完全整閉(completely integrally closed)とは、整域 $A$ の性質で、分数体の元 $x$ のうち、ある $0$ でない $a\in A$ についてすべての冪 $ax^n$ が $A$ に入るもの(概整な元)がすべて $A$ に属することをいう。整な元は概整なので完全整閉整域は整閉であり、Noether 整域では二つの条件は一致する。付値環が完全整閉であることは Krull 次元が $1$ 以下であることと同値で、値群が 2 段の付値環は整閉だが完全整閉でない。完全整閉性は多項式環と形式的冪級数環に遺伝する。
整閉整域 は、分数体の元のうち整なもの(整拡大)、すなわち環の元を係数とするモニック多項式の根になるものがすでに環に入っている整域である。これより強い条件として、分数体の元 $x$ の冪 $x,x^2,x^3,\dots$ が「共通の分母」を持つ、つまりある $0$ でない $a$ について $ax^n$ がすべて環に入るなら $x$ 自身が環に入る、という条件を課したものが完全整閉(completely integrally closed)である。冪の分母が一様に抑えられる元を概整(almost integral)な元という。
整な元は概整なので、完全整閉整域は整閉である。Noether環 では逆に概整な元は整になり、二つの条件は一致する。違いが現れるのは Noether でない環で、典型は値群が 2 段の付値環である。付値環はいつも整閉だが、完全整閉であることは Krull次元 が $1$ 以下であることと同値になる。この記事では、これらの事実と、完全整閉性が多項式環・形式的冪級数環に遺伝することを証明する。
以下、$A$ は整域、$K=\operatorname{Frac}A$ はその分数体とする。
$x\in K$ が $A$ 上概整(almost integral)であるとは、$0$ でない $a\in A$ があって、すべての $n\ge1$ について $ax^n\in A$ となることをいう。$K$ の元で $A$ 上概整なものがすべて $A$ に属するとき、$A$ は完全整閉(completely integrally closed)であるという。
$a\in A$ なので、条件は $n\ge0$ について $ax^n\in A$ と言っても同じである。$x=b/c$($b,c\in A$、$c\ne0$)と書くと、$c\,x^1\in A$ だが、$c\,x^n$ がすべての $n$ で $A$ に入るとは限らない。概整とは、どの冪についても同じ分母 $a$ で足りることである。
$A$ 上概整な $K$ の元の全体は、$A$ を含む $K$ の部分環である。
$A$ の元 $x$ は $a=1$ で概整である。$x,y$ が概整で、$ax^n\in A$、$by^n\in A$($a,b\ne0$、すべての $n\ge0$)とする。$ab\ne0$ であり、
$$
ab(x+y)^n=\sum_{j=0}^n\binom nj(ax^j)(by^{n-j})\in A,\qquad ab(xy)^n=(ax^n)(by^n)\in A
$$
となる。$-x$ についても $a(-x)^n=\pm ax^n\in A$ である。$\square$
この部分環を $A$ の完全整閉包(complete integral closure)という。$A$ が完全整閉であることは、完全整閉包が $A$ に等しいことである。
2 により、離散付値環の族の交わりとして定義される Krull 環も完全整閉である(Mat89 §12、p. 86)。
付値環 $V$ とは、整域 $V$ で、分数体 $K$ の $0$ でない元 $x$ について $x\in V$ か $x^{-1}\in V$ の少なくとも一方が成り立つものである。付値環は局所環で、その極大イデアル $\mathfrak m$ は非単元の全体であり、付値環は整閉である(付値環 の命題「付値環の局所性」「付値環は整閉」)。
付値環 $V$ について、$V$ が完全整閉であることと、$V$ の Krull次元 が $1$ 以下であることは同値である。
概整でない元が現れる仕組みは、二つの「無限小の段階」があることである。次元が $2$ 以上なら、$0$ と極大イデアルのあいだに素イデアル $\mathfrak p$ があり、$\mathfrak p$ の元 $a$ は $\mathfrak m\setminus\mathfrak p$ の元 $b$ のどの冪よりも「小さい」。このとき $a/b^n$ はすべて $V$ に入り、$b^{-1}$ が概整になる。
