指標(表現論)(character (representation theory))とは、群 $G$ の有限次元表現 $\rho$ に対して、各元 $g$ に跡 $\operatorname{tr}\rho(g)$ を対応させる関数のことで、共役な元で同じ値をとる類関数である。有限群の複素表現では、既約表現の指標は類関数の空間の正規直交基底をなし、とくに既約表現の個数は共役類の個数に等しく、指標表の列についても第二直交関係が成り立つ。表現の重複度や既約性は指標の内積で判定でき、二つの表現は指標が等しいときに限り同値である。係数体の標数が正の場合、係数体が代数閉でない場合、群が無限の場合には、これらの判定が成り立たない例がある。
群の表現は行列の族であり、そのままでは基底の取り方によって形が変わる。行列の跡だけを残した関数が指標である。跡は基底を取り替えても変わらないので、指標は表現の同値類だけで決まる。有限群の複素表現では逆も成り立ち、指標を知れば表現が同値を除いて決まる。しかも既約表現の指標は、共役類の上で一定な関数の空間の正規直交基底になる。これにより、表現の分解の問題は、有限個の数を並べた表(指標表)の上の線形代数に置き換わる。この記事では、指標の定義と基本性質から始めて、二つの直交関係と既約指標の完全性を証明し、指標表の例と、仮定を外したときに崩れることを述べる。
以下、$G$ は群、$K$ は体とし、$G$ の $K$ 上の有限次元表現を $\rho\colon G\to\mathrm{GL}(V)$ と書く(群の表現)。
$G$ の有限次元表現 $(\rho,V)$ に対し、関数
$$
\chi_V\colon G\to K,\qquad \chi_V(g):=\operatorname{tr}\rho(g)
$$
を $V$ の指標(character)という。$\chi_V(1)=(\dim V)\cdot1$ であり、$\dim V$ を指標の次数という。既約表現の指標を既約指標という。
この定義は 群の表現 の定義「指標」と同じである。$\dim V=1$ のとき、$\rho(g)$ は $1\times1$ 行列なので $\chi_V=\rho$ は準同型 $G\to K^\times$ そのものである。可換群の指標(巡回群の指標と直交関係、Dirichlet指標)はこの 1 次元の場合にあたる。
$G$ 上の関数で、共役な元で同じ値をとるもの($f(hgh^{-1})=f(g)$)を類関数という。指標は類関数である(群の表現 の命題「指標の基本性質」の 2)。
有限群 $G$ と $K=\mathbb{C}$ の場合、$G$ 上の複素数値関数 $\varphi,\psi$ に対して
$$
\langle\varphi,\psi\rangle:=\frac{1}{\lvert G\rvert}\sum_{g\in G}\varphi(g)\overline{\psi(g)}
$$
とおく。これは $G$ 上の関数全体の空間の内積である。$G$ の共役類を $C_1,\dots,C_h$ とすると、類関数の空間 $\mathcal{C}(G)$ は各 $C_k$ の指示関数を基底にもつので、$\dim\mathcal{C}(G)=h$ である。
有限群 $G$ の $\mathbb{C}$ 上の既約指標 $\chi_1,\dots,\chi_r$ と共役類の代表元 $g_1,\dots,g_h$ について、$(i,k)$ 成分が $\chi_i(g_k)$ の表を $G$ の指標表(character table)という。
群の表現 の命題「指標の基本性質」の 4 項目(次数、類関数であること、直和で和になること、同値な表現の指標は等しいこと)に加えて、次が成り立つ。
$V,W$ を $G$ の有限次元表現とする。
要点:1・2 は行列の跡の計算、3・4 は $\rho(g)$ の固有値が $1$ の冪根であることと三角不等式による。
1:$V,W$ の基底 $(v_i)$、$(w_j)$ をとり、$\rho_V(g)=(a_{ii'})$、$\rho_W(g)=(b_{jj'})$ とする。$g(v_{i'}\otimes w_{j'})=\sum_{i,j}a_{ii'}b_{jj'}\,v_i\otimes w_j$ なので、基底 $v_i\otimes w_j$ に関する対角成分は $a_{ii}b_{jj}$ であり、跡は $\sum_{i,j}a_{ii}b_{jj}=\chi_V(g)\chi_W(g)$ である。2:転置は跡を変えないので $\operatorname{tr}\rho(g^{-1})^{\mathsf T}=\chi_V(g^{-1})$ である。
