曲線束

同義語:fibration in curves

概要

曲線束(fibration in curves)とは、1 次元の Dedekind スキーム $S$ 上の固有かつ平坦な射 $\pi\colon X\to S$ であって、$X$ が 2 次元の整スキームで $\pi_*\mathcal{O}_X=\mathcal{O}_S$ となるもので、生成ファイバーは $S$ の関数体上の曲線、閉ファイバーはその還元である。$X$ が正則なら、閉ファイバー $X_s=\sum_id_i\Gamma_i$ の既約成分の交叉行列は負半定値で、2 次形式の零点はファイバーの実数倍に限る(Zariski の補題)。$\mathbb{Z}$ 上の数論的曲面と、体上の曲線を底とする曲面のファイバー空間の両方を含み、曲線の還元、極小正則モデル、重複ファイバーの研究の基礎になる。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: Dedekind環, 固有射, 平坦射, 正則スキーム, Cartier因子, 交叉理論

代数体 $K$ 上の曲線 $C$、たとえば $\mathbb{Q}$ 上の楕円曲線を素数 $p$ で還元して調べるには、$C$ を $\mathbb{Z}$ 上のスキームに延ばし、各素数 $p$ の上のファイバーを見ればよい。こうして得られる、Dedekind 環(あるいは体上の曲線)の上で各ファイバーが曲線になる 2 次元のスキームが曲線束である。底が体上の曲線なら代数曲面の曲線へのファイバー空間であり、底が $\operatorname{Spec}\mathbb{Z}$ なら曲線の整数上のモデルである。両者は同じ枠組みで扱え、$X$ が正則なものは数論的曲面ともよばれる。生成ファイバーは元の曲線 $C$ で、閉ファイバーは $C$ の還元である。還元は滑らかとは限らず、閉ファイバーは重複度をもつ既約成分の和に分かれることがある。
この記事では曲線束を定義し、ファイバーの既約成分どうしの交叉数を調べる。主定理は、一つの閉ファイバーの成分が張る空間の上で交叉形式が負半定値であり、その零点がファイバー自身の実数倍に限るという定理(Zariski の補題とよばれる)である。例として $\mathbb{Z}$ 上の円錐曲線の族の交叉行列を計算し、仮定を外した反例を挙げる。
なお、射影平面の曲線の 1 次元の線形系も「曲線の束」(pencil)とよばれ、高校数学の 2曲線の交点を通る図形(束) の「束」はこの意味である。pencil は一般に基点をもち、それだけでは射を定めない。この記事の曲線束は射 $X\to S$ のことで、別の概念である。

定義

$S$ を 1 次元の Dedekind スキーム、すなわち連結な 1 次元の正則 Noether スキームとする(Liu06 p. 128。Dedekind 整域のスペクトルや、体上の滑らかな連結曲線がその例である)。$S$ の生成点を $\eta$、関数体を $K=K(S)$、閉点 $s$ の剰余体を $k(s)$ と書く。$\mathcal{O}_{S,s}$ は離散付値環である。

曲線束

$S$ を 1 次元の Dedekind スキームとする。$S$ 上の曲線束(fibration in curves)とは、固有(固有射)かつ平坦な射 $\pi\colon X\to S$ であって、$X$ が 2 次元の整スキームで、$\pi_*\mathcal{O}_X=\mathcal{O}_S$ となるものをいう。$X$ が正則スキームのとき正則な曲線束という。$X_\eta=X\times_S\operatorname{Spec}K$ を生成ファイバー、閉点 $s$ の上の $X_s=X\times_S\operatorname{Spec}k(s)$ を閉ファイバーという。

規約の違い
  1. Liu06 Definition 8.3.1(p. 347)は、整・射影的・平坦で 2 次元の $S$ スキームをファイバー曲面(fibered surface)とよび、$\pi_*\mathcal{O}_X=\mathcal{O}_S$ を課さない。正則なファイバー曲面を数論的曲面(arithmetic surface)とよぶ(同 Definition 8.3.14、p. 353)。
  2. $S$ がアフィンで $X$ が正則なら、ファイバーが 1 次元の固有平坦な射 $X\to S$ は射影的である(Lichtenbaum の定理、Liu06 Theorem 8.3.16、p. 353)。以下の主張はどれも閉点 $s$ のアフィン開近傍に制限して確かめられるので、正則な曲線束は数論的曲面として扱える。
  3. 生成ファイバーが $K$ 上幾何的に整なら $\pi_*\mathcal{O}_X=\mathcal{O}_S$ が成り立ち、また $\pi_*\mathcal{O}_X=\mathcal{O}_S$ なら生成ファイバーも閉ファイバーも幾何的に連結である(Liu06 Corollary 8.3.6、p. 350。射影的な場合)。この記事では証明しない。重複ファイバー の記事の注意「1 次元正則スキーム上の曲線束への拡張」は、この記事の正則な曲線束を曲線束とよんでいる。

