Quillen–Suslinの定理(Quillen–Suslin theorem)とは、体 $k$ 上の多項式環 $k[x_1,\dots,x_n]$ の上の有限生成射影加群がすべて自由であるという定理である。同値な形として、成分が $1$ を生成する多項式の列ベクトル(単模ベクトル)は、つねに可逆行列の第 1 列に延ばせる。証明は、有限生成射影加群が安定自由であるという Serre の定理と、局所環上の Horrocks の定理を局所化で張り合わせ、変数の個数についての帰納法で単模ベクトルを延ばす議論からなる。幾何的にはアフィン空間上の代数的なベクトル束が自明であることを意味し、円や球面の座標環では同じことが成り立たない。
可換環上の有限生成射影加群は、素イデアルで局所化するとすべて自由になる(射影加群 の定理「可換局所環上の有限生成射影加群」)。幾何の言葉では、有限生成射影 $A$ 加群は $\operatorname{Spec}A$ 上のベクトル束(局所自由層)にあたり、局所的には自明な束である。位相幾何では、Euclid 空間 $\mathbb R^n$ は可縮なので、その上のベクトル束はすべて自明になる。その代数版として Serre は、体 $k$ 上の多項式環 $k[x_1,\dots,x_n]$(アフィン空間の座標環)の上の有限生成射影加群がすべて自由かを問うた。これを肯定的に解決したのが Quillen–Suslinの定理(Quillen–Suslin theorem)である。Quillen と Suslin が証明した(Lan02 第 XXI 章 §3 の冒頭、p. 846)。
この記事では、Vaserstein が簡略化した Suslin の議論に沿って、定理を完全に証明する。証明は 2 つの部分からなる。1 つは Serre による「有限生成射影加群は安定自由である」こと、もう 1 つは「$1$ を生成する多項式の組(単模ベクトル)は、可逆行列の第 1 列に延ばせる」ことである。後者は、1 変数の局所的な場合(Horrocks の定理)を示し、局所化での同値を大域の同値へ張り合わせて、変数の個数についての帰納法で示す。
この記事では、環は単位元をもつ可換環とし、$A^n$ の元を列ベクトル $f={}^t(f_1,\dots,f_n)$ で書く。$e_1,\dots,e_n$ を $A^n$ の標準基底とする。
$A$ を可換環とする。
$\sim$ は同値関係である。$Me_1$ は $M$ の第 1 列なので、$f$ が完備化できることは $f\sim e_1$ と同値である。$f=Mg$ なら $f$ の成分は $g$ の成分の 1 次結合で、逆も成り立つので、単模性は同値で保たれる。ある成分に別の成分の $A$ 倍を足す、2 つの成分を入れ替える、成分に単元を掛ける、という 行基本変形 は可逆行列を左から掛けることなので、同値類を変えない。環準同型 $\varphi\colon A\to B$ を成分ごとに施すと、単模ベクトルは単模ベクトルに、$A$ 上の同値は $B$ 上の同値に移る。
単模な $f$ と $g_1f_1+\cdots+g_nf_n=1$ をとると、$a\mapsto af$ は $\lambda(v)=\sum g_iv_i$ で分裂する単射 $A\to A^n$ なので、$A^n=Af\oplus\ker\lambda$、とくに $\ker\lambda\oplus A\cong A^n$ で、$\ker\lambda$ は安定自由である。逆に安定自由な加群は、次の命題の証明のとおりこの形に帰着する。
可換環 $A$ が単模ベクトルの延長性をもつなら、安定自由な $A$ 加群はすべて有限階数の自由加群である。
$P\oplus A^m\cong A^n$ とし、$m$ についての帰納法で示す。$m=0$ なら $P\cong A^n$ である。$m\ge1$ なら $P':=P\oplus A^{m-1}$ について $P'\oplus A\cong A^n$ なので、$P'$ が自由であることを示せば、帰納法の仮定($P\oplus A^{m-1}\cong P'$ は自由)により $P$ も自由になる。よって $E\oplus A=A^n$(内部直和とみる)のとき $E$ が自由であることを示せばよい。
