Joyalの定理(準圏がKan複体である条件)

同義語:Joyal's theorem on quasi-categories and Kan complexes

概要

Joyalの定理(準圏がKan複体である条件)(Joyal's theorem on quasi-categories and Kan complexes)とは、準圏 $C$ について、ホモトピー圏 $hC$ が亜群であることと、$C$ が Kan 複体であることが同値であるという定理である。片側の外側のホーン $\Lambda^n_0$ だけ、または $\Lambda^n_n$ だけが埋まることとも同値になる。鍵は、辺 $\{0,1\}$ が同値である外側のホーン $\Lambda^n_0$ は準圏の中で必ず埋まるという持ち上げ定理で、ホーンを結で分解してスライスの間の右ファイブレーションの問題に移し、右ファイブレーションが同値を始点の側から持ち上げることから示される。この定理により Kan 複体はすべての射が可逆な∞圏と一致する。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 準圏, Kan複体, ∞圏のホモトピー圏, スライス圏(∞圏)

準圏(∞圏)は内側のホーンが埋まる単体的集合であり、Kan複体 はすべてのホーンが埋まる単体的集合である。Kan 複体では、ホモトピー圏のすべての射が可逆になる。Joyal の定理 はその逆を述べる:準圏 $C$ のホモトピー圏 $hC$ が亜群なら、$C$ は Kan 複体である。こうして Kan 複体は「すべての射が可逆な∞圏」(∞亜群)にほかならないことがわかり、位相空間のホモトピー型の模型としての Kan 複体が∞圏の理論の中に位置づけられる。
証明の鍵は、最初の辺が同値である外側のホーン $\Lambda^n_0$ は準圏の中で埋まる という持ち上げ定理である。この記事では、ホーンを結 $\star$ で分解してスライスの間の右ファイブレーションの持ち上げの問題に読み替え、右ファイブレーションが同値を始点の側から持ち上げることを示して、この定理を証明する。

主張

記号は 準圏 と ∞圏のホモトピー圏 に従う。準圏 $C$ の頂点を対象、辺 $f$ を $d_1f$ から $d_0f$ への射とよび、頂点 $x$ の退化した辺 $s_0x$ を $\mathrm{id}_x$ と書く。$hC$ は $C$ のホモトピー圏で、辺 $f$ の類を $[f]$ と書く。辺 $f$ が 同値 であるとは、$[f]$ が $hC$ の同型であることをいう(∞圏のホモトピー圏 の定義「同値の辺」)。

Joyalの定理

準圏 $C$ について、次は同値である。
(R1) ホモトピー圏 $hC$ は亜群である(すべての辺が同値である)。
(R2) $C$ は $0\le k< n$ のすべてのホーン $\Lambda^n_k\to C$ について延長条件を満たす。
(R3) $C$ は $0< k\le n$ のすべてのホーン $\Lambda^n_k\to C$ について延長条件を満たす。
(R4) $C$ は Kan 複体である。

証明の所在

これは HTT09 Proposition 1.2.5.1(p. 35)である。次の持ち上げ定理(HTT09 Proposition 1.2.4.3、p. 34)から従い、証明は節「証明」の prf-thm-joyal-main で与える。

Joyalの持ち上げ定理

$C$ を準圏、$f\colon x\to y$ を $C$ の辺とする。$f$ が同値であることと、すべての $n\ge2$ と、辺 $\{0,1\}$ を $f$ に送るすべての写像 $u\colon\Lambda^n_0\to C$ が $\Delta^n$ へ延びることは同値である。

低い次元での意味

$n=2$ の場合を読むと、$\Lambda^2_0$ は辺 $f\colon x\to y$ と辺 $h\colon x\to z$ の組であり、延長は「$g\circ f=h$ となる辺 $g\colon y\to z$ と、それを証言する $2$ 単体」である。$f$ が同値なら $g$ は $h\circ f^{-1}$ にあたる。持ち上げ定理は、この「同値で割る」操作が、すべての次元で整合的にできることを主張している。証明は節「証明」の prf-thm-joyal-lifting で与える。

