線形回帰数列

同義語:線形回帰列linear recurrence sequencelinear recurring sequence

概要

線形回帰数列(linear recurrence sequence)とは、体の元を項とする数列で、定数 $c_1,\dots,c_k$ について $a_{n+k}=c_1a_{n+k-1}+\cdots+c_ka_n$ がすべての $n\ge0$ で成り立つものである。線形回帰数列を消す多項式全体は最小多項式で生成されるイデアルをなし、線形回帰数列であることは、ずらした数列の張る空間が有限次元であること、母関数が有理式であること、行列の冪の成分で書けることと同値である。和・項ごとの積・畳み込みで閉じ、整数係数なら整数 $m$ を法としてやがて周期的になる。$\mathbb Q$ 上では、$0$ になる項の番号の集合は有限集合と有限個の等差数列の和集合である(Skolem–Mahler–Lech の定理)。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 体, ベクトル空間, 漸化式, 形式的冪級数

線形回帰数列(linear recurrence sequence)は、ある定数 $c_1,\dots,c_k$ について $a_{n+k}=c_1a_{n+k-1}+\cdots+c_ka_n$ がすべての $n\ge0$ で成り立つ数列である。Fibonacci数 $0,1,1,2,3,5,\dots$、等比数列 $r^n$、多項式で表される数列 $n^2$、周期的な数列 $1,0,0,1,0,0,\dots$ はどれもこの形をしている。統計の線形回帰(回帰分析)とは関係のない語である。
与えられた漸化式の一般項を特性根で求める方法は 漸化式 の記事の定理「特性根による一般解」が扱う。この記事では、数列そのものを主役にして、ひとつの数列が満たす漸化式全体を多項式のイデアルとして捉え(prop-lrs-ideal)、線形回帰数列であることを、ずらした数列の張る空間が有限次元であること(thm-lrs-finite-dim)、母関数が有理式であること(thm-lrs-rational)、行列の冪の成分で書けること(prop-lrs-matrix)で言い換える。そこから、線形回帰数列どうしの和と項ごとの積がふたたび線形回帰数列になること(thm-lrs-closure)、整数係数の線形回帰数列は整数 $m$ を法としてやがて周期的になること(thm-lrs-periodic)を示す。最後に、線形回帰数列でない数列の見分け方と、$0$ になる項の番号の集合についての Skolem–Mahler–Lech の定理を述べる。

定義

以下、$K$ を体とし、$K$ の元を項とする数列 $a=(a_n)_{n\ge0}$ 全体を $K^{\mathbb N}$ と書く。$K^{\mathbb N}$ は項ごとの和とスカラー倍で $K$ 上のベクトル空間になる。数列を 1 つずらす写像 $E\colon K^{\mathbb N}\to K^{\mathbb N}$ を $(Ea)_n:=a_{n+1}$ で定める(シフト作用素)。$E$ は線形であり、多項式 $g(x)=\sum_jg_jx^j\in K[x]$ に対して $g(E):=\sum_jg_jE^j$ とおくと、$(gh)(E)=g(E)h(E)$ が成り立つ($E$ の冪どうしは可換だから。漸化式 の記事の §定数係数の線形漸化式と同じ記号である)。

線形回帰数列

数列 $a\in K^{\mathbb N}$ が 線形回帰数列 であるとは、整数 $k\ge0$ と $c_1,\dots,c_k\in K$ があって、すべての $n\ge0$ について
$$ a_{n+k}=c_1a_{n+k-1}+c_2a_{n+k-2}+\cdots+c_ka_n $$
が成り立つことをいう。この式を $a$ の満たす $k$ 階の漸化式、モニック多項式 $f(x):=x^k-c_1x^{k-1}-\cdots-c_k$ をその 特性多項式 という。$k=0$ のときは $a_n=0$(すべての $n$)を意味する。

