Matsumoto–Titsの定理

同義語:Matsumoto-Titsの定理Matsumoto–Tits theorem

概要

Matsumoto–Titsの定理(Matsumoto–Tits theorem)とは、Coxeter系 $(W,S)$ において、同じ元の 2 つの簡約表示が、$sts\cdots=tst\cdots$(両辺とも $m(s,t)$ 文字)の形の組紐変形を有限回施して互いに移り合うという定理である。証明に使うのは、交換条件と、$S$ の 2 元が生成する二面体群での交代語の性質だけである。帰結として、簡約でない語は組紐変形で同じ文字が隣り合う語にできて Coxeter 群の語の問題が解けること、等号を含む交換条件を満たす組が Coxeter 系であること、簡約表示に沿った積が表示の取り方によらないことが従う。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: Coxeter系, 群の表示, 二面体群

Matsumoto–Titsの定理(Matsumoto–Tits theorem)とは、Coxeter系 $(W,S)$ において、同じ元の 2 つの簡約表示は、$sts\cdots=tst\cdots$(両辺とも $m(s,t)$ 文字)の形の置き換えを繰り返すだけで互いに移り合う、という定理である。語の性質(word property)とも呼ばれる。
$W$ の元 $w$ を $S$ の元の積として最短に書く書き方(簡約表示)は一般に一通りではない。たとえば対称群 $S_3$ の最長元は $s_1s_2s_1=s_2s_1s_2$ と二通りに書ける。定理は、簡約表示どうしの違いが、$S$ の 2 元が生成する二面体群の中の関係(組紐関係)だけで説明できることを述べている。ここから、Coxeter 群の語の問題が「組紐関係による置き換えと $ss$ の消去」で解けること、等号を含む交換条件を満たす組が Coxeter 系であること、簡約表示に沿って定めた写像が表示の取り方によらないこと、が従う。

結果内容仮定
lem-mt-dihedral二面体群の交代語の値と長さ$s\ne t$
lem-mt-two-descents左から $s$ でも $t$ でも短くなる元は、長さ $m(s,t)$ の交代語で始まる簡約表示をもつ交換条件
thm-mt-main同じ元の簡約表示は組紐変形で移り合う交換条件
cor-mt-word-problem語が簡約でないなら組紐変形で $ss$ を含む語になる。語の問題の解交換条件(等号を含む形)
cor-mt-coxeter等号を含む交換条件を満たす組は Coxeter 系交換条件(等号を含む形)
cor-mt-monoid簡約表示に沿った積は表示によらないCoxeter 系

設定と記号

この記事では、$W$ を群、$S$ を位数 $2$ の元からなる $W$ の生成系とし、組 $(W,S)$ を考える(Coxeter 系とは限らない)。$s,t\in S$ について $st$ の位数を $m(s,t)\in\{1,2,\dots\}\cup\{\infty\}$ と書く。$m(s,s)=1$、$m(s,t)=m(t,s)$ であり、$s\ne t$ なら $m(s,t)\ge2$ である(Coxeter系 の冒頭)。
$S$ の元の有限列 $\mathbf{s}=(s_1,\dots,s_h)$ を語、$h$ をその長さ、$s_1\cdots s_h\in W$ をその値という。元 $w\in W$ の長さ $\ell(w)$ は $w$ を値にもつ語の長さの最小値であり、長さ $\ell(w)$ の語で値が $w$ のものを $w$ の簡約表示という(Coxeter系 の定義「生成系に関する長さ関数」)。語が簡約であるとは、その値の簡約表示であることをいう。$\ell(w^{-1})=\ell(w)$ であり、$s\in S$ について $\ell(sw)$、$\ell(ws)$ は $\ell(w)-1$ 以上 $\ell(w)+1$ 以下である。語を逆順に読むと値は逆元になるので、簡約表示を逆順に読んだ語は逆元の簡約表示である。
$s\ne t$ と $q\ge0$ について、$s$ と $t$ を交互に並べた長さ $q$ の語を交代語という。$s$ で始まるものを $\langle s,t\rangle_q=(s,t,s,\dots)$ と書く。$\langle t,s\rangle_q$ は $t$ で始まるものである。

