算術種数(arithmetic genus)とは、体 $k$ 上の $r$ 次元射影スキーム $X$ に対して $p_a(X)=(-1)^r(\chi(\mathcal{O}_X)-1)$ で定まる整数である。射影空間に埋め込んだときの Hilbert 多項式 $P_X$ を使うと $p_a(X)=(-1)^r(P_X(0)-1)$ と書け、Hilbert 多項式は埋め込みによって変わるがこの値は変わらない。代数閉体上の整な射影曲線では $p_a=\dim_kH^1(X,\mathcal{O}_X)\ge0$ であり、滑らかな曲線では種数に一致し、次数 $d$ の滑らかな平面曲線では $(d-1)(d-2)/2$ になる。特異曲線では正規化の種数より大きくなりうるので、特異曲線まで含めると双有理不変量ではない。
前提知識: 層コホモロジー, Hilbert多項式, 射影空間, 種数, Serreのひねり層
次数 $d$ の滑らかな平面曲線の種数は $\frac{(d-1)(d-2)}{2}$ である。この式は、曲線を $\mathbb{P}^2$ の中に置いたときの Hilbert 多項式 $P(m)=dm-\frac{(d-1)(d-2)}{2}+1$ の定数項から読み取れる。特異点をもつ曲線や高い次元の多様体にも、同じ読み取り方で整数を割り当てたものが 算術種数(arithmetic genus)である。Hilbert 多項式は埋め込み方によって変わるが、定数項だけは構造層の Euler 標数 $\chi(\mathcal{O}_X)$ に等しく、埋め込みによらない。これが算術種数を多様体そのものの不変量にしている。
代数閉体上の整な射影曲線では、算術種数は $H^1(X,\mathcal{O}_X)$ の次元であり、滑らかな曲線では種数と一致する。特異曲線では正規化の種数(幾何種数)より特異点の寄与の分だけ大きく、特異曲線まで含めると双有理不変量ではない。この「特異点まで数える」性質のために、曲面の上の曲線の随伴公式や合同ゼータ関数の計算など、特異曲線をそのまま扱う場面で算術種数が使われる。
この記事では、Hilbert 多項式の値 $P_X(0)$ が $\chi(\mathcal{O}_X)$ に等しいことを証明して、算術種数が埋め込みによらないことを示す。そのうえで、整な曲線では $p_a=h^1(\mathcal{O}_X)\ge0$ であること、滑らかな平面曲線どうしの双有理同値を算術種数で区別できることを証明し、算術種数が負になる例や双有理不変性が崩れる例を挙げる。
以下、$k$ を体とする。射影スキームとは、ある $n$ について射影空間 $\mathbb{P}^n_k$ の閉部分スキームと同型な $k$ 上のスキームのことである。射影スキーム $X$ 上の連接層 $\mathcal{F}$ のコホモロジー $H^i(X,\mathcal{F})$ は有限次元の $k$ ベクトル空間であり(Har77 III, Theorem 5.2 (a), p. 228)、$i>\dim X$ では $0$ である(同 Theorem 2.7, p. 208)。そこで $\mathcal{F}$ の Euler 標数を
$$
\chi(\mathcal{F}):=\sum_{i\ge0}(-1)^i\dim_kH^i(X,\mathcal{F})
$$
とおく。$h^i(\mathcal{F}):=\dim_kH^i(X,\mathcal{F})$ とも書く。短完全列 $0\to\mathcal{F}'\to\mathcal{F}\to\mathcal{F}''\to0$ があれば、コホモロジーの長完全列の次元の交代和から $\chi(\mathcal{F})=\chi(\mathcal{F}')+\chi(\mathcal{F}'')$ である。
$X$ を体 $k$ 上の空でない射影スキームとし、$r:=\dim X$ とする。
$$
p_a(X):=(-1)^r\bigl(\chi(\mathcal{O}_X)-1\bigr)
$$
を $X$ の 算術種数(arithmetic genus)という。
$\chi(\mathcal{O}_X)$ と $\dim X$ は $k$ 上のスキーム $X$ だけで決まるので、$p_a(X)$ も $k$ 上のスキーム $X$ だけで決まり、射影空間への埋め込みによらない。曲線($r=1$)では $p_a(X)=1-\chi(\mathcal{O}_X)$ である。「$-1$」は射影空間の算術種数が $0$ になるように、符号 $(-1)^r$ は整な曲線で $p_a=h^1(\mathcal{O}_X)\ge0$ となるように選んだ正規化である。実際、$\mathbb{P}^n_k$ では $H^0(\mathcal{O})=k$、$H^i(\mathcal{O})=0$($i>0$)なので(Har77 III, Theorem 5.1, p. 225)$\chi(\mathcal{O}_{\mathbb{P}^n})=1$、$p_a(\mathbb{P}^n_k)=0$ である。