3:$\rho(g)^m=\rho(g^m)=\mathrm{id}$ なので、$\rho(g)$ の最小多項式は $x^m-1$ を割る。$x^m-1$ は $\mathbb{C}$ 上で相異なる $m$ 個の根をもつので、最小多項式は重根をもたず、$\rho(g)$ は対角化でき、固有値 $\lambda_1,\dots,\lambda_n$($n=\dim V$)は $1$ の $m$ 乗根である。$\rho(g^{-1})$ の固有値は $\lambda_i^{-1}=\overline{\lambda_i}$($\lvert\lambda_i\rvert=1$ による)なので $\chi_V(g^{-1})=\sum_i\overline{\lambda_i}=\overline{\chi_V(g)}$ である。三角不等式から $\lvert\chi_V(g)\rvert\le\sum_i\lvert\lambda_i\rvert=n$ である。
4:絶対値 $1$ の複素数 $\lambda_1,\dots,\lambda_n$ について $\lvert\sum_i\lambda_i\rvert=n$ となるのは、三角不等式の等号条件により全部が等しいときに限る。そのとき、対角化できる $\rho(g)$ の固有値がすべて $\lambda_1$ なので $\rho(g)=\lambda_1\mathrm{id}$ である。さらに $\sum_i\lambda_i=n$ なら $\lambda_1=1$ で $\rho(g)=\mathrm{id}$ である。逆は明らかである。$\square$
4 から、表現の核 $\ker\rho=\{g\mid\chi_V(g)=\chi_V(1)\}$ は指標だけで読み取れる。
ここから、$G$ は有限群、$K=\mathbb{C}$ とする。このとき、どの有限次元表現も既約表現の直和に分かれる(群の表現 の定理「有限群の実・複素表現の完全可約性」)。
次の補題は Frobenius相互律 の補題「射の空間の次元と指標」で証明されている。$\operatorname{Hom}_G(V,W)$ は $\operatorname{Hom}_{\mathbb{C}}(V,W)$ の $G$ 不変元の全体であり、平均をとる写像 $f\mapsto\frac{1}{\lvert G\rvert}\sum_g\rho_W(g)f\rho_V(g)^{-1}$ がその上への射影なので、次元はこの射影の跡として計算できる、というのが証明の筋である。
$V,W$ を $G$ の有限次元の複素表現とすると、
$$
\dim\operatorname{Hom}_G(V,W)=\langle\chi_W,\chi_V\rangle
$$
である。とくに $V=\mathbf 1$(自明表現)とすると、$G$ で固定されるベクトルの空間 $W^G$ について $\dim W^G=\langle\chi_W,\mathbf 1\rangle=\frac{1}{\lvert G\rvert}\sum_g\chi_W(g)$ である。
前半の証明は Frobenius相互律 の補題「射の空間の次元と指標」にある(Ser77 §2.3 の Theorem 3 は、この補題を経ずに、行列成分の直交性から thm-chr-first-orthogonality を導いている)。後半は $\operatorname{Hom}_G(\mathbf 1,W)\cong W^G$($f\mapsto f(1)$)による。
$V,W$ を $G$ の複素既約表現とすると
$$
\langle\chi_V,\chi_W\rangle=\begin{cases}1&(V\cong W)\\0&(V\not\cong W)\end{cases}
$$
である。すなわち、同値でない既約表現の指標は互いに直交し、既約指標の長さは $1$ である。