組紐変形

$s\ne t$ を $S$ の元で $m=m(s,t)<\infty$ とする。語の中の連続した部分語 $\langle s,t\rangle_m$ を $\langle t,s\rangle_m$ に取り替える操作を組紐変形(braid move)という。$m(s,t)=2$ のときは隣り合う $st$ を $ts$ に替える操作で、これを可換変形ともいう。

$(st)^m=1$ なので組紐変形は値を変えない(lem-mt-dihedral の 3)。長さも変えないので、簡約表示は簡約表示に移る。

交換条件
  1. 組 $(W,S)$ が交換条件を満たすとは、$w\in W$ の任意の簡約表示 $w=s_1\cdots s_h$ と $s\in S$ について、$\ell(ws)<\ell(w)$ ならば $ws=s_1\cdots\widehat{s_i}\cdots s_h$ となる $i$ があることをいう($\widehat{s_i}$ は $s_i$ を除くことを表す)。
  2. 同じ結論を $\ell(ws)\le\ell(w)$ の場合に要求するものを、等号を含む交換条件という。このとき $\ell(ws)=\ell(w)$ は起こらない(右辺の語の長さは $h-1$ である)。これは Coxeter系 の定義「交換条件」と同じものである。

Coxeter 系は等号を含む交換条件を満たす。実際、Coxeter系 の定理「強交換条件」の $t=s\in S$ の場合から $\ell(ws)<\ell(w)$ のときの結論が得られ、同じ記事の補題「鏡映を右から掛けたときの長さの変化」の証明にあるとおり Coxeter 系では $\ell(ws)\ne\ell(w)$ である。2 つの形の違いは rem-mt-weak-exchange で述べる。

左からの交換

$(W,S)$ が交換条件を満たすとする。$w=s_1\cdots s_h$ を簡約表示、$s\in S$ を $\ell(sw)<\ell(w)$ となる元とすると、$sw=s_1\cdots\widehat{s_i}\cdots s_h$ となる $i$ がある。また、$\ell(sw)<\ell(w)$ なら(交換条件を仮定しなくても)$w$ は $s$ で始まる簡約表示をもつ。

$w^{-1}=s_h\cdots s_1$ は簡約表示で、$\ell(w^{-1}s)=\ell((sw)^{-1})=\ell(sw)<\ell(w)=\ell(w^{-1})$ である。交換条件により $w^{-1}s=s_h\cdots\widehat{s_i}\cdots s_1$ となる $i$ があり、両辺の逆元をとると $sw=s_1\cdots\widehat{s_i}\cdots s_h$ である。後半:$\ell(sw)=\ell(w)-1$ なので、$sw$ の簡約表示の前に $s$ を置くと、値が $s\cdot sw=w$ で長さ $\ell(w)$ の語になる。$\square$

二面体群の交代語

$S$ の相異なる 2 元 $s,t$ が生成する部分群 $D=\langle s,t\rangle$ は位数 $2$ の 2 元で生成される群、すなわち二面体群である。証明の鍵になるのは、$D$ の中での交代語の振る舞いである。

交代語の値

$s\ne t$ を位数 $2$ の元、$p=st$、$m=m(s,t)$ とし、$D=\langle s,t\rangle$ とする。

  1. $D$ は $\langle p\rangle$ と $\langle p\rangle s$ の交わらない和であり、$D$ の元は $p^e$ と $p^es$($e$ は $m$ を法として、$m=\infty$ なら $e\in\mathbb Z$)でちょうど一度ずつ表される。
  2. $1\le q\le m$ とする。$\{s,t\}$ の文字からなる長さ $q$ 未満の語で、値が長さ $q$ の交代語の値に等しいものはない。
  3. $m<\infty$ なら、$\langle s,t\rangle_m$ と $\langle t,s\rangle_m$ の値は等しい。

