体論(field theory)とは、体とその拡大を調べる代数学の分野である。拡大 $L/K$ の $L$ を $K$ 上のベクトル空間とみて拡大次数 $[L:K]$ で大きさを測り、元が $K$ 係数の多項式の根になるかを最小多項式で調べ、$K$ を固定する自己同型の群によって中間体を読む(Galois 理論)。主な主題は代数拡大と分解体・代数閉包、分離性と正規性、Galois 理論、有限体、超越拡大と超越次数、付値と完備化、順序体と実閉体である。中間体 $M$ について成り立つ拡大次数の乗法性 $[L:K]=[L:M][M:K]$ から立方体倍積の作図の不可能性が従い、体の乗法群の有限部分群はつねに巡回群になる。
体論(field theory)は、体とその拡大を調べる代数学の分野である。体 $L$ がその部分体 $K$ を含むとき、$L$ は $K$ 上のベクトル空間になる。体論の出発点は、この見方によって「$L$ は $K$ からどれだけ大きいか」を次元 $[L:K]$ で測り、$L$ の元が $K$ 係数の多項式の根になるかどうか、なるならどの多項式の根か、を調べることにある。そこへ $K$ を動かさない $L$ の自己同型のなす群を持ち込むと、拡大の中間の体の様子が群の言葉で読める(Galois理論)。一般の 5 次以上の方程式には冪根による解の公式が存在しないこと、定規とコンパスによる作図の不可能性、有限体の分類は、どれもこの枠組みから導かれる。
この記事は分野の案内である。体論の基本の対象を定義し、分野の地図(主題・中心の問い・代表的な結果・その結果を所有する記事)を示し、分野全体を支える定理として拡大次数の乗法性と、体の乗法群の有限部分群が巡回群であることを証明する。各主題の定義・定理・証明は地図に挙げた記事が扱う。
名前の近い分野との区別:類体論は代数体・局所体の Abel 拡大を基礎体の算術で記述する整数論の理論で、体論の上に建つが体論そのものではない。物理学の「場の理論」(field theory)は英語名が同じだが別の分野である。また体は乗法が可換なものに限る。乗法の可換性を課さないものは斜体と呼んで区別する。
以下、体はすべて可換とする。
1〜3 の詳しい定義と基本性質は体の拡大の記事に、4 の $\operatorname{Aut}(L/K)$ はGalois拡大の記事にある。体の間の環準同型はつねに単射なので(体 の記事の命題「体の準同型は単射である」)、$K$ 準同型 $L\to L'$ は $L$ を $L'$ の部分体として埋め込む。素体は $K$ の最小の部分体で、標数が $0$ なら $\mathbb{Q}$ と、素数 $p$ なら $\mathbb{F}_p=\mathbb{Z}/p\mathbb{Z}$ と同型である(標数 の記事の定理「素体の構造」)。したがってすべての体は $\mathbb{Q}$ か $\mathbb{F}_p$ の拡大であり、体を調べることは、これらの素体の拡大を調べることと同じになる。
体論の主な主題を、中心の問いと代表的な結果、その結果を所有する記事とともに挙げる。
| 主題 | 中心の問い | 代表的な結果 | 記事 |
|---|---|---|---|
| 拡大次数と代数的な元 | 拡大の大きさを測る、元を多項式で捉える | 拡大次数の乗法性、$K(\alpha)\cong K[x]/(m_\alpha)$ | 体の拡大, 最小多項式(体論), 体の拡大の次数 |
| 根の存在 | 多項式の根をもつ体はあるか、どれだけ一意か | 分解体の存在と一意性、代数閉包の存在と一意性 | 分解体, 代数閉包, 代数閉体 |
| 分離性と正規性 | 根が重複しないか、共役な根がそろっているか | 標数 0 の体と有限体の上の代数拡大は分離的 | 分離拡大, 正規拡大, 完全体, 純非分離拡大 |
| Galois 理論 | 中間体を自己同型の群で読めるか | Galois 理論の基本定理、Artin の定理、原始元定理 | Galois拡大, Galois理論, 原始元定理, Galois群 |
| 特別な拡大 | 根号・1 の冪根で作れる拡大の形 | 円分体の Galois 群、Kummer 理論、一般の 5 次方程式は冪根で解けない | 円分体, Kummer理論, Artin-Schreier拡大, Abel–Ruffiniの定理 |
| 有限体 | 有限個の元からなる体の分類 | 位数 $p^n$ の体の存在と一意性、乗法群は巡回群 | 有限体, Wedderburnの小定理 |
