Smith標準形

同義語:スミス標準形Smith normal form

概要

Smith標準形(Smith normal form)とは、単項イデアル整域 $A$ の上の行列 $T$ に可逆な行列を左右から掛けて得られる対角行列 $\operatorname{diag}(d_1,\dots,d_r,0,\dots)$ で、対角成分が $d_1\mid d_2\mid\cdots\mid d_r$ を満たすものである。どの行列も Smith 標準形と同値であり、$d_i$ は単元倍を除いて一意に決まり、$d_1\cdots d_k$ は $T$ の $k$ 次小行列式の最大公約元に等しい。Euclid 整域の上では基本変形だけで Smith 標準形に到達できる。有限生成アーベル群の構造の計算、整数係数の連立 1 次方程式の可解性の判定、行列の相似の判定に使われる。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 単項イデアル整域, 行列式, 一般線形群, 基本変形

体の上の行列は、行と列の基本変形で $\begin{pmatrix}I_r&O\\O&O\end{pmatrix}$ の形にでき、残る情報は階数 $r$ だけである(基本変形 の定理「行と列の基本変形による標準形」)。整数の行列では、成分で割ることができないので、こうはいかない。$1\times1$ 行列 $(2)$ は、整数係数の可逆な変形では $(\pm2)$ にしかならない。それでも、単項イデアル整域の上では、可逆な行列を左右から掛けて、対角成分が順に割り切り合う対角行列 $\operatorname{diag}(d_1,d_2,\dots,d_r)$($d_1\mid d_2\mid\cdots\mid d_r$)にまで簡単にできる。これが Smith 標準形 である。
Smith 標準形は、行列 $T$ を自由加群の間の線形写像と見たとき、両側の基底をうまく取り直して写像を対角型にしたものである。この記事では、Smith 標準形が存在すること、対角成分 $d_i$ が単元倍を除いて一意に決まること、そして $d_1d_2\cdots d_k$ が $T$ の $k$ 次小行列式の最大公約元に等しいこと(行列式因子による特徴づけ)を証明する。さらに、Euclid整域の上では基本変形だけで Smith 標準形に到達できることを示し、整数係数の連立 1 次方程式が解をもつ条件、行列の相似への応用を述べる。

定義

この記事では、$A$ は $1\neq0$ の可換環とし、$A$ の元を成分とする $m\times n$ 行列の全体を $M_{m,n}(A)$ と書く。$m=0$ や $n=0$ も許し、そのときは成分のない行列が 1 つだけある。正方行列 $U\in M_m(A)$ が可逆($UU'=U'U=I_m$ となる $U'$ がある)であることと、$\det U$ が $A$ の単元であることは同値である(余因子行列 $\tilde U$ について $U\tilde U=\tilde UU=(\det U)I_m$ が成り立ち、逆に $UU'=I_m$ なら $\det U\det U'=1$ となるから)。可逆な $m$ 次正方行列の全体を $\mathrm{GL}_m(A)$ と書く。

行列の同値

$T,T'\in M_{m,n}(A)$ について、$U\in\mathrm{GL}_m(A)$ と $V\in\mathrm{GL}_n(A)$ で $T'=UTV$ となるものがあるとき、$T$ と $T'$ は 同値 であるといい、$T\sim T'$ と書く。

$\sim$ は同値関係である($T''=U'T'V'$、$T'=UTV$ なら $T''=(U'U)T(VV')$)。行基本変形は左から基本行列を掛けること、列基本変形は右から基本行列を掛けることであり、基本行列は可逆なので(基本変形 の補題「基本行列を掛けること」)、基本変形で移り合う行列は同値である。

Smith標準形

$A$ を単項イデアル整域とする。$D\in M_{m,n}(A)$ が Smith 標準形(Smith normal form)であるとは、ある $r$($0\le r\le\min(m,n)$)と $0$ でない $d_1,\dots,d_r\in A$ について
$$ D_{ii}=d_i\ (1\le i\le r),\qquad d_1\mid d_2\mid\cdots\mid d_r, $$
であり、$D$ のほかの成分がすべて $0$ であることをいう。このとき $D=\operatorname{diag}(d_1,\dots,d_r,0,\dots)$ と書く。$T\in M_{m,n}(A)$ と同値な Smith 標準形を $T$ の Smith 標準形といい、$d_1,\dots,d_r$ を $T$ の 不変因子(または 単因子)という。

