コンパクト空間の類似概念

同義語:variants of compactness

概要

コンパクト空間の類似概念(variants of compactness)とは、可算コンパクト・点列コンパクト・極限点コンパクト・擬コンパクト・Lindelöf・$\sigma$コンパクト・パラコンパクトなど、コンパクト性の条件を弱めたり、その帰結の一部だけを取り出したりして得られる位相空間の性質の総称である。一般の空間ではこれらは互いに異なり、$[0,\omega_1)$、$[0,1]^I$、穴あき Tychonoff の板などが逆向きの含意の反例になる。パラコンパクト空間では可算コンパクト性だけで、Hausdorff ならば擬コンパクト性だけでコンパクトになる。距離空間では、コンパクト・点列コンパクト・可算コンパクト・極限点コンパクト・擬コンパクトはすべて同値で、完備かつ全有界であることとも同値である。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: コンパクト空間, 開被覆, 可算コンパクト空間, 点列コンパクト空間

コンパクト空間 は「任意の開被覆が有限な部分被覆をもつ」という条件で定まる。この条件は、閉区間の上の連続関数が最大値をとること、点列が収束する部分列をもつこと、被覆を有限個に減らせることなど、いくつもの帰結をもつ。そのうちの一つだけを取り出したり、条件を弱めたりすると、コンパクト性に似た別の概念が得られる。可算個の開被覆だけを相手にする 可算コンパクト、点列の言葉で述べる 点列コンパクト、連続関数の有界性だけを要求する 擬コンパクト、有限を可算に緩めた Lindelöf などである。
この記事では、これらの概念を一か所に並べ、どれがどれを導くか、逆向きを回復するには何を仮定すればよいか、逆向きが成り立たないことをどの空間が示すかを表にまとめる。個々の概念の詳しい性質は、それぞれの記事にある。そのうえで、二つの場面で類似概念がコンパクト性と一致することを証明する。一つは パラコンパクト空間 で、可算コンパクト性(Hausdorff ならば擬コンパクト性)だけでコンパクトになる。もう一つは 距離化可能空間 で、可算コンパクト・点列コンパクト・極限点コンパクト・擬コンパクトがすべてコンパクトと同じになる。

定義

この記事では、分離公理を各概念の定義に含めない。ただし局所コンパクト性だけは 局所コンパクト空間 の記事に合わせて Hausdorff 性を含める。$X$ を位相空間とする。点 $p\in X$ が点列 $(x_n)$ の 集積点 であるとは、$p$ の任意の近傍が無限個の $n$ について $x_n$ を含むことをいう。部分集合の族が 局所有限 であるとは、各点がその族の有限個の成員としか交わらない近傍をもつことをいう。

コンパクト性の類似概念

位相空間 $X$ について、次のように定める。

  1. コンパクト:任意の開被覆が有限な部分被覆をもつ。
  2. 可算コンパクト(countably compact):任意の高々可算な開被覆が有限な部分被覆をもつ。
  3. 点列コンパクト(sequentially compact):任意の点列が、$X$ の点に収束する部分列をもつ。
  4. 極限点コンパクト(limit point compact):任意の無限部分集合 $A$ が集積点(任意の近傍が $A$ の自分以外の点を含む点)をもつ。
  5. 擬コンパクト(pseudocompact):任意の連続関数 $f\colon X\to\mathbb{R}$ が有界である。
  6. Lindelöf:任意の開被覆が高々可算な部分被覆をもつ。
  7. $\sigma$コンパクト($\sigma$-compact):可算個のコンパクト部分集合の和集合である。
  8. 局所コンパクト(locally compact):Hausdorff であり、各点がコンパクトな近傍をもつ。
  9. パラコンパクト(paracompact):任意の開被覆が局所有限な開細分(各成員がある被覆の成員に含まれる開被覆)をもつ。

