\alpha,\eta][\beta,\gamma]=0 $$
である。

$\alpha$ について 1 次であることを使う

要点:左辺は $\alpha$ について 1 次で、$\alpha=\beta,\gamma,\eta$ のときに $0$ になる。

詳しい証明を開く

左辺を $F(\alpha)$ とおくと、$F$ は $\alpha$ について 1 次である。$[v,v]=0$ と $[v,w]=-[w,v]$ を使うと、$F(\beta)=0-[\beta,\gamma][\beta,\eta]+[\beta,\eta][\beta,\gamma]=0$、$F(\gamma)=[\gamma,\beta][\gamma,\eta]-0+[\gamma,\eta][\beta,\gamma]=0$、同じく $F(\eta)=0$ である。$\beta,\gamma,\eta$ のうち平行でない 2 つがあれば、それらは $k^2$ の基底なので $F=0$ である。3 つが互いに平行なら、$[\gamma,\eta]=[\beta,\eta]=[\beta,\gamma]=0$ で、$F=0$ は明らかである。$\square$

並べ替えと 6 つの値

$a,b,c,d$ を $\mathbb P^1(k)$ の相異なる 4 点とし、$\lambda=(a,b;c,d)$ とおく。$\lambda$ は $\infty,0,1$ のどれでもなく、次が成り立つ。

  1. $(b,a;d,c)=(c,d;a,b)=(d,c;b,a)=\lambda$ である。
  2. $(b,a;c,d)=\dfrac1\lambda$、$(a,c;b,d)=1-\lambda$ である。
  3. 4 点の 24 通りの並べ方に対する複比は、
    $$ \lambda,\quad\frac1\lambda,\quad1-\lambda,\quad\frac1{1-\lambda},\quad\frac{\lambda-1}\lambda,\quad\frac\lambda{\lambda-1} $$
    の 6 つの式のどれかで表され、各式はちょうど 4 通りの並べ方に対応する。
括弧の入れ替えと Plücker 関係式

段 0。4 点が相異なるので、def-cr-cross-ratio の 2 つの成分はどちらも $0$ でなく、$\lambda\ne0,\infty$ である。$\lambda=1$ なら thm-cr-main の 2 の $\varphi_{a,b,c}$ が単射であることから $d=c$ となるので、$\lambda\ne1$ である。
段 1(1)。$\lambda=\dfrac{[\alpha,\gamma][\beta,\eta]}{[\alpha,\eta][\beta,\gamma]}$ で $a\leftrightarrow b$、$c\leftrightarrow d$ を同時に入れ替えると $\dfrac{[\beta,\eta][\alpha,\gamma]}{[\beta,\gamma][\alpha,\eta]}=\lambda$ である。$a\leftrightarrow c$、$b\leftrightarrow d$ では $\dfrac{[\gamma,\alpha][\eta,\beta]}{[\gamma,\beta][\eta,\alpha]}$ となり、分子・分母でそれぞれ 2 回符号が変わるので $\lambda$ である。$a\leftrightarrow d$、$b\leftrightarrow c$ も同じである。
段 2(2)。$a\leftrightarrow b$ では $\dfrac{[\beta,\gamma][\alpha,\eta]}{[\beta,\eta][\alpha,\gamma]}=\dfrac1\lambda$ である。$b\leftrightarrow c$ では、lem-cr-plucker の $[\alpha,\beta][\gamma,\eta]=[\alpha,\gamma][\beta,\eta]-[\alpha,\eta][\beta,\gamma]$ を使って
$$ (a,c;b,d)=\frac{[\alpha,\beta][\gamma,\eta]}{[\alpha,\eta][\gamma,\beta]}=\frac{[\alpha,\gamma][\beta,\eta]-[\alpha,\eta][\beta,\gamma]}{-[\alpha,\eta][\beta,\gamma]}=1-\lambda $$
である。
段 3(3)。1 の 3 つの入れ替えと恒等置換は 4 元の部分群 $V$(Klein の四元群)をなし、複比を変えない。24 個の並べ方は $V$ の作用で 4 個ずつの 6 組に分かれ、同じ組の並べ方は同じ値をとる。$\sigma(\lambda)=1/\lambda$ と $\tau(\lambda)=1-\lambda$ を合成すると、$\sigma\tau(\lambda)=\dfrac1{1-\lambda}$、$\tau\sigma(\lambda)=\dfrac{\lambda-1}\lambda$、$\sigma\tau\sigma(\lambda)=\dfrac\lambda{\lambda-1}$ となり、恒等写像と合わせて 6 つの写像が得られる。$a\leftrightarrow b$ と $b\leftrightarrow c$ は $V$ とともに 4 点の置換の群 $S_4$ を生成するので、どの並べ方の複比も、この 6 つの写像のどれかを $\lambda$ に施したものである。1・2 の式はどの相異なる 4 点についても成り立つので、並べ方 $\pi$ の複比が $h(\lambda)$ のとき、$\pi$ で並べた 4 点の 1 番目と 2 番目(2 番目と 3 番目)を入れ替えた並べ方の複比は $\sigma(h(\lambda))$($\tau(h(\lambda))$)である。よって 6 つの写像はどれもある組の値として現れ、組は 6 つなので、6 組と 6 つの写像は 1 対 1 に対応する。$\square$

