重心細分

同義語:barycentric subdivision細分(単体複体)subdivision (simplicial complex)

概要

重心細分(barycentric subdivision)とは、単体複体 $K$ の単体の鎖 $\sigma_0\subsetneq\sigma_1\subsetneq\cdots\subsetneq\sigma_k$ ごとに、各 $\sigma_i$ の重心を頂点とする単体をとって得られる細分 $\operatorname{sd}K$ である。$\operatorname{sd}K$ はふたたび単体複体で、多面体は $K$ と同じである。$n$ 単体の重心細分の各単体の直径は元の $\frac{n}{n+1}$ 倍以下で、この比は単体の形によらないため、有限単体複体の重心細分を繰り返すと単体はいくらでも小さくなる。これが単体近似定理と特異ホモロジーの切除定理を支え、単体的集合でも Kan の $\operatorname{sd}$ として現れる。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 単体複体, 重心座標, 半順序集合

三角形の各辺の中点と三角形の重心をとり、重心から 3 頂点と 3 つの中点へ線分を引くと、三角形は 6 つの小さな三角形に分かれる。重心細分(barycentric subdivision)は、この分け方をすべての次元の単体と単体複体に広げた操作である。重心細分は、次の二つの性質をもつことで位相幾何学の基本的な道具になっている。第一に、分け方が組合せ的に決まる:細分の頂点は元の単体複体の単体(の重心)で、細分の単体は単体の鎖 $\sigma_0\subsetneq\sigma_1\subsetneq\cdots$ である。第二に、分けるたびに単体が一様に小さくなる:$n$ 単体の重心細分の単体の直径は、元の直径の $\frac{n}{n+1}$ 倍以下で、この比は単体の形によらない。第二の性質から、細分を繰り返せば単体をいくらでも小さくでき、これが単体近似定理と特異ホモロジーの切除定理の証明を支える。第一の性質は、単体的集合の重心細分(Kan の $\operatorname{sd}$)として組合せ的に抜き出され、単体的集合のホモトピー論でも同じ役割を果たす。

重心と重心細分

以下、単体・単体複体・多面体の用語は単体複体の記事にしたがう。単体 $\sigma$ の頂点の個数を $\#\sigma$ と書く($n$ 単体なら $\#\sigma=n+1$)。

重心と重心細分

単体 $\sigma=[v_0,\dots,v_n]$ の重心を $b(\sigma):=\frac{1}{n+1}\sum_{i=0}^nv_i$(重心座標がすべて $\frac1{n+1}$ の点)とする。$\mathbb{R}^N$ の幾何的単体複体 $K$ について、$K$ の単体の真に増大する列(鎖)$\sigma_0\subsetneq\sigma_1\subsetneq\cdots\subsetneq\sigma_k$ ごとに単体
$$ [b(\sigma_0),b(\sigma_1),\dots,b(\sigma_k)] $$
をとり(鎖に現れる単体の個数 $k+1$ を鎖の長さという)、その全体を $K$ の重心細分といい $\operatorname{sd}K$ と書く(これが実際に単体であることは lem-bs-chain-simplex で示す)。$\operatorname{sd}$ を $r$ 回繰り返したものを $\operatorname{sd}^rK$ と書く。

抽象単体複体 $K$ については、$K$ の単体を頂点とし、単体の空でない有限の鎖を単体とする抽象単体複体を $\operatorname{sd}K$ とする。これは $K$ の単体全体を包含関係で順序づけた半順序集合(面の半順序集合)の順序複体(単体複体 の例「半順序集合の順序複体」)であり、幾何的単体複体の重心細分の頂点図式に一致する(頂点 $b(\sigma)$ を $\sigma$ と読みかえる)。
重心細分は、次の意味の細分の代表例である。

単体複体の細分

$\mathbb{R}^N$ の幾何的単体複体 $K'$、$K$ について、$|K'|=|K|$(集合として)であり、$K'$ の各単体は $K$ のある単体に含まれ、$K$ の各単体は $K'$ の有限個の単体の和集合であるとき、$K'$ を $K$ の細分(subdivision)という。

このとき 2 つの弱位相は一致する:$F\subset|K|$ について、$K$ の弱位相で閉なら、$\sigma'\in K'$ を含む $\sigma\in K$ をとって $F\cap\sigma'=(F\cap\sigma)\cap\sigma'$ は閉であり、逆に $K'$ の弱位相で閉なら、$F\cap\sigma$ は有限個の閉集合 $F\cap\sigma'$ の和なので閉である。また、$K'$ の閉単体の族は $K$ の閉単体の族の(被覆としての)細分になっている。