それぞれの詳しい扱いは コンパクト空間・可算コンパクト空間・点列コンパクト空間・擬コンパクト空間・Lindelöf空間・局所コンパクト空間・パラコンパクト空間 にある。極限点コンパクト性は 点列コンパクト空間 の注意「極限点コンパクト性との関係」、$\sigma$コンパクト性は Lindelöf空間 の定義「可算個のコンパクト集合で覆えること」で定義されている。

分離公理についての流儀

Engelking89 §3.10 は、可算コンパクト空間を Hausdorff 空間に限って定義し(p. 202)、擬コンパクト空間を Tychonoff 空間に限って定義する(p. 206)。パラコンパクト空間も Hausdorff を含めて定義する(§5.1)。この記事の定義は分離公理を含めないので、文献の定理を引くときは、分離公理が仮定の中に隠れていないかを確かめる必要がある。たとえば「擬コンパクトな正規空間は可算コンパクト」(Engelking89 Theorem 3.10.21)は、この記事の流儀では $T_1$ 性と Tychonoff 性を明示した形で読む(擬コンパクト空間 の定理「正規空間における一致」)。

直感

コンパクト性は「無限に広がるものを、有限の情報で押さえられる」という条件である。類似概念は、何を押さえるかによって分かれる。

  • 被覆の大きさを測るもの:可算コンパクトは「可算な被覆なら有限に減らせる」、Lindelöf は「どんな被覆も可算に減らせる」。両方そろえばコンパクトになる。
  • 点列を測るもの:点列コンパクトは収束する部分列を、可算コンパクトは集積点を要求する。近傍が可算個で記述できる空間(第1可算公理 を満たす空間)では両者は同じだが、近傍が多すぎる空間では、集積点はあっても収束する部分列がないことがある。
  • 関数を測るもの:擬コンパクトは連続関数の有界性だけを要求する。連続関数が少ない空間では、この条件は弱すぎて被覆についての情報を復元できない。
  • 局所的なもの:局所コンパクト・パラコンパクトは、空間全体ではなく各点の近くで有限性を要求する。

含意の地図

類似概念の間の含意

位相空間について、次の含意が成り立つ。

  1. コンパクト $\Rightarrow$ 可算コンパクト $\Rightarrow$ 擬コンパクト。
  2. 点列コンパクト $\Rightarrow$ 可算コンパクト $\Rightarrow$ 極限点コンパクト。
  3. コンパクト $\Rightarrow$ $\sigma$コンパクト $\Rightarrow$ Lindelöf。
  4. コンパクト $\Rightarrow$ パラコンパクト。

1 の前半は定義から従い、後半は 擬コンパクト空間 の命題「可算コンパクト空間は擬コンパクト」である。2 の前半は 可算コンパクト空間 の命題「点列コンパクト空間は可算コンパクト」、後半は 点列コンパクト空間 の命題「可算コンパクト性と極限点コンパクト性」の 1 である。3 の前半は定義から(コンパクト空間自身を 1 個並べればよい)、後半は Lindelöf空間 の命題「可算個のコンパクト集合で覆えればよいこと」である。4 は、開被覆の有限な部分被覆がそれ自身局所有限な開細分であることから従う。$\square$

逆向きの含意はどれも一般には成り立たないが、追加の仮定のもとでは回復する。次の表にまとめる。最後の列の空間が、逆向きが一般には成り立たないことを示す。

含意逆向きを回復する仮定逆向きの所在逆向きが成り立たない例
コンパクト ⇒ 可算コンパクトLindelöf可算コンパクト空間 の命題「Lindelöf かつ可算コンパクトならコンパクト」$[0,\omega_1)$
コンパクト ⇒ 可算コンパクトパラコンパクトthm-voc-paracompact$[0,\omega_1)$
点列コンパクト ⇒ 可算コンパクト第1可算点列コンパクト空間 の命題「第1可算空間での言い換え」$[0,1]^I$
可算コンパクト ⇒ 極限点コンパクト$T_1$点列コンパクト空間 の命題「可算コンパクト性と極限点コンパクト性」の 2同記事の注意「反例:$T_1$ でない極限点コンパクト空間」
可算コンパクト ⇒ 擬コンパクト$T_1$ かつ正規擬コンパクト空間 の定理「正規空間における一致」穴あき Tychonoff の板 $T_\ast$
$\sigma$コンパクト ⇒ Lindelöf局所コンパクト表の直後の段落Sorgenfrey直線
コンパクト ⇒ Lindelöf可算コンパクト1 行目と同じ$\mathbb{R}$