準備

合成を証言する 2 単体

$2$ 単体 $\sigma$ で $d_2\sigma=f$、$d_0\sigma=g$、$d_1\sigma=h$ となるものがあれば $[g]\circ[f]=[h]$ である(∞圏のホモトピー圏 の定義「∞圏のホモトピー圏の定義」の合成)。逆向きには次が成り立つ。

証言の取り替え

準圏 $C$ の辺 $f\colon x\to y$、$g\colon y\to z$、$h\colon x\to z$ が $[g]\circ[f]=[h]$ を満たせば、$d_2\sigma=f$、$d_0\sigma=g$、$d_1\sigma=h$ となる $2$ 単体 $\sigma$ がある。

内側のホーン $\Lambda^2_1$ を埋めて、$d_2\sigma'=f$、$d_0\sigma'=g$ となる $2$ 単体 $\sigma'$ をとり、$h'=d_1\sigma'$ とおく。$[h']=[g][f]=[h]$ なので、$d_2\rho=h'$、$d_0\rho=\mathrm{id}_z$、$d_1\rho=h$ となる $2$ 単体 $\rho$ がある(∞圏のホモトピー圏 の定義「2単体によるホモトピー」)。頂点 $0,1,2,3$ を $x,y,z,z$ に送る内側のホーン $\Lambda^3_2$ を、面 $d_3=\sigma'$(頂点 $0,1,2$)、$d_1=\rho$(頂点 $0,2,3$)、$d_0=s_1g$(頂点 $1,2,3$。辺は $g,\mathrm{id}_z,g$)で定める。共有する辺は、辺 $\{1,2\}$ が $g$、辺 $\{0,2\}$ が $h'$、辺 $\{2,3\}$ が $\mathrm{id}_z$ で一致する。これを埋めた $3$ 単体の面 $\sigma:=d_2$(頂点 $0,1,3$)は、辺 $\{0,1\}=f$、$\{1,3\}=g$、$\{0,3\}=h$ をもつ。$\square$

スライスの間の右ファイブレーション

$0< k\le n$ のホーンを 右ホーン といい、右ホーンに対して右持ち上げ性質をもつ写像を 右ファイブレーション という(左ファイブレーションと右ファイブレーション、ホーンと充填条件 の定義「充填条件とファイブレーション」)。
単体的集合の結 $\star$ は 結(単体的集合) に従う。準圏 $C$ と写像 $p\colon K\to C$ について、スライス $C_{/p}$ は、$K$ 上で $p$ に一致する写像 $\Delta^m\star K\to C$ を $m$ 単体とする単体的集合である。単体的集合 $A$ から $C_{/p}$ への写像は、$K$ 上で $p$ に一致する写像 $A\star K\to C$ と、$A$ について自然に $1$ 対 $1$ に対応する(スライス圏(∞圏) の定義「スライスと余スライス」の後の説明、HTT09 Proposition 1.2.9.2、p. 42)。部分単体的集合 $K'\subset K$ について、$\Delta^m\star K'\subset\Delta^m\star K$ への制限は写像 $C_{/p}\to C_{/p|K'}$ を定める。$K'=\emptyset$ なら $C_{/\emptyset}=C$ であり、この写像は $\Delta^m\star K\to C$ を $\Delta^m$ に制限する射影である。

スライスの制限は右ファイブレーション

$C$ を準圏、$K'\subset K$ を単体的集合の単射、$p\colon K\to C$ を写像とする。このとき制限 $C_{/p}\to C_{/p|K'}$ は右ファイブレーションである。とくに $K'=\emptyset$ として、射影 $C_{/p}\to C$ は右ファイブレーションであり、$C_{/p}$ は準圏である。