$\lambda=-1$ のとき、$(a,b;c,d)=-1$ は $c$ と $d$ が $a,b$ について 調和共役 であることを表し、4 点は 調和点列 をなすという(調和点列)。

値が重なる配置

$k$ の標数は $2$ でも $3$ でもないとする。$\lambda\in k\setminus\{0,1\}$ について、thm-cr-permutation の 6 つの値が相異なるのは、次の 2 つの場合を除くときである。

  1. $\lambda\in\{-1,2,\tfrac12\}$(調和)。6 つの値は $-1,2,\tfrac12$ の 3 つになる。
  2. $\lambda^2-\lambda+1=0$(等非調和)。6 つの値は $\lambda^2-\lambda+1=0$ の 2 つの根になる。この場合は $k$ が $1$ の原始 3 乗根を含むときに限って起こる。
方程式を解く

要点:$\lambda$ がほかの 5 つの値と一致する条件を解き、値の個数を「$\lambda$ を動かさない写像の個数で 6 を割ったもの」として数える。

詳しい証明を開く

$\lambda$ がほかの値と一致する条件を順に解く。$\lambda=\dfrac1\lambda$ は $\lambda^2=1$、$\lambda\ne1$ から $\lambda=-1$。$\lambda=1-\lambda$ は $\lambda=\dfrac12$。$\lambda=\dfrac\lambda{\lambda-1}$ は $\lambda\ne0$ から $\lambda-1=1$、$\lambda=2$。$\lambda=\dfrac1{1-\lambda}$ と $\lambda=\dfrac{\lambda-1}\lambda$ はどちらも $\lambda^2-\lambda+1=0$ である。

6 つの写像は合成について 3 次の対称群 $S_3$ と同じ群をなし、値の個数は、$\lambda$ を動かさない写像の個数で 6 を割ったもの(軌道の大きさ)である。$\lambda=-1$ を動かさないのは恒等写像と $\sigma$ の 2 つなので値は 3 つで、$\sigma\tau(-1)=\tfrac12$、$\tau\sigma(-1)=2$ から $\{-1,2,\tfrac12\}$ である(標数が $3$ でないので 3 つは相異なる)。$\lambda^2-\lambda+1=0$ の根を動かさないのは恒等写像と 2 つの 3 次の写像 $\sigma\tau$、$\tau\sigma$ なので値は 2 つで、$\sigma(\lambda)=\dfrac1\lambda$ はもう 1 つの根である(2 根の積は $1$)。$\lambda^2-\lambda+1=0$ は $\omega=-\lambda$ について $\omega^2+\omega+1=0$ と同じで、$\omega$ は $1$ の原始 3 乗根である。$\square$