ここで $[0,\omega_1)$ は可算順序数全体に順序位相を入れた空間、$[0,1]^I$ は $I=\{0,1\}^{\mathbb{N}}$ を添字集合とする直積空間(点列コンパクト空間 の例「反例:コンパクトだが点列コンパクトでない空間」)、$T_\ast$ は Tychonoffの板 の定義「Tychonoffの板」の穴あき Tychonoff の板である。Sorgenfrey 直線が Lindelöf であることと $\sigma$コンパクトでないことは、Sorgenfrey直線 の命題「任意の部分空間のLindelöf性」と系「コンパクト性の各種条件の不成立」にある。6 行目の「局所コンパクトな Lindelöf 空間は $\sigma$コンパクト」は、各点のコンパクト近傍の内部からなる開被覆に可算な部分被覆をとれば、対応する可算個のコンパクト近傍が全体を覆うことから従う。
コンパクトと点列コンパクトの間には、どちら向きの含意もない。$[0,1]^I$ はコンパクトだが点列コンパクトでなく、$[0,\omega_1)$ は点列コンパクトだがコンパクトでない(点列コンパクト空間 の例「反例:点列コンパクトだがコンパクトでない空間」)。

パラコンパクト空間での一致

パラコンパクト性は「開被覆を局所有限に細分できる」という条件だった。可算コンパクト空間では局所有限な族が有限しかないので、局所有限な細分がそのまま有限な被覆になる。

可算コンパクト空間の局所有限な族

$X$ を可算コンパクト空間とする。$X$ の空でない部分集合からなる局所有限な族は有限である。

$\mathcal{A}$ を空でない部分集合からなる局所有限な族とし、無限であると仮定する。相異なる成員 $A_1,A_2,\dots\in\mathcal{A}$ をとり、点 $x_n\in A_n$ を選ぶ(可算個の選択を使う)。$X$ は可算コンパクトなので、点列 $(x_n)$ は集積点 $p$ をもつ(可算コンパクト空間 の定理「閉集合と点列による特徴づけ」の 3)。局所有限性により、$p$ の近傍 $N$ で、$\mathcal{A}$ の有限個の成員としか交わらないものがある。一方 $p$ は集積点なので、$N$ は無限個の $n$ について $x_n$ を含み、そのような $n$ について $N\cap A_n\ni x_n$ である。$A_n$ は相異なるので、$N$ は $\mathcal{A}$ の無限個の成員と交わる。これは $N$ の取り方に反する。$\square$

パラコンパクトかつ可算コンパクトならコンパクト

$X$ をパラコンパクト空間とする。

  1. $X$ が可算コンパクトならば、$X$ はコンパクトである。
  2. $X$ が Hausdorff かつ擬コンパクトならば、$X$ はコンパクトである。
  1. $\mathcal{U}$ を $X$ の開被覆とし、パラコンパクト性により局所有限な開細分 $\mathcal{V}$ をとる。$\mathcal{V}$ から空集合を除いても、局所有限な開細分であることは変わらない。lem-voc-locally-finite により、空でない成員だけからなる $\mathcal{V}$ は有限であり、$\mathcal{V}=\{V_1,\dots,V_k\}$ と書ける。細分の定義により $V_i\subset U_i$ となる $U_i\in\mathcal{U}$ を選ぶと、$X=V_1\cup\dots\cup V_k\subset U_1\cup\dots\cup U_k$ なので、$U_1,\dots,U_k$ は $\mathcal{U}$ の有限な部分被覆である。
  2. パラコンパクト Hausdorff 空間は、正規性条件を満たし(パラコンパクト空間 の命題「正則性と正規性」)、Hausdorff なので $T_1$ でもある。したがって $X$ は $T_1$ かつ正規であり、擬コンパクト空間 の定理「正規空間における一致」により、擬コンパクトな $X$ は可算コンパクトである。1 により $X$ はコンパクトである。$\square$