要点:$p=st$ で生成される巡回群は指数 $2$ の正規部分群で、交代語の値は $p^e$ か $p^es$ の形に書ける。長さ $q\le m$ の交代語どうしでは指数の差 $d$ が $0< |d|< m$ を満たし、長さの偶奇は符号 $D\to\{\pm1\}$ で区別される。

詳しい証明を開く

1:$sps^{-1}=s\,st\,s=ts=p^{-1}$、$tpt^{-1}=t\,st\,t=ts=p^{-1}$ なので $\langle p\rangle$ は $D$ の正規部分群である。$t=s\cdot st=sp\in s\langle p\rangle=\langle p\rangle s$ なので $D=\langle p\rangle\cup\langle p\rangle s$ である。$s\in\langle p\rangle$ なら $D=\langle p\rangle$ は可換で、$p^2=stst=s^2t^2=1$ となり $D\subset\{1,p\}$ だが、$D$ は相異なる $1,s,t$ を含むので矛盾する。よって $\langle p\rangle s\ne\langle p\rangle$ で、2 つの剰余類は交わらない。

2:まず値を計算する。$sp^es=p^{-e}$ から $p^{-e}s=sp^e$ である。$q=2k$ なら $\langle s,t\rangle_q$ の値は $(st)^k=p^k$、$\langle t,s\rangle_q$ の値は $(ts)^k=p^{-k}$ である。$q=2k+1$ なら $\langle s,t\rangle_q$ の値は $p^ks$、$\langle t,s\rangle_q$ の値は $(ts)^kt=p^{-k}sp=sp^{k+1}=p^{-(k+1)}s$ である。

次に、$\{s,t\}$ の語は、隣り合う同じ文字 $ss$ や $tt$ を消していくと、値を変えずに交代語になり、長さは偶数だけ減る。また $\varepsilon(p^e)=1$、$\varepsilon(p^es)=-1$ で定まる写像 $\varepsilon\colon D\to\{\pm1\}$ は、1 により $\langle p\rangle$ が指数 $2$ の正規部分群であることから準同型で、$\varepsilon(s)=\varepsilon(t)=-1$ である。よって長さの偶奇が違う語の値は異なる。

残るのは、長さ $q'< q\le m$、$q'\equiv q\pmod2$ の交代語の値どうしが異なることである。上の計算により、値の $p$ の指数は $q=2k$ なら $\pm k$、$q=2k+1$ なら $k$ か $-(k+1)$ である。$q'$ についても同様に $k'$($k'< k$)を定めると、2 つの指数の差 $d$ は $k-k'$、$k+k'$(偶数のとき)または $k-k'$、$k+k'+1$(奇数のとき、符号を除く)のいずれかであり、$0<|d|< q\le m$ を満たす。$p$ の位数は $m$ なので $p^d\ne1$ であり、1 により値は異なる。

3:$m=2k$ なら $p^{2k}=1$ から $p^k=p^{-k}$、$m=2k+1$ なら $p^{2k+1}=1$ から $p^k=p^{-(k+1)}$ であり、2 の計算により 2 つの交代語の値は等しい。$\square$

2 から、$q\le m$ なら長さ $q$ の交代語の値は $D$ の生成系 $\{s,t\}$ に関して長さ $q$ である。$W$ の中での長さ $\ell$ は $S$ 全体の文字を使えるので、これとは別の量であることに注意する。下の議論で使うのは 2 そのもの($\{s,t\}$ の文字だけの等式)である。

主定理

2 つの文字で左から短くなる元

$(W,S)$ が交換条件を満たすとする。$s\ne t$ を $S$ の元とし、$w\in W$ が $\ell(sw)<\ell(w)$ かつ $\ell(tw)<\ell(w)$ を満たすとする。このとき $m=m(s,t)$ は有限で、ある語 $\mathbf y$ について $\langle s,t\rangle_m\mathbf y$ と $\langle t,s\rangle_m\mathbf y$ はともに $w$ の簡約表示である。