並べ方によらない量を作るには、6 つの値で変わらない関数をとればよい。

4 点の集合の分類

$k$ の標数は $2$ でも $3$ でもないとし、$\lambda\in k\setminus\{0,1\}$ について
$$ J(\lambda)=\frac{(\lambda^2-\lambda+1)^3}{\lambda^2(\lambda-1)^2} $$
とおく。$\mathbb P^1(k)$ の相異なる 4 点の集合 $\{a,b,c,d\}$ と $\{a',b',c',d'\}$ について、一方を他方に移す $g\in\mathrm{PGL}_2(k)$ があることは、それぞれをどう並べて複比をとっても $J$ の値が等しいことと同値である。

$J$ の値から 6 つの値を復元する

要点:$J$ が $\sigma$ と $\tau$ で変わらないことを計算し、逆は $J$ の値を根にもつ 6 次多項式の根が $\lambda$ の 6 つの値に限ることから示す。

詳しい証明を開く

段 1($J$ は並べ方によらない)。$J(1/\lambda)=\dfrac{(1-\lambda+\lambda^2)^3/\lambda^6}{(1-\lambda)^2/\lambda^4}=J(\lambda)$ で、$J(1-\lambda)=J(\lambda)$ は $\lambda^2-\lambda+1$ と $\lambda(\lambda-1)$ が $\lambda\mapsto1-\lambda$ で変わらないことから分かる。$\sigma$、$\tau$ で変わらないので 6 つの写像すべてで変わらず、thm-cr-permutation から $J$ の値は並べ方によらない。

段 2(逆)。$\lambda=(a,b;c,d)$、$\mu=(a',b';c',d')$ で $J(\mu)=J(\lambda)=j_0$ とする。$\mu$ は 6 次多項式 $P(x)=(x^2-x+1)^3-j_0x^2(x-1)^2$ の根である。6 つの値が相異なれば、それらは $P$ の 6 つの根のすべてで、$\mu$ はそのどれかである。$\lambda$ が調和なら $j_0=J(-1)=\dfrac{27}4$ で、展開して確かめられる恒等式 $P(x)=(x+1)^2(x-2)^2(x-\tfrac12)^2$ から $\mu\in\{-1,2,\tfrac12\}$ である。等非調和なら $j_0=0$ で、$\mu$ は $\mu^2-\mu+1=0$ の根である。どの場合も $\mu$ は $\lambda$ の 6 つの値の 1 つなので、$\{a',b',c',d'\}$ を並べ替えて $(a'',b'';c'',d'')=\lambda$ とでき、thm-cr-main の 3 から求める $g$ がある。逆は thm-cr-main の 1 と段 1 から従う。$\square$

射影平面の中の複比

直線の上の点と、1 点を通る直線

射影平面 $\mathbb P^2(k)$ の直線は、$k^3$ の 2 次元部分空間 $W$ の 1 次元部分空間全体 $\mathbb P(W)$ である。$W$ の基底 $e,f$ を選び、$xe+yf$ を $(x,y)\in k^2$ と同一視すると、$\mathbb P(W)$ の 4 点に def-cr-cross-ratio の複比が定まる。基底を取り替えると括弧はどれも同じ行列式倍になるので(prf-cr-main の段 1)、複比は基底の選び方によらない。同じ理由で、2 次元の線形空間の間の可逆な 1 次写像 $T\colon W\to W'$ が引き起こす写像 $\mathbb P(W)\to\mathbb P(W')$ は複比を保つ。
点 $O=[o]$ を通る直線の全体($O$ を中心とする 直線束)も同じ形をしている。直線は $0$ でない 1 次式 $\ell(x)=\ell_0x_0+\ell_1x_1+\ell_2x_2$ の零点で、定数倍の違いを除いて決まる。$O$ を通る直線の 1 次式は 2 次元の線形空間 $V_O=\{\ell\mid\ell(o)=0\}$ をなすので、直線束は $\mathbb P(V_O)$ で、4 本の直線の複比が定まる。

