モデル圏のホモトピー圏

同義語:homotopy category of a model category

概要

モデル圏のホモトピー圏(homotopy category of a model category)とは、モデル圏 $\mathcal M$ の弱同値をすべて同型射にするように局所化した圏 $\operatorname{Ho}(\mathcal M)$ である。シリンダー対象と道対象で左ホモトピー・右ホモトピーを定めると、コファイブラントな $X$ からファイブラントな $Y$ への射では両者が一致し、$\operatorname{Ho}(\mathcal M)(X,Y)$ は射のホモトピー類の集合になる。ファイブラントかつコファイブラントな対象の間では弱同値とホモトピー同値が一致し、$\operatorname{Ho}(\mathcal M)$ で同型になる射はちょうど弱同値である。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: モデル圏, 圏の局所化, ホモトピー

モデル圏 $\mathcal M$ のホモトピー圏 $\operatorname{Ho}(\mathcal M)$ は、弱同値をすべて同型射にするように $\mathcal M$ を局所化した圏である(圏の局所化)。局所化の射は一般には「射と弱同値の逆射を並べた列」の類であり、そのままでは計算しにくい。モデル構造があると、対象をファイブラントかつコファイブラントな対象に置き換え、射をシリンダー対象・道対象によるホモトピー類で割るだけで、$\operatorname{Ho}(\mathcal M)$ の射が求まる:
$$ \operatorname{Ho}(\mathcal M)(X,Y)\cong\operatorname{Hom}(QX,RY)/{\simeq}. $$
さらに、ファイブラントかつコファイブラントな対象の間では、弱同値とホモトピー同値が一致し(モデル圏の Whitehead の定理)、ある射が弱同値であることと $\operatorname{Ho}(\mathcal M)$ で同型になることは同値である(弱同値の飽和)。
例として、位相空間では CW 複体からの射がふつうのホモトピー類に、鎖複体ではコファイブラントな複体からの射が鎖ホモトピー類になり、後者から Ext が得られる。

設定と置換

以下 $\mathcal M$ をモデル圏とし、弱同値・コファイブレーション・ファイブレーションのクラスを $\mathcal W,\mathcal C,\mathcal F$ と書く(モデル圏 の定義「モデル構造とモデル圏」)。始対象を $\emptyset$、終対象を $*$ とし、コファイブラント対象・ファイブラント対象は モデル圏 の定義「コファイブラント対象とファイブラント対象」に従う。同記事の命題「コファイブレーションとファイブレーションの合成閉性」と補題「持ち上げ性質で定まるクラスの閉包性」により、$\mathcal C$、$\mathcal C\cap\mathcal W$、$\mathcal F$、$\mathcal F\cap\mathcal W$ は合成で閉じ、前の二つは押し出しで、後の二つは引き戻しで閉じている。これを断らずに使う。
対象 $X$ から終対象への射を分解公理で
$$ X\xrightarrow{\ \sim\ }RX\twoheadrightarrow * $$
(自明コファイブレーションの後にファイブレーション)と分解すれば、$RX$ はファイブラントで $X\to RX$ は弱同値である。始対象からの射を
$$ \emptyset\rightarrowtail QX\xrightarrow{\ \sim\ }X $$
(コファイブレーションの後に自明ファイブレーション)と分解すれば、$QX$ はコファイブラントで $QX\to X$ は弱同値である。これらをファイブラント置換・コファイブラント置換という。置換は一般には一意でなく、以下では対象ごとに一つ選ぶだけで、分解を関手として選ぶことは使わない。
関手 $\varphi\colon\mathcal M\to\mathcal D$ が弱同値をすべて同型射に送るとき、$\varphi$ は弱同値を可逆化するという。

シリンダー対象と道対象

シリンダー対象と道対象

対象 $X$ のシリンダー対象とは、対象 $K$ と射 $X\amalg X\xrightarrow{i}K\xrightarrow{r}X$ の組で、$i$ がコファイブレーション、$r$ が弱同値、$ri$ が余対角射 $X\amalg X\to X$ であるものをいう。$i$ と二つの入射の合成を $i_0,i_1\colon X\to K$ と書く。
対象 $Y$ の道対象とは、対象 $P$ と射 $Y\xrightarrow{q}P\xrightarrow{p}Y\times Y$ の組で、$q$ が弱同値、$p$ がファイブレーション、$pq$ が対角射であるものをいう。$p$ と二つの射影の合成を $p_0,p_1\colon P\to Y$ と書く(HTT09 §A.2.2、p. 811、Hov99 Definition 1.2.4)。

余対角射を「コファイブレーションの後に自明ファイブレーション」と、対角射を「自明コファイブレーションの後にファイブレーション」と分解すれば、シリンダー対象と道対象が得られる。ただし定義では、$r$ が自明ファイブレーションであることも、$q$ が自明コファイブレーションであることも仮定しない。

左ホモトピーと右ホモトピー

射 $f,g\colon X\to Y$ について、$X$ のシリンダー対象 $K$ と $Hi_0=f$、$Hi_1=g$ をみたす射 $H\colon K\to Y$ を、$K$ による $f$ から $g$ への左ホモトピーという。$Y$ の道対象 $P$ と $p_0k=f$、$p_1k=g$ をみたす射 $k\colon X\to P$ を、$P$ による $f$ から $g$ への右ホモトピーという。