$d_i$ が単元であってもよい。たとえば体の上では $0$ でない元はすべて単元なので、$\begin{pmatrix}I_r&O\\O&O\end{pmatrix}$ は Smith 標準形である。
不変因子を、行列を変形せずに直接読み取るための量が、小行列式から作るイデアルである。$T$ から $k$ 個の行と $k$ 個の列を選んでできる $k$ 次正方行列の行列式を、$T$ の $k$ 次小行列式 という。

行列式イデアルと行列式因子

$T\in M_{m,n}(A)$ と $k\ge1$ について、$T$ の $k$ 次小行列式すべてが生成する $A$ のイデアルを $I_k(T)$ と書き、$T$ の $k$ 次行列式イデアル という。$k>\min(m,n)$ なら $I_k(T)=0$ とし、$I_0(T):=A$ とおく。$A$ が単項イデアル整域のとき、$I_k(T)=(\Delta_k)$ となる $\Delta_k\in A$ を $T$ の 第 $k$ 行列式因子 という。

$\Delta_k$ は単元倍を除いて決まり、$k$ 次小行列式すべての最大公約元である(最大公約数)。$\Delta_0=1$ としてよい。

直感

$T\in M_{m,n}(A)$ は、$v\mapsto Tv$ によって準同型 $A^n\to A^m$ を定める。$U\in\mathrm{GL}_m(A)$ を左から掛けることは行き先 $A^m$ の基底の取り替え、$V\in\mathrm{GL}_n(A)$ を右から掛けることは出発点 $A^n$ の基底の取り替えにあたる。したがって「$T$ が Smith 標準形 $D$ と同値である」とは、$A^n$ の基底 $f_1,\dots,f_n$ と $A^m$ の基底 $g_1,\dots,g_m$ をうまく選ぶと、写像が
$$ f_i\mapsto d_ig_i\ (i\le r),\qquad f_i\mapsto0\ (i>r) $$
という形になる、ということである。行き先の像はそれぞれの座標の方向に $d_i$ 倍されて並んでいるので、余核は
$$ A^m/TA^n\cong A/(d_1)\oplus\cdots\oplus A/(d_r)\oplus A^{m-r} $$
と直和に分かれる。これが有限生成加群や有限生成アーベル群の構造定理の計算の中身である。
体の上では、どの $0$ でない成分も単元なので、写像の「大きさ」の情報は消え、残るのは階数だけである。整数の上では、像が座標方向に何倍されているかという情報 $d_i$ が残る。条件 $d_1\mid d_2\mid\cdots$ は、この情報を一意な形に並べるための約束である。実際、$\operatorname{diag}(2,3)$ と $\operatorname{diag}(1,6)$ はどちらも対角行列で、整数の上で同値になる(ex-snf-counterexamples)。

例

整数行列の Smith 標準形
  1. $T=\begin{pmatrix}6&4\\4&6\end{pmatrix}$ とする。第 1 列から第 2 列を引くと $\begin{pmatrix}2&4\\-2&6\end{pmatrix}$、第 2 列から第 1 列の $2$ 倍を引くと $\begin{pmatrix}2&0\\-2&10\end{pmatrix}$、第 2 行に第 1 行を加えると $\begin{pmatrix}2&0\\0&10\end{pmatrix}$ になる。$2\mid10$ なのでこれが Smith 標準形で、不変因子は $2,10$ である。行列式因子で確かめると、成分の最大公約数は $\Delta_1=2$、$\Delta_2=\lvert36-16\rvert=20$ であり、$d_1=\Delta_1=2$、$d_2=\Delta_2/\Delta_1=10$ と一致する(thm-snf-uniqueness)。$\mathbb{Z}^2/T\mathbb{Z}^2\cong\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}\oplus\mathbb{Z}/10\mathbb{Z}$ である。
  2. $T=\begin{pmatrix}2&4&4\\-6&6&12\\10&-4&-16\end{pmatrix}$ では、成分の最大公約数は $\Delta_1=2$、$2$ 次小行列式(たとえば $2\cdot6-4\cdot(-6)=36$、$4\cdot12-4\cdot6=24$)の最大公約数は $\Delta_2=12$、$\Delta_3=\lvert\det T\rvert=144$ である。よって不変因子は $2,\ 12/2=6,\ 144/12=12$ で、Smith 標準形は $\operatorname{diag}(2,6,12)$ である。
体の上の行列