透視は複比を保つ

直線 $L$ と、$L$ の上にない点 $O$ をとる。$L$ の 4 点 $p_1,\dots,p_4$(少なくとも 3 点が相異なる)について、4 本の直線 $Op_1,\dots,Op_4$ の複比は 4 点 $p_1,\dots,p_4$ の複比に等しい。したがって、$O$ を通らない 2 直線 $L,L'$ について、$p\in L$ を直線 $Op$ と $L'$ の交点に移す写像($O$ を中心とする 透視)は複比を保つ。

行列式で直線の式を作る

$L=\mathbb P(W)$、$O=[o]$ とする。$w\in W$ に 1 次式 $\ell_w(x)=\det(o\ w\ x)$(3 つの列ベクトルを並べた行列の行列式)を対応させる。$\ell_w$ は $x=o$ と $x=w$ で $0$ になるので、$w\ne0$ なら $\ell_w$ は直線 $O[w]$ の 1 次式である($o\notin W$ なので $o$ と $w$ は平行でなく、$\ell_w\ne0$)。$w\mapsto\ell_w$ は $W$ から $V_O$ への 1 次写像で、$w\ne0$ なら $\ell_w\ne0$ なので単射、次元が 2 で等しいので可逆である。上で見たとおり可逆な 1 次写像は複比を保つので、$p_i$ の複比は直線 $Op_i$ の複比に等しい。
透視については、$p\in L$ と、その行き先 $p'=Op\cap L'$ について直線 $Op$ と $Op'$ は同じである($O\notin L'$ なので $Op\ne L'$ で、交点は 1 点に決まる)。前半を $L$ と $L'$ に使うと、$p_i$ の複比も $p_i'$ の複比も直線 $Op_i$ の複比に等しい。$\square$

射影変換と複比 の主定理「透視で複比は変わらない」は、$k=\mathbb R$ のこの定理である。

円錐曲線の上の 4 点

$\mathbb P^2(k)$ の曲線 $C\colon x_0x_2=x_1^2$ を考える。$\nu([u_0:u_1])=[u_0^2:u_0u_1:u_1^2]$ は $\mathbb P^1(k)$ から $C$ への全単射である($x_0\ne0$ なら $x_0=1$ として $x_2=x_1^2$、$x_0=0$ なら $x_1=0$ で点は $[0:0:1]$)。座標で $\nu(t)=[1:t:t^2]$、$\nu(\infty)=[0:0:1]$ である。$k=\mathbb R$ で $x_0=1$ とおけば、$C$ は放物線 $y=x^2$ である。

Steiner の定理

$P=\nu(s)$ を $C$ の点とし、$C$ の点 $Q=\nu(t)$ に対して、$Q\ne P$ なら直線 $PQ$ を、$Q=P$ なら $P$ における接線($C$ と $P$ だけで交わる、$P$ を通る直線)を $m_P(Q)$ とおく。このとき $C$ の 4 点 $Q_i=\nu(t_i)$($t_1,\dots,t_4$ のうち少なくとも 3 つが相異なる)について、4 本の直線 $m_P(Q_1),\dots,m_P(Q_4)$ の複比は $(t_1,t_2;t_3,t_4)$ に等しい。とくに、それは $P$ によらない。

