幾何学的実現と有限極限

同義語:geometric realization and finite limits幾何学的実現の有限極限の保存

概要

幾何学的実現と有限極限(geometric realization and finite limits)とは、単体的集合の有限な図式の極限の幾何学的実現を、実現した図式の極限と比べる定理である。$k$-空間の圏で極限をとれば標準の比較写像はつねに同相写像であり、幾何学的実現は終対象・有限積・等化子・引き戻しを含む有限極限を保ち、実現はすべて Hausdorff なので Hausdorff なコンパクト生成空間の圏でも同じである。等化子は通常の位相のままでも保たれ、単体的写像の頂点の上のファイバーの実現は、実現した写像のファイバーと部分空間位相で同相になる。一方、有限積は通常の直積位相では同相とは限らず、無限積は $k$-空間の圏でも保たれない。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 幾何学的実現, 幾何学的実現と積(Milnorの定理), コンパクト生成空間, 極限(圏論)

幾何学的実現 $\lvert\cdot\rvert$ は特異単体的集合をとる関手 $\operatorname{Sing}$ の左随伴なので、任意の余極限を保つ。極限については事情が異なり、何を保つかは値の側の位相の圏の選び方で変わる。通常の位相空間の圏 $\mathbf{Top}$ では、単体的集合の積の実現 $\lvert K\times L\rvert$ と直積空間 $\lvert K\rvert\times\lvert L\rvert$ は一般には同相でない(幾何学的実現と積(Milnorの定理) の例「反例:Dowker の例」)。しかし $k$-空間の圏 $\mathbf K$ で極限をとれば、有限な図式の極限はすべて保たれる。これがこの記事の主定理である。
主定理は、有限積の場合(幾何学的実現と積(Milnorの定理))と等化子の場合に分けて示される。等化子のほうは通常の位相のままでも保たれ、その系として、単体的写像の頂点の上のファイバーの実現は、実現した写像のファイバーと部分空間位相のまま同相になる。また単体的集合の実現はすべて Hausdorff 空間なので、Hausdorff な $k$-空間の圏でも同じ主張が成り立つ。この記事では、等化子の場合を Eilenberg–Zilber の補題から完全に証明し、主定理と系を導き、有限という仮定が外せないことを無限積の例で示す。

設定

記号は 幾何学的実現 に従う。$\lvert X\rvert$ の点 $(x,t)$ の類を $[x,t]$、$x\in X_n$ の特性写像を $\iota_x\colon\lvert\Delta^n\rvert\to\lvert X\rvert$、位相的単体の内部を $\operatorname{Int}\lvert\Delta^n\rvert$ と書く。$\lvert X\rvert$ の各点は、非退化単体 $y$ と内部の点 $u$ による $[y,u]$ とただ 1 通りに書ける(幾何学的実現 の命題「実現の点の標準の代表」)。これを点の 標準の代表 という。部分単体的集合 $A\subset X$ に対し $\lvert X\rvert_A:=\{[a,t]\mid a\in A\}$ とおく。
位相空間の側では 3 つの圏を区別する。

  • $\mathbf{Top}$:位相空間と連続写像の圏。
  • $\mathbf K$:$k$-空間(コンパクト生成空間 の定義「$k$-空間とコンパクト生成空間」)全体のなす $\mathbf{Top}$ の充満部分圏。分離公理は課さない。
  • $\mathbf{CGHaus}$:Hausdorff な $k$-空間全体のなす充満部分圏。Hausdorff 空間は弱 Hausdorff なので、これは Hausdorff なコンパクト生成空間の圏である。
    $k$-閉集合を閉集合とする位相を入れた空間を $kX$ と書く。$Z$ が $k$-空間なら、写像 $Z\to X$ が連続であることと、同じ写像 $Z\to kX$ が連続であることは同値である(コンパクト生成空間 の命題「$k$ 化」の 4)。$\mathbf K$ の積を $X\times_kY=k(X\times Y)$ と書く(同記事の命題「$k$-空間の圏の直積」)。
    実現 $\lvert X\rvert$ は $k$-空間である。実際、$F\subset\lvert X\rvert$ が $k$-閉集合なら、$\lvert\Delta^n\rvert$ はコンパクト Hausdorff 空間なので $\iota_x$ は試験写像であり、$\iota_x^{-1}(F)$ はすべての単体 $x$ で閉集合である。商位相の定義により $F$ は閉集合である。さらに $\lvert X\rvert$ は Hausdorff である(幾何学的実現 の系「実現の位相的性質」の (R1))。したがって $\lvert\cdot\rvert$ は $\mathbf{CGHaus}\subset\mathbf K\subset\mathbf{Top}$ のどれに値をとる関手とも見られる。
極限の比較写像

