Steinitzの交換補題

同義語:シュタイニッツの交換補題Steinitzの交換定理Steinitz exchange lemmaSteinitz exchange theorem

概要

Steinitzの交換補題(Steinitz exchange lemma)とは、体上のベクトル空間で $u_1,\dots,u_n$ が空間を生成し $w_1,\dots,w_m$ が線形独立なら、$m\le n$ であり、$u$ のうち $m$ 本を $w_1,\dots,w_m$ に取り替えても空間を生成する、という補題である。係数が $0$ でない生成元を 1 本ずつ取り替える帰納法で証明され、各段は連立1次方程式の掃き出しの一回の消去にあたる。帰結として、基底の元の個数が取り方によらず次元が定まること、線形独立なベクトルを生成系の元で基底に延長できること、2 つの基底のあいだで元を対称に交換できることが従い、選択公理のもとで無限次元の基底の濃度の一致にも拡張される。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: ベクトル空間, 線形独立, 部分空間

ベクトル空間の「次元」は基底の元の個数として定義される。基底の取り方は無数にあるので、この定義が意味をもつには、どの基底も同じ個数の元をもつことを示さなければならない。そのための道具が Steinitz の交換補題 である。生成系のベクトルを、線形独立なベクトルで 1 本ずつ置き換えていっても生成系であり続ける、という主張で、その帰結として「$n$ 個のベクトルで生成される空間の線形独立な族は高々 $n$ 個のベクトルからなる」ことが従う。
置き換えの一歩は、連立1次方程式を掃き出すときの一回の消去と同じ操作である。この記事では、交換の一歩と交換補題を証明し、次元の一意性、基底への延長、2 つの基底のあいだの対称な交換、無限次元の場合への拡張を導く。最後に、係数を体から環に替えると交換も不等式も崩れることを例で確かめる。

主張

以下、$K$ を体、$V$ を $K$ 上のベクトル空間とする。ベクトルの有限列 $x_1,\dots,x_r$ が張る部分空間を $\operatorname{span}(x_1,\dots,x_r)$ と書く。$\operatorname{span}(x_1,\dots,x_r)=V$ のとき、$x_1,\dots,x_r$ は $V$ を 生成する という。同じベクトルが列に 2 度現れてもよい(そのような列は線形独立でない)。

Steinitzの交換補題

$u_1,\dots,u_n\in V$ が $V$ を生成し、$w_1,\dots,w_m\in V$ が線形独立であるとする。このとき次が成り立つ。

  1. $m\le n$ である。
  2. $u_1,\dots,u_n$ の番号を適当に付け替えると、$w_1,\dots,w_m,u_{m+1},\dots,u_n$ も $V$ を生成する。
主張の読み方と証明の置き場所

つまり、生成系のうち $m$ 本をうまく選んで $w_1,\dots,w_m$ と取り替えれば、本数を変えずに生成系のままにできる。どの $m$ 本を取り替えてよいかは自由ではなく、証明の中の係数で決まる(ex-steinitz-choice)。証明は、次節の lem-steinitz-one-step を $w_1,w_2,\dots$ の順に 1 回ずつ当てる帰納法であり、節「交換補題の証明」に置く。

直感

平面 $K^2$ を 2 本のベクトル $u_1,u_2$ が生成しているとする。そこに線形独立な 3 本 $w_1,w_2,w_3$ があったとすると、1 本目の $w_1$ を入れた時点で、$u_1,u_2$ のどちらかは $w_1$ と残りの 1 本で書けるので不要になる。2 本目の $w_2$ を入れると、もう 1 本の $u$ も不要になり、生成系は $w_1,w_2$ だけになる。3 本目の $w_3$ は $w_1,w_2$ の線形結合で書けてしまい、独立性に反する。交換補題は、この「1 本入れるごとに 1 本追い出す」勘定を一般の次元で行うものである。
追い出す $u$ を選ぶ規則は、入れる $w$ を現在の生成系で書いたときの係数にある。係数が $0$ でない $u$ なら、その $u$ を $w$ と残りで書き戻せるので、追い出しても失うものがない。$w$ の線形独立性は、係数が $0$ でない $u$ が必ず残っていることを保証する。もし残りの $u$ の係数がすべて $0$ なら、$w$ はすでに入れた $w$ たちで書けてしまうからである。

