有限生成アーベル群

同義語:finitely generated abelian group有限生成可換群有限生成アーベル群の基本定理有限生成アーベル群の構造定理fundamental theorem of finitely generated abelian groups

概要

有限生成アーベル群(finitely generated abelian group)とは、有限個の元 $g_1,\dots,g_n$ があって、すべての元が整数係数の和 $a_1g_1+\cdots+a_ng_n$ で書けるアーベル群のことである。基本定理により、有限生成アーベル群は $\mathbb{Z}^r\oplus\mathbb{Z}/d_1\mathbb{Z}\oplus\cdots\oplus\mathbb{Z}/d_k\mathbb{Z}$($d_1\mid\cdots\mid d_k$)の形にただ一通りに分解し、階数 $r$ と不変因子 $d_i$ が同型類を決める。階数は一次独立な元の最大個数で短完全列について加法的であり、関係行列で表示された群の不変因子は小行列式の最大公約数の比として計算できる。代数体の単数群や楕円曲線の有理点の群がその例である。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: アーベル群, 自由アーベル群, 有限アーベル群の基本定理, 有限生成加群

有限生成アーベル群とは、有限個の元の整数係数の和ですべての元が書けるアーベル群である。整数の加法群 $\mathbb{Z}$、有限アーベル群、それらの有限個の直和がその例であり、逆にどの有限生成アーベル群もこの形に限られる。これが有限生成アーベル群の基本定理で、群は二つの整数 $r$(階数)と整除列 $d_1\mid d_2\mid\cdots\mid d_k$(不変因子)で完全に分類される。有限生成アーベル群は、多面体や閉多様体のホモロジー群、代数体の整数環の単数群、数体上の楕円曲線の有理点の群など、数学のさまざまな場所で「数えられる不変量」として現れる。この記事では、基本定理を述べて関係行列の Smith 標準形と $p^{j-1}G/p^jG$ の次元を使って証明し、生成元の最小個数、階数の特徴づけと短完全列での加法性、関係行列の小行列式から不変因子を計算する方法を証明する。

定義

アーベル群は加法的に書く。整数 $n\ge0$ について $\mathbb{Z}^n$ の標準基底を $e_1,\dots,e_n$ とする。

有限生成アーベル群

アーベル群 $G$ が有限生成であるとは、有限個の元 $g_1,\dots,g_n\in G$ があって、$G$ のすべての元が $a_1g_1+\cdots+a_ng_n$($a_i\in\mathbb{Z}$)と書けることをいう。言い換えると、$e_i\mapsto g_i$ で定まる準同型 $\pi\colon\mathbb{Z}^n\to G$ が全射になることである。このとき $g_1,\dots,g_n$ を $G$ の生成系という。$G$ を生成する元の個数の最小値を $\mu(G)$ と書く。

これは アーベル群 の記事の定義「生成された部分群と有限生成」と同じであり、$\mathbb{Z}$ 上の有限生成加群にほかならない。$G$ の有限位数の元の全体 $T(G)$ は部分群をなし(アーベル群 の記事の命題「捩れ元の全体は部分群」)、$G$ の捩れ部分群という。
全射 $\pi\colon\mathbb{Z}^n\to G$ の核 $L$ は $\mathbb{Z}^n$ の部分群なので、階数 $m\le n$ の自由アーベル群である(自由アーベル群 の記事の命題「有限階数の自由アーベル群の部分群」)。$L$ の基底 $l_1,\dots,l_m$ を列に並べた $n\times m$ 整数行列を $A$ とすると、$L=A\mathbb{Z}^m$($A$ の列が生成する部分群)であり、
$$ G\cong\mathbb{Z}^n/A\mathbb{Z}^m $$
となる。

関係行列

$n\times m$ 整数行列 $A$ について、$\mathbb{Z}^n/A\mathbb{Z}^m$ を $A$ で表示されるアーベル群といい、$A$ をその関係行列という。$A$ の第 $j$ 列 $(a_{1j},\dots,a_{nj})$ は、生成元 $g_i:=e_i+A\mathbb{Z}^m$ の間の関係式 $a_{1j}g_1+\cdots+a_{nj}g_n=0$ を表す。