線分と三角形の重心細分

線分 $[v_0,v_1]$ の面は $\{v_0\},\{v_1\},[v_0,v_1]$ で、極大な鎖は $\{v_0\}\subsetneq[v_0,v_1]$ と $\{v_1\}\subsetneq[v_0,v_1]$ の 2 つなので、重心細分は中点 $m$ で分けた 2 本の線分 $[v_0,m]$、$[m,v_1]$ である。三角形 $[v_0,v_1,v_2]$ では、頂点 3 個・辺 3 本・三角形 1 個の計 7 個の面の重心が $\operatorname{sd}$ の頂点になり、極大な鎖「頂点 $\subsetneq$ 辺 $\subsetneq$ 三角形」は 6 個あるので、三角形は 6 個の小三角形に分かれる。辺は、2 つの面からなる鎖(頂点 $\subsetneq$ 辺が 6 本、頂点 $\subsetneq$ 三角形が 3 本、辺 $\subsetneq$ 三角形が 3 本)の 12 本である。Euler 標数は $7-12+6=1$ で、元の三角形の $3-3+1=1$ と一致する。

標準単体の重心細分の単体の個数

$n$ 単体 $\sigma$ の面の全体の重心細分は、頂点を $2^{n+1}-1$ 個、$n$ 単体を $(n+1)!$ 個もつ。

頂点は $\sigma$ の面、すなわち $n+1$ 個の頂点の空でない部分集合で、$2^{n+1}-1$ 個ある。$n$ 単体は長さ $n+1$ の鎖 $\sigma_0\subsetneq\cdots\subsetneq\sigma_n$ で、各 $\sigma_k$ は $k+1$ 個の頂点をもつ。このような鎖は、$\sigma_0$ の頂点、$\sigma_1\setminus\sigma_0$ の頂点、…と、頂点を付け加える順番($n+1$ 個の頂点の並べ方)と 1 対 1 に対応するので、$(n+1)!$ 個ある。$\square$

重心細分は単体複体の細分である

鍵になるのは、単体の点の重心座標を大きい順に並べると、その点を含む重心細分の単体がわかることである。$x\in|K|$ の重心座標の相異なる正の値を $c_1>c_2>\cdots>c_m>0$ とし、$\tau_j:=\{v\mid t_v(x)\ge c_j\}$($t_v(x)$ は $x$ の頂点 $v$ に関する重心座標)が張る単体を同じ文字で書く。$\tau_1\subsetneq\tau_2\subsetneq\cdots\subsetneq\tau_m$ は鎖で、$\tau_m$ は $x$ の台である。この鎖を $x$ の水準の鎖といい $C(x)$ と書く。

水準の鎖による表示

上の記号で、$c_{m+1}:=0$ とおくと
$$ x=\sum_{j=1}^m(c_j-c_{j+1})\,\#\tau_j\;b(\tau_j) $$
であり、右辺の係数はすべて正で、和は $1$ である。

右辺の頂点 $v$ の係数を求める。$v\in\tau_j\setminus\tau_{j-1}$($\tau_0:=\emptyset$)なら $t_v(x)=c_j$ で、$v$ は $\tau_j,\tau_{j+1},\dots,\tau_m$ に属し、$b(\tau_l)$ の中の $v$ の係数は $1/\#\tau_l$ なので、右辺の $v$ の係数は $\sum_{l\ge j}(c_l-c_{l+1})=c_j=t_v(x)$ である。$\tau_m$ に属さない頂点の係数は両辺とも $0$ である。よって両辺は等しい。係数 $(c_j-c_{j+1})\#\tau_j$ は正で、和は $x$ の重心座標の和 $1$ に等しい(両辺の頂点の係数の和を比べる)。$\square$

鎖の重心が張る単体

$\sigma_0\subsetneq\cdots\subsetneq\sigma_k$ を $K$ の単体の鎖とする。
(R1) $b(\sigma_0),\dots,b(\sigma_k)$ はアフィン独立である。
(R2) $x\in|K|$ が $[b(\sigma_0),\dots,b(\sigma_k)]$ に属するための必要十分条件は、水準の鎖 $C(x)$ の単体がすべて $\{\sigma_0,\dots,\sigma_k\}$ に属することである。$x$ がこの単体の開単体に属するのは、$C(x)=\{\sigma_0,\dots,\sigma_k\}$ のときに限る。