歴史的には、算術種数は射影空間に埋め込んだ多様体の Hilbert 多項式で定義された(Har77 I, Exercise 7.2, p. 54)。次の節でその定義と上の定義が一致することを示す。
$S:=k[x_0,\dots,x_n]$ を斉次座標環とし、$S_m$ を $m$ 次の斉次多項式の空間とする($m<0$ なら $S_m=0$)。$H^0(\mathbb{P}^n_k,\mathcal{O}(m))=S_m$ である(Har77 III, Theorem 5.1 (a))。閉部分スキーム $\iota\colon X\hookrightarrow\mathbb{P}^n_k$ について $\mathcal{O}_X(m):=\iota^*\mathcal{O}(m)$ とおき、
$$
I_X:=\bigoplus_{m\ge0}\operatorname{Ker}\bigl(S_m\to H^0(X,\mathcal{O}_X(m))\bigr)
$$
を $X$ の 斉次イデアルという($F\in S_m$ を $X$ に制限して $0$ になるものの全体)。$I_X$ は $S$ の斉次イデアルであり、$S/I_X$ を $X$ の斉次座標環という。
まず Euler 標数がひねりについて多項式になることを示す。
$\mathcal{F}$ を $\mathbb{P}^n_k$ 上の連接層とする。有理数係数の多項式 $Q(z)$ で、すべての整数 $m$ について $\chi(\mathcal{F}(m))=Q(m)$ となるものがただ 1 つある。
要点:$\mathcal{F}$ の随伴点で消えない 1 次式 $\ell$ を選ぶと、$\ell$ 倍の完全列 $0\to\mathcal{F}(m-1)\to\mathcal{F}(m)\to\mathcal{G}(m)\to0$ の $\mathcal{G}$ は台の次元が下がるので、台の次元についての帰納法で $\chi(\mathcal{F}(m))-\chi(\mathcal{F}(m-1))$ が多項式になる。一意性は、無限個の整数で一致する多項式が等しいことによる。
段 1($k$ が無限体の場合).$e:=\dim\operatorname{Supp}\mathcal{F}$($\mathcal{F}=0$ なら $e=-1$)についての帰納法で示す。$e=-1$ なら $\chi=0$ である。$e\ge0$ とする。$\mathcal{F}$ の随伴点(各アフィン開集合 $D_+(x_i)$ で対応する加群の随伴素イデアル)は有限個である。随伴点 $y$ ごとに、$y$ で消える 1 次式の全体は $S_1$ の真の部分空間である($y$ はある $D_+(x_i)$ に入り、$x_i$ は $y$ で消えない)。無限体上のベクトル空間は有限個の真の部分空間の和集合にならないので、どの随伴点でも消えない $\ell\in S_1$ がある。
$\ell$ 倍 $\mathcal{F}(-1)\to\mathcal{F}$ は単射である。実際 $D_+(x_i)$ 上で $\mathcal{F}$ が $A=k[x_0/x_i,\dots,x_n/x_i]$ 加群 $M$ に対応するとき、$0$ でない $u\in M$ が $\ell/x_i$ で消されるなら、$\operatorname{Ann}(u)$ を含む随伴素イデアル $\mathfrak{p}$ があり(零因子の全体は随伴素イデアルの和集合)、$\ell/x_i\in\mathfrak{p}$、すなわち $\ell$ が随伴点 $\mathfrak{p}$ で消えて矛盾する。余核を $\mathcal{G}$ とすると、各 $m$ で $0\to\mathcal{F}(m-1)\to\mathcal{F}(m)\to\mathcal{G}(m)\to0$ が完全である($\mathcal{O}(m)$ は局所自由)。$\operatorname{Supp}\mathcal{G}\subset\operatorname{Supp}\mathcal{F}\cap V_+(\ell)$ であり、$\operatorname{Supp}\mathcal{F}$ の各既約成分の生成点は随伴点なので $\ell$ はそこで消えず、各成分と $V_+(\ell)$ の交わりは成分の真の閉集合で、次元が真に下がる。よって $\dim\operatorname{Supp}\mathcal{G}< e$ であり、帰納法の仮定から $\chi(\mathcal{G}(m))=R(m)$ となる多項式 $R$ がある。
