局所完全交叉射

同義語:局所完全交差射local complete intersection morphismlci射

概要

局所完全交叉射(local complete intersection morphism)とは、局所 Noether スキーム $Y$ への局所有限型の射 $f\colon X\to Y$ であって、各点の近くでアフィン空間 $\mathbb{A}^n_Y$ への埋め込みとして正則列で切り出せるものをいう。この性質はアフィン空間への局所的な埋め込みの選び方によらず、正則埋め込みと滑らかな射を含み、合成と平坦な底変換で閉じる。体上では各点の局所環が完全交叉局所環であることと同値で、平坦な射ではファイバーで判定できる。特異点をもつ超曲面も含む広い族で、仮想相対次元が定まり、準射影的なら相対標準層も定まって、双対性の理論が滑らかな射の外へ広がる場になる。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 正則埋め込み, 有限型射, 滑らかな射, 完全交叉局所環, Kähler微分

局所完全交叉射(lci 射)は、局所的に「アフィン空間の中で正則列によって切り出される」射である。滑らかな射と正則埋め込みをともに含み、合成と平坦な底変換で閉じ、しかも特異点をもつ超曲面のような滑らかでないものまで含む。体上では、局所環がすべて完全交叉局所環であることと同値になる。lci 射では仮想相対次元や相対標準層が定まり、滑らかな射で知られた双対性の理論の一部がその外まで広がる。
この記事では、アフィン空間への局所的な埋め込み(局所表示)を使って lci 射を定義し、それが表示の選び方によらないことを証明する。次に、合成と平坦な底変換で閉じること、体上では局所環の完全交叉性で判定できること、平坦な射ではファイバーで判定できることを示す。

定義

以下、$Y$ は局所Noetherスキーム、$f\colon X\to Y$ は局所有限型の射とする。埋め込み、正則埋め込みの言葉は 正則埋め込み の定義のとおりである。

局所表示

$x\in X$ における $f$ の局所表示とは、$x$ の開近傍 $U$、$Y$ の開集合 $V\supset f(U)$、整数 $n\ge0$ と、$V$ 上の埋め込み $j\colon U\to\mathbb{A}^n_V$(射影と合成すると $f|_U$ になるもの)の組をいう。

局所表示はいつも存在する。$x$ のアフィン開近傍 $U=\operatorname{Spec}C$ を $f(U)$ が $Y$ のアフィン開集合 $V=\operatorname{Spec}A$ に入るようにとると、$C$ は有限生成 $A$ 代数なので $C\cong A[T_1,\dots,T_n]/I$ と書け、閉埋め込み $U\to\mathbb{A}^n_V$ が得られる。

局所完全交叉射

$f$ が $x$ で局所完全交叉(local complete intersection, lci)であるとは、$x$ における局所表示 $j\colon U\to\mathbb{A}^n_V$ で、$j$ が $x$ で正則埋め込みであるものが存在することをいう。$X$ のすべての点で局所完全交叉であるとき、$f$ を局所完全交叉射(lci 射)という。

$j$ が $x$ で余次元 $c$ のとき、整数 $n-c$ を $f$ の $x$ における仮想相対次元という。下の thm-lci-independent により、この値も局所表示によらない。

表示によらないこと

lci の定義は「ある局所表示が正則」という形だが、実はどの局所表示も正則になる。証明の鍵は次の補題である。

正則列で生成されるイデアルの生成系

$(Q,\mathfrak m)$ を Noether 局所環、$K\subset\mathfrak m$ を長さ $\mu$ の正則列で生成されるイデアルとする。

