スペクトル(ホモトピー論)

同義語:スペクトラム(ホモトピー論)spectrum (homotopy theory)

概要

スペクトル(ホモトピー論)(spectrum)とは、基点付き空間の列 $E_n$($n\ge0$)と構造写像 $\sigma_n\colon\Sigma E_n\to E_{n+1}$ の組であり、そのホモトピー群 $\pi_k(E)=\operatorname{colim}_n\pi_{k+n}(E_n)$ は負の整数も含むすべての $k$ について定まるアーベル群である。構造写像の随伴 $E_n\to\Omega E_{n+1}$ がすべて弱ホモトピー同値であるものを Ω スペクトルといい、Ω スペクトルは基点付き CW 複体 $X$ に $[X,E_n]_*$ を対応させる被約コホモロジー論を定める。懸垂スペクトルのホモトピー群は安定ホモトピー群である。∞圏の言葉では、スペクトル全体は点付き空間の∞圏をループ関手について安定化した安定∞圏をなす。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 懸垂, ループ空間, スマッシュ積, ホモトピー群

ホモトピー論のスペクトル(spectrum)とは、基点付き空間の列 $E_0,E_1,E_2,\dots$ と、懸垂から次の空間への写像 $\Sigma E_n\to E_{n+1}$ の組である。空間を懸垂していくと、ホモトピー群は次数をずらしながらやがて一定になる(安定ホモトピー群)。スペクトルは、この「懸垂しても変わらない部分」だけを取り出して扱うための対象で、ホモトピー群が負の次数にも定まり、懸垂がずらしの同型になる。
構造写像の随伴 $E_n\to\Omega E_{n+1}$ がすべて弱ホモトピー同値であるものを Ω スペクトルという。主定理(thm-spec-cohomology)は、Ω スペクトルが基点付き CW 複体の上の被約コホモロジー論 $X\mapsto[X,E_n]_*$ を定めることを述べる。Eilenberg–MacLane 空間の列は通常のコホモロジーを表し、Brownの表現可能性定理により一般のコホモロジー論もすべて Ω スペクトルで表される。∞圏の言葉では、スペクトル全体は点付き空間の∞圏をループ関手について安定化したもので、安定∞圏の基本例である。

定義

基点付き空間 $X$ の被約懸垂を $\Sigma X:=X\wedge S^1$(スマッシュ積 の定義「被約懸垂とループ空間」)、ループ空間を $\Omega X$(ループ空間)と書く。$I:=[0,1]$、$\varepsilon(t):=e^{2\pi it}\in S^1$ とする。基点付き写像 $\sigma\colon\Sigma A\to B$ に対し
$$ \tilde\sigma\colon A\to\Omega B,\qquad\tilde\sigma(a)(t):=\sigma\bigl(a\wedge\varepsilon(t)\bigr) $$
を $\sigma$ の随伴という。$\sigma\mapsto\tilde\sigma$ は基点付き写像 $\Sigma A\to B$ と基点付き写像 $A\to\Omega B$ の全単射であり、基点付きホモトピー類の全単射 $[\Sigma A,B]_*\cong[A,\Omega B]_*$ を誘導する(スマッシュ積 の定理「スマッシュ積と写像空間の随伴」と注意「随伴の位相版」、ループ空間 の命題「2 つの定義の一致」)。

スペクトル

スペクトル $E$ とは、基点付き空間の列 $(E_n)_{n\ge0}$ と、基点付き写像の列 $\sigma_n\colon\Sigma E_n\to E_{n+1}$(構造写像)の組である。スペクトル $E$ から $E'$ への写像 $f$ とは、基点付き写像の列 $f_n\colon E_n\to E'_n$ で $f_{n+1}\circ\sigma_n=\sigma'_n\circ\Sigma f_n$ を満たすものをいう。

Ω スペクトル

スペクトル $E$ が Ω スペクトルであるとは、各 $n\ge0$ について構造写像の随伴 $\tilde\sigma_n\colon E_n\to\Omega E_{n+1}$ が弱ホモトピー同値であることをいう。