ファイバーの形について、次の事実を使う。

ファイバーと因子(引用)

$\pi\colon X\to S$ を正則な曲線束とする。

  1. $X_\eta$ は $K$ 上の正則な射影曲線であり、各閉ファイバー $X_s$ は $k(s)$ 上の連結な射影曲線で、そのどの既約成分も 1 次元である。
  2. $X$ の 1 次元の既約閉集合は、閉ファイバーの既約成分(垂直な素因子)か、$X_\eta$ の閉点の閉包(水平な素因子、$S$ 上有限全射)のどちらかである。
  3. $X_\eta$ が $K$ 上滑らかなら、有限個を除くすべての閉点 $s$ で $X_s$ は $k(s)$ 上滑らかである。
  4. $X$ の Weil 因子と Cartier 因子は一致する。閉点 $s$ と $\mathcal{O}_{S,s}$ の素元 $t$ について、$X_s$ は $s$ の近傍で $\operatorname{div}(\pi^*t)$ となる有効 Cartier 因子であり、$X_s$ の既約成分を $\Gamma_1,\dots,\Gamma_r$、$\Gamma_i$ の生成点を $\xi_i$ とすると
    $$ X_s=\sum_{i=1}^rd_i\Gamma_i,\qquad d_i=\operatorname{length}\mathcal{O}_{X,\xi_i}/(t)\ge1 $$
    である。$d_i$ を $\Gamma_i$ の重複度という。
ファイバーの性質の出典

1 は Liu06 Lemma 8.3.3(p. 348)と Corollary 8.3.6(p. 350)、2 は Proposition 8.3.4(p. 349)、3 は Proposition 8.3.11(p. 352)、4 は Proposition 7.2.16(p. 271)と Lemma 8.3.9(pp. 351–352)による。この記事では証明しない。

垂直な因子の交叉数

この節では、$\pi\colon X\to S$ を($\pi_*\mathcal{O}_X=\mathcal{O}_S$ は仮定しない)数論的曲面、すなわち $X$ が正則な 2 次元整スキームで $\pi$ が射影的かつ平坦なものとし、$s$ を閉点、$\Gamma_1,\dots,\Gamma_r$ を $X_s$ の既約成分、$d_i$ をその重複度とする。$X_s$ に台をもつ Cartier 因子のなす群を $\operatorname{Div}_s(X)$ と書くと、これは $\Gamma_1,\dots,\Gamma_r$ を基底とする自由アーベル群である。
正則な 2 次元スキームの閉点 $x$ と、共通成分をもたない有効 Cartier 因子 $D,E$($x$ での局所方程式 $f,g$)について、$x$ での局所交叉数を
$$ i_x(D,E):=\operatorname{length}_{\mathcal{O}_{X,x}}\mathcal{O}_{X,x}/(f,g) $$
と定める。これは有限で、$x\notin D\cap E$ なら $f$ か $g$ が単元なので $0$、$x\in D\cap E$ なら $(f,g)\subset\mathfrak{m}_x$ なので $1$ 以上である(Liu06 Definition 9.1.1、p. 376)。

垂直な因子との交叉数(引用)

双線形写像 $\operatorname{Div}(X)\times\operatorname{Div}_s(X)\to\mathbb{Z}$、$(D,E)\mapsto D\cdot E$ で、次を満たすものがただ一つある。

  1. $D$ と $E$ が共通成分をもたない有効因子なら、$D\cdot E=\sum_xi_x(D,E)\,[k(x):k(s)]$($x$ は $X_s$ の閉点を動く)。
  2. $\operatorname{Div}_s(X)\times\operatorname{Div}_s(X)$ への制限は対称である。
  3. $D$ と $D'$ が線形同値なら $D\cdot E=D'\cdot E$。
  4. $0< E\le X_s$ なら $D\cdot E=\deg_{k(s)}\mathcal{O}_X(D)|_E$。
交叉数の出典と次数