  1. $\mu=\dim_{Q/\mathfrak m}K/\mathfrak mK$ であり、$K$ の極小生成系はどれも(この順で)正則列である。
  2. $b_1,\dots,b_m\in K$ の $K/\mathfrak mK$ での像が一次独立なら、$b_1,\dots,b_m$ は正則列であり、$K/(b_1,\dots,b_m)$ は $Q/(b_1,\dots,b_m)$ の長さ $\mu-m$ の正則列で生成される。
Koszul 複体の不変性
  1. $K$ を生成する正則列を $a=(a_1,\dots,a_\mu)$ とする。正則埋め込み の補題「正則列の余法加群」により $K/K^2$ は階数 $\mu$ の自由 $Q/K$ 加群で、$K^2\subset\mathfrak mK$ なので $\dim K/\mathfrak mK=\mu$ である。中山の補題により極小生成系 $g=(g_1,\dots,g_\mu)$ は $\mu$ 個の元からなり、$g=Ca$($C\in M_\mu(Q)$)と書ける。$a,g$ の像はともに $K/\mathfrak mK$ の基底なので $C$ の剰余体への像は可逆であり、$\det C\notin\mathfrak m$ だから $C$ は可逆である。Koszul 複体 $K_\bullet(x)$ は線形形式 $Q^\mu\to Q$、$e_i\mapsto x_i$ の外積代数として定まるので、$Q^\mu$ の自己同型 ${}^tC$ の外積べきが複体の同型 $K_\bullet(g)\cong K_\bullet(a)$ を与える。Koszul複体 の定理「正則列のKoszulホモロジー」により $H_1(K_\bullet(a))=0$、よって $H_1(K_\bullet(g))=0$ であり、$Q/(g)=Q/K\ne0$ だから同じ記事の定理「局所環での一次ホモロジー判定」により $g$ はこの順で正則列である。
  2. $b_1,\dots,b_m$ の像を $K/\mathfrak mK$ の基底に延長し、延長分を $c_1,\dots,c_{\mu-m}\in K$ に持ち上げる。中山の補題により $(b,c)$ は $K$ の極小生成系なので、1 により $(b_1,\dots,b_m,c_1,\dots,c_{\mu-m})$ は正則列である。正則列 の命題「初期部分と連結」により $b$ は正則列で、$c$ の像は $Q/(b)$ の正則列であり、$K/(b)$ を生成する。$\square$
局所表示によらないこと

$f$ が $x$ で局所完全交叉なら、$x$ における任意の局所表示 $j\colon U\to\mathbb{A}^n_V$ は $x$ で正則埋め込みである。さらに $n$ から $j$ の $x$ での余次元を引いた値は局所表示によらない。

