圏の局所化

同義語:localization of a category局所化(圏)

概要

圏の局所化(localization of a category)とは、圏 $\mathcal C$ の射のクラス $S$ の元をすべて同型射に送る関手の中で普遍的なもの $Q\colon\mathcal C\to\mathcal C[S^{-1}]$ である。$S$ が乗法系(合成で閉じ、屋根条件と簡約条件をみたす)で屋根の同値類が集合をなすとき、局所化の射は分母 $s\in S$ と分子 $f$ の組 $X\xleftarrow{s}X'\xrightarrow{f}Y$(屋根)の同値類として表され、合成は通分にあたる操作で計算できる(Gabriel–Zisman の分数の計算)。この表示から、2 つの射が局所化で等しくなる条件、加法圏の局所化が加法圏になること、充満部分圏の局所化が充満忠実に埋め込まれる条件が従い、導来圏の射を計算する土台になる。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 圏, 関手, 自然変換, 同型射, 充満部分圏

圏 $\mathcal C$ の射のクラス $S$ を「無理やり同型射にした」圏を、$\mathcal C$ の $S$ による局所化という。可換環の分数 $a/s$ と同じように、局所化した圏の射を $\mathcal C$ の射の「分数」で書けると計算がしやすい。$S$ が乗法系であれば、局所化の射はすべて「分母 $s\in S$ と分子 $f$」の組 $X\xleftarrow{s}X'\xrightarrow{f}Y$(屋根)の同値類として表せ、合成は通分にあたる操作で計算できる。これが Gabriel–Zisman の分数の計算である。
この記事では、屋根の同値関係と合成が矛盾なく定まり、得られる圏が局所化の普遍性をもつこと(Gabriel–Zisman の定理)を証明する。さらに、2 つの射が局所化で等しくなる条件、加法圏の局所化が加法圏になること、充満部分圏の局所化が全体の局所化の充満部分圏になる条件を示す。導来圏はホモトピー圏の擬同型による局所化であり、ここでの結果はその射の計算の土台になる。三角圏に固有の部分(移動関手との両立)はVerdier局所化で扱う。

定義

圏の局所化

圏 $\mathcal C$ と射のクラス $S$ に対し、圏 $\mathcal C[S^{-1}]$ と関手 $Q\colon\mathcal C\to\mathcal C[S^{-1}]$ の組が $\mathcal C$ の $S$ による局所化(localization)であるとは、次の 2 つが成り立つことをいう。
(1) すべての $s\in S$ について $Q(s)$ は同型射である。
(2) 関手 $F\colon\mathcal C\to\mathcal D$ が $S$ の元をすべて同型射に送るならば、$F=\bar F\circ Q$ をみたす関手 $\bar F\colon\mathcal C[S^{-1}]\to\mathcal D$ がただ一つ存在する。

Verdier局所化の記事の定義「圏の局所化」は (2) の一意性を自然同型を除いて述べている。以下の構成では $\bar F$ が文字どおり一つに決まるので、ここでは強い形で述べた。どちらの形でも、局所化は存在すれば圏同値を除いて一意である(同記事の命題「局所化は存在すれば圏同値を除いて一意である」)。

乗法系

圏 $\mathcal C$ の射のクラス $S$ が乗法系(multiplicative system)であるとは、次の (1)–(3) が成り立つことをいう。
(1) 恒等射はすべて $S$ に属し、$s,t\in S$ が合成できるなら $s\circ t\in S$ である。
(2)(屋根条件)(a) $s\colon Z\to Y$ が $S$ に属し、$u\colon X\to Y$ が任意の射ならば、$t\in S$ である $t\colon W\to X$ と $v\colon W\to Z$ で $s\circ v=u\circ t$ をみたすものがある。(b) 矢印をすべて逆にした主張も成り立つ。すなわち $s\colon X\to Z$ が $S$ に属し、$u\colon X\to Y$ が任意の射ならば、$t\in S$ である $t\colon Y\to W$ と $v\colon Z\to W$ で $v\circ s=t\circ u$ をみたすものがある。
(3)(簡約条件)平行な射 $f,g\colon X\to Y$ について、「始域が $Y$ のある $s\in S$ で $s\circ f=s\circ g$」と「終域が $X$ のある $t\in S$ で $f\circ t=g\circ t$」は同値である。

