Szpiro予想

同義語:Szpiroの予想Szpiro conjectureSzpiro's conjecture

概要

Szpiro予想(Szpiro conjecture)とは、各 $\varepsilon>0$ について定数 $C(\varepsilon)$ があり、有理数体上の半安定なすべての楕円曲線 $E$ の極小判別式 $\Delta_E$ と導手 $N_E$ が $|\Delta_E|\le C(\varepsilon)N_E^{6+\varepsilon}$ をみたすという予想で、未解決である。互いに素な $a+b+c=0$($16\mid abc$)から符号と順序を整えて作る Frey 曲線は半安定で判別式が $(abc/16)^2$ なので、予想からそのような組についての abc 予想を指数 $\frac32$ に弱めた形と Fermat の最終定理の大きい指数の場合が出る。指数 $6$ ちょうどでは成り立たず、$c_4,c_6$ を使って強めた形は abc 予想と同値である。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 楕円曲線, 半安定還元, abc予想

Szpiro予想(Szpiro conjecture)は、有理数体上の楕円曲線の極小判別式 $\Delta_E$ が、導手 $N_E$ のおよそ $6$ 乗を超えないという予想である。正確には、各 $\varepsilon>0$ について定数 $C(\varepsilon)$ があって、半安定なすべての楕円曲線 $E/\mathbb{Q}$ について $\lvert\Delta_E\rvert\le C(\varepsilon)N_E^{6+\varepsilon}$ が成り立つと予想する。L. Szpiro が 1983 年に Hannover での講演で述べ、関数体での類似を証明した(Oes88 I.2、p. 167)。
判別式も導手も悪い還元をもつ素数を記録する量だが、判別式ではそれらの素数が高い冪で現れうるのに対し、導手では低い冪でしか現れない。Szpiro 予想は、高い冪が現れるのは例外的だと主張する。abc予想 と深く結びついており、$a+b+c=0$ から作る楕円曲線(Frey 曲線)に当てると abc 予想の弱い形が出て、Fermat の最終定理の十分大きい指数の場合も従う。
この記事では、極小判別式と導手を定義して予想を述べ、Frey 曲線の極小モデルと導手を計算し、Szpiro 予想から abc 予想の指数を $\frac32$ に弱めた形($16\mid abc$ のとき)と Fermat の最終定理の大きい指数の場合が出ること、指数 $6$ ちょうどでは予想が成り立たないことを完全に証明する。予想そのものは未解決として扱う。

極小判別式と導手

楕円曲線 $E/\mathbb{Q}$ の Weierstrass 方程式 $y^2+a_1xy+a_3y=x^3+a_2x^2+a_4x+a_6$ について、判別式 $\Delta$ と $c_4,c_6$ を 楕円曲線 の定義「Weierstrass方程式と判別式・$j$ 不変量」のとおりに定める。このとき
$$ 1728\,\Delta=c_4^3-c_6^2 $$
が成り立つ(Sil09 §III.1、p. 42)。各素数 $p$ について、$p$ 進付値に関する極小 Weierstrass 方程式と還元の型(良い還元・乗法的還元・加法的還元)は 半安定還元 の定義「極小Weierstrass方程式と還元の型」のとおりとする。
$\mathbb{Q}$ 上では、係数がすべて整数で、すべての素数 $p$ で同時に極小である Weierstrass 方程式(大域極小方程式)が存在する(Sil09 Corollary VIII.8.3、p. 245。この記事では証明しない)。大域極小方程式どうしは $u=\pm1$ の座標変換で移りあい、$\Delta'=u^{-12}\Delta$ なので判別式は等しい。

極小判別式と導手

$E/\mathbb{Q}$ を楕円曲線とする。

  1. 大域極小方程式の判別式を $E$ の 極小判別式 といい、$\Delta_E$ と書く。
  2. 各素数 $p$ について、$E$ が $p$ で良い還元をもつなら $f_p:=0$、乗法的還元をもつなら $f_p:=1$、加法的還元をもつなら $f_p\ge2$ を $p$ での導手の指数とし、$N_E:=\prod_pp^{f_p}$ を $E$ の 導手 という。
  3. すべての素数で良い還元か乗法的還元をもつとき、$E$ は 半安定 であるという。このとき $N_E=\operatorname{rad}(\Delta_E)$ である。

