直交行列(orthogonal matrix)とは、実正方行列 $Q$ で $Q^{\top}Q=I$ を満たすもの、すなわち列が $\mathbb{R}^n$ の正規直交基底をなす行列のことで、逆行列は転置 $Q^{\top}$ に等しい。直交行列であることは、標準内積や長さを保つこと、行が正規直交基底をなすことと同値であり、行列式は $\pm1$、固有値はすべて絶対値 $1$ の複素数である。どの直交行列 $Q$ も、ある直交行列 $P$ によって $P^{\top}QP$ を 2 次の回転行列と $\pm1$ を対角に並べた形にでき、さらに $n$ 次の直交行列は高々 $n$ 個の鏡映の積として書ける。
空間 $\mathbb{R}^3$ の 1 次変換で長さと角度を変えないものは、原点を通る軸のまわりの回転と、平面に関する鏡映を組み合わせたものである。たとえば
$$
Q=\frac13\begin{pmatrix}2&-1&2\\2&2&-1\\-1&2&2\end{pmatrix}
$$
の 3 本の列は長さが $1$ で互いに直交しており、$Q^{\top}Q=I_3$ を満たす。この $Q$ はベクトル $(1,1,1)^{\top}$ を動かさず、それに直交する平面を角 $\frac\pi3$ だけ回す回転である。このように $Q^{\top}Q=I$ を満たす実正方行列を 直交行列 という。直交行列は $\mathbb{R}^n$ の標準内積を保つ 1 次変換の行列であり、正規直交基底どうしの取り替えの行列でもある。
この記事では、直交行列を列・行・内積・長さで言い換える同値条件を整理し、固有値と行列式の性質を調べたうえで、2 つの定理を証明する。1 つは、どの直交行列も適当な正規直交基底をとれば 2 次の回転行列と $\pm1$ を対角に並べた形になること(標準形)、もう 1 つは、$n$ 次の直交行列が高々 $n$ 個の鏡映の積で書けることである。2 次の直交行列が回転か鏡映のどちらかであることを高校数学の行列から説明する記事は 回転・鏡映と行列の群 である。複素数を成分とする場合は ユニタリ行列 で扱う。
以下、$n\ge1$ とし、$\mathbb{R}^n$ の元は縦ベクトルとみる。$\mathbb{R}^n$ の標準内積を $x\cdot y:=x^{\top}y=\sum_ix_iy_i$、長さを $|x|:=\sqrt{x\cdot x}$ と書き、$e_1,\dots,e_n$ を標準基底とする。行列 $A$ について $(Ax)\cdot y=x^{\top}A^{\top}y=x\cdot(A^{\top}y)$ である(転置行列 の記事の定理「転置行列の特徴づけ」)。
$n$ 次の実正方行列 $Q\in M_n(\mathbb{R})$ が
$$
Q^{\top}Q=I_n
$$
を満たすとき、$Q$ を 直交行列(orthogonal matrix)という。$n$ 次の直交行列の全体を $\mathrm{O}(n)$、そのうち $\det Q=1$ を満たすものの全体を $\mathrm{SO}(n)$ と書く。
$Q^{\top}Q$ の $(i,j)$ 成分は $Q$ の第 $i$ 列 $q_i$ と第 $j$ 列 $q_j$ の内積 $q_i\cdot q_j$ である。したがって $Q^{\top}Q=I_n$ は、$Q$ の列 $q_1,\dots,q_n$ が $q_i\cdot q_j=\delta_{ij}$ を満たすこと、すなわち $\mathbb{R}^n$ の正規直交基底をなすことと同じである。名前は「直交行列」だが、条件は列が直交するだけでなく長さも $1$ であることを含む。また $Q^{\top}Q=I_n$ なら $Q$ は正則行列で $Q^{-1}=Q^{\top}$ である。逆行列の計算が転置だけで済むことが、直交行列が計算で重宝される理由の 1 つである。
直交行列は、複素数の行列でいうユニタリ行列($U^*U=I_n$)のうち成分がすべて実数のものにあたる(正規直交基底 の記事の定義「ユニタリ行列と直交行列」)。直交行列の積と逆行列はまた直交行列であり、$\mathrm{O}(n)$ は行列の積について群をなし、$\mathrm{SO}(n)$ はその部分群である(回転・鏡映と行列の群 の命題「直交群は群である」)。群としての構造は 直交群 を参照。
直交行列の最も基本的な例が鏡映である。
$0$ でない $u\in\mathbb{R}^n$ に対し
$$
H_u:=I_n-\frac{2}{u\cdot u}\,uu^{\top}
$$