端点の包含と射影
  1. $X$ がコファイブラントなら、$X$ の任意のシリンダー対象について $i_0,i_1$ は自明コファイブレーションである。
  2. $Y$ がファイブラントなら、$Y$ の任意の道対象について $p_0,p_1$ は自明ファイブレーションである。

要点:入射と射影はそれぞれ押し出しと引き戻しで、2 out of 3 で弱同値になる。

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1:入射 $s_\varepsilon\colon X\to X\amalg X$($\varepsilon=0,1$)は、$\emptyset\to X$ を $\emptyset\to X$ に沿って押し出したものである。$X$ はコファイブラントなので $s_\varepsilon$ はコファイブレーションであり、$i_\varepsilon=is_\varepsilon$ もコファイブレーションである。$ri_\varepsilon=\mathrm{id}_X$ と $r\in\mathcal W$ から、2 out of 3 で $i_\varepsilon\in\mathcal W$ である。

2:射影 $\pi_\varepsilon\colon Y\times Y\to Y$ は $Y\to*$ の引き戻しなのでファイブレーションであり、$p_\varepsilon=\pi_\varepsilon p$ もファイブレーションである。$p_\varepsilon q=\mathrm{id}_Y$ と $q\in\mathcal W$ から $p_\varepsilon\in\mathcal W$ である。$\square$

左ホモトピーと右ホモトピーの四条件

$X$ をコファイブラント、$Y$ をファイブラントな対象とし、$f,g\colon X\to Y$ を射とする。次の 4 条件は同値である(HTT09 Proposition A.2.2.1、pp. 811–812、Hov99 Corollary 1.2.6)。

  1. $X$ のすべてのシリンダー対象による、$f$ から $g$ への左ホモトピーがある。
  2. $X$ のあるシリンダー対象による、$f$ から $g$ への左ホモトピーがある。
  3. $Y$ のすべての道対象による、$f$ から $g$ への右ホモトピーがある。
  4. $Y$ のある道対象による、$f$ から $g$ への右ホモトピーがある。

要点:lem-mhc-ends により $i_0$ は自明コファイブレーション、$p_0$ は自明ファイブレーションなので、持ち上げで一方のホモトピーから他方のホモトピーを作れる。

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1⇒2、3⇒4。上の分解によりシリンダー対象と道対象は存在する。

2⇒3。$K$ と $H$ を 2 の左ホモトピー、$(P,q,p)$ を任意の道対象とする。自明コファイブレーション $i_0$ とファイブレーション $p$ の正方形(上辺 $qf\colon X\to P$、下辺 $(fr,H)\colon K\to Y\times Y$)は、$pqf=(f,f)=(fri_0,Hi_0)$ なので可換である。持ち上げ $T\colon K\to P$ は $Ti_0=qf$、$pT=(fr,H)$ をみたし、$k=Ti_1$ とおくと $pk=(fri_1,Hi_1)=(f,g)$ である。

4⇒1。$(P,q,p)$ と $k$ を 4 の右ホモトピー、$(K,i,r)$ を任意のシリンダー対象とする。コファイブレーション $i$ と自明ファイブレーション $p_0$ の正方形(上辺 $(qf,k)\colon X\amalg X\to P$、下辺 $fr\colon K\to Y$)は、$p_0qf=f=p_0k$ と $fri=(f,f)$ により可換である。持ち上げ $T\colon K\to P$ は $Ti=(qf,k)$、$p_0T=fr$ をみたし、$H=p_1T$ とおくと $Hi_0=p_1qf=f$、$Hi_1=p_1k=g$ である。$\square$

$X$ がコファイブラント、$Y$ がファイブラントのとき、これらの条件が成り立つことを $f\simeq g$ と書き、$f$ と $g$ は ホモトピック であるという。

ホモトピー関係と商圏
  1. $X$ がコファイブラント、$Y$ がファイブラントなら、$\simeq$ は $\operatorname{Hom}(X,Y)$ 上の同値関係である。
  2. さらに $X'$ がコファイブラントで $a\colon X'\to X$ なら $f\simeq g\Rightarrow fa\simeq ga$ であり、$Y'$ がファイブラントで $b\colon Y\to Y'$ なら $f\simeq g\Rightarrow bf\simeq bg$ である。
  3. ファイブラントかつコファイブラントな対象を対象とし、$\operatorname{Hom}(X,Y)$ の $\simeq$ による商を射の集合とし、合成を $[g]\circ[f]=[gf]$ とすると、圏 $h\mathcal M$ が定まる(HTT09 p. 812、Hov99 Corollary 1.2.7)。

要点:推移律は、同じ道対象を二つ引き戻しでつないだものがまた道対象になることによる。

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反射律と対称律。任意の道対象 $(P,q,p)$ について $pqf=(f,f)$ なので $f\simeq f$ である。$k$ が $P$ による $f$ から $g$ への右ホモトピーなら、二つの成分を入れ替える同型 $\tau\colon Y\times Y\to Y\times Y$ について $(P,q,\tau p)$ も道対象であり($\tau p$ はファイブレーションと同型射の合成)、$\tau pk=(g,f)$ なので $g\simeq f$ である。