ここで $\operatorname{rad}(n)$ は $n$ を割る素数全体の積である(abc予想 の定義「根基」)。加法的還元での指数 $f_p$ は、$p\ge5$ なら $2$ に等しく、$p=2,3$ では $2$ より大きくなりうる(Sil09 p. 256)。この記事の定理はすべて半安定な曲線についてのものなので、$f_p$ の一般の定義は使わない。3 の $N_E=\operatorname{rad}(\Delta_E)$ は、悪い還元をもつ素数が $\Delta_E$ を割る素数にほかならない(半安定還元 の定義「極小Weierstrass方程式と還元の型」)ことからわかる。

主張

Szpiro予想

任意の $\varepsilon>0$ について定数 $C(\varepsilon)>0$ があって、半安定なすべての楕円曲線 $E/\mathbb{Q}$ について
$$ \lvert\Delta_E\rvert\le C(\varepsilon)\,N_E^{6+\varepsilon} $$
が成り立つ。

これは Oes88 Conjecture 2(Szpiro 予想の強い形、p. 168)である。同じ箇所の Conjecture 1(弱い形、p. 167)は、ある定数 $\alpha,\beta>0$ があって半安定なすべての $E$ で $\lvert\Delta_E\rvert\le\alpha N_E^{\beta}$ となる、という主張である。半安定の仮定を外し、すべての楕円曲線 $E/\mathbb{Q}$ について同じ不等式を予想する形もある(Sil09 Conjecture VIII.11.1、p. 256)。
対数をとると、予想は比 $\sigma(E):=\log\lvert\Delta_E\rvert/\log N_E$($N_E>1$ のとき)が、$N_E$ が大きくなるにつれて $6$ を大きくは超えないことを述べている。この比を Szpiro 比 とよぶことにする。

小さい導手の曲線
  1. $y^2+xy=x^3+40x^2+405x$ は判別式 $3^8\cdot5^2=164025$、$c_4=6481$ で、導手 $15$ の半安定な曲線である。Szpiro 比は $\log164025/\log15\approx4.43$ である。
  2. $y^2+xy=x^3-356x^2-80000x$ は判別式 $2^{14}\cdot3^{10}\cdot5^8\cdot11^2$、導手 $2\cdot3\cdot5\cdot11=330$ の半安定な曲線で、Szpiro 比は約 $6.62$ であり、$6$ を超える。
    どちらも次の節の Frey 曲線で、それぞれ $1+80=81$、$625+2048=2673$ から作られる(prop-szpiro-frey で確かめられる。数値は Python による計算)。予想は比が $6$ をわずかに超えることを許しており、$6$ を超える曲線があることと矛盾しない。

Frey 曲線

$a,b,c$ を $0$ でない互いに素な整数で $a+b+c=0$ をみたすものとする。このとき 3 つは 2 つずつ互いに素で、ちょうど 1 つが偶数である(3 つとも奇数なら和は奇数で $0$ にならず、2 つが偶数なら残りも偶数になる)。楕円曲線
$$ E_{a,b,c}:\ y^2=x(x-a)(x+b) $$
を考える(Oes88 I.1、p. 166)。$a,b,c$ が素数 $p\ge5$ の $p$ 乗の場合が、Y. Hellegouarch が注意し G. Frey が発展させた曲線で(同 p. 165)、この記事では一般の $E_{a,b,c}$ も Frey 曲線 とよぶ。その判別式は $16a^2b^2c^2$ である(Fermatの最終定理 の例「Frey 曲線の判別式」と同じ計算)。

Frey 曲線の極小モデルと導手

$a,b,c$ を $0$ でない互いに素な整数で $a+b+c=0$ をみたし、$a\equiv-1\pmod4$、$b\equiv0\pmod{16}$ とする。

  1. 座標変換 $x=4X$、$y=8Y+4X$ により、$E_{a,b,c}$ は整数係数の方程式
    $$ Y^2+XY=X^3+\frac{b-a-1}{4}X^2-\frac{ab}{16}X $$
    にうつり、その不変量は $c_4=a^2+ab+b^2$、$\Delta=\bigl(\frac{abc}{16}\bigr)^2$ である。
  2. この方程式は大域極小方程式であり、$E_{a,b,c}$ は半安定で、
    $$ \Delta_E=\Bigl(\frac{abc}{16}\Bigr)^2,\qquad N_E=\operatorname{rad}\Bigl(\frac{abc}{16}\Bigr) $$
    である。