$\chi$ の加法性から $\chi(\mathcal{F}(m))-\chi(\mathcal{F}(m-1))=R(m)$ である。二項係数の多項式 $\binom{z+j}{j+1}$ は差 $\binom{z+j}{j+1}-\binom{z-1+j}{j+1}=\binom{z+j-1}{j}$ をもつので、$R$ を $\binom{z+j-1}{j}$($j\ge0$)の一次結合に書いて項ごとに置き換えれば、$Q_0(m)-Q_0(m-1)=R(m)$ となる多項式 $Q_0$ が作れる。$m\mapsto\chi(\mathcal{F}(m))-Q_0(m)$ は差が $0$ なので定数 $c$ であり、$Q:=Q_0+c$ でよい。
段 2(一般の体).$K$ を $k$ を含む無限体(たとえば $k(t)$)とし、$\mathcal{F}$ を $\mathbb{P}^n_K$ に引き戻した層を $\mathcal{F}_K$ とする。$\operatorname{Spec}K\to\operatorname{Spec}k$ は平坦なので、$H^i(\mathbb{P}^n_K,\mathcal{F}_K(m))\cong H^i(\mathbb{P}^n_k,\mathcal{F}(m))\otimes_kK$ である(Har77 III, Proposition 9.3, p. 255)。よって $\chi_K(\mathcal{F}_K(m))=\chi(\mathcal{F}(m))$ であり、段 1 を $\mathcal{F}_K$ に使えばよい。$\square$
$X\subset\mathbb{P}^n_k$ を空でない閉部分スキームとし、$r:=\dim X$ とする。
$\mathcal{J}\subset\mathcal{O}_{\mathbb{P}^n}$ を $X$ のイデアル層とする。短完全列 $0\to\mathcal{J}\to\mathcal{O}_{\mathbb{P}^n}\to\iota_*\mathcal{O}_X\to0$ に局所自由層 $\mathcal{O}(m)$ をテンソルすると、完全列
$$
0\to\mathcal{J}(m)\to\mathcal{O}_{\mathbb{P}^n}(m)\to\iota_*\mathcal{O}_X\otimes\mathcal{O}(m)\to0
$$
を得る。右端は射影公式により $\iota_*(\mathcal{O}_X(m))$ であり、閉埋め込みによる押し出しはコホモロジーを変えないので(Har77 III, Lemma 2.10, p. 209)、$H^i(\mathbb{P}^n,\iota_*\mathcal{O}_X(m))=H^i(X,\mathcal{O}_X(m))$ である。
lem-ag-poly を連接層 $\iota_*\mathcal{O}_X$ に使うと、$\chi(\mathcal{O}_X(m))=Q(m)$ となる多項式 $Q$ がある。
長完全列の最初の部分は
$$
0\to H^0(\mathcal{J}(m))\to S_m\to H^0(X,\mathcal{O}_X(m))\to H^1(\mathbb{P}^n,\mathcal{J}(m))
$$
であり、真ん中の写像の核は定義により $(I_X)_m$ である。Serre の定理(Har77 III, Theorem 5.2 (b))を連接層 $\mathcal{J}$ と $\iota_*\mathcal{O}_X$ に使うと、ある $m_0$ があって、$m\ge m_0$ では $H^1(\mathcal{J}(m))=0$ かつ $H^i(X,\mathcal{O}_X(m))=0$($i>0$)となる。よって $m\ge m_0$ では $S_m\to H^0(X,\mathcal{O}_X(m))$ が全射で、
$$
\dim_k(S/I_X)_m=h^0(\mathcal{O}_X(m))=\chi(\mathcal{O}_X(m))=Q(m)
$$
である。したがって $P_X:=Q$ は 1 の性質をもつ。2 つの多項式が無限個の整数で一致すれば等しいので、1 の一意性と 2 が従う。3 は 2 で $m=0$ とおき、def-ag に代入したものである。$\square$