交換の一歩

交換の一歩

$x_1,\dots,x_r\in V$ とし、$y=c_1x_1+\cdots+c_rx_r$($c_i\in K$)で $c_j\neq0$ とする。$x_j$ を $y$ に取り替えた列を $x_1,\dots,x_{j-1},y,x_{j+1},\dots,x_r$ とする。

  1. 取り替えた列の張る部分空間は $\operatorname{span}(x_1,\dots,x_r)$ に等しい。
  2. $x_1,\dots,x_r$ が線形独立なら、取り替えた列も線形独立である。

1:$y$ は $x_1,\dots,x_r$ の線形結合なので、取り替えた列の張る空間は $\operatorname{span}(x_1,\dots,x_r)$ に含まれる。逆に、$c_j\neq0$ なので
$$ x_j=c_j^{-1}\Bigl(y-\sum_{i\neq j}c_ix_i\Bigr) $$
であり、$x_j$ は取り替えた列の線形結合である。ほかの $x_i$($i\neq j$)は取り替えた列にそのまま入っているので、$\operatorname{span}(x_1,\dots,x_r)$ は取り替えた列の張る空間に含まれる。
2:$ay+\sum_{i\neq j}a_ix_i=0$($a,a_i\in K$)とする。$y$ を代入すると
$$ ac_j\,x_j+\sum_{i\neq j}(ac_i+a_i)\,x_i=0 $$
となる。$x_1,\dots,x_r$ の線形独立性から $ac_j=0$ であり、$c_j\neq0$ なので $a=0$ である。すると $a_i=ac_i+a_i=0$($i\neq j$)も得られる。$\square$

この補題は、連立1次方程式 の掃き出しの一回の操作を言い換えたものである。$x_1,\dots,x_r$ を基底とする座標で見ると、$y$ の $x_j$ 座標 $c_j$ を軸(ピボット)にして $x_j$ を消去している。

交換補題の証明

1 本ずつ置き換える帰納法

$0\le k\le m$ について、次の主張 $P(k)$ を $k$ についての帰納法で示す。

$P(k)$:$k\le n$ であり、$u_1,\dots,u_n$ の番号を適当に付け替えると、$w_1,\dots,w_k,u_{k+1},\dots,u_n$ は $V$ を生成する。
$P(0)$ は仮定そのものである。$k< m$ として $P(k)$ を仮定し、$P(k+1)$ を示す。番号を付け替えたあとの列 $w_1,\dots,w_k,u_{k+1},\dots,u_n$ は $V$ を生成するので、$w_{k+1}\in V$ は
$$ w_{k+1}=\sum_{i=1}^{k}b_iw_i+\sum_{j=k+1}^{n}c_ju_j\qquad(b_i,c_j\in K) $$
と書ける($k=n$ なら右辺の第 2 の和は空である)。
ここで $c_{k+1},\dots,c_n$ がすべて $0$ だったとすると($k=n$ の場合を含む)、$w_{k+1}-\sum_{i=1}^kb_iw_i=0$ となり、$w_{k+1}$ の係数が $1$ の自明でない線形関係が得られて、$w_1,\dots,w_m$ の線形独立性に反する。したがって $k< n$、すなわち $k+1\le n$ であり、$c_j\neq0$ となる $j\ge k+1$ がある。$u_{k+1},\dots,u_n$ の番号を付け替えて $c_{k+1}\neq0$ としてよい。
lem-steinitz-one-step の 1 を、列 $w_1,\dots,w_k,u_{k+1},\dots,u_n$ と $y=w_{k+1}$、$j=k+1$ に当てはめると、$u_{k+1}$ を $w_{k+1}$ に取り替えた列 $w_1,\dots,w_{k+1},u_{k+2},\dots,u_n$ の張る空間は、取り替える前と同じ $V$ である。よって $P(k+1)$ が成り立つ。
帰納法により $P(m)$ が成り立ち、これは定理の 1 と 2 そのものである。$\square$