$q\ge1$ について、$s$ と $t$ を交互に並べ、最後の文字が $s$ である長さ $q$ の交代語を $\mathbf{a}_q$ とする($\mathbf a_1=(s)$、$\mathbf a_2=(t,s)$、$\mathbf a_3=(s,t,s)$、…)。$\mathbf a_q$ は、$\mathbf a_{q-1}$ の最初の文字と異なる $\{s,t\}$ の文字 $r$ を $\mathbf a_{q-1}$ の前に置いたものである。
$1\le q\le m$ を満たすすべての $q$ について、$w$ は $\mathbf a_q$ で始まる簡約表示をもつことを $q$ に関する帰納法で示す。$q=1$ は lem-mt-left-exchange の後半である。$2\le q\le m$ とし、$w$ が簡約表示 $\mathbf a_{q-1}\mathbf y$($\mathbf a_{q-1}$ のあとに語 $\mathbf y$ を続けたもの)をもつとする。$\mathbf a_q=(r)\mathbf a_{q-1}$ となる $r\in\{s,t\}$ をとると $\ell(rw)<\ell(w)$ なので、lem-mt-left-exchange により、$rw$ は $\mathbf a_{q-1}\mathbf y$ から 1 文字を除いた語の値である。

  • 除いた文字が $\mathbf y$ の中にあるとき:$\mathbf y$ からその文字を除いた語を $\mathbf y'$ とすると $rw$ は $\mathbf a_{q-1}\mathbf y'$ の値なので、$w$ は $(r)\mathbf a_{q-1}\mathbf y'=\mathbf a_q\mathbf y'$ の値である。この語の長さは $\ell(w)$ なので簡約表示である。
  • 除いた文字が $\mathbf a_{q-1}$ の中にあるとき:$\mathbf a_{q-1}$ からその文字を除いた語を $\mathbf b$ とすると、$r\,(\mathbf a_{q-1}\text{ の値})\,(\mathbf y\text{ の値})=(\mathbf b\text{ の値})(\mathbf y\text{ の値})$ なので、$\mathbf a_q$ の値は長さ $q-2$ の $\{s,t\}$ の語 $\mathbf b$ の値に等しい。これは $q\le m$ と lem-mt-dihedral の 2 に反する。
    よって帰納法が進む。簡約表示の長さは $\ell(w)$ なので $q\le\ell(w)$ であり、$m=\infty$ なら $q=\ell(w)+1$ で矛盾する。従って $m<\infty$ で、$w$ は $\mathbf a_m$ で始まる簡約表示 $\mathbf a_m\mathbf y$ をもつ。$\mathbf a_m$ は $\langle s,t\rangle_m$ か $\langle t,s\rangle_m$ のどちらかであり、もう一方を $\mathbf a_m'$ とすると lem-mt-dihedral の 3 により $\mathbf a_m'\mathbf y$ も $w$ の簡約表示である。$\square$
Matsumoto–Titsの定理

$(W,S)$ が交換条件を満たすとする(たとえば Coxeter 系)。$w\in W$ の 2 つの簡約表示は、組紐変形(def-mt-braid-move)を有限回施して互いに移り合う。