$A=K$ が体なら、$T\in M_{m,n}(K)$ の Smith 標準形は $\operatorname{diag}(1,\dots,1,0,\dots,0)$($1$ が $r$ 個、$r=\operatorname{rank}T$)にとれる。$0$ でない $d_i$ はすべて単元なので、単元倍を除いた一意性(thm-snf-uniqueness)は $r$ が一意に決まることにほかならない。行列式イデアルで言えば、$I_k(T)$ は $k\le r$ なら $K$、$k>r$ なら $0$ であり、「階数は $0$ でない小行列式の最大次数である」という線形代数の事実が再現される。

多項式行列 $xI-A$

体 $K$ の上の多項式環 $K[x]$ は単項イデアル整域である。$A=\begin{pmatrix}2&1&0\\0&2&0\\0&0&2\end{pmatrix}$ について
$$ xI-A=\begin{pmatrix}x-2&-1&0\\0&x-2&0\\0&0&x-2\end{pmatrix} $$
を考える。成分に $-1$ があるので $\Delta_1=1$。$2$ 次小行列式は $(x-2)^2$、$-(x-2)$、$0$ などで、最大公約元は $\Delta_2=x-2$。$\Delta_3=\det(xI-A)=(x-2)^3$ である。よって不変因子は $1,\ x-2,\ (x-2)^2$ である。これに対し $2I$ では $xI-2I=\operatorname{diag}(x-2,x-2,x-2)$ がすでに Smith 標準形で、不変因子は $x-2,x-2,x-2$ である。$A$ と $2I$ は固有多項式 $(x-2)^3$ が等しいが、不変因子が異なる(prop-snf-similar)。

行列式イデアルの不変性

この節では $A$ は任意の可換環でよい。

積の小行列式

$U\in M_{m',m}(A)$、$T\in M_{m,n}(A)$、$V\in M_{n,n'}(A)$ とする。$k\ge1$ について、$UT$ と $TV$ の $k$ 次小行列式は、どれも $T$ の $k$ 次小行列式の $A$ 係数の 1 次結合である。とくに $I_k(UT)\subset I_k(T)$、$I_k(TV)\subset I_k(T)$ である。

行ごとの多重線形性

$UT$ の小行列の各行は $T$ の行(の一部の成分)の $A$ 係数の 1 次結合なので、行列式を各行について線形に展開すればよい。$TV$ は転置して同じことをする。

詳細

$UT$ の第 $i_1,\dots,i_k$ 行と第 $j_1,\dots,j_k$ 列からなる小行列式を考える。$T$ の第 $l$ 行の第 $j_1,\dots,j_k$ 成分を並べた行ベクトルを $R_l$ とすると、この小行列式の第 $a$ 行は $\sum_{l=1}^mU_{i_al}R_l$ である。行列式は各行について線形なので

$$\det\Bigl(\sum_{l}U_{i_al}R_l\Bigr)_{a=1,\dots,k}=\sum_{l_1,\dots,l_k=1}^{m}U_{i_1l_1}\cdots U_{i_kl_k}\det\begin{pmatrix}R_{l_1}\\ \vdots\\ R_{l_k}\end{pmatrix}$$

となる。$l_1,\dots,l_k$ に等しいものがあれば、右辺の行列式は等しい 2 行をもつので $0$ である。互いに異なれば、それは行の並べ替えを除いて $T$ の第 $l_1,\dots,l_k$ 行・第 $j_1,\dots,j_k$ 列の小行列式であり、符号を除いて一致する。よって主張が成り立つ。$k>m$ なら右辺はすべて $0$ である。$TV$ については、転置 $(TV)^{\top}=V^{\top}T^{\top}$ に前半を使い、転置で小行列式が変わらないことを使えばよい。$\square$

同値な行列の行列式イデアル

$T\sim T'$ なら、すべての $k\ge0$ について $I_k(T)=I_k(T')$ である。

両向きの包含

$T'=UTV$($U,V$ は可逆)なら lem-snf-minors により $I_k(T')\subset I_k(T)$ である。$T=U^{-1}T'V^{-1}$ なので逆の包含も成り立つ。$k=0$ では両辺とも $A$ である。$\square$

