Leech格子

同義語:Leech lattice

概要

Leech格子(Leech lattice)とは、階数 $24$ の正定値な偶ユニモジュラー格子で、ノルム $2$ の元(ルート)を 1 つももたないものである。拡大二元 Golay 符号から作られ、$0$ でない元のノルムは $4$ 以上で、ノルム $4$ の元はちょうど $196560$ 個ある。テータ級数は $E_4^3-720\Delta_0$ に等しく、階数が正でルートをもたない正定値な偶ユニモジュラー格子の階数は $24$ 以上である。同型を除いて一意で、自己同型群は Conway 群 $\mathrm{Co}_0$ である。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: E8格子, 格子(数論), Golay符号, モジュラー形式

Leech 格子(Leech lattice)は、階数 $24$ の正定値な偶ユニモジュラー格子で、ルート(ノルム $2$ の元)を 1 つももたないものである。E8格子 がノルム $2$ の元を $240$ 個もつのに対し、Leech 格子の $0$ でない元のノルムはすべて $4$ 以上で、ノルム $4$ の元はちょうど $196560$ 個ある。J. Leech が 1965 年に見いだした(Bor84 §2.1)。
この記事では、拡大二元 Golay 符号から Leech 格子を作り、それが階数 $24$ の正定値な偶ユニモジュラー格子でルートをもたないこと(thm-leech-basic)、ノルム $4$ の元が $196560$ 個あること(prop-leech-min)を証明する。さらに、階数 $24$ の正定値な偶ユニモジュラー格子のテータ級数がルートの個数だけで決まること(thm-leech-theta)と、階数が正でルートをもたない正定値な偶ユニモジュラー格子の階数が $24$ 以上であること(cor-leech-rank)を示す。同型を除いた一意性、自己同型群である Conway 群、球の詰め込みと接吻数の最適性は、主張と所在を述べるだけで、この記事では証明しない。

構成

格子の用語(整・偶・ユニモジュラー・判別式)とノルム・ルートの呼び方は E8格子 の記事に従う。$C\subset\mathbb{F}_2^{24}$ を Golay符号 の拡大二元 Golay 符号 $\mathcal G_{24}$ とし、座標を $1,\dots,24$ と番号づける。Golay符号 の定理「二元 Golay 符号」の 1 と例「重みの分布」から、次を使う。

  • $C$ は $12$ 次元の自己双対な符号である。
  • 符号語の重みは $0,8,12,16,24$ のどれかで、とくに $4$ の倍数である。重み $8$ の符号語(オクタッド)は $759$ 個ある。
  • すべての成分が $1$ の元 $\mathbf 1$ は $C$ に入る($c\in C$ について $\mathbf 1\cdot c=\operatorname{wt}(c)\equiv0\pmod2$ なので $\mathbf 1\in C^\perp=C$)。
    $\pi\colon\mathbb{Z}^{24}\to\mathbb{F}_2^{24}$ を成分ごとの $2$ を法とする還元とし、$x\cdot y$ を $\mathbb{Z}^{24}$ の標準内積とする。
Leech 格子

$$ M:=\Bigl\{a\in\mathbb{Z}^{24}\ \Big|\ \pi(a)\in C,\ \textstyle\sum_ia_i\equiv0\pmod4\Bigr\},\qquad \Lambda^0:=2M,\qquad v:=(-3,1,1,\dots,1) $$
とおき、$\Lambda:=\Lambda^0\cup(v+\Lambda^0)\subset\mathbb{Z}^{24}$ に双線形形式 $\langle x,y\rangle:=\frac18\,x\cdot y$ を入れたものを Leech 格子という。$\mathbb{R}^{24}$ の標準内積で言えば、$\frac1{\sqrt8}\Lambda$ のことである。

$a\in\pi^{-1}(C)$ について $\sum_ia_i\equiv\operatorname{wt}(\pi(a))\equiv0\pmod2$ なので、$M$ は $\pi^{-1}(C)$ の中から「成分の和が $4$ の倍数」という条件で切り出した部分群である(指数が $2$ であることは prf-leech-basic で示す)。

