円周率

同義語:πpi

概要

円周率(pi)とは、円周の長さと直径の比のことで、どの円でも同じ値 $\pi=3.14159\ldots$ をとる。円周の長さを内接多角形の周の長さの上限として定めると、単位円の円周の長さの半分が $\pi$ であり、解析学では $\cos x$ の最小の正の零点の 2 倍として定義され、両者は一致する。単位円に内接する正六角形の周が $6$ であることなどから $3<\pi<4$ が分かり、Archimedes は内接・外接する正 96 角形を使って $\frac{223}{71}<\pi<\frac{22}{7}$ を示した。半径 $r$ の円の面積は $\pi r^2$ であり、$\frac{\pi}{4}=1-\frac13+\frac15-\cdots$(Leibniz の級数)も成り立つ。$\pi$ は無理数であり、さらに超越数である。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: Euclid幾何学, 三角関数, 上限と下限, 微分積分学の基本定理

半径 $1$ の円(Euclid幾何学)に内接する正六角形は、1 辺が半径と同じ $1$ の正三角形 6 つに分かれるので、周の長さは $6$ である。同じ円に外接する正方形は 1 辺が直径の $2$ なので、周の長さは $8$ である。円周は内接六角形より長く、外接正方形より短いと考えられるので、円周の長さは $6$ と $8$ の間にあり、直径 $2$ で割った「円周と直径の比」は $3$ と $4$ の間にある。多角形の辺の数を増やしていけば、この比をいくらでも精密に挟める。Archimedes は正 96 角形を使って、この比が $3\frac{10}{71}=3.1408\ldots$ より大きく $3\frac17=3.1428\ldots$ より小さいことを示した(Hea97、『円の計測』命題 3)。この比が 円周率 であり、$\pi$ と書く。$\pi=3.14159265358979\ldots$ である。
円周率はどの円でも同じ値をとり(prop-pi-scaling)、円の面積 $\pi r^2$、三角関数の周期 $2\pi$、Basel問題の和 $\sum1/n^2=\pi^2/6$、Stirlingの公式の $\sqrt{2\pi n}$ など、数学のいたるところに現れる。本記事では、円周率の 2 通りの定義(円周と直径の比、$\cos$ の最小の正の零点の 2 倍)とそれらが一致することを示し、Archimedes の方法による評価と Leibniz の級数を証明する。$\pi$ が無理数であることの証明は 円周率の無理性 の記事で扱い、ここでは結果だけを引く。

定義

円周と直径の比としての定義

中心 $c$、半径 $r>0$ の円 $\{x\in\mathbb{R}^2\mid\|x-c\|=r\}$ の上に $N\ge3$ 個の点 $Q_0,Q_1,\dots,Q_{N-1}$ を、円周を反時計回りに 1 周する順にとり、$Q_N:=Q_0$ とおく。$Q_0,\dots,Q_{N-1}$ を頂点とする多角形を円に 内接する多角形 といい、その周の長さを
$$ \ell(Q_0,\dots,Q_{N-1}):=\sum_{k=0}^{N-1}\|Q_{k+1}-Q_k\| $$
と書く。円周は曲線なので、その長さは線分の長さのようには直接定まらない。そこで内接する多角形の周の長さで近似し、その上限を円周の長さと定める。

円周の長さと円周率

中心 $c$、半径 $r$ の円の 円周の長さ を、その円に内接するすべての多角形の周の長さの上限
$$ L(r):=\sup\ \ell(Q_0,\dots,Q_{N-1}) $$
と定める(prop-pi-bounded により有限の値である)。単位円($r=1$)の円周の長さの半分 $\pi:=\frac12L(1)$ を 円周率(pi)という。

内接する多角形に頂点を 1 つ付け加えると、三角不等式 $\|Q_{k+1}-Q_k\|\le\|Q_{k+1}-Q'\|+\|Q'-Q_k\|$ により周の長さは減らない。したがって、上限は頂点を細かくとった多角形の周で近似される。ただし頂点を 1 か所に集めて増やしても上限には近づかないので、頂点を増やしさえすればよいわけではない。どのようにとれば上限に近づくか(たとえば正多角形)は thm-pi-equivalence の証明で示す。