実数 $s_0,\dots,s_k$ に対し $y:=\sum_js_jb(\sigma_j)=\sum_v\bigl(\sum_{l:\,v\in\sigma_l}s_l/\#\sigma_l\bigr)v$ である。$v\in\sigma_j\setminus\sigma_{j-1}$($\sigma_{-1}:=\emptyset$)の係数は $T_j:=\sum_{l\ge j}s_l/\#\sigma_l$ で、$T_j-T_{j+1}=s_j/\#\sigma_j$($T_{k+1}:=0$)である。
(i):$\sum_j\lambda_jb(\sigma_j)=0$、$\sum_j\lambda_j=0$ とする。上の式で $s=\lambda$ とすると、$\sigma_k$ の頂点の 1 次結合 $\sum_vT_{j(v)}v$($j(v)$ は $v\in\sigma_j\setminus\sigma_{j-1}$ となる $j$)が $0$ で係数の和 $\sum_j\lambda_j$ が $0$ なので、頂点のアフィン独立性からすべての $T_j=0$ であり、$\lambda_j=\#\sigma_j(T_j-T_{j+1})=0$ である。
(ii):$x=\sum_js_jb(\sigma_j)$($s_j\ge0$、$\sum s_j=1$)とすると、$x$ の重心座標は $\sigma_j\setminus\sigma_{j-1}$ の上で $T_j$、$\sigma_k$ の外で $0$ であり、$T_0\ge T_1\ge\cdots\ge T_k\ge0$ である。$s_j>0$ となる $j$ について、$T_j>T_{j+1}$ なので $\{v\mid t_v(x)\ge T_j\}=\sigma_j$ であり、正の値 $T_l$ はどれも、$l$ 以上で最初に $s_j>0$ となる $j$ の $T_j$ に等しい。したがって $C(x)=\{\sigma_j\mid s_j>0\}$ で、これは $\{\sigma_0,\dots,\sigma_k\}$ に含まれる。逆に $C(x)\subset\{\sigma_0,\dots,\sigma_k\}$ なら、lem-bs-level-chain の表示は $x$ を $b(\sigma_j)$ の正の係数の凸結合で表すので、$x$ はこの単体に属する。開単体に属することはすべての $s_j>0$ ということなので、(i) による係数の一意性から、$C(x)=\{\sigma_0,\dots,\sigma_k\}$ と同値である。$\square$

重心細分は単体複体の細分である

$K$ を $\mathbb{R}^N$ の幾何的単体複体とする。$\operatorname{sd}K$ は幾何的単体複体であり、$K$ の細分である。とくに $|\operatorname{sd}K|=|K|$ で、2 つの弱位相は一致する。抽象単体複体 $K$ については、頂点 $\sigma$ を重心 $b(\sigma)$ へ送り各単体の上でアフィンに拡張した写像 $h\colon|\operatorname{sd}K|\to|K|$ が同相写像である。

lem-bs-chain-simplex の (i) により、鎖ごとの $[b(\sigma_0),\dots,b(\sigma_k)]$ は $k$ 単体で、その面は部分鎖の単体なので、$\operatorname{sd}K$ は面で閉じている。鎖 $A$、$B$ の単体の共通部分は、(ii) により「$C(x)\subset A\cap B$ となる $x$ の全体」であり、$A\cap B$ が空でなければこれは部分鎖 $A\cap B$ の単体、すなわち両者の共通の面で、$A\cap B$ が空なら($C(x)$ は空でないので)空集合である。よって $\operatorname{sd}K$ は幾何的単体複体である。
細分であること:各 $x\in|K|$ は、水準の鎖の単体 $[C(x)]$ に属する((ii))。鎖 $\sigma_0\subsetneq\cdots\subsetneq\sigma_k$ の単体は $\sigma_k$ に含まれる(重心はすべて $\sigma_k$ の点で、$\sigma_k$ は凸)。$\sigma\in K$ の点 $x$ の水準の鎖は $\sigma$ の面からなるので、$\sigma$ は $\sigma$ の面の鎖(有限個)の単体の和集合である。したがって $\operatorname{sd}K$ は $K$ の細分で、def-bs-subdivision の後の注意により弱位相は一致する。
抽象単体複体 $K=(V,S)$ の場合は、その実現 $|K|\subset\mathbb{R}^{(V)}$ の単体の族に同じ議論を当てはめる(証明は単体の中の重心座標しか使わない)。$\operatorname{sd}K$ の頂点図式は面の半順序集合の順序複体なので、単体複体 の定理「頂点図式の実現は元の多面体と同相」により $h$ は同相写像である。$\square$