座標による言い換え

$x\in\mathbb{Z}^{24}$ について次が成り立つ。

  1. $x\in\Lambda^0$ であることは、すべての $x_i$ が偶数で、$\{i\mid x_i\equiv2\pmod4\}$ が $C$ の符号語の台で、$\sum_ix_i\equiv0\pmod8$ であることと同値である。
  2. $x\in v+\Lambda^0$ であることは、すべての $x_i$ が奇数で、$\{i\mid x_i\equiv3\pmod4\}$ が $C$ の符号語の台で、$\sum_ix_i\equiv4\pmod8$ であることと同値である。
  3. $\Lambda$ は $\mathbb{Z}^{24}$ の部分群で、$8\mathbb{Z}^{24}\subset\Lambda$ を満たす。とくに階数 $24$ の格子である。

1.$x=2a$ と書けば、$x_i\equiv2\pmod4$ と $a_i$ が奇数であることは同値で、$\sum x_i=2\sum a_i$ である。2.$x\in v+\Lambda^0$ は $(x-v)/2\in M$ と同値で、これにはまず $x$ の成分がすべて奇数であることが要る。$v_i\equiv1\pmod4$($-3\equiv1$)なので、$(x_i-v_i)/2$ が奇数であることは $x_i\equiv3\pmod4$ と同値であり、$\sum_i(x_i-v_i)/2\equiv0\pmod4$ は $\sum_ix_i\equiv\sum_iv_i=20\equiv4\pmod8$ と同値である。3.$M$ は加法で閉じた部分群なので $\Lambda^0$ も部分群である。$2v=(-6,2,\dots,2)$ は 1 により $\Lambda^0$ に入る($x_i\equiv2\pmod 4$ となる $i$ の全体は $\mathbf 1$ の台で、和は $40$)。よって $(v+\Lambda^0)+(v+\Lambda^0)=\Lambda^0$ で、$\Lambda$ は部分群である。$a\in4\mathbb{Z}^{24}$ は $\pi(a)=0$、$\sum a_i\equiv0\pmod 4$ なので $4\mathbb{Z}^{24}\subset M$、$8\mathbb{Z}^{24}\subset\Lambda^0$ である。$\square$

基本性質

Leech 格子の基本性質

$\Lambda$ は階数 $24$ の正定値な偶ユニモジュラー格子で、$0$ でない元のノルム $\langle x,x\rangle$ は $4$ 以上である。とくにルートをもたない。

要点:整・偶は $C$ の自己直交性と重みが $4$ の倍数であることから、ユニモジュラーは基本領域の体積から、ノルムの下限は最小距離 $8$ から従う。

詳しい証明を開く

整。 $x\cdot y\equiv0\pmod8$ を示せばよい。$x=2a$、$y=2b\in\Lambda^0$ なら $x\cdot y=4\,a\cdot b$ で、$a\cdot b\equiv\pi(a)\cdot\pi(b)=0\pmod2$($C$ は自己双対)なので $8$ の倍数である。$x=2a\in\Lambda^0$ と $v$ では $x\cdot v=2\bigl(\sum_ia_i-4a_1\bigr)$ で、$\sum a_i\equiv0\pmod4$ から $8$ の倍数である。$v\cdot v=9+23=32$ である。$\Lambda$ の元は $\Lambda^0$ の元か $v$ と $\Lambda^0$ の元の和なので、双線形性から $x\cdot y\equiv0\pmod8$ が従う。

偶。 $x\cdot x\equiv0\pmod{16}$ を示せばよい。奇数の 2 乗は $4$ を法として $1$、偶数の 2 乗は $4$ の倍数なので、$a\in\mathbb{Z}^{24}$ について $a\cdot a\equiv\operatorname{wt}(\pi(a))\pmod4$ である。$x=2a\in\Lambda^0$ なら $\operatorname{wt}(\pi(a))\equiv0\pmod4$ から $x\cdot x=4\,a\cdot a\equiv0\pmod{16}$ である。$x+v$($x\in\Lambda^0$)では $(x+v)\cdot(x+v)=x\cdot x+2\,x\cdot v+v\cdot v$ で、各項は $16$ の倍数である。

ユニモジュラー。 $[\mathbb{Z}^{24}:\pi^{-1}(C)]=2^{24}/\lvert C\rvert=2^{12}$ である。$\pi^{-1}(C)\to2\mathbb{Z}/4\mathbb{Z}$、$a\mapsto\sum a_i$ は全射な準同型($2e_1$ の像が $2$)で核が $M$ なので、$[\mathbb{Z}^{24}:M]=2^{13}$ である。よって $\Lambda^0=2M$ の基本領域の体積は $2^{24}\cdot2^{13}=2^{37}$ で、$v\notin\Lambda^0$(成分が奇数)、$2v\in\Lambda^0$ から $[\Lambda:\Lambda^0]=2$、体積は $2^{36}$ である。標準内積での判別式は $(2^{36})^2=2^{72}$ で、形式を $\frac18$ 倍すると判別式は $8^{-24}$ 倍になるので、$\langle\ ,\ \rangle$ での判別式は $2^{72}/2^{72}=1$ である。