1:係数の整数性と不変量.$b\equiv0$、$a\equiv3\pmod4$ なので $b-a-1\equiv0\pmod4$ であり、$16\mid b$ なので $ab/16$ は整数である。$x=4X$、$y=8Y+4X$ を $y^2=x^3+(b-a)x^2-abx$ に代入して $64$ で割ると、主張の方程式を得る。新しい方程式は $a_1=1$、$a_2=\frac{b-a-1}4$、$a_3=a_6=0$、$a_4=-\frac{ab}{16}$ なので
$$ b_2=b-a,\qquad b_4=-\frac{ab}{8},\qquad b_6=0,\qquad b_8=-\frac{a^2b^2}{256} $$
であり、
$$ c_4=(b-a)^2+3ab=a^2+ab+b^2,\qquad \Delta=\frac{(b-a)^2a^2b^2}{256}+\frac{a^3b^3}{64}=\frac{a^2b^2\bigl((b-a)^2+4ab\bigr)}{256}=\Bigl(\frac{abc}{16}\Bigr)^2 $$
となる(最後に $(b-a)^2+4ab=(a+b)^2=c^2$ を使った)。
2:各素数での型.素数 $\ell$ が $\Delta$ を割るとする。$\ell$ は $abc$ を割る。

  • $\ell=2$ なら、$a$ は奇数、$b$ は偶数なので $c_4=a^2+ab+b^2$ は奇数である。
  • $\ell$ が奇数で $\ell\mid a$ なら $c_4\equiv b^2$、$\ell\mid b$ なら $c_4\equiv a^2\pmod\ell$ である。$\ell\mid c$ なら $b\equiv-a$ なので $c_4\equiv a^2-a^2+a^2=a^2\pmod\ell$ である。$a,b,c$ は 2 つずつ互いに素なので、どの場合も $\ell\nmid c_4$ である。
    よって $\Delta$ を割る素数 $\ell$ では $v_\ell(\Delta)>0$、$v_\ell(c_4)=0$ であり、半安定還元 の補題「極小性と型の判定」により、方程式は $\ell$ で極小で $E$ は $\ell$ で乗法的還元をもつ。$\Delta$ を割らない素数では $v_\ell(\Delta)=0$ なので、同じ補題により極小で良い還元をもつ。したがって方程式はすべての素数で極小、すなわち大域極小方程式であり、$E$ は半安定で、$\Delta_E=\Delta$、$N_E=\operatorname{rad}(\Delta_E)=\operatorname{rad}(abc/16)$ である。$\square$

これは Oes88 I.1 の (6)–(9)(p. 167)の主張である。$v_2(b)=4$ なら $\Delta_E$ は奇数で $E$ は $2$ で良い還元をもち、$v_2(b)\ge5$ なら $2$ で乗法的還元をもつ。どちらの場合も $N_E\le\operatorname{rad}(abc)$ である。Oes88 p. 167 は、$a,b,c$ をどう巡回させても $a\equiv-1\pmod4$、$b\equiv0\pmod{16}$ にできないときは、元の方程式 $y^2=x(x-a)(x+b)$ が極小で、$E$ は $2$ で半安定でないことを注意している。

Szpiro 予想からの帰結

abc 予想の弱い形

Szpiro 予想から abc 型の不等式

conj-szpiro-main を認める。このとき、各 $\varepsilon>0$ について定数 $C_1(\varepsilon)$ があって、$a+b+c=0$ をみたし $16\mid abc$ である互いに素な $0$ でない整数 $a,b,c$ について
$$ \lvert abc\rvert\le C_1(\varepsilon)\operatorname{rad}(abc)^{3+\varepsilon},\qquad \max(\lvert a\rvert,\lvert b\rvert,\lvert c\rvert)\le\sqrt{2C_1(\varepsilon)}\,\operatorname{rad}(abc)^{\frac32+\frac\varepsilon2} $$
が成り立つ。