上で見たとおり、どの有限生成アーベル群もある関係行列で表示される。関係行列は列の数を有限にとれるので、有限生成アーベル群は有限表示でもある。

基本定理

有限生成アーベル群の基本定理

$G$ を有限生成アーベル群とする。

  1. (不変因子形)整数 $r\ge0$、$k\ge0$ と、$d_1\mid d_2\mid\cdots\mid d_k$ を満たす整数 $d_1,\dots,d_k\ge2$ があって
    $$ G\cong\mathbb{Z}^r\oplus\mathbb{Z}/d_1\mathbb{Z}\oplus\cdots\oplus\mathbb{Z}/d_k\mathbb{Z} $$
    となる。$r$ と列 $(d_1,\dots,d_k)$ は $G$ の同型類だけで決まる。
  2. (素因子形)$r$ と、素数の冪 $q_1,\dots,q_l$(重複を許す)があって $G\cong\mathbb{Z}^r\oplus\mathbb{Z}/q_1\mathbb{Z}\oplus\cdots\oplus\mathbb{Z}/q_l\mathbb{Z}$ となる。$q_1,\dots,q_l$ は並べ方を除いて $G$ の同型類だけで決まる。
  3. $G=\mathbb{Z}^r\oplus F$($F$ は有限群)と分解すると、$F=T(G)$ であり、$G/T(G)\cong\mathbb{Z}^r$ である。

$r$ を $G$ の階数(rank。自由階数、Betti 数ともいう)、$d_1,\dots,d_k$ を不変因子(invariant factor)、$q_1,\dots,q_l$ を素因子(elementary divisor)という。単因子という語は、文献によって素因子の意味にも不変因子の意味にも使われる。有限アーベル群の基本定理 の記事は不変因子を大きい順に $k_1,k_2,\dots$($k_{i+1}\mid k_i$)と並べているが、内容は同じである。

存在。定義の後の段落のとおり、関係行列 $A$($n\times m$ 整数行列)で $G\cong\mathbb{Z}^n/A\mathbb{Z}^m$ と表示する。有限生成加群 の記事の補題「有限行列のSmith標準形」を単項イデアル整域 $\mathbb{Z}$ に使うと、$U\in\mathrm{GL}_n(\mathbb{Z})$、$V\in\mathrm{GL}_m(\mathbb{Z})$ で、$D:=UAV$ の $(i,i)$ 成分 $\delta_i$($1\le i\le s$)が $0$ でなく $\delta_1\mid\cdots\mid\delta_s$ を満たし、ほかの成分がすべて $0$ となるものがある。行に $-1$ を掛ける操作も $\mathrm{GL}_n(\mathbb{Z})$ の元なので $\delta_i>0$ としてよい。$U$ は $\mathbb{Z}^n$ の自己同型で、$V\mathbb{Z}^m=\mathbb{Z}^m$ なので
$$ U(A\mathbb{Z}^m)=UAV\mathbb{Z}^m=D\mathbb{Z}^m=\delta_1\mathbb{Z}e_1\oplus\cdots\oplus\delta_s\mathbb{Z}e_s $$
であり、$U$ は同型 $\mathbb{Z}^n/A\mathbb{Z}^m\cong\mathbb{Z}^n/D\mathbb{Z}^m$ を誘導する。座標ごとに剰余をとって
$$ G\cong\mathbb{Z}^{n-s}\oplus\mathbb{Z}/\delta_1\mathbb{Z}\oplus\cdots\oplus\mathbb{Z}/\delta_s\mathbb{Z} $$
を得る。$\delta_i=1$ の因子は $0$ なので除く。整除列なので $\delta_i=1$ となる $i$ は最初のいくつかであり、残りの $\delta_i\ge2$ はふたたび整除列である。これを $d_1\mid\cdots\mid d_k$、$r:=n-s$ とおけば 1 の分解になる。各 $d_i=\prod_pp^{e_p}$ について $\mathbb{Z}/d_i\mathbb{Z}\cong\bigoplus_p\mathbb{Z}/p^{e_p}\mathbb{Z}$(中国剰余定理)と分ければ 2 の分解になる。