| 超越拡大 | 代数的でない元を含む拡大の大きさ | 超越基底の存在、超越次数の一意性と加法性 | 超越次数, 有理関数体, 関数体, 分離生成拡大 |
| 付値と完備化 | 体の上の「大きさ」と極限 | Ostrowski の定理、$p$ 進数体 | 付値, Ostrowskiの定理, p進数体, 局所体 |
| 順序と実数 | 体に両立する順序が入るか | 実閉体の量化記号消去 | 順序体, 実閉体, 実閉体の量化記号消去 |
学ぶ順序は、おおむね表の上から下である。拡大次数と最小多項式を押さえたら、分解体と代数閉包で「根をもつ体」を作り、分離性と正規性を経て Galois 理論の基本定理に至る。有限体は Galois 理論の最も具体的な例であり、Galois 理論の前後どちらで読んでもよい。超越拡大・付値・順序は互いに独立に読める。
体論は整数論と代数幾何学の言葉でもある。$\mathbb{Q}$ の有限次拡大である代数体は代数的整数論の舞台であり、そのうち Abel 拡大の分類が類体論である。体 $k$ 上の代数曲線や代数多様体には有理関数のなす体(関数体)が付随し、曲線の性質の多くは関数体の性質として読める。体の拡大の次数や自己同型を線形代数で計算することは、体のノルムとトレースや最小多項式(体論)の記事で扱う。
拡大を 2 段に分けると、拡大次数は積になる。体論の計算の多くはこの定理による。
$K\subset M\subset L$ を体の拡大の列とする。$(u_i)_{i\in I}$ を $M$ の $K$ 上の基底、$(v_j)_{j\in J}$ を $L$ の $M$ 上の基底とすると、$(u_iv_j)_{(i,j)\in I\times J}$ は $L$ の $K$ 上の基底である。とくに、$[L:K]$ が有限であることと $[L:M]$ と $[M:K]$ がともに有限であることは同値であり、そのとき
$$
[L:K]=[L:M]\,[M:K]
$$
が成り立つ。
生成すること。 $a\in L$ をとる。$(v_j)$ は $L$ の $M$ 上の基底なので、有限個を除いて $0$ である $b_j\in M$ によって $a=\sum_j b_jv_j$ と書ける。各 $b_j$ は $(u_i)$ の $K$ 係数の 1 次結合で、有限個を除いて $0$ である $c_{ij}\in K$ によって $b_j=\sum_i c_{ij}u_i$ と書ける。代入すると $a=\sum_{i,j}c_{ij}\,u_iv_j$ であり、和は有限和である。よって $(u_iv_j)$ は $L$ を $K$ 上生成する。
1 次独立であること。 有限個を除いて $0$ である $c_{ij}\in K$ について $\sum_{i,j}c_{ij}u_iv_j=0$ とする。$j$ ごとにまとめて $b_j:=\sum_ic_{ij}u_i$ とおくと $b_j\in M$ で、$\sum_jb_jv_j=0$ である。$(v_j)$ は $M$ 上 1 次独立なので、すべての $j$ で $b_j=0$ である。すると各 $j$ について $\sum_ic_{ij}u_i=0$ であり、$(u_i)$ は $K$ 上 1 次独立なので、すべての $i$ で $c_{ij}=0$ である。
次数の等式。 以上から $[L:K]$ は集合 $I\times J$ の濃度に等しい。$I\times J$ が有限であることは $I$ と $J$ がともに有限であること($I$ と $J$ は空でない。$1\ne0$ なので $M\ne0$、$L\ne0$ だから)と同値で、そのとき $|I\times J|=|I|\,|J|$ である。$|I|=[M:K]$、$|J|=[L:M]$ なので主張が従う。$\square$
この定理は体の拡大の記事の定理「拡大次数の乗法性」と同じものである。次の系は、体論で「ある元がある体に入らない」ことを示す典型的な論法である。
$K=K_0\subset K_1\subset\cdots\subset K_r$ を体の拡大の列で、各 $i$ について $[K_i:K_{i-1}]=2$ であるものとする。$\alpha\in K_r$ ならば、$\alpha$ は $K$ 上代数的で、$[K(\alpha):K]$ は $2$ の冪である。