周の長さの上界

単位円に内接する任意の多角形の周の長さは $8$ 以下である。したがって $L(1)\le8$、$\pi\le4$ である。

座標ごとの変化の合計

内接多角形に、4 点 $(1,0),(0,1),(-1,0),(0,-1)$ のうち頂点でないものを、1 周する順序の中の正しい位置に付け加えても、周の長さは減らない。よって、この 4 点を頂点に含む多角形について示せばよい。頂点の列は、4 つの四分円周(たとえば $(1,0)$ から $(0,1)$ までの第 1 象限の弧)に分かれる。第 1 象限の弧の上では、反時計回りに進むと $x$ 座標は $1$ から $0$ まで減り続け、$y$ 座標は $0$ から $1$ まで増え続ける。したがって、この弧の上の辺について $x$ 座標の変化の絶対値の和は $1-0=1$、$y$ 座標の変化の絶対値の和も $1$ である。ほかの 3 つの四分円周でも同様である。各辺 $Q_kQ_{k+1}$ について、座標の差を $(a,b)$ とすると $\|Q_{k+1}-Q_k\|=\sqrt{a^2+b^2}\le|a|+|b|$ なので、周の長さは $x$ 座標の変化の絶対値の和 $4$ と $y$ 座標の変化の絶対値の和 $4$ の合計 $8$ 以下である。$\square$

円周と直径の比はすべての円で等しい

半径 $r$ の円の円周の長さは $L(r)=2\pi r$ である。したがって、どの円でも円周と直径の比は $\pi$ である。

相似拡大で内接多角形を対応させる

中心は平行移動で動かしても周の長さは変わらないので、中心を原点としてよい。写像 $x\mapsto rx$ は単位円を半径 $r$ の円に全単射で写し、1 周する順序を保つので、単位円に内接する多角形と半径 $r$ の円に内接する多角形を 1 対 1 に対応させる。対応する多角形の各辺の長さは $\|rQ_{k+1}-rQ_k\|=r\|Q_{k+1}-Q_k\|$ と $r$ 倍になるので、周の長さも $r$ 倍になる。上限をとると $L(r)=rL(1)=2\pi r$ である。$\square$

余弦関数の零点による定義

解析学では、三角関数を冪級数
$$ \cos x=\sum_{k=0}^\infty\frac{(-1)^kx^{2k}}{(2k)!},\qquad \sin x=\sum_{k=0}^\infty\frac{(-1)^kx^{2k+1}}{(2k+1)!} $$
で定義し、図形を使わずに円周率を定義する。

余弦関数の零点による円周率

$\cos x=0$ を満たす正の実数 $x$ の最小値を $\frac{\pi}{2}$ と定める。すなわち $\pi:=2\min\{x>0\mid\cos x=0\}$ である。