とおく。$H_ux=x-2\dfrac{x\cdot u}{u\cdot u}\,u$ である。$H_u$ を、$u$ に直交する超平面 $u^{\perp}:=\{x\mid x\cdot u=0\}$ に関する 鏡映(reflection)の行列という。
$H_u$ は $u$ の $0$ でない定数倍の取り方によらない。$x\in u^{\perp}$ なら $H_ux=x$、また $H_uu=u-2u=-u$ である。つまり $H_u$ は、$x$ を超平面 $u^{\perp}$ の成分と $u$ 方向の成分に分け、$u$ 方向の成分だけを反転させる写像である(ex-orth-reflection)。
$\mathbb{R}^n$ の長さと角度は内積で決まるので、内積を保つ 1 次変換は図形の形を変えない「合同変換」のうち原点を動かさないものである。これを標準基底について行列で書いたものが直交行列であり、行列の列は標準基底の像、すなわち新しい直交座標系の座標軸の方向を並べたものである。行列式は向きを表し、$\det Q=1$ なら回転のように向きを保ち、$\det Q=-1$ なら鏡に映したように向きを反転する。
固有値で見ると、長さを変えない変換は複素数の範囲でも長さを変えないので、固有値はすべて絶対値 $1$ の複素数 $e^{i\theta}$ である。実数の固有値は $\pm1$ だけであり、実数でない固有値 $e^{\pm i\theta}$ の組は、ある平面での角 $\theta$ の回転として現れる。標準形の定理(thm-orth-normal-form)は、空間がこうした回転する平面と、固定される直線・反転される直線に直交分解されることを述べている。
$0$ でない $u$ に対する鏡映 $H_u$(def-orth-reflection)について、$c:=\frac{2}{u\cdot u}$ とおくと次が成り立つ。
実数 $t\ne0$ に対し $a:=\cosh t$、$b:=\sinh t$ とおき
$$
C:=\begin{pmatrix}a&ib\\-ib&a\end{pmatrix}\in M_2(\mathbb{C})
$$
とする。$C^{\top}C$ の成分は $a^2+(-ib)^2=a^2-b^2=1$、$a\cdot ib+(-ib)\cdot a=0$、$(ib)^2+a^2=1$ なので $C^{\top}C=I_2$ である。しかし $C$ の固有多項式は $(a-\lambda)^2-(ib)(-ib)=(a-\lambda)^2-b^2$ で、固有値は $a\pm b=e^{\pm t}$ であり、絶対値は $1$ でない。固有値 $e^{t}$ の固有ベクトル $z$ では $\|Cz\|=e^{t}\|z\|$ なので、$C$ は $\mathbb{C}^2$ の長さを保たない。この例は「$Q^{\top}Q=I$」を満たすが「成分が実数」を満たさない場合に、「固有値の絶対値が $1$」と「長さを保つ」が成り立たないことを示す。複素数の行列で長さを保つ条件は $Q^{\top}Q=I$ ではなく $Q^*Q=I$(ユニタリ行列)である。
$Q\in M_n(\mathbb{R})$ について、次は同値である。
1・3・5・6 の同値は 回転・鏡映と行列の群 の定理「長さを保つ 1 次変換」である(3 は「列が長さ $1$ で互いに直交する」と同じで、$n$ 個の正規直交系は基底である)。
1 ⇒ 2:$Q^{\top}$ は $Q$ の左逆行列なので、正方行列では右逆行列でもあり(正則行列 の記事の定理「片側の逆行列で十分であること」)、$QQ^{\top}=I_n$ である。同じ理由で 2 ⇒ 1 も成り立つ。
2 ⇔ 4:$QQ^{\top}$ の $(i,j)$ 成分は $Q$ の第 $i$ 行と第 $j$ 行の内積なので、1 ⇔ 3 と同じ理由による。
2 ⇔ 8:$(Q^{\top})^{\top}Q^{\top}=QQ^{\top}$ だからである。
3 ⇒ 7:$f_k=e_k$ ととれば、$Qe_k$ は $Q$ の第 $k$ 列である。
7 ⇒ 1:$f_1,\dots,f_n$ を列とする行列を $F$ とする。$F$ の列は正規直交基底なので、3 ⇒ 1 と 1 ⇒ 2 により $F^{\top}F=FF^{\top}=I_n$ である。$QF$ の列 $Qf_1,\dots,Qf_n$ も正規直交基底なので $(QF)^{\top}(QF)=F^{\top}(Q^{\top}Q)F=I_n$ である。左から $F$、右から $F^{\top}$ を掛けると $Q^{\top}Q=FF^{\top}=I_n$ を得る。$\square$