推移律。$f\simeq g$、$g\simeq h$ とし、道対象 $(P,q,p)$ を一つとる。prop-mhc-four の 3 により、$p_0k=f$、$p_1k=g$、$p_0l=g$、$p_1l=h$ となる $k,l\colon X\to P$ がある。$E=P\times_{p_1,Y,p_0}P$ とし、射影を $a,b\colon E\to P$($p_1a=p_0b$)、$e=(p_0a,p_1b)\colon E\to Y\times Y$ とおく。$F=(a,p_1b)\colon E\to P\times Y$ は $p$ の $(p_1\circ\mathrm{pr}_P,\mathrm{pr}_Y)\colon P\times Y\to Y\times Y$ に沿った引き戻しなのでファイブレーションであり、$G=p_0\times\mathrm{id}_Y\colon P\times Y\to Y\times Y$ は自明ファイブレーション $p_0$(lem-mhc-ends の 2)の第 1 射影に沿った引き戻しなので自明ファイブレーションである。よって $e=GF$ はファイブレーションである。また $a$ は $p_0$ の $p_1$ に沿った引き戻しなので自明ファイブレーションである。$p_1q=p_0q=\mathrm{id}_Y$ から $q_2=(q,q)\colon Y\to E$ が定まり、$aq_2=q$ と 2 out of 3 から $q_2\in\mathcal W$、$eq_2$ は対角射である。よって $(E,q_2,e)$ は道対象で、$m=(k,l)\colon X\to E$ は $em=(f,h)$ をみたすので $f\simeq h$ である。

2。$k$ が道対象 $P$ による右ホモトピーなら $ka$ は $fa$ から $ga$ への右ホモトピーであり、$H$ がシリンダー対象 $K$ による左ホモトピーなら $bH$ は $bf$ から $bg$ への左ホモトピーである。

3。$f\simeq f'$、$g\simeq g'$ なら 2 と推移律から $gf\simeq gf'\simeq g'f'$ なので、合成は代表によらない。結合律と単位律は $\mathcal M$ のものから従う。$\square$

ファイブラントかつコファイブラントな対象の間の射 $f\colon X\to Y$ が ホモトピー同値 であるとは、$gf\simeq\mathrm{id}_X$ かつ $fg\simeq\mathrm{id}_Y$ となる射 $g\colon Y\to X$ があること、すなわち $[f]$ が $h\mathcal M$ の同型射であることをいう。

Whitehead の定理

自明な射を合成しても、ホモトピー類の集合は変わらない。

自明な射とホモトピー類
  1. $j\colon A\to A'$ をコファイブラントな対象の間の自明コファイブレーション、$Z$ をファイブラントな対象とする。前合成 $j^*\colon\operatorname{Hom}(A',Z)/{\simeq}\to\operatorname{Hom}(A,Z)/{\simeq}$、$[g]\mapsto[gj]$ は全単射である。
  2. 双対的に、$p\colon E\to B$ をファイブラントな対象の間の自明ファイブレーション、$A$ をコファイブラントな対象とすると、後合成 $p_*\colon\operatorname{Hom}(A,E)/{\simeq}\to\operatorname{Hom}(A,B)/{\simeq}$ は全単射である(Hov99 Proposition 1.2.5 (iv))。

要点:全射は持ち上げで、単射はホモトピーそのものを持ち上げて示す。

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写像がホモトピー類の上で定まることは prop-mhc-relation の 2 による。

1 の全射。$h\colon A\to Z$ をとる。$j$ を左辺、ファイブレーション $Z\to *$ を右辺、上辺を $h$ とする正方形は可換なので、持ち上げ公理から $gj=h$ となる $g\colon A'\to Z$ がある。

1 の単射。$g,g'\colon A'\to Z$ が $gj\simeq g'j$ をみたすとする。道対象 $(P,q,p)$ を一つとると、prop-mhc-four の 3 により $pK=(gj,g'j)$ となる $K\colon A\to P$ がある。自明コファイブレーション $j$ とファイブレーション $p$ の正方形(上辺 $K$、下辺 $(g,g')\colon A'\to Z\times Z$)は $pK=(g,g')j$ により可換なので、$K'j=K$、$pK'=(g,g')$ となる $K'\colon A'\to P$ がある。$K'$ は $g$ から $g'$ への右ホモトピーで、$A'$ はコファイブラント、$Z$ はファイブラントなので $g\simeq g'$ である。

2。全射:$h\colon A\to B$ について、コファイブレーション $\emptyset\to A$ と自明ファイブレーション $p$ の正方形(上辺 $\emptyset\to E$、下辺 $h$)の持ち上げ $g$ は $pg=h$ をみたす。単射:$g,g'\colon A\to E$ が $pg\simeq pg'$ をみたすとする。シリンダー対象 $(K,i,r)$ を一つとると、prop-mhc-four の 1 により $Hi=(pg,pg')$ となる $H\colon K\to B$ がある。コファイブレーション $i$ と自明ファイブレーション $p$ の正方形(上辺 $(g,g')\colon A\amalg A\to E$、下辺 $H$)は可換なので、持ち上げ $H'\colon K\to E$ は $H'i=(g,g')$ をみたし、$g$ から $g'$ への左ホモトピーである。よって $g\simeq g'$ である。$\square$

モデル圏のWhiteheadの定理

ファイブラントかつコファイブラントな対象の間の射 $f\colon X\to Y$ について、$f$ が弱同値であることと、$f$ がホモトピー同値であることは同値である(Hov99 Proposition 1.2.8)。

要点:$f$ を自明コファイブレーションとファイブレーションに分け、それぞれのホモトピー逆を持ち上げで作る。逆向きは、分解したファイブレーションが弱同値のレトラクトになることを示す。