直線の式がパラメータについて 1 次

段 1($s\in k$ の場合)。1 次式 $A=-sx_1+x_2$ と $B=sx_0-x_1$ はどちらも $\nu(s)=[1:s:s^2]$ で $0$ になり、平行でないので $V_P$ の基底である。$t\in k$ について
$$ \ell_t=A+tB=st\,x_0-(s+t)\,x_1+x_2 $$
とおくと、$\ell_t(\nu(t))=st-(s+t)t+t^2=0$ である。また $B$ は $\nu(\infty)=[0:0:1]$ で $0$ になる。よって $t\ne s$ なら $[\ell_t]$($t=\infty$ なら $[B]$)は直線 $P\nu(t)$ である。$t=s$ のとき、$\ell_s(\nu(t))=s^2-2st+t^2=(s-t)^2$ は $t=s$ でだけ $0$ で、$\ell_s([0:0:1])=1\ne0$ なので、$[\ell_s]$ は $C$ と $P$ だけで交わる $P$ を通る直線、つまり接線である($P$ を通るほかの直線 $[\ell_t]$、$t\ne s$ は $\nu(t)\ne P$ も通るので、接線はこれだけである)。こうして $m_P(\nu(t))=[u_0A+u_1B]$($t=[u_0:u_1]$)で、$(u_0,u_1)\mapsto u_0A+u_1B$ は $k^2$ から $V_P$ への可逆な 1 次写像なので、4 本の直線の複比は $(t_1,t_2;t_3,t_4)$ に等しい。
段 2($s=\infty$ の場合)。座標の入れ替え $[x_0:x_1:x_2]\mapsto[x_2:x_1:x_0]$ は $C$ を $C$ に移し、$\nu([u_0:u_1])$ を $\nu([u_1:u_0])$ に移す。この変換は $k^3$ の可逆な 1 次写像から来るので、直線束の複比を保つ(prf-cr-perspective と同じ理由)。パラメータの入れ替え $[u_0:u_1]\mapsto[u_1:u_0]$ は $\mathrm{PGL}_2(k)$ の元なので、thm-cr-main の 1 によりパラメータの複比も保つ。$P=\nu(\infty)$ は $\nu(0)$ に移るので、段 1 に帰着する。$\square$

放物線の上の 4 点を見る

$k=\mathbb R$、放物線 $y=x^2$ の 4 点 $(0,0)$、$(1,1)$、$(-1,1)$、$(2,4)$($t=0,1,-1,2$)をとる。$(s,s^2)$ と $(t,t^2)$ を結ぶ直線の傾きは $s+t$ で、傾き $m$ は $P$ を通る直線の向き $(1,m)$ の比なので、直線束の座標になる。

  • $P=(3,9)$ から見ると傾きは $3,4,2,5$ で、$(3,4;2,5)=\dfrac{(3-2)(4-5)}{(3-5)(4-2)}=\dfrac14$ である。これは ex-cr-compute の (1) の $(0,1;-1,2)=\dfrac14$ に等しい。
  • 放物線の上にない $P'=(0,-1)$ から見ると、傾きは $\infty$($y$ 軸)、$2,-2,\dfrac52$ で、複比は ex-cr-compute の (3) の $-\dfrac18$ になる。

$k=\mathbb R$ の単位円 $X^2+Y^2=Z^2$ は、$x_0=Z-Y$、$x_1=X$、$x_2=Z+Y$ とおくと $x_0x_2=x_1^2$ になる。円周上の点 $(\cos\theta,\sin\theta)$ のパラメータは $t=\dfrac{\cos\theta}{1-\sin\theta}=\tan\left(\dfrac\pi4+\dfrac\theta2\right)$ で、thm-cr-conic は 円周上の4点の複比 の命題「円周上のどこから見ても同じ複比」を含む。

複素数の複比と双曲距離

$k=\mathbb C$ のとき、$\mathbb P^1(\mathbb C)$ は Riemann 球面 $\hat{\mathbb C}$ で、$\mathrm{PGL}_2(\mathbb C)$ は Möbius 変換の群である。相異なる 4 点が同じ円(または直線)の上にあることは、複比が実数であることと同値である(Möbius変換 の系「4 点が同じ円に乗る条件」)。複比は双曲平面の距離も与える。