証明は手続きとしても読める。$w$ を 1 本ずつ生成系に入れ、そのたびに「係数が $0$ でない $u$」を 1 本外す。各段で外された $u$ は、lem-steinitz-one-step の証明の式により、そのときの生成系の元の線形結合として書き戻せる。具体的な数ベクトルでは、この手続きは $w$ の座標を並べた行列の掃き出しとして計算できる。

例

数ベクトル空間での交換

$V=K^3$、$u_1=e_1,u_2=e_2,u_3=e_3$(標準基底)、$w_1=(1,1,0)$、$w_2=(0,1,1)$ とする。$w_1=e_1+e_2$ で $e_1$ の係数が $0$ でないので、$e_1$ を $w_1$ に取り替えて $w_1,e_2,e_3$ を得る。次に $w_2=0\cdot w_1+e_2+e_3$ で、$e_2$ の係数が $0$ でないので、$e_2$ を $w_2$ に取り替えて $w_1,w_2,e_3$ を得る。これは $K^3$ を生成する。実際、外した生成元は $e_2=w_2-e_3$、$e_1=w_1-e_2=w_1-w_2+e_3$ と書き戻せる。

取り替える生成元は選ばなければならない

$V=K^2$、$u_1=e_1$、$u_2=e_2$、$w_1=e_1$ とする。$u_1$ を $w_1$ に取り替えた $e_1,e_2$ は $K^2$ を生成するが、$u_2$ を $w_1$ に取り替えた $e_1,e_1$ は $K^2$ を生成しない。$w_1=1\cdot u_1+0\cdot u_2$ の係数を見ると、取り替えてよいのは係数が $0$ でない $u_1$ だけである。

多項式の空間と Taylor 展開の基底

次数 $n$ 以下の $K$ 係数多項式の空間 $K[x]_{\le n}$ は $1,x,\dots,x^n$ で生成される。$a\in K$ について、$w_k:=(x-a)^k$($0\le k\le n$)は次数が相異なる $0$ でない多項式なので線形独立である(最高次の項を比べる)。$a=0$ の場合から $1,x,\dots,x^n$ も線形独立なので $\dim K[x]_{\le n}=n+1$ であり、cor-steinitz-extend の 2 により $1,(x-a),\dots,(x-a)^n$ は基底であり、すべての $f\in K[x]_{\le n}$ は $f=\sum_kc_k(x-a)^k$ と一意に書ける。$K=\mathbb{R}$ なら $c_k=f^{(k)}(a)/k!$ である。

帰結

次元の一意性と基底への延長

$V$ が有限個のベクトルで生成されるとする。

  1. $V$ の 2 つの基底は同じ個数の元からなる。この個数を $\dim V$ と書く。
  2. $\dim V=n$ のとき、$n$ 個の線形独立なベクトルは基底であり、$n+1$ 個以上のベクトルは線形従属である。
  3. $u_1,\dots,u_n$ を $V$ の基底、$w_1,\dots,w_m$ を線形独立とする。このとき $u_1,\dots,u_n$ から $n-m$ 個を選んで $w_1,\dots,w_m$ に付け加え、$V$ の基底にできる。
  4. $V$ の部分空間 $W$ も有限個のベクトルで生成され、$\dim W\le\dim V$ である。等号は $W=V$ のときに限る。