これはVerdier局所化の記事の定義「乗法系」、Wei94 Definition 10.3.4(p. 380)、Har66 第 I 章 §3 の (FR1)–(FR3)(p. 28)と同じ条件である(同記事の (2) が上の (2)(b)、「双対」が (2)(a) にあたる)。(2)(a) は「$u$ を分母 $s$ で割ったもの $s^{-1}u$ を、分母を右に移して $v\,t^{-1}$ と書き直せる」こと、(3) は「$s$ を掛けて等しいものは、局所化でも等しい」ことを保証する。

屋根(左分数)

$S$ を乗法系とする。対象 $X,Y$ に対し、図式 $X\xleftarrow{s}X'\xrightarrow{f}Y$($s\in S$)を $X$ から $Y$ への屋根(roof)または分数といい、$f/s$ と書く。2 つの屋根 $f_1/s_1$($X\xleftarrow{s_1}X_1\xrightarrow{f_1}Y$)と $f_2/s_2$ が同値であるとは、射 $u_1\colon W\to X_1$、$u_2\colon W\to X_2$ で
$$ s_1u_1=s_2u_2\in S,\qquad f_1u_1=f_2u_2 $$
をみたすものがあることをいい、$f_1/s_1\sim f_2/s_2$ と書く。とくに $s\circ u\in S$ のとき $f/s\sim(f\circ u)/(s\circ u)$ であり($u_1=u$、$u_2=\mathrm{id}$)、これを分母を細かくするという。

$u_1,u_2$ 自身は $S$ に属さなくてよい。屋根は分数 $f\circ s^{-1}$ を表すことを意図しており、$f/s\sim(fu)/(su)$ は「分母と分子に同じものを掛けても値は変わらない」ことにあたる。

分数の計算

以下 $S$ は $\mathcal C$ の乗法系とする。

共通の分母

$s_1\colon X_1\to X$、$s_2\colon X_2\to X$ が $S$ に属するならば、$v_1\colon W\to X_1$、$v_2\colon W\to X_2$ で $s_1v_1=s_2v_2\in S$ をみたすものがある。とくに $X$ から $Y$ への 2 つの屋根は、分母を細かくして同じ分母の屋根に取り替えられる。

屋根条件 (2)(a) を $s=s_1$、$u=s_2$ に当てると、$t\in S$ である $t\colon W\to X_2$ と $v\colon W\to X_1$ で $s_1v=s_2t$ をみたすものがある。$v_1:=v$、$v_2:=t$ とおくと、$s_2t$ は $S$ の元の合成なので (1) により $S$ に属する。後半は、$f_i/s_i\sim(f_iv_i)/(s_iv_i)$ で $s_1v_1=s_2v_2$ だからである。$\blacksquare$