これは Liu06 Theorem 9.1.12(pp. 381–382)である。この記事では証明しない。4 の次数は、$k(s)$ 上の射影曲線 $E$ の可逆層 $\mathcal{L}$ について $\deg\mathcal{L}=\chi(\mathcal{L})-\chi(\mathcal{O}_E)$ で定め(同 Definition 7.3.29、p. 282)、とくに $\deg\mathcal{O}_E=0$ である。$E^2:=E\cdot E$ を $E$ の自己交叉数という。

ファイバーとの交叉と成分どうしの交叉
  1. すべての $E\in\operatorname{Div}_s(X)$ について $X_s\cdot E=E\cdot X_s=0$ である。
  2. $i\ne j$ なら $\Gamma_i\cdot\Gamma_j\ge0$ であり、$\Gamma_i\cdot\Gamma_j>0$ となるのは $\Gamma_i\cap\Gamma_j\ne\emptyset$ のとき、かつそのときに限る。
  3. 各 $i$ について $d_i\,\Gamma_i^2=-\sum_{j\ne i}d_j\,\Gamma_j\cdot\Gamma_i$ である。
ファイバーは局所的に主因子

1:$\mathcal{O}_{S,s}$ の素元 $t\in K^\times$ をとる。$S$ 上の主因子 $\operatorname{div}(t)$ は $s$ と有限個のほかの閉点 $s_1,\dots,s_m$ の 1 次結合なので、$V:=S\setminus\{s_1,\dots,s_m\}$ とおくと、$t\in\mathcal{O}_S(V)$ で $V$ の上 $\operatorname{div}(t)=s$ である。$X_V:=\pi^{-1}(V)$ の上で Cartier 因子 $X_s$ は $\operatorname{div}(\pi^*t)$ に等しく、$\mathcal{O}_X(X_s)|_{X_V}$ は $1/\pi^*t$ で生成される自明な可逆層である。各成分 $\Gamma_i$ は $X_s\subset X_V$ に含まれるので $\mathcal{O}_X(X_s)|_{\Gamma_i}\cong\mathcal{O}_{\Gamma_i}$ であり、thm-fibration-in-curves-intersection の 4 により $X_s\cdot\Gamma_i=\deg\mathcal{O}_{\Gamma_i}=0$ である。$E=\sum_in_i\Gamma_i$ について、第 2 変数の線形性から $X_s\cdot E=0$、対称性(2)から $E\cdot X_s=0$ を得る。
2:$\Gamma_i$ と $\Gamma_j$ は相異なる素因子なので共通成分をもたず、thm-fibration-in-curves-intersection の 1 により $\Gamma_i\cdot\Gamma_j=\sum_xi_x(\Gamma_i,\Gamma_j)[k(x):k(s)]$ である。各項は $0$ 以上なので和も $0$ 以上である。$\Gamma_i\cap\Gamma_j$ は既約な曲線 $\Gamma_i$ の真の閉集合なので有限個の閉点からなり、それが空でなければその点 $x$ で $i_x\ge1$ となって和は正、空ならすべての項が $0$ である。
3:1 により $0=X_s\cdot\Gamma_i=\sum_jd_j\,\Gamma_j\cdot\Gamma_i=d_i\Gamma_i^2+\sum_{j\ne i}d_j\,\Gamma_j\cdot\Gamma_i$。$\square$

1 と 3 は Liu06 Proposition 9.1.21(p. 384)と同じ主張である。3 から、ファイバーが既約でなく $\Gamma_i$ がほかの成分と交わるなら $\Gamma_i^2< 0$ であることが分かる。

主定理:交叉行列の負半定値性

$V_s:=\operatorname{Div}_s(X)\otimes_{\mathbb{Z}}\mathbb{R}=\bigoplus_i\mathbb{R}\Gamma_i$ とおき、交叉数を実数係数に双線形に延ばす。$q(v):=v\cdot v$ は $V_s$ 上の2次形式で、その行列は交叉行列 $(\Gamma_i\cdot\Gamma_j)_{i,j}$ である。