1:$u_1,\dots,u_n$ と $u'_1,\dots,u'_{n'}$ を基底とする。前者は線形独立、後者は生成系なので thm-steinitz-exchange の 1 から $n\le n'$、役割を入れ替えて $n'\le n$ である。
2:後半は thm-steinitz-exchange の 1 を、基底($n$ 本の生成系)に当てはめればよい。前半を示す。$w_1,\dots,w_n$ が線形独立なら、thm-steinitz-exchange の 2 により、基底 $u_1,\dots,u_n$ のうち $n$ 本すべてを取り替えた $w_1,\dots,w_n$ が $V$ を生成する。線形独立な生成系なので基底である。
3:thm-steinitz-exchange の 2 により、番号を付け替えて $w_1,\dots,w_m,u_{m+1},\dots,u_n$ が $V$ を生成する。これが線形従属なら、自明でない関係 $\sum a_iw_i+\sum b_ju_j=0$ がある。$w$ は線形独立なので $b_j\neq0$ となる $j$ があり、その $u_j$ は残りの $n-1$ 本の線形結合である。$u_j$ を取り除いた $n-1$ 本の列も $V$ を生成するが、$V$ は $n$ 本の線形独立な $u_1,\dots,u_n$ を含むので、thm-steinitz-exchange の 1 から $n\le n-1$ となり矛盾する。よって線形独立であり、基底である。
4:$n:=\dim V$ とする。$W$ の線形独立な列は $V$ でも線形独立なので、thm-steinitz-exchange の 1 により長さが $n$ 以下である。そこで $W$ の線形独立な列のうち長さが最大のもの $x_1,\dots,x_k$ をとる($k\le n$)。$x\in W$ が $\operatorname{span}(x_1,\dots,x_k)$ に入らなければ、線形独立 の命題「一ベクトルの追加」により $x_1,\dots,x_k,x$ は線形独立で、長さの最大性に反する。よって $x_1,\dots,x_k$ は $W$ の基底で、$\dim W=k\le n$ である。$k=n$ なら、2 により $x_1,\dots,x_n$ は $V$ の基底でもあり、$W=\operatorname{span}(x_1,\dots,x_n)=V$ である。$\square$

基底の定義と、この系から導かれる次元公式などの性質は 基底と次元 の記事にまとめてある。2 は 基底と次元 の命題「有限次元空間における独立系と生成系」と同じ内容である。
次の命題は、2 つの基底のあいだで元を 1 個ずつ同時に交換できることを示す。これはベクトル空間の線形独立性がマトロイド(線形マトロイド)をなすことの、交換公理より強い形である。

基底の対称な交換

$B$ と $B'$ を有限次元のベクトル空間 $V$ の基底(有限集合)とし、$b\in B\setminus B'$ とする。このとき $b'\in B'\setminus B$ で、$(B\setminus\{b\})\cup\{b'\}$ と $(B'\setminus\{b'\})\cup\{b\}$ がともに $V$ の基底になるものがある。

座標を 1 で評価する

要点:$b$ の $B$ に関する座標関数を $\varphi$、$B'$ の各元 $b'$ に関する座標関数を $\psi_{b'}$ とすると、$1=\varphi(b)=\sum_{b'}\psi_{b'}(b)\varphi(b')$ の右辺に $0$ でない項がある。その $b'$ が求めるものである。

詳しい証明を開く

線形写像 $\varphi\colon V\to K$ を、$v$ を基底 $B$ で展開したときの $b$ の係数とする。各 $b'\in B'$ について $\psi_{b'}\colon V\to K$ を、$B'$ で展開したときの $b'$ の係数とする。$b=\sum_{b'\in B'}\psi_{b'}(b)\,b'$ に $\varphi$ を施すと

$$1=\varphi(b)=\sum_{b'\in B'}\psi_{b'}(b)\,\varphi(b')$$

となるので、$\psi_{b'}(b)\neq0$ かつ $\varphi(b')\neq0$ となる $b'\in B'$ がある。$b'\in B$ なら、$b'\neq b$($b\notin B'$ だから)なので $\varphi(b')=0$ となり矛盾する。よって $b'\in B'\setminus B$ である。

$\varphi(b')\neq0$ は、$b'=\sum_{c\in B}\varphi_c(b')c$($\varphi_c$ は $B$ に関する $c$ の係数、$\varphi_b=\varphi$)の $b$ の係数が $0$ でないことを意味する。lem-steinitz-one-step を基底 $B$ と $y=b'$、取り替える元 $b$ に当てはめると、$(B\setminus\{b\})\cup\{b'\}$ は線形独立で $V$ を生成する、すなわち基底である。同様に $\psi_{b'}(b)\neq0$ から、$B'$ の $b'$ を $b$ に取り替えた $(B'\setminus\{b'\})\cup\{b\}$ も基底である。$\square$