$p\colon A^n\to A$ を直和因子 $A$ への射影とし、$u\in A^n$ を直和因子 $A$ の元 $1$ とする。$p(u)=1$ で $p$ は $A$ 線形なので、$p(v)=\sum c_iv_i$ と書くと $\sum c_iu_i=1$ となり、$u$ は単模である。仮定から第 1 列が $u$ の $M\in\mathrm{GL}_n(A)$ がある。$j\ge2$ について $M$ の第 $j$ 列 $Me_j$ から第 1 列の $p(Me_j)$ 倍を引く列基本変形をすると、行列式は変わらず、新しい $M$ は第 1 列が $u$ のままで、$j\ge2$ の列は $\ker p=E$ に入る。
$M$ は $A^n$ の自己同型で、$Ae_1$ を $Au$ に、$N:=Ae_2\oplus\cdots\oplus Ae_n$ を $E$ の中に移す。$v\in E$ をとり、$v=M(ae_1+w)$($a\in A$、$w\in N$)と書くと、$au=v-Mw\in E\cap Au=0$ で、$p(au)=a$ から $a=0$ である。よって $M(N)=E$ となり、$E\cong N\cong A^{n-1}$ は自由である。$\square$
$k$ を体、$n\ge0$ を整数とし、$A=k[x_1,\dots,x_n]$ とする。
1 は節「単模ベクトルの完備化」で、2 は節「射影加群の安定自由性」で証明する。2 は、Serre の定理(cor-qs-serre-poly:有限生成射影加群は安定自由)と 1 と prop-qs-stably-free を合わせたものである。逆に 2 から 1 も従う。単模な $f$ について $A^m=Af\oplus\ker\lambda$(節「安定自由加群と単模ベクトル」の記号)で、2 から $\ker\lambda$ は自由であり、その基底と $f$ を並べた行列は可逆だからである。$n=1$ では $A$ は単項イデアル整域なので、2 は単項イデアル整域上の加群の構造から直ちに従う(射影加群 の注意「射影的なら自由になる環」)。$n\ge2$ では $A$ は単項イデアル整域でなく、まったく新しい議論が要る。
1 変数多項式環 $B[x]$ の元で、最高次の係数が $1$ のものを モニック という。モニックな多項式による割り算は、係数環が体でなくても余りの次数を下げられる。$B[x]^n$ の元 $f(x)$ の各成分に $x=0$ を代入したものを $f(0)\in B^n$ と書く。
$(\mathfrak o,\mathfrak m)$ を局所環とし、$f\in\mathfrak o[x]^n$ を単模ベクトルとする。$f$ の成分のうち 1 つがモニックなら、$f\sim e_1$($\mathfrak o[x]$ 上の同値)である。
要点は、モニックな成分の次数 $d$ を行基本変形で 1 ずつ下げられることである。$\mathfrak o$ が局所環なので、ほかの成分の係数のどれかが単元になり、それを使って次数 $d-1$ のモニックな成分を作る。
ex-qs-short の 1・2 により $n\le2$ ではよい。$n\ge3$ とし、モニックな成分の次数の最小値 $d$ についての帰納法で示す。
$d=0$ なら成分の 1 つが $1$ で、それを第 1 成分へ入れ替え、ほかの成分からその倍を引けば $e_1$ になる。
$d\ge1$ とする。入れ替えて $f_1$ を次数 $d$ のモニックとし、$j\ge2$ について $f_j$ を $f_1$ で割った余りに置き換える(行基本変形)。以下 $\deg f_j< d$($j\ge2$)としてよい。$g_1f_1+\cdots+g_nf_n=1$ をとる。$f_2,\dots,f_n$ の係数がすべて $\mathfrak m$ に入るなら、剰余体 $\kappa=\mathfrak o/\mathfrak m$ 上で $\bar g_1\bar f_1=1$ となるが、$\bar f_1$ は次数 $d\ge1$ のモニックなので $\kappa[x]$ の単元でなく、矛盾する。よって、入れ替えて $f_2=b_sx^s+\cdots+b_0$($s\le d-1$)の係数のどれかが単元であるとしてよい。