$J$ を小さい圏、$D\colon J\to\mathbf{sSet}$ を図式とし、その極限を $L=\lim_JD$、射影を $\pi_j\colon L\to D(j)$ とする。$\mathcal C$ を $\mathbf{Top}$、$\mathbf K$、$\mathbf{CGHaus}$ のいずれかとし、図式 $\lvert D\rvert\colon J\to\mathcal C$ の $\mathcal C$ での極限 $\lim^{\mathcal C}_J\lvert D\rvert$ が存在するとき、$\mathrm{pr}_j\circ\varphi_D=\lvert\pi_j\rvert$($\mathrm{pr}_j$ は極限の射影)をみたすただ 1 つの連続写像
$$ \varphi_D\colon\lvert\lim_JD\rvert\longrightarrow\lim^{\mathcal C}_J\lvert D\rvert $$
を 比較写像 という。$\varphi_D$ が同相写像であることは、$(\lvert L\rvert,(\lvert\pi_j\rvert)_j)$ が $\lvert D\rvert$ の $\mathcal C$ での極限であることと同値である。

単体的集合の極限は次数ごとに集合の極限として計算される(単体的集合 の定理「極限と余極限の次数ごとの計算」)。$J$ が空なら極限は $\Delta^0$ で、その実現は 1 点(幾何学的実現 の例「点と定値単体的集合」)、つまりどの $\mathcal C$ でも終対象である。

準備:$k$-空間の圏の極限

$k$ 化した極限と余極限

$J$ を小さい圏、$E\colon J\to\mathbf K$ を図式とする。

  1. $\mathbf{Top}$ での極限 $\lim^{\mathbf{Top}}E$ とその射影に対し、$k(\lim^{\mathbf{Top}}E)$ と同じ射影の組は $E$ の $\mathbf K$ での極限である。
  2. $\mathbf{Top}$ での余極限 $\operatorname{colim}^{\mathbf{Top}}E$ は $k$-空間であり、同じ構造写像の組で $E$ の $\mathbf K$ での余極限になる。

要点:1 は $k$ 化の普遍性、2 は試験写像と商位相による。

詳しい証明を開く

1:$\Lambda=\lim^{\mathbf{Top}}E$ とする。恒等写像 $k\Lambda\to\Lambda$ は連続なので、射影は $k\Lambda$ からも連続で錐をなす。$k$-空間 $W$ から $E$ への錐は、$\mathbf{Top}$ の極限の普遍性により連続写像 $u\colon W\to\Lambda$ と 1 対 1 に対応し、$W$ は $k$-空間なので $u$ の連続性は $u\colon W\to k\Lambda$ の連続性と同値である(コンパクト生成空間 の命題「$k$ 化」の 4)。$k\Lambda$ は $k$-空間なので(同命題の 2)、$\mathbf K$ の対象であり、よって $\mathbf K$ での極限である。

2:$C=\operatorname{colim}^{\mathbf{Top}}E$、構造写像を $c_j$ とする。$C$ の位相は、$U\subset C$ が開集合であることとすべての $c_j^{-1}(U)$ が開集合であることが同値になる位相(構造写像についての終位相)である。$V\subset C$ を $k$-開集合とする。$E(j)$ への試験写像 $v$ について $c_j\circ v$ は $C$ への試験写像なので、$v^{-1}(c_j^{-1}(V))$ は開集合である。$E(j)$ は $k$-空間なので $c_j^{-1}(V)$ は開集合であり、したがって $V$ は開集合である。よって $C$ は $k$-空間で、$\mathbf K$ は充満部分圏なので $C$ は $\mathbf K$ でも余極限である。$\square$

