コファイブレーション(cofibration)とは、連続写像 $i\colon A\to X$ であって、$X$ からの任意の写像と、その $A$ 上への制限から始まる任意のホモトピーに対し、そのホモトピーを $X$ 全体のホモトピーへ延長できるもの(ホモトピー拡張性質)をいう。コファイブレーションは像への同相写像であり、$A$ が閉集合のときは $X\times\{0\}\cup A\times[0,1]$ が $X\times[0,1]$ のレトラクトであることと同値で、CW 複体と部分複体の包含や写像柱の端の包含が代表例である。閉集合 $A$ の包含がコファイブレーションかつホモトピー同値なら $A$ は強変位レトラクトであり、また、包含がコファイブレーションで $A$ が空でなく可縮なら商写像 $X\to X/A$ はホモトピー同値になる。
連続写像 $i\colon A\to X$ がコファイブレーションであるとは、$X$ からの写像を $A$ の上だけで連続的に動かしたとき、その動きを必ず $X$ 全体の動きに延ばせることをいう。部分空間の包含写像についていえば、対 $(X,A)$ がホモトピー拡張性質をもつことである。CW 複体とその部分複体の包含はコファイブレーションであり、可縮な部分空間を一点につぶす操作がホモトピー型を壊さないのは、この性質による(thm-cof-quotient)。
この記事では、コファイブレーションが常に像への同相写像であることと、レトラクトによる判定法を示す。主定理は「閉集合 $A$ について、包含 $A\hookrightarrow X$ がコファイブレーションかつホモトピー同値なら、$A$ は $X$ の強変位レトラクトである」というものである。応用として、可縮な部分空間をつぶす商写像がホモトピー同値であることも示す。
区間 $[0,1]$ を $I$ と書く。連続写像 $H\colon X\times I\to Y$ をホモトピーといい、$H_t:=H(\cdot,t)$ と書く。$i_0\colon X\to X\times I$ は $i_0(x):=(x,0)$ である。
連続写像 $i\colon A\to X$ がコファイブレーション(cofibration)であるとは、次が成り立つことをいう:任意の位相空間 $Y$、連続写像 $f\colon X\to Y$、ホモトピー $h\colon A\times I\to Y$ で $h(a,0)=f(i(a))$($a\in A$)を満たすものに対し、ホモトピー $H\colon X\times I\to Y$ で
$$
H(x,0)=f(x)\quad(x\in X),\qquad H(i(a),t)=h(a,t)\quad(a\in A,\ t\in I)
$$
を満たすものが存在する。
$$
\xymatrix{
A \ar[r]^-{i_0} \ar[d]_{i} & A\times I \ar[d]^{i\times\mathrm{id}_I} \ar[ddr]^{h} & \\
X \ar[r]^-{i_0} \ar[drr]_{f} & X\times I \ar@{.>}[dr]^{H} & \\
& & Y
}
$$
図式でいえば、外側が可換($h\circ i_0=f\circ i$)なとき、$H\circ i_0=f$ かつ $H\circ(i\times\mathrm{id}_I)=h$ となる点線の $H$ がとれる、ということである。
$X$ の部分空間 $A$ について、包含写像 $A\hookrightarrow X$ がコファイブレーションであるとき、対 $(X,A)$ はホモトピー拡張性質(homotopy extension property)をもつという。
Hurewicz コファイブレーションとも呼ぶ。後の節のモデル圏の意味のコファイブレーションと区別したいときに使う名前である。
位相空間 $X$ の点 $x_0$ について、一点からなる部分空間の包含 $\{x_0\}\hookrightarrow X$ がコファイブレーションであるとき、$x_0$ を $X$ の良い基点といい、$(X,x_0)$ を well-pointed な空間という。
強変位レトラクトの定義は変位レトラクトの記事のとおりである:$A\subset X$ が強変位レトラクトであるとは、レトラクション $r\colon X\to A$ と、すべての時刻で $A$ の点を動かさないホモトピー $K\colon X\times I\to X$ で $K_0=\mathrm{id}_X$、$K_1=i\circ r$ となるものがあることをいう。