屋根の同値は同値関係である

$X$ から $Y$ への屋根の上で、$\sim$ は同値関係である。

反射律は $u_1=u_2=\mathrm{id}$、対称律は $u_1,u_2$ を入れ替えればよい。推移律を示す。$f_1/s_1\sim f_2/s_2$ が $u_1\colon W\to X_1$、$u_2\colon W\to X_2$ で、$f_2/s_2\sim f_3/s_3$ が $v_2\colon V\to X_2$、$v_3\colon V\to X_3$ で与えられているとする。$s_1u_1$ と $s_2v_2$ は $S$ に属し終域が $X$ なので、lem-catloc-common-denominator により $a\colon Z\to W$、$b\colon Z\to V$ で $s_1u_1a=s_2v_2b\in S$ をみたすものがある。すると
$$ s_2\circ(u_2a)=s_1u_1a=s_2v_2b=s_2\circ(v_2b) $$
なので、簡約条件 (3) により $c\in S$ で $u_2ac=v_2bc$ をみたすものがある。$w_1:=u_1ac$、$w_3:=v_3bc$ とおくと、$s_1w_1=(s_1u_1a)c\in S$ であり、
$$ s_3w_3=s_2v_2bc=s_1u_1ac=s_1w_1,\qquad f_1w_1=f_2u_2ac=f_2v_2bc=f_3v_3bc=f_3w_3 $$
となる。よって $f_1/s_1\sim f_3/s_3$ である。$\blacksquare$

屋根 $f/s$ の同値類を $[f/s]$ と書く。2 つの類の合成を次で定める。$X\xleftarrow{s}X'\xrightarrow{f}Y$ と $Y\xleftarrow{t}Y'\xrightarrow{g}Z$ に対し、屋根条件 (2)(a) により $t'\in S$ である $t'\colon X''\to X'$ と $f'\colon X''\to Y'$ で $tf'=ft'$ をみたすものを選び(この四角形を通分の四角形とよぶ)、
$$ [g/t]\circ[f/s]:=[(gf')/(st')] $$
とおく。分数で書けば、$t^{-1}f=f'\,t'^{-1}$ と書き直して $g\,t^{-1}\cdot f\,s^{-1}=gf'\,t'^{-1}s^{-1}$ とする計算である。

Gabriel–Zisman の定理

$S$ を $\mathcal C$ の乗法系とし、各 $X,Y$ について $X$ から $Y$ への屋根の同値類の全体が集合であると仮定する。対象を $\mathcal C$ と同じにし、$X$ から $Y$ への射を屋根の同値類とし、合成を上のように定めると圏 $\mathcal C_S$ が得られる。恒等射は $[\mathrm{id}_X/\mathrm{id}_X]$ である。関手 $Q\colon\mathcal C\to\mathcal C_S$ を $Q(X)=X$、$Q(f)=[f/\mathrm{id}]$ で定めると、$(\mathcal C_S,Q)$ は $\mathcal C$ の $S$ による局所化である。さらに $\mathcal C_S$ の射はすべて
$$ [f/s]=Q(f)\circ Q(s)^{-1} $$
の形に書ける。

合成が代表と通分の四角形の選び方によらないこと。 要点は次の 3 つである。(i) 2 つの通分の四角形 $(t'_1,f'_1)$、$(t'_2,f'_2)$ は、lem-catloc-common-denominator で $t'_1a_1=t'_2a_2\in S$ と揃えると $t(f'_1a_1)=ft'_1a_1=ft'_2a_2=t(f'_2a_2)$ となり、簡約条件で $f'_1a_1c=f'_2a_2c$($c\in S$)とできるので、2 つの合成は $(a_1c,a_2c)$ で同値になる。(ii) 屋根の同値は「分母を細かくする」操作を 2 回行ったものなので、代表を細かくしても合成が変わらないことを確かめればよい。(iii) その確認では、細かくした屋根に対する通分の四角形を、もとの通分の四角形から作る。

(ii)(iii) の詳細

第 1 の屋根を $(fu)/(su)$($u\colon W\to X'$、$su\in S$)に取り替える。もとの通分の四角形 $tf'=ft'$ について、屋根条件 (2)(a) を $t'\in S$ と $u$ に当てて $t''\in S$、$u'$ で $t'u'=ut''$ とすると、$t(f'u')=ft'u'=(fu)t''$ なので $(t'',f'u')$ は $fu$ と $t$ の通分の四角形である。これを使った合成は $(gf'u')/(sut'')=(gf'u')/(st'u')$ で、$(gf')/(st')$ の分母を $u'$ で細かくしたものだから同値である($st'u'=sut''\in S$)。(i) により、どの通分の四角形を使っても同じ類になる。