この補題は Hov99 Proposition 2.4.22 の 3 に述べられている。とくに、$k$-空間の間の平行な連続写像 $f,g\colon X\rightrightarrows Y$ の $\mathbf K$ での等化子は、$Z=\{x\in X\mid f(x)=g(x)\}$ に部分空間位相を入れて $k$ 化したもの $kZ$ である。$Z$ がはじめから $k$-空間なら $k$ 化は要らない。

閉部分空間の $k$ 性

$W$ を $k$-空間、$D\subset W$ を閉集合とすると、部分空間 $D$ は $k$-空間である。

要点:$D$ への試験写像を $W$ への試験写像の制限として扱う。

詳しい証明を開く

$V\subset D$ を $D$ の $k$-閉集合とし、$V$ が $W$ の閉集合であることを示す($D$ は閉なので、これで $V$ は $D$ の閉集合になる)。$W$ への試験写像 $h\colon C\to W$ をとる。$C_D:=h^{-1}(D)$ はコンパクト Hausdorff 空間 $C$ の閉集合なのでコンパクト Hausdorff であり、$h|_{C_D}\colon C_D\to D$ は $D$ への試験写像である。よって $h^{-1}(V)=(h|_{C_D})^{-1}(V)$ は $C_D$ の閉集合、したがって $C$ の閉集合である。$h$ は任意なので $V$ は $W$ の $k$-閉集合であり、$W$ は $k$-空間なので閉集合である。$\square$

等化子の実現

単体的写像 $f,g\colon X\rightrightarrows Y$ の等化子は、次数ごとに $A_n=\{x\in X_n\mid f(x)=g(x)\}$ とおいた部分単体的集合 $A\subset X$ である($f,g$ は構造写像 $\alpha^*$ と可換なので $A$ は $\alpha^*$ で閉じる)。その実現が実現した写像の等化子になることを示す鍵は、次の補題である。

全射は内部の点の像で決まる

順序を保つ全射 $\alpha,\beta\colon[n]\to[p]$ と内部の点 $t\in\operatorname{Int}\lvert\Delta^n\rvert$ について $\lvert\alpha\rvert(t)=\lvert\beta\rvert(t)$ ならば、$\alpha=\beta$ である。

$j\in[p]$ に対し $a_j:=\max\alpha^{-1}(j)$ とおく。$\alpha$ は順序を保つ全射なので $\alpha^{-1}(\{0,\dots,j\})=\{0,1,\dots,a_j\}$ であり、$a_0< a_1<\dots< a_p=n$、さらに $\alpha(i)=\min\{j\mid i\le a_j\}$ である。$\lvert\alpha\rvert$ の定義(幾何学的実現 の定義「位相的単体」)から
$$ \sum_{r=0}^{j}\lvert\alpha\rvert(t)_r=\sum_{i:\,\alpha(i)\le j}t_i=t_0+t_1+\dots+t_{a_j} $$
である。$\beta$ についても $b_j:=\max\beta^{-1}(j)$ とおけば同じ式が成り立つ。$t$ は内部の点なのですべての $t_i>0$ であり、$m\mapsto t_0+\dots+t_m$ は狭義単調増加である。よって左辺が等しいことから $a_j=b_j$($0\le j\le p$)が従い、$\alpha$ と $\beta$ は同じ式で決まるので $\alpha=\beta$ である。$\square$

等化子の実現

単体的写像 $f,g\colon X\rightrightarrows Y$ の等化子を $A\subset X$ とし、$Z:=\{z\in\lvert X\rvert\mid\lvert f\rvert(z)=\lvert g\rvert(z)\}$ に $\lvert X\rvert$ の部分空間位相を入れる。

  1. 包含の実現 $\lvert A\rvert\to\lvert X\rvert$ は $\lvert A\rvert$ から $Z$ への同相写像であり、$Z$ は $\lvert X\rvert$ の閉集合である。
  2. $Z$ は $k$-空間である。したがって $\lvert A\rvert$ は、$\mathbf{Top}$ でも $\mathbf K$ でも $\mathbf{CGHaus}$ でも $\lvert f\rvert,\lvert g\rvert$ の等化子である。