ホモトピー拡張性質は、「時刻 $0$ の写像」と「$A$ の上の動き」という二つの指定を、$X$ 全体の動きに矛盾なくまとめられることを要求する。$A$ のまわりに、$A$ の動きを少しずつ弱めながら周囲へ伝える余地があれば延ばせる。たとえば $A$ が写像柱の形の閉近傍をもてば、$(X,A)$ はホモトピー拡張性質をもつ(Hat02 Example 0.15、p. 15)。$A$ に点が集積して余地がないと、延ばせない(ex-cof-sequence)。
ファイブレーションが「ホモトピーを持ち上げられる写像」であるのに対し、コファイブレーションは「ホモトピーを延ばせる写像」で、矢印の向きを逆にした双対の関係にある。ホモトピー論で写像を扱いやすい形に取り替えるとき、定義域の側はコファイブレーションに、値域の側はファイブレーションに取り替える。
コファイブレーション $i\colon A\to X$ は単射であり、$A$ から部分空間 $i(A)\subset X$ への同相写像である。
要点:$X$ と $A\times I$ を $A\times\{0\}$ で貼り合わせた空間に値をとるホモトピーを延長すると、時刻 $1$ の写像から $i$ の逆写像が作れる。
$M:=\bigl(X\sqcup(A\times I)\bigr)/\bigl(i(a)\sim(a,0)\bigr)$ とし、商写像を $q$ とする。$f(x):=q(x)$、$h(a,t):=q(a,t)$ とおくと $h(a,0)=q(i(a))=f(i(a))$ なので、延長 $H\colon X\times I\to M$ がある。$j\colon A\to M$ を $j(a):=q(a,1)$ で定める。$U:=A\times(0,1]$ は $X\sqcup(A\times I)$ の開集合で、その点は自分以外の点と同一視されないから、$U$ に含まれる開集合 $V$ について $q^{-1}(q(V))=V$ である。よって $q(V)$ は開集合で、$q|_U$ は $U$ から開集合 $q(U)$ への同相写像であり、$j$ は $A\cong A\times\{1\}\subset U$ と $q|_U$ の合成として像 $j(A)$ への同相写像である。
$H(i(a),1)=h(a,1)=j(a)$ である。$i(a)=i(a')$ なら $j(a)=j(a')$ となり $a=a'$ なので、$i$ は単射である。$x\in i(A)$ なら $H(x,1)\in j(A)$ なので、$g\colon i(A)\to A$、$g(x):=j^{-1}(H(x,1))$ は連続で、$g\circ i=\mathrm{id}_A$ を満たす。$i$ は単射だから $i\circ g=\mathrm{id}_{i(A)}$ でもあり、$i\colon A\to i(A)$ は同相写像である。$\square$
ホモトピー拡張性質は $A$ を同相な空間に取り替えても変わらないので、この命題により、コファイブレーションは部分空間の包含写像だと思ってよい。以下では対 $(X,A)$ の言葉で述べる。
$A$ を位相空間 $X$ の部分空間とし、$M:=X\times\{0\}\cup A\times I$ を $X\times I$ の部分空間とする。
1:$Y:=M$、$f(x):=(x,0)$、$h(a,t):=(a,t)$ とおくと $h(a,0)=f(a)$ なので、延長 $H\colon X\times I\to M$ がある。$H$ は $X\times\{0\}$ と $A\times I$ の上で恒等写像なので、$M$ へのレトラクションである。
2:$r\colon X\times I\to M$ をレトラクションとし、$f\colon X\to Y$ と $h\colon A\times I\to Y$ が $h(a,0)=f(a)$ を満たすとする。$g\colon M\to Y$ を、$X\times\{0\}$ の上で $g(x,0):=f(x)$、$A\times I$ の上で $g(a,t):=h(a,t)$ と定める。二つの式は $A\times\{0\}$ で一致する。$A$ が閉集合なので $X\times\{0\}$ と $A\times I$ はどちらも $M$ の閉集合であり、閉集合の上の連続写像の貼り合わせとして $g$ は連続である。$H:=g\circ r$ が求める延長である。