ノルムの下限。 $0$ でない $x\in\Lambda$ について $x\cdot x\ge32$ を示す。$x=2a\in\Lambda^0$ とし、$c:=\pi(a)$ とする。$c\ne0$ なら $\operatorname{wt}(c)\ge8$ で、$a$ の奇数の成分は $8$ 個以上あるので $a\cdot a\ge8$、$x\cdot x\ge32$ である。$c=0$ なら $x$ の成分はすべて $4$ の倍数で、$0$ でない成分が 1 つだけならその成分は $\sum x_i\equiv0\pmod8$ から $8$ の倍数で $x\cdot x\ge64$、2 つ以上なら $x\cdot x\ge16+16$ である。$x\in v+\Lambda^0$ なら成分はすべて奇数で、奇数の 2 乗は $8$ を法として $1$ なので $x\cdot x\equiv24\pmod 8$、$x\cdot x\ge24$ である。$x\cdot x=24$ なら $x_i=\pm1$ で、$T:=\{i\mid x_i=-1\}$ は lem-leech-coord の 2 により符号語の台であり、$\sum_ix_i=24-2\lvert T\rvert\equiv4\pmod8$ から $\lvert T\rvert\equiv2\pmod4$ となる。これは符号語の重みが $4$ の倍数であることに反する。よって $x\cdot x\ge32$ である。$\square$

ノルム 4 の元

$\Lambda$ のノルム $4$ の元($x\cdot x=32$ となる $x$)はちょうど $196560$ 個あり、次の 3 種類に分かれる。

形条件個数
$(\pm2^8,0^{16})$$\pm2$ の位置がオクタッドの台、負の符号が偶数個$759\cdot2^7=97152$
$(\pm4^2,0^{22})$位置と符号は任意$4\binom{24}2=1104$
$(\pm3,\pm1^{23})$$\pm3$ の位置は任意、$\{i\mid x_i\equiv3\pmod4\}$ が符号語の台$24\cdot2^{12}=98304$

$x=2a\in\Lambda^0$ で $a\cdot a=8$ とする。$\operatorname{wt}(\pi(a))\ge12$ なら $a\cdot a\ge12$ なので、$\pi(a)$ はオクタッドか $0$ である。オクタッドなら $a$ はその台の上で $\pm1$、ほかで $0$ で、負の成分が $k$ 個なら $\sum a_i=8-2k$ が $4$ の倍数であることは $k$ が偶数であることと同値である。$\pi(a)=0$ なら $a=2b$、$b\cdot b=2$ で $b=\pm e_i\pm e_j$($i\ne j$)、このとき $\sum a_i\in\{0,\pm4\}$ で条件を満たす。$x\in v+\Lambda^0$ で $x\cdot x=32$ とすると、24 個の奇数の 2 乗の和が $32$ なので、1 つが $9$ でほかが $1$ である。$\pm3$ の位置 $j$ と符号語 $c$ を決めると、$x_i\equiv3\pmod 4$ となる位置が $c$ の台であるような $x$ がちょうど 1 つ決まる($i\ne j$ では $c_i=1$ なら $x_i=-1$、そうでなければ $1$。$x_j$ は $c_j=1$ なら $3$、そうでなければ $-3$)。和の条件は自動的に満たされる。実際 $t:=\operatorname{wt}(c)$ とすると、$c_j=1$ なら $\sum x_i=3+(24-t)-(t-1)=28-2t$、$c_j=0$ なら $-3+(23-t)-t=20-2t$ で、$t\equiv0\pmod4$ からどちらも $8$ を法として $4$ である。合計は $97152+1104+98304=196560$ である。$\square$

ノルム $4$ の元 $r,s$ について、$\langle r,s\rangle$ は $0,\pm1,\pm2,\pm4$ のどれかである。実際、Cauchy–Schwarz の不等式から $\lvert\langle r,s\rangle\rvert\le4$ で、等号は $s=\pm r$ のときに限る。$\langle r,s\rangle=3$ なら $\langle r-s,r-s\rangle=4+4-6=2$ となってルートが現れ、thm-leech-basic に反する($-3$ なら $r+s$ を考える)。

