Weylスピノル(Weyl spinor)とは、Lorentz 群の恒等成分 $\mathrm{SO}^+(1,3)$ を二重に覆う $\mathrm{SL}(2,\mathbb{C})$ の 2 次元の複素表現の元であり、行列 $A$ で変換される右巻きのものと $(A^*)^{-1}$ で変換される左巻きのものがある。2 つの表現は既約で互いに複素共役であり同値でなく、$2\pi$ 回転で符号を変えるので Lorentz 群そのものの表現ではない。右巻きのスピノル $u$ から作る $uu^*$ は未来向きの光的なベクトルを表し、この対応は Lorentz 変換と両立する。質量 0 のスピン $\frac12$ の粒子の場は Weyl 方程式に従い、正のエネルギーの平面波解のヘリシティは右巻きで $+\frac12$、左巻きで $-\frac12$ に決まる。
前提知識: 群の表現, Hermite行列, Minkowski空間
Weyl スピノル(Weyl spinor)は、Lorentz 群の恒等成分 $\mathrm{SO}^+(1,3)$ を二重に覆う群 $\mathrm{SL}(2,\mathbb{C})$ の 2 次元の複素表現の元、すなわち $\mathrm{SL}(2,\mathbb{C})$ の行列で変換される 2 成分の複素ベクトルである。行列 $A$ でそのまま変換する 右巻き と、$(A^*)^{-1}$ で変換する 左巻き の 2 種類があり、この 2 つの表現は互いに複素共役で、同値ではない。$-I$ が $-1$ として作用するので、Weyl スピノルは Lorentz 群そのものの表現ではなく、空間の $2\pi$ 回転で符号を変える。質量 $0$ のスピン $\frac12$ の粒子(Weyl 粒子)の場はこれを値にとり、Weyl 方程式に従う。
この記事では、2 つの表現が既約で互いに同値でないこと、右巻きのスピノル $u$ から $uu^*$ によって未来向きの光的なベクトルが得られ、これが Lorentz 変換と両立すること、Weyl 方程式が Lorentz 変換で形を変えず、正のエネルギーの平面波解のヘリシティ(運動の向きのスピン)が右巻きでは $+\frac12$、左巻きでは $-\frac12$ に決まることを証明する。2 つの Weyl スピノルを組にしたものが電子を記述する Dirac スピノルである。
SL(2,C)とSO^+(1,3) と同じく、$v=(t,x,y,z)\in\mathbb{R}^4$ に Minkowski 二次形式 $q(v)=t^2-x^2-y^2-z^2$ と、それに付随する対称双線形形式 $\eta(v,w)$ を考える(この記事では符号を $(+,-,-,-)$ とする)。Pauli 行列
$$
\sigma_1=\begin{pmatrix}0&1\\1&0\end{pmatrix},\qquad\sigma_2=\begin{pmatrix}0&-i\\i&0\end{pmatrix},\qquad\sigma_3=\begin{pmatrix}1&0\\0&-1\end{pmatrix}
$$
は Hermite 行列で、$\sigma_j\sigma_k+\sigma_k\sigma_j=2\delta_{jk}I$ をみたす。$\boldsymbol{a}\in\mathbb{R}^3$ に対し $\boldsymbol{a}\cdot\boldsymbol{\sigma}:=a_1\sigma_1+a_2\sigma_2+a_3\sigma_3$ と書くと、この関係から $(\boldsymbol{a}\cdot\boldsymbol{\sigma})^2=|\boldsymbol{a}|^2I$ である。$v=(t,\boldsymbol{x})$ に対し
$$
H(v):=tI+\boldsymbol{x}\cdot\boldsymbol{\sigma}=\begin{pmatrix}t+z&x-iy\\x+iy&t-z\end{pmatrix},\qquad\check H(v):=tI-\boldsymbol{x}\cdot\boldsymbol{\sigma}
$$
とおく。$H$ は $\mathbb{R}^4$ から $2\times2$ Hermite 行列の全体への実線形同型で、$\det H(v)=q(v)$ である(SL(2,C)とSO^+(1,3) の命題「行列式はMinkowski二次形式」)。また
$$
H(v)\check H(v)=\check H(v)H(v)=\bigl(t^2-|\boldsymbol{x}|^2\bigr)I=q(v)I
$$