正規化.$a,b,c$ のうち偶数はちょうど 1 つで、$16\mid abc$ なのでそれは $16$ で割れる。両辺の量 $\lvert abc\rvert$、$\operatorname{rad}(abc)$、$\max(\lvert a\rvert,\lvert b\rvert,\lvert c\rvert)$ は $a,b,c$ の並べ替えと全体の符号の取り替えで変わらないので、偶数のものを $b$ とし、さらに必要なら $(a,b,c)$ を $(-a,-b,-c)$ に替えて、$a\equiv-1\pmod4$ としてよい($a$ は奇数なので $a$ と $-a$ の一方は $4$ を法として $-1$ に合同である)。
Szpiro 予想を当てる.prop-szpiro-frey により $E:=E_{a,b,c}$ は半安定で、$\lvert\Delta_E\rvert=(abc)^2/2^8$、$N_E=\operatorname{rad}(abc/16)\le\operatorname{rad}(abc)$ である。conj-szpiro-main を $2\varepsilon$ で使うと
$$ \frac{(abc)^2}{2^8}=\lvert\Delta_E\rvert\le C(2\varepsilon)N_E^{6+2\varepsilon}\le C(2\varepsilon)\operatorname{rad}(abc)^{6+2\varepsilon} $$
であり、平方根をとって $C_1(\varepsilon):=16\,C(2\varepsilon)^{1/2}$ とおけば 1 つ目の不等式を得る。
最大値の評価.$\lvert a\rvert\le\lvert b\rvert\le\lvert c\rvert$ と並べ替えて考える。$\lvert c\rvert=\lvert a+b\rvert\le2\lvert b\rvert$ なので $\lvert b\rvert\ge\frac12\lvert c\rvert$ で、$\lvert a\rvert\ge1$ だから $\lvert abc\rvert\ge\frac12\lvert c\rvert^2$ である。1 つ目の不等式と合わせて $\lvert c\rvert^2\le2C_1(\varepsilon)\operatorname{rad}(abc)^{3+\varepsilon}$ となる。$\square$

1 つ目の不等式は Oes88 Proposition 1(p. 167)の主張である。Sil09 Proposition VIII.11.5(a)(p. 259)は、半安定とは限らないすべての曲線についての予想から、$16\mid abc$ の仮定なしに指数 $\frac32$ の形を述べている。また Oes88 p. 168 の注意(Szpiro による)は、$E_{a,b,c}$ を位数 $2$ の部分群で割った 3 つの曲線にも予想を当てて、指数 $\frac32$ を下げる議論を述べ、強い形の予想から指数 $\frac65+\varepsilon$ の形が出るとしている(同 p. 169。この記事では証明しない)。abc 予想(指数 $1+\varepsilon$)と比べると指数が大きいが、それでも次の帰結が出る。

Fermat の最終定理の大きい指数の場合

Szpiro 予想から Fermat の最終定理(大きい指数)

conj-szpiro-main を認める。このとき整数 $n_0$ があって、$n\ge n_0$ について $x^n+y^n=z^n$ をみたす整数 $x,y,z$($xyz\ne0$)は存在しない。

$n\ge4$ とし、$x^n+y^n=z^n$、$xyz\ne0$ とする。$\gcd(x,y,z)$ で割って $x,y,z$ は互いに素としてよい。$a:=x^n$、$b:=y^n$、$c:=-z^n$ とおくと $a+b+c=0$ で、$a,b,c$ は $0$ でなく互いに素である。$x,y,z$ のうち 1 つは偶数で($a,b,c$ のちょうど 1 つが偶数)、その $n$ 乗は $2^n$ で割れるので $16\mid abc$ である。$\operatorname{rad}(abc)=\operatorname{rad}(xyz)\le\lvert xyz\rvert$ なので、thm-szpiro-abc を $\varepsilon=1$ で使うと
$$ \lvert xyz\rvert^n=\lvert abc\rvert\le C_1(1)\lvert xyz\rvert^{4} $$
である。偶数の 1 つは $0$ でないので $\lvert xyz\rvert\ge2$ で、$2^{n-4}\le\lvert xyz\rvert^{n-4}\le C_1(1)$ となる。よって $n\le4+\log_2C_1(1)$ であり、$n_0$ をこれより大きい $4$ 以上の整数にとればよい。$\square$