$k=\ell(w)$ に関する帰納法で示す。$k\le1$ なら簡約表示は一つしかない。$k\ge2$ とし、長さ $k-1$ の元については主張が正しいとする。2 つの簡約表示を $\mathbf s=(s_1,\dots,s_k)$、$\mathbf t=(t_1,\dots,t_k)$ とし、2 つの語が組紐変形で移り合うことを $\mathbf s\sim\mathbf t$ と書く($\sim$ は同値関係である)。
最初の文字が同じ場合。 $s_1=t_1$ なら $(s_2,\dots,s_k)$ と $(t_2,\dots,t_k)$ はともに $s_1w$ の簡約表示で、$\ell(s_1w)=k-1$ である。帰納法の仮定により後者は前者から組紐変形で得られ、同じ変形を先頭の $s_1$ を残したまま施せば $\mathbf s\sim\mathbf t$ である。
最初の文字が異なる場合。 $s=s_1\ne t=t_1$ とする。$\ell(sw)<\ell(w)$、$\ell(tw)<\ell(w)$ なので、lem-mt-two-descents により $m=m(s,t)<\infty$ で、$w$ は簡約表示 $\mathbf u=\langle s,t\rangle_m\mathbf y$ と $\mathbf u'=\langle t,s\rangle_m\mathbf y$ をもつ。$\mathbf s$ と $\mathbf u$ は同じ文字 $s$ で始まるので前段により $\mathbf s\sim\mathbf u$、同様に $\mathbf u'\sim\mathbf t$ である。$\mathbf u$ から $\mathbf u'$ へは 1 回の組紐変形で移る。よって $\mathbf s\sim\mathbf u\sim\mathbf u'\sim\mathbf t$ である。$\square$

証明に使った $W$ の性質は、交換条件(lem-mt-left-exchange を通して)と、$S$ の 2 元が生成する二面体群の構造(lem-mt-dihedral)だけである。証明は Dav07 Theorem 3.4.2 (ii)(pp. 40–41)の流れに沿っている。

帰結

語の問題

簡約でない語と語の問題

$(W,S)$ が等号を含む交換条件(def-mt-exchange の 2)を満たすとする。

  1. 語 $\mathbf s$ が簡約でなければ、$\mathbf s$ に組紐変形を有限回施して、同じ文字が 2 つ隣り合う語にできる。
  2. 任意の語は、組紐変形と「隣り合う $ss$ を消す」操作を有限回施して、その値の簡約表示にできる。とくに、語の値が $1$ であることと、この 2 種類の操作で空の語にできることは同値である。
  3. 語が簡約であることと、組紐変形を何回施しても同じ文字が隣り合う語にならないことは同値である。

1:$\mathbf s=(s_1,\dots,s_h)$ とし、$(s_1,\dots,s_j)$ が簡約でない最小の $j$ をとる($j\ge2$)。$w'=s_1\cdots s_{j-1}$ とすると $(s_1,\dots,s_{j-1})$ は簡約で $\ell(w')=j-1$、また $\ell(w's_j)< j$ なので $\ell(w's_j)\le\ell(w')$ である。等号を含む交換条件により $w's_j=s_1\cdots\widehat{s_i}\cdots s_{j-1}$ となる $i< j$ があり、$w'$ は長さ $j-1$ の語 $(s_1,\dots,\widehat{s_i},\dots,s_{j-1},s_j)$ の値である。これは $s_j$ で終わる $w'$ の簡約表示なので、thm-mt-main により $(s_1,\dots,s_{j-1})$ は組紐変形でこの語に移る。同じ変形を $\mathbf s$ の先頭の $j-1$ 文字に施すと、$s_j$ が 2 つ隣り合う語になる。
2:語の長さに関する帰納法で示す。簡約な語ならそのままでよい。簡約でなければ 1 により組紐変形で $ss$ を含む語にでき、それを消すと値が同じで長さが $2$ だけ短い語になる。2 種類の操作はどちらも値を変えないので、最後に得られる語は値の簡約表示である。値が $1$ なら簡約表示は空の語である。逆に、操作は値を変えないので、空の語にできれば値は $1$ である。
3:簡約な語に組紐変形を施した語は同じ長さの簡約表示であり、隣り合う $ss$ があれば消して短くできてしまうので、そういう語は現れない。逆は 1 である。$\square$

2 の手順で現れる語は長さが増えず、もとの語に現れる文字しか使わない。そのような語は有限個なので、Coxeter 行列 $m$ が与えられていれば、ある語の値が $1$ かどうかは有限の手順で判定できる。これが Tits による Coxeter 群の語の問題の解である(Dav07 §3.4、Theorem 3.4.2 (i)、pp. 40–41)。