3。$G=\mathbb{Z}^r\oplus F$($F$ は有限)とする。$(x,f)\in\mathbb{Z}^r\oplus F$ が有限位数なら、ある $N\ge1$ で $Nx=0$ であり、$\mathbb{Z}^r$ では $x=0$ である。逆に $F$ の元は位数が $|F|$ の約数なので有限位数である。よって $T(G)=0\oplus F$ であり、$G/T(G)\cong\mathbb{Z}^r$ である。
一意性(階数)。1 または 2 の形の分解 $G\cong\mathbb{Z}^r\oplus F$ では、3 により $F\cong T(G)$、$\mathbb{Z}^r\cong G/T(G)$ である。自由アーベル群の階数は基底の取り方によらない(自由アーベル群 の記事の「階数」の節)ので、$r$ は $G$ だけで決まる。
一意性(有限部分)。有限アーベル群 $T$ と素数 $p$、$j\ge1$ について
$$ N_{p,j}(T):=\dim_{\mathbb{F}_p}\bigl(p^{j-1}T/p^jT\bigr) $$
とおく($p^{j-1}T/p^jT$ は $p$ 倍で $0$ になるので $\mathbb{F}_p=\mathbb{Z}/p\mathbb{Z}$ 上のベクトル空間である)。同型 $T\cong T'$ は $p^kT$ を $p^kT'$ に移すので、$N_{p,j}$ は $T$ の同型類だけで決まる。巡回群 $\mathbb{Z}/d\mathbb{Z}$ では $p^k(\mathbb{Z}/d\mathbb{Z})=(p^k\mathbb{Z}+d\mathbb{Z})/d\mathbb{Z}=\gcd(p^k,d)\mathbb{Z}/d\mathbb{Z}$ なので、
$$ p^{j-1}(\mathbb{Z}/d\mathbb{Z})/p^j(\mathbb{Z}/d\mathbb{Z})\cong\gcd(p^{j-1},d)\mathbb{Z}/\gcd(p^j,d)\mathbb{Z} $$
の位数は $\gcd(p^j,d)/\gcd(p^{j-1},d)$、すなわち $p^j\mid d$ なら $p$、そうでなければ $1$ である。$p^k$ 倍は直和の成分ごとにとれるので、$T=\bigoplus_{i=1}^k\mathbb{Z}/d_i\mathbb{Z}$ なら
$$ N_{p,j}(T)=\#\{i\mid p^j\mid d_i\} $$
である。$d_1\mid\cdots\mid d_k$ なので、$p^j\mid d_i$ なら $i$ より後のすべての $d_{i'}$ も $p^j$ で割り切れ、$N_{p,j}=\mu$ は「最後の $\mu$ 個がちょうど $p^j$ で割り切れる」ことを意味する。したがって、$1\le\mu\le k$ について $d_{k+1-\mu}$ を割る $p$ の冪指数は $\#\{j\ge1\mid N_{p,j}\ge\mu\}$ に等しい。また $k\ge1$ なら $d_1\ge2$ を割る素数 $p$ はすべての $d_i$ を割るので $N_{p,1}=k$ であり、どの素数でも $N_{p,1}\le k$ だから、$k=\max_pN_{p,1}$ である($T=0$ なら $k=0$)。こうして $k$ と各 $d_i$ のすべての素数の冪指数が $T(G)$ の同型類から決まり、不変因子は一意である。素因子については、$T=\bigoplus_l\mathbb{Z}/q_l\mathbb{Z}$ で同じ計算をすると $N_{p,j}(T)$ は $q_l$ のうち $p^j$ で割り切れる $p$ の冪の個数になるので、$p^j$ に等しい素因子の個数は $N_{p,j}-N_{p,j+1}$ であり、やはり一意である。$\square$