thm-field-theory-tower を繰り返し使うと $[K_r:K]=[K_r:K_{r-1}]\cdots[K_1:K_0]=2^r$ である。$K\subset K(\alpha)\subset K_r$ なので、もう一度 thm-field-theory-tower により $[K(\alpha):K]$ は有限で $2^r$ を割り切る。$2^r$ の正の約数は $2$ の冪 $2^s$($0\le s\le r$)だけである。$[K(\alpha):K]$ が有限なので、$1,\alpha,\alpha^2,\dots$ は $K$ 上 1 次従属であり、$\alpha$ は $0$ でない $K$ 係数の多項式の根、すなわち $K$ 上代数的である。$\square$
$\alpha=\sqrt[3]{2}\in\mathbb{R}$ とする。$f=x^3-2$ は $\mathbb{Q}$ 上既約である。実際、3 次式が $\mathbb{Q}[x]$ で可約なら 1 次の因子をもち、したがって有理数の根をもつ。既約分数 $p/q$ が根なら $p^3=2q^3$ で、$p$ は偶数になり、$p=2p'$ と書くと $4p'^3=q^3$ から $q$ も偶数になって既約性に反する。$f$ はモニックな既約多項式で $f(\alpha)=0$ なので $\alpha$ の $\mathbb{Q}$ 上の最小多項式であり(体の拡大 の記事の命題「最小多項式の存在と一意性」の 3)、$[\mathbb{Q}(\alpha):\mathbb{Q}]=3$ である(同記事の定理「単純拡大の構造」)。$3$ は $2$ の冪でないので、cor-field-theory-quadratic-tower により、$\mathbb{Q}$ から 2 次拡大を何回繰り返しても $\alpha$ を含む体には届かない。
定規とコンパスで作図できる数は $\mathbb{Q}$ からの 2 次拡大の列に含まれるので(作図可能な数 の記事の定理「作図可能数の 2 次拡大の列による特徴づけ」)、体積 $2$ の立方体の 1 辺 $\sqrt[3]{2}$ は作図できない。これが立方体倍積問題の否定的な解決である(DF04 §13.3 Proposition 23・Theorem 24)。
cor-field-theory-quadratic-tower の逆は成り立たない。$[K(\alpha):K]$ が $2$ の冪でも、$\alpha$ が 2 次拡大の列に含まれるとは限らない(作図可能な数 の記事の例「反例:次数が 2 の冪でも作図可能とは限らない」)。次数だけでは判定できない部分を補うのが、拡大の自己同型の群を見る Galois理論 である。
体の $0$ でない元のなす乗法群 $K^\times$ について、次の定理が成り立つ。証明で体の性質を使うのは「$d$ 次多項式の根は高々 $d$ 個」という一点だけであり、そこに乗法の可換性と零因子がないことが効いている。
正の整数 $d$ に対し、$1\le j\le d$ で $\gcd(j,d)=1$ となる整数 $j$ の個数を $\varphi(d)$ と書く(Euler関数)。正の整数 $n$ について
$$
\sum_{d\mid n}\varphi(d)=n
$$
が成り立つ。ここで和は $n$ の正の約数 $d$ すべてにわたる。
集合 $\{1,2,\dots,n\}$ を、$\gcd(k,n)$ の値で分ける。$n$ の約数 $d$ について、$\gcd(k,n)=n/d$ となる $k$ は $k=(n/d)j$($1\le j\le d$)の形で、$\gcd\bigl((n/d)j,(n/d)d\bigr)=(n/d)\gcd(j,d)$ なので、条件は $\gcd(j,d)=1$ と同値である。よってこの部分の元の個数は $\varphi(d)$ である。$d$ が $n$ の約数全体を動くとき $n/d$ も約数全体を動くので、すべての部分の個数を足すと $n$ になる。$\square$
$K$ を体、$G$ を乗法群 $K^\times$ の有限部分群とする。このとき $G$ は巡回群である。とくに、有限体の乗法群は巡回群であり、任意の正の整数 $n$ について、$1$ の $n$ 乗根のうち $K$ に属するもの全体 $\{a\in K\mid a^n=1\}$ は巡回群である。
$n:=|G|$ とする。Lagrangeの定理により $G$ の各元の位数は $n$ の約数である。$n$ の約数 $d$ ごとに、$G$ の位数 $d$ の元の個数を $\psi(d)$ と書くと、$\sum_{d\mid n}\psi(d)=n$ である。