3:1 のレトラクション $r$ を $X\times I$ への写像とみると、$M=\{z\in X\times I\mid r(z)=z\}$ である。$X\times I$ は Hausdorff なので、二つの連続写像 $r$ と恒等写像が一致する点の集合 $M$ は閉集合である。$A\times\{1\}=M\cap(X\times\{1\})$ も閉集合なので、$A$ は $X$ の閉集合である。$\square$
2 の「$A$ が閉集合」は、貼り合わせた $g$ の連続性を保証するために使った。Hat02 Chapter 0(p. 14)は、付録のより込み入った議論でこの仮定を外せると述べている。この記事ではその場合を使わない。
$A$ が $X$ の閉集合で $(X,A)$ がホモトピー拡張性質をもてば、$(X\times I,\,A\times I)$ もホモトピー拡張性質をもつ。
thm-cof-retract の 1 のレトラクションを $r=(r_X,r_I)\colon X\times I\to X\times\{0\}\cup A\times I$ と書き、
$$
R(x,s,t):=\bigl(r_X(x,t),\,s,\,r_I(x,t)\bigr)\qquad(x\in X,\ s,t\in I)
$$
とおく($s$ は新しく掛けた $I$ の座標、$t$ はホモトピーの時刻)。$r_I(x,t)=0$ なら $R(x,s,t)\in(X\times I)\times\{0\}$、そうでなければ $r_X(x,t)\in A$ なので $R(x,s,t)\in(A\times I)\times I$ である。$r$ は $X\times\{0\}$ と $A\times I$ の上で恒等写像なので、$R$ は $(X\times I)\times\{0\}\cup(A\times I)\times I$ の上で恒等写像である。$A\times I$ は $X\times I$ の閉集合なので、thm-cof-retract の 2 により結論が従う。$\square$
$n\ge1$ について、$(D^n,S^{n-1})$ はホモトピー拡張性質をもつ。$D^n\times I\subset\mathbb{R}^{n}\times\mathbb{R}$ の点 $(x,t)$ を、点 $(0,2)$ を通る直線に沿って $D^n\times\{0\}\cup S^{n-1}\times I$ へ射影すると
$$
r(x,t):=\begin{cases}\Bigl(\dfrac{2x}{2-t},\ 0\Bigr) & (2\lvert x\rvert\le2-t),\\ \Bigl(\dfrac{x}{\lvert x\rvert},\ 2-\dfrac{2-t}{\lvert x\rvert}\Bigr) & (2\lvert x\rvert\ge2-t)\end{cases}
$$
となる。これはレトラクションであり、$S^{n-1}$ は閉集合なので、thm-cof-retract の 2 から結論が従う。$n=0$ では $S^{-1}=\emptyset$ なので、主張は自明である。
1 行目の場合は $\lvert 2x/(2-t)\rvert\le1$ なので値は $D^n\times\{0\}$ にある。2 行目の場合は $\lvert x\rvert\ge(2-t)/2\ge\tfrac12$ なので式が定まり、$\lvert x\rvert\le1\le2-t$ と $2\lvert x\rvert\ge2-t$ から $(2-t)/\lvert x\rvert\in[1,2]$、よって第 2 成分は $I$ に入り、値は $S^{n-1}\times I$ にある。$2\lvert x\rvert=2-t$ では両式とも $(x/\lvert x\rvert,0)$ で一致し、二つの場合はどちらも閉集合なので $r$ は連続である。$t=0$ なら 1 行目の場合で $r(x,0)=(x,0)$、$\lvert x\rvert=1$ なら 2 行目の場合で $r(x,t)=(x,t)$ なので、$r$ は $D^n\times\{0\}\cup S^{n-1}\times I$ の上で恒等写像である。
CW 複体 $X$ とその部分複体 $A$ について、$(X,A)$ はホモトピー拡張性質をもつ。この記事では証明しない(Hat02 Proposition 0.16, p. 15)。その証明は、ex-cof-disk と同じ射影を $A$ に属さない胞体ごとに次元の順に使い、$X\times\{0\}\cup A\times I$ への変位レトラクションを組み立てるものである。一点からなる $0$ 胞体は部分複体なので、CW 複体の各 $0$ 胞体は良い基点である。ウェッジ和の記事が基点に課す「良い基点」の条件は、この意味である。