同じ内容は 有限生成加群 の記事の定理「有限生成PID加群の構造と一意性」(一般の単項イデアル整域上の有限生成加群。整数環 $\mathbb{Z}$ に適用すると上の定理になる)にもあり、存在の別の組み立て方として、自由アーベル群 の記事の系「有限生成アーベル群の捩れ部分の分離」と 有限アーベル群の基本定理 の記事の定理「不変因子分解の存在」「素因子分解の存在」を合わせる方法もある。DF04 は §5.2 Theorem 3(p. 158)で定理を述べ、§12.1 で単項イデアル整域上の加群の定理(Theorem 5・6・9, pp. 462–466)から Corollary 11(p. 468)として導いている。
不変因子と素因子は互いに読み替えられる。各不変因子 $d_i$ を素因数分解して $\mathbb{Z}/d_i\mathbb{Z}$ を素数冪位数の巡回群の直和に分けると素因子が得られ、逆に、素因子を素数ごとに大きい順に並べ、各素数から最大のものを一つずつ取って掛けたものが最大の不変因子 $d_k$ になる(有限アーベル群の基本定理 の記事の命題「不変因子形と素因子形の相互変換」)。

例

二つの形の読み替え

$G=\mathbb{Z}\oplus\mathbb{Z}/12\mathbb{Z}\oplus\mathbb{Z}/18\mathbb{Z}$ は階数 $1$ である。$\mathbb{Z}/12\mathbb{Z}\cong\mathbb{Z}/4\mathbb{Z}\oplus\mathbb{Z}/3\mathbb{Z}$、$\mathbb{Z}/18\mathbb{Z}\cong\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}\oplus\mathbb{Z}/9\mathbb{Z}$(中国剰余定理)なので、素因子は $2,4,3,9$ である。素数 $2$ からは $4$ と $2$、素数 $3$ からは $9$ と $3$ が出るので、大きいもの同士・小さいもの同士を掛けて不変因子は $2\cdot3=6$、$4\cdot9=36$ となり、
$$ G\cong\mathbb{Z}\oplus\mathbb{Z}/6\mathbb{Z}\oplus\mathbb{Z}/36\mathbb{Z} $$
である。$12\nmid18$ なので、もとの書き方 $(12,18)$ は不変因子の列ではない。

関係行列からの計算

$G=\mathbb{Z}^3/L$、$L$ は $(2,2,2)$ と $(0,4,4)$ が生成する部分群とする。$\mathbb{Z}^3$ の基底を $f_1:=(1,1,1)$、$f_2:=(0,1,1)$、$f_3:=(0,0,1)$ に取り替える(行列 $\begin{pmatrix}1&0&0\\1&1&0\\1&1&1\end{pmatrix}$ の行列式は $1$ なので基底である)。すると $L$ は $2f_1$ と $4f_2$ で生成されるので
$$ G\cong\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}\oplus\mathbb{Z}/4\mathbb{Z}\oplus\mathbb{Z} $$
であり、階数 $1$、不変因子 $(2,4)$ である。このような基底の取り替えを機械的に見つける方法が Smith 標準形であり、不変因子は関係行列の小行列式からも直接読める(ex-fgab-minors)。

有限生成アーベル群の現れる場所

代数体 $K$ の整数環の単数群は、$K$ に含まれる $1$ の冪根のなす有限巡回群と階数 $r_1+r_2-1$ の自由アーベル群の直和に分かれる(Dirichletの単数定理 の記事の定理「Dirichletの単数定理」。$r_1,r_2$ は $K$ の実埋め込みと複素埋め込みの対の個数)。代数体上の楕円曲線の有理点の群は有限生成である(Mordell–Weilの定理 の記事の定理「Mordell–Weil の定理」)。有限個の単体からなる単体複体の整数係数ホモロジー群は、有限生成自由アーベル群の部分群の剰余群なので、prop-fgab-subgroup により有限生成であり、その階数が Betti 数、捩れ部分群が捩れ係数を与える。

反例:有限生成でないアーベル群

有理数の加法群 $\mathbb{Q}$ は有限生成でない(アーベル群 の記事の命題「有理数の加法群は有限生成でない」)。$\mathbb{Q}$ は捩れのない群だが自由アーベル群でない(同記事の系「有理数の加法群は自由でない」)ので、基本定理の形に書けない。$\mathbb{Q}/\mathbb{Z}$ は無限の捩れ群であり、有限生成な捩れ群は有限群なので(同記事の命題「有限生成な捩れ群は有限」)、有限生成でない。可算無限個の $\mathbb{Z}$ の直和 $\bigoplus_{i\in\mathbb{N}}\mathbb{Z}$ も有限生成でない。有限個の元は有限個の成分にしか値をもたず、それらが生成する部分群は残りの成分が $0$ の元しか含まないからである。

部分群と生成元の個数

部分群の有限生成性

$n$ 個の元で生成されるアーベル群 $G$ の部分群は、$n$ 個以下の元で生成される。とくに有限生成アーベル群の部分群と剰余群は有限生成である。

全射 $\pi\colon\mathbb{Z}^n\to G$ をとり、部分群 $H\subset G$ について $\pi^{-1}(H)\subset\mathbb{Z}^n$ を考える。これは $\mathbb{Z}^n$ の部分群なので、階数 $m\le n$ の自由アーベル群であり(自由アーベル群 の記事の命題「有限階数の自由アーベル群の部分群」)、基底 $y_1,\dots,y_m$ をもつ。$\pi$ は全射なので $\pi(\pi^{-1}(H))=H$ であり、$H$ は $\pi(y_1),\dots,\pi(y_m)$ で生成される。剰余群 $G/H$ は生成系の像で生成される。$\square$

部分群の有限生成性は、整数環 $\mathbb{Z}$ が単項イデアル整域であり、したがって Noether 環であることの反映である(有限生成加群 の記事の命題「Noether 環の上では有限生成と有限表示が一致する」)。
基本定理の分解から、生成元の最小個数が読み取れる。