である。$A\in\mathrm{SL}(2,\mathbb{C})$ に対し $\rho(A)\in\mathrm{SO}^+(1,3)$ を $H(\rho(A)v)=AH(v)A^*$ で定めると、$\rho$ は核 $\{\pm I\}$ の全射準同型である(同記事の定理「二重被覆定理」)。
$A\in\mathrm{SL}(2,\mathbb{C})$、$\Lambda:=\rho(A)$ とすると、すべての $v$ について
$$
\check H(\Lambda v)=(A^*)^{-1}\check H(v)A^{-1}
$$
である。
$q(v)\ne0$ のとき、$\check H(v)=q(v)H(v)^{-1}$ である。$q(\Lambda v)=q(v)$ なので
$$
\check H(\Lambda v)=q(v)\bigl(AH(v)A^*\bigr)^{-1}=(A^*)^{-1}\,q(v)H(v)^{-1}A^{-1}=(A^*)^{-1}\check H(v)A^{-1}
$$
である。両辺は $v$ について連続で、$q(v)\ne0$ となる $v$ の全体は $\mathbb{R}^4$ で稠密なので、すべての $v$ で等式が成り立つ。$\square$
$\mathbb{C}^2$ への $\mathrm{SL}(2,\mathbb{C})$ の 2 つの作用
$$
D_R(A)u:=Au,\qquad D_L(A)u:=(A^*)^{-1}u
$$
を考える。$D_R$ で変換される $u\in\mathbb{C}^2$ を 右巻きの Weyl スピノル、$D_L$ で変換されるものを 左巻きの Weyl スピノル という。物理では左巻きを $(\frac12,0)$ 表現、右巻きを $(0,\frac12)$ 表現と呼ぶ(DHM10 §2)。
$((AB)^*)^{-1}=(A^*)^{-1}(B^*)^{-1}$ なので $D_L$ も準同型である。どちらを「左」と呼ぶかは、後の thm-ws-weyl で見るヘリシティの符号で決まり、それを $H(v)$ の定め方と合わせて固定した。文献によっては $H$ の代わりに $\check H$ で Minkowski 空間と Hermite 行列を同一視するので、そのときは $D_L$ と $D_R$ の式が入れ替わる。名前は Weyl による 2 成分の記述にちなむ(DHM10 §3.1 の脚注 21)。
$\theta\in\mathbb{R}$ について $U_\theta:=\operatorname{diag}(e^{-i\theta/2},e^{i\theta/2})\in\mathrm{SU}(2)$ とする。$U_\theta H(v)U_\theta^*$ の $(1,2)$ 成分は $(x-iy)e^{-i\theta}$ なので、$\rho(U_\theta)$ は $z$ 軸のまわりの角 $\theta$ の回転である。$\theta=2\pi$ では $\rho(U_{2\pi})$ は恒等変換だが、$U_{2\pi}=-I$ なので、右巻き・左巻きのどちらのスピノルも $u\mapsto-u$ と変換される。Weyl スピノルの変換は $\Lambda\in\mathrm{SO}^+(1,3)$ だけからは符号を除いてしか決まらず、$\mathrm{SO}^+(1,3)$ の表現ではない。
1.$u\ne0$ なら、$u$ を第 1 列とし行列式が $1$ の行列 $A$ がある($u$ と 1 次独立な $w$ をとり、$\det(u\ w)$ で割った $w$ を第 2 列にする)。$Ae_1=u$ なので $\mathrm{SL}(2,\mathbb{C})$ は $\mathbb{C}^2\setminus\{0\}$ に推移的に作用し、不変な 1 次元部分空間はない。よって $D_R$ は既約である。$A\mapsto(A^*)^{-1}$ は $\mathrm{SL}(2,\mathbb{C})$ の全単射なので、$D_L$ の像も $\mathrm{SL}(2,\mathbb{C})$ 全体であり、$D_L$ も既約である。
2.${}^tu\,\varepsilon\,w=u_1w_2-u_2w_1=\det(u\ w)$ なので、${}^t(Au)\varepsilon(Aw)=\det(A(u\ w))=\det A\det(u\ w)=\det(u\ w)$ である。$A=\begin{pmatrix}a&b\\c&d\end{pmatrix}$ について直接計算すると $\varepsilon A\varepsilon^{-1}=\begin{pmatrix}d&-c\\-b&a\end{pmatrix}={}^tA^{-1}$($ad-bc=1$ を使う)であり、$\varepsilon$ が $D_R$ と双対表現の間の同値を与える。