テータ級数

テータ級数 $\Theta_L(\tau)=\sum_{x\in L}q^{\langle x,x\rangle/2}$($q=e^{2\pi i\tau}$)と正規化された Eisenstein 級数 $E_4=1+240\sum_{m\ge1}\sigma_3(m)q^m$、$E_6=1-504\sum_{m\ge1}\sigma_5(m)q^m$ は E8格子・モジュラー形式 の記事のとおりとする。
$$ \Delta_0:=\frac{E_4^3-E_6^2}{1728}=q-24q^2+252q^3-1472q^4+\cdots $$
とおく(モジュラー形式 の命題「判別式関数」の $\Delta$ の $(2\pi)^{-12}$ 倍)。

階数 24 のテータ級数

$L$ を階数 $24$ の正定値な偶ユニモジュラー格子とし、そのルートの個数を $N_2$ とする。このとき
$$ \Theta_L=E_4^3+(N_2-720)\,\Delta_0 $$
である。とくにルートをもたない $L$ では
$$ \Theta_L=E_4^3-720\,\Delta_0=1+196560\,q^2+16773120\,q^3+398034000\,q^4+\cdots $$
で、ノルム $4$ の元の個数は $196560$ である。

要点:$\Theta_L$ は重さ $12$ のモジュラー形式で、$M_{12}$ は $E_4^3$ と $\Delta_0$ で張られる 2 次元の空間である。

詳しい証明を開く

モジュラー性。 E8格子 の定理「テータ級数と Eisenstein 級数」の証明を階数 $24$ で繰り返す。$L\subset\mathbb{R}^{24}$(標準内積)とみると、$0$ でない元のノルムは $2$ 以上なので、半径 $1/\sqrt2$ の球の体積の比較からノルム $R$ 以下の元は $(\sqrt R+1/\sqrt2)^{24}\cdot2^{12}$ 個以下で、$\Theta_L$ は $\operatorname{Im}\tau\ge\varepsilon>0$ で一様に絶対収束し、$\operatorname{Im}\tau\ge1$ で有界である。偶なので $\Theta_L(\tau+1)=\Theta_L(\tau)$ である。ユニモジュラーなので双対格子は $L$ 自身で基本領域の体積は $1$ であり、Poissonの和公式 の例「格子のテータ級数」から $t>0$ で $\sum_xe^{-\pi\lvert x\rvert^2/t}=t^{12}\sum_xe^{-\pi t\lvert x\rvert^2}$、すなわち $\tau=it$ について $\Theta_L(-1/\tau)=t^{12}\Theta_L(\tau)=\tau^{12}\Theta_L(\tau)$($i^{12}=1$)である。一致の定理 によりこれは $\mathfrak H$ 全体で成り立つ。$S,T$ は $\operatorname{SL}_2(\mathbb{Z})$ を生成する(モジュラー形式 の命題「変換則は $S$ と $T$ で確かめればよい」)ので、$\Theta_L\in M_{12}$ である。

空間の決定。 モジュラー形式 の定理「モジュラー形式の空間の構造」の 1 から $S_{12}=\Delta M_0=\mathbb{C}\Delta_0$ である。$\Theta_L$ と $E_4^3$ はどちらも $M_{12}$ の元で定数項が $1$ なので、$\Theta_L-E_4^3$ は定数項 $0$ の元、すなわち $S_{12}$ の元で、$\Theta_L-E_4^3=c\,\Delta_0$ と書ける。$q$ の係数を比べると、$\Theta_L$ の $q$ の係数は $N_2$、$E_4^3$ の $q$ の係数は $3\cdot240=720$、$\Delta_0$ の $q$ の係数は $1$ なので $c=N_2-720$ である。

係数。 $E_4=1+240q+2160q^2+6720q^3+17520q^4+\cdots$ を 3 乗すると $E_4^3=1+720q+179280q^2+16954560q^3+396974160q^4+\cdots$ で、$\Delta_0$ の係数と合わせて $q^2$ の係数は $179280+720\cdot24=196560$、$q^3$ は $16954560-720\cdot252=16773120$、$q^4$ は $396974160+720\cdot1472=398034000$ である。$\square$