Smith 標準形の存在と一意性

以下この節では、$A$ は単項イデアル整域とする。$A$ は一意分解整域である(単項イデアル整域 の定理「単項イデアル整域は一意分解整域」)。$0$ でない $a\in A$ について、$a$ を素元の積に分解したときの素元の個数(重複を込めて数える)を $\ell(a)$ と書く。$\ell(a)=0$ と $a$ が単元であることは同値であり、$\ell(ab)=\ell(a)+\ell(b)$ である。とくに、$g\mid a$ で $a\nmid g$ なら、$a=gh$ の $h$ は単元でないので $\ell(g)< \ell(a)$ である。
2 つの元の最大公約元は、次の可逆行列で 1 つの成分に集められる。$a,b\in A$ が $0$ でないとき、$(a,b)=(g)$ とおき、$a=ga'$、$b=gb'$、$ua+vb=g$ となる $u,v\in A$ をとる。$g\neq0$ で割って $ua'+vb'=1$ なので
$$ E=\begin{pmatrix}u&v\\-b'&a'\end{pmatrix},\qquad \det E=ua'+vb'=1,\qquad E\begin{pmatrix}a\\b\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}g\\0\end{pmatrix}\qquad(\ast) $$
である。$m$ 次の単位行列の第 $1,i$ 行・第 $1,i$ 列の交わる $2\times2$ の部分を $E$ に置き換えた行列も行列式 $1$ で可逆であり、これを左から掛けると、第 1 行と第 $i$ 行だけが変わり、第 $1$ 列の第 $1,i$ 成分 $a,b$ が $g,0$ になる。右から掛ける場合(転置したもの)も同様である。

Smith標準形の存在

単項イデアル整域 $A$ の上のどの行列 $T\in M_{m,n}(A)$ も、ある Smith 標準形と同値である。

長さが最小の成分を角に置く

$m+n$ についての帰納法で示す。$m=0$、$n=0$ または $T=0$ なら、$T$ 自身が $r=0$ の Smith 標準形である。以下 $T\neq0$ とし、$T$ と同値な行列の全体を $\mathcal{S}$ とする。$\mathcal{S}$ の行列の $0$ でない成分 $a$ のうち $\ell(a)$ が最小になるものを 1 つ選ぶ($\ell$ の値は $0$ 以上の整数なので最小値がある)。行と列を入れ替えて、それを $(1,1)$ 成分にもつ $S\in\mathcal{S}$ をとる。$a:=S_{11}$ である。
段 1:$a$ は $S$ の第 1 列と第 1 行の成分をすべて割り切る。実際、第 1 列の成分 $b=S_{i1}$ が $a$ で割り切れないとすると、$(\ast)$ の行列を第 $1,i$ 行に施した行列 $S'\in\mathcal{S}$ の $(1,1)$ 成分は $g$ であり、$g\mid a$ かつ $a\nmid g$($a\mid g$ なら $g\mid b$ から $a\mid b$ となる)なので $\ell(g)< \ell(a)$ となり、$\ell(a)$ の最小性に反する。第 1 行については列に同じ操作をすればよい。
段 2:段 1 により、第 $i$ 行($i\ge2$)から第 1 行の $S_{i1}/a$ 倍を引いて第 1 列の $(1,1)$ 成分以外を $0$ にし、次に第 $j$ 列($j\ge2$)から第 1 列の $S_{1j}/a$ 倍を引いて第 1 行の $(1,1)$ 成分以外を $0$ にする。後半の操作は、第 1 列の第 2 成分以下がすでに $0$ なので第 1 列を壊さない。こうして
$$ S\sim\begin{pmatrix}a&0\\0&T_1\end{pmatrix}=:S_1\in\mathcal{S},\qquad T_1\in M_{m-1,n-1}(A) $$
を得る。
段 3:$a$ は $T_1$ の成分をすべて割り切る。実際、$S_1$ の $(i,j)$ 成分 $c$($i,j\ge2$)が $a$ で割り切れないとすると、$S_1$ の第 1 行に第 $i$ 行を加えた行列は $\mathcal{S}$ に属し、$(1,1)$ 成分は $a$ のまま($S_1$ の $(i,1)$ 成分は $0$)で、第 1 行に $a$ で割り切れない成分 $c$ をもつ。これは段 1 の結論に反する(段 1 は、$\ell$ が最小の成分を $(1,1)$ 成分にもつ $\mathcal{S}$ のどの行列にも当てはまる)。
段 4:帰納法の仮定により、$U_1T_1V_1=D_1$ が Smith 標準形 $\operatorname{diag}(d_2,\dots,d_r,0,\dots)$ となる可逆な $U_1,V_1$ がある。段 3 により $I_1(T_1)\subset(a)$ であり、prop-snf-invariance により $I_1(D_1)=I_1(T_1)$ なので、$r\ge2$ なら $a\mid d_2$ である。したがって
$$ \begin{pmatrix}1&0\\0&U_1\end{pmatrix}S_1\begin{pmatrix}1&0\\0&V_1\end{pmatrix}=\operatorname{diag}(a,d_2,\dots,d_r,0,\dots) $$
は Smith 標準形で、$T$ と同値である。$\square$