3.2 の式の複素共役をとると $\bar\varepsilon\bar A\bar\varepsilon^{-1}={}^t\bar A^{-1}=(A^*)^{-1}$ で、$\bar\varepsilon=\varepsilon$ である。
4.同値なら、ある可逆な $S$ ですべての $A$ について $SAS^{-1}=(A^*)^{-1}$ となり、跡をとると $\operatorname{tr}A=\operatorname{tr}(A^*)^{-1}=\overline{\operatorname{tr}A^{-1}}$ である。$2\times2$ 行列で $\det A=1$ なら $\operatorname{tr}A^{-1}=\operatorname{tr}A$ なので、$\operatorname{tr}A$ はつねに実数になる。しかし $A=\operatorname{diag}(2i,-\frac i2)$ では $\operatorname{tr}A=\frac{3i}2$ であり、矛盾する。$\square$
4 の証明で使った $A=\operatorname{diag}(2i,-\frac i2)$ は回転と boost を組み合わせた元である。回転だけに制限すると事情が変わる(ex-ws-counterexamples の 2 行目)。2 の不変な交代形式 ${}^tu\,\varepsilon\,w$ は、物理でスピノルの添字を上げ下げする「スピノル計量」である(DHM10 §2 の式 (2.19)–(2.20)。$\varepsilon$ の符号の流儀は文献で異なる)。
右巻きのスピノル $u$ から Hermite 行列 $uu^*$ を作ると、それは光的なベクトルを表す。
$\mathcal{N}^+$ を未来向きの光的なベクトル($q(v)=0$、$t>0$)の全体とする。$u\in\mathbb{C}^2\setminus\{0\}$ に対し $H(\Phi(u))=uu^*$ で $\Phi(u)\in\mathbb{R}^4$ を定めると、次が成り立つ。
1.$uu^*$ は Hermite 行列なので $H$ の逆像 $\Phi(u)=(t,x,y,z)$ がある。$\operatorname{tr}H(v)=2t$、$\operatorname{tr}(\sigma_jH(v))=2x_j$($\operatorname{tr}\sigma_j=0$、$\operatorname{tr}(\sigma_j\sigma_k)=2\delta_{jk}$ による)と、$\operatorname{tr}(Muu^*)=u^*Mu$ から 1 の式を得る。$uu^*$ は階数 $1$ なので $q(\Phi(u))=\det(uu^*)=0$、また $t=\frac12|u|^2>0$ である。
2.$v\in\mathcal{N}^+$ とすると $H(v)$ は Hermite 行列で、固有値の積は $\det H(v)=0$、和は $\operatorname{tr}H(v)=2t>0$ なので、固有値は $0$ と $2t$ である。$2t$ に属する単位固有ベクトルを $w$ とすると $H(v)=2t\,ww^*$ なので(スペクトル分解)、$u:=\sqrt{2t}\,w$ について $\Phi(u)=v$ である。次に $uu^*=u'u'^*$ とする。両辺を $u$ に掛けると $|u|^2u=(u'^*u)u'$ なので $u'$ は $u$ の $0$ でない複素数倍 $cu$ であり、$uu^*=|c|^2uu^*$ から $|c|=1$ である。逆に $u'=e^{i\theta}u$ なら $u'u'^*=uu^*$ である。
3.$H(\Phi(Au))=Auu^*A^*=AH(\Phi(u))A^*=H(\rho(A)\Phi(u))$ で、$H$ は単射である。$\square$
2 から、$\Phi$ は $\mathbb{C}^2\setminus\{0\}$ を位相 $e^{i\theta}$ で割ったものと $\mathcal{N}^+$ の全単射を与える。正の数倍まで割ると、左辺は複素射影直線 $\mathbb{CP}^1$(Riemann球面)、右辺は光の向きの全体(天球)$S^2$ になり、3 により $A=\begin{pmatrix}a&b\\c&d\end{pmatrix}$ の作用は $\zeta=u_1/u_2$ の Möbius変換 $\zeta\mapsto(a\zeta+b)/(c\zeta+d)$ として天球に働く。
