階数定理

同義語:定階数定理rank theoremconstant rank theorem定階数写像

概要

階数定理(rank theorem)とは、$\mathbb{R}^m$ の開集合から $\mathbb{R}^n$ への $C^k$ 級写像 $F$ の Jacobi 行列の階数が点 $p$ の近くで一定値 $r$ ならば、$p$ と $F(p)$ のまわりの座標を $C^k$ 級微分同相写像 $\varphi$、$\psi$ で取り替えると $\psi\circ F\circ\varphi^{-1}(z)=(z^1,\dots,z^r,0,\dots,0)$ となるという定理で、定階数定理ともいう。線形写像の階数標準形の非線形版であり、逆関数定理とはめ込み・沈め込みの局所標準形を特別な場合として含み、定階数写像の等位集合と小さい近傍の像が局所的に部分多様体であるという結論を与える。$x\mapsto x^2$ の原点のように階数が一定でない点では標準形は存在しない。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 逆関数定理, 陰関数定理, Jacobi行列, 階数(線形代数), 微分同相写像

線形写像 $T\colon\mathbb{R}^m\to\mathbb{R}^n$ の階数が $r$ ならば、定義域と値域の基底をうまく取り替えると、$T$ の行列は左上に単位行列 $I_r$ があり残りが $0$ の形になる。階数定理(rank theorem)、または定階数定理(constant rank theorem)は、この線形代数の事実の非線形版である。$C^1$ 級写像 $F$ の Jacobi 行列の階数が点の近くで一定値 $r$ ならば、定義域と値域の座標を微分同相写像で取り替えると、$F$ は局所的に
$$ (x^1,\dots,x^m)\longmapsto(x^1,\dots,x^r,0,\dots,0) $$
という最も簡単な写像になる。逆関数定理($r=m=n$)、はめ込みの局所標準形($r=m$)、沈め込みの局所標準形($r=n$)はすべてその特別な場合であり、写像の像や等位集合が局所的に部分多様体になることがここから読み取れる。この記事では $\mathbb{R}^m$ の開集合の間の写像について述べる。多様体の間の写像への言い換えは、座標近傍で表せば同じことになる。

記法と定義

$\mathbb{R}^m$ の開集合 $U$ 上の $C^k$ 級写像($1\le k\le\infty$)$F\colon U\to\mathbb{R}^n$ の点 $x$ における微分を $DF(x)$ と書き、その行列(Jacobi行列)を同じ記号で表す。$DF(x)$ の階数(階数(線形代数))を$F$ の $x$ における階数といい $\operatorname{rank}_xF$ と書く。$\operatorname{rank}_xF\le\min\{m,n\}$ である。
$\mathbb{R}^m$ の開集合 $U_0$ から開集合 $\hat U_0$ への $C^k$ 級の全単射で、逆写像も $C^k$ 級であるものを $C^k$ 級微分同相写像という(微分同相写像)。$C^k$ 級微分同相写像 $\varphi$ の微分は各点で正則である。$\varphi^{-1}\circ\varphi=\mathrm{id}$ に連鎖律を当てると $D(\varphi^{-1})(\varphi(x))\,D\varphi(x)=I$ となるからである。微分同相写像 $\varphi\colon U_0\to\hat U_0$ は、$U_0$ の点に新しい座標 $\varphi(x)$ を与えるものと考えられる。

定階数写像・はめ込み・沈め込み

$U\subset\mathbb{R}^m$ を開集合、$F\colon U\to\mathbb{R}^n$ を $C^k$ 級($1\le k\le\infty$)とする。

  1. すべての $x\in U$ で $\operatorname{rank}_xF=r$ となるとき、$F$ を階数 $r$ の定階数写像(constant rank map)という。
  2. $DF(x)$ がすべての $x\in U$ で単射(すなわち $\operatorname{rank}_xF=m$)のとき、$F$ をはめ込み(immersion)という。
  3. $DF(x)$ がすべての $x\in U$ で全射(すなわち $\operatorname{rank}_xF=n$)のとき、$F$ を沈め込み(submersion)という。