第 2 の屋根を $(gv)/(tv)$($v\colon Y''\to Y'$、$tv\in S$)に取り替える。$f$ と $tv$ の通分の四角形 $(tv)f''=ft''$ を取ると、$t(vf'')=ft''$ なので $(t'',vf'')$ は $f$ と $t$ の通分の四角形であり、どちらで合成しても $(gvf'')/(st'')$ になる。


結合律と単位律。 3 つの屋根 $f/s$、$g/t$、$h/r$ について、$[h/r]\circ[g/t]$ を通分の四角形 $rg_1=gr_1$($r_1\in S$)で作り、次に $f$ と $tr_1$ の通分の四角形 $tr_1f''=ft''$ で $[f/s]$ と合成すると $(hg_1f'')/(st'')$ になる。一方、$[g/t]\circ[f/s]$ の通分の四角形として $(t'',r_1f'')$ を選べ($t(r_1f'')=ft''$)、その結果 $(gr_1f'')/(st'')$ と $[h/r]$ の通分の四角形として $(\mathrm{id},g_1f'')$ を選べる($r(g_1f'')=gr_1f''$)。こうして左右の括弧はどちらも $(hg_1f'')/(st'')$ になる。合成は通分の四角形の選び方によらないので、結合律が成り立つ。単位律は通分の四角形に恒等射を選べばよい。
$Q$ について。 $Q(g)\circ Q(f)$ は通分の四角形 $(\mathrm{id},f)$ により $[(gf)/\mathrm{id}]=Q(gf)$ である。$s\colon X'\to X$ が $S$ に属するとき、$[\mathrm{id}_{X'}/s]$ は $Q(s)$ の逆射である。実際 $Q(s)\circ[\mathrm{id}/s]=[s/s]$ は $[\mathrm{id}/\mathrm{id}]$ の分母を $s$ で細かくしたものであり、$[\mathrm{id}/s]\circ Q(s)$ は通分の四角形 $(\mathrm{id},\mathrm{id})$ により $[\mathrm{id}/\mathrm{id}]$ である。同じく通分の四角形 $(\mathrm{id},\mathrm{id})$ により $Q(f)\circ[\mathrm{id}/s]=[f/s]$ なので、$[f/s]=Q(f)\circ Q(s)^{-1}$ である。
普遍性。 $F\colon\mathcal C\to\mathcal D$ が $S$ の元を同型射に送るとし、$\bar F([f/s]):=F(f)F(s)^{-1}$ とおく。$f_1/s_1\sim f_2/s_2$ が $u_1,u_2$ で与えられるとき、$\sigma:=F(s_1u_1)=F(s_2u_2)$ は同型射で、$F(s_i)^{-1}=F(u_i)\sigma^{-1}$ だから $F(f_1)F(s_1)^{-1}=F(f_1u_1)\sigma^{-1}=F(f_2u_2)\sigma^{-1}=F(f_2)F(s_2)^{-1}$ となり、$\bar F$ は代表によらない。通分の四角形 $tf'=ft'$ から $F(f')F(t')^{-1}=F(t)^{-1}F(f)$ なので
$$ \bar F([g/t]\circ[f/s])=F(g)F(f')F(t')^{-1}F(s)^{-1}=F(g)F(t)^{-1}F(f)F(s)^{-1}=\bar F([g/t])\,\bar F([f/s]) $$
であり、$\bar F$ は関手で $\bar F\circ Q=F$ をみたす。逆に $G\circ Q=F$ なら $G([f/s])=G(Q(f))G(Q(s))^{-1}=F(f)F(s)^{-1}$ なので $G=\bar F$ である。$\blacksquare$