$\psi(d)$ は $0$ か $\varphi(d)$ である。 $\psi(d)\ge1$ とし、位数 $d$ の元 $a\in G$ をとる。巡回群 $\langle a\rangle=\{1,a,\dots,a^{d-1}\}$ の $d$ 個の元はどれも $(a^k)^d=(a^d)^k=1$ を満たすので、多項式 $x^d-1\in K[x]$ の相異なる $d$ 個の根である。体上の $d$ 次多項式の根は高々 $d$ 個なので(体 の記事の命題「体上の多項式の根の個数」)、$x^d-1$ の $K$ における根は $\langle a\rangle$ の元で尽きる。位数 $d$ の元 $b\in G$ は $b^d=1$ を満たすから $b\in\langle a\rangle$ であり、$\psi(d)$ は巡回群 $\langle a\rangle$ の位数 $d$ の元の個数に等しい。$a^k$($0\le k< d$)の位数は $d/\gcd(k,d)$ なので、位数が $d$ になるのは $\gcd(k,d)=1$ のときで、その個数は $\varphi(d)$ である($k=0$ は $\gcd(0,d)=d$ で、$d=1$ のときだけ数に入り、$\varphi(1)=1$ と合う)。よって $\psi(d)=\varphi(d)$ である。
結論。 すべての約数 $d$ で $\psi(d)\le\varphi(d)$ であり、lem-field-theory-phi-sum により
$$
n=\sum_{d\mid n}\psi(d)\le\sum_{d\mid n}\varphi(d)=n
$$
なので、すべての $d$ で $\psi(d)=\varphi(d)$ である。とくに $\psi(n)=\varphi(n)\ge1$ なので、$G$ は位数 $n$ の元をもち、その元が $G$ を生成する。
後半:有限体 $K$ では $K^\times$ 自身が有限部分群である。$\{a\in K\mid a^n=1\}$ は $K^\times$ の部分群で、$x^n-1$ の根の集合なので高々 $n$ 個の元からなる有限部分群である。$\square$
有限体の乗法群が巡回群であることは有限体の記事の定理「有限体の乗法群の構造」でも示されている。生成元は $\mathbb{F}_p$ の場合 $p$ を法とする原始根であり、1 の冪根の群が巡回群であることは円分体の構成の出発点になる。
thm-field-theory-finite-multiplicative-cyclic の 3 つの仮定(体であること、乗法が可換であること、部分群が有限であること)は、どれも外せない。
| 例 | 破る条件 | 巡回群でない理由 |
|---|---|---|
| $(\mathbb{Z}/8\mathbb{Z})^\times=\{1,3,5,7\}$ | 体であること($\mathbb{Z}/8\mathbb{Z}$ は零因子 $2\cdot4=0$ をもつ) | どの元も $x^2=1$ を満たし、位数 $4$ の元がない |
| 四元数の群 $\{\pm1,\pm i,\pm j,\pm k\}\subset\mathbb{H}^\times$ | 乗法の可換性($\mathbb{H}$ は斜体) | 位数 $8$ の元がない($\pm1$ 以外の元の位数は $4$) |
| $\mathbb{Q}^\times$ | 有限であること | 生成元 $r$ があれば $\mathbb{Q}^\times=\{r^m\mid m\in\mathbb{Z}\}$ だが、$-1=r^m$ から $\lvert r\rvert=1$、$r=\pm1$ となり $2$ が表せない |
最初の 2 例では、証明の要の「$x^d-1$ の根は高々 $d$ 個」が崩れている。$\mathbb{Z}/8\mathbb{Z}$ では $x^2-1$ が $4$ 個の根をもち、$\mathbb{H}$ では $x^2+1$ が $\pm i,\pm j,\pm k$ を含む無限個の根をもつ($x^4-1$ は四元数の群の $8$ 個の元すべてを根にもつ)。
体論の柱となる定理を、証明を所有する記事とともに挙げる。
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