5 により、直交行列は $\mathbb{R}^n$ の長さ・角度・距離を保つ。逆に、原点を動かさず 2 点間の距離を保つ写像 $\mathbb{R}^n\to\mathbb{R}^n$ は、線形であることを仮定しなくても直交行列で表される(回転・鏡映と行列の群 の命題「原点を動かさない等長写像は直交行列」)。7 は、「ある 1 つの正規直交基底を正規直交基底に移せば十分」という判定法であり、一般の有限次元の実内積空間 $V$ の線形変換 $T$ について、$T$ が内積を保つことと、$V$ の正規直交基底に関する $T$ の表現行列が直交行列であることが同値であることも同じ計算で示せる(正規直交基底による座標は内積を保つ。正規直交基底 の記事の定理「正規直交基底による座標とParsevalの等式」、Axl24 7.49、p. 259)。
$Q\in\mathrm{O}(n)$ とする。
1:$\det Q^{\top}=\det Q$ と積の行列式の公式(行列式 の記事の命題「転置と行列式」、定理「積の行列式」)により $(\det Q)^2=\det(Q^{\top}Q)=1$ である。
2:$z\in\mathbb{C}^n$、$z\ne0$、$Qz=\lambda z$ とし、$\|z\|^2:=\bar z^{\top}z=\sum_i|z_i|^2>0$ とおく。$Q$ は実行列なので $\overline{Qz}=Q\bar z$ であり
$$
|\lambda|^2\|z\|^2=\overline{Qz}^{\top}Qz=\bar z^{\top}Q^{\top}Qz=\|z\|^2
$$
となるから $|\lambda|=1$ である。固有多項式 $\det(xI-Q)$ は実数係数なので、根 $\lambda$ の複素共役 $\bar\lambda$ も同じ重複度の根であり、$|\lambda|=1$ から $\bar\lambda=\lambda^{-1}$ である。
3・4:$Q^{\top}=Q^{-1}$ を使うと
$$
\det(Q-I)=\det\bigl(Q(I-Q^{\top})\bigr)=\det Q\cdot\det\bigl((I-Q)^{\top}\bigr)=\det Q\cdot(-1)^n\det(Q-I),
$$
$$
\det(Q+I)=\det\bigl(Q(I+Q^{\top})\bigr)=\det Q\cdot\det(I+Q)
$$
である。$\det Q=-1$ なら第 2 式から $\det(Q+I)=-\det(Q+I)$、すなわち $\det(Q+I)=0$ であり、$-1$ は固有値である。$\det Q=1$ で $n$ が奇数なら第 1 式から $\det(Q-I)=-\det(Q-I)$、すなわち $\det(Q-I)=0$ であり、$1$ は固有値である。$\square$
4 を $n=3$ に当てはめると、$\mathrm{SO}(3)$ の元は $0$ でないベクトル $v$ を動かさない。$v$ に直交する平面は $Q$ で保たれ(lem-orth-invariant)、そこでの $Q$ は平面の回転なので、$\mathrm{SO}(3)$ の元は軸のまわりの回転である(二重被覆群 の記事の定理「回転軸の定理」)。偶数次元ではこれは成り立たず、$R(\theta)$($0< \theta< 2\pi$)は $\mathrm{SO}(2)$ の元だが $1$ を固有値にもたない。
直交行列は実数の範囲では対角化できるとは限らない($R(\theta)$ は $\theta$ が $\pi$ の整数倍でなければ実の固有ベクトルをもたない)。しかし、2 次のブロックを許せば、直交行列で対角に近い形にできる。
$Q\in\mathrm{O}(n)$、$W\subset\mathbb{R}^n$ を部分空間とし、$Q(W)\subset W$ とする。このとき $Q(W)=W$ であり、直交補空間 $W^{\perp}:=\{v\mid v\cdot w=0\ (w\in W)\}$ についても $Q(W^{\perp})\subset W^{\perp}$ である。
$Q$ は正則なので $Q|_W\colon W\to W$ は単射であり、$W$ は有限次元なので全射である。よって $Q(W)=W$ である。$v\in W^{\perp}$、$w\in W$ とする。$w=Qw'$ となる $w'\in W$ があるので、thm-orth-equivalent の 5 により $Qv\cdot w=Qv\cdot Qw'=v\cdot w'=0$ である。よって $Qv\in W^{\perp}$ である。$\square$