はめ込みと沈め込みは定階数写像の特別な場合である。可微分多様体の間の写像についてのはめ込み・沈め込みは、座標近傍で表した写像がそれぞれの意味ではめ込み・沈め込みであることとして定まる。

階数の下半連続性

階数が最大であることは、1 点で成り立てばその近くでも成り立つ。これは次の補題による。

階数の下半連続性

$U\subset\mathbb{R}^m$ を開集合、$F\colon U\to\mathbb{R}^n$ を $C^1$ 級、$p\in U$ とし、$\operatorname{rank}_pF=r$ とする。このとき $p$ を含む開集合 $U_1\subset U$ で、すべての $x\in U_1$ について $\operatorname{rank}_xF\ge r$ となるものがある。とくに $r=\min\{m,n\}$ ならば、$F$ は $U_1$ 上で階数 $r$ の定階数写像である。

$r=0$ なら $U_1:=U$ でよい。$r\ge1$ とする。行列 $DF(p)$ の階数が $r$ なので、$r$ 行 $r$ 列を選んだ小行列で行列式が $0$ でないものがある。その小行列の行列式を $x$ の関数とみると、成分 $\partial F^i/\partial x^j(x)$ は連続なので、多項式である行列式も $x$ について連続である。$p$ で $0$ でないので、$p$ を含む開集合 $U_1$ の上で $0$ でない。$U_1$ の各点で $DF(x)$ は $0$ でない $r$ 次の小行列式をもつので、$\operatorname{rank}_xF\ge r$ である。$r=\min\{m,n\}$ なら $\operatorname{rank}_xF\le r$ も成り立つので、$U_1$ 上で $\operatorname{rank}_xF=r$ である。$\square$

一方、階数は上がることはあっても、近くで下がることはない。そのため階数が最大でない点では、階数一定の仮定は自動的には成り立たない(ex-crk-counterexamples)。

階数定理の主張

階数定理

$U\subset\mathbb{R}^m$ を開集合、$F\colon U\to\mathbb{R}^n$ を階数 $r$ の $C^k$ 級定階数写像($1\le k\le\infty$)とし、$p\in U$ とする。このとき、$p$ を含む開集合 $U_0\subset U$、$F(p)$ を含む開集合 $V_0\subset\mathbb{R}^n$ で $F(U_0)\subset V_0$ となるものと、$C^k$ 級微分同相写像
$$ \varphi\colon U_0\to\hat U_0\subset\mathbb{R}^m,\qquad\psi\colon V_0\to\hat V_0\subset\mathbb{R}^n $$
($\hat U_0$、$\hat V_0$ は開集合)が存在して、すべての $z=(z^1,\dots,z^m)\in\hat U_0$ について
$$ \psi\circ F\circ\varphi^{-1}(z^1,\dots,z^m)=(z^1,\dots,z^r,0,\dots,0) $$
が成り立つ。

図式で書くと、次の四角形が可換である。ここで $\pi_r(z):=(z^1,\dots,z^r,0,\dots,0)$ である。
$$ \begin{CD} U_0 @>{F}>> V_0\\ @V{\varphi}VV @VV{\psi}V\\ \hat U_0 @>{\pi_r}>> \hat V_0 \end{CD} $$
すなわち $\psi\circ F=\pi_r\circ\varphi$ が $U_0$ 上で成り立つ。$F$ は座標を取り替えれば「最初の $r$ 個の座標を残し、残りを捨てて $0$ を並べる」写像であり、$F$ の性質のうち座標の取り方によらないものはすべて $\pi_r$ から読み取れる。