lem-chr-hom により $\langle\chi_V,\chi_W\rangle=\dim\operatorname{Hom}_G(W,V)$ である。群の表現 の定理「Schur の補題」により、既約表現の間の $0$ でない射は同型であり、$\mathbb{C}$ 上では既約表現の自己準同型はスカラー倍に限る。よって $V\not\cong W$ なら $\operatorname{Hom}_G(W,V)=0$ である。$V\cong W$ なら、同型 $\phi\colon W\to V$ を一つ固定すると、任意の $f\in\operatorname{Hom}_G(W,V)$ について $\phi^{-1}f$ は $W$ の自己準同型なのでスカラー $c$ 倍であり、$f=c\phi$ となる。したがって $\operatorname{Hom}_G(W,V)=\mathbb{C}\phi$ は $1$ 次元である。$\square$
$G$ の複素既約表現の同値類の代表を $W_1,\dots,W_r$、その指標を $\chi_1,\dots,\chi_r$ とする。$V$ を有限次元の複素表現とし、$V\cong W_1^{\oplus m_1}\oplus\cdots\oplus W_r^{\oplus m_r}$ と分解する。
$\chi_V=\sum_jm_j\chi_j$(群の表現 の命題「指標の基本性質」の 3・4)と thm-chr-first-orthogonality から、内積の線形性により 1 の $\langle\chi_V,\chi_i\rangle=\sum_jm_j\langle\chi_j,\chi_i\rangle=m_i$ と、3 の $\langle\chi_V,\chi_V\rangle=\sum_{i,j}m_im_j\langle\chi_i,\chi_j\rangle=\sum_im_i^2$ を得る。2:同値なら指標が等しい。逆に $\chi_V=\chi_{V'}$ なら、1 により両者の重複度がすべて一致するので $V\cong V'$ である。3 の後半:$m_i$ は $0$ 以上の整数なので、$\sum_im_i^2=1$ となるのはちょうど一つの $m_i$ が $1$ でほかが $0$ のときに限る。$\square$
$G$ の正則表現 $\mathbb{C}[G]$ の指標 $\chi_{\mathrm{reg}}$ は $\chi_{\mathrm{reg}}(1)=\lvert G\rvert$、$g\neq1$ で $\chi_{\mathrm{reg}}(g)=0$ である。各既約表現 $W_i$ は正則表現に重複度 $n_i:=\dim W_i$ で現れ、
$$
\sum_{i=1}^rn_i^2=\lvert G\rvert,\qquad \sum_{i=1}^rn_i\chi_i(g)=0\quad(g\neq1)
$$
が成り立つ。
要点:$g\neq1$ は基底 $\{e_x\}_{x\in G}$ を固定点なしに置換するので跡が $0$ になり、あとは cor-chr-multiplicity の 1 を使う。
正則表現では $g e_x=e_{gx}$ である。$g\neq1$ なら $gx\neq x$ なので置換行列の対角成分はすべて $0$ で、$\chi_{\mathrm{reg}}(g)=0$ である。$g=1$ では跡は $\lvert G\rvert$ である。cor-chr-multiplicity の 1 と prop-chr-basic の 3 により、重複度は $\langle\chi_{\mathrm{reg}},\chi_i\rangle=\frac{1}{\lvert G\rvert}\lvert G\rvert\overline{\chi_i(1)}=n_i$ である。よって $\chi_{\mathrm{reg}}=\sum_in_i\chi_i$ で、$1$ で値をとると $\lvert G\rvert=\sum_in_i^2$、$g\neq1$ で値をとると $0=\sum_in_i\chi_i(g)$ を得る。$\square$
thm-chr-first-orthogonality と cor-chr-multiplicity は Ser77 §2.3 の Theorem 3(p. 15)、Theorem 4 とその Corollary 1・2(p. 16)、Theorem 5(p. 17)、cor-chr-regular は §2.4 の Proposition 5 と Corollary 1・2(p. 18)にある。