$u=e_1=(1,0)$ なら $uu^*=\begin{pmatrix}1&0\\0&0\end{pmatrix}=H(\frac12,0,0,\frac12)$ なので、$\Phi(e_1)=\frac12(1,0,0,1)$ は $z$ 軸の正の向きの光線である。$z$ 軸方向の boost $A_s=\operatorname{diag}(e^{s/2},e^{-s/2})$($s\in\mathbb{R}$)について $A_se_1=e^{s/2}e_1$ で、$\Phi(A_se_1)=e^s\Phi(e_1)$ となる。光的なベクトルが boost で $e^s$ 倍される(Doppler 効果。Minkowski空間 の命題「未来の光錐への推移的な作用」の証明の式)ことが、スピノルでは $e^{s/2}$ 倍として見える。
$\mathbb{R}^4$ の座標を $v=(t,x^1,x^2,x^3)$、偏微分を $\partial_t$、$\partial_j:=\partial/\partial x^j$ と書く。$\mathbb{C}^2$ に値をとる滑らかな関数(スピノル場)$\psi$ に対し
$$
R\psi:=\partial_t\psi+\sum_{j=1}^3\sigma_j\partial_j\psi,\qquad L\psi:=\partial_t\psi-\sum_{j=1}^3\sigma_j\partial_j\psi
$$
とおく。
$R\psi=0$ を 右巻きの Weyl 方程式、$L\psi=0$ を 左巻きの Weyl 方程式 という。$A\in\mathrm{SL}(2,\mathbb{C})$、$\Lambda:=\rho(A)$ に対し、右巻き・左巻きの場の変換を
$$
(A\cdot_R\psi)(v):=A\,\psi(\Lambda^{-1}v),\qquad(A\cdot_L\psi)(v):=(A^*)^{-1}\psi(\Lambda^{-1}v)
$$
と定める。
左巻きの式は DHM10 §3.1 の式 (3.1.2) で質量 $m=0$ とした方程式にあたる。場の変換で $\Lambda^{-1}v$ を代入するのは、点 $v$ での新しい場の値が、もとの場の点 $\Lambda^{-1}v$ での値をスピノルとして変換したものだからである。
$A\in\mathrm{SL}(2,\mathbb{C})$、$\Lambda=\rho(A)$ とする。$\mathbb{C}^2$ 値の滑らかな関数 $\psi$ について
$$
R(A\cdot_R\psi)(v)=(A^*)^{-1}(R\psi)(\Lambda^{-1}v),\qquad L(A\cdot_L\psi)(v)=A\,(L\psi)(\Lambda^{-1}v)
$$
である。とくに右巻き(左巻き)の Weyl 方程式の解は、$A\cdot_R$($A\cdot_L$)で解に写る。
$\mathbb{R}^4$ の標準基底を $f_0,\dots,f_3$、その双対基底を $dx^0,\dots,dx^3$($x^0:=t$)とする。各点での微分 $\ell:=d\psi_v\colon\mathbb{R}^4\to\mathbb{C}^2$(実線形写像)に対し $\mathcal{S}_R(\ell):=\ell(f_0)+\sum_j\sigma_j\ell(f_j)$ とおくと $(R\psi)(v)=\mathcal{S}_R(d\psi_v)$ である。
まず $\ell=u\otimes\xi$、すなわち $\ell(w)=\xi(w)u$($u\in\mathbb{C}^2$、$\xi$ は実線形形式)の場合を考える。$\eta$ は非退化なので $\xi=\eta(k,\cdot)$ となる $k\in\mathbb{R}^4$ がただ 1 つあり、$\xi(f_0)=k^0$、$\xi(f_j)=-k^j$ だから
$$
\mathcal{S}_R(u\otimes\xi)=\bigl(k^0I-\boldsymbol{k}\cdot\boldsymbol{\sigma}\bigr)u=\check H(k)u
$$
である。$\xi\circ\Lambda^{-1}=\eta(k,\Lambda^{-1}\cdot)=\eta(\Lambda k,\cdot)$ なので、lem-ws-check-h から
$$