この定理は Wei94 Theorem 10.3.7(p. 382)と Har66 第 I 章 Proposition 3.1(pp. 29–31)にある。以下の cor-catloc-equal、prop-catloc-additive、prop-catloc-full-subcategory、prop-catloc-natural-transformation は、それぞれ Wei94 Corollary 10.3.9、Corollary 10.3.11、Lemma 10.3.13、Har66 第 I 章 Proposition 3.4(pp. 33–34)に対応する(充満部分圏の命題は Har66 Proposition 3.3 にもある)。

集合の大きさ

屋根の同値類の全体は、一般には集合になるとは限らない($X'$ が $\mathcal C$ のすべての対象を動くため)。各 $X$ について、$S$ に属し終域が $X$ の射からなる集合 $S_X$ で「$S$ の元 $X_1\to X$ はどれも、ある射 $X_2\to X_1$ との合成が $S_X$ に入る」をみたすものがあれば、同値類の全体は集合になる(Wei94 10.3.6、p. 381)。導来圏では加群の圏や層の圏などでこの条件が確かめられる(同書 Proposition 10.4.4、p. 386)。

2 つの射が局所化で等しくなる条件

平行な射 $f,g\colon X\to Y$ について、次は同値である。
(a) $Q(f)=Q(g)$。
(b) 終域が $X$ のある $t\in S$ で $f\circ t=g\circ t$。
(c) 始域が $Y$ のある $s\in S$ で $s\circ f=s\circ g$。

$Q(f)=Q(g)$ は $f/\mathrm{id}\sim g/\mathrm{id}$ のことであり、これは $u_1,u_2$ で $\mathrm{id}\circ u_1=\mathrm{id}\circ u_2\in S$、$fu_1=gu_2$ となること、すなわち $t:=u_1=u_2\in S$ で $ft=gt$ となることである。よって (a)⇔(b)。(b)⇔(c) は簡約条件 (3) である。$\blacksquare$

屋根条件 (2)(b) を使うと、射は右分数でも書ける。$[f/s]$ に対し (2)(b) で $t\in S$ と $g$ を $g\circ s=t\circ f$ となるように取れば、$Q(t)Q(f)=Q(g)Q(s)$ から $Q(f)Q(s)^{-1}=Q(t)^{-1}Q(g)$ である。乗法系の条件は矢印を逆にしても変わらないので、$S$ は反対圏 $\mathcal C^{\mathrm{op}}$ の乗法系でもあり、$\mathcal C^{\mathrm{op}}$ の局所化は $\mathcal C_S$ の反対圏である。

加法圏の局所化

加法圏の局所化は加法圏である

$\mathcal C$ が加法圏で $S$ が乗法系ならば(thm-catloc-gabriel-zisman の集合の仮定の下で)、$\mathcal C_S$ は加法圏であり、$Q$ は加法関手である。

要点:$X$ から $Y$ への 2 つの射をlem-catloc-common-denominatorで同じ分母 $\sigma$ の屋根 $a/\sigma$、$b/\sigma$ に表し、和を $[(a+b)/\sigma]$ と定める。これが代表によらず、合成が双線形になることを確かめれば、$Q$ が和を保ち、有限直和の図式($p_ii_j=\delta_{ij}$、$\sum_ji_jp_j=\mathrm{id}$)を保つので $\mathcal C_S$ は加法圏になる。

詳細

和が代表によらないこと:$[a/\sigma]=[a'/\sigma']$ が $(u,u')$ で、$[b/\sigma]=[b'/\sigma']$ が $(w,w')$ で与えられているとする。$\sigma u$ と $\sigma w$ の共通の分母 $\sigma up=\sigma wq\in S$ を取ると、$\sigma(up)=\sigma(wq)$ なので簡約条件で $upc=wqc$($c\in S$)とでき、さらに $\sigma'(u'pc)=\sigma upc=\sigma wqc=\sigma'(w'qc)$ なので $u'pcc'=w'qcc'$($c'\in S$)とできる。$r:=upcc'=wqcc'$、$r':=u'pcc'=w'qcc'$ とおけば $\sigma r=\sigma'r'\in S$、$ar=a'r'$、$br=b'r'$ なので $(a+b)r=(a'+b')r'$ となり、$[(a+b)/\sigma]=[(a'+b')/\sigma']$ である。零元は $[0/\mathrm{id}]$、逆元は $[(-a)/\sigma]$ で、結合律・可換律は $\mathcal C$ の $\operatorname{Hom}$ のものから従う。