次元が $2$ 以上なら完全整閉でない。 素イデアルの真の鎖 $0\subsetneq\mathfrak p\subsetneq\mathfrak q$ を取る。$\mathfrak q\subset\mathfrak m$ なので $\mathfrak p\subsetneq\mathfrak m$ である。$0\ne a\in\mathfrak p$ と $b\in\mathfrak m\setminus\mathfrak p$ を取る。各 $n\ge1$ について $b^n\notin\mathfrak p$ である($\mathfrak p$ は素イデアル)。付値環の定義により $a/b^n\in V$ か $b^n/a\in V$ のどちらかが成り立つが、後者なら $b^n=a\cdot(b^n/a)\in\mathfrak p$ となって矛盾する。よって $a(b^{-1})^n\in V$ がすべての $n$ で成り立ち、$b^{-1}$ は $V$ 上概整である。$b$ は非単元なので $b^{-1}\notin V$ であり、$V$ は完全整閉でない。
次元が $1$ 以下なら完全整閉である。 次元が $0$ なら、整域 $V$ の素イデアルは $0$ だけなので $\mathfrak m=0$、$V$ は体で $V=K$ である。次元が $1$ とし、$x\in K\setminus V$ が概整で、$0\ne a\in V$ について $ax^n\in V$(すべての $n$)であると仮定して矛盾を導く。$x\notin V$ なので $y=x^{-1}\in V$ で、$y$ は単元でない(単元なら $x\in V$)から $y\in\mathfrak m$ である。$ax^n\in V$ は $a\in y^nV$ を意味する。そこで
$$
\mathfrak q=\bigcap_{n\ge1}y^nV
$$
とおくと $a\in\mathfrak q$ である。$\mathfrak q$ が素イデアルで $y\notin\mathfrak q$ であることを示す。
$\mathfrak q$ はイデアルである。$y\in y^2V$ なら $y^{-1}\in V$ となって矛盾するので、$y\notin\mathfrak q$ であり、特に $\mathfrak q\ne V$ である。$u,w\in V$、$uw\in\mathfrak q$、$u\notin\mathfrak q$ とする。ある $k$ で $u\notin y^kV$ であり、$u\ne0$ なので、付値環の定義から $y^k/u\in V$ となる($u/y^k\in V$ なら $u\in y^kV$)。各 $n$ について $uw\in y^{n+k}V$ なので $uw=y^{n+k}c$($c\in V$)と書けて、
$$
w=\frac{y^{n+k}c}{u}=y^n\cdot c\cdot\frac{y^k}{u}\in y^nV
$$
となる。よって $w\in\mathfrak q$ であり、$\mathfrak q$ は素イデアルである。
$y\in\mathfrak m\setminus\mathfrak q$ なので $\mathfrak q\subsetneq\mathfrak m$ である。次元が $1$ の局所整域の素イデアルは $0$ と $\mathfrak m$ だけなので $\mathfrak q=0$ となり、$0\ne a\in\mathfrak q$ に矛盾する。$\square$
$k$ を体とし、付値環 の例「値群が2段の付値環」の付値環 $R\subset k(X,Y)$ を考える。付値は $v(X)=(1,0)$、$v(Y)=(0,1)$ で、値群 $\mathbb Z^2$ に辞書式順序を入れたものである。$R$ は付値環なので整閉である。各 $n\ge1$ で $v(X/Y^n)=(1,-n)>(0,0)$ なので $X\cdot(1/Y)^n\in R$ であり、$1/Y$ は $R$ 上概整である。他方 $v(1/Y)=(0,-1)<(0,0)$ なので $1/Y\notin R$ である。従って $R$ は完全整閉でなく、$1/Y$ は概整だが整でない元である($R$ は整閉なので、整なら $R$ に入るはずである)。付値環 の同じ例で示されているとおり $R$ の Krull 次元は $2$ 以上であり、thm-cic-valuation と合っている。
この例では $R$ は Noether 環でない(同じ例で、素イデアル $\{f\mid v(f)\ge(1,n)\text{ となる }n\text{ がある}\}\cup\{0\}$ が有限生成でないことが示されている)。prop-cic-integral の 2 により、Noether 整域ではこのような元は現れない。
$A$ が完全整閉整域なら、形式的冪級数環 $A[\![X]\!]$ と多項式環 $A[X]$ も完全整閉である。
$K((X))$ を $K$ 係数の形式的 Laurent 級数の体とし、$0$ でない元 $f=\sum_{i\ge m}c_iX^i$($c_m\ne0$)の位数を $\operatorname{ord}f=m$ とする。$\operatorname{ord}(fg)=\operatorname{ord}f+\operatorname{ord}g$ である。$A[\![X]\!]\subset K[\![X]\!]\subset K((X))$ なので、$A[\![X]\!]$ と $A[X]$ の分数体は $K((X))$ の部分体とみなせる。証明では、冪級数の係数を低い次数から一つずつ取り出し、各係数が $A$ 上概整であることを示す。