\mathcal{S}_R\bigl(A\,\ell\,\Lambda^{-1}\bigr)=\mathcal{S}_R\bigl((Au)\otimes(\xi\circ\Lambda^{-1})\bigr)=\check H(\Lambda k)Au=(A^*)^{-1}\check H(k)A^{-1}Au=(A^*)^{-1}\mathcal{S}_R(\ell)
$$
である。一般の $\ell$ は $\ell=\sum_\mu\ell(f_\mu)\otimes dx^\mu$ と書け、両辺は $\ell$ について線形なので、すべての $\ell$ で $\mathcal{S}_R(A\ell\Lambda^{-1})=(A^*)^{-1}\mathcal{S}_R(\ell)$ が成り立つ。$\psi':=A\cdot_R\psi$ の微分は連鎖律により $d\psi'_v=A\circ d\psi_{\Lambda^{-1}v}\circ\Lambda^{-1}$ なので、第 1 式を得る。
左巻きでは $\mathcal{S}_L(\ell):=\ell(f_0)-\sum_j\sigma_j\ell(f_j)$ とおくと、同様に $\mathcal{S}_L(u\otimes\xi)=H(k)u$ であり、$H(\Lambda k)=AH(k)A^*$ から $\mathcal{S}_L\bigl((A^*)^{-1}\ell\Lambda^{-1}\bigr)=AH(k)A^*(A^*)^{-1}u=A\,\mathcal{S}_L(\ell)$ となって第 2 式を得る。$\square$
右巻きの演算子 $R$ は右巻きの場を左巻きの場に写す(右辺の変換が $(A^*)^{-1}$)。このため、質量をもつ粒子では質量の項が左巻きと右巻きを結びつけ、2 つを組にした Dirac スピノルが必要になる(DHM10 §3.1 の式 (3.1.2)、付録 G。この記事では扱わない)。
$k=(k^0,\boldsymbol{k})\in\mathbb{R}^4\setminus\{0\}$、$u\in\mathbb{C}^2$ に対し、平面波 $\psi(v)=u\,e^{-i\eta(k,v)}=u\,e^{-i(k^0t-\boldsymbol{k}\cdot\boldsymbol{x})}$ を考える。物理では $k^0$ がエネルギー、$\boldsymbol{k}$ が運動量にあたり、運動量の向きの単位ベクトル $\boldsymbol{n}$ に対し $\frac12\boldsymbol{n}\cdot\boldsymbol{\sigma}$ の固有値を ヘリシティ という(DHM10 §3.1 の式 (3.1.14))。$\boldsymbol{n}\cdot\boldsymbol{\sigma}$ は Hermite 行列で、$(\boldsymbol{n}\cdot\boldsymbol{\sigma})^2=I$、跡 $0$ なので固有値は $\pm1$ であり、ヘリシティは $\pm\frac12$ である。
1.$\psi$ の微分は $d\psi_v=-i\,e^{-i\eta(k,v)}\,u\otimes\eta(k,\cdot)$ なので、prf-ws-covariance の計算から $(R\psi)(v)=-i\,e^{-i\eta(k,v)}\check H(k)u$、$(L\psi)(v)=-i\,e^{-i\eta(k,v)}H(k)u$ である。
2.$\check H(k)=H(k^0,-\boldsymbol{k})$ なので $\det\check H(k)=q(k)=\det H(k)$ である。$0$ でない解があることは行列式が $0$ であることと同値である。$q(k)=0$ のとき、$k\ne0$ から $H(k)\ne0$、$\check H(k)\ne0$ で、行列式が $0$ なので階数は $1$、核は 1 次元である。
3.$\check H(k)u=k^0\bigl(u-(\boldsymbol{n}\cdot\boldsymbol{\sigma})u\bigr)$ なので、右巻きの条件は $(\boldsymbol{n}\cdot\boldsymbol{\sigma})u=u$ である。固有値 $1$ の固有空間への直交射影は $\frac12(I+\boldsymbol{n}\cdot\boldsymbol{\sigma})$($\boldsymbol{n}\cdot\boldsymbol{\sigma}$ の固有値が $\pm1$ だから)で、その像は 1 次元なので
$$