漸化式は $f(E)a=0$ と同じことである。実際 $(f(E)a)_n=a_{n+k}-c_1a_{n+k-1}-\cdots-c_ka_n$ である。漸化式 の記事の定義「定数係数の線形漸化式と特性多項式」は $c_k\ne0$ を課しているが、ここでは課さない。たとえば $1,0,0,0,\dots$ は $a_{n+1}=0\cdot a_n$ を満たす。$c_k=0$ を許すので、有限個の項を除いて $0$ の数列($a_{n+k}=0$ を満たす)もすべて線形回帰数列である。整数を項とし整数の係数 $c_i$ の漸化式を満たす数列を、整数係数の線形回帰数列 という。
1 つの数列は多くの漸化式を満たす。たとえば $a_{n+2}=a_{n+1}+a_n$ を満たせば、$a_{n+3}=a_{n+2}+a_{n+1}=2a_{n+1}+a_n$ も満たす。これらをまとめて扱うために、数列を消す多項式全体を考える。

零化イデアルと最小多項式

$a\in K^{\mathbb N}$ に対し、$\operatorname{Ann}(a):=\{g\in K[x]\mid g(E)a=0\}$ を $a$ の 零化イデアル という。$a$ が線形回帰数列のとき、prop-lrs-ideal により $\operatorname{Ann}(a)$ を生成するモニック多項式がただ 1 つある。これを $a$ の 最小多項式 といい $\mu_a$ と書く。その次数を $a$ の 位数 といい $\operatorname{ord}(a)$ と書く。

零化イデアルの性質

$a\in K^{\mathbb N}$ とする。

  1. $\operatorname{Ann}(a)$ は $K[x]$ のイデアルである。
  2. $a$ が線形回帰数列であることと、$\operatorname{Ann}(a)\ne\{0\}$ であることは同値である。
  3. $a$ が線形回帰数列なら、$\operatorname{Ann}(a)=(\mu_a)$ となるモニック多項式 $\mu_a$ がただ 1 つあり、$a$ の満たす漸化式の特性多項式はどれも $\mu_a$ の倍元である。$\mu_a$ 自身も $a$ の満たす漸化式の特性多項式であり、$a$ の満たす漸化式の階数の最小値は $\deg\mu_a$ である。
多項式の積がシフトの合成になる

要点:$(qg)(E)=q(E)g(E)$ からイデアルであることが従い、$0$ でない元を最高次の係数で割ると漸化式が得られる。$K[x]$ が単項イデアル整域であることから生成元がとれる。

詳しい証明を開く

1:$g,h\in\operatorname{Ann}(a)$ なら $(g+h)(E)a=g(E)a+h(E)a=0$ である。任意の $q\in K[x]$ について $(qg)(E)a=q(E)\bigl(g(E)a\bigr)=q(E)0=0$ である。$0\in\operatorname{Ann}(a)$ である。

2:$a$ が漸化式を満たせば、その特性多項式 $f$ はモニックなので $0$ でなく、$f\in\operatorname{Ann}(a)$ である。逆に $0$ でない $g\in\operatorname{Ann}(a)$ があれば、$g$ をその最高次の係数で割ったモニック多項式 $x^k-c_1x^{k-1}-\cdots-c_k$ も $\operatorname{Ann}(a)$ に属し、これは $a$ が $k$ 階の漸化式を満たすことを意味する。

3:$K[x]$ は単項イデアル整域なので、$0$ でないイデアル $\operatorname{Ann}(a)$ は 1 つの元で生成され、生成元は単元倍を除いて一意である。$K[x]$ の単元は $0$ でない定数なので、モニックな生成元はただ 1 つである。漸化式の特性多項式は $\operatorname{Ann}(a)$ に属するので $\mu_a$ の倍元であり、次数は $\deg\mu_a$ 以上である。$\mu_a$ はモニックで $\operatorname{Ann}(a)$ に属するので、2 の議論により $\deg\mu_a$ 階の漸化式の特性多項式である。$\square$

例

最小多項式の例

$K=\mathbb Q$ とする。

数列 $a_n$最小多項式 $\mu_a$位数
$r^n$($r\ne0$)$x-r$$1$
$1,0,0,0,\dots$$x$$1$
Fibonacci数 $F_n$$x^2-x-1$$2$
$n$$(x-1)^2$$2$
$n^2$$(x-1)^3$$3$
$1,0,0,1,0,0,\dots$(周期 $3$)$x^3-1$$3$
$F_n^2$$x^3-2x^2-2x+1$$3$

どの行も、表の多項式 $f$ で $f(E)a=0$ となることは直接確かめられる。最小であることは、$\mu_a$ が $f$ を割り切ることと次数の小さい約数で消えないことから分かる。