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弱同値 ⇒ ホモトピー同値。分解公理で $f=pi$($i\colon X\to Z$ は自明コファイブレーション、$p\colon Z\to Y$ はファイブレーション)と分解する。2 out of 3 により $p$ は自明ファイブレーションである。$Z$ は $X$ がコファイブラントで $i$ がコファイブレーションなのでコファイブラント、$Y$ がファイブラントで $p$ がファイブレーションなのでファイブラントである。$i$ を左辺、ファイブレーション $X\to *$ を右辺、上辺を $\mathrm{id}_X$ とする正方形の持ち上げとして $\rho i=\mathrm{id}_X$ となる $\rho\colon Z\to X$ をとる。$(i\rho)i=i=\mathrm{id}_Zi$ なので、lem-mhc-trivial の 1($A=X$、$A'=Z$、ファイブラントな対象 $Z$)の単射性から $i\rho\simeq\mathrm{id}_Z$ である。よって $i$ はホモトピー同値である。同様に、コファイブレーション $\emptyset\to Y$ と自明ファイブレーション $p$ の正方形(下辺 $\mathrm{id}_Y$)の持ち上げとして $p\sigma=\mathrm{id}_Y$ となる $\sigma\colon Y\to Z$ をとると、$p(\sigma p)=p=p\,\mathrm{id}_Z$ なので、同じ補題の 2 の単射性から $\sigma p\simeq\mathrm{id}_Z$ である。よって $[f]=[p][i]$ は $h\mathcal M$ の同型射の合成であり、$f$ はホモトピー同値である。

ホモトピー同値 ⇒ 弱同値。$g$ を $f$ のホモトピー逆とし、上と同じく $f=pi$ と分解する。$Z$ はファイブラントかつコファイブラントで、前半により $i$ はホモトピー逆 $i'$ をもつ。$fg\simeq\mathrm{id}_Y$ なので、$Y$ のシリンダー対象 $(K,(i_0,i_1),r)$ と、$Hi_0=fg$、$Hi_1=\mathrm{id}_Y$ となる $H\colon K\to Y$ がある。lem-mhc-ends の 1 により $i_0$ は自明コファイブレーションである。$i_0$ と $p$ の正方形(上辺 $ig$、下辺 $H$)は $pig=fg=Hi_0$ により可換なので、$H'i_0=ig$、$pH'=H$ となる $H'\colon K\to Z$ がある。$s:=H'i_1$ とおくと $ps=Hi_1=\mathrm{id}_Y$ であり、$H'$ は $ig$ から $s$ への左ホモトピーなので $s\simeq ig$ である。$p=p\,\mathrm{id}_Z\simeq pii'=fi'$ と prop-mhc-relation の 2 から $sp\simeq igp\simeq igfi'\simeq ii'\simeq\mathrm{id}_Z$ である。$\simeq$ は対称なので、シリンダー対象 $(K',(j_0,j_1),r')$ と $\mathrm{id}_Z$ から $sp$ への左ホモトピー $L\colon K'\to Z$($Lj_0=\mathrm{id}_Z$、$Lj_1=sp$)がある。$r'j_0=\mathrm{id}_Z$ と $r'\in\mathcal W$ から 2 out of 3 で $j_0,j_1\in\mathcal W$、さらに $Lj_0=\mathrm{id}_Z$ から $L\in\mathcal W$、したがって $sp=Lj_1\in\mathcal W$ である。最後に、射の圏で $p$ は $sp$ のレトラクトである:上段 $Z\xrightarrow{\mathrm{id}}Z\xrightarrow{\mathrm{id}}Z$、下段 $Y\xrightarrow{s}Z\xrightarrow{p}Y$、縦の射を左から $p$、$sp$、$p$ とすると、$sp\circ\mathrm{id}=s\circ p$、$p\circ sp=p\circ\mathrm{id}$($ps=\mathrm{id}_Y$)で二つの正方形は可換であり、下段の合成は $ps=\mathrm{id}_Y$、上段の合成は $\mathrm{id}_Z$ である。$\mathcal W$ はレトラクトで閉じているので $p\in\mathcal W$、よって $f=pi\in\mathcal W$ である。$\square$

両端の条件は外せない(rem-mhc-counter)。

ホモトピー圏の計算

ホモトピー圏の計算

$\mathcal M$ をモデル圏とする。

  1. 対象の上で恒等的な関手 $\gamma\colon\mathcal M\to\operatorname{Ho}(\mathcal M)$ で、弱同値を可逆化し、次の普遍性をもつものがある:弱同値を可逆化する任意の関手 $\varphi\colon\mathcal M\to\mathcal D$ に対し、$\delta\circ\gamma=\varphi$ となる関手 $\delta\colon\operatorname{Ho}(\mathcal M)\to\mathcal D$ がただ一つある。さらに $\operatorname{Ho}(\mathcal M)(X,Y)$ は集合であり、$\operatorname{Ho}(\mathcal M)$ の射はすべて、$\gamma$ の像と、弱同値の $\gamma$ による像の逆射との合成として書ける。この $\gamma$ を $\mathcal M$ の局所化、$\operatorname{Ho}(\mathcal M)$ をホモトピー圏という。
  2. $X$ がコファイブラント、$Y$ がファイブラントなら、$f\mapsto\gamma(f)$ は全単射 $\operatorname{Hom}(X,Y)/{\simeq}\;\cong\;\operatorname{Ho}(\mathcal M)(X,Y)$ を誘導する。
  3. 対象 $X$ を $X$ に、$[f]$ を $\gamma(f)$ に送る関手 $h\mathcal M\to\operatorname{Ho}(\mathcal M)$ は圏同値である。
  4. 弱同値を可逆化する任意の関手 $\varphi$(とくに $\gamma$)は、左ホモトピーまたは右ホモトピーで結ばれた二つの射を同じ射に送る。ここで両端の対象に条件はいらない。
    (Hov99 Theorem 1.2.10。同書は分解の関手的な選び方を使う。)