等号を含む交換条件を満たす組は Coxeter 系

等号を含む交換条件からCoxeter系へ

$(W,S)$ が等号を含む交換条件を満たすなら、$(W,S)$ は Coxeter 系である。従って、群 $W$ と位数 $2$ の元からなる生成系 $S$ について、$(W,S)$ が Coxeter 系であることと、等号を含む交換条件を満たすことは同値である。

$\widetilde W$ を、生成元 $S$ と関係式 $(st)^{m(s,t)}=1$($m(s,t)<\infty$)で表示される群とし、$\pi\colon\widetilde W\to W$ を $S$ の各元をそれ自身に送る全射準同型とする(Coxeter系 の定義「Coxeter系」)。$\pi$ が単射であることを示せばよい。$\widetilde W$ の元 $\tilde w$ は $S$ の文字の語 $\mathbf s$ の $\widetilde W$ での値として書ける。$\pi(\tilde w)=1$ なら、$\mathbf s$ の $W$ での値は $1$ なので、cor-mt-word-problem の 2 により $\mathbf s$ は組紐変形と $ss$ の消去で空の語になる。$\widetilde W$ では $s^2=1$($m(s,s)=1$ の関係式)と $(st)^{m}=1$($m=m(s,t)<\infty$)が成り立ち、後者から $\langle s,t\rangle_m$ と $\langle t,s\rangle_m$ の値が等しい(lem-mt-dihedral の 3 の計算は $s^2=t^2=1$ と $(st)^m=1$ だけを使う)。よって 2 種類の操作は $\widetilde W$ での値も変えず、$\tilde w=1$ である。
後半:Coxeter 系が等号を含む交換条件を満たすことは「設定と記号」の節で述べた。$\square$

これにより Coxeter系 の定理「消去条件からCoxeter系へ」が、交換条件を等号を含む形で仮定した場合に証明される。

等号を含まない交換条件は弱すぎる

cor-mt-coxeter で、交換条件を $\ell(ws)<\ell(w)$ の場合だけに要求する形(def-mt-exchange の 1)にすると、結論は成り立たない。Klein の四元群 $V=\{1,a,b,c\}$($c=ab$)と $S=\{a,b,c\}$ を考える。$S$ の元の長さは $1$ なので、簡約表示は 1 文字の語であり、$\ell(ws)<\ell(w)$ となるのは $w=s\in S$ のときだけで、このとき $ws=1$ は 1 文字を除いた空の語の値である。よって交換条件を満たす。しかし $m(a,b)=m(a,c)=m(b,c)=2$ なので、この Coxeter 行列の表示する群は $(\mathbb Z/2\mathbb Z)^3$(位数 $8$)であり、$(V,S)$ は Coxeter 系でない(Coxeter系 の注意「反例:位数2の生成系がCoxeter系を与えない例」の 1)。実際 $\ell(ab)=\ell(c)=1=\ell(a)$ であり、等号を含む交換条件は成り立たない。一方 thm-mt-main の主張はこの組でも正しい(簡約表示が 1 文字なので明らか)。

表示によらない積

簡約表示に沿った積

$(W,S)$ を Coxeter 系、$M$ をモノイド(モノイド)、$f\colon S\to M$ を写像とし、$s\ne t$、$m=m(s,t)<\infty$ のとき $f(s)f(t)f(s)\cdots=f(t)f(s)f(t)\cdots$(両辺とも $m$ 個の積)が成り立つとする。このとき $w$ の簡約表示 $s_1\cdots s_h$ について
$$ F(w):=f(s_1)f(s_2)\cdots f(s_h) $$
は簡約表示の取り方によらない。さらに $\ell(ww')=\ell(w)+\ell(w')$ なら $F(ww')=F(w)F(w')$ である。

仮定により、組紐変形の前後で $f$ の値の積は変わらない。thm-mt-main により 2 つの簡約表示は組紐変形で移り合うので、$F(w)$ は表示によらない。$\ell(ww')=\ell(w)+\ell(w')$ なら、$w$ と $w'$ の簡約表示をつないだ語は長さ $\ell(ww')$ で値が $ww'$ なので $ww'$ の簡約表示であり、$F(ww')=F(w)F(w')$ である。$\square$