スペクトルのホモトピー群

スペクトル $E$ と $n\ge0$、$m\ge0$ に対し、
$$ s_n\colon\pi_m(E_n)\xrightarrow{(\tilde\sigma_n)_*}\pi_m(\Omega E_{n+1})\cong\pi_{m+1}(E_{n+1}) $$
とおく。後ろの同型は ループ空間 の定理「ホモトピー群のずれ」である。整数 $k$ に対し、$n\ge\max(0,2-k)$ にわたる列 $\pi_{k+n}(E_n)\xrightarrow{s_n}\pi_{k+n+1}(E_{n+1})\xrightarrow{s_{n+1}}\cdots$ の帰納極限
$$ \pi_k(E):=\operatorname*{colim}_n\pi_{k+n}(E_n) $$
を $E$ の $k$ 次ホモトピー群という。基点は各 $E_n$ の基点である。

$k+n\ge2$ なので $\pi_{k+n}(E_n)$ はアーベル群で、$s_n$ は準同型である(ホモトピー群 の命題「関手性とホモトピー不変性」と、ずれが群の同型であること)。よって $\pi_k(E)$ はアーベル群であり、$k$ はすべての整数を動く。とくに負の次数のホモトピー群がありうる。

$s_n$ と懸垂準同型

$a\colon(I^m,\partial I^m)\to(E_n,\ast)$ について、$s_n[a]$ は $(u,t)\mapsto\tilde\sigma_n(a(u))(t)=\sigma_n(a(u)\wedge\varepsilon(t))$ の類である。これは懸垂準同型 $E\colon\pi_m(E_n)\to\pi_{m+1}(\Sigma E_n)$、$[a]\mapsto[(u,t)\mapsto a(u)\wedge\varepsilon(t)]$(ホモトピー群 の命題「懸垂準同型とFreudenthalの安定性」)と $(\sigma_n)_*$ の合成である。Hat02 §4.F(p. 454)はこの合成で $\pi_k(E)$ を定めている。

例

懸垂スペクトルと球面スペクトル

基点付き空間 $X$ に対し、$E_n:=\Sigma^nX$、$\sigma_n:=\mathrm{id}\colon\Sigma(\Sigma^nX)\to\Sigma^{n+1}X$ とおいたスペクトルを $X$ の懸垂スペクトル $\Sigma^\infty X$ という。rem-spec-suspension により $s_n$ は懸垂準同型そのものなので、$\pi_k(\Sigma^\infty X)$ は $X$ の安定ホモトピー群 $\pi_k^{\mathrm S}(X)$ である。
$X=S^0$ のとき $\Sigma^nS^0\cong S^n$ であり(スマッシュ積 の命題「球面のスマッシュ積」)、$\mathbb S:=\Sigma^\infty S^0$ を球面スペクトルという。$\pi_k(\mathbb S)$ は球面の安定ホモトピー群で、$k<0$ では $0$ であり(安定ホモトピー群)、$\pi_0(\mathbb S)\cong\mathbb Z$、$\pi_1(\mathbb S)\cong\mathbb Z/2$、$\pi_2(\mathbb S)\cong\mathbb Z/2$、$\pi_3(\mathbb S)\cong\mathbb Z/24$ である(球面のホモトピー群 の節「懸垂と安定ホモトピー群」)。

Eilenberg–MacLane スペクトル

アーベル群 $G$ について、CW 複体である Eilenberg–MacLane空間 $K(G,n)$($n\ge1$。$K(G,0):=G$ は離散空間)と、弱ホモトピー同値 $K(G,n)\to\Omega K(G,n+1)$ を随伴にもつ構造写像をとることができる(Hat02 §4.3、pp. 396–397。$\Omega K(G,n+1)$ が $K(G,n)$ 型であることは ループ空間 の例「Eilenberg–MacLane 空間のループ空間」)。こうして得られる Ω スペクトルを $HG$ と書き、Eilenberg–MacLane スペクトルという。prop-spec-omega-groups により $\pi_0(HG)\cong G$、$k\ne0$ で $\pi_k(HG)=0$ である。$n\ge1$ と CW 複体 $X$ について、$HG$ が thm-spec-cohomology で定める $[X,K(G,n)]_*$ は $G$ 係数の特異コホモロジー $H^n(X;G)$ と自然に一対一に対応する(Hat02 Theorem 4.57、p. 393。この記事では証明しない)。