方針:各対象 $X$ をファイブラントかつコファイブラントな $HX$ で置き換え、$\operatorname{Ho}(\mathcal M)(X,Y)$ を $h\mathcal M(HX,HY)$ と定める。射 $f$ の像は持ち上げで作り、選び方によらないことを lem-mhc-trivial で示す。
段 1(置換の選択)。 各対象 $X$ について、$X$ がコファイブラントなら $QX=X$、$q_X=\mathrm{id}_X$ とし、そうでなければ $\emptyset\to X$ を分解公理でコファイブレーション $\emptyset\to QX$ と自明ファイブレーション $q_X\colon QX\to X$ に分解する。各対象 $W$ について、$W$ がファイブラントなら $RW=W$、$r_W=\mathrm{id}_W$ とし、そうでなければ $W\to *$ を自明コファイブレーション $r_W\colon W\to RW$ とファイブレーション $RW\to *$ に分解する。$HX:=R(QX)$ とおく。$HX$ はファイブラントで、$QX$ がコファイブラントなのでコファイブラントでもある。$X$ がファイブラントかつコファイブラントなら $HX=X$ である。また $Y$ がファイブラントなら $QY$ もファイブラントである(ファイブレーション $q_Y$ と $Y\to *$ の合成)。
段 2(射の像)。 $f\colon X\to Y$ について、コファイブレーション $\emptyset\to QX$ と自明ファイブレーション $q_Y$ の正方形(下辺 $fq_X$)の持ち上げとして $q_Yu=fq_X$ となる $u\colon QX\to QY$ をとり、自明コファイブレーション $r_{QX}$ とファイブレーション $HY\to *$ の正方形(上辺 $r_{QY}u$)の持ち上げとして $vr_{QX}=r_{QY}u$ となる $v\colon HX\to HY$ をとる。$\operatorname{Ho}(\mathcal M)$ を、対象を $\mathcal M$ の対象、$\operatorname{Ho}(\mathcal M)(X,Y):=h\mathcal M(HX,HY)$、合成を $h\mathcal M$ の合成とする圏とし、$\gamma(f):=[v]$ とおく。射の全体は $\operatorname{Hom}(HX,HY)$ の商なので集合である。
段 3(選び方によらない)。 $u,v$ と $u',v'$ を二つの選び方とする。シリンダー対象 $(K,i,s)$ を $QX$ について一つとる。コファイブレーション $i$ と自明ファイブレーション $q_Y$ の正方形(上辺 $(u,u')\colon QX\amalg QX\to QY$、下辺 $fq_Xs$)は、$q_Y(u,u')=(fq_X,fq_X)=fq_Xsi$ により可換なので、持ち上げ $L\colon K\to QY$ は $u$ から $u'$ への左ホモトピーである。$r_{QY}L$ は $r_{QY}u$ から $r_{QY}u'$ への左ホモトピーで、$QX$ はコファイブラント、$HY$ はファイブラントなので $vr_{QX}=r_{QY}u\simeq r_{QY}u'=v'r_{QX}$ である。$r_{QX}$ はコファイブラントな対象の間の自明コファイブレーションなので、lem-mhc-trivial の 1 から $v\simeq v'$ である。
段 4(関手性)。 $\mathrm{id}_X$ には $u=\mathrm{id}_{QX}$、$v=\mathrm{id}_{HX}$ がとれる。$g\colon Y\to Z$ について $u_g,v_g$ を選ぶと、$q_Zu_gu_f=gq_Yu_f=gfq_X$、$v_gv_fr_{QX}=v_gr_{QY}u_f=r_{QZ}u_gu_f$ なので、$u_gu_f$、$v_gv_f$ は $gf$ の選び方であり、段 3 から $\gamma(gf)=\gamma(g)\gamma(f)$ である。
段 5(弱同値の可逆化)。 $f\in\mathcal W$ なら、$q_Yu=fq_X$ と 2 out of 3 から $u\in\mathcal W$、$vr_{QX}=r_{QY}u$ から $v\in\mathcal W$ である。$v$ はファイブラントかつコファイブラントな対象の間の弱同値なので、thm-mhc-whitehead によりホモトピー同値であり、$\gamma(f)=[v]$ は同型射である。