双曲距離は複比の対数

上半平面 $\mathbb H=\{z\mid\operatorname{Im}z>0\}$ に長さ $\dfrac{|dz|}{\operatorname{Im}z}$ を入れた双曲平面(双曲幾何学)で、相異なる 2 点 $z,w$ を通る双曲直線の両端を $u,v\in\mathbb R\cup\{\infty\}$ とする。ただし $u$ は $z$ から $w$ へ進んだ先の端とする。このとき $(z,w;u,v)$ は $1$ より大きい実数で、
$$ d(z,w)=\log\,(z,w;u,v) $$
である。

虚軸に移して計算する

双曲幾何学 の補題「2 点を虚軸の上へ移す」により、実数係数で行列式 $1$ の 1 次分数変換 $T$ と $Y>1$ で $T(z)=i$、$T(w)=iY$ となるものがある。$T$ は双曲距離を保ち(同 命題「1 次分数変換は双曲的な長さを保つ」)、双曲直線を双曲直線に移すので、$z,w$ を通る双曲直線を虚軸に移す。$T$ は双曲直線の上の点の並び順を保つので、$z$ から $w$ へ進んだ先の端 $u$ は $i$ から $iY$ へ進んだ先の端 $\infty$ に、$v$ は $0$ に移る。Möbius 変換は複比を保つ(thm-cr-main の 1)ので、$\infty$ を含む因子を消して
$$ (z,w;u,v)=(i,iY;\infty,0)=\frac{iY-0}{i-0}=Y $$
である。一方、双曲幾何学 の定理「距離の公式と測地線」の段 1 から $d(z,w)=d(i,iY)=\log Y$ である。$\square$

たとえば $z=i$、$w=1+i$ では、両端は $\dfrac12\pm\dfrac{\sqrt5}2$ で、$z$ から $w$ へ進むと右の端 $u=\dfrac{1+\sqrt5}2$ に向かう。$(z,w;u,v)=\dfrac{(i-u)(1+i-v)}{(i-v)(1+i-u)}=\dfrac{3+\sqrt5}2$ となり、$\log\dfrac{3+\sqrt5}2=\operatorname{arcosh}\dfrac32\approx0.9624$ は 双曲幾何学 の例「縦の線分と横の線分」の値と一致する。円板モデルでの同じ形の式は Hit18 pp. 93–94 にある。

例と反例

外す条件反例成り立たなくなること
変換が $\mathrm{PGL}_2(k)$ の元(thm-cr-main の 1)$\mathbb P^1(\mathbb C)$ の複素共役 $z\mapsto\bar z$複比が変わらないこと(共役になる)
4 点のうち少なくとも 3 点が相異なる(def-cr-cross-ratio)$a=b=c$複比が定まること($[0:0]$ になる)
見る点 $P$ が円錐曲線の上にある(thm-cr-conic)放物線の外の点 $P'=(0,-1)$見る点によらないこと
反例の確かめ

1 行目:$f(z)=\bar z$ は $\hat{\mathbb C}$ の全単射で、$f(\infty)=\infty$ とすると $(\bar a,\bar b;\bar c,\bar d)=\overline{(a,b;c,d)}$ である。$(\infty,0;1,i)=i$ に対して $(\infty,0;1,-i)=-i\ne i$ で、複比は保たれない。thm-cr-main の 1 により $f$ は Möbius 変換ではない(Möbius変換 の例「複素共役は Möbius 変換でない」)。
2 行目:$a=b=c$ なら $[\alpha,\gamma]=[\beta,\gamma]=0$ で、def-cr-cross-ratio の 2 つの成分はともに $0$ になる。
3 行目:ex-cr-conic のとおり、放物線の上の点 $(3,9)$ から見た複比は $\dfrac14$、放物線の外の点 $(0,-1)$ から見た複比は $-\dfrac18$ で、等しくない。prf-cr-conic の段 1 は、$P$ が $C$ の上にあるので直線 $PQ$ の式がパラメータ $t$ について 1 次になることを使っていた。

関連項目

参考文献

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