これは Oes88 の Corollaire(p. 168)と Sil09 Proposition VIII.11.2(pp. 256–257)の主張である。Fermat の最終定理そのものは Wiles らによって証明されている(Fermatの最終定理)。abc予想 の定理「abc 予想から Fermat の最終定理(大きい指数)」と同じく、定数 $C(\varepsilon)$ が具体的に分からない限り $n_0$ は具体的に求まらない。

指数 6 ちょうどでは成り立たない

予想の指数 $6+\varepsilon$ の $\varepsilon$ は省けない。Oes88 p. 168 の数列で、このことを確かめる。

指数 $6$ の反例の列

$a_0:=16$、$b_0:=1$、$c_0:=-17$ とし、
$$ a_{n+1}:=4a_nb_n,\qquad b_{n+1}:=(a_n-b_n)^2,\qquad c_{n+1}:=-(a_n+b_n)^2 $$
と定める。$\lambda_n:=\lvert a_nb_nc_n\rvert/\operatorname{rad}(a_nb_nc_n)^3$ とおく。

  1. すべての $n$ で $a_n+b_n+c_n=0$、$a_n,b_n>0$、$\gcd(a_n,b_n)=1$、$16\mid a_n$、$b_n$ は奇数、$c_n\equiv-1\pmod4$ である。
  2. $\lambda_{n+1}\ge4\lambda_n$ であり、$\lambda_n\to\infty$ である。
  3. Frey 曲線 $E_n:=E_{c_n,a_n,b_n}$ は半安定で、$\lvert\Delta_{E_n}\rvert/N_{E_n}^6\ge\lambda_n^2/2^8\to\infty$ である。とくに、半安定なすべての $E/\mathbb{Q}$ で $\lvert\Delta_E\rvert\le CN_E^6$ となる定数 $C$ は存在しない。

1.$n$ についての帰納法による。$n=0$ では確かめられる($c_0=-17\equiv3\pmod4$)。$n$ で成り立つとする。$a_{n+1}+b_{n+1}+c_{n+1}=4a_nb_n+(a_n-b_n)^2-(a_n+b_n)^2=0$ である。$a_n$ は偶数、$b_n$ は奇数なので $a_n\ne b_n$ で、$b_{n+1}>0$、$a_{n+1}>0$ であり、$a_n\pm b_n$ は奇数なので $b_{n+1}$ は奇数、$c_{n+1}=-(\text{奇数})^2\equiv-1\pmod 8$ である。$16\mid a_n$ から $16\mid a_{n+1}$ である。素数 $\ell$ が $a_{n+1}$ と $b_{n+1}$ をともに割るとすると、$\ell\mid a_n-b_n$ なので $\ell$ は奇数で、$\ell\mid a_nb_n$ である。$\ell\mid a_n$ なら $\ell\mid b_n$ となり $\gcd(a_n,b_n)=1$ に反し、$\ell\mid b_n$ でも同じである。
2.$R_n:=\operatorname{rad}(a_nb_nc_n)$ とおく。$a_{n+1}b_{n+1}c_{n+1}$ を割る素数は $2$、または $a_n$、$b_n$、$a_n-b_n$、$a_n+b_n=-c_n$ のどれかを割る素数で、$2\mid a_n$ なので $R_{n+1}\le R_n\cdot\lvert a_n-b_n\rvert$ である。よって
$$ \lambda_{n+1}=\frac{4a_nb_n(a_n-b_n)^2c_n^2}{R_{n+1}^3}\ge\frac{4a_nb_n(a_n-b_n)^2c_n^2}{R_n^3\lvert a_n-b_n\rvert^3}=4\lambda_n\cdot\frac{\lvert c_n\rvert}{\lvert a_n-b_n\rvert}\ge4\lambda_n $$
である。最後は $a_n,b_n>0$ から $\lvert c_n\rvert=a_n+b_n\ge\lvert a_n-b_n\rvert$ による。$\lambda_0>0$ なので $\lambda_n\ge4^n\lambda_0\to\infty$ である。
3.1 により $(c_n,a_n,b_n)$ は prop-szpiro-frey の仮定(和が $0$、互いに素、$c_n\equiv-1\pmod4$、$16\mid a_n$)をみたす($\gcd(a_n,b_n)=1$ と和が $0$ から 3 つは 2 つずつ互いに素である)。よって $E_n$ は半安定で、$\lvert\Delta_{E_n}\rvert=(a_nb_nc_n)^2/2^8$、$N_{E_n}\le R_n$ であり、
$$ \frac{\lvert\Delta_{E_n}\rvert}{N_{E_n}^6}\ge\frac{(a_nb_nc_n)^2}{2^8R_n^6}=\frac{\lambda_n^2}{2^8} $$
となる。$\square$