この証明は Euclid整域 の除法を使わず、2 つの元が生成するイデアルが単項であることと、素元分解による長さ $\ell$ だけを使う。

Smith標準形の一意性と行列式因子

$A$ を単項イデアル整域、$T\in M_{m,n}(A)$ とし、$D=\operatorname{diag}(d_1,\dots,d_r,0,\dots)$ を $T$ の Smith 標準形とする。

  1. $1\le k\le r$ なら $I_k(T)=(d_1d_2\cdots d_k)$、$k>r$ なら $I_k(T)=0$ である。
  2. $r$ は $I_k(T)\neq0$ となる最大の $k$ であり、$1\le k\le r$ について、単元倍を除いて $d_k=\Delta_k/\Delta_{k-1}$ である。
  3. $T$ のもう 1 つの Smith 標準形を $\operatorname{diag}(d'_1,\dots,d'_{r'},0,\dots)$ とすると、$r=r'$ であり、各 $k$ について $d'_k$ は $d_k$ の単元倍である。
  4. $T,T'\in M_{m,n}(A)$ について、$T\sim T'$ であることと、すべての $k$ で $I_k(T)=I_k(T')$ であることは同値である。
対角行列の小行列式を数える

1:prop-snf-invariance により $I_k(T)=I_k(D)$ なので、$D$ の小行列式を調べればよい。行の集合 $I$ と列の集合 $J$($\lvert I\rvert=\lvert J\rvert=k$)を選ぶ。$D$ の第 $i$ 行の $0$ でない成分は、$i\le r$ のときの $(i,i)$ 成分だけである。$I$ のある $i$ が $i>r$ か $i\notin J$ なら、選んだ小行列の対応する行は $0$ なので小行列式は $0$ である。そうでなければ $I\subset J\cap\{1,\dots,r\}$ で、個数が等しいので $I=J$ であり、小行列式は $\prod_{i\in I}d_i$ である。$I=\{i_1< \dots< i_k\}$ なら $i_a\ge a$ なので $d_a\mid d_{i_a}$ であり、$\prod_{i\in I}d_i$ は $I=\{1,\dots,k\}$ のときの小行列式 $d_1\cdots d_k$ で割り切れる。よって $k\le r$ なら $I_k(D)=(d_1\cdots d_k)$ であり、$k>r$ なら $0$ でない小行列式はないので $I_k(D)=0$ である。
2:$A$ は整域なので $d_1\cdots d_k\neq0$($k\le r$)であり、1 から $r$ は $I_k(T)\neq0$ となる最大の $k$ である。$k\le r$ について $\Delta_k=\varepsilon_kd_1\cdots d_k$($\varepsilon_k$ は単元)と書け、$\Delta_k=\Delta_{k-1}\cdot\varepsilon_k\varepsilon_{k-1}^{-1}d_k$ なので、$d_k$ は $\Delta_k/\Delta_{k-1}$ の単元倍である。
3:2 により $r$ と $d_k$ の単元倍の類は $T$ の行列式イデアルだけで決まるので、どちらの Smith 標準形についても同じである。
4:$T\sim T'$ なら prop-snf-invariance により行列式イデアルは等しい。逆に、すべての $k$ で $I_k(T)=I_k(T')$ とする。thm-snf-existence により $T\sim D$、$T'\sim D'$ となる Smith 標準形 $D$、$D'$ があり、2 により $D$ と $D'$ の $0$ でない対角成分の個数 $r$ は等しく、$d'_k=\varepsilon_kd_k$($\varepsilon_k$ は単元)と書ける。$W:=\operatorname{diag}(\varepsilon_1,\dots,\varepsilon_r,1,\dots,1)\in\mathrm{GL}_m(A)$ とおくと $D'=WD$ なので、$T\sim D\sim D'\sim T'$ である。$\square$

$A=\mathbb{Z}$ の場合の 2 は、有限生成アーベル群 の定理「小行列式による不変因子の計算」として、関係行列から不変因子を読み取る方法として使われている。