これは Har77 III, Exercise 5.2 と Exercise 5.3 (b)(p. 230)の内容である。Hilbert 多項式そのものは埋め込みに依存する。たとえば下の ex-ag-rational-normal では、同じ $\mathbb{P}^1$ を直線・2 次曲線・ねじれ 3 次曲線として埋め込むと Hilbert 多項式は $m+1$、$2m+1$、$3m+1$ と変わるが、$P_X(0)$ はどれも $1$ である。最高次の係数(の $r!$ 倍)は埋め込みの次数を測り、定数項は埋め込みによらない量を測る。
$k$ を代数閉体、$X$ を被約な閉部分スキームとすると、$I_X$ は「$X$ のすべての閉点で消える斉次多項式」全体のなすイデアルに一致する。実際、体上有限型の被約な環では、すべての極大イデアルに含まれる元は $0$ なので(Hilbertの零点定理)、可逆層の切断がすべての閉点で消えれば $0$ である。したがって thm-ag-hilbert の $P_X$ は、Hilbert多項式 の注意「射影多様体の Hilbert 多項式」で述べた多様体の Hilbert 多項式と同じものであり、def-ag は Har77 I, Exercise 7.2 の定義 $p_a=(-1)^r(P_X(0)-1)$ と一致する。
$H^0(X,\mathcal{O}_X)$ が $k$ に等しいとき、算術種数は高次のコホモロジーだけで書ける。代数閉体上の整な射影スキームはこの条件をみたす。
$k$ を代数閉体、$X$ を $k$ 上の整な射影スキームとし、$r:=\dim X$ とする。このとき $H^0(X,\mathcal{O}_X)=k$ であり、
$$
p_a(X)=\sum_{j=0}^{r-1}(-1)^j\dim_kH^{r-j}(X,\mathcal{O}_X)
$$
が成り立つ。とくに、$X$ が曲線($r=1$)なら $p_a(X)=\dim_kH^1(X,\mathcal{O}_X)\ge0$ であり、$X$ が曲面($r=2$)なら $p_a(X)=h^2(\mathcal{O}_X)-h^1(\mathcal{O}_X)$ である。
$A:=H^0(X,\mathcal{O}_X)$ は有限次元の $k$ 代数である(Har77 III, Theorem 5.2 (a))。$X$ は整なので、$X$ 全体の上の切断の環 $A$ は整域である。有限次元の整域は体である($0$ でない元 $a$ の倍写像 $A\to A$ は単射な線形写像なので全射で、$ab=1$ となる $b$ がある)。よって $A$ は $k$ の有限次拡大体であり、$k$ は代数閉体なので $A=k$ である。
$h^0(\mathcal{O}_X)=1$ と、$i>r$ で $H^i=0$ であることから $\chi(\mathcal{O}_X)-1=\sum_{i=1}^r(-1)^ih^i(\mathcal{O}_X)$ である。$(-1)^r$ を掛けて $j:=r-i$ と添字を替えると $(-1)^{r+i}=(-1)^{2r-j}=(-1)^j$ なので、主張の式を得る。$r=1,2$ の場合は式を書き下したものである。$\square$
これは Har77 III, Exercise 5.3 (a)(p. 230)の内容である。曲線では、算術種数は次のように種数・幾何種数と比べられる。
滑らかな射影曲線どうしが双有理同値なら同型なので、滑らかな射影曲線の算術種数は双有理不変量になる。これを使うと、平面曲線を次数で区別できる。
$k$ を代数閉体とする。
1:双有理同値な滑らかな射影曲線は同型である(代数関数体 の定理「代数関数体と非特異射影曲線」、Har77 I, Corollary 6.12, p. 45)。$\chi(\mathcal{O})$ と次元は同型で変わらないので、$p_a$ も変わらない。
2:$F\neq0$ は整域 $S$ の正則列なので $C$ は余次元 $1$ の完全交叉であり、同記事の定理「構造層のひねりのコホモロジー」の 3 により $H^0(C,\mathcal{O}_C)=k$、とくに $C$ は連結である。$C$ は滑らかなので各局所環は正則局所環、とくに整域であり、連結な Noether スキームで局所環がすべて整域なら既約である(2 つの既約成分が交わる点の局所環は 2 つ以上の極小素イデアルをもつ)。よって $C$ は整な 1 次元射影スキーム、すなわち滑らかな射影曲線である。$p_a(C)=\frac{(d-1)(d-2)}{2}$ は 完全交叉 の系「算術種数」の 1 である。