生成元の最小個数

$G\cong\mathbb{Z}^r\oplus\mathbb{Z}/d_1\mathbb{Z}\oplus\cdots\oplus\mathbb{Z}/d_k\mathbb{Z}$($d_1\mid\cdots\mid d_k$、$d_i\ge2$)なら、$\mu(G)=r+k$ である。

右辺は各直和因子の生成元 $r+k$ 個で生成されるので $\mu(G)\le r+k$ である。逆向きを示す。$k\ge1$ なら $d_1$ を割る素数を、$k=0$ なら任意の素数を $p$ とする。$pG=\{px\mid x\in G\}$ による剰余群 $G/pG$ は、直和因子ごとに計算できる。直和因子 $\mathbb{Z}$ からは $\mathbb{Z}/p\mathbb{Z}$ が出る。$p\mid d$ なら $(\mathbb{Z}/d\mathbb{Z})/p(\mathbb{Z}/d\mathbb{Z})=(\mathbb{Z}/d\mathbb{Z})/(p\mathbb{Z}/d\mathbb{Z})\cong\mathbb{Z}/p\mathbb{Z}$ であり、$p\mid d_1\mid d_i$ なので
$$ G/pG\cong(\mathbb{Z}/p\mathbb{Z})^{r+k} $$
である。これは有限体 $\mathbb{F}_p=\mathbb{Z}/p\mathbb{Z}$ 上の $r+k$ 次元ベクトル空間で、$G$ の生成系の像は $G/pG$ を $\mathbb{F}_p$ 上張るので、少なくとも $r+k$ 個の元を含む。よって $\mu(G)\ge r+k$ である。$\square$

たとえば $\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}\oplus\mathbb{Z}/3\mathbb{Z}\cong\mathbb{Z}/6\mathbb{Z}$ は一つの元で生成され、不変因子は $(6)$ ただ一つである。素因子の個数 $2$ は生成元の最小個数ではない。

階数

アーベル群 $G$ の元 $x_1,\dots,x_m$ が一次独立であるとは、整数 $a_1,\dots,a_m$ について $a_1x_1+\cdots+a_mx_m=0$ なら $a_1=\cdots=a_m=0$ であることをいう。

階数の特徴づけと加法性
  1. 有限生成アーベル群 $G$ の階数 $r$ は、$G$ の一次独立な元の個数の最大値に等しい。
  2. アーベル群の完全列 $0\to A\xrightarrow{\iota}B\xrightarrow{\rho}C\to0$ で $B$ が有限生成なら、$A$ と $C$ も有限生成で、$\operatorname{rank}B=\operatorname{rank}A+\operatorname{rank}C$ である。