Euclid 整域では基本変形だけで足りる

thm-snf-existence の証明で使った $(\ast)$ の行列は、一般には基本行列の積とは限らない。$A$ が Euclid整域 なら、除法を使って基本変形だけで同じことができる。$A$ の Euclid 関数を $\phi$ とする($b\neq0$ なら $a=qb+\rho$、$\phi(\rho)< \phi(b)$ となる $q,\rho$ がとれ、$\phi(x)=0$ は $x=0$ に限る)。

基本変形による Smith 標準形

$A$ を Euclid 整域とする。どの $T\in M_{m,n}(A)$ も、行と列の基本変形(2 行または 2 列の入れ替え、1 行または 1 列に単元を掛けること、1 行(列)に別の行(列)の $A$ 倍を加えること)を有限回施して Smith 標準形にできる。

余りで長さを減らす

prf-snf-existence と同じ帰納法で、$\mathcal{S}$ を「$T$ に基本変形を有限回施して得られる行列の全体」に、$\ell$ を $\phi$ に替え、最大公約元の行列 $(\ast)$ の代わりに除法を使う。

詳細

$\phi$ が最小の $0$ でない成分 $a$ を $(1,1)$ 成分にもつ $S\in\mathcal{S}$ をとる。段 1 で、第 1 列の成分 $b=S_{i1}$ が $a$ で割り切れないとすると、$b=qa+\rho$ で $\rho\neq0$、$\phi(\rho)< \phi(a)$ となる。第 $i$ 行から第 1 行の $q$ 倍を引くと $(i,1)$ 成分が $\rho$ になり、$\phi(a)$ の最小性に反する。第 1 行も同様である。段 2・段 3 で使った操作(行の倍数を引く・行を加える)はどれも基本変形である。段 4 では、$T_1$ に施す基本変形は、第 1 行・第 1 列を動かさない $S_1$ の基本変形として実現できる。$a\mid d_2$ は prop-snf-invariance からそのまま従う。$\square$

$\mathbb{Z}$ や体の上の多項式環 $K[x]$ はこの場合にあたる。この定理を可逆な行列 $U$ 自身に使うと、$U$ の Smith 標準形の対角成分はすべて単元なので、$U$ は基本行列の積であることが分かる(基本変形 の定理「特殊線形群と一般線形群の基本行列による生成」と同じ結論である)。

応用

余核の分解

Smith 標準形による余核の分解

$A$ を単項イデアル整域、$T\in M_{m,n}(A)$ の Smith 標準形を $\operatorname{diag}(d_1,\dots,d_r,0,\dots)$ とすると、$A$ 加群として
$$ A^m/TA^n\cong A/(d_1)\oplus\cdots\oplus A/(d_r)\oplus A^{m-r} $$
である。

基底の取り替え

$D=UTV$($U,V$ は可逆)とする。$V$ は全単射なので $VA^n=A^n$、したがって $U(TA^n)=UTVA^n=DA^n$ である。よって同型 $A^m\to A^m$、$v\mapsto Uv$ は $TA^n$ を $DA^n$ に移し、商の同型 $A^m/TA^n\cong A^m/DA^n$ を誘導する。$DA^n$ は、第 $i$ 座標($i\le r$)が $(d_i)$ の元で、第 $i$ 座標($i>r$)が $0$ のベクトルの全体なので、$A^m/DA^n$ は座標ごとに右辺に分かれる。$\square$

$d_i$ が単元の項は $0$ なので省いてよい。単項イデアル整域の上では $A^m$ の部分加群も有限生成なので、有限生成加群はどれも有限個の関係で表示でき、この命題から単項イデアル整域上の有限生成加群の構造定理の存在が従う。一意性まで含めた構造定理は 有限生成加群 の定理「有限生成PID加群の構造と一意性」にある。

連立 1 次方程式の解

整数係数の連立 1 次方程式 $Tx=b$ が整数解をもつかどうかは、係数行列と拡大係数行列 $(T\mid b)$ の行列式イデアルを比べれば判定できる。

解をもつための条件

$A$ を単項イデアル整域、$T\in M_{m,n}(A)$、$b\in A^m$ とする。$Tx=b$ が解 $x\in A^n$ をもつことと、すべての $k\ge1$ について $I_k(T)=I_k\bigl((T\mid b)\bigr)$ であることは同値である。