$0< k\le m$ とする。上の対応により、右ホーン $\Lambda^m_k\subset\Delta^m$ に対する持ち上げの問題は、
$$ J:=(\Lambda^m_k\star K)\cup(\Delta^m\star K')\ \subset\ \Delta^m\star K $$
から $C$ への写像($K$ 上で $p$)を $\Delta^m\star K$ へ延ばす問題と同じである。$2$ つの部分の共通部分は $\Lambda^m_k\star K'$ なので(結(単体的集合) の命題「結は連結な余極限を保つ」の 3)、$J$ からの写像は、共通部分で一致する $2$ つの写像の組である。
内側ファイブレーションに対して左持ち上げ性質をもつ写像(内部アノダイン射)の全体を $\mathcal R$ とする。$\mathcal R$ は余積・押し出し・可算列の合成・レトラクトで閉じている(Kan–Quillenモデル構造 の補題「左持ち上げ性質で定まるクラスの閉包性」)。$K'\subset K$ が境界の包含 $\partial\Delta^r\subset\Delta^r$ のとき、結(単体的集合) の定理「境界とホーンの結」の 3 により $J\subset\Delta^m\star K$ はホーンの包含 $\Lambda^{m+r+1}_k\subset\Delta^{m+r+1}$ であり、$0< k\le m< m+r+1$ なので内側のホーンである。よって $\mathcal R$ に入る。一般の単射 $K'\subset K$ は境界の包含の余積の押し出しの可算列の合成なので(Kan–Quillenモデル構造 の補題「単射は単体を貼って作れる」)、右アノダイン射 の補題「胞体の移送」の 2 により、$J\subset\Delta^m\star K$ も $\mathcal R$ に入る。$C\to\Delta^0$ は内側ファイブレーションなので、$J\to C$ は $\Delta^m\star K$ へ延びる。
後半:右ファイブレーションは内側ファイブレーションであり、内側ファイブレーションの合成 $C_{/p}\to C\to\Delta^0$ は内側ファイブレーションである(ホーンと充填条件 の定理「右持ち上げ性質の閉包性」の (ii))。$\square$

この補題は 左ファイブレーションと右ファイブレーション の定理「スライスの射影は右ファイブレーション」の前半と同じ主張であり、そこでは余スライスの場合もあわせて述べている。

右ファイブレーションと同値

次の $2$ つの補題は、HTT09 Propositions 2.1.1.5・2.1.1.6(p. 59。左ファイブレーションについての主張)の向きを逆にしたものである。

同値の反映

$P\colon X\to Y$ を準圏の間の右ファイブレーションとし、$e\colon x\to x'$ を $X$ の辺とする。$P(e)$ が $Y$ の同値なら、$e$ は $X$ の同値である。

$P(e)$ の逆の類の代表 $g\colon P(x')\to P(x)$ をとる。$[P(e)]\circ[g]=[\mathrm{id}_{P(x')}]$ なので、lem-joyal-witness により、$d_2\sigma=g$、$d_0\sigma=P(e)$、$d_1\sigma=\mathrm{id}_{P(x')}$ となる $2$ 単体 $\sigma$ が $Y$ にある。$X$ の右ホーン $\Lambda^2_2$ を、$d_0=e$(頂点 $1,2$)、$d_1=\mathrm{id}_{x'}$(頂点 $0,2$)で定めると、共有する頂点 $2$ はどちらも $x'$ であり、その像は $\sigma$ の面 $d_0\sigma$、$d_1\sigma$ に一致する。$P$ は右ファイブレーションなので $\sigma$ の上の $2$ 単体 $\tau$ があり、$\tilde g:=d_2\tau\colon x'\to x$ は $P(\tilde g)=g$ と $[e]\circ[\tilde g]=[\mathrm{id}_{x'}]$ を満たす。つまり $[e]$ は右逆 $[\tilde g]$ をもつ。
$P(\tilde g)=g$ も $Y$ の同値なので、同じ議論を $\tilde g$ に使うと、$[\tilde g]$ も右逆 $[k]$ をもつ。$[\tilde g]$ は左逆 $[e]$ と右逆 $[k]$ をもつので同型であり、$[e]=[e][\tilde g][k]=[k]$ はその逆である。よって $e$ は同値である。$\square$

同値を始点の側から持ち上げる

$P\colon X\to Y$ を準圏の間の右ファイブレーションとし、$x$ を $X$ の頂点、$e\colon P(x)\to y$ を $Y$ の同値とする。このとき $x$ を始点とし $P(\tilde e)=e$ となる辺 $\tilde e$ が $X$ にある。