K 理論のスペクトル

Bott の周期性により、$E_{2i}:=BU\times\mathbb Z$、$E_{2i+1}:=U$ とする Ω スペクトル $KU$ がとれ、これは複素 K 理論を表す(May99 Chapter 24 §2、pp. 207–208。この記事では証明しない)。Bott の周期性から $\pi_k(KU)$ は $k$ が偶数なら $\mathbb Z$、奇数なら $0$ であり、負の次数にも周期的に続く。

Ω スペクトルのホモトピー群

Ω スペクトルのホモトピー群

$E$ を Ω スペクトル、$k$ を整数とする。$n\ge0$、$k+n\ge0$ なら $s_n\colon\pi_{k+n}(E_n)\to\pi_{k+n+1}(E_{n+1})$ は全単射である。したがって $n\ge\max(0,-k)$ なら $\pi_{k+n}(E_n)$ は $\pi_k(E)$ と一対一に対応し、$k+n\ge1$ ならこの対応は群の同型である。

弱ホモトピー同値は、定義によりすべての基点で全次数のホモトピー群の全単射を誘導するので、$(\tilde\sigma_n)_*\colon\pi_m(E_n)\to\pi_m(\Omega E_{n+1})$ は $m\ge0$ で全単射である。ずれ $\pi_m(\Omega E_{n+1})\cong\pi_{m+1}(E_{n+1})$ も全単射なので、$s_n$ は全単射である。$n\ge\max(0,-k)$ から先の $s_n$ がすべて全単射なので、帰納極限への写像 $\pi_{k+n}(E_n)\to\pi_k(E)$ は全単射である。$k+n\ge1$ なら列のすべての項は群で $s_n$ は準同型なので、群の同型である。$\square$

球面スペクトル $\mathbb S$ は Ω スペクトルではない。$\pi_0(E_0)=\pi_0(S^0)$ は 2 点だが、$\pi_0(\mathbb S)\cong\mathbb Z$ は無限集合なので、prop-spec-omega-groups の結論が $k=n=0$ で成り立たない。

主定理:Ω スペクトルが定めるコホモロジー

この節では、基点付き CW 複体とは $0$ 胞体を基点とする CW 複体をいい、$[X,Z]_*$ は基点付きホモトピー類の集合とする(基点付き空間)。次の性質をもつ関手の族 $(h^n)_{n\in\mathbb Z}$ を、基点付き CW 複体の上の被約コホモロジー論という(Hat02 §4.E、p. 448 の形):各 $h^n$ は基点付き CW 複体と基点付き写像の圏からアーベル群の圏への反変関手で、自然な同型 $h^n(X)\cong h^{n+1}(\Sigma X)$ が与えられ、

  1. ホモトピー公理:$f,g\colon X\to Y$ が基点付きホモトピックなら $f^*=g^*$。
  2. 完全性公理:$0$ 胞体である基点を含む部分複体 $A\subset X$ について、包含 $i$ と商写像 $q$ による $h^n(X/A)\xrightarrow{q^*}h^n(X)\xrightarrow{i^*}h^n(A)$ は完全。
  3. 楔公理:ウェッジ和 $X=\bigvee_\alpha X_\alpha$ について、包含 $i_\alpha$ による $(i_\alpha^*)\colon h^n(X)\to\prod_\alpha h^n(X_\alpha)$ は同型。
    これらから対の長完全列が従う(同書 p. 448。この記事では証明しない)。Eilenberg–Steenrodの公理 の記事はホモロジーの側の公理を扱っている。
    Ω スペクトル $E$ に対し、負の添字まで空間を延ばす。$n\ge0$ では $T_n:=E_n$、$\tau_n:=\tilde\sigma_n$ とし、$n<0$ では $T_n:=\Omega^{-n}E_0$、$\tau_n:=\mathrm{id}\colon T_n\to\Omega T_{n+1}$ とする($\Omega T_{n+1}=\Omega\,\Omega^{-n-1}E_0=T_n$)。こうしてすべての $n\in\mathbb Z$ について弱ホモトピー同値 $\tau_n\colon T_n\to\Omega T_{n+1}$ が得られる。
ループ空間への写像の類の群