交換補題は無限次元でも、個数を濃度に替えて成り立つ。次の命題では選択公理を仮定する。

無限個の生成系の場合

$S\subset V$ が $V$ を生成する無限集合で、$L\subset V$ が線形独立な集合なら、$\lvert L\rvert\le\lvert S\rvert$ である。とくに $V$ の 2 つの基底は同じ濃度をもつ。

有限部分集合ごとに数える

要点:各 $\ell\in L$ はある有限部分集合 $F\subset S$ の張る空間に入り、1 つの $F$ に割り当てられる $\ell$ は thm-steinitz-exchange により高々 $\lvert F\rvert$ 個である。

詳しい証明を開く

$S$ の有限部分集合の全体を $\mathcal{F}$ とする。$S$ は無限集合なので $\lvert\mathcal{F}\rvert=\lvert S\rvert$ である($\mathcal{F}$ は $k$ 元部分集合の全体 $\mathcal{F}_k$($k\ge0$)の合併で、$\lvert\mathcal{F}_k\rvert\le\lvert S^k\rvert=\lvert S\rvert$ から $\lvert\mathcal{F}\rvert\le\aleph_0\cdot\lvert S\rvert=\lvert S\rvert$、また 1 元部分集合だけで $\lvert S\rvert$ 個ある)。

各 $\ell\in L$ は $S$ の元の有限個の線形結合なので、$\ell\in\operatorname{span}(F)$ となる $F\in\mathcal{F}$ がある。選択公理により、そのような $F$ を 1 つずつ選んで写像 $f\colon L\to\mathcal{F}$ を作る。$F\in\mathcal{F}$ について、$f^{-1}(F)$ は $\operatorname{span}(F)$ に含まれる線形独立な集合であり、$\operatorname{span}(F)$ は $\lvert F\rvert$ 個のベクトルで生成されるので、thm-steinitz-exchange の 1 により $f^{-1}(F)$ は有限で $\lvert f^{-1}(F)\rvert\le\lvert F\rvert$ である。よって

$$\lvert L\rvert=\Bigl\lvert\bigcup_{F\in\mathcal{F}}f^{-1}(F)\Bigr\rvert\le\aleph_0\cdot\lvert\mathcal{F}\rvert=\lvert S\rvert$$

である。2 つの基底 $B,B'$ の一方が無限なら、上の不等式(有限の場合は thm-steinitz-exchange)から他方も無限であり、$\lvert B'\rvert\le\lvert B\rvert$ と $\lvert B\rvert\le\lvert B'\rvert$ から濃度が等しい(Bernstein の定理)。$\square$

条件を外した反例

外す条件反例成り立たなくなること
係数が体(整数環 $\mathbb{Z}$ に替える)$\mathbb{Z}$ 加群 $\mathbb{Z}$、生成系 $2,3$、独立な $6$2:どちらの生成元を $6$ に取り替えても $\mathbb{Z}$ を生成しない
係数が体(非可換な環に替える)環 $E=\operatorname{End}_K(K^{(\mathbb{N})})$ を左 $E$ 加群とみる。生成系 $1$、独立な $\alpha_1,\alpha_2$1:$m=2>1=n$
$w_1,\dots,w_m$ が線形独立$V=K$、$u_1=1$、$w_1=1$、$w_2=2$1:$m=2>1=n$
$u_1,\dots,u_n$ が $V$ を生成する$V=K^2$、$u_1=e_1$、$w_1=e_1$、$w_2=e_2$1:$m=2>1=n$
反例:表の各行の確かめ