段 6(ホモトピックな射:4)。 $\varphi$ が弱同値を可逆化するとする。任意の対象 $A$ のシリンダー対象 $(K,(i_0,i_1),r)$ では $ri_0=ri_1=\mathrm{id}_A$ と $r\in\mathcal W$ から $\varphi(i_0)=\varphi(r)^{-1}=\varphi(i_1)$ なので、左ホモトピー $H$ で結ばれた $f=Hi_0$、$g=Hi_1$ について $\varphi(f)=\varphi(g)$ である。道対象 $(P,s,p)$ でも $p_0s=p_1s=\mathrm{id}$ と $s\in\mathcal W$ から $\varphi(p_0)=\varphi(p_1)$ なので、右ホモトピーで結ばれた射も同じ射に送られる。とくに $A,B$ がファイブラントかつコファイブラントなら、$\varphi$ は写像 $h\mathcal M(A,B)\to\mathcal D(\varphi A,\varphi B)$ を誘導する。
段 7(普遍性:存在)。 同型射 $t_X:=\varphi(r_{QX})\varphi(q_X)^{-1}\colon\varphi X\to\varphi HX$ をとり、$\delta(X):=\varphi(X)$、$\delta([w]):=t_Y^{-1}\varphi(w)t_X$($w\colon HX\to HY$)と定める。段 6 から代表によらず、合成と恒等射を保つ。$f$ について $\varphi(v)\varphi(r_{QX})=\varphi(r_{QY})\varphi(u)$、$\varphi(q_Y)\varphi(u)=\varphi(f)\varphi(q_X)$ なので
$$ \delta\gamma(f)=\varphi(q_Y)\varphi(r_{QY})^{-1}\varphi(v)\varphi(r_{QX})\varphi(q_X)^{-1}=\varphi(f) $$
である。
段 8(普遍性:一意性)。 ファイブラントかつコファイブラントな対象の間の $w$ には $u=v=w$ がとれるので $\gamma(w)=[w]$ である。$q_X$ には $u=\mathrm{id}_{QX}$、$v=\mathrm{id}_{HX}$ がとれ($QQX=QX$、$HQX=HX$)、$r_{QX}$ には $u=r_{QX}$、$v=\mathrm{id}_{HX}$ がとれる($Q(HX)=HX$)ので、$\gamma(q_X)$ と $\gamma(r_{QX})$ はどちらも $[\mathrm{id}_{HX}]$ で表される。したがって $w\colon HX\to HY$ について
$$ [w]=\gamma(q_Y)\gamma(r_{QY})^{-1}\gamma(w)\gamma(r_{QX})\gamma(q_X)^{-1} $$
であり、$q_Y$、$r_{QY}$ は弱同値なので、$\operatorname{Ho}(\mathcal M)$ の射はすべて $\gamma$ の像と、弱同値の像の逆射との合成である。$\delta'\gamma=\varphi$ なら $\delta'$ は対象で $\varphi$ と一致し、射の上でも上の式から $\delta'([w])=\delta([w])$ と決まる。これで 1 が示された。
段 9(2)。 $X$ がコファイブラントなら $QX=X$、$HX=RX$ である。$Y$ がファイブラントなら $QY$ はファイブラントなので、段 1 の選び方から $HY=QY$、$r_{QY}=\mathrm{id}$ である。よって $f\colon X\to Y$ の像 $[v]$ は $vr_X=u$、$q_Yu=f$ で定まる。$r_X^*\colon h\mathcal M(RX,QY)\to\operatorname{Hom}(X,QY)/{\simeq}$ は lem-mhc-trivial の 1($r_X$ はコファイブラントな対象の間の自明コファイブレーション)により、$(q_Y)_*\colon\operatorname{Hom}(X,QY)/{\simeq}\to\operatorname{Hom}(X,Y)/{\simeq}$ は同じ補題の 2($q_Y$ はファイブラントな対象の間の自明ファイブレーション)により全単射である。$r_X^*[v]=[u]$、$(q_Y)_*[u]=[f]$ なので、$[f]\mapsto\gamma(f)$ は全単射の合成 $(r_X^*)^{-1}(q_Y)_*^{-1}$ に等しい。とくに $f\simeq g$ なら $\gamma(f)=\gamma(g)$ である。
段 10(3)。 2 により、ファイブラントかつコファイブラントな $X,Y$ について $h\mathcal M(X,Y)\to\operatorname{Ho}(\mathcal M)(X,Y)$ は全単射なので、関手は矛盾なく定まり、充満忠実である。任意の $X$ は、弱同値の像 $\gamma(q_X)$、$\gamma(r_{QX})$ により $\operatorname{Ho}(\mathcal M)$ で $HX$ と同型なので、本質的全射である。$\square$