$\operatorname{sd}K$ の次元は $K$ の次元と等しい(長さ $k+1$ の鎖は $k$ 次元以上の単体で終わり、$n$ 単体からは長さ $n+1$ の鎖がとれる)。有限単体複体の重心細分は有限である。したがって $\operatorname{sd}^rK$ も $K$ の細分で、$|\operatorname{sd}^rK|=|K|$ である。

直径の評価

$\mathbb{R}^N$ の部分集合 $A$ の直径を $\operatorname{diam}A:=\sup\{\|x-y\|\mid x,y\in A\}$ とし、有限な幾何的単体複体 $K$ の単体の直径の最大値を $K$ の網目(mesh)といい $\operatorname{mesh}K$ と書く。

単体の直径は頂点の間の距離の最大値

単体 $\sigma=[v_0,\dots,v_n]$ と点 $p\in\mathbb{R}^N$ について $\max_{y\in\sigma}\|p-y\|=\max_i\|p-v_i\|$ である。とくに $\operatorname{diam}\sigma=\max_{i,j}\|v_i-v_j\|$ である。

$y=\sum_it_iv_i\in\sigma$ について
$$ \|p-y\|=\Bigl\|\sum_it_i(p-v_i)\Bigr\|\le\sum_it_i\|p-v_i\|\le\max_i\|p-v_i\| $$
である(Hat02 §2.1, p. 120)。後半は、$x,y\in\sigma$ についてまず $p=x$ として $\|x-y\|\le\max_i\|x-v_i\|$、次に各 $i$ で $p=v_i$ として $\|v_i-x\|\le\max_j\|v_i-v_j\|$ を使えばよい。$\square$

重心細分の直径の評価

$\sigma$ を $n$ 単体とする。$\sigma$ の面の全体の重心細分の各単体 $\tau$ について
$$ \operatorname{diam}\tau\le\frac{n}{n+1}\operatorname{diam}\sigma $$
が成り立つ。

$n$ についての帰納法による(Hat02 §2.1, p. 120 の証明)。$n=0$ では $\tau=\sigma$ は 1 点で、両辺は $0$ である。$n\ge1$ とし、$n$ より小さい次元では正しいとする。$\tau=[b(\sigma_0),\dots,b(\sigma_k)]$ とし、lem-bs-diam-vertices により、$\tau$ の 2 頂点 $b(\sigma_i)$、$b(\sigma_j)$($i< j$)の距離が $\frac{n}{n+1}\operatorname{diam}\sigma$ 以下であることを示せばよい。
$\sigma_j\ne\sigma$ の場合:2 点はともに真の面 $\sigma_j$(次元 $m< n$)の重心細分の単体 $[b(\sigma_0),\dots,b(\sigma_j)]$ に属するので、帰納法の仮定から距離は $\frac{m}{m+1}\operatorname{diam}\sigma_j\le\frac{n}{n+1}\operatorname{diam}\sigma$ 以下である($\frac{m}{m+1}$ は $m$ について増加し、$\sigma_j\subset\sigma$)。
$\sigma_j=\sigma$ の場合:$b:=b(\sigma)$ とすると、$b(\sigma_i)\in\sigma$ なので、lem-bs-diam-vertices で $p=b$ として $\|b-b(\sigma_i)\|\le\max_l\|b-v_l\|$ である。各頂点 $v_l$ について、$v_l$ を除いた $n$ 個の頂点の重心を $b_l$ とすると
$$ b=\frac{1}{n+1}v_l+\frac{n}{n+1}b_l,\qquad\text{したがって}\qquad \|b-v_l\|=\frac{n}{n+1}\|b_l-v_l\|\le\frac{n}{n+1}\operatorname{diam}\sigma $$
である($b_l\in\sigma$)。よって距離は $\frac{n}{n+1}\operatorname{diam}\sigma$ 以下である。$\square$

比 $\frac{n}{n+1}$ が単体の形によらないことが要点である。重心細分を繰り返すと、さまざまな形の単体が現れるが、どの単体にも同じ評価が使える。

反復した重心細分の網目

$K$ を次元 $n$ 以下の有限な幾何的単体複体とする。任意の $r\ge0$ について
$$ \operatorname{mesh}(\operatorname{sd}^rK)\le\Bigl(\frac{n}{n+1}\Bigr)^r\operatorname{mesh}K $$
であり、とくに任意の $\varepsilon>0$ に対し $\operatorname{mesh}(\operatorname{sd}^rK)<\varepsilon$ となる $r$ がある。