$A\in M_n(\mathbb{R})$($n\ge1$)が実数の固有値をもたなければ、$A(W)\subset W$ を満たす 2 次元の部分空間 $W\subset\mathbb{R}^n$ がある。
代数学の基本定理により、$A$ は複素数の固有値 $\lambda=a+ib$($a,b\in\mathbb{R}$)をもち、仮定により $b\ne0$ である。固有ベクトル $z\in\mathbb{C}^n$ を $z=x+iy$($x,y\in\mathbb{R}^n$)と書く。$Az=\lambda z$ の実部と虚部を比べると
$$
Ax=ax-by,\qquad Ay=bx+ay
$$
である。よって $W:=\operatorname{span}\{x,y\}$ は $A(W)\subset W$ を満たし、$z\ne0$ なので $W\ne\{0\}$ である。$\dim W=1$ と仮定すると、$W=\mathbb{R}w$ と書け、$A$ は $W$ の上で実数 $\mu$ 倍として働く。$x=\alpha w$、$y=\beta w$ と書けば $z=(\alpha+i\beta)w$ で $Az=\mu z$ となり、$\lambda=\mu$ が実数であることになって矛盾する。よって $\dim W=2$ である。$\square$
$Q\in\mathrm{O}(n)$ とする。直交行列 $P\in\mathrm{O}(n)$ と、$0< \theta_1\le\cdots\le\theta_k< \pi$ を満たす実数、および $2k+p+q=n$ を満たす $0$ 以上の整数 $k,p,q$ で
$$
P^{\top}QP=\begin{pmatrix}R(\theta_1)&&&&\\&\ddots&&&\\&&R(\theta_k)&&\\&&&I_p&\\&&&&-I_q\end{pmatrix}
$$
(空白の成分は $0$)となるものが存在する。$\theta_1,\dots,\theta_k$ と $p,q$ は $Q$ だけで決まり、$Q$ の固有値は重複度込みで $e^{\pm i\theta_1},\dots,e^{\pm i\theta_k}$、$1$($p$ 個)、$-1$($q$ 個)である。とくに $\det Q=(-1)^q$ である。
段 1(主張の言い換え):$P$ の列を $p_1,\dots,p_n$ とすると、$P^{\top}QP=P^{-1}QP$ が上の形であることは、正規直交基底 $p_1,\dots,p_n$ について、$Qp_{2j-1}=\cos\theta_jp_{2j-1}+\sin\theta_jp_{2j}$、$Qp_{2j}=-\sin\theta_jp_{2j-1}+\cos\theta_jp_{2j}$($j\le k$)、残りの $p_l$ が $Qp_l=\pm p_l$ を満たすことと同じである。そこで次を部分空間の次元 $m$ についての帰納法で示す。「$Q(V)\subset V$ を満たす $m$ 次元の部分空間 $V$ は正規直交基底をもち、その基底は互いに直交する 1 次元か 2 次元の部分空間の基底に分かれ、各 1 次元部分 $\mathbb{R}w$ では $Qw=\pm w$、各 2 次元部分 $(w,w')$ では $Q$ が $R(\theta)$($0< \theta< \pi$)で表される」。$V=\mathbb{R}^n$ の場合に基底の順序を並べ替えれば定理の存在部分になる(並べ替えた正規直交基底を列とする $P$ は直交行列である)。
段 2(帰納法):$m=0$ なら空の基底でよい。$m\ge1$ とする。$V$ の正規直交基底 $v_1,\dots,v_m$ で $Q|_V$ を表した行列を $M\in M_m(\mathbb{R})$ とする。$M$ の第 $j$ 列は $Qv_j$ の座標であり、正規直交基底による座標は内積を保つ(正規直交基底 の記事の定理「正規直交基底による座標とParsevalの等式」)ので、$M$ の列は正規直交であり、$M$ は直交行列である。
(a) $Q|_V$ が実の固有値 $\mu$ をもつとき:固有ベクトル $w\in V$、$|w|=1$ をとる。$|\mu|=|Qw|=|w|=1$ なので $\mu=\pm1$ であり、$W:=\mathbb{R}w$ とおく。