交叉行列の負半定値性

$\pi\colon X\to S$ を数論的曲面、$s$ を閉点とする。

  1. $V_s$ 上の 2 次形式 $q$ は負半定値である:すべての $v\in V_s$ で $q(v)\le0$。
  2. $X_s$ が連結なら(とくに $\pi$ が正則な曲線束なら)、$q(v)=0$ となるのは $v\in\mathbb{R}X_s$ のとき、かつそのときに限る。したがって交叉形式の根基は $\mathbb{R}X_s$ で、$q$ は $V_s/\mathbb{R}X_s$ の上で負定値である。
  3. $X_s$ が連結であるとする。$r\ge2$ ならすべての $i$ で $\Gamma_i^2< 0$ であり、$r=1$ なら $\Gamma_1^2=0$ である。
平方和への書き換え

$a_{ij}:=\Gamma_i\cdot\Gamma_j$ とおく。対称性により $a_{ij}=a_{ji}$ である。$v=\sum_ix_i\Gamma_i\in V_s$ について $y_i:=x_i/d_i$ とおき、$b_{ij}:=d_id_ja_{ij}$ とすると
$$ q(v)=\sum_{i,j}a_{ij}x_ix_j=\sum_{i,j}b_{ij}\,y_iy_j $$
である。$b_{ij}=b_{ji}$ であり、lem-fibration-in-curves-fiber の 1 により各 $i$ で
$$ \sum_jb_{ij}=d_i\sum_jd_j\,\Gamma_i\cdot\Gamma_j=d_i\,(\Gamma_i\cdot X_s)=0 $$
である。そこで
$$ \sum_{i,j}b_{ij}(y_i-y_j)^2=\sum_i\Bigl(\sum_jb_{ij}\Bigr)y_i^2+\sum_j\Bigl(\sum_ib_{ij}\Bigr)y_j^2-2\sum_{i,j}b_{ij}y_iy_j=-2\,q(v) $$
となり、$i=j$ の項は $0$ なので
$$ q(v)=-\sum_{i< j}b_{ij}\,(y_i-y_j)^2 $$
を得る。
1:$i\ne j$ なら $b_{ij}=d_id_j\,\Gamma_i\cdot\Gamma_j\ge0$(lem-fibration-in-curves-fiber の 2)なので、右辺の各項は $0$ 以下であり、$q(v)\le0$ である。
2:$q(v)=0$ とすると、$b_{ij}>0$ となるすべての $i< j$ で $y_i=y_j$ である。$b_{ij}>0$ は $\Gamma_i\cap\Gamma_j\neq\emptyset$ と同値である(同補題の 2)。成分を頂点とし、交わる成分を辺で結んだグラフを考える。このグラフが連結でなければ、頂点を空でない 2 組に分けて、組をまたぐ成分が交わらないようにでき、それぞれの組の成分の和集合は $X_s$ を互いに交わらない空でない 2 つの閉集合に分けるので、$X_s$ は連結でない。よって $X_s$ が連結ならグラフは連結で、辺に沿って $y_i$ が等しいことからすべての $y_i$ は等しい。その共通の値を $\lambda$ とすると $x_i=\lambda d_i$、すなわち $v=\lambda X_s$ である。逆に $v=\lambda X_s$ なら同補題の 1 により $q(v)=\lambda^2X_s\cdot X_s=0$ である。根基 $\{v\mid v\cdot w=0\ (\forall w)\}$ は $q$ の零点に含まれるので $\mathbb{R}X_s$ に含まれ、同補題の 1 により $X_s$ は根基に入る。正則な曲線束の場合は、rem-fibration-in-curves-conventions の 3 により $X_s$ は連結である。
3:$r\ge2$ なら、$\Gamma_i$ は $\mathbb{R}X_s$ に入らない($X_s$ はすべての $\Gamma_j$ を正の係数で含む)ので、2 により $\Gamma_i^2=q(\Gamma_i)< 0$ である。$r=1$ なら $X_s=d_1\Gamma_1$ なので $\Gamma_1^2=d_1^{-2}\,X_s\cdot X_s=0$ である。$\square$