次の性質は冪級数による定義から導かれる。本記事ではこれらを使う。

  • $\cos0=1$、$\sin0=0$、$\cos$ は偶関数、$\sin$ は奇関数、$\cos^2x+\sin^2x=1$、$\cos'=-\sin$、$\sin'=\cos$。$\cos$ と $\sin$ は周期 $2\pi$ をもち、$t\mapsto(\cos t,\sin t)$ は $[0,2\pi)$ から単位円への全単射である(Leb2 §11.4 の Proposition 11.4.2。そこでは $\pi$ を $\cos$ の正の零点の下限の 2 倍として定義している)。
  • 加法定理 $\cos(x+y)=\cos x\cos y-\sin x\sin y$、$\sin(x+y)=\sin x\cos y+\cos x\sin y$(Leb2 §11.4 の Exercise 11.4.7。指数関数の等式 $e^{i(x+y)}=e^{ix}e^{iy}$ の実部と虚部を比べて得られる)。
  • $\cos$ は $[0,\frac\pi2)$ で正である($\cos0=1$ と def-pi-analytic の最小性、中間値の定理による)。したがって $\sin'=\cos$ により $\sin$ は $[0,\frac\pi2]$ で増加し、$(0,\frac\pi2]$ で正であり、$\cos^2+\sin^2=1$ から $\sin\frac\pi2=1$ である。加法定理から $\sin\pi=2\sin\frac\pi2\cos\frac\pi2=0$、$\cos\pi=\cos^2\frac\pi2-\sin^2\frac\pi2=-1$ なので $\sin(\pi-x)=\sin x$ となり、$\sin$ は $[0,\pi]$ で $0$ 以上である。さらに $\sin$ は $(0,\frac\pi2]$ で正なので、$\sin(\pi-x)=\sin x$ により $(0,\pi)$ でも正であり、$\sin\pi=0$ である。したがって $\pi$ は $\sin x=0$ となる最小の正の実数でもある(円周率の無理性 の記事はこの形で $\pi$ を定義している)。
    単位円上の点を「反時計回りに 1 周する順」に並べることは、この全単射で対応する $t\in[0,2\pi)$ を小さい順に並べることとして正確に言い表せる。本記事ではこの意味で順序を扱う。
    最小値の存在について一言補うと、$\cos$ の零点の集合は $\cos$ の連続性により閉集合で、$\cos0=1\ne0$ なので $0$ の近くに零点はなく、正の零点があれば最小のものがある。正の零点があることは $\cos2<0$ と中間値の定理から分かる。実際、$\cos2=1-2+\frac23-\frac{4}{45}+\cdots$ の $k\ge1$ の項 $\frac{2^{2k}}{(2k)!}$ は $k$ とともに減少するので、2 項目以降は交代級数として $-2+\frac23$ 以下になり(級数 の記事の定理「Leibnizの判定法」の証明と同じ評価)、$\cos2\le1-2+\frac23=-\frac13<0$ である。とくに $\frac\pi2<2$、すなわち $\pi<4$ である。

2 つの定義の一致

def-pi-geometric の $\pi$ を $\pi_{\mathrm{geo}}$、def-pi-analytic の $\pi$ を $\pi_{\mathrm{an}}$ と書いて区別する。

弦の長さと正弦

$0\le s< t\le s+2\pi_{\mathrm{an}}$ のとき、単位円上の 2 点 $(\cos s,\sin s)$ と $(\cos t,\sin t)$ の距離は $2\sin\frac{t-s}{2}$ である。

加法定理による計算

$u:=t-s$ とおく。距離の 2 乗は
$$ (\cos t-\cos s)^2+(\sin t-\sin s)^2=2-2(\cos t\cos s+\sin t\sin s)=2-2\cos u $$
である($\cos^2+\sin^2=1$ と加法定理)。加法定理から $\cos u=\cos^2\frac u2-\sin^2\frac u2=1-2\sin^2\frac u2$ なので、距離の 2 乗は $4\sin^2\frac u2$ である。$0\le\frac u2\le\pi_{\mathrm{an}}$ で $\sin\frac u2\ge0$ なので、距離は $2\sin\frac u2$ である。$\square$

2 つの定義による円周率の一致

$\pi_{\mathrm{geo}}=\pi_{\mathrm{an}}$ である。すなわち、単位円に内接する多角形の周の長さの上限は、$\cos$ の最小の正の零点の 4 倍に等しい。

正弦は角より小さいことと正多角形の極限

$\pi_{\mathrm{an}}$ を $\pi$ と書く。単位円に内接する多角形の頂点は、上の全単射により $Q_k=(\cos t_k,\sin t_k)$、$0\le t_0< t_1<\cdots< t_{N-1}<2\pi$ と書ける(1 周する順に番号をつけ、$t_0$ が最小になるよう始点を選ぶ)。$t_N:=t_0+2\pi$ とおけば、周期性により $Q_N=Q_0$ である。
上からの評価:$x>0$ で $\sin x< x$ である。実際 $g(x):=x-\sin x$ は $g(0)=0$、$g'(x)=1-\cos x\ge0$ であり、$0< x<2\pi$ では $\cos x\ne1$($\cos x=1$ なら $\sin x=0$ で、点 $(\cos x,\sin x)$ が $t=0$ の点と一致し、全単射性に反する)なので $g'(x)>0$ であり、平均値の定理により $x>0$ で $g(x)>0$ となる($x\ge2\pi$ なら $x>1\ge\sin x$ である)。lem-pi-chord により周の長さは
$$ \sum_{k=0}^{N-1}2\sin\frac{t_{k+1}-t_k}{2}<\sum_{k=0}^{N-1}(t_{k+1}-t_k)=t_N-t_0=2\pi $$
なので、上限をとって $L(1)\le2\pi$ である。
下からの評価:$t_k:=2\pi k/N$ とした正 $N$ 角形の周の長さは、lem-pi-chord により $2N\sin\frac\pi N$ である。$\sin'(0)=\cos0=1$ なので $\frac{\sin h}{h}\to1$($h\to0$)であり、
$$ 2N\sin\frac\pi N=2\pi\cdot\frac{\sin(\pi/N)}{\pi/N}\longrightarrow2\pi\qquad(N\to\infty) $$
となる。上限はこれらの値以上なので $L(1)\ge2\pi$ である。
よって $L(1)=2\pi$、すなわち $\pi_{\mathrm{geo}}=\frac12L(1)=\pi_{\mathrm{an}}$ である。$\square$