$\operatorname{sd}K$ の単体 $[b(\sigma_0),\dots,b(\sigma_k)]$ は、$\sigma_k$(次元 $m\le n$)の面の全体の重心細分の単体なので、thm-bs-diameter により直径は $\frac{m}{m+1}\operatorname{diam}\sigma_k\le\frac{n}{n+1}\operatorname{mesh}K$ 以下である。$\operatorname{sd}K$ も次元 $n$ 以下の有限単体複体なので、これを $r$ 回繰り返せばよい。$\bigl(\frac{n}{n+1}\bigr)^r\to0$($r\to\infty$)から後半が従う。$\square$

比 n/(n+1) は改善できない

$n\ge1$、$0<\varepsilon<1$ とし、$\mathbb{R}^n$ の標準基底を $e_1,\dots,e_n$ として、$v_0:=0$、$v_1:=e_1$、$v_i:=e_1+\varepsilon e_i$($2\le i\le n$)とおく。これらはアフィン独立で、$n\ge2$ なら $\sigma_\varepsilon:=[v_0,\dots,v_n]$ の直径は $\sqrt{1+\varepsilon^2}$ である($n=1$ では $\sigma_\varepsilon=[0,e_1]$ で直径は $1$ であり、下の比はちょうど $\frac12$ になる)(lem-bs-diam-vertices:$\|v_i-v_0\|\le\sqrt{1+\varepsilon^2}$、$\|v_i-v_j\|\le\sqrt2\,\varepsilon$)。鎖 $\{v_0\}\subsetneq\sigma_\varepsilon$ の辺 $[v_0,b(\sigma_\varepsilon)]$ は重心細分の単体で、その長さは
$$ \|b(\sigma_\varepsilon)-v_0\|=\frac{n}{n+1}\|b_0\|=\frac{n}{n+1}\sqrt{1+\frac{(n-1)\varepsilon^2}{n^2}} $$
である($b_0=e_1+\frac{\varepsilon}{n}\sum_{i\ge2}e_i$ は $v_1,\dots,v_n$ の重心)。したがって比 $\|b(\sigma_\varepsilon)-v_0\|/\operatorname{diam}\sigma_\varepsilon$ は $\varepsilon\to0$ で $\frac{n}{n+1}$ に近づき、thm-bs-diameter の定数はどの $n$ でもこれより小さくできない。一方、正三角形(1 辺 $1$)では重心細分の単体の直径は頂点と重心の距離 $1/\sqrt3\approx0.577$ で、比は $\frac23$ より小さい。

反例

外す条件反例成り立たなくなること
分点を重心にとること$[0,1]$ を毎回左端のすぐ近くで分ける繰り返すと網目が $0$ に近づくこと
有限であること頂点 $\pm k^2$($k\ge0$)による実数直線の分割単体の直径の上限が $0$ に近づくこと
反例:重心以外の点で分ける

線分 $[0,1]$ を、$r$ 回目に「いちばん長い線分をその左端から $2^{-r-2}$ の点で 2 つに分ける」細分を考える($r=1,2,\dots$)。どの段階でも右端 $1$ を含む線分の長さは $1-\sum_{r\ge1}2^{-r-2}\ge\frac34$ 以上に保たれる(右端の線分は毎回長さ $2^{-r-2}$ しか削られない)。したがって網目は $\frac34$ 以上のままで $0$ に近づかない。各段階は細分であり、満たす性質は「単体複体の細分である」、満たさない性質は「分点が重心である」、破れる含意は「細分を繰り返せば網目が $0$ に近づく」である。thm-bs-diameter の証明は、分点 $b$ が $v_l$ と対面の重心 $b_l$ を $n:1$ に内分することを使っていた。

反例:無限単体複体

実数直線を頂点 $k^2$($k\in\mathbb{Z}_{\ge0}$)と $-k^2$ で区切った 1 次元単体複体 $K$ の辺 $[k^2,(k+1)^2]$ の長さは $2k+1$ で、有界でない。$\operatorname{sd}^rK$ の辺の長さは $(2k+1)/2^r$ で、どの $r$ でも辺の長さの上限は $\infty$ である。したがって、単体の直径の上限が $0$ に近づくことは、有限性(あるいは直径の有界性)なしには成り立たない。満たす性質は「$1$ 次元の単体複体である」、満たさない性質は「有限である」である。この違いは、単体近似定理 で定義域を有限単体複体とする理由の一つである(同記事の例「反例:有限でない定義域」)。