連続写像 $f\colon Y\to Z$ の写像柱を $M_f:=\bigl((Y\times I)\sqcup Z\bigr)/\bigl((y,1)\sim f(y)\bigr)$ とし、商写像を $q$、$i(y):=q(y,0)$、$r(q(y,t)):=f(y)$、$r(q(z)):=z$ とする(Whiteheadの定理の記事の節「写像柱」と同じ記号)。このとき $i\colon Y\to M_f$ はコファイブレーションである。同記事の命題「写像柱の性質」により $r$ はホモトピー同値で $r\circ i=f$ だから、任意の連続写像は、コファイブレーションとホモトピー同値の合成 $f=r\circ i$ に分解できる。
$L:=(I\times\{0\})\cup(\{0\}\times I)\subset I\times I$ とする。連続写像 $\rho\colon I\times I\to L$ で、$L$ の上で恒等写像かつ $\rho(1,s)=(1,0)$($s\in I$)となるものがある。実際、$\varphi(t,0):=t$、$\varphi(0,s):=-s$ は $L$ から $[-1,1]$ への同相写像であり、閉集合 $L\cup(\{1\}\times I)$ の上の写像($L$ の上で $\varphi$、$\{1\}\times I$ の上で値 $1$。$(1,0)$ で一致する)を Tietzeの拡張定理 で $I\times I$ 全体へ $[-1,1]$ 値に延ばし、$\varphi^{-1}$ を合成すればよい。
$R\colon M_f\times I\to M_f\times I$ を $R(q(y,t),s):=\bigl(q(y,\rho_1(t,s)),\,\rho_2(t,s)\bigr)$、$R(q(z),s):=(q(z),0)$ で定める($\rho=(\rho_1,\rho_2)$)。$t=1$ では $\rho(1,s)=(1,0)$ なので $R(q(y,1),s)=(q(f(y)),0)=R(q(f(y)),s)$ となり、同一視と両立する。$I$ は局所コンパクトなので $q\times\mathrm{id}_I$ は商写像であり(Hat02 Appendix, Proposition A.17, p. 532)、$R\circ(q\times\mathrm{id}_I)$ は連続だから $R$ は連続である。$\rho$ の値は $L$ にあるので $R$ の値は $M_f\times\{0\}\cup i(Y)\times I$ にあり、$\rho$ は $L$ の上で恒等写像なので $R$ はこの集合の上で恒等写像である。$q^{-1}(i(Y))=Y\times\{0\}$ は閉集合なので $i(Y)$ は閉集合であり、thm-cof-retract の 2 から $(M_f,i(Y))$ はホモトピー拡張性質をもつ。Whiteheadの定理の記事の命題「写像柱の性質」の 1 により $i$ は $Y$ から $i(Y)$ への同相写像なので、$i$ はコファイブレーションである。
$A$ を位相空間 $X$ の閉集合とし、$(X,A)$ はホモトピー拡張性質をもつとする。包含 $i\colon A\hookrightarrow X$ がホモトピー同値ならば、$A$ は $X$ の強変位レトラクトである。
$g\colon X\to A$ を $i$ のホモトピー逆写像とする。証明は 3 段からなる。
段 1($g$ をレトラクションに取り替える).$g\circ i\simeq\mathrm{id}_A$ なので、ホモトピー $G\colon A\times I\to A$ で $G_0=g\circ i$、$G_1=\mathrm{id}_A$ となるものがある。ホモトピー拡張性質を $Y=A$、$f=g$、$h=G$ に使うと、$\Gamma\colon X\times I\to A$ で $\Gamma_0=g$、$\Gamma_t|_A=G_t$ となるものが得られる。$r:=\Gamma_1$ とおくと $r|_A=G_1=\mathrm{id}_A$ なので $r$ はレトラクションであり、$\Gamma$ により $r\simeq g$ である。よって $i\circ r\simeq i\circ g\simeq\mathrm{id}_X$ であり、ホモトピー $h\colon X\times I\to X$ で $h_0=i\circ r$、$h_1=\mathrm{id}_X$ となるものがとれる。
段 2($A$ の上で往復するホモトピー).