以下では両者を区別せず $\pi$ と書く。Leb2 §11.4.3 も、単位円の円周の長さを $t\mapsto(\cos t,\sin t)$ の弧長 $\int_0^{2\pi}1\,dt=2\pi$ として計算している。そこでは弧長を積分で定めており、本記事では内接多角形の上限で定めて、円について直接一致を示した。

直感

円周率がどの円でも同じなのは、すべての円が拡大・縮小と平行移動で互いに重なる(相似である)からである(prop-pi-scaling)。半径を $r$ 倍すると、円周も内接多角形も同じ比率で $r$ 倍になり、比は変わらない。
解析的な定義では、$\pi$ は「半回転」の大きさである。$t\mapsto(\cos t,\sin t)$ は単位円を反時計回りにたどり、$t$ が $0$ から $\frac\pi2$ まで進むと点は $(1,0)$ から $(0,1)$ まで 4 分の 1 周し、$\pi$ まで進むと $(-1,0)$ まで半周する。この $t$ は、たどった弧の長さ(弧に内接する折れ線の長さの上限)そのものである(thm-pi-equivalence の証明を、$[0,2\pi]$ の代わりに $[0,t]$ を分割して同じように行えば分かる)。角の大きさを弧の長さで測る単位を弧度(ラジアン)といい、半回転は $\pi$ ラジアン、1 回転は $2\pi$ ラジアンである。

例と反例

座標で計算できる内接多角形による評価

単位円上の 6 点 $(1,0)$、$\bigl(\frac12,\frac{\sqrt3}2\bigr)$、$\bigl(-\frac12,\frac{\sqrt3}2\bigr)$、$(-1,0)$、$\bigl(-\frac12,-\frac{\sqrt3}2\bigr)$、$\bigl(\frac12,-\frac{\sqrt3}2\bigr)$ はこの順に円周を 1 周し、隣り合う 2 点の距離はどれも $1$ である(たとえば $(1-\frac12)^2+(\frac{\sqrt3}2)^2=1$)。よって内接正六角形の周は $6$ で、def-pi-geometric により $2\pi\ge6$ である。さらに 6 点の間に $\bigl(\pm\frac{\sqrt3}2,\pm\frac12\bigr)$、$(0,\pm1)$ を加えた正十二角形では、たとえば $(1,0)$ と $\bigl(\frac{\sqrt3}2,\frac12\bigr)$ の距離の 2 乗は $(1-\frac{\sqrt3}2)^2+\frac14=2-\sqrt3$ なので、周は $12\sqrt{2-\sqrt3}=6.2116\ldots$ である。よって $\pi\ge3.1058\ldots>3$ である。一方 def-pi-analytic の後で見たように $\cos2<0$ から $\pi<4$ である。したがって $3<\pi<4$ である。ここでは三角関数の値を使わず、点の座標だけで計算した。