$f_1\mathfrak o[x]+f_2\mathfrak o[x]$ の元 $h$ で $\deg h\le d-1$ のものについて、$x^{d-1}$ の係数全体を $\mathfrak a$ とする。そのような $h$ の和と $\mathfrak o$ 倍はまた同じ形なので、$\mathfrak a$ は $\mathfrak o$ のイデアルである。$b_s,b_{s-1},\dots,b_0\in\mathfrak a$ を、この順に示す。$0\le j\le s$ について、$p_j:=x^{d-1-s+j}f_2$ の $x^{d-1+t}$($t\ge0$)の係数は $b_{s-j+t}$(添字が $s$ を超えれば $0$)である。$p_j$ をモニックな $f_1$ で割って $p_j=q_jf_1+h_j$($\deg h_j\le d-1$)とすると、割り算の各段は「そのときの最高次の係数」の倍の $f_1$ を引くだけなので、$q_j$ の係数は $p_j$ の次数 $d$ 以上の係数 $b_{s-j+1},\dots,b_s$ が生成するイデアルに入る。よって $h_j=p_j-q_jf_1\in f_1\mathfrak o[x]+f_2\mathfrak o[x]$ の $x^{d-1}$ の係数は $b_{s-j}$ と $(b_{s-j+1},\dots,b_s)$ を法として合同であり、すでに示した $b_{s-j+1},\dots,b_s\in\mathfrak a$ から $b_{s-j}\in\mathfrak a$ を得る。
$b_i$ のどれかは単元なので $\mathfrak a=\mathfrak o$、とくに $1\in\mathfrak a$ で、$h=u_1f_1+u_2f_2$、$\deg h\le d-1$、$x^{d-1}$ の係数が $1$ となる $u_1,u_2$ がある。$n\ge3$ なので第 3 成分があり、その $x^{d-1}$ の係数を $c$ とする。行基本変形 $f_3\mapsto f_3+(1-c)u_1f_1+(1-c)u_2f_2$ を施すと、新しい $f_3$ は次数 $d-1$ 以下で $x^{d-1}$ の係数が $c+(1-c)=1$、すなわち次数 $d-1$ のモニックになる。単模性は保たれるので、帰納法の仮定から $f\sim e_1$ である。$\square$
thm-qs-horrocks の仮定のもとで、$f\sim f(0)$($\mathfrak o[x]$ 上)である。
$f(0)\in\mathfrak o^n$ は単模なので、成分のどれかは $\mathfrak m$ に入らず、単元である。入れ替えと行基本変形で $f(0)\sim e_1$($\mathfrak o$ 上、したがって $\mathfrak o[x]$ 上)となる。thm-qs-horrocks の $f\sim e_1$ と合わせて $f\sim f(0)$ である。$\square$
局所環 $R_{\mathfrak p}$ ごとに得た同値を、もとの環 $R$ の上の同値へまとめる。鍵は、変数をずらす写像 $x\mapsto x+cy$ の「ずらし幅」$c$ の全体がイデアルになることである。
$R$ を整域、$S\subset R$ を $0$ を含まない積閉集合、$f\in R[x]^n$ とする。$S^{-1}R[x]$ 上で $f(x)\sim f(0)$ なら、ある $s\in S$ について $R[x,y]$ 上で $f(x+sy)\sim f(x)$ である。
$f(x)=M(x)f(0)$、$M(x)\in\mathrm{GL}_n(S^{-1}R[x])$ とする。$x$ に $x+y$ を代入すると $f(x+y)=M(x+y)f(0)$ なので、$G(x,y):=M(x)M(x+y)^{-1}\in\mathrm{GL}_n(S^{-1}R[x,y])$ について $G(x,y)f(x+y)=f(x)$ となる。
$G(x,0)=I$ なので、$G$ の各成分から $y=0$ での値を引いたものは $y$ で割り切れ、$G(x,y)=I+yH(x,y)$($H$ は $S^{-1}R[x,y]$ 成分の行列)と書ける。$H=\sum_jH_j(x)y^j$ の係数は有限個なので、$s\in S$ を $sH_j$ がすべて $R[x]$ 成分になるようにとれる。すると $$ G(x,sy)=I+sy\sum_js^jH_j(x)y^j=I+y\sum_js^j\bigl(sH_j(x)\bigr)y^j $$ は $R[x,y]$ 成分である。$S^{-1}R$ は整域なので $S^{-1}R[x]$ の単元は定数であり、$\det M(x)=u$ は $x$ によらない。よって $\det M(x+y)=u$、$\det G(x,y)=1$、$\det G(x,sy)=1$ で、余因子行列により $G(x,sy)\in\mathrm{GL}_n(R[x,y])$ である($R\to S^{-1}R$ は単射なので、$R[x,y]$ の中で計算してよい)。$G(x,y)f(x+y)=f(x)$ の $y$ に $sy$ を代入して $G(x,sy)f(x+sy)=f(x)$ を得る。$\square$