この定理は Engelking89 Theorem 5.1.20(p. 306)にある(Engelking はパラコンパクト空間と可算コンパクト空間を Hausdorff として定義するが、1 の証明は分離公理を使わない)。対偶として、可算コンパクトだがコンパクトでない空間はパラコンパクトでない。たとえば $[0,\omega_1)$ はパラコンパクトでない(Engelking89 Example 5.1.21)。また穴あき Tychonoff の板 $T_\ast$ は Hausdorff かつ擬コンパクト(ex-voc-plank)だがコンパクトでないので、2 によりパラコンパクトでない。

距離化可能空間での一致

距離空間では、コンパクト性の類似概念のうち被覆と点列と関数についてのものがすべて一致する。証明の新しい部分は、擬コンパクトな距離空間が点列コンパクトであることを、Tietzeの拡張定理 を使わずに有界でない連続関数を直接作って示すところにある。

距離空間でのコンパクト性の一致

$(X,d)$ を距離空間とする。次の 6 条件は同値である。

  1. $X$ はコンパクトである。
  2. $X$ は点列コンパクトである。
  3. $X$ は可算コンパクトである。
  4. $X$ は極限点コンパクトである。
  5. $X$ は擬コンパクトである。
  6. $(X,d)$ は完備かつ全有界である。
    1〜5 は位相だけで決まる条件なので、距離化可能空間 についても 1〜5 は同値である。

1・2・3 の同値は 点列コンパクト空間 の定理「距離空間における同値性」である。3 ⇒ 4 は 点列コンパクト空間 の命題「可算コンパクト性と極限点コンパクト性」の 1、4 ⇒ 3 は同じ命題の 2 である(距離空間は Hausdorff なので $T_1$)。1 と 6 の同値は 全有界 の定理「コンパクト性との関係」である。3 ⇒ 5 は 擬コンパクト空間 の命題「可算コンパクト空間は擬コンパクト」である。
5 ⇒ 2 を対偶で示す。$X$ が点列コンパクトでないとし、収束する部分列をもたない点列 $(x_n)_{n\ge1}$ をとる。
(相異なる点に取り替える)ある点が無限回現れるなら、その点だけからなる定数の部分列が収束してしまう。よって各点は有限回しか現れず、部分列に取り替えて $x_n$ は相異なるとしてよい。部分列の部分列は元の点列の部分列なので、取り替えた後の点列も収束する部分列をもたない。
(孤立した間隔)各 $n$ について $\delta_n:=\inf_{m\ne n}d(x_n,x_m)>0$ である。実際 $\delta_n=0$ なら、各 $k$ について $d(x_n,x_m)<1/k$ となる $m\ne n$ が無限個ある(点は相異なり、各距離は正だから、有限個なら最小値が正になる)。そこで $m_1< m_2<\cdots$ を $d(x_n,x_{m_k})<1/k$ となるように順にとれば、部分列 $(x_{m_k})$ が $x_n$ に収束し、仮定に反する。
(互いに素な球)$\varepsilon_n:=\min\{\delta_n/3,\ 1/n\}$ とおき、$B_n:=\{x\in X\mid d(x,x_n)<\varepsilon_n\}$ とする。$n\ne m$ で $y\in B_n\cap B_m$ なら $d(x_n,x_m)<\varepsilon_n+\varepsilon_m\le(\delta_n+\delta_m)/3\le\tfrac23d(x_n,x_m)$ となり矛盾するので、$B_n$ は互いに素である。
(局所有限性)族 $\{B_n\}$ が局所有限であることを示す。そうでない点 $y$ があると、各 $k$ について球 $\{x\mid d(x,y)<1/k\}$ は無限個の $B_n$ と交わるので、$n_1< n_2<\cdots$ と点 $y_k\in B_{n_k}$ を $d(y_k,y)<1/k$ となるようにとれる。すると
$$ d(x_{n_k},y)\le d(x_{n_k},y_k)+d(y_k,y)<\varepsilon_{n_k}+\frac1k\le\frac1{n_k}+\frac1k\to0 $$
となり、部分列 $(x_{n_k})$ が $y$ に収束して仮定に反する。
(有界でない関数)$\varphi_n(x):=\max\{0,\ 1-d(x,x_n)/\varepsilon_n\}$ とおく。$\varphi_n$ は連続で、$B_n$ の外では $0$、$\varphi_n(x_n)=1$ である。$f:=\sum_{n\ge1}n\varphi_n$ と定める。各点 $y$ は有限個の $B_n$ としか交わらない開近傍 $W$ をもち、$W$ の上で $f$ は有限個の連続関数の和なので、$f$ は実数値で $W$ の上で連続である。こうした $W$ が $X$ を覆うので $f$ は連続である。$B_n$ は互いに素なので $m\ne n$ なら $\varphi_m(x_n)=0$ であり、$f(x_n)=n$ となる。よって $f$ は有界でなく、$X$ は擬コンパクトでない。$\square$