1:幾何学的実現 の補題「部分単体的集合の実現」の (R3) により、$\lvert A\rvert\to\lvert X\rvert$ は閉集合 $\lvert X\rvert_A$ への同相写像である。よって $\lvert X\rvert_A=Z$ を示せばよい。
$a\in A$ なら $\lvert f\rvert[a,t]=[f(a),t]=[g(a),t]=\lvert g\rvert[a,t]$ なので、$\lvert X\rvert_A\subset Z$ である。
逆に $z\in Z$ をとり、標準の代表を $z=[x,t]$($x\in X_n$ は非退化、$t$ は内部の点)とする。幾何学的実現 の補題「Eilenberg–Zilber の補題」により、$f(x)=\alpha^*y$、$g(x)=\beta^*y'$($\alpha\colon[n]\to[p]$、$\beta\colon[n]\to[p']$ は全射、$y,y'$ は非退化)と書ける。同値関係の定義から
$$ \lvert f\rvert(z)=[\alpha^*y,t]=[y,\lvert\alpha\rvert(t)],\qquad\lvert g\rvert(z)=[y',\lvert\beta\rvert(t)] $$
であり、$\alpha,\beta$ は全射なので $\lvert\alpha\rvert(t)$、$\lvert\beta\rvert(t)$ は内部の点である(幾何学的実現 の節「位相的単体と特異単体的集合」)。つまりこれらは $\lvert f\rvert(z)$、$\lvert g\rvert(z)$ の標準の代表である。$\lvert f\rvert(z)=\lvert g\rvert(z)$ と標準の代表の一意性から $y=y'$(とくに $p=p'$)かつ $\lvert\alpha\rvert(t)=\lvert\beta\rvert(t)$ であり、lem-grfl-cut により $\alpha=\beta$ である。したがって $f(x)=\alpha^*y=g(x)$、すなわち $x\in A$ で、$z=[x,t]\in\lvert X\rvert_A$ である。
2:$Z$ は $k$-空間 $\lvert X\rvert$ の閉集合なので、lem-grfl-closed-subspace により $k$-空間であり、Hausdorff 空間の部分空間として Hausdorff である。$\mathbf{Top}$ での等化子は部分空間 $Z$ とその包含であり、$Z$ は $k$-空間なので $kZ=Z$、よって lem-grfl-k-limits の 1 により $Z$ は $\mathbf K$ での等化子でもある。$\mathbf{CGHaus}$ は $\mathbf K$ の充満部分圏で $Z$ を含むので、そこでも等化子である。1 の同相写像で $Z$ を $\lvert A\rvert$ に移せば主張を得る。$\square$

等化子は通常の位相のままで保たれる。有限極限のうち $k$ 化が要るのは積の側だけである。

主定理

幾何学的実現は有限極限を保つ

$J$ を有限圏(対象と射が有限個の圏)、$D\colon J\to\mathbf{sSet}$ を図式とする。比較写像
$$ \varphi_D\colon\lvert\lim_JD\rvert\longrightarrow\lim^{\mathbf K}_J\lvert D\rvert=k\Bigl(\lim^{\mathbf{Top}}_J\lvert D\rvert\Bigr) $$
は同相写像である。すなわち、幾何学的実現 $\mathbf{sSet}\to\mathbf K$ は有限極限を保つ。$J$ が空のときは、両辺はともに 1 点である。