1:まず $\mathbb{Z}^r$ の $r+1$ 個の元は一次従属であることを示す。一次独立な $y_1,\dots,y_{r+1}\in\mathbb{Z}^r$ があれば、それらが生成する部分群は $y_1,\dots,y_{r+1}$ を基底とする階数 $r+1$ の自由アーベル群になる。一方、$\mathbb{Z}^r$ の部分群は階数 $r$ 以下の自由アーベル群であり(自由アーベル群 の記事の命題「有限階数の自由アーベル群の部分群」)、階数は基底によらないので矛盾である。
$G=\mathbb{Z}^r\oplus T(G)$(thm-fgab-fundamental の 3)とし、$x_1,\dots,x_m\in G$ を一次独立とする。射影 $p\colon G\to\mathbb{Z}^r$ による像 $p(x_i)$ が一次独立であることを示す。$\sum a_ip(x_i)=0$ なら $\sum a_ix_i\in T(G)$ なので、ある $N\ge1$ で $\sum Na_ix_i=0$ となり、$x_i$ の一次独立性から $Na_i=0$、すなわち $a_i=0$ である。前段により $m\le r$ である。$\mathbb{Z}^r$ の標準基底は $G$ の一次独立な $r$ 個の元を与えるので、最大値は $r$ である。
2:$A\cong\iota(A)$ は $B$ の部分群、$C$ は $B$ の剰余群と同型なので、prop-fgab-subgroup により有限生成である。$s:=\operatorname{rank}A$、$t:=\operatorname{rank}C$ とし、1 により一次独立な $a_1,\dots,a_s\in A$ と $c_1,\dots,c_t\in C$ をとり、$\rho(b_j)=c_j$ となる $b_j\in B$ を選ぶ。
(i) $\iota(a_1),\dots,\iota(a_s),b_1,\dots,b_t$ は一次独立である。$\sum\alpha_i\iota(a_i)+\sum\beta_jb_j=0$ に $\rho$ を施すと $\sum\beta_jc_j=0$ なので $\beta_j=0$ であり、$\iota$ の単射性から $\sum\alpha_ia_i=0$、$\alpha_i=0$ である。
(ii) 個数が最大の一次独立系 $z_1,\dots,z_u$($u$ は階数)と任意の元 $y$ について、$Ny\in\langle z_1,\dots,z_u\rangle$ となる $N\ge1$ がある。実際 $z_1,\dots,z_u,y$ は一次従属なので、すべては $0$ でない整数で $\gamma y+\sum\delta_lz_l=0$ となり、$z_l$ の一次独立性から $\gamma\neq0$ であり、$N:=|\gamma|$ とすればよい。
(iii) $y\in B$ について、(ii) を $C$ に使うと $N\rho(y)=\sum\beta_jc_j$ となる $N\ge1$ と $\beta_j$ がある。$Ny-\sum\beta_jb_j\in\ker\rho=\iota(A)$ なので、(ii) を $A$ に使うと、ある $N'\ge1$ で $N'(Ny-\sum\beta_jb_j)$ は $\iota(a_1),\dots,\iota(a_s)$ の整数係数の和になる。よって $NN'y\in F:=\langle\iota(a_1),\dots,\iota(a_s),b_1,\dots,b_t\rangle$ である。
(iv) $F$ は (i) により階数 $s+t$ の自由アーベル群である。$B$ の $s+t+1$ 個の元 $y_l$ について、(iii) によりすべての $l$ で $My_l\in F$ となる $M\ge1$ がとれる(各 $y_l$ の整数の積をとる)。$F\cong\mathbb{Z}^{s+t}$ の $s+t+1$ 個の元 $My_l$ は 1 の前半により一次従属なので、$\sum\gamma_lMy_l=0$ となる、すべては $0$ でない $\gamma_l$ があり、$y_l$ も一次従属である。
(i) と (iv) と 1 により $\operatorname{rank}B=s+t$ である。$\square$

とくに、有限生成アーベル群 $G$ が有限群であることは階数が $0$ であることと同値であり、有限指数の部分群 $H\subset G$ は $G$ と同じ階数をもつ($G/H$ は有限なので階数 $0$)。DF04 §12.1 は一般の整域上の加群について 2 を演習(Exercise 4, p. 469)にしている。階数は有理数体とのテンソル積 $\mathbb{Q}\otimes_{\mathbb{Z}}G$ の $\mathbb{Q}$ 上の次元にも等しい(同 Exercise 20, p. 471。この記事では証明しない)。

関係行列から不変因子を読む

関係行列 $A$ で表示された群 $\mathbb{Z}^n/A\mathbb{Z}^m$ の不変因子は、$A$ を基本変形しなくても、小行列式の最大公約数から計算できる。$A$ の $k$ 行と $k$ 列を選んでできる $k$ 次正方行列の行列式を $A$ の $k$ 次小行列式という。

小行列式の一次結合

$U$ を $n\times n'$、$A$ を $n'\times m$ の整数行列とする。$UA$ の $k$ 次小行列式は、それぞれ $A$ の $k$ 次小行列式の整数係数の一次結合である($A$ に $k$ 次小行列式がなければ $0$)。$AV$($V$ は $m\times m'$ の整数行列)についても同様である。

$UA$ の第 $i_1,\dots,i_k$ 行と第 $j_1,\dots,j_k$ 列からなる小行列式を考える。その第 $a$ 行は、$A$ の第 $l$ 行の第 $j_1,\dots,j_k$ 成分を並べた行ベクトル $R_l$ を使って $\sum_lU_{i_al}R_l$ と書ける。行列式は各行について線形なので
$$ \det\Bigl(\sum_{l}U_{i_al}R_l\Bigr)_{a=1,\dots,k}=\sum_{l_1,\dots,l_k}U_{i_1l_1}\cdots U_{i_kl_k}\det(R_{l_1},\dots,R_{l_k}) $$
となる。$l_1,\dots,l_k$ に等しいものがあれば等しい行をもつので行列式は $0$ であり、互いに異なれば $\det(R_{l_1},\dots,R_{l_k})$ は行の並べ替えを除いて $A$ の第 $l_1,\dots,l_k$ 行・第 $j_1,\dots,j_k$ 列の小行列式であり、符号を除いて一致する。$AV$ については転置 $(AV)^{\top}=V^{\top}A^{\top}$ を考え、転置で小行列式が変わらないことを使えばよい。$\square$