$f(s)^2$ について何も仮定していないので、$F$ は一般には $W$ からの準同型ではない。Hecke環 の岩堀–Hecke環で基底 $T_w$ を $T_{s_1}\cdots T_{s_h}$ と定めるのはこの形である(Lus14 1.8–Theorem 1.9、p. 13 は簡約表示のなすグラフの連結性としてこの定理を述べている)。対称群 $S_n$ と組紐群 $B_n$ の標準的な生成元 $\sigma_i$ について $f(s_i)=\sigma_i$ とすると、組紐群の関係式 $\sigma_i\sigma_{i+1}\sigma_i=\sigma_{i+1}\sigma_i\sigma_{i+1}$、$\sigma_i\sigma_j=\sigma_j\sigma_i$($|i-j|\ge2$)が仮定を与え、置換 $w$ ごとに組紐 $F(w)$ が定まる。

簡約表示に現れる文字

$(W,S)$ が交換条件を満たすとする。$w$ の簡約表示に現れる文字の集合は、簡約表示の取り方によらない。

組紐変形は $s$ と $t$ が並ぶ部分を $t$ と $s$ が並ぶ部分に替えるので、$m(s,t)\ge2$ から両方の部分に $s$ と $t$ がともに現れ、語に現れる文字の集合を変えない。thm-mt-main から従う。$\square$

この集合を $w$ の台といい、$w$ が放物型部分群 $W_I$ に属することは台が $I$ に含まれることと同値になる(放物型部分群(Coxeter群) の定理「放物型部分群の基本性質」の 1 は、$W_I$ の元の簡約表示が $I$ の文字だけからなることを示している)。

例

対称群の場合

$S_n$ を隣接互換 $s_i=(i\ i{+}1)$($1\le i\le n-1$)で生成すると Coxeter 系であり、$m(s_i,s_{i+1})=3$、$|i-j|\ge2$ なら $m(s_i,s_j)=2$ である(Coxeter系 の例「対称群の場合」)。組紐変形は $s_is_{i+1}s_i\leftrightarrow s_{i+1}s_is_{i+1}$ と $s_is_j\leftrightarrow s_js_i$($|i-j|\ge2$)である。

  1. $S_3$ の最長元の簡約表示は $s_1s_2s_1$ と $s_2s_1s_2$ の 2 つで、1 回の組紐変形で移る。
  2. $S_4$ の $w=s_1s_2s_1s_3$(長さ $4$)の簡約表示は $s_1s_2s_1s_3$、$s_1s_2s_3s_1$、$s_2s_1s_2s_3$ の 3 つである。1 つ目から 2 つ目へは可換変形 $s_1s_3\to s_3s_1$、1 つ目から 3 つ目へは $s_1s_2s_1\to s_2s_1s_2$ で移る。
  3. $S_4$ の最長元(長さ $6$)の簡約表示は 16 個あり、組紐変形でつながっている。

2 と 3 の個数は、$S_4$ の各元について長さ $\ell(w)$ の語を全部調べる有限計算で確かめられる(定理が保証するのは、つながっていることである)。

二面体群と無限二面体群

$W=\langle s,t\mid s^2=t^2=(st)^m=1\rangle$($2\le m\le\infty$)では、$st$ の位数はちょうど $m$ であり(Coxeter系 の例「二面体群の場合」と「無限二面体群」)、lem-mt-dihedral の 2 により長さ $q\le m$ の交代語は簡約で、$\{s,t\}$ の語は $ss$、$tt$ を消すと交代語になるので、簡約表示は交代語に限る。同じく 2 の証明の値の計算から、$1\le q< m$ なら $\langle s,t\rangle_q$ と $\langle t,s\rangle_q$ の値は異なり、長さ $q< m$ の元の簡約表示はただ一つである。$m<\infty$ のとき長さ $m$ の元はただ一つで、簡約表示は $\langle s,t\rangle_m$ と $\langle t,s\rangle_m$ の 2 つであり、組紐変形 1 回で移る。$m=\infty$ ならどの元の簡約表示もただ一つで、組紐変形は使われない。