$R$ を整域とし、$f\in R[x]^n$ を単模ベクトルで、成分の 1 つがモニックなものとする。このとき $R[x]$ 上で $f(x)\sim f(0)$ である。
$J$ を、$R[x,y]$ 上で $f(x+cy)\sim f(x)$ となる $c\in R$ の全体とする。$J$ が $R$ 全体であることを示せば、$f(x+y)=N(x,y)f(x)$ となる $N\in\mathrm{GL}_n(R[x,y])$ があり、$x=0$ を代入して $f(y)=N(0,y)f(0)$、すなわち(変数の名前を戻して)$f(x)\sim f(0)$ を得る。
$J$ はイデアルである。$0\in J$ は明らかである。$c\in J$、$f(x+cy)=N(x,y)f(x)$ なら、$y$ に $ay$ を代入して $ac\in J$ を得る。$c,c'\in J$ で $f(x+cy)=N(x,y)f(x)$、$f(x+c'y)=N'(x,y)f(x)$ なら、前者の $x$ に $x+c'y$ を代入して
$$
f(x+(c+c')y)=N(x+c'y,y)f(x+c'y)=N(x+c'y,y)N'(x,y)f(x)
$$
となり、$c+c'\in J$ である。
素イデアル $\mathfrak p$ を任意にとる。$R_{\mathfrak p}$ は局所環で、$f$ は $R_{\mathfrak p}[x]$ でも単模で、同じ成分がモニックなので、cor-qs-horrocks-constant により $R_{\mathfrak p}[x]$ 上で $f(x)\sim f(0)$ である。lem-qs-patch を $S=R\setminus\mathfrak p$ に使うと、$s\notin\mathfrak p$ で $s\in J$ となるものがある。よって $J$ はどの素イデアルにも含まれず、$J=R$ である。$\square$
thm-qs-domain を使うには、成分のどれかが最後の変数についてモニックでなければならない。これは変数の取り替えで実現できる。
$k$ を体、$r\ge1$ とし、$0\ne g\in k[x_1,\dots,x_r]$ とする。$e$ を $g$ に現れる各変数の指数の最大値より大きい整数とし、$k$ 代数の自己同型 $\sigma$ を $\sigma(x_i)=x_i+x_r^{e^i}$($i< r$)、$\sigma(x_r)=x_r$ で定める。このとき $\sigma(g)$ は、$k[x_1,\dots,x_{r-1}]$ を係数とする $x_r$ の多項式として、最高次の係数が $k$ の $0$ でない定数である。
$\sigma$ の逆は $x_i\mapsto x_i-x_r^{e^i}$ である。単項式 $x^\alpha=x_1^{\alpha_1}\cdots x_r^{\alpha_r}$ の像 $x_r^{\alpha_r}\prod_{i< r}(x_i+x_r^{e^i})^{\alpha_i}$ は、$x_r$ について次数 $N(\alpha):=\alpha_r+\alpha_1e+\alpha_2e^2+\cdots+\alpha_{r-1}e^{r-1}$、最高次の係数 $1$ である。$0\le\alpha_i< e$ なので、$N(\alpha)$ は $\alpha$ を $e$ 進法の桁とみた数で、$\alpha$ が違えば $N(\alpha)$ も違う。よって $g$ の係数が $0$ でない単項式のうち $N(\alpha)$ が最大のものがただ 1 つあり、$\sigma(g)$ の最高次の係数はその係数に等しい。$\square$
たとえば $g=xy\in k[x,y]$($r=2$、$x_1=x$、$x_2=y$)では $e=2$ として $\sigma(g)=(x+y^2)y=y^3+xy$ となり、$y$ についてモニックである。
変数の個数 $n$ についての帰納法で示す。$n=0$ なら $A=k$ は体で、単模ベクトルとは $0$ でないベクトルである。$0$ でない成分を第 1 成分へ入れ替えて単元倍で $1$ にし、ほかの成分を消せば $e_1$ になる。