$$
k_t(x):=\begin{cases}h_{1-2t}(r(x)) & (0\le t\le\tfrac12),\\ h_{2t-1}(x) & (\tfrac12\le t\le1)\end{cases}
$$
とおく。$t=\tfrac12$ では両式とも $r(x)$ になる($h_0(r(x))=r(r(x))=r(x)=h_0(x)$)ので $k$ は連続で、$k_0=h_1\circ r=i\circ r$、$k_1=\mathrm{id}_X$ である。$a\in A$ では $r(a)=a$ なので $k_t(a)=h_{\lvert1-2t\rvert}(a)$ であり、$A$ の点の動きは、前半の道を後半でそのまま逆にたどって戻ってくる。
段 3(往復を打ち消す).$A$ の上の 2 変数のホモトピー
$$
\Phi(a,t,u):=h_{\max(u,\,\lvert1-2t\rvert)}(a)\qquad(a\in A,\ t,u\in I)
$$
は連続で、$\Phi(a,t,0)=k_t(a)$ を満たし、正方形 $I\times I$ の左辺 $t=0$・右辺 $t=1$・上辺 $u=1$ では $h_1(a)=a$ に等しい。lem-cof-product により $(X\times I,A\times I)$ はホモトピー拡張性質をもつので、$k\colon X\times I\to X$ を時刻 $u=0$ の写像、$\Phi$ を $A\times I$ の上の動きとして延長し、$\Psi\colon X\times I\times I\to X$ を得る。$\Psi$ を正方形の左辺・上辺・右辺に制限して順につなぐと、$\Psi(x,0,0)=k_0(x)=r(x)$ から $\Psi(x,1,0)=k_1(x)=x$ へのホモトピーで、$A$ の点をすべての時刻で動かさないものが得られる。その向きを逆にしたものが、$A$ への強変位レトラクションである。
つなぎ方を式で書くと、$s\in I$ について $L(x,s):=\Psi(x,0,3s)$($0\le s\le\tfrac13$)、$\Psi(x,3s-1,1)$($\tfrac13\le s\le\tfrac23$)、$\Psi(x,1,3-3s)$($\tfrac23\le s\le1$)である。境目では $\Psi(x,0,1)$ と $\Psi(x,1,1)$ で一致するので $L$ は連続で、$L(x,0)=r(x)$、$L(x,1)=x$ である。$a\in A$ なら $\Psi(a,t,u)=\Phi(a,t,u)$ は 3 辺の上で $a$ なので $L(a,s)=a$ である。$K(x,s):=L(x,1-s)$ とおけば $K_0=\mathrm{id}_X$、$K_1=i\circ r$ で、$K$ は $A$ の点を動かさない。$\square$
この定理と証明の筋は Hat02 Corollary 0.20(Proposition 0.19 の特別な場合、pp. 16–17)による。段 3 の 2 変数のホモトピー $\Phi$ は、同書の証明の図(正方形の中の V 字)を式にしたものである。
$A$ が $X$ の閉集合で $(X,A)$ がホモトピー拡張性質をもつとき、次の 3 条件は同値である。
1 から 2 は定義から従う。2 から 3 は変位レトラクトの記事の命題「変位レトラクトはホモトピー同値」である。3 から 1 は thm-cof-sdr である。$\square$
連続写像 $f\colon Y\to Z$ について、$f$ がホモトピー同値であることと、$i(Y)$ が写像柱 $M_f$ の強変位レトラクトであることは同値である(記号は ex-cof-mapping-cylinder のとおり)。
$r$ のホモトピー逆写像を $j$ とすると、$f=r\circ i$ と $j\circ r\simeq\mathrm{id}$ から $i\simeq j\circ f$ である。ホモトピー同値の合成はホモトピー同値であり、ホモトピー同値にホモトピックな写像もホモトピー同値なので、$f$ がホモトピー同値なら $i$ もそうであり、逆に $i$ がホモトピー同値なら $f=r\circ i$ もそうである。$i$ は $Y$ から $i(Y)$ への同相写像との合成なので、$i$ がホモトピー同値であることは包含 $i(Y)\hookrightarrow M_f$ がホモトピー同値であることと同値である。ex-cof-mapping-cylinder により $i(Y)$ は閉集合で $(M_f,i(Y))$ はホモトピー拡張性質をもつから、cor-cof-three-conditions により結論が従う。$\square$
$(X,A)$ がホモトピー拡張性質をもち、$A$ が空でなく可縮空間ならば、商写像 $q\colon X\to X/A$ はホモトピー同値である。