階数定理の証明

段 1(位置と番号をそろえる)。 平行移動と座標の番号の並べ替えは $C^\infty$ 級微分同相写像である。$T_1(x):=P_1(x-p)$、$T_2(y):=P_2(y-F(p))$($P_1$、$P_2$ は座標を並べ替える線形同型)とし、$\tilde F:=T_2\circ F\circ T_1^{-1}$ について定理の $\tilde\varphi$、$\tilde\psi$ が得られれば、$\varphi:=\tilde\varphi\circ T_1$、$\psi:=\tilde\psi\circ T_2$ とおくと $\psi\circ F\circ\varphi^{-1}=\tilde\psi\circ\tilde F\circ\tilde\varphi^{-1}$ なので定理が従う。$D\tilde F=P_2\,DF\,P_1^{-1}$ の階数は $DF$ の階数と同じである。
$r=0$ の場合は、$DF=0$ なので $p$ を中心とする開球の上で $F$ は定数 $F(p)$ である(開球は凸なので平均値の不等式が使える)。この開球を $U_0$、$V_0:=\mathbb{R}^n$、$\varphi(x):=x-p$、$\psi(y):=y-F(p)$ とすればよい。以下 $r\ge1$ とする。$DF(p)$ には $0$ でない $r$ 次の小行列式があるので、$P_1$、$P_2$ で行と列を並べ替えて、はじめから次を仮定してよい:$p=0$、$F(0)=0$ で、$DF(0)$ の左上の $r\times r$ 小行列が正則。
$x\in\mathbb{R}^m$ を $x=(x',x'')$($x'\in\mathbb{R}^r$、$x''\in\mathbb{R}^{m-r}$)と分け、$F=(Q,R)$($Q\colon U\to\mathbb{R}^r$、$R\colon U\to\mathbb{R}^{n-r}$)と分ける。仮定は「$D_{x'}Q(0)=\bigl(\partial Q^i/\partial x^j(0)\bigr)_{1\le i,j\le r}$ が正則」である。
段 2(定義域の座標 $\varphi$)。 $\varphi\colon U\to\mathbb{R}^m$ を
$$ \varphi(x',x''):=\bigl(Q(x',x''),\,x''\bigr) $$
で定める。$\varphi$ は $C^k$ 級で $\varphi(0)=0$ であり、
$$ D\varphi(0)=\begin{pmatrix}D_{x'}Q(0)&D_{x''}Q(0)\\0&I_{m-r}\end{pmatrix} $$
の行列式は $\det D_{x'}Q(0)\ne0$ である。逆関数定理(その記事の定理「逆関数定理」の 3。$C^1$ 級の場合は Leb26 Theorem 8.5.1)により、$0$ を含む開集合 $U_1\subset U$ で、$\varphi|_{U_1}$ が $U_1$ から開集合 $\varphi(U_1)$ への $C^k$ 級微分同相写像となるものがある。$\varphi(U_1)$ は $0$ を含む開集合なので、$0$ を中心とする開立方体 $C=C'\times C''$($C'\subset\mathbb{R}^r$、$C''\subset\mathbb{R}^{m-r}$ も $0$ を中心とする開立方体)で $C\subset\varphi(U_1)$ となるものがある。$U_0:=\varphi^{-1}(C)\cap U_1$、$\hat U_0:=C$ とおくと、$\varphi\colon U_0\to\hat U_0$ は $C^k$ 級微分同相写像である。
段 3($F\circ\varphi^{-1}$ の形)。 $\varphi$ は第 2 成分 $x''$ を変えないので、逆写像も第 2 成分を変えず、$C^k$ 級写像 $A\colon C\to\mathbb{R}^r$ を用いて $\varphi^{-1}(z',z'')=(A(z',z''),z'')$ と書ける。$\varphi(\varphi^{-1}(z))=z$ の第 1 成分から $Q(A(z',z''),z'')=z'$ である。よって $\tilde R:=R\circ\varphi^{-1}\colon C\to\mathbb{R}^{n-r}$ とおくと
$$ F\circ\varphi^{-1}(z',z'')=\bigl(z',\,\tilde R(z',z'')\bigr)\qquad\bigl((z',z'')\in C\bigr) $$
である。
段 4(階数一定から $\tilde R$ は $z''$ によらない)。 $F\circ\varphi^{-1}$ の Jacobi 行列は
$$ D(F\circ\varphi^{-1})(z)=\begin{pmatrix}I_r&0\\ D_{z'}\tilde R(z)&D_{z''}\tilde R(z)\end{pmatrix} $$
である。連鎖律により $D(F\circ\varphi^{-1})(z)=DF(\varphi^{-1}(z))\,D(\varphi^{-1})(z)$ であり、$D(\varphi^{-1})(z)$ は正則なので、この行列の階数は $\operatorname{rank}_{\varphi^{-1}(z)}F=r$ に等しい。もしある $z\in C$ と $1\le i\le n-r$、$1\le j\le m-r$ について $\partial\tilde R^i/\partial z''^j(z)\ne0$ なら、上の行列の第 $1,\dots,r$ 行と第 $r+i$ 行、第 $1,\dots,r$ 列と第 $r+j$ 列からなる $(r+1)$ 次の小行列は
$$ \begin{pmatrix}I_r&0\\ \ast&\partial\tilde R^i/\partial z''^j(z)\end{pmatrix} $$
の形で、行列式は $\partial\tilde R^i/\partial z''^j(z)\ne0$ となり、階数が $r+1$ 以上になって矛盾する。よって $C$ 上で $D_{z''}\tilde R=0$ である。$z'\in C'$ を固定すると、$z''\mapsto\tilde R(z',z'')$ は凸集合 $C''$ 上で微分が $0$ なので、線分に沿った平均値の不等式により定数である。したがって $S(z'):=\tilde R(z',0)$($z'\in C'$)とおくと
$$ F\circ\varphi^{-1}(z',z'')=\bigl(z',\,S(z')\bigr)\qquad\bigl((z',z'')\in C\bigr) $$
であり、$S\colon C'\to\mathbb{R}^{n-r}$ は $C^k$ 級である。
段 5(値域の座標 $\psi$)。 $V_0:=C'\times\mathbb{R}^{n-r}$($\mathbb{R}^n$ の開集合)とし、$\psi\colon V_0\to V_0$ を
$$ \psi(w',w''):=\bigl(w',\,w''-S(w')\bigr) $$
で定める。$\psi$ は $C^k$ 級で、$C^k$ 級の逆写像 $(w',w'')\mapsto(w',w''+S(w'))$ をもつので、$C^k$ 級微分同相写像である($\hat V_0:=V_0$)。$x\in U_0$ なら $z:=\varphi(x)\in C$ で、段 4 により $F(x)=(z',S(z'))$、$z'\in C'$ なので $F(U_0)\subset V_0$ である。最後に、$z\in C$ について
$$ \psi\circ F\circ\varphi^{-1}(z',z'')=\psi\bigl(z',S(z')\bigr)=\bigl(z',\,S(z')-S(z')\bigr)=(z',0) $$
である。$\square$