各行の確かめを開く

たとえば $n^2$ では $(E-1)n^2=2n+1$、$(E-1)^2n^2=2\ne0$、$(E-1)^3n^2=0$ なので、$(x-1)^3$ の約数 $1,\ x-1,\ (x-1)^2$ はどれも $a$ を消さず、$\mu_a=(x-1)^3$ である。$F_n$ では、$x^2-x-1$ の判別式 $5$ は有理数の平方でないので $x^2-x-1$ は $\mathbb Q$ に根をもたず、$\mathbb Q$ 上既約である。そのモニックな約数は $1$ と $x^2-x-1$ だけで、$1$ は $F\ne0$ を消さないので $\mu_F=x^2-x-1$ である。$n$ では $(E-1)n=1\ne0$ なので $\mu=(x-1)^2$ である。周期 $3$ の数列では $x^3-1=(x-1)(x^2+x+1)$ の真の約数 $1,\ x-1,\ x^2+x+1$ に対して $(E-1)a$ の第 $0$ 項は $0-1=-1$、$(E^2+E+1)a$ の第 $0$ 項は $0+0+1=1$ で、どれも $a$ を消さない。

$F_n^2$ の行は、Fibonacci数 の定理「Binetの公式」$F_n=(\varphi^n-\psi^n)/\sqrt5$($\varphi=(1+\sqrt5)/2$、$\psi=(1-\sqrt5)/2$。$\varphi\psi=-1$、$\varphi+\psi=1$)から $5F_n^2=(\varphi^2)^n+(\psi^2)^n-2(-1)^n$ となることによる。$\varphi^2+\psi^2=3$、$\varphi^2\psi^2=1$ なので $(x-\varphi^2)(x-\psi^2)(x+1)=(x^2-3x+1)(x+1)=x^3-2x^2-2x+1$ であり、この多項式は $\mathbb Q$ 係数である。最小であることは、$F_n^2$ の最初の項 $0,1,1,4,9$ が $2$ 階以下の漸化式を満たさないことから確かめられる($a_{n+2}=sa_{n+1}+ta_n$ を $n=0,1,2$ で書くと $1=s$、$4=s+t$、$9=4s+t$ となり、両立しない。$1$ 階の $a_{n+1}=sa_n$ は $a_1=sa_0=0$ となって合わず、$0$ 階は $a\ne0$ と合わない)。

Lucas数列の関係式 の記事で扱う $U_n$、$V_n$ は、特性多項式 $X^2-PX+Q$ の $2$ 階の漸化式を満たす線形回帰数列である。

線形回帰数列の言い換え

ずらした数列の張る空間

$a\in K^{\mathbb N}$ に対し、$a,Ea,E^2a,\dots$ の張る $K^{\mathbb N}$ の部分空間を $V_a$ と書く。

有限次元性による特徴付け

$a\in K^{\mathbb N}$ とする。$a$ が線形回帰数列であることと、$V_a$ が有限次元であることは同値である。このとき $\dim V_a=\deg\mu_a$ であり、$d:=\deg\mu_a$ とおくと $a,Ea,\dots,E^{d-1}a$ は $V_a$ の基底である。

多項式環の商と同一視する

写像 $\Phi\colon K[x]\to K^{\mathbb N}$ を $\Phi(g):=g(E)a$ で定める。$\Phi$ は線形であり、$\Phi(x^j)=E^ja$ なので像はちょうど $V_a$ である。核は定義により $\operatorname{Ann}(a)$ である。
$V_a$ が有限次元で $\dim V_a=r$ とすると、$r+1$ 個の元 $a,Ea,\dots,E^ra$ は線形従属なので、すべては $0$ でない $b_0,\dots,b_r\in K$ で $\sum_jb_jE^ja=0$ となる。すなわち $0$ でない多項式 $\sum_jb_jx^j$ が $\operatorname{Ann}(a)$ に属し、prop-lrs-ideal の 2 により $a$ は線形回帰数列である。
逆に $a$ が線形回帰数列で $d=\deg\mu_a$ とする。$\operatorname{Ann}(a)=(\mu_a)$ なので、$\Phi$ は線形同型 $K[x]/(\mu_a)\to V_a$ を引き起こす。多項式の割り算により、すべての $g\in K[x]$ は $g=q\mu_a+r$($\deg r< d$ または $r=0$)とただ 1 通りに書けるので、$1,x,\dots,x^{d-1}$ の類は $K[x]/(\mu_a)$ の基底である。その像 $a,Ea,\dots,E^{d-1}a$ は $V_a$ の基底であり、$\dim V_a=d$ である。$\square$