距離の選び方によらないこと

有限単体複体 $K$ の多面体はコンパクトなので、位相を与える任意の距離 $d$ について、$\operatorname{mesh}(\operatorname{sd}^rK)\to0$ から $d$ で測った単体の直径の最大値も $0$ に近づく(コンパクト距離空間の間の恒等写像 $(|K|,\|\cdot\|)\to(|K|,d)$ は一様連続だから)。したがって「十分細かい重心細分」は距離の選び方によらない概念である。

単体的集合の重心細分

重心細分の組合せ的な部分、すなわち「頂点は単体、単体は単体の鎖」という記述は、単体的集合にもそのまま移せる。以下は Jardine の論文 Jar04 による(この記事では証明しない)。

  • 標準単体 $\Delta^n$ の空でない面($\{0,1,\dots,n\}$ の空でない部分集合)の半順序集合の脈体を $\operatorname{sd}\Delta^n$ とする。その非退化な単体は面の鎖で、thm-bs-subdivision の順序複体と同じものである(Jar04 §2, p. 40)。
  • 一般の単体的集合 $X$ の重心細分を、$X$ の単体 $\Delta^n\to X$ 全体にわたる余極限 $\operatorname{sd}X:=\operatorname{colim}_{\Delta^n\to X}\operatorname{sd}\Delta^n$ で定める。$\operatorname{sd}\Delta^n$ の頂点($\Delta^n$ の面)をその最大の頂点へ送る写像から作られる最後の頂点写像 $\gamma\colon\operatorname{sd}X\to X$ が自然に定まる(Jar04 §2, pp. 39–40)。
  • 頂点 $\sigma$ を重心 $b(\sigma)$ へ送るアフィン写像 $h\colon|\operatorname{sd}\Delta^n|\to|\Delta^n|$ は同相写像で、直線ホモトピーで $|\gamma|$ とホモトピックである(Jar04 §2, p. 42)。$\gamma$ は $h$ の単体近似である(Jar04 §3, p. 43。単体近似定理 の例「最後の頂点写像」)。
  • $\operatorname{sd}$ は右随伴 $\operatorname{Ex}$($(\operatorname{Ex}X)_n:=\operatorname{Hom}(\operatorname{sd}\Delta^n,X)$)をもち(Jar04 §6, p. 61)、$\gamma$ の随伴 $X\to\operatorname{Ex}X$ を繰り返した余極限 $\operatorname{Ex}^\infty X$ は Kan複体 で、$X\to\operatorname{Ex}^\infty X$ は弱同値である(Jar04 Lemma 7.9, Theorem 7.10, p. 69)。
    位相版(多面体・空間)単体版(単体的集合)
    細分$\operatorname{sd}K$(幾何的な細分、$\lvert\operatorname{sd}K\rvert=\lvert K\rvert$)$\operatorname{sd}X$(面の鎖の脈体の余極限)
    元との比較同相写像 $h$最後の頂点写像 $\gamma$($\lvert\gamma\rvert\simeq h$)
    近似定理単体近似定理(有限単体複体、$\operatorname{sd}^r$ の反復)$\operatorname{Ex}^\infty$ による Kan 複体への置き換え
    ホモロジー特異鎖の細分作用素と切除定理単体的集合のホモロジー
    特異ホモロジーでは、特異単体を重心細分の単体の符号付きの和に置き換える細分作用素が、線形な特異単体についての帰納的な式 $S(\lambda)=b_\lambda(S\partial\lambda)$($b_\lambda$ は重心を頂点とする錐)で定義される。これが恒等写像と鎖ホモトピックであることと cor-bs-mesh とを合わせて、任意の特異鎖が「小さい」特異単体の鎖にホモロジー同値に取り替えられる(Hat02 Proposition 2.21, pp. 119–124)。これが切除定理(特異ホモロジー)の証明の中心である。

関連項目

参考文献

[2]
J. F. Jardine, Simplicial approximation, Theory and Applications of Categories, 2004, 34–72(§2 pp. 39–42:sd X・最後の頂点写像・|sd K| と |K| の同相、§3 p. 43、§6 p. 61:Ex、Lemma 7.9・Theorem 7.10 p. 69:Ex^∞)

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