右辺が $k(\lim^{\mathbf{Top}}_J\lvert D\rvert)$ と書けることは lem-grfl-k-limits の 1 による。

段 1(有限積):単体的集合 $X_1,\dots,X_m$ について、成分が $\lvert\mathrm{pr}_i\rvert$ である写像
$$ \theta\colon\Bigl\lvert\prod_{i=1}^mX_i\Bigr\rvert\longrightarrow\prod^{\mathbf K}_{i=1}^m\lvert X_i\rvert $$
が同相写像であることを $m$ についての帰納法で示す。$m=0$ では両辺とも 1 点、$m=1$ では恒等写像である。$m\ge2$ では $\prod_{i\le m}X_i=\bigl(\prod_{i< m}X_i\bigr)\times X_m$ であり、幾何学的実現と積(Milnorの定理) の定理「幾何学的実現と積」により、成分が $\lvert\mathrm{pr}\rvert$ である
$$ \Bigl\lvert\bigl(\textstyle\prod_{i< m}X_i\bigr)\times X_m\Bigr\rvert\longrightarrow\Bigl\lvert\textstyle\prod_{i< m}X_i\Bigr\rvert\times_k\lvert X_m\rvert $$
は同相写像である。帰納法の仮定と $\times_k$ の関手性により、右辺は $\bigl(\prod^{\mathbf K}_{i< m}\lvert X_i\rvert\bigr)\times_k\lvert X_m\rvert$ と同相であり、これは $\mathbf K$ の積の普遍性により $\prod^{\mathbf K}_{i\le m}\lvert X_i\rvert$ である。合成の各成分は $\lvert\mathrm{pr}_i\rvert$ なので、合成は $\theta$ に一致する。
段 2(極限を等化子で書く):極限(圏論) の命題「積と等化子による構成」の証明のとおり、
$$ P=\prod_{j\in\operatorname{Ob}J}D(j),\qquad Q=\prod_{u\colon j\to j'}D(j') $$
($Q$ は $J$ のすべての射 $u$ にわたる積)とおき、$s,t\colon P\rightrightarrows Q$ を $u$ 成分が $s_u=D(u)\circ p_j$、$t_u=p_{j'}$ である写像とする($p_j$ は $P$ の射影)。$s,t$ の等化子 $e\colon L\to P$ と $\pi_j:=p_j\circ e$ の組は $D$ の極限である。$J$ は有限圏なので $P,Q$ は有限個の積である。
段 3(実現する):prop-grfl-equalizer により、$\lvert e\rvert\colon\lvert L\rvert\to\lvert P\rvert$ は $\lvert s\rvert,\lvert t\rvert$ の $\mathbf K$ での等化子である。段 1 の同相写像を $\theta_P\colon\lvert P\rvert\to P':=\prod^{\mathbf K}_j\lvert D(j)\rvert$、$\theta_Q\colon\lvert Q\rvert\to Q':=\prod^{\mathbf K}_u\lvert D(j')\rvert$ とし、$s',t'\colon P'\rightrightarrows Q'$ を $u$ 成分が $s'_u=\lvert D(u)\rvert\circ\mathrm{pr}_j$、$t'_u=\mathrm{pr}_{j'}$ の写像とする。$u$ 成分を比べると
$$ \mathrm{pr}_u\circ\theta_Q\circ\lvert s\rvert=\lvert p^Q_u\circ s\rvert=\lvert D(u)\rvert\circ\lvert p_j\rvert=\lvert D(u)\rvert\circ\mathrm{pr}_j\circ\theta_P $$
($p^Q_u$ は $Q$ の射影)なので $\theta_Q\circ\lvert s\rvert=s'\circ\theta_P$ であり、同様に $\theta_Q\circ\lvert t\rvert=t'\circ\theta_P$ である。$\theta_P,\theta_Q$ は同相写像なので、$\theta_P\circ\lvert e\rvert\colon\lvert L\rvert\to P'$ は $s',t'$ の $\mathbf K$ での等化子である。
段 4(結論):$s',t'$ は段 2 と同じ形の、図式 $\lvert D\rvert$ についての写像である。極限(圏論) の命題「積と等化子による構成」の証明を $\mathbf K$ で $\lvert D\rvert$ に当てはめると、$\theta_P\circ\lvert e\rvert$ と成分 $\mathrm{pr}_j\circ\theta_P\circ\lvert e\rvert=\lvert p_j\circ e\rvert=\lvert\pi_j\rvert$ の組は $\lvert D\rvert$ の $\mathbf K$ での極限である。これは比較写像 $\varphi_D$ が同相写像であることにほかならない。$\square$

証明が使ったのは、有限積の場合と、通常の位相での等化子の場合の 2 つである。前者は単体の積の三角形分割を調べる位相の議論、後者は Eilenberg–Zilber の補題による組合せの議論である。$J$ の有限性を使うのは、段 2 の $P,Q$ を有限個の積にするところだけである。
この定理は Hov99 Lemma 3.2.4 に、有限積の場合は同書 Lemma 3.1.8 に述べられている。