これは Liu06 Theorem 9.1.23(p. 385)であり、体上の曲面のファイバー空間の場合は 交叉理論 の記事の定理「交叉形式の符号」の 2 として引用されている。証明の要点は、$X_s\cdot\Gamma_i=0$ という $n$ 個の 1 次関係と、異なる成分の交叉数が非負であることだけから、2 次形式が平方和の符号を変えたものになることである。

数値的に自明な垂直因子

$X_s$ が連結であるとし、$m:=\gcd(d_1,\dots,d_r)$ とおく。$D\in\operatorname{Div}_s(X)$ について次が成り立つ。

  1. すべての $i$ で $D\cdot\Gamma_i=0$ となるのは、$D=\lambda X_s$($\lambda\in\mathbb{Q}$)のとき、かつそのときに限る。
  2. $D$ が 1 を満たすなら、$D$ は $X_s/m:=\sum_i(d_i/m)\Gamma_i$ の整数倍である。とくに $m=1$ なら $D$ は $X_s$ の整数倍である。
根基の整数点

1:すべての $i$ で $D\cdot\Gamma_i=0$ なら、双線形性によりすべての $w\in V_s$ で $D\cdot w=0$、とくに $q(D)=0$ なので、thm-fibration-in-curves-zariski の 2 により $D=\lambda X_s$($\lambda\in\mathbb{R}$)である。$D=\sum_in_i\Gamma_i$($n_i\in\mathbb{Z}$)と係数を比べて $\lambda=n_1/d_1\in\mathbb{Q}$。逆は lem-fibration-in-curves-fiber の 1 による。2:$\lambda m=p/q$($p,q$ は互いに素な整数、$q>0$)と書くと、$n_i=\lambda d_i=(p/q)(d_i/m)$ が整数なので $q$ はすべての $d_i/m$ を割り、$\gcd_i(d_i/m)=1$ から $q=1$ である。よって $D=p\,(X_s/m)$。$\square$

$m\ge2$ のとき $X_s$ は重複ファイバーであり(重複ファイバー)、$X_s/m$ はファイバーの「$1/m$」に当たる因子である。

例

射影直線の族

$X=\mathbb{P}^1_S\to S$ は正則な曲線束である。$S$ が正則で $\mathbb{P}^1_S\to S$ が滑らかなので $X$ は正則であり、アフィン開集合 $\operatorname{Spec}A\subset S$ の上で $H^0(\mathbb{P}^1_A,\mathcal{O})=A$(Har77 III 定理 5.1、p. 225)なので $\pi_*\mathcal{O}_X=\mathcal{O}_S$ である。閉ファイバーは既約な $\mathbb{P}^1_{k(s)}$ で重複度は $1$ なので、thm-fibration-in-curves-zariski の 3 により自己交叉数は $0$ である。

円錐曲線の退化

$n\ge2$ を平方因子をもたない整数とし、
$$ X=\operatorname{Proj}\mathbb{Z}[x,y,z]/(xy-nz^2)\longrightarrow S=\operatorname{Spec}\mathbb{Z} $$
とする。$X$ は正則な曲線束で、生成ファイバーは有理点 $(1:0:0)$ をもつ $\mathbb{Q}$ 上の非特異な円錐曲線である。

  • $p\nmid n$ なら、$X_p$ は $\mathbb{F}_p$ 上の非特異な円錐曲線 $xy=\bar nz^2$ で、既約である。自己交叉数は $0$ である。
  • $p\mid n$ なら、$X_p=V(xy)$ は 2 本の直線 $\Gamma_1=V(x)$、$\Gamma_2=V(y)$ の和で、重複度はどちらも $1$、2 本は 1 点 $P=(0:0:1)$ で交わる。$\Gamma_1\cdot\Gamma_2=1$、$\Gamma_1^2=\Gamma_2^2=-1$ で、交叉行列は
    $$ \begin{pmatrix}-1&1\\1&-1\end{pmatrix},\qquad q(a\Gamma_1+b\Gamma_2)=-(a-b)^2 $$
    である。$q$ は負半定値で、零点は $a=b$、すなわち $\mathbb{R}X_p$ である。
    この例は Liu06 Example 8.3.15(p. 353)にある。
    正則性と交叉数の確かめを開く