(b) 実の固有値をもたないとき:lem-orth-small-invariant を $M$ に使い、座標を $V$ に戻して、$Q(W)\subset W$ となる 2 次元の $W\subset V$ をとる。$W$ の正規直交基底 $w,w'$ に関する $Q|_W$ の行列 $N$ は、上と同じ理由で 2 次の直交行列なので、回転・鏡映と行列の群 の定理「2 次の直交行列の分類」により $N=R(\theta)$ か $N=S(\theta)$ である。鏡映 $S(\theta)$ は固有値 $1$ の固有ベクトルをもち、$R(\theta)$ も $\theta$ が $\pi$ の整数倍なら $\pm I_2$ なので、(b) の仮定によりどちらも起こらない。よって $N=R(\theta)$ で、$\theta$ は $0< \theta< 2\pi$、$\theta\ne\pi$ にとれる。$\pi< \theta< 2\pi$ なら、基底を $w,-w'$ に替えると行列は $\begin{pmatrix}1&0\\0&-1\end{pmatrix}R(\theta)\begin{pmatrix}1&0\\0&-1\end{pmatrix}=R(-\theta)=R(2\pi-\theta)$ になり、$0< 2\pi-\theta< \pi$ である。
どちらの場合も $V':=V\cap W^{\perp}$ は、$V$ と $W^{\perp}$ がともに $Q$ で保たれる(lem-orth-invariant)ので $Q$ で保たれ、$W\subset V$ から $V=W\oplus V'$、$\dim V'=m-\dim W< m$ である。帰納法の仮定により $V'$ は求める正規直交基底をもち、それに $W$ の基底を加えたものが $V$ の求める基底である。
段 3(一意性と固有値):ブロック対角行列の固有多項式から $\theta_j$ と $p,q$ が読み取れる。
ブロック対角行列の固有多項式はブロックの固有多項式の積であり、$R(\theta)$ の固有多項式は $x^2-2x\cos\theta+1=(x-e^{i\theta})(x-e^{-i\theta})$ なので、$Q$ の固有多項式は
$$\prod_{j=1}^k(x-e^{i\theta_j})(x-e^{-i\theta_j})\cdot(x-1)^p(x+1)^q$$
である(相似な行列の固有多項式は等しい)。$0< \theta_j< \pi$ なので $e^{i\theta_j}$ は虚部が正の固有値であり、虚部が正の固有値を重複度込みで並べれば $\theta_1,\dots,\theta_k$ が決まり、$p,q$ は固有値 $1,-1$ の重複度として決まる。$\det Q$ は固有値の積 $(-1)^q$ である。$\square$
$\mathrm{SO}(n)$ の元は $q$ が偶数の場合であり、$-I_2=R(\pi)$ と見直せば、$-1$ のブロックも 2 個ずつ回転にまとめられる。とくに $Q\in\mathrm{SO}(3)$ なら $P^{\top}QP=\begin{pmatrix}R(\theta)&0\\0&1\end{pmatrix}$($0\le\theta\le\pi$)の形になる。ex-orth-examples の 3 はその計算例である。この定理は、複素数の範囲で考えたユニタリ対角化(ユニタリ行列)を、互いに共役な固有値 $e^{\pm i\theta}$ の固有ベクトルの実部と虚部を組にして実数の中に戻したものと見ることもできる。
2 次の直交行列では、回転は 2 つの鏡映の積である(回転・鏡映と行列の群 の命題「回転と鏡映の積」)。一般の次元でも、鏡映が直交行列全体を生み出す。
段 1(鏡映で 1 本を戻す):$v\in\mathbb{R}^n$ で $Qv\ne v$ とし、$u:=Qv-v$ とおく。$|Qv|=|v|$ なので $(Qv+v)\cdot u=|Qv|^2-|v|^2=0$ である。$Qv=\frac12(Qv+v)+\frac12u$ と分けると、$H_u$ は $u^{\perp}$ の元 $\frac12(Qv+v)$ を動かさず $u$ を $-u$ に移すので、$H_uQv=\frac12(Qv+v)-\frac12u=v$ である。