5 ⇒ 3 だけなら、距離空間が正規であること(正規空間 の定理「距離空間は正規」)と 擬コンパクト空間 の定理「正規空間における一致」からも従う。その証明は Tietze の拡張定理を引用して有界でない関数を延ばすが、上の証明は関数を球の上の山形の関数の和として書き下す。1・2・3 の同値は Engelking89 Theorem 4.1.17(p. 256)にあり、その直後に、5 もこの同値な条件に加えられることが注意されている。
条件 6 だけは距離 $d$ に依存する。$\mathbb{R}$ と開区間 $(0,1)$ は同相だが、通常の距離について $\mathbb{R}$ は完備で全有界でなく、$(0,1)$ は全有界で完備でない(全有界 の注意「全有界性は位相的性質でない」)。どちらもコンパクトでないので、6 の二つの条件は片方だけでは足りない。
距離化可能空間では、Lindelöf 性は可分性(可分空間)・第2可算性(第2可算公理)と同値になる(第2可算公理 の定理「距離空間における同値性」)。したがって距離化可能空間では、被覆・点列・関数についての類似概念(thm-voc-metric の 1〜5)はコンパクト性に、可分性・第2可算性は Lindelöf 性にまとまる。

例の比較

表に使う空間のうち、穴あき Tychonoff の板だけは性質を一つずつ確かめる。この空間は「擬コンパクトだが可算コンパクトでない Hausdorff 空間」の例であり、擬コンパクト空間 の記事の例(余可算位相、Hausdorff でない)とは違って Tychonoff 空間である。

穴あき Tychonoff の板

$T:=[0,\omega_1]\times[0,\omega]$ に直積位相(各因子は順序位相)を入れ、$T_\ast:=T\setminus\{(\omega_1,\omega)\}$ とする。$T_\ast$ は Tychonoff 空間で、擬コンパクトだが、可算コンパクトでも Lindelöf でもない。