局所化は普遍性により同型を除いてただ一つに定まる(圏の局所化 の定義「圏の局所化」)。したがって 2 と 3 は、弱同値を可逆化した圏をどのように作っても成り立つ。とくに
$$ \operatorname{Ho}(\mathcal M)(X,Y)\cong\operatorname{Ho}(\mathcal M)(QX,RY)\cong\operatorname{Hom}(QX,RY)/{\simeq} $$
である($\gamma(q_X)$、$\gamma(r_Y)$ は同型射)。

弱同値の飽和

射 $f$ が弱同値であることと、$\gamma(f)$ が $\operatorname{Ho}(\mathcal M)$ の同型射であることは同値である(Hov99 Theorem 1.2.10 (iv))。

弱同値なら同型射であることは thm-mhc-main の 1 である。逆に、証明の段 2 の記号で $\gamma(f)=[v]$ が同型射なら、$v$ はファイブラントかつコファイブラントな対象の間のホモトピー同値なので、thm-mhc-whitehead により弱同値である。$vr_{QX}=r_{QY}u$ と 2 out of 3 から $u\in\mathcal W$、$q_Yu=fq_X$ と 2 out of 3 から $f\in\mathcal W$ である。$\square$

例

位相空間と CW 複体

位相空間の圏 $\mathbf{Top}$ には、弱同値を弱ホモトピー同値、ファイブレーションを Serre ファイブレーションとするモデル構造(Quillen モデル構造)があり、すべての対象はファイブラントで、相対 CW 複体はコファイブレーションである(Hov99 Theorem 2.4.19 と §2.4 の相対胞体複体の説明。この記事では証明しない)。$X$ を CW複体 とする。

  1. $\emptyset\to X$ は相対 CW 複体なので、$X$ はコファイブラントである。
  2. $I=[0,1]$ は有限複体なので $X\times I$ は積の胞体構造で CW 複体であり、$X\amalg X=X\times\{0,1\}\to X\times I$ は相対 CW 複体、したがってコファイブレーションである。射影 $X\times I\to X$ はホモトピー同値なので、弧状連結成分の全単射と、すべての基点でのホモトピー群の同型を誘導し(基点の取り替え(ホモトピー群) の定理「自由ホモトピーと基点の軌跡」)、弱同値である。よって $X\times I$ は $X$ のシリンダー対象であり、これによる左ホモトピーはふつうのホモトピー $X\times I\to Y$ である。
  3. prop-mhc-four の 1・2 により、任意の空間 $Y$ への射 $f,g\colon X\to Y$ について、$f\simeq g$ はふつうのホモトピーと同じ意味になる。thm-mhc-main の 2 から $\operatorname{Ho}(\mathbf{Top})(X,Y)\cong[X,Y]$(ホモトピー類の集合)である。
  4. 任意の空間 $Y$ には CW 複体からの弱ホモトピー同値 $Z\to Y$ がある(CW近似 の定理「CW 近似の存在」)。$Z\to Y$ は $\operatorname{Ho}(\mathbf{Top})$ の同型射なので、CW 複体とホモトピー類のなす圏から $\operatorname{Ho}(\mathbf{Top})$ への関手は、3 により充満忠実で、本質的全射である。よって両者は圏同値である。モデル圏を使わない証明は、コンパクト生成弱 Hausdorff 空間の圏について 圏の局所化 の例「空間のホモトピー圏」にある。
    CW 複体はファイブラントかつコファイブラントなので、thm-mhc-whitehead はこの場合「CW 複体の間の弱ホモトピー同値はホモトピー同値である」(Whiteheadの定理 と同じ形)を与える。モデル構造の存在を引用しているので、これは古典的な定理の独立な証明ではない。
鎖複体と Ext

環 $R$ 上の(両側に非有界な)鎖複体の圏 $\mathrm{Ch}(R)$ には、弱同値を擬同型、ファイブレーションを各次数で全射な鎖写像とするモデル構造(射影的モデル構造)がある。すべての対象はファイブラントであり、下に有界で各項が射影加群の複体はコファイブラントで、コファイブラントな複体は各項が射影加群である(Hov99 Theorem 2.3.11、Lemma 2.3.6。この記事では証明しない)。

  1. 複体 $Y$ に対し、$(Y^I)_n:=Y_n\oplus Y_n\oplus Y_{n+1}$、$d(x,y,z):=(dx,\,dy,\,-dz+x-y)$、$q(y):=(y,y,0)$、$p(x,y,z):=(x,y)$ とおくと、$(Y^I,q,p)$ は $Y$ の道対象であり、$Y^I$ による右ホモトピー $k=(f,g,D)$ は鎖ホモトピー $f-g=dD+Dd$ にほかならない。
  2. したがって $X$ がコファイブラントなら、$\operatorname{Ho}(\mathrm{Ch}(R))(X,Y)$ は鎖写像 $X\to Y$ の鎖ホモトピー類の集合である。
  3. $R$ 加群 $M,N$ と $n\ge0$ について、$M\langle0\rangle$ を次数 $0$ に $M$ を、$N\langle n\rangle$ を次数 $n$ に $N$ を置いた複体とすると、$\operatorname{Ho}(\mathrm{Ch}(R))(M\langle0\rangle,N\langle n\rangle)\cong\operatorname{Ext}^n_R(M,N)$ である(Ext関手 の定義「Ext関手」)。
  4. $\operatorname{Ho}(\mathrm{Ch}(R))$ は、$\mathrm{Ch}(R)$ からの関手と両立する圏同値で 導来圏 の定義「導来圏」の $D(R)$ と結ばれる。
    詳しい確かめを開く

    1:$d^2(x,y,z)=(0,0,d^2z-dx+dy+dx-dy)=0$ なので $Y^I$ は複体で、$q,p$ は鎖写像、$pq$ は対角射である。$p$ は各次数で全射なのでファイブレーションである。$p_0(x,y,z)=x$ は全射で、核 $\{(0,y,z)\}$ は完全である(サイクルは $y=-dz$ をみたし、$(0,-dz,z)=d(0,-z,0)$)。よって $p_0$ は擬同型で、$p_0q=\mathrm{id}_Y$ と 2 out of 3 から $q$ も擬同型である。$k=(f,g,D)$ が鎖写像であることは、第 3 成分を比べると $-dD+f-g=Dd$ と同値である。