二つの表示を積の表示で比べる

二つの局所表示 $j_1\colon U\to\mathbb{A}^n_V$、$j_2\colon U'\to\mathbb{A}^m_{V'}$ を比べる。埋め込みを開集合に制限しても埋め込みで、局所環は変わらないので、$U=U'=\operatorname{Spec}C$、$V=V'=\operatorname{Spec}A$ はアフィンとしてよい。$j_1,j_2$ は $C$ の元 $s_1,\dots,s_n$ と $u_1,\dots,u_m$ で与えられる。$j_3:=(j_1,j_2)\colon U\to\mathbb{A}^{n+m}_V$ は、$U$ から $U\times_V\mathbb{A}^m_V$ へのグラフ(分離射 $\mathbb{A}^m_V\to V$ への射のグラフなので閉埋め込み)と、埋め込み $j_1\times\mathrm{id}$ との合成なので埋め込みである。$j_1$ と $j_3$ について「$x$ で正則」が同値で、余次元の差が $m$ であることを示せばよい。$j_2$ と $j_3$ についても同じ議論で同値になる。
$P:=\mathcal{O}_{\mathbb{A}^n_V,j_1(x)}$、$O:=\mathcal{O}_{X,x}$ とし、全射 $P\to O$ の核を $I$ とする。$Q:=\mathcal{O}_{\mathbb{A}^{n+m}_V,j_3(x)}$ は $P[U_1,\dots,U_m]$ を $\mathfrak m_P$ の上にある素イデアルで局所化した環で、全射 $Q\to O$($U_l\mapsto u_l$)の核を $K$ とする。$P\to O$ は全射なので、$h_l\in P$ で $O$ での像が $u_l$ になるものがとれる。$P[U]/(U_1-h_1,\dots,U_m-h_m)\cong P$ であり、これを局所化すると $O$ への写像と両立する同型 $Q/(U-h)Q\cong P$ を得る。よって
$$ K=(U_1-h_1,\dots,U_m-h_m)+IQ,\qquad K/(U-h)Q\cong I $$
である。$P[U_1,\dots,U_m]/(U_1-h_1,\dots,U_{l-1}-h_{l-1})\cong P[U_l,\dots,U_m]$ において $U_l-h_l$ は $U_l$ について最高次係数 $1$ の 1 次式なので非零因子であり、最後の商の局所化は $P\ne0$ だから、正則列 の命題「正則列の局所化」により $U_1-h_1,\dots,U_m-h_m$ は $Q$ の正則列である。
$I$ が $P$ の長さ $c$ の正則列 $a$ で生成されるなら、$K$ は $(U-h,a)$ で生成され、$a$ の像は $Q/(U-h)\cong P$ の正則列なので、$K$ は長さ $c+m$ の正則列で生成される。
逆に $K$ が正則列で生成されるとする。微分 $d\colon Q\to\Omega_{Q/P}$ は、Kähler微分 の命題「多項式環の微分加群」と「局所化との交換」により $dU_1,\dots,dU_m$ を基底とする自由加群への写像で、同じ記事の命題「第2基本完全列」の写像 $K/K^2\to\Omega_{Q/P}\otimes_QO$ は $U_l-h_l$ を $dU_l\otimes1$ に写す($h_l\in P$ なので $dh_l=0$)。これを剰余体とテンソルすると、$U_l-h_l$ の $K/\mathfrak m_QK$ での像は基底 $dU_l\otimes1$ に写るので一次独立である。lem-lci-generators の 2 により $I\cong K/(U-h)$ は $P$ の正則列で生成され、その長さは $K$ の生成列の長さより $m$ 小さい。$\square$

埋め込みと lci

埋め込み $f\colon X\to Y$ が $x$ で局所完全交叉であることと、$f$ が $x$ で正則埋め込みであることは同値である。

$f$ 自身が $n=0$ の局所表示 $X\to\mathbb{A}^0_Y=Y$ なので、thm-lci-independent から従う。$\square$

体上の判定

$k$ を体、$X$ を $k$ 上局所有限型のスキームとする。構造射 $X\to\operatorname{Spec}k$ が $x$ で局所完全交叉であることと、$\mathcal{O}_{X,x}$ が完全交叉局所環であることは同値である。

局所表示 $U\to\mathbb{A}^n_k$ をとり、$P:=\mathcal{O}_{\mathbb{A}^n_k,x}$ とする。$P$ は体上の多項式環の素イデアルによる局所化なので正則局所環である(Cohen–Macaulay環 の補題「体上の多項式環の素局所環」)。$\mathcal{O}_{X,x}=P/I$ であり、完全交叉局所環 の補題「正則表示に依存しない核の判定」により、$P/I$ が完全交叉局所環であることと $I$ が正則列で生成されることは同値である。$\square$