$k\ge1$ について、$A$ の $k$ 次小行列式すべての最大公約数($0$ 以上にとり、すべて $0$ なら $0$)を $\Delta_k(A)$ とし、$\Delta_0(A):=1$ とおく。

小行列式による不変因子の計算

$A$ を $n\times m$ 整数行列とし、$\Delta_k(A)\neq0$ となる最大の $k$ を $t$ とする。このとき $1\le k\le t$ について $\delta_k:=\Delta_k(A)/\Delta_{k-1}(A)$ は正の整数で $\delta_1\mid\delta_2\mid\cdots\mid\delta_t$ を満たし、
$$ \mathbb{Z}^n/A\mathbb{Z}^m\cong\mathbb{Z}^{n-t}\oplus\mathbb{Z}/\delta_1\mathbb{Z}\oplus\cdots\oplus\mathbb{Z}/\delta_t\mathbb{Z} $$
である。とくにこの群の階数は $n-t$ であり、不変因子は $\delta_1,\dots,\delta_t$ のうち $2$ 以上のものである。

Smith 標準形。有限生成加群 の記事の補題「有限行列のSmith標準形」を単項イデアル整域 $\mathbb{Z}$ に使うと、$U\in\mathrm{GL}_n(\mathbb{Z})$、$V\in\mathrm{GL}_m(\mathbb{Z})$ で、$D:=UAV$ の $(i,i)$ 成分 $\delta'_i$($1\le i\le s$)が $0$ でなく $\delta'_1\mid\cdots\mid\delta'_s$ を満たし、ほかの成分がすべて $0$ となるものがある。行に $-1$ を掛ける操作も $\mathrm{GL}_n(\mathbb{Z})$ の元なので、$\delta'_i>0$ としてよい。
小行列式は変わらない。lem-fgab-minors-combination により、$D$ の $k$ 次小行列式は $A$ の $k$ 次小行列式の整数係数の一次結合なので、$\Delta_k(A)$ は $\Delta_k(D)$ を割る。$A=U^{-1}DV^{-1}$ で $U^{-1},V^{-1}$ も整数行列なので逆も成り立ち、ともに $0$ 以上だから $\Delta_k(A)=\Delta_k(D)$ である。
$D$ の小行列式。$D$ の第 $i$ 行の $0$ でない成分は、$i\le s$ のときの $(i,i)$ 成分だけである。行の集合 $I$、列の集合 $J$($|I|=|J|=k$)からなる小行列式が $0$ でないためには、各 $i\in I$ について $i\le s$ かつ $i\in J$ でなければならず、$I=J\subset\{1,\dots,s\}$ となる。このとき小行列式は $\prod_{i\in I}\delta'_i$ である。$I=\{i_1< \cdots< i_k\}$ なら $i_a\ge a$ なので $\delta'_a\mid\delta'_{i_a}$ であり、$\prod_{i\in I}\delta'_i$ は $\delta'_1\cdots\delta'_k$($I=\{1,\dots,k\}$ の場合の小行列式)で割り切れる。よって $\Delta_k(D)=\delta'_1\cdots\delta'_k$($k\le s$)、$\Delta_k(D)=0$($k>s$)であり、$s=t$、$\delta'_k=\Delta_k/\Delta_{k-1}=\delta_k$ である。
剰余群の同型。thm-fgab-fundamental の証明の存在の段と同じく、$U$ は同型 $\mathbb{Z}^n/A\mathbb{Z}^m\cong\mathbb{Z}^n/D\mathbb{Z}^m=\mathbb{Z}^{n-t}\oplus\bigoplus_{k\le t}\mathbb{Z}/\delta_k\mathbb{Z}$ を誘導する。$\delta_k=1$ の因子は $0$ であり、残りは整除列なので、thm-fgab-fundamental の一意性によりそれが不変因子である。$\square$

$\Delta_k(A)$ は $A$ の行列式因子とも呼ばれる。この定理から、関係行列が違っても表示する群が同型なら、$t$ と $\delta_k$ のうち $2$ 以上のものは一致することが分かる。

部分格子の指数

$A$ を $n$ 次正方整数行列とする。$\det A\neq0$ なら $\mathbb{Z}^n/A\mathbb{Z}^n$ は位数 $|\det A|$ の有限群であり、$\det A=0$ なら無限群である。