    2:prop-mhc-four の 3・4 から $f\simeq g$ は鎖ホモトピックと同じ意味になり、thm-mhc-main の 2 による。

    3:射影分解 $F_\bullet\to M\langle0\rangle$ は擬同型なので $\operatorname{Ho}$ で同型になり、$F_\bullet$ はコファイブラントである。鎖写像 $F_\bullet\to N\langle n\rangle$ は $\varphi d_{n+1}=0$ をみたす $\varphi\colon F_n\to N$ と同じもので、鎖ホモトピー $D$ は $\psi=D_{n-1}\colon F_{n-1}\to N$ だけが効き、$f-g=\psi d_n$ となる。よって 2 から、求める集合は $\{\varphi\mid\varphi d_{n+1}=0\}/\{\psi d_n\}=H^n(\operatorname{Hom}_R(F_\bullet,N))=\operatorname{Ext}^n_R(M,N)$ である(Ext関手 の命題「射影計算と入射計算の一致」)。

    4:thm-mhc-main の 4 を道対象 $Y^I$ に当てると、$\gamma$ は鎖ホモトピックな射を同じ射に送るので、鎖ホモトピー類の圏 $K(R)$ を経由し、擬同型を可逆化する。逆に $\mathrm{Ch}(R)\to K(R)\to D(R)$ は擬同型を可逆化する。二つの普遍性から、$\mathrm{Ch}(R)$ からの関手と両立する関手 $\Phi\colon\operatorname{Ho}(\mathrm{Ch}(R))\to D(R)$ と $\Psi\colon D(R)\to\operatorname{Ho}(\mathrm{Ch}(R))$ が得られる。$\Psi\Phi\gamma=\gamma$ なので thm-mhc-main の 1 の一意性から $\Psi\Phi=\mathrm{id}$ であり、$\Phi\Psi$ は $K(R)\to D(R)$ の局所化関手と合成するとその局所化関手に戻るので、$D(R)$ の普遍性の一意性から恒等関手と同型である。よって $\Phi$ は圏同値である。

反例

反例:両端の条件を外すとホモトピー逆がない

$\mathrm{Ch}(\mathbb Z)$ で、次数 $1,0$ に $\mathbb Z\xrightarrow{2}\mathbb Z$ を置いた複体を $P$ とし、射影 $q\colon P\to\mathbb Z/2\langle0\rangle$ をとる。$H_1(P)=0$、$H_0(P)=\mathbb Z/2$ なので $q$ は擬同型、すなわち弱同値である。$\mathbb Z/2\langle0\rangle$ はファイブラントだが、$\mathbb Z/2$ が射影 $\mathbb Z$ 加群でないのでコファイブラントでない。
$\mathbb Z/2$ から $\mathbb Z$ への準同型は $0$ だけなので、鎖写像 $g\colon\mathbb Z/2\langle0\rangle\to P$ は $0$ だけで、$qg=0$ である。一方 $H_0$ は擬同型を同型に送るので、thm-mhc-main の 4 により、左ホモトピーまたは右ホモトピーで結ばれた射に同じ写像を与える。$H_0(qg)=0$ と $H_0(\mathrm{id})=\mathrm{id}_{\mathbb Z/2}$ は異なるので、$qg$ は $\mathrm{id}$ と左にも右にもホモトピックでない。よって $q$ は、どの意味でもホモトピー逆をもたない。これは thm-mhc-whitehead でコファイブラント性の仮定が外せないことを示す。

外す条件反例成り立たなくなること
両端がファイブラントかつコファイブラント(thm-mhc-whitehead)$\mathrm{Ch}(\mathbb Z)$ の $q\colon P\to\mathbb Z/2\langle0\rangle$弱同値はホモトピー同値であること
$X$ がコファイブラント(thm-mhc-main の 2)$\mathrm{Ch}(\mathbb Z)$ の $X=\mathbb Z/2\langle0\rangle$、$Y=\mathbb Z/2\langle1\rangle$$\operatorname{Ho}(\mathcal M)(X,Y)$ の射がすべて $\mathcal M$ の射 $X\to Y$ の像であること
反例の確かめ

要点:1 行目は上の注意、2 行目は Ext の計算による。

詳しい証明を開く

1 行目は rem-mhc-counter による。2 行目:$X$ と $Y$ は $0$ でない項の次数が違うので、鎖写像 $X\to Y$ は $0$ だけである。一方 ex-mhc-chain により $\operatorname{Ho}(\mathrm{Ch}(\mathbb Z))(X,Y)\cong\operatorname{Ext}^1_{\mathbb Z}(\mathbb Z/2,\mathbb Z/2)\cong\mathbb Z/2$ である(Ext関手 の命題「巡回群からの Ext」)。よって $f\mapsto\gamma(f)$ は全射でない。$X$ をコファイブラント置換 $P\to X$ に替えれば、thm-mhc-main の 2 のとおり $\operatorname{Ho}$ の射は $P$ からの射のホモトピー類で尽くされる。

関連項目

参考文献

[1]
Jacob Lurie, Higher Topos Theory, Annals of Mathematics Studies 170, Princeton University Press, 2009, §A.2.2、Proposition A.2.2.1 とその後の段落(pp. 811–812)
[2]
Mark Hovey, Model Categories, Mathematical Surveys and Monographs 63, American Mathematical Society, 1999, Definition 1.2.4、Proposition 1.2.5、Corollary 1.2.6、Corollary 1.2.7、Proposition 1.2.8、Theorem 1.2.10;Lemma 2.3.6、Theorem 2.3.11;§2.4、Theorem 2.4.19

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