$\lambda_0\approx0.0069$、$\lambda_3\approx2.38$、$\lambda_4\approx13.3$、$\lambda_5\approx3639$ である(Python による計算)。Oes88 p. 168 は、同じ列から $\beta=6$ の弱い形も、thm-szpiro-abc の $\lvert abc\rvert$ についての不等式の指数 $3$ ちょうども成り立たないことを導き、この意味で強い形の予想が最も楽観的な形だと述べている。

abc 予想との関係

Szpiro 予想は、不変量 $c_4,c_6$ を使った形に強めると abc予想 と同値になる。

修正 Szpiro 予想

任意の $\varepsilon>0$ について定数 $C'(\varepsilon)>0$ があって、すべての楕円曲線 $E/\mathbb{Q}$ について、大域極小方程式の $c_4,c_6$ と導手 $N_E$ が
$$ \max\bigl(\lvert c_4\rvert^3,\lvert c_6\rvert^2\bigr)\le C'(\varepsilon)\,N_E^{6+\varepsilon} $$
をみたす。

これは Oes88 Conjecture 4(p. 169)である。

修正版から Szpiro 予想が出る

conj-szpiro-modified を認めると、すべての楕円曲線 $E/\mathbb{Q}$(半安定とは限らない)について $\lvert\Delta_E\rvert\le\frac{C'(\varepsilon)}{864}N_E^{6+\varepsilon}$ が成り立つ。とくに conj-szpiro-main が成り立つ。

大域極小方程式で $1728\Delta_E=c_4^3-c_6^2$ なので、$1728\lvert\Delta_E\rvert\le\lvert c_4\rvert^3+\lvert c_6\rvert^2\le2\max(\lvert c_4\rvert^3,\lvert c_6\rvert^2)\le2C'(\varepsilon)N_E^{6+\varepsilon}$ である。$1728/2=864$ で割ればよい。$\square$

逆向きの関係として、次のことが知られている(どれもこの記事では証明しない)。

  • Oes88 pp. 169–170 は、conj-szpiro-modified を半安定な曲線に限った形(Conjecture 4′)が abc 予想を導き、abc 予想が conj-szpiro-modified を導くことを示し、3 つの予想が同値であることを証明している。
  • Sil09 Proposition VIII.11.5(b)(pp. 259–260)は、abc 予想から(半安定とは限らない曲線の)Szpiro 予想が出ることを、$\gcd(c_4^3,c_6^2)=1$ の場合に証明し、一般の場合を演習としている。
    まとめると、abc 予想 $\Leftrightarrow$ 修正 Szpiro 予想 $\Rightarrow$ Szpiro 予想 $\Rightarrow$ 指数を弱めた abc 予想、という関係になる。Szpiro 予想と abc 予想の差は、$\lvert\Delta_E\rvert$ だけでなく $c_4,c_6$ の大きさまで導手で押さえるかどうかにある。

研究の現状

  • 関数体での類似.Szpiro は、関数体での類似を証明した(Oes88 p. 167)。標数 $0$ の体上の関数体では、Szpiro 予想と abc 予想の類似はどちらも易しく証明でき、より強い結果も知られている(Sil09 Remark VIII.11.7、p. 261)。多項式の場合の abc は abc予想 の定理「Mason–Stothers の定理」である。
  • ほかの帰結.G. Frey は、Szpiro 予想から数体上の楕円曲線のねじれ部分群の位数が一様に有界であることが出ると注意した(Sil09 Remark VIII.11.8、p. 261)。
  • 証明の主張.望月新一(Shinichi Mochizuki)は、宇宙際 Teichmüller 理論の論文で Szpiro 予想を含む Diophantus 的な結果を得たと主張しているが、その論証の正否については見解が分かれている。経緯は abc予想 の節「研究の現状」にある。この記事では Szpiro 予想を未解決の予想として扱う。