$A$ は可縮なので、ホモトピー $c\colon A\times I\to A$ で $c_0=\mathrm{id}_A$、$c_1$ が一点 $a_0$ への定値写像となるものがある。ホモトピー拡張性質を $Y=X$、$f=\mathrm{id}_X$、$h=c$($X$ への写像とみる)に使い、$F\colon X\times I\to X$ で $F_0=\mathrm{id}_X$、$F_t|_A=c_t$ となるものをとる。
各 $t$ で $F_t(A)\subset A$ なので、$q\circ F_t$ は $A$ を一点に写し、$\bar F_t\circ q=q\circ F_t$ となる写像 $\bar F_t\colon X/A\to X/A$ が定まる。$I$ は局所コンパクトなので $q\times\mathrm{id}_I$ は商写像であり(Hat02 Appendix, Proposition A.17, p. 532)、$\bar F\circ(q\times\mathrm{id}_I)=q\circ F$ は連続だから、$\bar F\colon (X/A)\times I\to X/A$ は連続である。
$F_1(A)=\{a_0\}$ なので、$F_1$ は $q$ を通り、連続写像 $g\colon X/A\to X$ で $g\circ q=F_1$ となるものがある。このとき
$$
g\circ q=F_1\simeq F_0=\mathrm{id}_X
$$
である。また $q\circ g\circ q=q\circ F_1=\bar F_1\circ q$ で $q$ は全射なので $q\circ g=\bar F_1$ であり、$\bar F$ により $q\circ g=\bar F_1\simeq\bar F_0=\mathrm{id}_{X/A}$ である。よって $g$ は $q$ のホモトピー逆写像である。$\square$
この定理は Hat02 Proposition 0.17(pp. 15–16)である。
有限の連結なグラフを 1 次元 CW 複体とみたもの $G$ と、その全域木 $T$ を考える。$T$ は部分複体なので $(G,T)$ はホモトピー拡張性質をもち(ex-cof-cw)、有限の木は可縮である(可縮空間の記事の例「木の例」)。よって thm-cof-quotient により $G\to G/T$ はホモトピー同値である。$G/T$ は $0$ 胞体が 1 つの 1 次元 CW 複体、すなわち $T$ に含まれない辺の数だけの円周のウェッジ和である。たとえば $G$ が 4 頂点の完全グラフなら、辺 6 本のうち全域木の辺は 3 本なので、$G$ は円周 3 つのウェッジ和とホモトピー同値である。
$X:=\{0\}\cup\{1/n\mid n\ge1\}\subset\mathbb{R}$、$A:=\{0\}$ とする。$A$ は閉集合だが、$(X,A)$ はホモトピー拡張性質をもたない。
実際、thm-cof-retract の 1 により、$M:=X\times\{0\}\cup A\times I$ へのレトラクション $r\colon X\times I\to M$ がないことを示せばよい。$r$ があったとする。各 $n$ について $\{1/n\}\times I$ は $X\times I$ の開集合で、$M$ とは点 $(1/n,0)$ だけで交わるので、$\{(1/n,0)\}$ は $M$ の開かつ閉な部分集合である。連結な $\{1/n\}\times I$ の像は $r(1/n,0)=(1/n,0)$ を含む連結集合なので、この一点に含まれ、$r(1/n,1)=(1/n,0)$ となる。$n\to\infty$ のとき $(1/n,1)\to(0,1)$ だが、$r(1/n,1)=(1/n,0)\to(0,0)\ne(0,1)=r(0,1)$ なので、$r$ の連続性に反する。
$X$ は CW 複体ではない($X$ は可算なので、開胞体が非可算集合になる $1$ 次元以上の胞体をもてない。よって CW 複体なら $0$ 胞体だけからなり離散空間になるが、$X$ は $0$ の近くで離散でない)ので、ex-cof-cw とは矛盾しない。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| $(X,A)$ がホモトピー拡張性質をもつ | くし空間 $C$ と $A=\{(0,1)\}$ | 包含がホモトピー同値なら $A$ は強変位レトラクト(thm-cof-sdr) |
| 包含 $A\hookrightarrow X$ がホモトピー同値 | $X=I$、$A=\{0,1\}$ | $A$ は強変位レトラクト(thm-cof-sdr) |
| $A$ が可縮 | $X=I$、$A=\{0,1\}$ | $X\to X/A$ がホモトピー同値(thm-cof-quotient) |
| $X$ が CW 複体で $A$ が部分複体 | ex-cof-sequence の $X$ と $A=\{0\}$ | 閉部分空間 $A$ との対がホモトピー拡張性質をもつ(ex-cof-cw) |
どの行でも $A$ は閉集合で、外す条件以外の仮定は満たされている。