母関数による特徴付け

数列 $a$ の母関数を形式的冪級数 $A(x):=\sum_{n\ge0}a_nx^n\in K[\![x]\!]$ とする(形式的冪級数、母関数)。モニック多項式 $f(x)=x^k-c_1x^{k-1}-\cdots-c_k$ に対し、係数を逆順に並べた多項式を
$$ f^*(x):=x^kf(1/x)=1-c_1x-c_2x^2-\cdots-c_kx^k $$
とおく。$f^*(0)=1$ である。

有理母関数による特徴付け

$a\in K^{\mathbb N}$、$A(x)=\sum_{n\ge0}a_nx^n$ とする。

  1. $k$ 次のモニック多項式 $f$ について、$f(E)a=0$ であることと、$f^*(x)A(x)$ が次数 $k$ 未満の多項式(または $0$)であることは同値である。
  2. $a$ が線形回帰数列であることと、多項式 $P,Q\in K[x]$($Q(0)\ne0$)があって $K[\![x]\!]$ の中で $A(x)=P(x)/Q(x)$ となることは同値である。
係数を比べる

1:$f^*(x)=\sum_{i=0}^kq_ix^i$($q_0=1$、$q_i=-c_i$)と書くと、$f^*(x)A(x)$ の $x^m$ の係数は $\sum_{i=0}^{\min(m,k)}q_ia_{m-i}$ である。$m\ge k$ ではこれは $a_m-c_1a_{m-1}-\cdots-c_ka_{m-k}=(f(E)a)_{m-k}$ に等しい。よって $f^*A$ の $x^k,x^{k+1},\dots$ の係数がすべて $0$ であることと、すべての $n\ge0$ で $(f(E)a)_n=0$ であることは同値である。
2:$a$ が漸化式を満たし、その特性多項式が $f$ なら、1 により $P:=f^*A$ は多項式であり、$Q:=f^*$ は $Q(0)=1$ を満たす。$Q$ は定数項が $K$ の単元なので $K[\![x]\!]$ の単元であり(形式的冪級数 の命題「定数項による単元判定」)、$A=P/Q$ である。
逆に $A=P/Q$、$Q(0)\ne0$ とする。$P=0$ なら $a=0$ で、これは $0$ 階の漸化式を満たす。$P\ne0$ とし、$Q$ を $Q(0)$ で割って $Q(0)=1$ としてよい。$Q(x)=1+q_1x+\cdots+q_ex^e$($e=\deg Q$)と書き、$k:=\max\{e,\deg P+1\}$ とおくと、$f(x):=x^kQ(1/x)=x^k+q_1x^{k-1}+\cdots+q_ex^{k-e}$ は $k$ 次のモニック多項式で、$f^*=Q$ である。$f^*A=P$ の次数は $k$ 未満なので、1 により $f(E)a=0$ である。$\square$

$K=\mathbb C$ で $c_k\ne0$ の場合の同じ主張と、特性根による一般項の表示との同値性は Sta12 Theorem 4.1.1(§4.1)にある。漸化式 の記事の注意「母関数による解法」は、この対応を具体的な $2$ 階の漸化式で計算している。

行列の冪による表示

行列の冪の成分による特徴付け

$a\in K^{\mathbb N}$ が線形回帰数列であることと、正の整数 $k$、$k$ 次正方行列 $M$、縦ベクトル $u,v\in K^k$ があって、すべての $n\ge0$ で $a_n=u^{\top}M^nv$ となることは同値である。