$n\ge1$ とし、$f\in A^m$ を単模とする。$A\ne0$ なので $f$ の成分のどれか $g$ は $0$ でない。lem-qs-monic の自己同型 $\sigma$ を成分ごとに施しても、単模性と「$\sim e_1$」は保たれる($\sigma^{-1}$ で戻せる)ので、$f$ を $\sigma(f)$ に置き換え、さらに成分 $\sigma(g)$ に定数の逆数を掛けて、$f$ の成分の 1 つが $x_n$ についてモニックであるとしてよい。$R:=k[x_1,\dots,x_{n-1}]$ は整域で $A=R[x_n]$ なので、thm-qs-domain により $A$ 上で $f\sim f|_{x_n=0}$ である。$f|_{x_n=0}\in R^m$ は単模なので、帰納法の仮定から $R$ 上で、したがって $A$ 上で $f|_{x_n=0}\sim e_1$ である。よって $f\sim e_1$ で、$f$ は完備化できる。$\square$
ここでは零環でない可換環を考え、有限自由分解 の定義「有限自由分解」を使う。有限生成射影加群が安定自由であることを、すべての有限生成加群が有限自由分解をもつことから導く。
$A$ を零環でない可換環とし、$0\to M'\xrightarrow{\alpha}M\xrightarrow{\beta}M''\to0$ を $A$ 加群の完全列とする。
1 は 馬蹄補題 の定理「馬蹄補題」から、2 は 写像錐(ホモロジー代数) の命題「錐の長完全列」から従う。
1:$M'$、$M''$ の有限自由分解 $F'\to M'$、$F''\to M''$ を、ある次数から先が $0$ の射影分解とみる。馬蹄補題により、各次数で $P_n=F'_n\oplus F''_n$ となる $M$ の射影分解 $P\to M$ がある。$P_n$ は有限階数の自由加群で、$n$ が両方の長さより大きければ $0$ なので、これは $M$ の有限自由分解である。
2:$M'$、$M$ の有限自由分解 $F'\to M'$、$G\to M$ をとり、増大射を $\varepsilon'$、$\varepsilon$ と書く。まず鎖写像 $u\colon F'\to G$ で $\varepsilon u_0=\alpha\varepsilon'$ となるものを作る。$F'_0$ の基底の各元 $b$ について、$\varepsilon$ が全射なので $\varepsilon(c)=\alpha\varepsilon'(b)$ となる $c$ を選び $u_0(b)=c$ とする。$u_0,\dots,u_{i-1}$ ができたとき、$F'_i$ の基底の元 $b$ について $z=u_{i-1}(db)\in G_{i-1}$ は、$i=1$ なら $\varepsilon(z)=\alpha\varepsilon'(db)=0$、$i\ge2$ なら $dz=u_{i-2}(ddb)=0$ を満たす。$G$ は完全なので $z=dw$ となる $w\in G_i$ があり、$u_i(b)=w$ とする。
$u$ の写像錐 $C=\operatorname{Cone}(u)$、$C_n=F'_{n-1}\oplus G_n$ は有限階数の自由加群からなる有限の長さの複体である。増大射を除いた複体のホモロジーは $H_0(F')=M'$、$H_0(G)=M$、$H_n(F')=H_n(G)=0$($n\ge1$)で、$H_0(u)$ は $\alpha$ にあたる。錐の長完全列から、$n\ge2$ では $H_n(C)=0$ である。$n=1$ では $0=H_1(G)\to H_1(C)\to H_0(F')\xrightarrow{\alpha}H_0(G)$ で $\alpha$ が単射なので $H_1(C)=0$ である。$n=0$ では $M'\xrightarrow{\alpha}M\to H_0(C)\to0$ が完全なので $H_0(C)\cong M/\alpha(M')\cong M''$ である。よって $C$ に $C_0=G_0\to H_0(C)\cong M''$ を付けたものは $M''$ の有限自由分解である。$\square$
零環でない可換環 $A$ 上の射影加群 $P$ が有限自由分解をもつなら、$P$ は安定自由である。