系

比較写像は連続な全単射

有限圏 $J$ と $D\colon J\to\mathbf{sSet}$ について、$\mathbf{Top}$ での比較写像 $\lvert\lim_JD\rvert\to\lim^{\mathbf{Top}}_J\lvert D\rvert$ は連続な全単射である。とくに、単体的写像 $X\to Z\leftarrow Y$ について $\lvert X\times_ZY\rvert\to\lvert X\rvert\times_{\lvert Z\rvert}\lvert Y\rvert$(右辺は直積空間の部分空間)は連続な全単射である。

要点:$k$ 化は台集合を変えない。

詳しい証明を開く

$\mathbf{Top}$ での比較写像は、thm-grfl-main の同相写像 $\varphi_D$ と連続な恒等写像 $k\Lambda\to\Lambda$($\Lambda=\lim^{\mathbf{Top}}_J\lvert D\rvert$)の合成である。後者は台集合の上で恒等写像なので全単射である。$\square$

通常の位相のままでは、この全単射は同相写像とは限らない(節「反例」)。

引き戻しの実現

単体的写像 $f\colon X\to Z$、$g\colon Y\to Z$ について、比較写像
$$ \lvert X\times_ZY\rvert\longrightarrow\lvert X\rvert\times^{\mathbf K}_{\lvert Z\rvert}\lvert Y\rvert,\qquad[(x,y),t]\mapsto([x,t],[y,t]) $$
は同相写像である。ここで右辺は $\{(a,b)\mid\lvert f\rvert(a)=\lvert g\rvert(b)\}$ に $\lvert X\rvert\times_k\lvert Y\rvert$ の部分空間位相を入れたものであり、$\lvert X\rvert\times_k\lvert Y\rvert$ の閉集合である。

要点:$\lvert Z\rvert$ が Hausdorff なので、一致する点の集合は閉集合で $k$ 化が要らない。

詳しい証明を開く

$J$ を 3 つの対象と 2 本の恒等射でない射からなる有限圏 $\bullet\to\bullet\leftarrow\bullet$ として thm-grfl-main を当てる。$\mathbf K$ での引き戻しは、2 つの連続写像 $\lvert f\rvert\circ\mathrm{pr}_1,\ \lvert g\rvert\circ\mathrm{pr}_2\colon\lvert X\rvert\times_k\lvert Y\rvert\rightrightarrows\lvert Z\rvert$ の $\mathbf K$ での等化子である。$\lvert Z\rvert$ は Hausdorff なので、2 つの写像が一致する点の集合 $E$ は閉集合であり、lem-grfl-closed-subspace により $k$-空間である。よって lem-grfl-k-limits の 1 により、この等化子は部分空間 $E$ そのものである。比較写像の式は射影の実現 $\lvert\mathrm{pr}_X\rvert[(x,y),t]=[x,t]$ などから従う。$\square$

$Z=\Delta^0$ とすれば、幾何学的実現と積(Milnorの定理) の定理「幾何学的実現と積」に戻る。

Hausdorff なコンパクト生成空間の圏での形

有限圏 $J$ と $D\colon J\to\mathbf{sSet}$ について、$\lim^{\mathbf K}_J\lvert D\rvert$ は Hausdorff 空間であり、比較写像 $\lvert\lim_JD\rvert\to\lim^{\mathbf{CGHaus}}_J\lvert D\rvert$ は同相写像である。すなわち、幾何学的実現 $\mathbf{sSet}\to\mathbf{CGHaus}$ は有限極限を保つ。弱 Hausdorff な $k$-空間(コンパクト生成空間 の意味のコンパクト生成空間)全体の圏に値をとる関手と見ても同じである。

要点:Hausdorff 性は有限個の積・部分空間・$k$ 化で保たれる。

詳しい証明を開く

各 $\lvert D(j)\rvert$ は Hausdorff であり(幾何学的実現 の系「実現の位相的性質」の (R1))、Hausdorff 空間の直積の部分空間は Hausdorff なので、$\lim^{\mathbf{Top}}_J\lvert D\rvert$ は Hausdorff である。$k$ 化は位相を細かくするので(コンパクト生成空間 の命題「$k$ 化」の 1)、$\lim^{\mathbf K}_J\lvert D\rvert$ も Hausdorff である。$\mathbf{CGHaus}$ は $\mathbf K$ の充満部分圏で、この空間と各 $\lvert D(j)\rvert$ を含むので、$\mathbf K$ での極限は $\mathbf{CGHaus}$ でも極限であり、thm-grfl-main から主張が従う。Hausdorff 空間は弱 Hausdorff なので(コンパクト生成空間 の命題「弱 Hausdorff 空間の性質」の 1)、弱 Hausdorff な $k$-空間の圏についても同じ議論が通る。$\square$