合成と底変換

lci 射の安定性

$Y,Z$ を局所 Noether スキームとする。

  1. 正則埋め込みは lci 射である。滑らかな射も lci 射である。
  2. $f\colon X\to Y$ が $x$ で局所完全交叉、$g\colon Y\to Z$ が $f(x)$ で局所完全交叉なら、$g\circ f$ は $x$ で局所完全交叉である。
  3. $f\colon X\to Y$ が $x$ で局所完全交叉、$u\colon Y'\to Y$ が平坦で $Y'$ が局所 Noether なら、$X':=X\times_YY'\to Y'$ は $x$ の上の各点 $x'$ で局所完全交叉である。
局所表示の合成と底変換
  1. 正則埋め込みは cor-lci-immersion による。滑らかな射が局所的に $\mathbb{A}^n_Y$ への正則埋め込みと射影の合成に分かれることは Liu06 注意 6.3.19(命題 6.3.13 による)にあり、この記事では証明しない。
  2. $y=f(x)$、$z=g(y)$ とする。$g$ の $y$ における局所表示 $j'\colon V_Y\to\mathbb{A}^m_W$($W\subset Z$ 開)で $y$ で正則なものと、$f$ の $x$ における局所表示 $j\colon U\to\mathbb{A}^n_V$ で $x$ で正則なものをとる。$V$ を $V\cap V_Y$ に、$U$ を $U\cap f^{-1}(V_Y)$ に取り替えてよい(埋め込みを開集合に制限しても正則性は変わらない)。射影 $\mathbb{A}^{n+m}_W=\mathbb{A}^m_W\times_W\mathbb{A}^n_W\to\mathbb{A}^m_W$ は平坦で、これによる $j'|_V$ の底変換は
    $$ \mathbb{A}^n_V=V\times_{\mathbb{A}^m_W}\mathbb{A}^{n+m}_W\longrightarrow\mathbb{A}^{n+m}_W $$
    である。正則埋め込み の定理「底変換と平坦な底変換」の 2 により、これは $j(x)$($y$ の上の点)で正則埋め込みである。正則埋め込み の定理「合成と余法層の完全列」により、合成 $U\xrightarrow{j}\mathbb{A}^n_V\to\mathbb{A}^{n+m}_W$ は $x$ で正則埋め込みであり、これは $W$ 上の射なので $g\circ f$ の $x$ における局所表示である。
  3. $f$ の $x$ における局所表示 $j\colon U\to\mathbb{A}^n_V$ で $x$ で正則なものをとり、$V':=u^{-1}(V)$、$U':=U\times_VV'$ とおく。$j'\colon U'\to\mathbb{A}^n_{V'}$ は $j$ の $\mathbb{A}^n_{V'}\to\mathbb{A}^n_V$ による底変換で、これは $u$ の底変換なので平坦である。$x'\in U'$ の $U$ での像は $x$ なので、正則埋め込み の定理「底変換と平坦な底変換」の 2 により $j'$ は $x'$ で正則であり、$X'\to Y'$ の $x'$ における局所表示になる。$\square$

2 の証明から、仮想相対次元は合成で足し合わされる($n-c$ と $m-c'$ から $(n+m)-(c+c')$)。
lci 射のもう一つの標準的な定義は、局所的に「正則埋め込みのあと滑らかな射」と分解できることである。

滑らかな射を経由する分解

$f\colon X\to Y$ が $x$ で局所完全交叉であることと、$x$ の開近傍 $U$ と分解 $U\xrightarrow{i}Z\xrightarrow{g}Y$($i$ は $x$ で正則な埋め込み、$g$ は滑らかな射)が存在することは同値である。さらに $f$ が $x$ で局所完全交叉なら、このような分解($i$ は埋め込み、$g$ は滑らか)では $i$ はいつも $x$ で正則である。

局所表示 $U\to\mathbb{A}^n_V\to V$ は、$\mathbb{A}^n_V\to V$ が滑らかなので、このような分解である。逆は thm-lci-stability の 1・2 による。後半は Liu06 系 6.3.22 にあり、この記事では証明しない($Z$ が $\mathbb{A}^n_V$ の開集合のときは thm-lci-independent そのものである)。$\square$

平坦な射のファイバーによる判定

平坦な射のファイバーによる判定

$f\colon X\to Y$ を局所有限型の平坦射、$x\in X$、$y=f(x)$ とする。ファイバー $X_y\to\operatorname{Spec}\kappa(y)$ が $x$ で局所完全交叉なら、$f$ は $x$ で局所完全交叉である。とくに、平坦な $f$ について、各ファイバーの各点の局所環 $\mathcal{O}_{X_y,x}$ が完全交叉局所環なら $f$ は lci 射である。