分解 $0\to F_n\to\cdots\to F_0\xrightarrow{\varepsilon}P\to0$ の長さ $n$ についての帰納法で示す。$n=0$ なら $P\cong F_0$ である。$n\ge1$ なら、$K:=\ker\varepsilon$ について $0\to K\to F_0\to P\to0$ は $P$ が射影的なので分裂し、$F_0\cong P\oplus K$ である。$K$ は射影加群の直和因子なので射影的で、長さ $n-1$ の有限自由分解 $0\to F_n\to\cdots\to F_1\to K\to0$ をもつ。帰納法の仮定から $K\oplus A^a\cong A^b$ となる $a,b$ があり、$P\oplus A^b\cong P\oplus K\oplus A^a\cong F_0\oplus A^a$ は有限階数の自由加群である。$\square$
$R$ を零環でない Noether 環とする。有限生成 $R$ 加群がすべて有限自由分解をもつなら、有限生成 $R[x]$ 加群もすべて有限自由分解をもつ。
要点は、反例があると仮定して、反例を与える素イデアル $P\subset R[x]$ のうち $\mathfrak p=P\cap R$ が極大なものをとり、$P$ を「$\mathfrak p$ より大きい素イデアルから来る部分」と「単項イデアル」に分けて矛盾を導くことである。
$R[x]$ は Noether 環である(Hilbertの基底定理)。随伴素イデアル の定理「有限素因子列」により、有限生成 $R[x]$ 加群 $M$ には各商が $R[x]/P_i$($P_i$ は素イデアル)の形の有限列があり、lem-qs-ffr-ext の 1 を繰り返し使えば、各 $R[x]/P$ が有限自由分解をもつことを示せば十分である。
有限自由分解をもたない $R[x]/P$($P$ は素イデアル)があると仮定する。そのような $P$ についての $P\cap R$ の全体は空でない素イデアルの族で、$R$ が Noether 環なので極大元がある。それを与える $P$ をとり、$\mathfrak p:=P\cap R$、$R_0:=R/\mathfrak p$(整域)、$P_0:=P/\mathfrak pR[x]\subset R_0[x]$ とおく。この選び方から、素イデアル $Q\subset R[x]$ で $Q\cap R\supsetneq\mathfrak p$ なら、$R[x]/Q$ は有限自由分解をもつ。
(a) $R_0[x]$ は $R[x]$ 加群として有限自由分解をもつ。仮定から $\mathfrak p$ は有限自由分解 $0\to E_m\to\cdots\to E_0\to\mathfrak p\to0$ をもつ。$R[x]$ は自由 $R$ 加群なので平坦で、$-\otimes_RR[x]$ を施した列は完全であり、$\mathfrak p\otimes_RR[x]\cong\mathfrak pR[x]$ の有限自由 $R[x]$ 分解になる。$0\to\mathfrak pR[x]\to R[x]\to R_0[x]\to0$ に lem-qs-ffr-ext の 2 を使えばよい。
(b) $P_0=0$、すなわち $P=\mathfrak pR[x]$ なら、$R[x]/P=R_0[x]$ は (a) により有限自由分解をもち、矛盾する。よって $P_0\ne0$ である。$P_0$ の $0$ でない元のうち次数が最小のもの $f$ をとり、$P_0$ の生成元 $f_1,\dots,f_r$ をとる。$R_0$ の商体 $K_0$ 上で $f_i=q_if+r_i$($\deg r_i< \deg f$)と割り、係数の共通の分母 $d_0\in R_0\setminus\{0\}$ を掛けると $d_0f_i=q'_if+r'_i$($q'_i,r'_i\in R_0[x]$、$\deg r'_i< \deg f$)となる。$r'_i=d_0f_i-q'_if\in P_0$ なので、$f$ の次数の最小性から $r'_i=0$ である。よって $N:=P_0/(f)$ は $d_0$ で消える。
(c) $N$ は有限自由分解をもつ。$d_0$ の $R$ への持ち上げ $d$ をとると $d\notin\mathfrak p$ である。$N$ は有限生成 $R[x]$ 加群で、$\mathfrak pR[x]$ と $d$ で消える。$N$ の有限素因子列の各商 $R[x]/Q$ について $Q\supset\operatorname{Ann}(N)\ni d$ かつ $Q\supset\mathfrak pR[x]$ なので $Q\cap R\supsetneq\mathfrak p$ で、$R[x]/Q$ は有限自由分解をもつ。lem-qs-ffr-ext の 1 から $N$ も有限自由分解をもつ。