証明の筋は、段 2 で「$F$ の最初の $r$ 成分を新しい座標にする」ことで $F$ を $(z',\tilde R(z))$ の形にし、段 4 で階数が $r$ から増えないことを使って残りの成分が $z'$ だけの関数であると示し、段 5 で値域の座標をずらしてその関数を消すことである。階数一定の仮定は段 4 だけで使われる。段 4 で開立方体をとったのは、$z''$ 方向の切り口 $C''$ を凸にして「微分が $0$ なら定数」を使うためである。
段 1 のように位置と番号をそろえたとき、$F(U_0)$ は $\psi^{-1}(C'\times\{0\})$、すなわちグラフ $\{(w',S(w'))\mid w'\in C'\}$ である。像が局所的に $r$ 次元のグラフになることは LS90 第 3 章 §13 の Theorem 13.2(pp. 176–178)でも示されている。階数の下半連続性は同じ節の Theorem 13.1(p. 176)である。

標準形は階数一定を必要とする

階数定理の仮定「階数が点の近くで一定」は、結論の標準形から逆に導かれる。したがってこの仮定は外せない。

標準形をもつ写像の階数

$U\subset\mathbb{R}^m$ を開集合、$F\colon U\to\mathbb{R}^n$ を $C^1$ 級とし、開集合 $U_0\subset U$、$V_0\supset F(U_0)$ と $C^1$ 級微分同相写像 $\varphi\colon U_0\to\hat U_0$、$\psi\colon V_0\to\hat V_0$ で、$\hat U_0$ 上 $\psi\circ F\circ\varphi^{-1}=\pi_r$ となるものがあるとする。このとき $U_0$ のすべての点で $\operatorname{rank}_xF=r$ である。