反例:階段で近似すると「円周率は 4」になる

単位円を、座標軸に平行な短い線分だけからなる階段状の折れ線で近似することを考える。円に外接する正方形の四隅を内側に折り込み、さらにその角を折り込む……と繰り返すと、折れ線は円にいくらでも近づく(折れ線上のどの点も円から任意に近い距離にある)。ところが、どの段階でも折れ線の横方向の移動の合計は $4$、縦方向の移動の合計も $4$ なので、長さはつねに $8$ である。これから「円周は $8$ で、$\pi=4$」と結論するのは誤りである。
この例は「曲線に一様に近づく折れ線の長さは、曲線の長さに近づく」という含意を破っている。長さは、形が近いだけでは近づかない。def-pi-geometric が近似に使うのは円周上に頂点をもつ内接多角形であり、その周は thm-pi-equivalence により $2\pi$ に近づく。階段の各段は円の弦ではなく、弦 $\sqrt{a^2+b^2}$ を $|a|+|b|$ で置き換えたものなので、prf-pi-bounded の評価の上界 $8$ にとどまる。

反例:よく使われる近似分数は円周率ではない

$\frac{22}{7}=3.142857\ldots$ は Archimedes の上からの評価であり(thm-pi-archimedes)、$\pi$ より大きい。$\frac{355}{113}=3.14159292\ldots$ は $\pi$ との差が約 $2.7\times10^{-7}$ しかないが、やはり $\pi$ ではない。実際、$\pi$ はどんな分数とも等しくない(円周率の無理性 の記事の定理「円周率の無理性」)。小数展開も循環せずに無限に続く。「$\pi=3.14$」「$\pi=\frac{22}7$」は近似値としての約束であって、等式ではない。

性質

Archimedes の方法

$n\ge3$ について
$$ p_n:=n\sin\frac\pi n,\qquad P_n:=n\tan\frac\pi n $$
とおく。lem-pi-chord により、単位円に内接する正 $n$ 角形の 1 辺は $2\sin\frac\pi n$ なので、$p_n$ はその周の長さの半分である。$P_n$ は同じ円に外接する正 $n$ 角形の周の長さの半分にあたる(外接正 $n$ 角形の 1 辺は $2\tan\frac\pi n$)。

正多角形による円周率の挟み込み

$n\ge3$ について $p_n<\pi< P_n$ である。

正弦・角・正接の大小

$0< x<\frac\pi2$ で $\sin x< x<\tan x$ である(Basel問題 の記事の補題「正弦と正接の間の不等式」)。$n\ge3$ なら $x=\frac\pi n$ はこの範囲にあるので、$\sin\frac\pi n<\frac\pi n<\tan\frac\pi n$ の各辺を $n$ 倍すればよい。$\square$

辺の数を倍にする漸化式

$n\ge3$ について
$$ \frac1{P_{2n}}=\frac12\Bigl(\frac1{p_n}+\frac1{P_n}\Bigr),\qquad p_{2n}=\sqrt{p_n\,P_{2n}} $$
が成り立つ。すなわち $P_{2n}$ は $p_n$ と $P_n$ の調和平均、$p_{2n}$ は $p_n$ と $P_{2n}$ の幾何平均である。また $p_6=3$、$P_6=2\sqrt3$ である。

半角の公式

$s:=\frac\pi n$ とおく($0< s\le\frac\pi3$)。加法定理から $\sin s=2\sin\frac s2\cos\frac s2$、$1+\cos s=2\cos^2\frac s2$ なので
$$ \frac{1}{\tan(s/2)}=\frac{\cos(s/2)}{\sin(s/2)}=\frac{2\cos^2(s/2)}{2\sin(s/2)\cos(s/2)}=\frac{1+\cos s}{\sin s}=\frac1{\sin s}+\frac{\cos s}{\sin s} $$
である。両辺を $2n$ で割ると、$P_{2n}=2n\tan\frac s2$、$p_n=n\sin s$、$P_n=n\sin s/\cos s$ により第 1 式を得る。次に
$$ p_nP_{2n}=n\sin s\cdot2n\tan\frac s2=2n^2\cdot2\sin\frac s2\cos\frac s2\cdot\frac{\sin(s/2)}{\cos(s/2)}=4n^2\sin^2\frac s2=p_{2n}^2 $$
であり、$p_{2n}>0$ なので第 2 式を得る。
$p_6,P_6$ を求める。$\cos\frac\pi2=0$ で $\sin\frac\pi2>0$ なので $\sin\frac\pi2=1$ である。加法定理から $\sin3x=3\sin x-4\sin^3x$ なので、$u:=\sin\frac\pi6>0$ は $3u-4u^3=1$、すなわち $(u+1)(2u-1)^2=0$ を満たし、$u=\frac12$ である。$\cos\frac\pi6>0$ なので $\cos\frac\pi6=\sqrt{1-\frac14}=\frac{\sqrt3}2$、$\tan\frac\pi6=\frac1{\sqrt3}$ であり、$p_6=6\cdot\frac12=3$、$P_6=\frac{6}{\sqrt3}=2\sqrt3$ である。$\square$