(d) $R_0[x]$ は整域なので、$R[x]$ 加群として $(f)=fR_0[x]\cong R_0[x]$ であり、(a) から有限自由分解をもつ。$0\to(f)\to P_0\to N\to0$ と $0\to\mathfrak pR[x]\to P\to P_0\to0$ に lem-qs-ffr-ext の 1 を使うと、$P_0$、次いで $P$ が有限自由分解をもつ。最後に $0\to P\to R[x]\to R[x]/P\to0$ に同じ補題の 2 を使うと、$R[x]/P$ が有限自由分解をもち、仮定に矛盾する。$\square$
$k$ を体とする。有限生成 $k[x_1,\dots,x_n]$ 加群はすべて有限自由分解をもち、有限生成射影 $k[x_1,\dots,x_n]$ 加群はすべて安定自由である。
有限生成 $k$ 加群は有限次元ベクトル空間なので自由で、長さ $0$ の有限自由分解をもつ。$k[x_1,\dots,x_{i}]$ は Noether 環なので(Hilbertの基底定理)、thm-qs-serre を $i=0,1,\dots,n-1$ について順に使えば前半を得る。後半は prop-qs-proj-ffr による。$\square$
$P$ を有限生成射影 $A$ 加群とする。cor-qs-serre-poly により $P$ は安定自由で、主定理の 1 により $A$ は単模ベクトルの延長性をもつので、prop-qs-stably-free により $P$ は有限階数の自由加群である。$\square$
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 係数環が体 | $\mathfrak o=\mathbb Z[\sqrt{-5}]$ 上の $\mathfrak o[x]$ と $\mathfrak p\,\mathfrak o[x]$($\mathfrak p=(2,1+\sqrt{-5})$) | 有限生成射影加群が自由 |
| 環が多項式環(1 次元の例) | 円の座標環 $B=\mathbb R[x,y]/(x^2+y^2-1)$ のイデアル $\mathfrak m=(x-1,y)$ | 有限生成射影加群が自由 |
| 環が多項式環(単模ベクトルの例) | 球面の座標環 $C=\mathbb R[x,y,z]/(x^2+y^2+z^2-1)$ の ${}^t(x,y,z)$ | 単模ベクトルが完備化できる・安定自由加群が自由 |
各行では、主定理のほかの仮定(可換環であること、有限生成であること)は保たれている。
1 行目は 射影加群 の例から、2 行目は円周上の符号の議論で、3 行目は 毛玉の定理 で確かめられる。
1 行目:射影加群 の例「Dedekind 整域の単項でないイデアル」により、$\mathfrak p$ は射影的だが自由でない $\mathfrak o$ 加群である。$\mathfrak o[x]$ は自由 $\mathfrak o$ 加群なので平坦で、$\mathfrak p[x]:=\mathfrak p\otimes_{\mathfrak o}\mathfrak o[x]\cong\mathfrak p\,\mathfrak o[x]$ は、$\mathfrak p\oplus Q\cong\mathfrak o^r$ に $-\otimes_{\mathfrak o}\mathfrak o[x]$ を施した式から射影的な $\mathfrak o[x]$ 加群である。$\mathfrak p[x]\cong\mathfrak o[x]^s$ なら、$-\otimes_{\mathfrak o[x]}\mathfrak o[x]/(x)$ を施して $\mathfrak p\cong\mathfrak p\otimes_{\mathfrak o}\mathfrak o\cong\mathfrak o^s$ となり矛盾する。
2 行目:$B$ は整域で、$B$ の元は円周 $\theta\mapsto(\cos\theta,\sin\theta)$ 上の連続関数を定める。$(x-1)^2+y^2=2-2x$ から $x-1=-\frac12\bigl((x-1)^2+y^2\bigr)$ である。$\varphi_1(m):=-\frac m2$、$\varphi_2(m):=-\frac{my}{2(x-1)}$ とおくと、$\varphi_2(x-1)=-\frac y2$、$\varphi_2(y)=-\frac{y^2}{2(x-1)}=\frac{1+x}2$ なので $\varphi_2$ は $\mathfrak m$ から $B$ への $B$ 線形写像で、$\varphi_1(m)(x-1)+\varphi_2(m)y=-\frac{m((x-1)^2+y^2)}{2(x-1)}=m$ となる。