$U_0$ 上で $F=\psi^{-1}\circ\pi_r\circ\varphi$ なので、連鎖律により $x\in U_0$ で
$$ DF(x)=D(\psi^{-1})\bigl(\pi_r(\varphi(x))\bigr)\;D\pi_r\;D\varphi(x) $$
である。$D\pi_r$ は左上が $I_r$ で他が $0$ の $n\times m$ 行列で階数 $r$ であり、両側の行列は正則である。正則行列をかけても階数は変わらないので、$\operatorname{rank}DF(x)=r$ である。$\square$

はめ込みと沈め込みの局所標準形

階数が最大のとき、lem-crk-lower-semicontinuous により階数一定の仮定は 1 点での条件だけで満たされる。

局所はめ込み定理

$m\le n$ とし、$U\subset\mathbb{R}^m$ を開集合、$F\colon U\to\mathbb{R}^n$ を $C^k$ 級($1\le k\le\infty$)、$p\in U$ で $DF(p)$ が単射であるとする。このとき $p$ を含む開集合 $U_0$、$F(p)$ を含む開集合 $V_0$ と $C^k$ 級微分同相写像 $\varphi$、$\psi$ があって
$$ \psi\circ F\circ\varphi^{-1}(z^1,\dots,z^m)=(z^1,\dots,z^m,0,\dots,0) $$
となる。とくに $F$ は $U_0$ 上で単射であり、$U_0$ 上で $F$ ははめ込みである。

局所沈め込み定理

$m\ge n$ とし、$U\subset\mathbb{R}^m$ を開集合、$F\colon U\to\mathbb{R}^n$ を $C^k$ 級($1\le k\le\infty$)、$p\in U$ で $DF(p)$ が全射であるとする。このとき $p$ を含む開集合 $U_0$、$F(p)$ を含む開集合 $V_0$ と $C^k$ 級微分同相写像 $\varphi$、$\psi$ があって
$$ \psi\circ F\circ\varphi^{-1}(z^1,\dots,z^m)=(z^1,\dots,z^n) $$
となる。とくに $F$ は $U_0$ 上で沈め込みであり、$U_0$ に含まれる開集合の $F$ による像は開集合である。

はめ込みの場合、$\operatorname{rank}_pF=m=\min\{m,n\}$ なので、lem-crk-lower-semicontinuous により $p$ を含む開集合 $U_1$ の上で $F$ は階数 $m$ の定階数写像である。thm-crk-main を $F|_{U_1}$ に当てると $r=m$ の標準形 $\pi_m(z)=(z,0)$ を得る。$\pi_m$ は単射で、$\varphi$、$\psi^{-1}$ も単射なので、$F=\psi^{-1}\circ\pi_m\circ\varphi$ は $U_0$ 上で単射である。
沈め込みの場合、同様に $r=n$ の標準形 $\pi_n(z)=(z^1,\dots,z^n)$($n$ 個の座標への射影)を得る。$W\subset U_0$ が開集合なら $\varphi(W)$ は開集合であり、射影 $\pi_n\colon\mathbb{R}^n\times\mathbb{R}^{m-n}\to\mathbb{R}^n$ は開写像(積の形の開集合 $A\times B$ を開集合 $A$ に写し、任意の開集合はそのような集合の和である)なので $\pi_n(\varphi(W))$ は開集合、$\psi^{-1}$ は同相写像なので $F(W)=\psi^{-1}(\pi_n(\varphi(W)))$ も開集合である。どちらの場合も「$U_0$ 上で階数一定」は prop-crk-necessity による。$\square$