段 2(帰納法):1 を、次の主張の $V=\mathbb{R}^n$ の場合として示す。「$V$ を $m$ 次元の部分空間とし、$Q\in\mathrm{O}(n)$ が $V^{\perp}$ のすべての元を動かさないとする。このとき $Q$ は、$V$ に属するベクトル $u_i$ による高々 $m$ 個の鏡映 $H_{u_i}$ の積である」。$m$ についての帰納法による。$Q=I_n$ なら $k=0$ でよいので($m=0$ なら $V^{\perp}=\mathbb{R}^n$ でこの場合になる)、$Q\ne I_n$ とする。
$Q$ は $V^{\perp}$ を保つので、lem-orth-invariant により $V=(V^{\perp})^{\perp}$ も保つ。$Qv\ne v$ となる $v$ を $v=v_1+v_2$($v_1\in V$、$v_2\in V^{\perp}$)と分けると $Qv-v=Qv_1-v_1$ なので、はじめから $v\in V$ としてよい。段 1 の $u=Qv-v$ は $V$ に属し、$Q':=H_uQ$ は $Q'v=v$ を満たす。$u\in V$ なので $H_u$ は $V^{\perp}\subset u^{\perp}$ の元を動かさず、$Q'$ も $V^{\perp}$ の元を動かさない。よって $Q'$ は $V^{\perp}+\mathbb{R}v$ の元をすべて動かさない。$V':=V\cap v^{\perp}$ は $m-1$ 次元の部分空間で、$(V')^{\perp}=V^{\perp}+\mathbb{R}v$ である。
$V^{\perp}$ と $v$ はどちらも $V'$ のすべての元と直交するので $V^{\perp}+\mathbb{R}v\subset(V')^{\perp}$ である。$v\in V$、$v\ne0$ なので $v\notin V^{\perp}$ であり、左辺の次元は $(n-m)+1$、右辺の次元は $n-(m-1)$ で等しい。
この定理は、標数が $2$ でない体の上の非退化 2 次形式について、その等長変換が高々 $n$ 個の鏡映の積であるという Cartan–Dieudonné の定理(Voi21 Theorem 4.5.7、p. 56)の、標準内積の場合である。2 により、$\mathrm{SO}(n)$ の元はちょうど偶数個の鏡映の積で書ける直交行列である。証明で使った鏡映 $H_{Qv-v}$ は、同じ長さの 2 つのベクトル $v$ と $Qv$ を入れ替える。とくに、$a\in\mathbb{R}^n$ が $a\ne|a|e_1$ なら、鏡映 $H_{a-|a|e_1}$ は $a$ を $|a|e_1$ に移す。これは行列の列を 1 本ずつ $e_1$ の方向にそろえる計算に使える。
冒頭の $Q$ に証明の手順を当てる。$v=e_1$ とすると $Qe_1=\frac13(2,2,-1)^{\top}\ne e_1$ で、$u=Qe_1-e_1=\frac13(-1,2,-1)^{\top}$ である。$H_u$ は $u$ の定数倍によらないので $u=(-1,2,-1)^{\top}$ としてよく、計算すると
$$
H_uQ=\begin{pmatrix}1&0&0\\0&0&1\\0&1&0\end{pmatrix}
$$
である。これは $u'=(0,1,-1)^{\top}$ による鏡映 $H_{u'}$($e_2$ と $e_3$ の入れ替え)に等しいので、$Q=H_uH_{u'}$ である。$Q$ が動かさないベクトルは軸 $(1,1,1)^{\top}$ の定数倍だけなので $\dim\ker(Q-I_3)=1$ であり、thm-orth-reflections の 2 により 2 個より少ない鏡映の積では書けない。実際、2 つの鏡映面 $u^{\perp}$ と $(u')^{\perp}$ の交わりは直線 $\mathbb{R}(1,1,1)^{\top}$ である。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 成分が実数(複素数の成分で $Q^{\top}Q=I$) | ex-orth-complex の $C$ | 長さを保つこと、固有値の絶対値が $1$ であること |
| 列の長さが $1$(列どうしは直交) | $\begin{pmatrix}1&1\\1&-1\end{pmatrix}$ | $\det Q=\pm1$、長さを保つこと |
| 列どうしが直交(列の長さは $1$) | $\begin{pmatrix}1&\frac1{\sqrt2}\\0&\frac1{\sqrt2}\end{pmatrix}$ | 長さを保つこと |
| 正方行列($2\times1$ 行列で $q^{\top}q=I_1$) | $q=\frac1{\sqrt2}(1,1)^{\top}$ | $qq^{\top}=I_2$ |