thm-chr-first-orthogonality により、既約指標 $\chi_1,\dots,\chi_r$ は類関数の空間 $\mathcal{C}(G)$ の正規直交系である。とくに一次独立なので $r\le h$($h$ は共役類の個数)であり、既約表現の同値類は有限個である。次の定理は、これが基底であることを述べる。
有限群 $G$ の複素既約指標 $\chi_1,\dots,\chi_r$ は、類関数の空間 $\mathcal{C}(G)$ の正規直交基底である。とくに、$G$ の複素既約表現の同値類の個数 $r$ は、$G$ の共役類の個数 $h$ に等しい。
正規直交系であることは thm-chr-first-orthogonality による。張ることを示すには、すべての $\chi_i$ と直交する類関数 $f$ が $0$ であることを示せばよい(有限次元の内積空間では、正規直交系の張る部分空間の直交補空間が $0$ なら、その系は基底である)。
有限次元の複素表現 $(\rho,V)$ に対し、線形写像
$$
\rho_f:=\sum_{g\in G}\overline{f(g)}\,\rho(g)\colon V\to V
$$
を考える。$x\in G$ について、$f$ が類関数なので、和の変数を $g'=xgx^{-1}$ に取り替えて
$$
\rho(x)\rho_f\rho(x)^{-1}=\sum_{g}\overline{f(g)}\,\rho(xgx^{-1})=\sum_{g'}\overline{f(x^{-1}g'x)}\,\rho(g')=\sum_{g'}\overline{f(g')}\,\rho(g')=\rho_f
$$
となる。すなわち $\rho_f$ は $G$ の作用と可換である。
$V$ が既約で次数 $n$、指標 $\chi$ のとき、群の表現 の定理「Schur の補題」により $\rho_f=\lambda\,\mathrm{id}_V$ となる $\lambda\in\mathbb{C}$ がある。跡をとると
$$
n\lambda=\operatorname{tr}\rho_f=\sum_g\overline{f(g)}\chi(g)=\lvert G\rvert\,\langle\chi,f\rangle=\lvert G\rvert\,\overline{\langle f,\chi\rangle}=0
$$
なので $\lambda=0$、すなわち $\rho_f=0$ である。一般の $V$ は既約表現の直和に分かれ、$\rho_f$ は各直和因子の上でそれぞれの $\rho_f$ として働くので、やはり $\rho_f=0$ である。
これを正則表現 $\mathbb{C}[G]$ に当てはめ、基底ベクトル $e_1$ の像を計算すると
$$
0=\rho_f(e_1)=\sum_g\overline{f(g)}\,e_g
$$
である。$e_g$ は一次独立なので、すべての $g$ で $f(g)=0$ である。よって $f=0$ であり、$\chi_1,\dots,\chi_r$ は $\mathcal{C}(G)$ の基底である。基底の元の個数を比べて $r=\dim\mathcal{C}(G)=h$ を得る。$\square$
既約表現の個数が共役類の個数に等しいことは、群環 の命題「既約表現の個数と共役類の個数」で、群環の中心の次元を Wedderburn 分解と比べる方法でも示されている。上の証明は群環の構造定理を使わず、指標の計算だけで済ませるものである(Ser77 §2.5 の Proposition 6・Theorem 6・Theorem 7、p. 19)。
$g,g'\in G$ とし、$C_G(g)=\{x\in G\mid xg=gx\}$ を $g$ の中心化群とする。
$$
\sum_{i=1}^{h}\chi_i(g)\overline{\chi_i(g')}=\begin{cases}\lvert C_G(g)\rvert&(g\text{ と }g'\text{ が共役})\\0&(g\text{ と }g'\text{ が共役でない})\end{cases}
$$
が成り立つ。
共役類 $C_1,\dots,C_h$ の代表元 $g_1,\dots,g_h$ をとり、$h\times h$ 行列 $M$ を