$e$ の逆の類の代表 $g\colon y\to P(x)$ をとる。$[g]\circ[e]=[\mathrm{id}_{P(x)}]$ なので、lem-joyal-witness により $d_2\sigma=e$、$d_0\sigma=g$、$d_1\sigma=\mathrm{id}_{P(x)}$ となる $2$ 単体 $\sigma$ がある。右ホーン $\Lambda^1_1=\{1\}\subset\Delta^1$ に対する持ち上げにより、$x$ を終点とし $g$ の上にある辺 $\tilde g\colon x'\to x$ がある。$X$ の右ホーン $\Lambda^2_2$ を $d_0=\tilde g$、$d_1=\mathrm{id}_x$ で定めると、これは $\sigma$ の面の上にあるので、$\sigma$ の上の $2$ 単体 $\tau$ に延びる。$\tilde e:=d_2\tau$ は $x$ から $x'$ への辺で、$P(\tilde e)=d_2\sigma=e$ である。$\square$

右ファイブレーションがもともと持ち上げられるのは、終点を指定した辺($\Lambda^1_1$)である。始点を指定した持ち上げ($\Lambda^1_0$)は一般にはできないが、持ち上げる辺が同値なら、逆向きの辺を終点の側から持ち上げてから三角形で折り返すことでできる。

証明

持ち上げ定理

同値なら延びること。 $n\ge2$ とし、$u\colon\Lambda^n_0\to C$ は辺 $\{0,1\}$ を同値 $f$ に送るとする。$\Delta^n=\Delta^{\{0,1\}}\star L$、$L:=\Delta^{\{2,\ldots,n\}}\cong\Delta^{n-2}$ と分ける(結(単体的集合) の命題「結の基本性質」の 1)。同じ記事の定理「境界とホーンの結」の 3($m=1$、$i=0$、$\Lambda^1_0=\{0\}$、$\partial\Delta^0=\emptyset$)により
$$ \Lambda^n_0=(\{0\}\star L)\cup(\Delta^{\{0,1\}}\star\partial L) $$
である。$q:=u|_L$、$q':=q|_{\partial L}$ とおく($n=2$ なら $\partial L=\emptyset$ で、$C_{/q'}=C$)。スライスの対応により、

  • $u|_{\{0\}\star L}$ は $C_{/q}$ の頂点 $a$ であり、
  • $u|_{\Delta^{\{0,1\}}\star\partial L}$ は $C_{/q'}$ の辺 $\varphi$ であり、
  • 制限 $\rho\colon C_{/q}\to C_{/q'}$ は $a$ を $\varphi$ の始点 $u|_{\{0\}\star\partial L}$ に送る。
    $\Delta^n=\Delta^{\{0,1\}}\star L$ から $C$ への写像で $L$ 上で $q$ のものは $C_{/q}$ の辺であり、その始点は $\{0\}\star L$ への制限、$\rho$ による像は $\Delta^{\{0,1\}}\star\partial L$ への制限である。よって $u$ の延長は、$a$ を始点とし $\rho(\tilde a)=\varphi$ となる $C_{/q}$ の辺 $\tilde a$ と同じものである。
    射影 $\pi\colon C_{/q'}\to C$ は右ファイブレーションで、$C_{/q'}$ は準圏である(lem-joyal-slice、$K'=\emptyset$)。$\pi(\varphi)=u|_{\Delta^{\{0,1\}}}=f$ は同値なので、lem-joyal-conservative により $\varphi$ は $C_{/q'}$ の同値である。$\rho$ も右ファイブレーションで(lem-joyal-slice、$K'=\partial L\subset K=L$)、$C_{/q}$ は準圏である。lem-joyal-lift を $P=\rho$、$x=a$、$e=\varphi$ に使えば $\tilde a$ が得られる。

延びるなら同値であること。 $\Lambda^2_0$ を辺 $\{0,1\}=f$、$\{0,2\}=\mathrm{id}_x$ で定めて延ばすと、$d_2\sigma=f$、$d_1\sigma=\mathrm{id}_x$ となる $2$ 単体 $\sigma$ が得られ、$\psi:=d_0\sigma\colon y\to x$ は $[\psi][f]=[\mathrm{id}_x]$ を満たす。次に頂点を $x,y,x,y$ に送る $\Lambda^3_0$ を、面 $d_3=\sigma$(頂点 $0,1,2$)、$d_2=s_1f$(頂点 $0,1,3$。辺は $f,\mathrm{id}_y,f$)、$d_1=s_0f$(頂点 $0,2,3$。辺は $\mathrm{id}_x,f,f$)で定める。共有する辺は $\{0,1\}=f$、$\{0,2\}=\mathrm{id}_x$、$\{0,3\}=f$ で一致し、辺 $\{0,1\}$ は $f$ である。延長した $3$ 単体の面 $d_0$(頂点 $1,2,3$)は辺 $\{1,2\}=\psi$、$\{2,3\}=f$、$\{1,3\}=\mathrm{id}_y$ をもつので $[f][\psi]=[\mathrm{id}_y]$ である。よって $[f]$ は同型である。$\square$