反例と注意

主張の仮定を 1 つ外すと、結論は成り立たなくなる。確かめは表の下にある。

外す条件反例成り立たなくなること
予想:$\varepsilon>0$$E_{c_n,a_n,b_n}$(prop-szpiro-exponent-six)$\lvert\Delta_E\rvert\le CN_E^6$
Frey 曲線:$b\equiv0\pmod{16}$$(a,b,c)=(-1,-8,9)$変換後の方程式が整数係数
Frey 曲線:$a,b,c$ が互いに素$(a,b,c)=(3,48,-51)$$E_{a,b,c}$ は半安定
thm-szpiro-abc:$a,b,c$ が互いに素$(2^n,2^n,-2^{n+1})$($n\ge4$)$\lvert abc\rvert\le C_1\operatorname{rad}(abc)^{3+\varepsilon}$

各行の確かめを述べる。

確かめを開く

1 行目:prop-szpiro-exponent-six の 3 による。曲線は半安定で、$\varepsilon=0$ にしたことだけが予想の形に反する。

2 行目:$a=-1\equiv3\pmod4$ で、$a+b+c=0$、互いに素だが、$b=-8$ は $16$ で割れない。$ab/16=8/16$ は整数でないので、$x=4X$、$y=8Y+4X$ による方程式は整数係数にならない。

3 行目:$3\equiv-1\pmod4$、$16\mid48$、$3+48-51=0$ だが、$\gcd=3$ である。$y^2=x(x-3)(x+48)$ の不変量は $c_4=16(3^2+3\cdot48+48^2)=16\cdot2457=16\cdot3^3\cdot7\cdot13$ と $\Delta=16\cdot(3\cdot48\cdot51)^2$ で、$3$ は両方を割る。$v_3(c_4)=3<4$ なので、半安定還元 の補題「極小性と型の判定」により方程式は $3$ で極小であり、$v_3(\Delta)>0$、$v_3(c_4)>0$ だから $E$ は $3$ で加法的還元をもち、半安定でない。

4 行目:$\operatorname{rad}(abc)=2$ で右辺は一定だが、$\lvert abc\rvert=2^{3n+1}$ は発散する。$16\mid abc$ と和が $0$ はみたされ、互いに素でないことだけが仮定に反する。


注意を 2 つ挙げる。

  • 半安定の仮定.conj-szpiro-main は半安定な曲線についての形である。半安定でない曲線では導手の指数 $f_p$ が $2$ 以上になり、判別式との比べ方が変わる。すべての曲線についての形(Sil09 Conjecture VIII.11.1)は、半安定な形より強い主張である。
  • 有効性.予想は定数 $C(\varepsilon)$ の存在しか述べていない。cor-szpiro-fermat の $n_0$ を具体的に求めるには、$C(\varepsilon)$ を具体的に与える形の証明が要る。

関連項目

参考文献

[1]
Joseph Oesterlé, Nouvelles approches du « théorème » de Fermat, Séminaire Bourbaki, exp. no 694 (1987–88), Astérisque 161–162 (1988), pp. 165–186, 1988, 序(Hellegouarch と Frey の曲線)p. 165、I.1(曲線 $E_{a,b,c}$ と正規化 (5))p. 166、(6)–(9)(極小モデル・半安定性・導手)・I.2(Szpiro の 1983 年の講演、Conjecture 1、Proposition 1)p. 167、Szpiro の注意・Corollaire・指数 $6$ の反例の列・Conjecture 2 p. 168、Conjecture 3・指数 $\frac65$・Conjecture 4・4′ p. 169、同値性の証明 pp. 169–170
[2]
Joseph H. Silverman, The Arithmetic of Elliptic Curves, Springer, 2009, §III.1($1728\Delta=c_4^3-c_6^2$)p. 42、Corollary VIII.8.3(大域極小方程式の存在)p. 245、§VIII.11:導手の指数と Conjecture VIII.11.1 p. 256、Proposition VIII.11.2 pp. 256–257、Proposition VIII.11.5 pp. 259–260、Remark VIII.11.7・11.8 p. 261

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