3:$a_d:=\frac{(d-1)(d-2)}{2}$ とおくと $a_{d+1}-a_d=d-1>0$($d\ge2$)なので、$d\ge2$ の範囲で $a_d$ は狭義単調増加であり、次数の異なる滑らかな平面曲線は算術種数が異なる。1 より双有理同値でない。$\mathbb{P}^1_k$ は次数 $1$ の平面曲線(直線)と同型で $p_a(\mathbb{P}^1_k)=0$ だが、$d\ge3$ なら $a_d\ge1$ なので、1 より $C$ は $\mathbb{P}^1_k$ と双有理同値でない。$\square$
3 は Har77 III, Exercise 5.3 (c) の内容であり、同書 II, Example 8.20.3(p. 183)では幾何種数を使って同じ結論を導いている。滑らかさの仮定は外せない。結節点をもつ平面 3 次曲線は算術種数 $1$ だが有理曲線である(下の ex-ag-counter)。
$\mathbb{P}^1_k$ を次の 3 通りに埋め込む。
| 埋め込み | 斉次座標環 $(S/I_X)_m$ | Hilbert 多項式 | $P_X(0)$ | $p_a$ |
|---|---|---|---|---|
| 直線 $\mathbb{P}^1\subset\mathbb{P}^1$ | $k[s,t]_m$ | $m+1$ | $1$ | $0$ |
| 2 次曲線 $V_+(x_0x_2-x_1^2)\subset\mathbb{P}^2$ | $k[s,t]_{2m}$ | $2m+1$ | $1$ | $0$ |
| ねじれ 3 次曲線 $\subset\mathbb{P}^3$ | $k[s,t]_{3m}$ | $3m+1$ | $1$ | $0$ |
2 次曲線は $F=x_0x_2-x_1^2$ の超曲面なので、$(S/I_X)_m=(S/(F))_m$ の次元は $\binom{m+2}{2}-\binom{m}{2}=2m+1$($m\ge0$)である(完全交叉 の定理「構造層のひねりのコホモロジー」の 1)。ねじれ 3 次曲線を $\varphi\colon S=k[x_0,\dots,x_3]\to k[s,t]$、$x_i\mapsto s^{3-i}t^i$ の核 $I$ で定めると、制限写像 $S\to\bigoplus_mH^0(C,\mathcal{O}_C(m))$ の核は $I$ である(完全交叉 の例「ねじれ 3 次曲線は完全交叉でない」)。$\varphi$ の $m$ 次の部分の像は $s,t$ の $3m$ 次の単項式すべてで張られるので、$(S/I)_m\cong k[s,t]_{3m}$ は $3m+1$ 次元である。3 つの埋め込みで Hilbert 多項式の最高次の係数(次数)は $1,2,3$ と変わるが、定数項はつねに $1$ で、thm-ag-hilbert のとおり $p_a(\mathbb{P}^1)=0$ になる。
完全交叉については、完全交叉 の系「算術種数」により Koszul 分解から算術種数が計算できる。次の表はその値である($\mathbb{P}^n$ の次数 $d$ の超曲面は $p_a=\binom{d-1}{n}$)。
| $X$ | $\dim X$ | $p_a(X)$ |
|---|---|---|
| $\mathbb{P}^2$ の次数 $d=1,2,3,4,5,6$ の曲線 | $1$ | $0,0,1,3,6,10$ |
| $\mathbb{P}^3$ の 2 次曲面と 2 次曲面の交わり | $1$ | $1$ |
| $\mathbb{P}^3$ の 2 次曲面と 3 次曲面の交わり | $1$ | $4$ |
| $\mathbb{P}^3$ の次数 $d$ の曲面 | $2$ | $\binom{d-1}{3}$ |
$\mathbb{P}^3$ の滑らかな曲面では $q=0$ なので(代数曲面 の定理「空間の滑らかな曲面の不変量」)、$p_a=p_g$ である。たとえば滑らかな 4 次曲面(K3曲面)は $p_a=p_g=1$ である。
prop-ag-integral と thm-ag-plane の仮定を 1 つずつ外すと、次のように結論が崩れる。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 既約性(整であること) | $\mathbb{P}^3_k$ の交わらない 2 直線 $X=L_1\sqcup L_2$ | $p_a(X)=h^1(\mathcal{O}_X)\ge0$(実際は $p_a=-1$、$h^1=0$) |