Joyal の定理

(iv) ⇒ (ii)、(iii) は明らかである。
(i) ⇒ (ii):内側のホーンは $C$ が準圏なので埋まる。$\Lambda^n_0$ の辺 $\{0,1\}$ の像は同値なので、thm-joyal-lifting により埋まる。
(ii) ⇒ (i):任意の辺 $f$ について、辺 $\{0,1\}$ を $f$ に送るホーン $\Lambda^n_0$ はすべて埋まるので、thm-joyal-lifting により $f$ は同値である。
(i) ⇔ (iii):反対単体的集合 $C^{\mathrm{op}}$(頂点の順序を逆にしたもの)は準圏であり、$[n]$ の順序の反転 $r\mapsto n-r$ は $\Lambda^n_k$ を $\Lambda^n_{n-k}$ に移すので、$C$ の (iii) は $C^{\mathrm{op}}$ の (ii) と同じである。ホモトピー圏は辺を生成元、$2$ 単体ごとの関係 $[d_1\sigma]=[d_0\sigma]\circ[d_2\sigma]$ で表示できるので(∞圏のホモトピー圏 の命題「生成元と関係による基本圏との一致」)、$h(C^{\mathrm{op}})\cong(hC)^{\mathrm{op}}$ である。亜群の反対圏は亜群なので、$C^{\mathrm{op}}$ に (i) ⇔ (ii) を使えばよい。
(ii) かつ (iii) ⇒ (iv):すべてのホーンは $k< n$ か $k>0$ のどちらかを満たす。$\square$

例

圏の脈体

小さな圏 $\mathcal C$ の 脈体 $N(\mathcal C)$ は準圏で、そのホモトピー圏は $\mathcal C$ と同型である(∞圏のホモトピー圏 の例「通常の圏を回収する」)。よって Joyal の定理から、$N(\mathcal C)$ が Kan 複体であることと $\mathcal C$ が亜群であることは同値である。これは Kan複体 の定理「脈体が Kan 複体であるための条件」の別証明になる。

特異単体的集合

位相空間 $X$ の特異単体的集合 $\operatorname{Sing}X$ は Kan 複体なので(Kan複体 の定理「特異単体的集合は Kan 複体である」)、準圏であり、ホモトピー圏は亜群である(Kan複体 の命題「Kan 複体のホモトピー圏は亜群である」)。その辺は $X$ の道である。

準圏の芯

準圏 $C$ の単体のうち、すべての辺が $C$ の同値であるものの全体を $C^{\simeq}$ とすると、$C^{\simeq}$ は Kan 複体である(HTT09 Proposition 1.2.5.3、p. 35)。

単体の辺は面の辺であり、退化した辺は恒等射なので、$C^{\simeq}$ は部分単体的集合である。
準圏であること:内側のホーン $\Lambda^n_k\to C^{\simeq}$ を $C$ の中で埋めた $n$ 単体 $\sigma$ をとる。$n\ge3$ なら $\Delta^n$ のすべての辺はホーンに含まれる(辺 $\{a,b\}$ の外の頂点は $2$ つ以上あり、そのうち $k$ でないもの $j$ について面 $d_j$ が辺を含む)。$n=2$ では、足りない辺 $d_1\sigma$ の類は同値どうしの合成 $[d_0\sigma][d_2\sigma]$ なので同値である。どちらでも $\sigma\in C^{\simeq}$ である。
ホモトピー圏が亜群であること:$C^{\simeq}$ の辺 $f\colon x\to y$ は $C$ の同値なので、逆の代表 $g\colon y\to x$ がある。$g$ の類は同型なので $g$ も同値である。lem-joyal-witness により、$d_2\sigma=f$、$d_0\sigma=g$、$d_1\sigma=\mathrm{id}_x$ となる $2$ 単体と、$f$ と $g$ を入れ替えたものが $C$ にあり、その辺はすべて同値なので $C^{\simeq}$ に入る。よって $C^{\simeq}$ の中でも $[g][f]=[\mathrm{id}_x]$、$[f][g]=[\mathrm{id}_y]$ である。thm-joyal-main により $C^{\simeq}$ は Kan 複体である。$\square$