$q^2$ の係数 $196560$ は prop-leech-min で直接数えた値と一致する。$\Delta_0=\sum_{m\ge1}\tau(m)q^m$ の係数 $\tau(m)$ を Ramanujan の $\tau$ 関数という。

重さ 12 の Eisenstein 級数で書く

正規化された Eisenstein 級数 $E_{12}=1-\frac{24}{B_{12}}\sum_{m\ge1}\sigma_{11}(m)q^m$(モジュラー形式 の記事の正規化された Eisenstein 級数の式)は、$B_{12}=-\frac{691}{2730}$ から $E_{12}=1+\frac{65520}{691}\sum_{m\ge1}\sigma_{11}(m)q^m$ である。prf-leech-theta と同じく $\Theta_\Lambda-E_{12}$ は $S_{12}=\mathbb{C}\Delta_0$ の元で、$q$ の係数を比べると $\Theta_\Lambda=E_{12}-\frac{65520}{691}\Delta_0$、すなわち $m\ge1$ について
$$ \#\{x\in\Lambda\mid\langle x,x\rangle=2m\}=\frac{65520}{691}\bigl(\sigma_{11}(m)-\tau(m)\bigr) $$
である。$m=2$ では $\sigma_{11}(2)=2049$、$\tau(2)=-24$ で $\frac{65520}{691}\cdot2073=65520\cdot3=196560$ となる。左辺は整数で、$691$ は素数で $65520=2^4\cdot3^2\cdot5\cdot7\cdot13$ を割らないので、$\tau(m)\equiv\sigma_{11}(m)\pmod{691}$(Ramanujan の合同式)が従う。この見方は Zag08 §3.2(p. 35)にある。

ルートのない格子の最小の階数

階数が正でルートをもたない正定値な偶ユニモジュラー格子の階数は $24$ 以上である。階数 $24$ ではそのような格子が存在する(thm-leech-basic)。

正定値な偶ユニモジュラー格子の階数は $8$ の倍数である(Zag08 §3.2 の Proposition 12、pp. 33–34。この記事では証明しない)。階数 $8$ なら E8格子 の定理「テータ級数と Eisenstein 級数」により $\Theta_L=E_4$ で、ルートは $240$ 個ある。階数 $16$ なら、prf-leech-theta と同じ議論で $\Theta_L\in M_8$ であり、$\dim M_8=1$(モジュラー形式 の定理「モジュラー形式の空間の構造」の 3)で $E_4^2\in M_8$ の定数項は $1$ なので $\Theta_L=E_4^2=1+480q+\cdots$、ルートは $480$ 個ある。$\square$

一意性と自己同型群

階数 $24$ の正定値な偶ユニモジュラー格子は Niemeier 格子 と呼ばれ、同型を除いてちょうど $24$ 個ある(Niemeier。Bor84 §2.1、Zag08 §3.2、p. 34)。

Leech 格子の一意性

階数 $24$ の正定値な偶ユニモジュラー格子でルートをもたないものは、$\Lambda$ と同型である(Bor84 Corollary 2.6.2、Zag08 p. 34、HM16 §1。この記事では証明しない)。

Bor84 の証明は、thm-leech-theta のようなテータ級数の係数の計算から始まり、$26$ 次元の Lorentz 格子 $\Lambda\oplus U$ の鏡映群を調べるもので、その途中で Leech 格子の被覆半径が $\sqrt2$ であること(どの点も格子点から距離 $\sqrt2$ 以内にあること)が示される(Bor84 §2.5)。
$\Lambda$ の自己同型群 $\operatorname{Aut}(\Lambda)$($\langle\ ,\ \rangle$ を保つ $\Lambda$ の自己同型の群)を Conway 群 $\mathrm{Co}_0$ といい、その中心 $\{\pm1\}$ による商 $\mathrm{Co}_1=\mathrm{Co}_0/\{\pm1\}$ は 散在型単純群 の 1 つである(HM16 §1)。$\mathrm{Co}_1$ の位数は $4157776806543360000$ なので(散在型単純群 の表)、$\lvert\mathrm{Co}_0\rvert=8315553613086720000=2^{22}\cdot3^9\cdot5^4\cdot7^2\cdot11\cdot13\cdot23$ である。この記事では、この群の具体的な部分群を 1 つ作る。