基点付き空間 $A$、$Z$ について次が成り立つ。

  1. $[A,\Omega Z]_*$ は点ごとのループの連結 $(g\cdot h)(a):=g(a)\cdot h(a)$ によって群になる。基点付き写像 $u\colon A'\to A$ による $u^*[g]:=[g\circ u]$ と、基点付き写像 $v\colon Z\to Z'$ による $(\Omega v)_*$ は準同型である。
  2. $[A,\Omega^2Z]_*=[A,\Omega(\Omega Z)]_*$ には、外側のループの連結による群構造と、$\Omega Z$ の中で点ごとに連結する内側の群構造がある。この 2 つは一致し、アーベル群である。

要点:1 は ループ空間 の定理「ループ空間は H 群」のホモトピーを合成すればよい。2 は、2 つの連結が交換法則を満たし単位元を共有することからの Eckmann–Hilton の議論である。

詳しい証明を開く

1:群の公理は、ループ空間 の定理「ループ空間は H 群」の証明の結合律・単位律・逆元のホモトピーを $g,h$ と合成すれば得られる(同記事の、系「弧状連結成分はすべてホモトピー同値」のあとの説明)。$(g\cdot h)\circ u=(g\circ u)\cdot(h\circ u)$、$v\circ(\alpha\cdot\beta)=(v\circ\alpha)\cdot(v\circ\beta)$ が代表の段階で成り立つので、$u^*$ と $(\Omega v)_*$ は準同型である。

2:ループ空間 の補題「ループ空間への写像の連続性」を 2 回使うと、基点付き写像 $g\colon A\to\Omega^2Z$ は連続写像 $\hat g\colon A\times I\times I\to Z$ で、$(s,t)\in\partial(I\times I)$ または $a=a_0$ のとき基点をとるものと一対一に対応する($\hat g(a,s,t):=g(a)(s)(t)$)。外側の連結 $\cdot_1$ は $s$ の方向に、内側の連結 $\cdot_2$ は $t$ の方向につなぐ。式を書き下すと、代表の段階で交換法則 $(g\cdot_1h)\cdot_2(g'\cdot_1h')=(g\cdot_2g')\cdot_1(h\cdot_2h')$ が成り立つ(両辺とも正方形を 4 等分し、左下に $g$、右下に $h$、左上に $g'$、右上に $h'$ をおいた写像である)。2 つの群構造の単位元はどちらも定値写像の類 $e$ である。よって類について$$x\cdot_2y=(x\cdot_1e)\cdot_2(e\cdot_1y)=(x\cdot_2e)\cdot_1(e\cdot_2y)=x\cdot_1y,\qquad x\cdot_2y=(e\cdot_1x)\cdot_2(y\cdot_1e)=(e\cdot_2y)\cdot_1(x\cdot_2e)=y\cdot_1x$$であり、2 つの演算は一致して可換である。$\square$

基点付き CW 複体 $X$ について、$(\tau_n)_*\colon[X,T_n]_*\to[X,\Omega T_{n+1}]_*$ は全単射である(弱ホモトピー同値は CW 複体からの基点付きホモトピー類の全単射を誘導する。Hat02 Proposition 4.22、p. 357。基点を止めない類についての証明は Whiteheadの定理 の定理「弱ホモトピー同値とホモトピー類」)。そこで
$$ E^n(X):=[X,T_n]_* $$
とおき、$(\tau_n)_*$ によって lem-spec-groups の 1 の群構造を移す。基点付き写像 $f\colon X\to Y$ には $f^*[g]:=[g\circ f]$ を対応させる。懸垂の写像を
$$ \mathsf s\colon E^n(X)\xrightarrow{(\tau_n)_*}[X,\Omega T_{n+1}]_*\cong[\Sigma X,T_{n+1}]_*=E^{n+1}(\Sigma X) $$
で定める(後ろの全単射は随伴。$\Sigma X$ も基点付き CW 複体である)。

Ω スペクトルが定めるコホモロジー論

$E$ を Ω スペクトルとする。上の $E^n$($n\in\mathbb Z$)は基点付き CW 複体の圏からアーベル群の圏への反変関手で、$\mathsf s$ は自然な群の同型であり、ホモトピー公理・完全性公理・楔公理を満たす。すなわち $(E^n,\mathsf s)$ は基点付き CW 複体の上の被約コホモロジー論である。