$C^{\simeq}$ は $C$ に含まれる最大の Kan 複体であり(Kan 複体 $K\subset C$ の辺の類は $hK$ で可逆なので、包含が誘導する関手 $hK\to hC$ で写した類も可逆であり、$K\subset C^{\simeq}$ となる)、∞圏から同値でない射を捨てて得られる∞亜群である。

反例

外す条件反例成り立たなくなること
thm-joyal-main の (i)($hC$ が亜群)$\Delta^1=N([1])$Kan 複体である(準圏ではある)
thm-joyal-lifting の「辺 $\{0,1\}$ が同値」$\Delta^1$ の $\Lambda^2_0$(辺 $\{0,1\}$ が $0\to1$、辺 $\{0,2\}$ が $\mathrm{id}_0$)延長がある
thm-joyal-main の「$C$ が準圏」(基本圏が亜群なだけ)下の単体的集合 $Z$Kan 複体である

1 行目:$[1]$ の射 $0\to1$ は可逆でないので $h\Delta^1\cong[1]$ は亜群でなく、ex-joyal-nerve により $\Delta^1$ は Kan 複体でない。
2 行目:延長には頂点 $1$ から $0$ への辺が要るが、$\Delta^1$ にはない。辺 $\{0,2\}$ の像 $\mathrm{id}_0$ は同値なので、同値であることを求めているのは辺 $\{0,1\}$ であって、ほかの辺ではない。

反例:基本圏が亜群でも Kan 複体でない

$\Delta^2$ の辺 $\{0,1\}$ と $\{1,2\}$ を同一視し、辺 $\{0,2\}$ を $1$ 点につぶした単体的集合を $Z$ とする。$Z$ の頂点は $1$ つ($*$ と書く)で、非退化な単体は $*$、辺 $e$、$2$ 単体 $\sigma$ だけであり、$d_2\sigma=d_0\sigma=e$、$d_1\sigma=\mathrm{id}_*$ である。
単体的集合の基本圏(Kan複体 の節「連結成分とホモトピー圏」)は、辺で生成した圏を $2$ 単体ごとの関係 $[d_1\sigma]=[d_0\sigma]\circ[d_2\sigma]$ と $[s_0*]=\mathrm{id}$ で割ったものである。$\sigma$ の関係は $[e]\circ[e]=\mathrm{id}$ で、退化した $2$ 単体の関係は自明なので、$Z$ の基本圏は位数 $2$ の群 $\mathbb Z/2$ であり、亜群である。
一方、内側のホーン $\Lambda^3_1\to Z$ を、面 $d_0=\sigma$(頂点 $1,2,3$)、$d_2=s_1e$(頂点 $0,1,3$。辺は $e,\mathrm{id},e$)、$d_3=\sigma$(頂点 $0,1,2$)で定める。共有する辺 $\{1,2\}$、$\{0,1\}$、$\{1,3\}$ はそれぞれ $e$、$e$、$\mathrm{id}$ で一致する。$Z$ の $3$ 単体はどれも $\sigma$、$e$、$*$ の退化である。$\sigma$ を面にもつのは $\sigma$ の退化 $s_0\sigma$、$s_1\sigma$、$s_2\sigma$ だけで、$s_j\sigma$ が $\sigma$ に等しい面は $d_j$ と $d_{j+1}$ に限る。$d_0$ と $d_3$ がともに $\sigma$ となるものはないので、このホーンは埋まらない。よって $Z$ は準圏でなく、Kan 複体でもない。

関連項目

参考文献

[1]
Jacob Lurie, Higher Topos Theory, Princeton University Press, 2009, Proposition 1.2.4.3(p. 34、証明は p. 61)、Propositions 1.2.5.1・1.2.5.3(p. 35)、Proposition 1.2.9.2(p. 42)、Propositions 2.1.1.5・2.1.1.6(p. 59)

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