$$
M_{ik}:=\sqrt{\frac{\lvert C_k\rvert}{\lvert G\rvert}}\;\chi_i(g_k)
$$
で定める。指標は類関数なので、thm-chr-first-orthogonality の内積は類ごとにまとめて
$$
\delta_{ij}=\langle\chi_i,\chi_j\rangle=\sum_{k=1}^h\frac{\lvert C_k\rvert}{\lvert G\rvert}\chi_i(g_k)\overline{\chi_j(g_k)}=(MM^*)_{ij}
$$
と書ける。thm-chr-completeness により既約指標の個数は $h$ なので $M$ は正方行列であり、$MM^*=I$ から $M^*M=I$ も従う(正方行列では右逆行列は左逆行列でもある)。$(M^*M)_{kl}=\delta_{kl}$ を書き下すと
$$
\frac{\sqrt{\lvert C_k\rvert\lvert C_l\rvert}}{\lvert G\rvert}\sum_{i=1}^h\overline{\chi_i(g_k)}\chi_i(g_l)=\delta_{kl}
$$
である。$g$ が $C_k$ に、$g'$ が $C_l$ に属するとき、$\chi_i(g)=\chi_i(g_k)$、$\chi_i(g')=\chi_i(g_l)$ である。$k\neq l$ なら和は $0$ である(複素共役をとっても $0$)。$k=l$ なら和は $\lvert G\rvert/\lvert C_k\rvert$ であり、共役類 $C_k$ は $G$ の共役作用による $g$ の軌道で、その固定部分群が $C_G(g)$ なので $\lvert C_k\rvert=\lvert G\rvert/\lvert C_G(g)\rvert$ である。$\square$
$g=g'=1$ とすると $\sum_i\chi_i(1)^2=\lvert G\rvert$ となり、cor-chr-regular が再び得られる。第二直交関係は Ser77 §2.5 の Proposition 7(p. 20)にあり、そこでは共役類の指示関数を既約指標で展開する方法で示されている。
指標の値は $1$ の冪根の和なので代数的整数であり(prop-chr-basic の 3。Ser77 §6.5 の Proposition 15、p. 52)、さらに既約表現の次数は $\lvert G\rvert$ を割り切る(同 Corollary 2、p. 52。この記事では証明しない)。この整数性は Burnsideのp^a q^b定理 の証明で使われる。
$S_3$ の共役類は $\{1\}$、互換 $3$ 個、長さ $3$ の巡回置換 $2$ 個の三つで、既約指標は自明指標・符号・2 次元表現の指標の三つである(表は 群の表現 の節「指標」)。表の 2 次元の行 $(2,0,-1)$ について $\langle\chi,\chi\rangle=\frac16(4+3\cdot0+2\cdot1)=1$ であり、cor-chr-multiplicity の 3 から既約であることが表だけで確かめられる。列について第二直交関係を確かめると、互換の列では $1^2+(-1)^2+0^2=2=\lvert C_{S_3}((1\,2))\rvert$ である。
位数 $8$ の二面体群 $D_4=\langle r,s\mid r^4=s^2=1,\ srs=r^{-1}\rangle$ と四元数群 $Q_8=\{\pm1,\pm i,\pm j,\pm k\}$ を比べる。共役類はどちらも 5 つで、大きさは $1,1,2,2,2$ である。
| $1$ | $z$ | $a$ | $b$ | $ab$ | |
|---|---|---|---|---|---|
| $\chi_1$ | $1$ | $1$ | $1$ | $1$ | $1$ |
| $\chi_2$ | $1$ | $1$ | $1$ | $-1$ | $-1$ |
| $\chi_3$ | $1$ | $1$ | $-1$ | $1$ | $-1$ |
| $\chi_4$ | $1$ | $1$ | $-1$ | $-1$ | $1$ |