1 行目:くし空間 $C$ は可縮なので(同記事の系「くし空間は可縮である」)、一点の包含 $\{(0,1)\}\hookrightarrow C$ はホモトピー同値である(可縮空間の記事の命題「一点とのホモトピー同値による特徴づけ」)。一方、$\{(0,1)\}$ は $C$ の強変位レトラクトではない(くし空間の記事の命題「点 $(0,1)$ は変位レトラクトだが強変位レトラクトではない」)。thm-cof-sdr の結論が成り立たないので、$(C,\{(0,1)\})$ はホモトピー拡張性質をもたない。
2 行目:$(I,\{0,1\})$ は $1$ 次元 CW 複体と部分複体の対なので、ホモトピー拡張性質をもつ(ex-cof-disk の $n=1$ を $[-1,1]\cong I$ で写したものでもある)。$A=\{0,1\}$ は弧状連結成分を 2 つもち、$I$ は弧状連結なので、包含はホモトピー同値でない(ホモトピー同値は弧状連結成分の集合の全単射を誘導する)。$A$ は $I$ のレトラクトでもない(連結な $I$ の連続像は連結だから、$I$ から $A$ への全射な連続写像はない)。
3 行目:$A=\{0,1\}$ は弧状連結でないので可縮でない。$I/\{0,1\}$ は $t\mapsto(\cos2\pi t,\sin2\pi t)$ が誘導するコンパクト空間から Hausdorff 空間への連続な全単射により円周 $S^1$ と同相である。$I$ は可縮だが、$S^1$ は基本群が $\mathbb{Z}$ なので(基本群の記事の定理「円周の基本群」)可縮でなく、$q\colon I\to S^1$ はホモトピー同値でない。
4 行目:ex-cof-sequence で示した。
モデル圏では「コファイブレーション」はモデル構造が指定する射のクラスの名前であり、この記事の Hurewicz コファイブレーションとは別に定義される。位相空間の圏の Quillen のモデル構造(Hov99 Definition 2.4.3、Theorem 2.4.19)では、弱同値は弱ホモトピー同値、ファイブレーションはすべての $D^n\times\{0\}\hookrightarrow D^n\times I$ に対する右持ち上げ性質をもつ写像(Serre ファイブレーション)であり、コファイブレーションは、ファイブレーションかつ弱同値である射すべてに対する左持ち上げ性質をもつ射である(モデル圏の記事の命題「持ち上げ性質による四つのクラスの特徴づけ」)。
位相空間の圏の Quillen のモデル構造のコファイブレーションは、この記事の意味のコファイブレーションである。
要点:ホモトピー拡張性質は、道の空間の評価写像 $e_0\colon Y^I\to Y$ に対する左持ち上げ性質と言い換えられ、$e_0$ はファイブレーションかつ弱同値である。
$Y^I$ を $I$ から $Y$ への連続写像の空間(コンパクト開位相)、$e_0(\gamma):=\gamma(0)$ とする。$I$ は局所コンパクト Hausdorff なので、コンパクト開位相の記事の定理「指数法則」により、ホモトピー $Z\times I\to Y$ と連続写像 $Z\to Y^I$ は 1 対 1 に対応する。この対応で、ホモトピー拡張性質の延長 $H$ を探すことは、可換な四角形(上辺 $A\to Y^I$ が $h$、下辺 $X\to Y$ が $f$)の対角線 $X\to Y^I$ を探すことと同じである。よって、$i$ がすべての $Y$ について $e_0$ に対する左持ち上げ性質をもてば、$i$ はコファイブレーションである。
$e_0$ がファイブレーションであること:$D^n\times\{0\}\hookrightarrow D^n\times I$ と $e_0$ の四角形は、上と同じ対応で、$D^n\times(\{0\}\times I\cup I\times\{0\})$ の上の写像を $D^n\times I\times I$ へ延ばす問題になる。ex-cof-mapping-cylinder の確かめで作った $L=(I\times\{0\})\cup(\{0\}\times I)$ へのレトラクション $\rho$ を合成すれば延ばせる。$e_0$ がホモトピー同値であること:定値な道への写像 $c\colon Y\to Y^I$ は $e_0\circ c=\mathrm{id}_Y$ を満たし、$c\circ e_0$ は道を縮めるホモトピー $(\gamma,s)\mapsto\bigl(t\mapsto\gamma((1-s)t)\bigr)$(指数法則により連続)で $\mathrm{id}$ とホモトピックである。ホモトピー同値は弱ホモトピー同値である(弱ホモトピー同値の記事の命題「ホモトピー同値は弱ホモトピー同値」)。よって $e_0$ はファイブレーションかつ弱同値であり、Quillen のコファイブレーションはこれに対する左持ち上げ性質をもつから、上の段落によりコファイブレーションである。$\square$
Mathpediaは寄付と、参考文献の書籍リンク(Amazonアソシエイト)の紹介料で運営されています。 支援について / 寄付する