$n$ 次小行列式は $\det A$ だけなので $\Delta_n(A)=|\det A|$ である。$\det A\neq0$ なら $t=n$ で、thm-fgab-minors により位数は $\delta_1\cdots\delta_n=\Delta_n(A)/\Delta_0(A)=|\det A|$ である。$\det A=0$ なら $t< n$ なので、階数 $n-t\ge1$ の直和因子 $\mathbb{Z}^{n-t}$ をもち無限群である。$\square$

$\mathbb{Z}^n$ の部分群 $L$ の基底を列に並べた行列を $A$ とすると、$|\det A|$ は $L$ の基底が張る平行体の体積なので、この系は「指数 $[\mathbb{Z}^n:L]$ は $L$ の基本平行体の体積に等しい」と言い換えられる。

小行列式による計算

$A=\begin{pmatrix}2&6\\4&8\end{pmatrix}$ の $1$ 次小行列式(成分)の最大公約数は $\Delta_1=2$、$\Delta_2=|2\cdot8-6\cdot4|=8$ なので、$\delta_1=2$、$\delta_2=4$ であり、$\mathbb{Z}^2/A\mathbb{Z}^2\cong\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}\oplus\mathbb{Z}/4\mathbb{Z}$(位数 $8=|\det A|$)である。ex-fgab-computation の関係行列 $A'=\begin{pmatrix}2&0\\2&4\\2&4\end{pmatrix}$ では $\Delta_1=2$、$2$ 次小行列式は $8,8,0$ なので $\Delta_2=8$、$t=2$ であり、$\mathbb{Z}^3/A'\mathbb{Z}^2\cong\mathbb{Z}\oplus\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}\oplus\mathbb{Z}/4\mathbb{Z}$ と、基底の取り替えで求めた結果に一致する。

反例の表

外す条件反例成り立たなくなること
有限生成$\mathbb{Q}$捩れのない群が $\mathbb{Z}^r$ と同型であること
有限生成$\mathbb{Q}/\mathbb{Z}$捩れ部分群が有限群であること
有限生成$\bigoplus_{i\in\mathbb{N}}\mathbb{Z}$ の左ずらし全射な自己準同型が同型であること
可換$\mathrm{GL}_2(\mathbb{Z})$ の位数 $2$ の元 $A,B$有限位数の元が部分群をなすこと
階数($\operatorname{rank}$)を生成元の最小個数 $\mu$ に替える$0\to\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}\to\mathbb{Z}/6\mathbb{Z}\to\mathbb{Z}/3\mathbb{Z}\to0$短完全列での加法性(thm-fgab-rank の 2)
$\det A\neq0$$A=\begin{pmatrix}1&1\\1&1\end{pmatrix}$指数が $\lvert\det A\rvert$ に等しいこと(cor-fgab-index)
不変因子の整除条件 $d_i\mid d_{i+1}$$\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}\oplus\mathbb{Z}/3\mathbb{Z}\cong\mathbb{Z}/6\mathbb{Z}$分解に現れる数の列が一意であること
反例の確認

1・2 行目は ex-fgab-non-examples。3 行目:$s(a_0,a_1,a_2,\dots):=(a_1,a_2,\dots)$ は全射準同型だが、$(1,0,0,\dots)$ を $0$ に移すので単射でない。有限生成アーベル群では全射な自己準同型はつねに同型である(有限生成加群 の記事の命題「有限生成加群の全射な自己準同型」)。4 行目は アーベル群 の記事の例「反例:非可換群では有限位数の元は部分群をなさない」で、$A,B$ は位数 $2$ だが $AB$ は無限位数である。5 行目:$1\mapsto3$ と法 $3$ への還元で完全列になり、$\mu(\mathbb{Z}/6\mathbb{Z})=1\neq\mu(\mathbb{Z}/2\mathbb{Z})+\mu(\mathbb{Z}/3\mathbb{Z})=2$ である(階数はすべて $0$ で加法性を満たす)。6 行目:$A\mathbb{Z}^2$ は $(1,1)$ で生成され、$(a,b)\mapsto a-b$ により $\mathbb{Z}^2/A\mathbb{Z}^2\cong\mathbb{Z}$ は無限群である。7 行目:同じ群が $(2,3)$ とも $(6)$ とも書けるので、整除条件を外すと数の列は一意でない。

関連項目

参考文献

[1]
David S. Dummit and Richard M. Foote, Abstract Algebra, 3rd ed., Wiley, 2004, §5.2 Theorem 3(有限生成アーベル群の基本定理、p. 158)・自由階数と不変因子の定義(p. 159);§12.1 Theorem 5・6・9(pp. 462–466)、Corollary 11(p. 468)、Exercise 4(p. 469)、Exercise 20(p. 471)

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