よって $m\mapsto(\varphi_1(m),\varphi_2(m))$ は $\mathfrak m\to B^2\to\mathfrak m$ の分裂を与え、$\mathfrak m$ は射影的である(射影加群 の定理「双対基底の補題」)。$\mathfrak m$ が自由なら、整域のイデアルの 2 元は 1 次従属なので階数は $1$ で、$\mathfrak m=gB$ である。円周上の点 $(a,b)\ne(1,0)$ で $g$ が消えるなら、その点での値をとる写像の核(極大イデアル)$\mathfrak m_{(a,b)}$ について $\mathfrak m=gB\subset\mathfrak m_{(a,b)}$ となり、極大性から $\mathfrak m=\mathfrak m_{(a,b)}$ となるが、$x-1$ または $y$ は $(a,b)$ で消えないので矛盾する。よって $g$ は $\theta\ne0$ で消えない。$\mathfrak m^2$ は上の式から $x-1$ を含み、$y^2=-(x-1)(x+1)$ などから $\mathfrak m^2=(x-1)B$ なので、$x-1=ug^2$($u\in B^\times$)である。$y=gh$($h\in B$)と書くと $g^2h^2=y^2=-ug^2(x+1)$ から $h^2=-u(x+1)$ となる。$g$ は $0< \theta<2\pi$ で消えないので符号が一定で、$h=\sin\theta/g$ は $\theta\to+0$ と $\theta\to2\pi-0$ で符号が逆になる。$h$ は連続なので $h(1,0)=0$ で、$0=h(1,0)^2=-2u(1,0)$ となり、$u$ が単元であることに反する。
3 行目:$x\cdot x+y\cdot y+z\cdot z=1$ なので $v={}^t(x,y,z)$ は単模で、$P:=\{w\in C^3\mid xw_1+yw_2+zw_3=0\}$ は $P\oplus Cv=C^3$ を満たす安定自由加群である。$v$ が完備化できたとすると、第 1 列が $v$ の $M\in\mathrm{GL}_3(C)$ の第 2 列は、球面 $S^2$ 上の多項式のベクトル場 $w$ を与える。$\det M$ は $C$ の単元なので $S^2$ の各点で $0$ でなく、$w$ はどの点でも $v$ に平行でない。$w$ から $v$ 方向の成分を引いた $w-\langle w,v\rangle v$ は $S^2$ 上の零点のない連続な接ベクトル場で、毛玉の定理 に反する。よって $v$ は完備化できない。$P$ が自由なら、$P\oplus C\cong C^3$ と階数の一意性から階数は $2$ で、$P$ の基底 $p_1,p_2$ と $v$ を並べた行列 $(v\ p_1\ p_2)$ は可逆になり、第 1 列が $v$ となって矛盾する。よって $P$ は安定自由だが自由でない。連続関数の環での同じ現象は Serre–Swanの定理 の例「球面の接束:自由でない安定自由加群」にある。
この記事の証明は Lan02 第 XXI 章に沿っている。安定自由性と有限自由分解の関係は Theorem 2.1(p. 840)、1 変数を加える定理は Theorem 2.8(pp. 844–846)、Serre の定理は Theorem 2.9(p. 844)、Horrocks の定理は Theorem 3.1(p. 847)、局所化からの持ち上げは Lemma 3.3 と Theorem 3.4(p. 848)、単模ベクトルの延長は Theorem 3.5(pp. 848–849)、安定自由加群の自由性への帰着は Theorem 3.6(pp. 849–850)、主定理の 2 は Theorem 3.7(p. 850)である。lem-qs-ffr-ext は同書 Theorem 2.7(pp. 843–844)の一部で、この記事では馬蹄補題と写像錐による証明に替えた。lem-qs-monic の指数 $e^i$ は同書 §3 の変数の取り替えを具体的に書いたものである。球面の座標環の例は WeiKI Example 1.2.2(p. 3)にある。
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