各行の対象は、左の列の条件以外の仮定をみたしている(1 行目と 2 行目では、線形独立・生成を加群の言葉で読む)。

確かめを開く

1 行目:$2$ と $3$ は $1=3-2$ により $\mathbb{Z}$ を生成する。$6$ は $a\cdot6=0$ なら $a=0$ なので線形独立である。$6,3$ が生成するのは $3\mathbb{Z}$、$2,6$ が生成するのは $2\mathbb{Z}$ で、どちらも $\mathbb{Z}$ でない。なお $\mathbb{Z}$ の 2 元 $a,b$ は $b\cdot a-a\cdot b=0$ をみたすので、$\mathbb{Z}$ の線形独立な族は高々 1 元であり、この例では 1 の不等式は崩れていない。

2 行目:$V=K^{(\mathbb{N})}$ を基底 $e_0,e_1,\dots$ をもつ $K$ 上のベクトル空間とし、$E=\operatorname{End}_K(V)$ を合成を積とする環とみる。$E$ は左 $E$ 加群として $1$ で生成される($f=f\cdot1$)。$\alpha_1,\alpha_2\in E$ を、$\alpha_1(e_{2k})=e_k$、$\alpha_1(e_{2k+1})=0$、$\alpha_2(e_{2k})=0$、$\alpha_2(e_{2k+1})=e_k$ で定める。$f\alpha_1+g\alpha_2=0$($f,g\in E$)とすると、$e_{2k}$ に施して $f(e_k)=0$ がすべての $k$ で成り立つので $f=0$、$e_{2k+1}$ に施して $g=0$ である。よって $\alpha_1,\alpha_2$ は線形独立であり、$m=2>1=n$ となる。

3 行目:$1$ は $K$ を生成し、$2\cdot w_1-1\cdot w_2=0$ なので $w_1,w_2$ は線形従属である($K$ の標数が $2$ なら $w_2=0$)。$m=2>1$ である。

4 行目:$e_1,e_2$ は線形独立だが、$u_1=e_1$ は $K^2$ を生成しない。$m=2>1$ である。$\square$

2 行目の環 $E$ では、$1$ 個の元で生成される加群 $E$ が $2$ 個の線形独立な元を含む。係数を一般の環に替えると、交換だけでなく 1 の不等式も成り立たなくなりうる。

補足

斜体の上のベクトル空間

lem-steinitz-one-step と thm-steinitz-exchange の証明は、スカラーを常に左から掛ける約束のもとで、係数の積の可換性を使っていない。使っているのは、$0$ でない係数が逆元をもつことだけである。したがって、斜体 の上の左ベクトル空間でも同じ証明で交換補題と次元の一意性が成り立つ。

連立1次方程式による別証明

1 の不等式だけなら、方程式の解の存在からも示せる。$w_j=\sum_{i=1}^na_{ij}u_i$ と書き、$m>n$ とすると、未知数 $m$ 個・方程式 $n$ 個の斉次連立1次方程式 $\sum_ja_{ij}x_j=0$($1\le i\le n$)は自明でない解をもち、その解 $x$ について $\sum_jx_jw_j=\sum_i\bigl(\sum_ja_{ij}x_j\bigr)u_i=0$ となって線形独立性に反する。解の存在は 連立1次方程式 の簡約階段形(主変数でない変数を自由に選べる)から従う。交換補題の証明は、この掃き出しを生成系の側で 1 列ずつ行うものである。

文献

Axl24 は、線形従属な列から前のベクトルの線形結合である 1 本を除いても張る空間が変わらないことを 2.19(pp. 33–34)で示し、線形独立な列の長さが生成する列の長さ以下であること(2.22、p. 35)を、$w$ を 1 本加えるごとに $u$ を 1 本除く手続きで証明している。この記事の thm-steinitz-exchange はその手続きを、取り替えた列が生成系であるという形で述べたものである。対称な交換(prop-steinitz-symmetric)と無限の場合(prop-steinitz-infinite)は、この記事で証明した。

関連項目

参考文献

Mathpediaは寄付と、参考文献の書籍リンク(Amazonアソシエイト)の紹介料で運営されています。 支援について / 寄付する