合成の双線形性:$[b_i/\tau]$($i=1,2$)と $[a/\sigma]$ の合成は、同じ通分の四角形 $\tau a'=at'$ を使えば $[(b_ia')/(\sigma t')]$ なので、和をとると $([b_1/\tau]+[b_2/\tau])\circ[a/\sigma]$ に一致する。$[b/\tau]$ と $[a_i/\sigma]$ については、$a_i$ の通分の四角形 $\tau a'_i=a_it'_i$ を取り、$t'_1p_1=t'_2p_2=:\rho\in S$ と揃えると、$\tau(a'_1p_1+a'_2p_2)=(a_1+a_2)\rho$ なので $(\rho,a'_1p_1+a'_2p_2)$ は $a_1+a_2$ の通分の四角形であり、$[b/\tau]\circ[(a_1+a_2)/\sigma]=[(ba'_1p_1+ba'_2p_2)/(\sigma\rho)]$ は 2 つの合成 $[(ba'_ip_i)/(\sigma\rho)]$ の和である。

最後に、$Q(a+b)=[(a+b)/\mathrm{id}]=Q(a)+Q(b)$。零対象 $0$ について $\mathrm{id}_{Q(0)}=Q(\mathrm{id}_0)=Q(0\text{ の零射})=0$ なので $Q(0)$ は零対象である。$\mathcal C$ の直和の図式は等式で特徴づけられ、加法的な $Q$ はそれを保つ。$\mathcal C_S$ の対象はすべて $Q$ の像なので、$\mathcal C_S$ は有限直和をもつ。 $\blacksquare$

部分圏の局所化と自然変換

充満部分圏の局所化

$\mathcal D$ を $\mathcal C$ の充満部分圏とし、$S\cap\mathcal D$($\mathcal D$ の射で $S$ に属するもの)が $\mathcal D$ の乗法系であるとする。さらに次のどちらかを仮定する。
(i) $S$ の元 $s\colon X'\to X$ で $X\in\mathcal D$ のものには、$X''\in\mathcal D$ からの射 $f\colon X''\to X'$ で $s\circ f\in S$ となるものがある。
(ii) (i) で矢印をすべて逆にした条件。
このとき、普遍性から得られる関手 $\mathcal D_{S\cap\mathcal D}\to\mathcal C_S$ は充満忠実関手である。

(i) の場合を示す((ii) は反対圏に移れば (i) になる)。関手は屋根 $[f/s]$ を、$\mathcal C$ の屋根とみた同じ $[f/s]$ に送る。
充満性:$X,Y\in\mathcal D$ への $\mathcal C$ の屋根 $X\xleftarrow{s}X'\xrightarrow{f}Y$ に (i) を当て、$u\colon X''\to X'$($X''\in\mathcal D$、$su\in S$)を取ると、$f/s\sim(fu)/(su)$ であり、右辺は $\mathcal D$ の屋根である($\mathcal D$ は充満なので $fu$、$su$ は $\mathcal D$ の射)。
忠実性:$\mathcal D$ の屋根 $f_1/s_1$、$f_2/s_2$ が $\mathcal C$ で $u_1\colon W\to X_1$、$u_2\colon W\to X_2$ により同値だとする。$s_1u_1\colon W\to X$ は $S$ に属し $X\in\mathcal D$ なので、(i) により $v\colon W'\to W$($W'\in\mathcal D$、$s_1u_1v\in S$)がある。$u_1v$、$u_2v$ は $\mathcal D$ の射で、$s_1u_1v=s_2u_2v\in S\cap\mathcal D$、$f_1u_1v=f_2u_2v$ だから、2 つの屋根は $\mathcal D$ でも同値である。$\blacksquare$