| $\det Q=1$($n$ は奇数のまま) | $-I_3$ | 固有値 $1$ をもつこと |
| $n$ が奇数($\det Q=1$ のまま) | $R(\frac\pi2)\in\mathrm{SO}(2)$ | 固有値 $1$ をもつこと |
1 行目は ex-orth-complex で確かめた。2〜6 行目はどれも直接の計算で確かめられる。
2 行目:列 $(1,1)^{\top}$、$(1,-1)^{\top}$ は直交するが長さは $\sqrt2$ で、行列式は $-2$、$e_1$ の像の長さは $\sqrt2$ である。3 行目:列の長さはどちらも $1$ だが内積は $\frac1{\sqrt2}$ で、$x=(1,-1)^{\top}$ の像 $(1-\frac1{\sqrt2},-\frac1{\sqrt2})^{\top}$ の長さの 2 乗は $2-\sqrt2$ であり、$|x|^2=2$ と異なる。4 行目:$q^{\top}q=\frac12(1+1)=1$ だが、$qq^{\top}=\frac12\begin{pmatrix}1&1\\1&1\end{pmatrix}$ は階数 $1$ で $I_2$ でない。正方でなければ片側の逆行列はもう一方の側の逆行列にならない。5 行目:$-I_3$ は直交行列で $\det(-I_3)=-1$、固有値は $-1$ だけである。6 行目:$R(\frac\pi2)$ の固有値は $\pm i$ である。
有限次元の実内積空間 $V$ の線形変換 $T$ で $\langle Tx,Ty\rangle=\langle x,y\rangle$ を満たすものを 直交変換 という。$V$ の正規直交基底を 1 つ固定すると、$T$ が直交変換であることは、その基底に関する表現行列が直交行列であることと同値である(正規直交基底 の記事の定理「正規直交基底による座標とParsevalの等式」により、座標は内積を保つ)。したがって、この記事の定理は、正規直交基底で書き直せば有限次元の実内積空間の直交変換についてそのまま成り立つ。無限次元では、内積を保つ線形写像が全射とは限らず、状況が変わる(ユニタリ行列 の記事の注意「無限次元でのずらし作用素」)。
$A\in M_n(\mathbb{R})$ が $A^{\top}=-A$(交代行列)を満たすとき、$H:=-iA$ は Hermite 行列であり($H^*=i A^{\top}=-iA=H$)、$I+iH=I+A$、$I-iH=I-A$ である。よって ユニタリ行列 の記事の定理「Cayley 変換」により、$Q:=(I+A)(I-A)^{-1}$ はユニタリ行列で、成分は実数なので直交行列であり、$-1$ を固有値にもたない。逆に $-1$ を固有値にもたない直交行列 $Q$ は $A=(Q-I)(Q+I)^{-1}$ によってただ 1 つの交代行列から得られる。thm-orth-normal-form で $q=0$ の場合にあたるので、このような $Q$ は $\mathrm{SO}(n)$ に属する。たとえば $n=2$、$A=\begin{pmatrix}0&-t\\t&0\end{pmatrix}$ なら $Q=\frac1{1+t^2}\begin{pmatrix}1-t^2&-2t\\2t&1-t^2\end{pmatrix}=R(\theta)$($t=\tan\frac\theta2$)となり、これは単位円の有理パラメータ表示である。
内積を保つ線形写像の特徴づけは Axl24 7.49(§7D、p. 259)、正方の場合の特徴づけ($S^*S=SS^*=I$、行が正規直交基底をなすことなど)は 7.53(p. 261)、固有値の絶対値が $1$ であることは 7.54(p. 262)、行列式の絶対値が $1$ であることは 9.58(p. 362)にある。同書はこれらを複素数の場合を含めて述べている。$\mathbb{R}^n$ の直交行列の列と内積については Bee15 の Section MINM(Definition UM、Theorem CUMOS)が複素数の場合を扱っている。鏡映の積への分解は、一般の非退化 2 次形式の場合が Voi21 Theorem 4.5.7(§4.5、p. 56)にあり、同書は証明を他の文献に譲っている。標準形と鏡映の積への分解は、この記事の証明で完結している。
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