反例:条件を外すと

外す条件反例成り立たなくなること
2 つの表示が簡約$(W,S)$ の任意の $s\in S$ について、語 $(s,s)$ と空の語(ともに値 $1$)組紐変形で移り合う(長さが変わらないので移らない)
組紐変形のすべての $m(s,t)$ を許す($m=2$ だけにする)$S_3$ の最長元の簡約表示 $s_1s_2s_1$ と $s_2s_1s_2$可換変形だけで移り合う
$(W,S)$ が交換条件を満たす$W=S_3$、$S=\{a,b,c\}$(互換の全体)、$w=(1\ 2\ 3)$ の簡約表示 $ab$ と $bc$組紐変形で移り合う
cor-mt-coxeter の交換条件が等号を含むrem-mt-weak-exchange の $(V,\{a,b,c\})$Coxeter 系である
反例の確かめ

要点:組紐変形は長さと文字の集合を保ち、$m(s,t)$ 文字の交代語がなければ施せない。

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1 行目:組紐変形は長さを保つので、長さ $2$ の語から空の語には移らない。$(s,s)$ は簡約でないので thm-mt-main の仮定の外にある。

2 行目:可換変形 $s_is_j\to s_js_i$ は $|i-j|\ge2$ のときだけ許され、$s_1s_2s_1$ には隣り合う $s_1s_3$ や $s_3s_1$ の形の部分がないので、可換変形は 1 回も施せない。よって $s_2s_1s_2$ には移らない。$m(s_1,s_2)=3$ の組紐変形が必要である。

3 行目:$a=(1\ 2)$、$b=(2\ 3)$、$c=(1\ 3)$ とし、置換は右から先に作用させる。$ab=bc=ca=(1\ 2\ 3)$ であり、$(1\ 2\ 3)$ は $S$ の元でも $1$ でもないので長さ $2$ で、$ab$、$bc$ はその簡約表示である。$S$ のどの 2 元の積も位数 $3$ の巡回置換なので $m=3$ であり、組紐変形には長さ $3$ の交代語が要るが、長さ $2$ の語には現れない。よって $ab$ と $bc$ は移り合わない。この組が交換条件を満たさないことも直接わかる:簡約表示 $w=ab$ と $s=a$ について $wa=(1\ 2\ 3)(1\ 2)=(1\ 3)=c$ で $\ell(wa)=1<2$ だが、$ab$ から 1 文字を除いた語の値 $a$、$b$ はどちらも $c$ でない。

4 行目:rem-mt-weak-exchange で確かめた。$\square$

補足

名前と文献
  1. 定理は Hideya Matsumoto と J. Tits による(Lus14 1.8 の直後、p. 13)。Tits はこの定理を使って Coxeter 群の語の問題を解いた(Dav07 §3.4、p. 40)。同じ Matsumoto による体の $K_2$ の定理(Milnor K群)は別の定理である。
  2. Dav07 は交換条件を「$\ell(sw)=\ell(w)+1$ でなければ、ある $i$ で $w=ss_1\cdots\widehat{s_i}\cdots s_h$」という二者択一の形(等号を含む交換条件の左からの版)で述べ(§3.2、p. 35)、Theorem 3.3.4(p. 38、証明は p. 42)で Coxeter 系であることとの同値を示している。cor-mt-coxeter の証明は、そこでの証明と同じく cor-mt-word-problem を使うが、$\widetilde W$ の側の交換条件を使わずに、値が $1$ の語を直接空の語に変形している。
  3. 簡約表示の全体を頂点とし、組紐変形で移り合う 2 つを辺で結んだグラフを考えると、定理はこのグラフの連結成分が $W$ の元とちょうど対応することをいう(Lus14 1.8–Theorem 1.9、p. 13)。

関連項目

参考文献

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