符号の自己同型と符号の変更

$C$ の符号語 $c$ について、$c_i=1$ の座標の符号を変える写像を $\varepsilon_c$ とする。座標の置換 $\sigma$ で $C$ を $C$ に写すもの全体を $\operatorname{Aut}(C)$ とする。このとき $\varepsilon_c$ と $\sigma\in\operatorname{Aut}(C)$ はどれも $\operatorname{Aut}(\Lambda)$ の元で、$\{\varepsilon_c\sigma\}$ は位数 $2^{12}\cdot244823040$ の部分群をなす。
$\varepsilon_c,\sigma$ は標準内積を保つので、$\Lambda$ を保つことを示せばよい。$x=2a\in\Lambda^0$ なら $\varepsilon_cx=2a'$ で $\pi(a')=\pi(a)$、$\sum a'_i=\sum a_i-2\sum_{c_i=1}a_i$ であり、$\sum_{c_i=1}a_i\equiv\pi(a)\cdot c\equiv0\pmod2$ なので和は $4$ を法として変わらず、$\varepsilon_cx\in\Lambda^0$ である。$v$ については $\varepsilon_cv-v=2a$、$a:=-\sum_{c_i=1}v_ie_i$ で、$\pi(a)=c$、$\sum a_i$ は $c_1=0$ なら $-\operatorname{wt}(c)$、$c_1=1$ なら $3-(\operatorname{wt}(c)-1)$ で、どちらも $4$ の倍数なので $\varepsilon_cv\in v+\Lambda^0$ である。$\sigma\in\operatorname{Aut}(C)$ は明らかに $\Lambda^0$ を保ち、$\sigma(1)=j\ne1$ なら $\sigma v-v=4e_1-4e_j=2(2e_1-2e_j)\in\Lambda^0$ である。$\sigma\varepsilon_c\sigma^{-1}=\varepsilon_{\sigma(c)}$ なので、$\{\varepsilon_c\}$ は正規部分群で、積は $\varepsilon_c\sigma$ の形の元の全体であり、$\varepsilon_c\sigma$ は $c,\sigma$ で決まる。置換がオクタッドをオクタッドに写すことと $C$ を保つことは同値で($C$ は重み $8$ の行をもつ生成行列で張られる)、$\operatorname{Aut}(C)$ は Mathieu群 $M_{24}$ であり、その位数は $244823040$ である(Mathieu群 の定理「$M_{24}$・$M_{23}$・$M_{22}$ の位数」)。$\mathrm{Co}_0$ の中でのこの部分群の指数は $8315553613086720000/(2^{12}\cdot244823040)=8292375$ である。

球の詰め込みと接吻数

詰め込みの密度と接する球

$\frac1{\sqrt8}\Lambda\subset\mathbb{R}^{24}$ の各点を中心とする半径 $1$ の球を考える。異なる 2 点の距離は $\sqrt{\langle x,x\rangle}\ge2$ なので、球は互いに重ならない。基本領域の体積は $1$、$24$ 次元の単位球の体積は $\pi^{12}/12!$ なので、この詰め込みが空間を占める割合は
$$ \frac{\pi^{12}}{12!}=0.0019295\cdots $$
である。原点の球に接する球の中心はノルム $4$ の元で、prop-leech-min によりちょうど $196560$ 個ある。直後の注意から、そのうちの異なる 2 つ $r,s$ は $\langle r,s\rangle\le2$、すなわち原点から見た角が $60^\circ$ 以上で、接吻数 の補題「重ならない条件は $60^\circ$ 以上」と同じ理由で接する球どうしも重ならない。

$24$ 次元では、1 つの球に接するように置ける同じ大きさの球の個数の最大値は $196560$ である(CK09 Appendix B)。格子の詰め込みの中で Leech 格子が最も密で、それがただ 1 つであること(CK09 Theorem 9.3)に続いて、Cohn・Kumar・Miller・Radchenko・Viazovska は、合同な球のどんな詰め込みの密度も $\pi^{12}/12!$ を超えないことを証明した(CKMRV17 Theorem 1.1。E8格子 の Viazovska の定理と同じく、モジュラー形式から Fourier 変換の固有関数を作るもので、この記事では証明しない)。

反例

thm-leech-unique の仮定を 1 つずつ外すと、結論が成り立たなくなる。

外す条件反例成り立たなくなること
偶$O:=\Lambda^0\cup(\mathbf 1+\Lambda^0)$($\mathbf 1=(1,\dots,1)$)$\Lambda$ と同型であること
ユニモジュラー$\sqrt2\,(E_8\oplus E_8\oplus E_8)$$\Lambda$ と同型であること
ルートをもたない$E_8\oplus E_8\oplus E_8$$\Lambda$ と同型であること
階数 $24$階数 $32$ でノルム $2$ の元をもたない偶ユニモジュラー格子$\Lambda$ と同型であること
反例の確かめ