アーベル群であること. $\Omega\tau_{n+1}$ は弱ホモトピー同値である。実際、ずれの同型(ループ空間 の定理「ホモトピー群のずれ」)は写像と可換なので、定値ループの成分では $\Omega\tau_{n+1}$ はホモトピー群の全単射を誘導する。ループ $\omega$ を左からつなぐ写像 $\alpha\mapsto\omega\cdot\alpha$ はホモトピー同値で(同記事の系「弧状連結成分はすべてホモトピー同値」)、$\Omega\tau_{n+1}(\omega\cdot\alpha)=\Omega\tau_{n+1}(\omega)\cdot\Omega\tau_{n+1}(\alpha)$ なので、ほかの成分でも同じである。よって $(\Omega\tau_{n+1})_*\colon[X,\Omega T_{n+1}]_*\to[X,\Omega^2T_{n+2}]_*$ は全単射で、lem-spec-groups の 1 により準同型である。lem-spec-groups の 2 により右辺はアーベル群なので、$E^n(X)$ もアーベル群である。
関手であること・ホモトピー公理. $f^*$ は $(\tau_n)_*$ と可換で($\tau_n\circ g\circ f$ はどちらから計算しても同じ)、lem-spec-groups の 1 により準同型である。$(g\circ f)^*=f^*\circ g^*$ は明らかで、基点付きホモトピー $f\simeq f'$ を $g$ と合成すれば $g\circ f\simeq g\circ f'$ なので $f^*=f'^*$ である。
完全性公理. $q\circ i$ は定値写像なので $i^*q^*$ は $0$ への写像である。逆に $g\colon X\to T_n$ について、$g\circ i$ から定値写像への基点付きホモトピー $h\colon A\times I\to T_n$ があるとする。CW 対はホモトピー拡張性質をもつので(Whiteheadの定理 の命題「CW 対のホモトピー拡張性質」)、$G(\cdot,0)=g$、$G|_{A\times I}=h$ となる $G\colon X\times I\to T_n$ がある。基点は $A$ に含まれ $h$ は基点を止めるので、$G$ は基点付きホモトピーである。$G(\cdot,1)$ は $A$ を基点に写すので、商写像の性質から $G(\cdot,1)=\bar g\circ q$ となる基点付き写像 $\bar g\colon X/A\to T_n$ があり、$[g]=q^*[\bar g]$ である。
楔公理. ウェッジ和は非交和 $\bigsqcup_\alpha X_\alpha$ の商空間なので、基点付き写像 $\bigvee_\alpha X_\alpha\to T_n$ は基点付き写像の族 $(X_\alpha\to T_n)_\alpha$ と一対一に対応する。$I$ は局所コンパクト Hausdorff なので商写像に $\mathrm{id}_I$ を掛けたものも商写像であり(Whitehead の補題、錐(位相) の注意「Whiteheadの補題の扱い」)、基点付きホモトピーについても同じ対応がある。よって $(i_\alpha^*)$ は全単射で、点ごとの演算と可換なので準同型である。
懸垂の同型. $\mathsf s$ は全単射の合成で、$X$ について自然である。準同型であることを示す。随伴 $\alpha_Z\colon[\Sigma X,Z]_*\cong[X,\Omega Z]_*$ は $\alpha_Z(h)(x)(t)=h(x\wedge\varepsilon(t))$ で与えられ、$Z$ について自然である:$\alpha_{\Omega T_{n+2}}\circ(\tau_{n+1})_*=(\Omega\tau_{n+1})_*\circ\alpha_{T_{n+1}}$。$E^{n+1}(\Sigma X)$ の群構造は $(\tau_{n+1})_*$ で $[\Sigma X,\Omega T_{n+2}]_*$ の点ごとの連結から移したもので、$\alpha_{\Omega T_{n+2}}$ はこれを $[X,\Omega^2T_{n+2}]_*$ の内側の連結にうつす。よって $\Psi:=\alpha_{\Omega T_{n+2}}\circ(\tau_{n+1})_*$ は $E^{n+1}(\Sigma X)$ から内側の連結についての $[X,\Omega^2T_{n+2}]_*$ への同型で、
$$ \Psi\circ\mathsf s=(\Omega\tau_{n+1})_*\circ(\tau_n)_* $$
である。右辺は $E^n(X)$ から外側の連結についての $[X,\Omega^2T_{n+2}]_*$ への準同型であり(lem-spec-groups の 1)、lem-spec-groups の 2 により 2 つの連結は一致する。よって $\mathsf s$ は準同型である。$\square$