局所化と自然変換

$F,G\colon\mathcal C_S\to\mathcal E$ を関手とする。自然変換 $\theta\colon F\Rightarrow G$ に $\theta Q\colon FQ\Rightarrow GQ$ を対応させる写像は全単射である。

$Q$ は対象について恒等なので、単射は明らかである。$\lambda\colon FQ\Rightarrow GQ$ が与えられたとき、成分 $\lambda_X$ が $\mathcal C_S$ の射についても自然であることを示せばよい。$\varphi=Q(f)Q(s)^{-1}$ と書く。$s$ に関する自然性 $G(Q(s))\lambda_{X'}=\lambda_XF(Q(s))$ から $G(Q(s))^{-1}\lambda_X=\lambda_{X'}F(Q(s))^{-1}$ であり、$f$ に関する自然性と合わせて $G(\varphi)\lambda_X=G(Q(f))\lambda_{X'}F(Q(s))^{-1}=\lambda_YF(\varphi)$ を得る。$\blacksquare$

例

すべての射を可逆にした順序集合

自然数の順序 $(\mathbb N,\le)$ を、$m\le n$ のとき $m\to n$ がちょうど 1 本ある圏とみなし、$S$ をすべての射とする。(1) は明らか、(2)(a) は $W:=\min(X,Z)$、(2)(b) は $W:=\max(Y,Z)$ で成り立ち、平行な射は等しいので (3) も成り立つ。$X$ から $Y$ への屋根 $X\leftarrow X'\to Y$($X'\le X$、$X'\le Y$)はどの 2 つも $\min$ を取れば共通に細かくでき、すべて同値である。したがって $\mathcal C_S$ は、どの 2 つの対象の間にもちょうど 1 本の射がある圏であり、1 点の圏と圏同値である。$Q$ は忠実だが、$2\to1$ の射が現れるので充満ではない。

導来圏での射の計算

アーベル圏 $\mathcal A$ の複体のホモトピー圏 $K(\mathcal A)$ で、擬同型のクラス $\mathrm{Qis}$ は乗法系であり(Verdier局所化の記事の例「導来圏はホモトピー圏のVerdier局所化である」、Wei94 Proposition 10.4.1)、$D(\mathcal A)$ の射は屋根 $X\xleftarrow{s}X'\xrightarrow{f}Y$($s$ は擬同型)の類である。cor-catloc-equal により、鎖写像 $f$ が $D(\mathcal A)$ で零になるのは、ある擬同型 $t$ で $f\circ t$ が鎖ホモトピックに零となるとき、またそのときに限る。
さらに、コホモロジー的添字で下に有界な複体($n\ll0$ で $X^n=0$)のなす $K^+(\mathcal A)$ を考える(導来圏の記事はホモロジー的添字 $X_n=X^{-n}$ で書くので、同記事の $K^-(\mathcal A)$ にあたる)。擬同型のうち $K^+(\mathcal A)$ の射であるものは $K^+(\mathcal A)$ の乗法系であり(同記事の定義「有界導来圏」)、$K^+(\mathcal A)$ は (ii) をみたす。擬同型 $s\colon X\to X'$ で $X^n=0$($n< m$)とすると、$H^n(X')\cong H^n(X)=0$($n< m$)なので、$X'$ の切り詰め $\tau^{\ge m}X'$(次数 $m$ に $X'^m/\operatorname{im}d^{m-1}$、それより上は $X'$ と同じ、下は $0$)への商写像 $q$ は擬同型であり、$q\circ s$ も擬同型である。よってprop-catloc-full-subcategoryにより $D^+(\mathcal A)\to D(\mathcal A)$ は充満忠実であり、$D^+(\mathcal A)$ を $D(\mathcal A)$ の充満部分圏とみなせる(Wei94 Example 10.3.15)。