$x$ における局所表示 $j\colon U\to\mathbb{A}^n_V$ をとると、そのファイバー $j_y\colon U_y\to\mathbb{A}^n_{\kappa(y)}$ はファイバーの局所表示であり、thm-lci-independent により $x$ で正則である。$U$ は $x$ で、$\mathbb{A}^n_V$ はいたるところ $V$ 上平坦なので、正則埋め込み の命題「平坦なファイバーでの判定」により $j$ は $x$ で正則である。後半は cor-lci-field による。$\square$

逆に、平坦な lci 射のファイバーはどれも lci である。実際、$f$ が $x$ で平坦かつ局所完全交叉なら、$x$ における局所表示 $j$ は thm-lci-independent により $x$ で正則であり、$U$ は $x$ で、$\mathbb{A}^n_V$ はいたるところ $V$ 上平坦なので、正則埋め込み の命題「平坦なファイバーでの判定」の後の注意により、ファイバーの局所表示 $j_y$ も $x$ で正則である。平坦でない射では、ファイバーがすべて lci でも $f$ は lci とは限らない(下の反例の表の 2 行目)。

例

超曲面と滑らかでない lci 射

$k$ を体、$F\in k[x_1,\dots,x_n]\setminus k$ とすると、$X=V(F)\to\operatorname{Spec}k$ は lci 射である($F$ は非零因子なので、$X\to\mathbb{A}^n_k$ が局所表示として正則)。たとえば尖点曲線 $y^2=x^3$ や節点曲線 $y^2=x^2(x+1)$ は、原点で滑らかでないが lci である。仮想相対次元は $n-1=\dim X$ に等しい。

正則なスキーム

$k$ を体、$X$ を $k$ 上局所有限型の正則スキームとすると、正則局所環は完全交叉局所環なので(完備化が正則局所環そのもので、空の正則列による表示をもつ)、cor-lci-field により $X\to\operatorname{Spec}k$ は lci 射である。$k$ が完全体でなければ滑らかとは限らない。たとえば標数 $p$ の体 $k$ と $a\in k\setminus k^p$ について、$X=\operatorname{Spec}k[T]/(T^p-a)$ は体のスペクトルなので正則で lci だが、$\Omega_{X/k}\ne0$ であり $k$ 上滑らかでない。

単項式曲線 $(t^3,t^4,t^5)$

$k$ を体、$\varphi\colon k[x,y,z]\to k[t]$ を $x\mapsto t^3$、$y\mapsto t^4$、$z\mapsto t^5$ とし、$\mathfrak p:=\ker\varphi$、$X:=\operatorname{Spec}k[x,y,z]/\mathfrak p\cong\operatorname{Spec}k[t^3,t^4,t^5]$ とする。このとき $X\to\operatorname{Spec}k$ は原点で局所完全交叉でない。
$Q:=k[x,y,z]_{(x,y,z)}$、$H:=Q/\mathfrak pQ=\mathcal{O}_{X,0}$ とおく。$k[t]$ は $k[t^3,t^4,t^5]$ 上整なので $k[t^3,t^4,t^5]$ は 1 次元の整域であり、極大イデアルでの局所化 $H$ も 1 次元である(Har77 定理 I.1.8A)。完全交叉局所環 の補題「正則表示に依存しない核の判定」により、$H$ が完全交叉なら $\mathfrak pQ$ は正則列で生成され、その長さは $\dim Q-\dim H=3-1=2$ である(正則埋め込み の命題「局所環の次元」)。一方
$$ q_1=y^2-xz,\qquad q_2=yz-x^3,\qquad q_3=z^2-x^2y $$
は $\mathfrak p$ に属する。$\varphi$ は 1 次の単項式を $t$ の次数 $3,4,5$ に、2 次以上の単項式を次数 $6$ 以上に写すので、$\mathfrak p$ の元は定数項も 1 次の項ももたず、$\mathfrak p\subset(x,y,z)^2$ である。よって $\mathfrak m_Q\mathfrak pQ\subset\mathfrak m_Q^3$ であり($\mathfrak m_Q^3\cap k[x,y,z]=(x,y,z)^3$ に注意)、$q_1,q_2,q_3$ の 2 次の部分 $y^2-xz,\ yz,\ z^2$ は一次独立なので、$q_1,q_2,q_3$ の像は $\mathfrak pQ/\mathfrak m_Q\mathfrak pQ$ で一次独立である。中山の補題により $\mathfrak pQ$ は 2 個の元では生成されない。よって $H$ は完全交叉でなく、cor-lci-field により主張が従う。$X$ は整な曲線で、原点以外では滑らかである。高さ 2 の素イデアルが 2 個の元で生成されるとは限らないことの例として、Har77 注意 I.1.13.1 が演習 I.1.11 のこの曲線を挙げている。