1 行目:$\mathbf 1\cdot2a=2\sum a_i\equiv0\pmod8$($2a\in\Lambda^0$)と $2\cdot\mathbf 1\in\Lambda^0$($\mathbf 1\in C$、和 $24$)から、$O$ は $\langle\ ,\ \rangle$ について整な格子で、$\Lambda$ と同じく $\Lambda^0$ を指数 $2$ で含むので判別式は $1$ である。$\mathbf 1$ のノルムは $24/8=3$ で奇数なので偶でなく、$\Lambda$ と同型でない。$\mathbf 1+\Lambda^0$ の元は成分がすべて奇数なのでノルムは $3$ 以上、$\Lambda^0$ の $0$ でない元のノルムは $4$ 以上で(prf-leech-basic)、$O$ はノルム $1$・$2$ の元をもたない。2 行目:$E_8$ を $\sqrt2$ 倍するとノルムは $2$ 倍になるので、偶でノルムの最小値は $4$ だが、判別式は $2^{24}$ である。3 行目:階数 $24$ の偶ユニモジュラー格子で、ルートを $3\cdot240=720$ 個もつ。thm-leech-theta により、そのテータ級数は $E_4^3$ で、E8格子 の定理「テータ級数と Eisenstein 級数」からも $\Theta=E_4^3$ と分かる。4 行目:階数 $32$ では、ノルム $2$ の元をもたない偶ユニモジュラー格子が存在する(Zag08 §3.2、p. 35 の「極値的」な格子)。階数が違うので $\Lambda$ と同型でない。cor-leech-rank は階数 $24$ が最小であることを言うだけで、それより大きい階数のことは言っていない。

補足

  • $\mathrm{Co}_1$ はほかに $11$ 個の散在型単純群を含み、そのうち $9$ 個($\mathrm{Co}_2$、$\mathrm{Co}_3$ など)は格子の部分を各点ごとに固定する部分群(安定化群)として書ける(HM16 §1)。散在型単純群 の表の「Leech 格子の群」の 7 つは、$\mathrm{Co}_1$ とこの 11 個のうちの 6 つである。
  • 正定値な偶ユニモジュラー格子の階数を $n=2k$ とすると、$0$ でない元のノルムの最小値は $2(\lfloor k/12\rfloor+1)$ 以下で、Leech 格子は $n=24$ でこの上限に達するただ 1 つの格子である(Zag08 §3.2、p. 35)。

関連項目

参考文献

[2]
Richard E. Borcherds, The Leech lattice and other lattices, Ph.D. thesis, University of Cambridge, 1984(訂正版 arXiv:math/9911195、1999。第 2 章は Proc. Roy. Soc. London A 398 (1985), 365–376), 1984, §2.1(歴史:Leech 1965、Niemeier 1967)、§2.5(被覆半径 $\sqrt2$)、Corollary 2.6.2(ルートのない Niemeier 格子の一意性)
[3]
Gerald Höhn, Geoffrey Mason, The 290 fixed-point sublattices of the Leech lattice, Journal of Algebra 448 (2016), 618–637(arXiv:1505.06420v3), 2016, §1(Leech 格子の特徴づけ、自己同型群 $\mathrm{Co}_0$、$\mathrm{Co}_1=\mathrm{Co}_0/\{\pm1\}$ と格子の安定化群として現れる散在型単純群)
[4]
Henry Cohn, Abhinav Kumar, Optimality and uniqueness of the Leech lattice among lattices, Annals of Mathematics 170 (2009), 1003–1050(arXiv:math/0403263v3), 2009, Theorem 9.3(24 次元で最も密な格子は Leech 格子だけ)、Appendix B(24 次元の接吻数 196560)
[5]
Henry Cohn, Abhinav Kumar, Stephen D. Miller, Danylo Radchenko, Maryna Viazovska, The sphere packing problem in dimension 24, Annals of Mathematics 185 (2017), no. 3, 1017–1033(arXiv:1603.06518), 2017, §1 の Theorem 1.1(24 次元の球の詰め込みの密度は Leech 格子の詰め込みの密度 $\pi^{12}/12!$ を超えない)

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