$p_6=3$、$P_6=2\sqrt3$ から漸化式を 4 回使うと、次の表を得る(小数第 6 位で、$p_n$ は切り捨て、$P_n$ は切り上げ)。
$$ \begin{array}{r|l|l|l} n & p_n & P_n & P_n-p_n\\ \hline 6 & 3.000000 & 3.464102 & 0.4641\\ 12 & 3.105828 & 3.215391 & 0.1096\\ 24 & 3.132628 & 3.159660 & 0.0270\\ 48 & 3.139350 & 3.146087 & 0.0067\\ 96 & 3.141031 & 3.142715 & 0.0017 \end{array} $$
幅 $P_n-p_n$ は、辺の数を倍にするたびにおよそ 4 分の 1 になっている。

Archimedesの評価

$$ \frac{223}{71}<3.141031<\pi<3.142715<\frac{22}{7} $$
が成り立つ。

正 96 角形

prop-pi-bounds を $n=96$ に使い、表の値 $p_{96}=3.1410319\ldots$、$P_{96}=3.1427145\ldots$(prop-pi-recursion の漸化式を $p_6=3$、$P_6=2\sqrt3$ から 4 回適用して得られる)をとればよい。両端は $\frac{223}{71}=3.1408450\ldots$、$\frac{22}7=3.1428571\ldots$ である。$\square$

Archimedes は『円の計測』の命題 3 で、円周と直径の比が $3\frac17$ より小さく $3\frac{10}{71}$ より大きいことを、外接・内接する正 96 角形を使って示した(Hea97 pp. 93–98)。三角関数を使わず、$\sqrt3$ を分数で挟むことから始めて、角の二等分と比の計算を 4 回繰り返し、各段で現れる平方根を評価の向きに合わせて分数で丸めている。prop-pi-recursion はその計算を現代の記号で書き直したものであり、丸めがないぶん thm-pi-archimedes の内側の評価は Archimedes の値よりわずかに良い。

円の面積

円の面積

半径 $r$ の円板 $\{(x,y)\mid x^2+y^2\le r^2\}$ の面積、すなわちRiemann積分
$$ A(r):=\int_{-r}^{r}2\sqrt{r^2-x^2}\,dx $$
は $\pi r^2$ に等しい。

正弦による置換積分

$x=ru$ と置換すると $A(r)=r^2A(1)$ なので、$A(1)=\pi$ を示せばよい。$\sin$ は $\bigl[-\frac\pi2,\frac\pi2\bigr]$ で導関数 $\cos\ge0$(端点以外で正)をもち、$[-1,1]$ への狭義単調増加な全単射である。$x=\sin\theta$ と置換すると、$\cos\theta\ge0$ なので $\sqrt{1-\sin^2\theta}=\cos\theta$ であり、微分積分学の基本定理 の記事の系「置換積分の公式」により
$$ A(1)=\int_{-\pi/2}^{\pi/2}2\cos^2\theta\,d\theta=\int_{-\pi/2}^{\pi/2}(1+\cos2\theta)\,d\theta=\pi+\Bigl[\frac{\sin2\theta}{2}\Bigr]_{-\pi/2}^{\pi/2}=\pi $$
である。ここで $2\cos^2\theta=1+\cos2\theta$(加法定理)と、$\sin\pi=2\sin\frac\pi2\cos\frac\pi2=0$ を使った。$\square$

Archimedes の『円の計測』命題 1 は、「円の面積は、直角をはさむ 2 辺が半径と円周に等しい直角三角形の面積に等しい」と述べている(Hea97 p. 91)。その三角形の面積は $\frac12\cdot r\cdot2\pi r=\pi r^2$ であり、prop-pi-area と一致する。つまり、円周の長さの比としての $\pi$ と、円の面積と半径の平方の比としての $\pi$ は同じ数である。