$m=n$ のときは 2 つの系はどちらも $\psi\circ F\circ\varphi^{-1}=\mathrm{id}$ を与え、$F=\psi^{-1}\circ\varphi$ は $U_0$ 上で微分同相写像になる。これは逆関数定理の結論である(ただしこの記事では証明に逆関数定理を使ったので、逆関数定理の別証明にはならない)。
局所はめ込み定理は「はめ込みは局所的には $\mathbb{R}^m$ を $\mathbb{R}^n$ の座標部分空間 $\mathbb{R}^m\times\{0\}$ に入れる写像である」と、局所沈め込み定理は「沈め込みは局所的には座標への射影である」と述べている。可微分多様体の間のはめ込み・沈め込みは、座標近傍で表せばここでの写像になるので、同じ標準形をもつ。

定階数写像の等位集合と像

定階数写像の等位集合と像

thm-crk-main の $U_0$、$V_0$、$\varphi$、$\psi$ をとり、$q:=F(p)$、$c:=(\psi(q)^1,\dots,\psi(q)^r)\in\mathbb{R}^r$ とおく。このとき
$$ F^{-1}(q)\cap U_0=\varphi^{-1}\bigl(\{z\in\hat U_0\mid z^1=c^1,\dots,z^r=c^r\}\bigr),\qquad F(U_0)=\psi^{-1}\bigl(\pi_r(\hat U_0)\bigr) $$
が成り立つ。前者は $\hat U_0$ を $r$ 個の座標を固定した $m-r$ 次元の平面で切った切り口の $\varphi^{-1}$ による像であり、後者は $\mathbb{R}^r\times\{0\}$ に含まれる集合の $\psi^{-1}$ による像である。

$\psi(q)=\psi(F(p))=\pi_r(\varphi(p))$ なので $\psi(q)=(c,0)$ である。$x\in U_0$ について、$\psi$ が単射であることから
$$ F(x)=q\iff\psi(F(x))=\psi(q)\iff\pi_r(\varphi(x))=(c,0)\iff\varphi(x)^i=c^i\ (1\le i\le r) $$
であり、前者が従う。後者は $F(U_0)=\psi^{-1}(\psi(F(U_0)))=\psi^{-1}(\pi_r(\varphi(U_0)))=\psi^{-1}(\pi_r(\hat U_0))$ から従う。$\square$

$\varphi$ は微分同相写像なので、前者は $F^{-1}(q)$ が $p$ の近くで $m-r$ 次元の部分多様体であることを示す。$r=n$ の場合が沈め込みの等位集合、すなわち正則値定理の局所版であり、陰関数定理の記事の定理「正則な等位集合の局所グラフ表示」と同じ内容を、階数が最大でない場合にまで広げたものである。後者は、$p$ の小さい近傍の $F$ による像が $r$ 次元の部分多様体であることを示す。ただし $F(U)$ 全体については何も言えない。単射なはめ込みでも、像への同相写像になるとは限らない(ex-crk-counterexamples の最後の例)。

例

階数 1 の写像

$F\colon\mathbb{R}^2\to\mathbb{R}^2$、$F(x,y):=\bigl(x+y,\,(x+y)^2\bigr)$ の Jacobi 行列は
$$ DF(x,y)=\begin{pmatrix}1&1\\2(x+y)&2(x+y)\end{pmatrix} $$
で、2 列が等しく第 1 行は $0$ でないので、階数はいたるところ $1$ である。証明の手順どおり、第 1 成分を新しい座標にして $\varphi(x,y):=(x+y,\,y)$ とおく。$\varphi$ は線形同型で、$\varphi^{-1}(s,t)=(s-t,\,t)$ であり、$F\circ\varphi^{-1}(s,t)=(s,s^2)$ となって第 2 成分は $t$ によらない(段 4)。値域の座標を $\psi(u,v):=(u,\,v-u^2)$(逆写像 $(u,v)\mapsto(u,v+u^2)$)とおくと
$$ \psi\circ F\circ\varphi^{-1}(s,t)=(s,\,s^2-s^2)=(s,0) $$
である。ここでは $U_0=\mathbb{R}^2$、$V_0=\mathbb{R}^2$ ととれる。等位集合 $F^{-1}(q)$ は直線 $x+y=\text{定数}$(1 次元)であり、像は放物線 $v=u^2$(1 次元)である。