| $\chi_5$ | $2$ | $-2$ | $0$ | $0$ | $0$ |
ここで $D_4$ では $z=r^2$、$a=r$、$b=s$、$ab=rs$、$Q_8$ では $z=-1$、$a=i$、$b=j$、$ab=k$ と読む。どちらでも交換子部分群は $\{1,z\}$ で、アーベル化は $(\mathbb{Z}/2\mathbb{Z})^2$ なので、$a,b$ の像に $\pm1$ を割り当てた 4 つの 1 次元指標 $\chi_1,\dots,\chi_4$ がある。thm-chr-completeness により既約指標はあと一つで、cor-chr-regular から次数は $\sqrt{8-4}=2$、値は $\sum_in_i\chi_i(g)=0$($g\neq1$)から決まる。たとえば $z$ では $4+2\chi_5(z)=0$ で $\chi_5(z)=-2$ である。
二つの表は一致するが、$D_4$ には位数 $2$ の元が $5$ 個あり、$Q_8$ には $-1$ の $1$ 個しかないので、$D_4\not\cong Q_8$ である。指標は表現を決めるが(cor-chr-multiplicity の 2)、指標表は群を決めない。
有限群 $G$ が有限集合 $X$ に作用するとき、$X$ の元を基底とする空間 $\mathbb{C}[X]$ に $g e_x=e_{gx}$ で作用させた表現を置換表現という(群の作用)。その指標は $\chi_X(g)=\lvert X^g\rvert$($g$ の固定点の個数)である。置換行列の対角成分が、固定される基底ベクトルの所だけ $1$ になるからである。
有限群 $G$ が有限集合 $X$ に作用しているとする。
要点:$\mathbb{C}[X]^G$ の次元は軌道の個数で、あとは lem-chr-hom と $\chi_{X\times X}=\chi_X^2$ を使う。
1:$v=\sum_xc_xe_x$ が $G$ で固定されるのは、$c$ が各軌道の上で一定のときに限る。よって軌道 $O$ ごとの $\sum_{x\in O}e_x$ が $\mathbb{C}[X]^G$ の基底で、その次元は軌道の個数である。lem-chr-hom の後半によりこれは $\langle\chi_X,\mathbf 1\rangle$ に等しい。
2:$\chi_X$ は実数値なので $\langle\chi_X,\chi_X\rangle=\frac{1}{\lvert G\rvert}\sum_g\lvert X^g\rvert^2$ である。$(X\times X)^g=X^g\times X^g$ なので、これは $X\times X$ への作用について 1 を適用した値である。
3:$u=\sum_xe_x$ は固定され、座標の和が $0$ の部分空間 $W$ は不変で、$\mathbb{C}[X]=\mathbb{C}u\oplus W$ である。よって $\chi_W=\chi_X-\mathbf 1$ である。推移的なので 1 により $\langle\chi_X,\mathbf 1\rangle=1$ であり、$X\times X$ の軌道の個数を $s$ とすると、2 により $\langle\chi_W,\chi_W\rangle=\langle\chi_X,\chi_X\rangle-2\langle\chi_X,\mathbf 1\rangle+\langle\mathbf 1,\mathbf 1\rangle=s-1$ である。対角 $\{(x,x)\}$ は一つの軌道をなし、$\lvert X\rvert\ge2$ なので対角の外にも軌道がある。よって $s\ge2$ で、$s=2$ は対角の外が一つの軌道、すなわち 2 重可移であることと同値である。cor-chr-multiplicity の 3 から、$W$ が既約であるのは $s-1=1$ のときに限る。$\square$
1 は Burnside の補題と呼ばれる数え上げの公式である。3 を対称群 $S_n$($n\ge2$)の $\{1,\dots,n\}$ への作用に当てはめると、この作用は 2 重可移なので、座標の和が $0$ の $n-1$ 次元表現(標準表現)は $\mathbb{C}$ 上既約である。$n\ge3$ のとき、これは 既約表現 の定理「標準表現の既約性」の $\mathbb{C}$ の場合と一致する。$n=3$ では $\chi_X=(3,1,0)$ から $\chi_X-\mathbf 1=(2,0,-1)$ で、ex-chr-s3 の 2 次元の行になる。