Smith 標準形の方程式に直す

$D=UTV$ を Smith 標準形、$c:=Ub$ とおく。$Tx=b$ は $D(V^{-1}x)=c$ と同値なので、$Tx=b$ が解をもつことと $Dy=c$ が解 $y\in A^n$ をもつことは同値である。また
$$ U\,(T\mid b)\begin{pmatrix}V&0\\0&1\end{pmatrix}=(D\mid c) $$
なので $(T\mid b)\sim(D\mid c)$ であり、prop-snf-invariance により行列式イデアルは等しい。したがって $T,b$ を $D,c$ に替えて示せばよい。$Dy=c$ の第 $i$ 式は、$i\le r$ なら $d_iy_i=c_i$、$i>r$ なら $0=c_i$ なので、解をもつことは「$i\le r$ で $d_i\mid c_i$、$i>r$ で $c_i=0$」と同値である。
$\Rightarrow$:解 $y$ があれば $c=Dy$ であり、
$$ (D\mid c)\begin{pmatrix}I_n&-y\\0&1\end{pmatrix}=(D\mid 0) $$
である。右の行列は行列式 $1$ で可逆なので $(D\mid c)\sim(D\mid0)$ であり、$(D\mid0)$ の小行列式は $D$ の小行列式と $0$ だけなので、$I_k((D\mid c))=I_k((D\mid0))=I_k(D)$ である。
$\Leftarrow$:すべての $k$ で $I_k(D)=I_k((D\mid c))$ とする。まず $i>r$ で $c_i\neq0$ とすると、$(D\mid c)$ の第 $1,\dots,r,i$ 行と第 $1,\dots,r$ 列・最後の列からなる小行列式は、上三角型の行列の行列式なので $d_1\cdots d_rc_i\neq0$ であり、$I_{r+1}((D\mid c))\neq0=I_{r+1}(D)$ となって矛盾する。次に $i\le r$ とし、第 $1,\dots,i$ 行と第 $1,\dots,i-1$ 列・最後の列からなる $i$ 次小行列式を考える。この小行列の第 $i$ 行は最後の成分 $c_i$ 以外 $0$ なので、第 $i$ 行で展開して小行列式は $d_1\cdots d_{i-1}c_i$ である。これが $I_i((D\mid c))=I_i(D)=(d_1\cdots d_i)$(thm-snf-uniqueness の 1)に属するので、$d_1\cdots d_i\mid d_1\cdots d_{i-1}c_i$ であり、整域なので $0$ でない $d_1\cdots d_{i-1}$ で約して $d_i\mid c_i$ を得る。よって $Dy=c$ は解をもつ。$\square$

整数解の有無

$T=\begin{pmatrix}6&4\\4&6\end{pmatrix}$ とする。$I_1(T)=(2)$、$I_2(T)=(20)$ である。

  1. $b=(10,0)^{\top}$ のとき、$(T\mid b)$ の成分の最大公約数は $2$、$2$ 次小行列式は $20$、$6\cdot0-10\cdot4=-40$、$4\cdot0-10\cdot6=-60$ で最大公約数は $20$ なので、整数解がある。実際 $(x,y)=(3,-2)$ が解である。
  2. $b=(2,0)^{\top}$ のとき、成分の最大公約数は $2$ で $I_1$ は一致するが、$2$ 次小行列式は $20,-8,-12$ で最大公約数は $4$ であり、$I_2((T\mid b))=(4)\neq(20)$ なので整数解はない。実際、有理数の解は $(x,y)=(\frac35,-\frac25)$ だけである。

行列の相似

体 $K$ の上の $n$ 次正方行列 $A$ について、$xI-A$ は単項イデアル整域 $K[x]$ の上の行列である。その Smith 標準形の単元でない対角成分を、$A$ の不変因子という。

相似な行列の特性行列

$K$ を体、$A,B\in M_n(K)$ とする。$B=PAP^{-1}$ となる $P\in\mathrm{GL}_n(K)$ があれば、$xI-B$ と $xI-A$ は $K[x]$ の上で同値であり、両者の Smith 標準形は単元倍を除いて一致する。とくに $A$ と $B$ の不変因子は一致する。

定数の行列で挟む

$P$ の行列式は $K$ の $0$ でない元なので $K[x]$ の単元であり、$P\in\mathrm{GL}_n(K[x])$ である。$xI-B=P(xI-A)P^{-1}$ なので $xI-B\sim xI-A$ であり、後半は thm-snf-uniqueness の 3 による。$\square$