(Tychonoff)Tychonoffの板 の命題「板と穴あきの板の性質」の 2 による。
(擬コンパクト)連続関数 $f\colon T_\ast\to\mathbb{R}$ は、Tychonoffの板 の定理「隅への延長」により連続関数 $F\colon T\to\mathbb{R}$ に延びる。$T$ はコンパクトなので(同記事の命題「板と穴あきの板の性質」の 1)、$F(T)$ は $\mathbb{R}$ のコンパクト集合で有界である(コンパクト空間 の命題「保存と閉性」の 2)。よって $f=F|_{T_\ast}$ は有界である。
(可算コンパクトでない)右の辺 $A:=\{\omega_1\}\times[0,\omega)$ は $T_\ast$ の閉集合である(同記事の命題「板と穴あきの板の性質」の 3)。$n<\omega$ は $[0,\omega]$ の孤立点なので $[0,\omega_1]\times\{n\}$ は $T$ の開集合であり、それと $A$ の共通部分は $\{(\omega_1,n)\}$ だけである。よって $A$ は無限個の点からなる閉かつ離散な部分集合であり、可算コンパクト空間 の命題「閉離散部分集合は有限」により $T_\ast$ は可算コンパクトでない。
(Lindelöf でない)上の辺 $B:=[0,\omega_1)\times\{\omega\}$ も $T_\ast$ の閉集合である(同じ命題の 3)。写像 $\alpha\mapsto(\alpha,\omega)$ は $[0,\omega_1)$ から $B$ への同相写像である(直積の切り口は因子と同相であり、$[0,\omega_1]$ の部分空間 $[0,\omega_1)$ の位相は順序位相と一致する。可算コンパクト空間 の例「反例:閉でない可算コンパクト部分空間」の直後の段落)。$[0,\omega_1)$ は可算コンパクトだがコンパクトでないので、可算コンパクト空間 の命題「Lindelöf かつ可算コンパクトならコンパクト」により Lindelöf でない。Lindelöf 空間の閉部分空間は Lindelöf なので(Lindelöf空間 の命題「閉部分空間への遺伝」)、$T_\ast$ は Lindelöf でない。$\square$

代表的な空間について、五つの性質を比べる。○は成り立つこと、×は成り立たないことを表す。

空間コンパクト可算コンパクト点列コンパクト擬コンパクトLindelöf根拠
$[0,1]$○○○○○コンパクト空間 の定理「有界閉集合とコンパクト性の一致」と thm-voc-metric
$\mathbb{R}$××××○恒等写像が有界でない連続関数。$\sigma$コンパクト
$(0,1)$××××○$1/x$ が有界でない連続関数。$\mathbb{R}$ と同相
$[0,\omega_1)$×○○○×点列コンパクト空間 の例「反例:点列コンパクトだがコンパクトでない空間」
$[0,1]^I$($I=\{0,1\}^{\mathbb{N}}$)○○×○○点列コンパクト空間 の例「反例:コンパクトだが点列コンパクトでない空間」
穴あき Tychonoff の板 $T_\ast$×××○×ex-voc-plank
非可算集合の余可算位相×××○○擬コンパクト空間 の命題「余可算位相の空間は擬コンパクト」「余可算位相の空間は可算コンパクトでない」

最後の行の Lindelöf 性は次のように分かる。開被覆から空でない成員 $U$ を一つ選ぶと、$X\setminus U$ は可算なので、その各点を覆う成員を一つずつ加えれば可算な部分被覆になる。各行の残りの欄は prop-voc-implications から従う。たとえば $[0,\omega_1)$ が擬コンパクトなのは可算コンパクトだからであり、$T_\ast$ が点列コンパクトでないのは可算コンパクトでないからである。

操作で保たれるか

性質閉部分空間連続写像による像2 個の直積
コンパクト○○○
可算コンパクト○○×
点列コンパクト○○○
擬コンパクト×○×
Lindelöf○○×

根拠は次のとおりである。コンパクトの行は コンパクト空間 の命題「保存と閉性」と Tychonoffの定理 による。可算コンパクトの行は 可算コンパクト空間 の命題「コンパクト空間は可算コンパクト」(後半が閉部分空間)、命題「連続像は可算コンパクト」、注意「可算コンパクト空間どうしの直積」による。点列コンパクトの行は 点列コンパクト空間 の命題「閉部分集合と連続像」「可算個の直積」による。擬コンパクトの行は 擬コンパクト空間 の例「反例:擬コンパクト空間の閉離散部分空間」と例「擬コンパクト空間の連続像」、および Engelking89 §3.10(p. 208。Example 3.10.19 の二つの空間はどちらも擬コンパクトだが、直積は擬コンパクトでない)による。この記事では最後の例を証明しない。Lindelöf の行は Lindelöf空間 の命題「閉部分空間への遺伝」と注意「反例:Lindelöf性は直積で保たれない」による。Lindelöf 性が連続像で保たれることは、像の開被覆を逆像で引き戻し、可算な部分被覆をとって像へ戻せばよい。
直積の列では、コンパクト性だけが任意個の直積で保たれ、点列コンパクト性は可算個まで(非可算個では $[0,1]^I$ が反例)、ほかの三つは 2 個でも保たれない。一方の因子をコンパクトにすれば、可算コンパクト性は保たれる(可算コンパクト空間 の命題「コンパクト空間との直積」)。