状態のベクトルと固有多項式

$a$ が $k$ 階の漸化式を満たすとする($k=0$ なら $a=0$ で、$k=1$、$u=0$ とすればよい)。$s_n:=(a_n,a_{n+1},\dots,a_{n+k-1})^{\top}$ とおき、
$$ C:=\begin{pmatrix}0&1&0&\cdots&0\\0&0&1&\cdots&0\\\vdots&&&\ddots&\vdots\\0&0&0&\cdots&1\\c_k&c_{k-1}&c_{k-2}&\cdots&c_1\end{pmatrix} $$
とすると、漸化式は $s_{n+1}=Cs_n$ を意味する(最後の成分が $a_{n+k}=c_ka_n+\cdots+c_1a_{n+k-1}$)。よって $s_n=C^ns_0$ であり、$e_1:=(1,0,\dots,0)^{\top}$ について $a_n=e_1^{\top}C^ns_0$ である。
逆に $a_n=u^{\top}M^nv$ とし、$M$ の固有多項式を $\chi_M(x)=x^k+b_1x^{k-1}+\cdots+b_k$ とする。Cayley–Hamiltonの定理 により $\chi_M(M)=O$ なので、すべての $n\ge0$ で
$$ a_{n+k}+b_1a_{n+k-1}+\cdots+b_ka_n=u^{\top}M^n\chi_M(M)v=0 $$
である。これは $a$ が特性多項式 $\chi_M$ の $k$ 階の漸化式を満たすことを意味する。$\square$

$k=2$ の場合の行列 $C$ と固有値の関係は 漸化式の行列表示 で詳しく扱っている。prop-lrs-matrix の後半から、漸化式の階数は行列の大きさ以下にとれることも分かる。

和と積で閉じていること

2 つの数列 $a,b$ の 項ごとの積 を $(ab)_n:=a_nb_n$、畳み込み を $(a\star b)_n:=\sum_{i=0}^na_ib_{n-i}$ と書く。畳み込みの母関数は母関数の積 $A(x)B(x)$ である。

線形回帰数列の和と積

$a,b\in K^{\mathbb N}$ を位数 $d,e$ の線形回帰数列、$\lambda\in K$ とする。このとき $a+b$、$\lambda a$、$Ea$、$ab$、$a\star b$ はどれも線形回帰数列であり、位数は
$$ \operatorname{ord}(a+b)\le d+e,\qquad\operatorname{ord}(ab)\le de,\qquad\operatorname{ord}(a\star b)\le d+e $$
を満たす。とくに線形回帰数列全体は、項ごとの和と積について $K^{\mathbb N}$ の部分環(定数列 $1$ を含む)であり、畳み込みについても閉じている。

ずらした数列の空間を比べる

thm-lrs-finite-dim を使う。$E^j(a+b)=E^ja+E^jb$ なので $V_{a+b}\subset V_a+V_b$ であり、$\dim V_{a+b}\le d+e$ である。$\lambda a$ と $Ea$ については $V_{\lambda a}\subset V_a$、$V_{Ea}\subset V_a$ である。
項ごとの積:$u_1,\dots,u_d$ を $V_a$ の基底、$w_1,\dots,w_e$ を $V_b$ の基底とし、$de$ 個の数列 $u_iw_l$(項ごとの積)の張る空間を $W$ とする。$E$ は項ごとの積を保つ($E(uw)=(Eu)(Ew)$)ので、$E^j(ab)=(E^ja)(E^jb)$ である。$E^ja=\sum_i\alpha_iu_i$、$E^jb=\sum_l\beta_lw_l$ と書けば $E^j(ab)=\sum_{i,l}\alpha_i\beta_lu_iw_l\in W$ である。よって $V_{ab}\subset W$、$\dim V_{ab}\le de$ である。
畳み込み:$a,b$ の最小多項式を $f,g$ とすると、thm-lrs-rational の 1 により $f^*A=P_1$、$g^*B=P_2$ で、$\deg P_1< d$、$\deg P_2< e$(または $0$)である。$h:=fg$ は $d+e$ 次のモニック多項式で、$h^*=f^*g^*$ である。$h^*\cdot AB=P_1P_2$ の次数は $d+e-2$ 以下なので、ふたたび thm-lrs-rational の 1 により $h(E)(a\star b)=0$ である。$\square$

位数の上界は等号になるとは限らない。$F_n^2=F_n\cdot F_n$ の位数は上界 $2\cdot2=4$ より小さい $3$ である(ex-lrs-examples)。特性根で見ると、項ごとの積の特性根は根の積 $\varphi^2,\ \varphi\psi,\ \psi\varphi,\ \psi^2$ で、$\varphi\psi=\psi\varphi=-1$ が重なるからである。項ごとの積で閉じていることは、母関数の言葉では、有理的な冪級数の Hadamard 積 $\sum a_nb_nx^n$ がふたたび有理的であることにあたる(Sta12 Proposition 4.2.5、§4.2)。