円周を描く写像

$F\colon\mathbb{R}\to\mathbb{R}^2$、$F(t):=(\cos t,\sin t)$ は $F'(t)=(-\sin t,\cos t)\ne0$ なので、はめ込み(階数 $1$)である。$p=0$ では $F'(0)=(0,1)$ で第 2 成分の微分が $0$ でないので、段 1 のように値域の座標の番号を入れ替え、$\varphi(t):=\sin t$($U_0=(-\pi/2,\pi/2)$、$\hat U_0=(-1,1)$、$\varphi^{-1}=\arcsin$)とおく。すると $\cos(\arcsin z)=\sqrt{1-z^2}$ なので、
$$ \psi(x,y):=\bigl(y,\ x-\sqrt{1-y^2}\bigr)\qquad\bigl(V_0:=\{(x,y)\mid-1< y<1\}\bigr) $$
とおけば $\psi\circ F\circ\varphi^{-1}(z)=\bigl(z,\ \sqrt{1-z^2}-\sqrt{1-z^2}\bigr)=(z,0)$ である。$\psi$ は $V_0$ から $(-1,1)\times\mathbb{R}$ への $C^\infty$ 級微分同相写像である(逆写像 $(u,w)\mapsto(w+\sqrt{1-u^2},\,u)$)。局所はめ込み定理のとおり $F$ は $(-\pi/2,\pi/2)$ 上で単射だが、$F(t+2\pi)=F(t)$ なので $\mathbb{R}$ 全体では単射でない。

球面を等位集合にもつ関数

$F\colon\mathbb{R}^3\setminus\{0\}\to\mathbb{R}$、$F(x,y,z):=x^2+y^2+z^2$ は $DF=(2x,2y,2z)\ne0$ なので沈め込み(階数 $1$)である。点 $p=(1,0,0)$ の近くで、$U_0:=\{x>0\}$、$\varphi(x,y,z):=(x^2+y^2+z^2,\,y,\,z)$ とおくと、$\varphi$ は $U_0$ から $\{(s,y,z)\mid s>y^2+z^2\}$ への $C^\infty$ 級微分同相写像(逆写像 $(s,y,z)\mapsto(\sqrt{s-y^2-z^2},y,z)$)で、$F\circ\varphi^{-1}(s,y,z)=s$ である。$\psi:=\mathrm{id}$ として局所沈め込み定理の標準形になっている。等位集合 $F^{-1}(1)\cap U_0$ は $\varphi$ で平面 $s=1$ の一部 $\{(1,y,z)\mid y^2+z^2<1\}$ に写り、単位球面が $p$ の近くで 2 次元の部分多様体であることが分かる。

反例

外す条件反例成り立たなくなること
階数が一定$F(x)=x^2$($\mathbb{R}\to\mathbb{R}$)、点 $0$標準形($0$ で階数 $0$、その近くで階数 $1$)
階数が一定$F(x,y)=(x,\,xy)$($\mathbb{R}^2\to\mathbb{R}^2$)、原点標準形、等位集合の次元(原点の上の等位集合は直線、他の点の上は 1 点)
(結論の局所性)$F(t)=(\cos t,\sin t)$$\mathbb{R}$ 全体での単射性
(結論の局所性)$F(t)=(\sin 2t,\,\sin t)$、$-\pi< t<\pi$像全体への同相写像であること(単射なはめ込みでも埋め込みとは限らない)
反例の確かめ