反例

外す条件反例成り立たなくなること
屋根条件 (2)(a)$X\xrightarrow{f}Y\xleftarrow{t}Z$ だけで生成される圏と $S=\{t,\text{恒等射}\}$局所化の射がすべて $Q(f)Q(s)^{-1}$ の形に書けること
簡約条件 (3)$s\circ f=s\circ g$、$f\neq g$ だけをもつ圏と $S=\{s,\text{恒等射}\}$$Q(f)=Q(g)$ と「$f\circ t=g\circ t$ となる $t\in S$ がある」の同値(cor-catloc-equal)
prop-catloc-full-subcategory の (i)(ii)$\mathbb F_p$ 上のベクトル空間の有界複体 $K^b(\operatorname{Vect}_{\mathbb F_p})\subset K^b(\mathbf{Ab})$ と擬同型部分圏の局所化から全体の局所化への関手が充満であること

1 行目:$\mathcal C$ は対象 $X,Y,Z$、恒等射以外の射が $f,t$ だけの圏である。小さい圏なので局所化 $Q\colon\mathcal C\to\mathcal C'$ は存在する(Wei94 Remark 10.3.3)。(2)(a) を $s=t$、$u=f$ に当てると、終域 $X$ の $S$ の元は $\mathrm{id}_X$ だけなので $v\colon X\to Z$ が要るが、そのような射はない。局所化では $Q(t)^{-1}Q(f)\colon X\to Z$ が射として存在するが、$Q(g)Q(s)^{-1}$ の形の射 $X\to Z$ は $s=\mathrm{id}_X$、$g\colon X\to Z$ を要するので存在しない。
2 行目:$\mathcal C$ は対象 $X,Y,Y'$、恒等射以外の射が $f,g\colon X\to Y$、$s\colon Y\to Y'$、$h:=sf=sg$ の圏である。(1)(2) は場合を尽くして確かめられる(たとえば (2)(a) で $u=h$ なら $t=\mathrm{id}_X$、$v=f$)。局所化では $Q(f)=Q(s)^{-1}Q(h)=Q(g)$ だが、終域 $X$ の $S$ の元は $\mathrm{id}_X$ だけなので $ft=gt$ となる $t\in S$ はない。
3 行目:$\mathbb F_p$ 上のベクトル空間の圏では短完全列がすべて分裂するので、$\operatorname{Hom}_{D}(\mathbb F_p,\mathbb F_p[1])=0$ である(導来Homの記事の系「通常の Ext との一致」を、すべての対象が入射的なこの圏に当てる)。一方 $D(\mathbf{Ab})$ では $\operatorname{Hom}(\mathbb Z/p,\mathbb Z/p[1])\cong\operatorname{Ext}^1_{\mathbb Z}(\mathbb Z/p,\mathbb Z/p)\cong\mathbb Z/p$ である(Ext関手の記事の命題「巡回群からの Ext」)。部分圏が拡大で閉じていないことが原因であり、閉じている場合の十分条件は厚い部分圏で扱う。

関連項目

参考文献

[1]
Charles A. Weibel, An Introduction to Homological Algebra, Cambridge Studies in Advanced Mathematics 38, Cambridge University Press, 1994, Remark 10.3.3、Definition 10.3.4、10.3.6、Theorem 10.3.7、Corollary 10.3.9・10.3.11、Lemma 10.3.13、Example 10.3.15(§10.3, pp. 379–384)、Proposition 10.4.1(p. 385)、Proposition 10.4.4(p. 386)
[2]
Robin Hartshorne, Residues and Duality, Lecture Notes in Mathematics 20, Springer, 1966, 第 I 章 §3(FR1–FR3、Proposition 3.1・3.3・3.4、pp. 28–34)

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