法 $m$ での周期性

整数係数の線形回帰数列の周期性

$(a_n)$ を整数係数の線形回帰数列とし、$k\ge1$ 階の漸化式 $a_{n+k}=c_1a_{n+k-1}+\cdots+c_ka_n$($c_i\in\mathbb Z$)を満たすとする。$m$ を正の整数とする。

  1. 整数 $n_0\ge0$ と $T\ge1$ で $n_0+T\le m^k$ を満たすものがあって、すべての $n\ge n_0$ で $a_{n+T}\equiv a_n\pmod m$ である。
  2. $c_k$ と $m$ が互いに素なら、1 で $n_0=0$ とできる。すなわち $(a_n\bmod m)$ ははじめから周期的であり、周期は $m^k$ 以下にとれる。
隣り合う k 項の組を数える

$\mathbb Z/m\mathbb Z$ の元を成分とする長さ $k$ の組の集合を $S:=(\mathbb Z/m\mathbb Z)^k$ とし、$s_n:=(a_n,a_{n+1},\dots,a_{n+k-1})\bmod m\in S$ とおく。写像 $\tau\colon S\to S$ を
$$ \tau(y_1,\dots,y_k):=(y_2,\dots,y_k,\ c_ky_1+c_{k-1}y_2+\cdots+c_1y_k) $$
で定めると、漸化式から $s_{n+1}=\tau(s_n)$ である。
1:$S$ の元は $m^k$ 個なので、$m^k+1$ 個の $s_0,s_1,\dots,s_{m^k}$ のうち 2 つは等しい(鳩の巣原理)。$s_i=s_j$($0\le i< j\le m^k$)とし、$n_0:=i$、$T:=j-i$ とおく。$s_{n+1}=\tau(s_n)$ により $r\ge0$ について帰納的に $s_{i+r}=s_{j+r}$ であり、第 1 成分を比べると $n\ge n_0$ で $a_{n+T}\equiv a_n\pmod m$ である。$n_0+T=j\le m^k$ である。
2:$c_k$ が $m$ と互いに素なら、$c_kc'\equiv1\pmod m$ となる整数 $c'$ がある(合同式)。$\tau(y)=\tau(y')$ なら $y_2=y'_2,\dots,y_k=y'_k$ で、最後の成分から $c_ky_1=c_ky'_1$、両辺に $c'$ を掛けて $y_1=y'_1$ である。よって $\tau$ は単射であり、有限集合からそれ自身への単射なので全単射である(鳩の巣原理 の命題「同じ個数の有限集合の間の写像」)。1 の $s_i=s_j$ に $\tau^{-1}$ を $i$ 回施すと $s_0=s_{T}$ となり、同じ帰納法ですべての $n\ge0$ で $a_{n+T}\equiv a_n\pmod m$ である。$\square$

Fibonacci数の周期と、はじめから周期的でない例
  1. Fibonacci数 は $c_2=1$ なので、どの $m$ についても $F_n\bmod m$ ははじめから周期的である。最小の周期(Pisano 周期)は $m=2,3,5,10$ で $3,8,20,60$ である。たとえば $m=2$ では $0,1,1,0,1,1,\dots$ である。$m=10$ の周期 $60$ は、$F_n$ の一の位が $60$ 項ごとに繰り返されることを意味する。
  2. $a_n=2^n$($a_{n+1}=2a_n$、$c_1=2$)を $m=4$ で見ると $1,2,0,0,0,\dots$ であり、$n\ge2$ からは周期的だが、はじめからは周期的でない($a_0\equiv1$ だが、ある $T\ge1$ で $a_T\equiv1$ となることはない)。$m=12$ では $1,2,4,8,4,8,\dots$ で、$n_0=2$、$T=2$ である。どちらも $c_1=2$ と $m$ が互いに素でないので、2 の仮定が外れている。