    曲線束であること。$f=xy-nz^2$ は $\mathbb{Z}[y,z]$ 上の $x$ の 1 次式で、係数 $y$ と $nz^2$ は互いに素なので既約、したがって素元であり、$A=\mathbb{Z}[x,y,z]/(f)$ は 3 次元の整域、$X=\operatorname{Proj}A$ は 2 次元の整スキームである。$A$ は $\mathbb{Z}$ 上捩れをもたないので $X\to S$ は平坦で、射影的である。生成ファイバー $xy=nz^2$ は $\overline{\mathbb{Q}}$ 上でも既約なので幾何的に整であり、rem-fibration-in-curves-conventions の 3 により $\pi_*\mathcal{O}_X=\mathcal{O}_S$ である。

    正則性。$D_+(x)\cong\operatorname{Spec}\mathbb{Z}[y,z]/(y-nz^2)\cong\operatorname{Spec}\mathbb{Z}[z]$ と $D_+(y)$ は正則である。$D_+(z)=\operatorname{Spec}\mathbb{Z}[x,y]/(xy-n)$ のうち $x$ が単元になる部分は $\operatorname{Spec}\mathbb{Z}[x,x^{-1}]$ と同型で正則、$y$ についても同様である。残る点は素イデアル $\mathfrak{P}\ni x,y$ で、$n=xy\in\mathfrak{P}$ から $\mathfrak{P}\cap\mathbb{Z}=p\mathbb{Z}$($p\mid n$)、よって $\mathfrak{P}=M:=(p,x,y)$ である。3 次元の正則局所環 $R=\mathbb{Z}[x,y]_M$ で $n=pm$($m$ は $p$ と素なので $R$ の単元)であり、$p\notin M^2$ なので $n\notin M^2$、$xy\in M^2$ から $f=xy-n\notin M^2$ となり、$R/(f)$ は正則である。

    ファイバー。$X_p=\operatorname{Proj}\mathbb{F}_p[x,y,z]/(xy-\bar nz^2)$。$p\nmid n$ なら、偏微分 $(y,x,-2\bar nz)$ と方程式が同時に消える点はない($x=y=0$ なら $\bar nz^2=0$ から $z=0$)ので非特異である。$p\mid n$ なら $X_p=\operatorname{Proj}\mathbb{F}_p[x,y,z]/(xy)$ は被約なので重複度は $1$ である。

    交叉数。$\mathcal{O}_{X,P}=R/(f)$ で $p=xy/m\in(x)$ なので、$\Gamma_1=V(p,x)$ のイデアルは $P$ で $x$ が生成し、同様に $\Gamma_2$ のイデアルは $y$ が生成する。$i_P(\Gamma_1,\Gamma_2)=\operatorname{length}\mathcal{O}_{X,P}/(x,y)=\operatorname{length}(\mathbb{Z}/n\mathbb{Z})_{(p)}=\operatorname{length}\mathbb{F}_p=1$、$k(P)=\mathbb{F}_p$ なので $\Gamma_1\cdot\Gamma_2=1$。lem-fibration-in-curves-fiber の 3 から $\Gamma_1^2=-\Gamma_2\cdot\Gamma_1=-1$、$\Gamma_2^2=-1$。

Liu06 Example 9.1.22(pp. 384–385)は、2 成分が 1 点で交叉数 $3$ で交わり、自己交叉数がどちらも $-3$ になる数論的曲面を与えている。交わる点が 1 つでも、局所交叉数は 1 より大きくなりうる。

反例の表

thm-fibration-in-curves-zariski の仮定を 1 つずつ外す。

外す条件反例成り立たなくなること
ファイバーの連結性($\pi_*\mathcal{O}_X=\mathcal{O}_S$)$X=\mathbb{P}^1_{\mathbb{Z}[i]}\to\operatorname{Spec}\mathbb{Z}[i]\to\operatorname{Spec}\mathbb{Z}$ の $p=5$ の上のファイバー零点が $\mathbb{R}X_s$ に限ること(2)
因子の台が 1 つのファイバーに含まれること$k$ を代数閉体、$X=\mathbb{P}^1_k\times\mathbb{P}^1_k\xrightarrow{\mathrm{pr}_1}S=\mathbb{P}^1_k$、$D=H+F$($H=\mathbb{P}^1_k\times\{\infty\}$、$F=\{0\}\times\mathbb{P}^1_k$)負半定値性(1)
反例の確かめ