反例の表

二つの定理の仮定を一つずつ外すと、次の空間が反例になる。

外す条件反例成り立たなくなること
パラコンパクト(thm-voc-paracompact の 1)$[0,\omega_1)$可算コンパクトならコンパクト
可算コンパクト(thm-voc-paracompact の 1)$\mathbb{R}$(距離空間なのでパラコンパクト)パラコンパクトならコンパクト
パラコンパクト(thm-voc-paracompact の 2)穴あき Tychonoff の板 $T_\ast$Hausdorff かつ擬コンパクトならコンパクト
距離化可能(thm-voc-metric の 2 ⇒ 1)$[0,\omega_1)$点列コンパクトならコンパクト
距離化可能(thm-voc-metric の 1 ⇒ 2)$[0,1]^I$コンパクトなら点列コンパクト
距離化可能(thm-voc-metric の 5 ⇒ 3)穴あき Tychonoff の板 $T_\ast$擬コンパクトなら可算コンパクト

2 行目で $\mathbb{R}$ がパラコンパクトであることは、パラコンパクト空間 の定理「Stone の定理」(距離空間はパラコンパクト)による。$[0,\omega_1)$・$[0,1]^I$・$T_\ast$ はどれも Hausdorff であり($[0,1]^I$ はコンパクト Hausdorff、$[0,\omega_1)$ は順序位相の空間)、距離化可能でないことは表のそれぞれの行から thm-voc-metric によって分かる。

補足

点列からネットへ

可算コンパクト性は「任意の点列が集積点をもつ」ことと同値だった(可算コンパクト空間 の定理「閉集合と点列による特徴づけ」)。点列をネットに替えると、コンパクト性は「任意のネットが集積点をもつ」ことと同値になる(ネット の定理「コンパクト性のネットによる特徴づけ」)。点列コンパクト性はこれを「点列が収束する部分列をもつ」と読み替えたもので、部分列は部分ネットより制限が強いので、コンパクト性とも可算コンパクト性とも一致しない。点列で位相を記述しきれない空間ではこのずれが現れ、$[0,1]^I$ はその典型である。

擬コンパクト性と連続関数の多さ

擬コンパクト性は連続関数を通してしか空間を見ないので、連続関数の少ない空間では弱すぎる。非可算集合の余可算位相の空間では連続関数が定数しかない(擬コンパクト空間 の命題「余可算位相の空間は擬コンパクト」)。逆に、連続関数が十分多い空間($T_1$ かつ正規、あるいは距離化可能)では、擬コンパクト性から被覆についての情報が復元される。Tychonoff 空間 $X$ では、擬コンパクト性は空でない開集合からなる局所有限な族がすべて有限であることと同値である(擬コンパクト空間 の命題「局所有限な開集合族」)。lem-voc-locally-finite と比べると、可算コンパクト性は任意の部分集合の族について、擬コンパクト性は開集合の族についてだけ、同じ有限性を要求していることになる。

関連項目

参考文献

[1]
Ryszard Engelking, General Topology, Sigma Series in Pure Mathematics 6, Heldermann Verlag, 1989, §3.10(p. 202 可算コンパクト空間の定義、p. 206 擬コンパクト空間の定義・Theorem 3.10.21、p. 208 擬コンパクト性は有限直積で保たれないこと)、Theorem 4.1.17(p. 256)、§5.1・Theorem 5.1.20(p. 306)・Example 5.1.21

Mathpediaは寄付と、参考文献の書籍リンク(Amazonアソシエイト)の紹介料で運営されています。 支援について / 寄付する