Hat02 Theorem 4.58(p. 397)と May99 Chapter 22 §2(p. 178)が同じ主張を述べている。逆に、基点付き CW 複体の上の被約コホモロジー論はすべてこの形で Ω スペクトルから得られる(Brownの表現可能性定理 の定理「コホモロジー論と Ω スペクトル」)。ホモロジーの側では、各 $E_n$ が CW 複体であるスペクトル $E$ と基点付き CW 複体 $X$ について $\pi_k(X\wedge E)$($(X\wedge E)_n:=X\wedge E_n$)が被約ホモロジー論を与え、$E=\Sigma^\infty S^0$ のとき安定ホモトピー群になる(Hat02 Proposition 4F.2、p. 454。この記事では証明しない)。

∞圏での見方

$\infty$ 圏 $\mathcal C$ が有限極限をもつとき、そのスペクトル対象の∞圏 $\mathrm{Sp}(\mathcal C)$ は、点付き対象の∞圏 $\mathcal C_*$ とループ関手 $\Omega\colon\mathcal C_*\to\mathcal C_*$ の塔
$$ \cdots\xrightarrow{\Omega}\mathcal C_*\xrightarrow{\Omega}\mathcal C_*\xrightarrow{\Omega}\mathcal C_* $$
の極限と同一視される(Lur17 Definition 1.4.2.8、Proposition 1.4.2.24 と Remark 1.4.2.25、pp. 142–147)。空間の∞圏 $\mathcal S$ に当てたものがスペクトルの∞圏 $\mathrm{Sp}:=\mathrm{Sp}(\mathcal S)$ であり(同書 Definition 1.4.3.1、p. 150)、その対象は点付き空間の列 $X(0),X(1),\dots$ と同値 $X(n)\simeq\Omega X(n+1)$ の組、すなわち Ω スペクトルにあたる。$\mathrm{Sp}$ は安定∞圏で(同書 Corollary 1.4.2.17、p. 146)、そのホモトピー圏は古典的な安定ホモトピー圏と同一視される(同書 Remark 1.4.3.2、p. 150)。$0$ 番目の空間をとる関手 $\Omega^\infty\colon\mathrm{Sp}\to\mathcal S$ は左随伴 $\Sigma^\infty_+$ をもち(同書 Proposition 1.4.4.4、p. 156)、これが空間からスペクトルへの安定化である。点付き空間の∞圏そのものは安定でない(安定∞圏 の命題「点付き空間は安定でない」)。この節の主張はこの記事では証明しない。

反例の表

外す条件反例成り立たなくなること
構造写像の随伴が弱ホモトピー同値(Ω スペクトル)球面スペクトル $\mathbb S=\Sigma^\infty S^0$$\pi_{k+n}(E_n)\to\pi_k(E)$ が全単射(prop-spec-omega-groups、$k=n=0$)
構造写像の随伴が弱ホモトピー同値(Ω スペクトル)$E_n:=K(\mathbb Z,n)$($E_0:=\mathbb Z$)と定値の構造写像$\mathsf s\colon E^0(S^0)\to E^1(S^1)$ が同型(thm-spec-cohomology)
反例:表の各行の確かめ
確かめを開く

1 行目は prop-spec-omega-groups のあとの説明による。

2 行目:構造写像が定値なので随伴 $\tilde\sigma_n$ も定値写像である。$E^0(S^0)=[S^0,\mathbb Z]_*$ は $\mathbb Z$ と一対一に対応し、$E^1(S^1)=[S^1,K(\mathbb Z,1)]_*=\pi_1(K(\mathbb Z,1))\cong\mathbb Z$ である。$\mathsf s$ は定値写像 $\tilde\sigma_0$ との合成を経由するので、すべての元を基点に送り、同型でない。$\tilde\sigma_0\colon\mathbb Z\to\Omega K(\mathbb Z,1)$ は定値写像なので $\pi_0$ の全単射を誘導せず、Ω スペクトルの条件を満たさない。

関連項目

参考文献

Mathpediaは寄付と、参考文献の書籍リンク(Amazonアソシエイト)の紹介料で運営されています。 支援について / 寄付する