逆も成り立つ。すなわち、$xI-A$ と $xI-B$ の Smith 標準形が一致すれば $A$ と $B$ は相似である。この記事では証明しないが、$xI-A$ の Smith 標準形の単元でない対角成分が $A$ の有理標準形を決める不変因子に一致すること(DF04 §12.2 Theorem 21、p. 479)と、2 つの行列が相似であることと有理標準形が一致することの同値性(同 Theorem 17、p. 477)による。また $\Delta_n=\det(xI-A)$ は $A$ の固有多項式で、不変因子の積に等しく(同 Proposition 20、p. 478)、最後の不変因子は $A$ の最小多項式である(同 Proposition 13、p. 474)。ex-snf-polynomial の $A$ と $2I$ は固有多項式が等しいが不変因子が異なるので、相似でない。

条件を外した反例

外す条件反例成り立たなくなること
環が単項イデアル整域$\mathbb{Z}[x]$ の上の $1\times2$ 行列 $(2\ \ x)$Smith 標準形の存在
対角成分の整除条件 $d_1\mid d_2$$\mathbb{Z}$ の上の $\operatorname{diag}(2,3)$ と $\operatorname{diag}(1,6)$同値な対角行列の一意性
単元倍の違いを同一視すること$\mathbb{Z}$ の上の $\operatorname{diag}(1,2)$ と $\operatorname{diag}(1,-2)$対角成分そのものの一意性
thm-snf-linear-system で行列式イデアルの一致をすべての $k$ で要求すること($k=1$ だけにする)$6x+4y=2$、$4x+6y=0$整数解をもつことの判定
反例:表の各行の確かめ

1 行目は、Smith 標準形があればイデアル $(2,x)$ が単項になってしまうことによる。2 行目の 2 つの行列は基本変形で移り合い、3 行目は第 2 行に $-1$ を掛ければ移り合う。4 行目は ex-snf-linear-system の 2 である。

詳細

1 行目:$\mathbb{Z}[x]$ は一意分解整域だが単項イデアル整域でない。$(2\ \ x)$ が $(d\ \ 0)$ の形の行列と同値なら、prop-snf-invariance により $(2,x)=I_1=(d)$ である。$d\mid2$ から $d$ は定数で、$d\mid x$ から $d=\pm1$ となり、$1=2f+xg$($f,g\in\mathbb{Z}[x]$)と書けるが、$x=0$ を代入すると $1=2f(0)$ となって矛盾する。

2 行目:$\operatorname{diag}(2,3)$ の第 1 行に第 2 行を加え、第 2 列から第 1 列を引くと $\begin{pmatrix}2&1\\0&3\end{pmatrix}$、2 つの列を入れ替えると $\begin{pmatrix}1&2\\3&0\end{pmatrix}$、第 2 列から第 1 列の $2$ 倍を、第 2 行から第 1 行の $3$ 倍を引くと $\begin{pmatrix}1&0\\0&-6\end{pmatrix}$、第 2 行に $-1$ を掛けると $\operatorname{diag}(1,6)$ になる。異なる 2 つの対角行列が同値であり、整除条件を満たすのは後者だけである。

3 行目:どちらも Smith 標準形であり、一意性は単元倍を除いてしか成り立たない。

4 行目:$I_1$ は一致するが $I_2$ が一致せず、整数解はない。

補足

文献

Euclid 整域の上で、関係行列に行と列の基本変形を施して整除条件を満たす対角型にする手順は DF04 §12.1 Exercises 16–19(pp. 470–471)にある。体の上の行列 $A$ について $xI-A$ の Smith 標準形が $A$ の不変因子を与えることは同書 §12.2 Theorem 21(p. 479)、その対角成分が $\Delta_i/\Delta_{i-1}$ であることは §12.3 Exercise 35(p. 502)にある。この記事の定理は、引用した記事・文献の定理を除いて記事の中で証明した。

関連項目

参考文献

[1]
David S. Dummit and Richard M. Foote, Abstract Algebra, 3rd ed., John Wiley & Sons, 2004, §12.1 Exercises 16–19(pp. 470–471)、§12.2 Theorem 17(p. 477)・Proposition 13(p. 474)・Proposition 20(p. 478)・Theorem 21(p. 479)、§12.3 Exercise 35(p. 502)

Mathpediaは寄付と、参考文献の書籍リンク(Amazonアソシエイト)の紹介料で運営されています。 支援について / 寄付する