uu^*=|u|^2\cdot\frac12\bigl(I+\boldsymbol{n}\cdot\boldsymbol{\sigma}\bigr)=\frac{|u|^2}{2k^0}H(k)
$$
であり、$\Phi(u)=\frac{|u|^2}{2k^0}k$ である。左巻きでは $H(k)u=k^0\bigl(u+(\boldsymbol{n}\cdot\boldsymbol{\sigma})u\bigr)$ なので条件は $(\boldsymbol{n}\cdot\boldsymbol{\sigma})u=-u$ である。$\square$
したがって、正のエネルギーの Weyl 粒子のスピンは、右巻きなら運動の向き、左巻きなら逆向きに限られる。右巻きの解では、スピノルから thm-ws-null の $\Phi$ で作った光的なベクトルが伝わる向き $k$ そのものになる。質量 $0$ の左巻きの粒子がヘリシティ $-\frac12$ をもつことは DHM10 §3.1 の式 (3.1.41) に対応する。
$\psi$ が $C^2$ 級で $R\psi=0$ または $L\psi=0$ をみたすなら、$\psi$ の各成分は波動方程式 $\partial_t^2\psi-\sum_j\partial_j^2\psi=0$ をみたす。
$\sigma_j$ は定数行列なので微分と交換し、偏微分の順序交換と $\sigma_j\sigma_k+\sigma_k\sigma_j=2\delta_{jk}I$ から
$$
\Bigl(\sum_j\sigma_j\partial_j\Bigr)^2\psi=\sum_{j,k}\sigma_j\sigma_k\partial_j\partial_k\psi=\frac12\sum_{j,k}(\sigma_j\sigma_k+\sigma_k\sigma_j)\partial_j\partial_k\psi=\sum_j\partial_j^2\psi
$$
である。よって $LR\psi=RL\psi=\partial_t^2\psi-\sum_j\partial_j^2\psi$ であり、$R\psi=0$ なら $LR\psi=0$、$L\psi=0$ なら $RL\psi=0$ である。$\square$
Weyl 方程式は、波動方程式の「平方根」をとって 1 階にしたものである。thm-ws-weyl の 2 の平面波の条件 $q(k)=0$ は、粒子の質量が $0$ であることを表す。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| $\det A=1$(thm-ws-reps の 2) | $A=2I\in\mathrm{GL}(2,\mathbb{C})$ | ${}^t(Au)\,\varepsilon\,(Aw)={}^tu\,\varepsilon\,w$ |
| 群が $\mathrm{SL}(2,\mathbb{C})$ 全体(thm-ws-reps の 4) | $\mathrm{SU}(2)$ に制限した $D_R$ と $D_L$ | $D_R$ と $D_L$ が同値でない |
| $k^0>0$(thm-ws-weyl の 3) | $k=(-1,0,0,1)$ の右巻きの平面波 | ヘリシティが $+\frac12$ |
各行を確かめる。
1 行目:${}^t(2u)\,\varepsilon\,(2w)=4\,{}^tu\,\varepsilon\,w$ で、${}^tu\,\varepsilon\,w=\det(u\ w)\ne0$ となる $u,w$ では値が変わる。
2 行目:$U\in\mathrm{SU}(2)$ なら $U^*=U^{-1}$ なので $D_L(U)=(U^*)^{-1}=U=D_R(U)$ であり、恒等写像が同値を与える。$\mathrm{SL}(2,\mathbb{C})$ 全体では thm-ws-reps の 4 のとおり同値でない。回転だけを見ていては右巻きと左巻きは区別できず、区別は boost から来る。
3 行目:$k=(-1,0,0,1)$ は光的で過去向きである。$\check H(k)=-I-\sigma_3=\operatorname{diag}(-2,0)$ の核は $e_2$ で張られ、運動量 $\boldsymbol{k}=(0,0,1)$ の向き $\boldsymbol{n}=e_z$ について $\sigma_3e_2=-e_2$ なので、ヘリシティは $-\frac12$ である。負のエネルギーの解ではヘリシティの符号が逆になる。
Mathpediaは寄付と、参考文献の書籍リンク(Amazonアソシエイト)の紹介料で運営されています。 支援について / 寄付する