線形回帰数列でない数列

数列が線形回帰数列でないことを示すには、線形回帰数列が必ずもつ性質を 1 つ見つけて、それが破れていることを示せばよい。次の 2 つがよく使われる。

増え方の上界と零の並び

$a$ が $k\ge1$ 階の漸化式 $a_{n+k}=c_1a_{n+k-1}+\cdots+c_ka_n$ を満たすとする。

  1. $K=\mathbb C$ なら、$R:=\max\{1,\lvert c_1\rvert+\cdots+\lvert c_k\rvert\}$、$C_0:=\max\{\lvert a_0\rvert,\dots,\lvert a_{k-1}\rvert\}$ とおくと、すべての $n\ge0$ で $\lvert a_n\rvert\le C_0R^n$ である。
  2. ある $m\ge0$ で $a_m=a_{m+1}=\cdots=a_{m+k-1}=0$ なら、すべての $n\ge m$ で $a_n=0$ である。
隣り合う k 項から次の項を押さえる

1:$M_n:=\max\{\lvert a_n\rvert,\dots,\lvert a_{n+k-1}\rvert\}$ とおく。$\lvert a_{n+k}\rvert\le\sum_i\lvert c_i\rvert\lvert a_{n+k-i}\rvert\le RM_n$ であり、$R\ge1$ なので $M_{n+1}\le\max\{M_n,RM_n\}=RM_n$ である。よって $M_n\le R^nM_0=C_0R^n$ であり、$\lvert a_n\rvert\le M_n$ である。
2:$a_m,\dots,a_{m+k-1}$ が $0$ なら、漸化式から $a_{m+k}=0$ であり、$k$ 個ずつずらして帰納的にすべての $n\ge m$ で $a_n=0$ である。$\square$

数列破れる性質理由
$n!$増え方の上界(1)どの $R$ についても $n!/R^n\to\infty$
$2^{n^2}$増え方の上界(1)$2^{n^2}/R^n=2^{n^2-n\log_2R}\to\infty$
平方数の指示関数($n$ が平方数なら $1$、そうでなければ $0$)零の並び(2)$j^2$ と $(j+1)^2$ の間に $0$ が $2j$ 個続く
素数の指示関数零の並び(2)下の ex-lrs-non-examples
反例の確認

1 行目・2 行目:$K=\mathbb C$(または $\mathbb Q$)で考える。標数 $p$ の体では $n!$ は $n\ge p$ で $0$ になるので線形回帰数列であり、この 2 行は体によって結論が変わる。線形回帰数列なら prop-lrs-obstructions の 1 により $\lvert a_n\rvert\le C_0R^n$ となるが、表の比は $\infty$ に発散する。$n!$ は $a_{n+1}=(n+1)a_n$ を満たすが、係数 $n+1$ が $n$ によって変わるので、この記事の意味の漸化式ではない。
3 行目:$k$ 階の漸化式を満たすとする($a\ne0$ なので $k\ge1$)。$2j\ge k$ となる $j$ をとる。$j^2+1,\dots,j^2+2j$ は平方数でないので $0$ が $k$ 個以上続き、prop-lrs-obstructions の 2 により $a_{(j+1)^2}=0$ となるが、実際は $1$ である。体 $K$ は何でもよい($1\ne0$ だけを使う)。
4 行目:$k$ 階の漸化式を満たすとする($a\ne0$ なので $k\ge1$)。$N:=(k+1)!$ とおく。$2\le j\le k+1$ について $N+j$ は $j$ で割り切れて $j$ より大きいので合成数であり、$a_{N+2}=\cdots=a_{N+k+1}=0$ である。prop-lrs-obstructions の 2 により $n\ge N+2$ で $a_n=0$ となるが、素数は無限に多いので(素数の無限性)矛盾である。

0 になる項の番号

線形回帰数列 $a$ について $Z(a):=\{n\ge0\mid a_n=0\}$ を考える。たとえば $a_n=(n-2)\bigl(1+(-1)^n\bigr)$ は thm-lrs-closure により $\mathbb Q$ 上の線形回帰数列で、$Z(a)$ は奇数全体と $\{2\}$ の和集合である。標数 $0$ の体では、$Z(a)$ はいつもこのような形をしている。

Skolem–Mahler–Lechの定理

$a$ を $\mathbb Q$ の元を項とする線形回帰数列とする。このとき $Z(a)$ は、有限集合と、有限個の無限等差数列 $\{r+sT\mid s\ge0\}$($r\ge0$、$T\ge1$)の和集合である。