GJ09 Proposition I.2.4(p. 9)はこの形で述べており、帰結として $\mathbf{CGHaus}$ の積について $\lvert X\times Y\rvert\cong\lvert X\rvert\times_k\lvert Y\rvert$ を挙げている(同書は証明を他の文献に任せている)。

例

頂点の上のファイバー

単体的写像 $p\colon X\to Y$ と頂点 $v\in Y_0$ について、$v$ の上のファイバー $X_v:=X\times_Y\Delta^0$($\Delta^0\to Y$ は $v$ が定める写像)の実現は、通常の部分空間位相のままで
$$ \lvert X_v\rvert\cong\lvert p\rvert^{-1}([v,1])\subset\lvert X\rvert $$
である($[v,1]$ は $\lvert\Delta^0\rvert$ の唯一の点 $1$ による頂点 $v$ の点)。$p$ に Kan ファイブレーションなどの条件は要らない。$\lvert Y\rvert$ の点 $b$ が頂点の点 $[v,1]$ の形でないときは、$b$ に対応する単体的集合のファイバーは定まらず、この例は何も主張しない。

確かめ

$c_v\colon X\to\Delta^0\to Y$ を $v$ を経由する写像とすると、$X_v$ は $p$ と $c_v$ の等化子 $\{x\mid p(x)=c_v(x)\}$ と同型である($x\in X_n$ に対し、$c_v(x)$ は $v$ を退化させた $n$ 単体)。$\lvert\Delta^0\rvert$ は 1 点なので $\lvert c_v\rvert$ は $[v,1]$ への定値写像であり、prop-grfl-equalizer の $Z$ はちょうど $\lvert p\rvert^{-1}([v,1])$ になる。

部分単体的集合に沿った引き戻し

単体的写像 $p\colon X\to Y$ と部分単体的集合 $B\subset Y$ について、$p^{-1}(B)=X\times_YB$ は $X$ の部分単体的集合であり、通常の部分空間位相のままで $\lvert p^{-1}(B)\rvert\cong\lvert p\rvert^{-1}(\lvert Y\rvert_B)$ である。

確かめ

幾何学的実現 の補題「部分単体的集合の実現」の (R3) により $\lvert p^{-1}(B)\rvert$ は閉集合 $\lvert X\rvert_{p^{-1}(B)}$ と同相なので、$\lvert X\rvert_{p^{-1}(B)}=\lvert p\rvert^{-1}(\lvert Y\rvert_B)$ を示せばよい。$\subset$ は $\lvert p\rvert[x,t]=[p(x),t]$ から明らかである。逆に $z=[x,t]$ を標準の代表とし、$p(x)=\alpha^*y$($\alpha$ は全射、$y$ は非退化)とすると、$\lvert p\rvert(z)=[y,\lvert\alpha\rvert(t)]$ はその標準の代表である。$\lvert p\rvert(z)\in\lvert Y\rvert_B$ なら、同じ補題の (R1) により $y\in B$ であり、$p(x)=\alpha^*y\in B$、つまり $x\in p^{-1}(B)$ である。$B$ を頂点 $v$ の退化全体とすれば ex-grfl-vertex-fiber の別証明になる。

反例

外す条件反例成り立たなくなること
$\mathbf K$ での極限(有限積を直積位相で読む)幾何学的実現と積(Milnorの定理) の例「反例:Dowker の例」$\lvert K\times L\rvert\to\lvert K\rvert\times\lvert L\rvert$ が同相写像であること(連続な全単射ではある)
図式が有限ex-grfl-infinite-product比較写像が同相写像であること($\mathbf K$ でも $\mathbf{CGHaus}$ でも)