指標の定義は任意の群の有限次元表現に意味をもつ。コンパクト群 の有限次元連続表現では、Haar 測度による平均が有限群の $\frac{1}{\lvert G\rvert}\sum_g$ の代わりになり、既約表現の指標は $L^2(G)$ で正規直交系をなし、重複度は指標の内積で数えられる(コンパクト群 の定理「Schur の直交関係」の直後の段落)。円周群では既約指標は $z\mapsto z^m$($m\in\mathbb{Z}$)で、指標による展開は Fourier級数 である。
一般線形群 $GL_n(\mathbb{C})$ の既約な多項式表現の指標は、対角行列 $\operatorname{diag}(x_1,\dots,x_n)$ での値が Schur 多項式 $s_\lambda(x_1,\dots,x_n)$ で与えられ、対称群 $S_d$ の既約指標も Frobenius の指標公式によって Schur 多項式から読み取れる(Schur多項式 の定理「一般線形群と対称群の既約指標」)。対角化できる元の全体は $GL_n(\mathbb{C})$ で稠密であり、指標は連続な類関数なので、対角行列での値で指標が決まる。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 係数体の標数が $0$ | $G=\mathbb{Z}/p\mathbb{Z}$、$K=\overline{\mathbb{F}}_p$($\mathbb{F}_p$ の代数閉包)の正則表現と自明表現の $p$ 個の直和 | 指標が等しいのに同値でない(cor-chr-multiplicity の 2) |
| 係数体が代数閉体 | $\mathbb{Z}/3\mathbb{Z}$ の $\mathbb{R}^2$ 上の $120^\circ$ 回転による表現 | 既約なのに $\langle\chi,\chi\rangle=2$(cor-chr-multiplicity の 3) |
| 群が有限 | $\mathbb{Z}$ の表現 $n\mapsto\begin{pmatrix}1&n\\0&1\end{pmatrix}$ と自明表現の 2 個の直和 | 指標が等しいのに同値でない(cor-chr-multiplicity の 2) |
1 行目:正則表現 $K[G]$ の指標は、$1$ で $p\cdot1=0$、$g\neq1$ で $0$(固定点のない置換)である。自明表現の $p$ 個の直和の指標は至る所 $p\cdot1=0$ である。二つの指標はともに $0$ だが、固定ベクトルの空間は前者が $1$ 次元(prop-chr-permutation の 1 の証明と同じく、係数が一定のベクトル)、後者が $p$ 次元なので、同値でない。この例では標数が $\lvert G\rvert$ を割るが、標数 $p>0$ では $p$ が $\lvert G\rvert$ を割らなくても指標は表現を決めない。たとえば自明な群 $\{1\}$ の自明表現 $p$ 個の直和と零表現は、ともに指標 $0$ をもつ。
2 行目:生成元 $t$ を $120^\circ$ 回転 $R$ に送る。$R$ は実の固有ベクトルをもたないので $\mathbb{R}^2$ の不変な直線はなく、実の表現として既約である。指標は $(2,-1,-1)$($\operatorname{tr}R=2\cos120^\circ=-1$)で、$\frac13(4+1+1)=2$ である。$\mathbb{C}$ 上では $R$ は固有値 $\omega,\omega^2$($\omega=e^{2\pi i/3}$)の二つの 1 次元表現に分かれる。
3 行目:二つの表現の指標はともに定数 $2$ である。前者の固定ベクトルは $e_1$ の倍だけで、後者ではすべてのベクトルが固定されるので、同値でない。前者は不変な直線 $\mathbb{C}e_1$ をもつが補空間となる不変な直線をもたず、完全可約性もこの例で崩れる。
Mathpediaは寄付と、参考文献の書籍リンク(Amazonアソシエイト)の紹介料で運営されています。 支援について / 寄付する