証明の所在と一般化

この定理はこの記事では証明しない。$\mathbb Q$ 係数の有理関数の係数の形での主張が FS09 第 IV 章の Note IV.33 にある(母関数との対応は thm-lrs-rational)。証明は $p$ 進解析による。主張は標数 $0$ の任意の体の上で成り立ち(C. Lech、1953)、Sta12 の第 4 章の演習 4 の解答に、有理数・代数的数・標数 $0$ の体へと一般化された経緯と文献がまとめてある。標数 $p$ では主張は成り立たない(同じ箇所に Lech による次の例がある)。

反例:標数 p の体での Lech の例

$p$ を素数、$K:=\mathbb F_p(t)$($p$ 元体 $\mathbb F_p$ 上の 1 変数有理関数体)とし、
$$ a_n:=(1+t)^n-t^n-1 $$
とおく。$a$ は等比数列 3 つの和なので、thm-lrs-closure により線形回帰数列である($(x-1-t)(x-t)(x-1)$ が消す)。このとき $Z(a)=\{1,p,p^2,p^3,\dots\}$ であり、$Z(a)$ は thm-lrs-sml の形にならない。破れているのは、体の標数が $0$ という仮定である。
要点:標数 $p$ では $(1+t)^{p^j}=1+t^{p^j}$ なので $p$ の冪の番号で $0$ になり、それ以外の番号では $t^{p^j}$ の係数が残る。$p$ の冪の間隔は広がっていくので、$Z(a)$ は無限等差数列を含まない。

詳しい確かめを開く

実際、$0< i< p$ では二項係数 $\binom pi$ が $p$ で割り切れるので $\mathbb F_p[t]$ の中で $(1+t)^p=1+t^p$ であり(二項定理)、繰り返して $(1+t)^{p^j}=1+t^{p^j}$、すなわち $a_{p^j}=0$ である。$a_0=-1\ne0$ である。$n\ge1$ が $p$ の冪でないなら、$n=p^jm$($p\nmid m$、$m\ge2$)と書けて、$$(1+t)^n=\bigl(1+t^{p^j}\bigr)^m=\sum_{i=0}^m\binom mi t^{ip^j}$$の $t^{p^j}$ の係数は $m\not\equiv0\pmod p$ である。$0< p^j< n$ なので、この項は $-t^n-1$ と打ち消し合わず、$a_n\ne0$ である。

$Z(a)$ は無限集合なので、もし thm-lrs-sml の形なら無限等差数列を少なくとも 1 つ含むはずだが、次のとおり含まない。$r+sT$($s\ge0$)がすべて $Z(a)$ に属するとすると、$p^j(p-1)>T$ となる $j$ と、$r+sT\ge p^j$ となる $s$ をとれば、$r+sT$ と $r+(s+1)T$ はどちらも $p^j$ 以上の $p$ の冪で、差が $T< p^j(p-1)$ だが、$p^j$ 以上の相異なる $p$ の冪の差は $p^j(p-1)$ 以上である。よって $Z(a)$ は thm-lrs-sml の形にならない。$\square$

補足

  • 一般項の表示:$K=\mathbb C$、$c_k\ne0$ のとき、特性多項式が $\prod_j(x-\alpha_j)^{m_j}$ と分解されるなら $a_n=\sum_jp_j(n)\alpha_j^n$($\deg p_j< m_j$)と書ける(漸化式 の定理「特性根による一般解」)。thm-lrs-closure の積の位数の上界は、特性根の積を数えた数に対応している。
  • 整除列:Fibonacci数 の $\gcd(F_m,F_n)=F_{\gcd(m,n)}$ のように、添字の整除を項の整除に移す線形回帰数列がある(Fibonacci数の整数の性質、Lucas数列の関係式)。

関連項目

参考文献

[1]
Richard P. Stanley, Enumerative Combinatorics, Volume 1, 2nd ed., Cambridge University Press, 2012, Chapter 4:Theorem 4.1.1(§4.1、有理母関数と線形漸化式)、Proposition 4.2.5(§4.2、Hadamard 積)、第 4 章の演習 4 の解答(Skolem–Mahler–Lech の定理の経緯と Lech の例)
[2]

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