| $k$ が代数閉体であること | $\mathbb{R}$ 上のスキーム $X=\mathbb{P}^1_{\mathbb{C}}$ | $H^0(X,\mathcal{O}_X)=k$ と $p_a=h^1(\mathcal{O}_X)$(実際は $p_a=-1$、$h^1=0$) |
| 滑らかさ | 結節点 3 次曲線 $y^2z=x^3+x^2z$ | 双有理同値な曲線の算術種数が等しいこと($p_a=1$ だが $\mathbb{P}^1$ と双有理同値) |
| 次元が $1$ であること | $C\times\mathbb{P}^1$($C$ は種数 $g\ge1$ の滑らかな射影曲線) | $p_a(X)\ge0$ と $p_a=p_g$(実際は $p_g=0$、$p_a\le-g<0$) |
1 行目:$L_1,L_2$ は交わらないので $\mathcal{O}_X=\mathcal{O}_{L_1}\times\mathcal{O}_{L_2}$ であり、$L_i\cong\mathbb{P}^1$ かつ $\mathcal{O}_X(m)|_{L_i}\cong\mathcal{O}_{\mathbb{P}^1}(m)$ だから $\chi(\mathcal{O}_X(m))=2(m+1)$ である。よって $\chi(\mathcal{O}_X)=2$、$h^0(\mathcal{O}_X)=2$、$h^1(\mathcal{O}_X)=0$ で、$p_a(X)=(-1)^1(2-1)=-1<0$ である。
2 行目:$X=\mathbb{P}^1_{\mathbb{R}}\times_{\mathbb{R}}\operatorname{Spec}\mathbb{C}$ は整である。$\operatorname{Spec}\mathbb{C}$ は $\mathbb{P}^1_{\mathbb{R}}$ の閉点 $t^2+1=0$ なので、$X$ は $\mathbb{P}^1_{\mathbb{R}}\times_{\mathbb{R}}\mathbb{P}^1_{\mathbb{R}}$ の閉部分スキームであり、Segre埋め込み により $\mathbb{P}^3_{\mathbb{R}}$ の閉部分スキームになる。よって $X$ は $\mathbb{R}$ 上の 1 次元射影スキームである。平坦な底変換との交換(Har77 III, Proposition 9.3)により $H^i(X,\mathcal{O}_X)=H^i(\mathbb{P}^1_{\mathbb{R}},\mathcal{O})\otimes_{\mathbb{R}}\mathbb{C}$ なので、$H^0=\mathbb{C}$($\mathbb{R}$ 上 $2$ 次元)、$H^1=0$ である。よって $\chi(\mathcal{O}_X)=2$ で $p_a(X)=-1$ である。
3 行目:$C=V_+(y^2z-x^3-x^2z)$ は次数 $3$ の平面曲線なので $p_a(C)=1$ である(完全交叉 の系「算術種数」)。$t=y/x$ とおくと $x=t^2-1$、$y=t(t^2-1)$($z=1$)と有理的に媒介変数表示でき、$C$ は $\mathbb{P}^1$ と双有理同値である(種数 の注意「反例:特異曲線の算術種数と幾何種数」)。$p_a(\mathbb{P}^1)=0$ なので、算術種数は特異曲線を含めると双有理不変量でない。
4 行目:$k$ を代数閉体とする。$X:=C\times_k\mathbb{P}^1_k$ は滑らかな射影曲面である。多重種数 の定理「直積の多重種数」により $p_g(X)=P_1(C)P_1(\mathbb{P}^1)=g\cdot0=0$ である。射影 $p\colon X\to C$ は切断 $s\colon C\to X$、$c\mapsto(c,\infty)$ をもち、$p\circ s=\mathrm{id}_C$ だから、コホモロジーの引き戻し $p^*\colon H^1(C,\mathcal{O}_C)\to H^1(X,\mathcal{O}_X)$ は $s^*\circ p^*=\mathrm{id}$ をみたして単射である。よって $q(X)\ge h^1(\mathcal{O}_C)=g$ であり、$p_a(X)=p_g-q\le-g<0=p_g$ である。
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