$x^2$。 $F'(x)=2x$ なので $\operatorname{rank}_0F=0$、$x\ne0$ で $\operatorname{rank}_xF=1$ である。$0$ のまわりで標準形をもつとすると、prop-crk-necessity により $0$ を含む開集合の上で階数が一定でなければならないが、そうなっていない。直接にも、標準形 $\pi_1=\mathrm{id}$ なら $F$ は $0$ の近くで単射、$\pi_0=0$ なら $F$ は $0$ の近くで定数のはずだが、$F(x)=F(-x)$ かつ $F$ は定数でない。満たす性質は「$C^\infty$ 級」、満たさない性質は「$0$ の近くで階数一定」、破る含意は「$C^\infty$ 級写像は各点の近くで標準形 $\pi_r$ をもつ」である。
$(x,xy)$。 $\det DF(x,y)=\det\begin{pmatrix}1&0\\y&x\end{pmatrix}=x$ なので、$x=0$ で階数 $1$、$x\ne0$ で階数 $2$ である。prop-crk-necessity により原点の近くで標準形はない。実際、$F^{-1}(0,0)=\{(0,y)\mid y\in\mathbb{R}\}$ は直線だが、$u\ne0$ の点 $(u,v)$ の逆像は 1 点 $(u,v/u)$ であり、cor-crk-level-image が与える「等位集合はどれも $m-r$ 次元」という形にならない。
$(\cos t,\sin t)$。 ex-crk-circle で見たとおり、はめ込みであり局所的には単射だが、大域的には単射でない。
$(\sin 2t,\sin t)$。 $F$ は $(-\pi,\pi)$ 上の単射なはめ込みで、像 $S:=F((-\pi,\pi))$ は「8 の字」である。

詳細

$F'(t)=(2\cos2t,\cos t)$ は、$\cos t=0$ なら $\cos2t=2\cos^2t-1=-1$ なので $0$ にならず、$F$ ははめ込みである。$F(s)=F(t)$ とすると $\sin s=\sin t$ から $s=t$ または $s=\pm\pi-t$ であり、後者では $\sin2s=-\sin2t$ なので $\sin2t=0$、すなわち $t\in\{0,\pm\pi/2\}$ が必要になる。$t=0$ なら $s=\pm\pi$ は範囲外、$t=\pm\pi/2$ なら $s=t$ である。よって $F$ は単射である。


$F$ を $[-\pi,\pi]$ 上で考えると $F(\pm\pi)=(0,0)=F(0)$ なので $S=F([-\pi,\pi])$ であり、$S$ はコンパクト集合の連続像としてコンパクトである。一方 $(-\pi,\pi)$ はコンパクトでないので、$F\colon(-\pi,\pi)\to S$ は($S$ に $\mathbb{R}^2$ からの相対位相を入れて)同相写像ではない。$t\to\pm\pi$ のとき $F(t)$ が $F(0)$ に近づくので、$S$ の中では原点のどんな近傍にも $t\approx\pm\pi$ の弧が入り込む。cor-crk-level-image が保証するのは小さい $U_0$ の像についての主張だけで、像全体についての主張ではない。満たす性質は「単射なはめ込み」、満たさない性質は「像への同相写像」であり、破る含意は「単射なはめ込みは像への同相写像である」である。

補足

多様体の間の写像。 $M$、$N$ を $m$ 次元、$n$ 次元の滑らかな多様体、$F\colon M\to N$ を $C^\infty$ 級写像とし、微分 $dF_x\colon T_xM\to T_{F(x)}N$(接空間)の階数が $p$ の近くで $r$ であるとする。$p$、$F(p)$ のまわりの局所座標で $F$ を表すと、$\mathbb{R}^m$ の開集合から $\mathbb{R}^n$ への定階数写像になる(局所座標での $dF_x$ の表現行列は局所表示の Jacobi 行列である)。thm-crk-main の $\varphi$、$\psi$ を局所座標に合成すれば、$p$、$F(p)$ のまわりの局所座標で $F$ が $\pi_r$ と表されることが分かる。
$C^k$ 級の度合い。 証明で得られる $\varphi$、$\psi$ は $F$ と同じ $C^k$ 級である。逆関数定理が $C^k$ 級の逆写像を与え、$S$ が $C^k$ 級だからである。
Sard の定理との関係。 階数定理は階数が一定の場所についての定理である。$C^\infty$ 級写像 $F\colon U\to\mathbb{R}^n$ の臨界点($\operatorname{rank}_xF< n$ となる点)の像は、Sardの定理により測度 $0$ である。$C^\infty$ 級写像の階数は一般に場所によって変わり、階数が最大値をとる点の集合は開集合だが(lem-crk-lower-semicontinuous)、それ以外の点では階数定理は使えない。

関連項目

参考文献

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