Dowker の例は引き戻しにも及ぶ。$Z=\Delta^0$ の引き戻しは積なので、cor-grfl-pullback の右辺を $\lvert X\rvert\times\lvert Y\rvert$ の部分空間位相で読むと、一般には同相にならない。

反例:無限積

可算個の積 $\prod_{\mathbb N}\partial\Delta^1$ の実現は離散空間 $\{0,1\}^{\mathbb N}$ であり、$\prod_{\mathbb N}\lvert\partial\Delta^1\rvert$ は $\mathbf K$ でも $\mathbf{CGHaus}$ でも直積位相の $\{0,1\}^{\mathbb N}$(Cantor集合 と同相)である。比較写像は台集合 $\{0,1\}^{\mathbb N}$ の恒等写像で、連続な全単射だが同相写像でない。

確かめ

$\partial\Delta^1$ の $n$ 単体は全射でない順序写像 $[n]\to[1]$、つまり 2 つの定値写像であり、構造写像はすべて恒等写像である。したがって $\partial\Delta^1$ は 2 点集合 $\{0,1\}$ の定値単体的集合であり、積は次数ごとに計算されるので、$\prod_{\mathbb N}\partial\Delta^1$ は集合 $\{0,1\}^{\mathbb N}$ の定値単体的集合である。その実現は離散空間 $\{0,1\}^{\mathbb N}$ である(幾何学的実現 の例「点と定値単体的集合」)。

一方、$\prod_{\mathbb N}\lvert\partial\Delta^1\rvert$ は 2 点離散空間の可算個の直積で、Cantor集合 と同相なコンパクト Hausdorff 空間である(同記事の命題「直積空間との同相」)。コンパクト Hausdorff 空間は局所コンパクトなので $k$-空間であり(コンパクト生成空間 の命題「$k$-空間の例」の 2)、$k$ 化しても変わらない。よって lem-grfl-k-limits の 1 により、これは $\mathbf K$ での積でもあり、$\mathbf{CGHaus}$ での積でもある。

比較写像の成分は射影の実現なので、比較写像は台集合 $\{0,1\}^{\mathbb N}$ の恒等写像である。直積位相の基本開集合は有限個の座標しか固定しないので無限集合であり、1 点集合は直積位相で開集合でない。よって比較写像は同相写像でない。

位相の圏ごとのまとめ

主張$\mathbf{Top}$(通常の位相)$\mathbf K$$\mathbf{CGHaus}$
等化子(prop-grfl-equalizer)同相同相同相
頂点の上のファイバー(ex-grfl-vertex-fiber)同相同相同相
有限積・引き戻し・有限極限(thm-grfl-main)連続な全単射(同相とは限らない)同相同相
無限積(ex-grfl-infinite-product)同相とは限らない同相とは限らない同相とは限らない

有限積が通常の位相で同相になる十分条件(一方の因子の実現が局所コンパクト、または両方の因子が各次元に可算個の単体しかもたない)は 幾何学的実現と積(Milnorの定理) にある。

補足

  • 右随伴の側:$\operatorname{Sing}$ は右随伴なので任意の極限を保つ(幾何学的実現 の系「余極限の保存」)。$\lvert\cdot\rvert$ は $\mathbf K$ に値をとる関手としても有限極限までしか保たず、ex-grfl-infinite-product のように無限積は保たない。
  • 余極限との両立:lem-grfl-k-limits の 2 により、$\mathbf K$ の対象の余極限は $\mathbf{Top}$ で計算できるので、実現は $\mathbf K$ に値をとる関手としても任意の余極限を保つ。
  • ファイバーとファイブレーション:ex-grfl-vertex-fiber により、Kanファイブレーション $p$ の実現 $\lvert p\rvert$ の頂点の上のファイバーは、単体的集合のファイバー $X_v$ の実現として扱える。$\lvert p\rvert$ が Serre ファイブレーションであること(極小Kanファイブレーション の定理「Quillen の定理」)と合わせると、$\lvert p\rvert$ のファイバー列を単体的集合の側で調べられる。

関連項目

参考文献

Mathpediaは寄付と、参考文献の書籍リンク(Amazonアソシエイト)の紹介料で運営されています。 支援について / 寄付する