1 行目。 $X$ は正則な 2 次元整スキームで、$\operatorname{Spec}\mathbb{Z}[i]\to\operatorname{Spec}\mathbb{Z}$ が有限平坦なので $X\to\operatorname{Spec}\mathbb{Z}$ は射影的かつ平坦であり、数論的曲面である。しかし $\pi_*\mathcal{O}_X=\mathbb{Z}[i]$ で、$\mathcal{O}_S$ と一致しない(ex-fibration-in-curves-p1 と同じ計算)。$-1\equiv4=2^2\pmod5$ なので $\mathbb{Z}[i]/(5)\cong\mathbb{F}_5\times\mathbb{F}_5$ であり、$X_5=\mathbb{P}^1_{\mathbb{F}_5}\sqcup\mathbb{P}^1_{\mathbb{F}_5}$ は交わらない 2 成分 $\Gamma_1,\Gamma_2$(重複度 $1$)からなる。lem-fibration-in-curves-fiber の 2 と 3 から $\Gamma_1\cdot\Gamma_2=0$、$\Gamma_1^2=\Gamma_2^2=0$ で、$q$ は恒等的に $0$ である。$q$ の零点は $V_5=\mathbb{R}^2$ 全体で、$\mathbb{R}X_5$ より大きい。負半定値性(1)は成り立っている。
2 行目。 $\mathrm{pr}_1$ は正則な曲線束である。射影曲面 $X$ 上の交叉理論(交叉理論、Har77 V 定理 1.1、p. 357)で、$H$ は交わらない $H'=\mathbb{P}^1_k\times\{0\}$ と線形同値なので $H^2=H\cdot H'=0$、同様に $F^2=0$、$H$ と $F$ は 1 つの $k$ 有理点で横断的に交わるので $H\cdot F=1$ である。よって $D^2=H^2+2H\cdot F+F^2=2>0$ となる。$D$ は水平な成分 $H$ を含み、$\operatorname{Div}_s(X)$ に入らない。

補足

曲線のモデル

$C$ を $K$ 上の正規な連結射影曲線とする。正規なファイバー曲面 $\mathcal{C}\to S$ と同型 $\mathcal{C}_\eta\cong C$ の組を $C$ の $S$ 上のモデルといい、$\mathcal{C}$ が正則なら正則モデルという(Liu06 Definition 10.1.1、p. 455)。$S$ がアフィンで $C$ が滑らかなら正則モデルが存在し(同 Proposition 10.1.8、p. 456。特異点解消 Liu06 Corollary 8.3.51 による)、種数が $1$ 以上なら極小正則モデルが一意に存在する(同 Theorem 9.3.21、p. 422。Lichtenbaum と Shafarevich による)。どれもこの記事では証明しない。極小正則モデルの閉ファイバーの成分の配置は、thm-fibration-in-curves-zariski のような交叉数の制約を使って分類される。楕円曲線の場合は Néronモデル と結びつく。

Brauer 群との関係

有限体上の曲線 $Y$ の上の曲線束 $X\to Y$ の Brauer 群は、生成ファイバーのヤコビアンの Tate–Shafarevich 群と比較される(Tate–Shafarevich群 の定理「曲線束の Brauer 群と Tate–Shafarevich 群」)。その比較の誤差には、各閉ファイバーの成分の重複度が局所的な項として現れる(重複ファイバー)。

関連項目

参考文献

[1]
Qing Liu, Algebraic Geometry and Arithmetic Curves, Paperback ed.(Oxford Graduate Texts in Mathematics 6), Oxford University Press, 2006, p. 128(Dedekind スキーム)、Proposition 7.2.16(p. 271)、Definition 7.3.29(p. 282)、Definition 8.3.1・Lemma 8.3.3・Proposition 8.3.4・Corollary 8.3.6・Lemma 8.3.9・Proposition 8.3.11・Definition 8.3.14・Example 8.3.15・Theorem 8.3.16(pp. 347–353)、Corollary 8.3.51(p. 365)、Definition 9.1.1(p. 376)、Theorem 9.1.12(pp. 381–382)、Proposition 9.1.21・Example 9.1.22・Theorem 9.1.23(pp. 384–385)、Theorem 9.3.21(p. 422)、Definition 10.1.1・Proposition 10.1.8(pp. 455–456)
[2]

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