形式的冪級数環。 $x\in\operatorname{Frac}(A[\![X]\!])$ が概整で、$0\ne h\in A[\![X]\!]$ についてすべての $n\ge1$ で $hx^n\in A[\![X]\!]$ とする。$x\ne0$ としてよい。$\operatorname{ord}(hx^n)=\operatorname{ord}h+n\operatorname{ord}x\ge0$ がすべての $n$ で成り立つので $\operatorname{ord}x\ge0$、すなわち $x=\sum_{i\ge0}c_iX^i\in K[\![X]\!]$ である。$h$ の最低次の項を $bX^k$($0\ne b\in A$)とする。
$i\ge0$ について、$c_0,\dots,c_{i-1}\in A$ と
$$
y_i=\frac{x-\sum_{j< i}c_jX^j}{X^i}=c_i+c_{i+1}X+\cdots\in K[\![X]\!],\qquad hy_i^n\in A[\![X]\!]\ (n\ge1)
$$
が成り立つことを $i$ についての帰納法で示す。$i=0$ では $y_0=x$ である。$i$ で成り立つとする。$hy_i^n$ の $X^k$ の係数は $bc_i^n$ であり、これが $A$ に入るので $c_i$ は $A$ 上概整であり、$A$ は完全整閉だから $c_i\in A$ である。次に $y_i-c_i=Xy_{i+1}$ であり、
$$
X^nhy_{i+1}^n=h(y_i-c_i)^n=\sum_{j=0}^n\binom nj(hy_i^j)(-c_i)^{n-j}\in A[\![X]\!]
$$
となる($j=0$ の項は $h(-c_i)^n$ で、これも $A[\![X]\!]$ に入る)。$hy_{i+1}^n\in K[\![X]\!]$ に $X^n$ を掛けたものの係数がすべて $A$ に入るので、$hy_{i+1}^n$ の係数もすべて $A$ に入る。これで $i+1$ の場合が示された。従ってすべての $c_i$ が $A$ に属し、$x\in A[\![X]\!]$ である。
多項式環。 $x\in K(X)=\operatorname{Frac}(A[X])$ が概整で、$0\ne h\in A[X]$ について $hx^n\in A[X]$(すべての $n$)とする。$x=u/w$ を $K[X]$ での既約な表示($u,w$ は互いに素、$w$ はモニック)とすると、$w^n$ は $hu^n$ を割り、$u$ と互いに素なので $h$ を割る。これがすべての $n$ で成り立つので $\deg w=0$、すなわち $x\in K[X]$ である。他方、$h\in A[\![X]\!]$、$hx^n\in A[\![X]\!]$ なので $x$ は $A[\![X]\!]$ 上概整であり、前半により $x\in A[\![X]\!]$ である。係数を比べれば $x\in A[\![X]\!]\cap K[X]=A[X]$ を得る。$\square$
$K[X]$ での議論は、$K[X]$ が単項イデアル整域であることだけを使っている。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| $A$ が Noether 環(prop-cic-integral の 2) | ex-cic-rank-two の付値環 $R$ と $x=1/Y$ | 概整な元が整である |
| Krull 次元が $1$ 以下(thm-cic-valuation) | 同じ $R$(付値環で、次元は $2$ 以上) | 付値環が完全整閉である |
1 行目の $R$ は整域で、$x=1/Y$ は分数体の元なので、外れているのは Noether 性だけである。2 行目の $R$ は付値環であり、外れているのは次元の条件だけである。
概整な元の定義、整な元が概整であること、Noether 環では逆が成り立つことは Mat89 の §9 の演習 9.4、完全整閉の定義と、完全整閉性が $A[\![X]\!]$ に遺伝することは同じ箇所の演習 9.5(どちらも p. 69)にある。Krull 環が完全整閉であることは同書 §12(p. 86)に述べられている。これらは演習または証明の付かない言及なので、この記事では証明をすべて書いた。付値環の次元による特徴づけ(thm-cic-valuation)と多項式環への遺伝もこの記事で証明した。
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