条件を外した反例

外す条件反例成り立たなくなること
底変換の平坦性(thm-lci-stability の 3)原点 $\{0\}\to\mathbb{A}^1_k$ を $\operatorname{Spec}k[t]/(t^2)\to\mathbb{A}^1_k$ で底変換底変換 $\operatorname{Spec}k\to\operatorname{Spec}k[t]/(t^2)$ は lci でない
$f$ の平坦性(prop-lci-fibre)閉埋め込み $\operatorname{Spec}k\to\operatorname{Spec}k[t]/(t^2)$唯一のファイバー $\operatorname{Spec}k\to\operatorname{Spec}k$ は lci だが $f$ は lci でない
方程式が正則列であることex-lci-monomial-curve の曲線(余次元 2 に 3 本の方程式)原点で lci でない

1・2 行目の射は埋め込みなので、cor-lci-immersion により lci であることは正則であることと同じであり、正則埋め込み の反例の表の 1 行目と同じ理由($t$ が零因子)で正則でない。

補足

余接複体と標準層

$f$ が lci で、局所表示 $U\to\mathbb{A}^n_V$ のイデアル層が $\mathcal{I}$ のとき、正則埋め込み の系「余法層の階数」により $\mathcal{I}/\mathcal{I}^2$ は局所自由であり、局所自由層の 2 項複体 $\mathcal{I}/\mathcal{I}^2\to\Omega_{\mathbb{A}^n_V/V}|_U$(Kähler微分 の命題「第2基本完全列」の写像)が得られ、その行列式から $U$ 上の可逆層
$$ \det(\mathcal{I}/\mathcal{I}^2)^\vee\otimes\det\Omega_{\mathbb{A}^n_V/V}|_U $$
が作られる。準射影的な lci 射では、$Y$ 上滑らかなスキーム(たとえば $\mathbb{P}^n_Y$)への埋め込みに同じ式を当てて可逆層 $\omega_{X/Y}$(相対標準層)が定まり、埋め込みの選び方によらず、合成について $\omega_{X/Z}\cong\omega_{X/Y}\otimes f^*\omega_{Y/Z}$ をみたす(Liu06 定義 6.4.7・定理 6.4.9)。相対次元 $r$ の平坦で射影的な lci 射では $\omega_{X/Y}$ は $r$ 次の双対化層と同型になる(Liu06 定理 6.4.32。この記事では証明しない)。正則列による商の余接複体の計算は 完全交叉局所環 の命題「正則埋め込みの余接複体」にある。

関連項目

参考文献

[1]
Qing Liu, Algebraic Geometry and Arithmetic Curves, Oxford Graduate Texts in Mathematics 6, Oxford University Press, 2006, §6.3.2(定義 6.3.17、注意 6.3.19、命題 6.3.20、補題 6.3.21、系 6.3.22、pp. 232–233)、§6.4.2(定義 6.4.7、定理 6.4.9、pp. 239–240)、定理 6.4.32(p. 247)
[2]
Robin Hartshorne, Algebraic Geometry, Graduate Texts in Mathematics 52, Springer, 1977, 定理 I.1.8A(p. 6)、注意 I.1.13.1(p. 7)、演習 I.1.11(p. 8)

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