Leibniz の級数

Leibnizの級数

$$ \frac\pi4=1-\frac13+\frac15-\frac17+\cdots=\sum_{k=0}^\infty\frac{(-1)^k}{2k+1} $$
が成り立つ。さらに、最初の $n$ 項までの部分和と $\frac\pi4$ の差の絶対値は $\frac1{2n+1}$ 以下である。

逆正接の積分表示

$\bigl(-\frac\pi2,\frac\pi2\bigr)$ では $\cos>0$ なので $\tan=\sin/\cos$ が定義され、$\tan'=\frac{\cos^2+\sin^2}{\cos^2}=1+\tan^2>0$ である。$x\to\frac\pi2$ で $\sin x\to1$、$\cos x\to0$(正の側から)なので $\tan x\to+\infty$、$\tan$ は奇関数なので $x\to-\frac\pi2$ で $-\infty$ に発散する。中間値の定理と狭義単調性により $\tan$ は $\bigl(-\frac\pi2,\frac\pi2\bigr)$ から $\mathbb{R}$ への全単射であり、その逆関数 $\arctan$ は、連鎖律 の記事の系「逆関数の微分公式」により微分可能で
$$ \arctan'(y)=\frac1{1+\tan^2(\arctan y)}=\frac1{1+y^2} $$
である。$\cos\frac\pi2=\cos^2\frac\pi4-\sin^2\frac\pi4=0$ で $\cos\frac\pi4,\sin\frac\pi4>0$ なので $\tan\frac\pi4=1$、すなわち $\arctan1=\frac\pi4$ であり、$\arctan0=0$ である。微分積分学の基本定理 の記事の定理「原始関数による積分の計算」により
$$ \frac\pi4=\int_0^1\frac{dt}{1+t^2} $$
である。等比数列の和の公式から、$n\ge1$ について
$$ \frac1{1+t^2}=\sum_{k=0}^{n-1}(-t^2)^k+\frac{(-1)^nt^{2n}}{1+t^2} $$
なので、両辺を $0$ から $1$ まで積分して
$$ \frac\pi4=\sum_{k=0}^{n-1}\frac{(-1)^k}{2k+1}+(-1)^n\int_0^1\frac{t^{2n}}{1+t^2}\,dt,\qquad 0\le\int_0^1\frac{t^{2n}}{1+t^2}\,dt\le\int_0^1t^{2n}\,dt=\frac1{2n+1} $$
を得る。$n\to\infty$ で最後の項は $0$ に近づくので、級数は $\frac\pi4$ に収束する。$\square$

Leibniz の級数は美しいが、収束は非常に遅い。最初の 10 項の和の 4 倍は $3.0418\ldots$、1000 項でも $3.14059\ldots$ で、誤差は約 $0.001$ ある(thm-pi-leibniz の評価 $\frac4{2n+1}$ と合っている)。Archimedes の正 96 角形のほうが精度が高い。

数学の各所に現れる円周率

円周率は円と直接関係しない問題にも現れる。

  • 平方数の逆数の和は $\sum_{n=1}^\infty\frac1{n^2}=\frac{\pi^2}6$ である(Basel問題 の記事の定理「平方数の逆数の和」)。
  • 階乗の近似 $n!\sim\sqrt{2\pi n}\,(n/e)^n$ に $\pi$ が現れる(Stirlingの公式)。その証明には $\pi$ を積の極限で表す Wallis の積が使われる(Stirlingの公式 の記事の補題「Wallisの積」)。
  • 間隔 $d$ の平行線の上に長さ $\ell\le d$ の針を無作為に落とすと、針が線と交わる確率は $\frac{2\ell}{\pi d}$ である(Buffonの針 の記事の定理「短い針の場合」)。
無理性と超越性

$\pi$ は無理数であり、$\pi^2$ も無理数である。証明は 円周率の無理性 の記事(Niven の証明)にある。さらに $\pi$ は、$0$ でない整数係数の多項式の根にならない超越数である。これは Lindemann が 1882 年に示した(超越数 の記事の定理「Lindemann–Weierstrass の定理」とその出典の注意)。$\pi$ の超越性から、与えられた円と同じ面積の正方形を定規とコンパスで作図することはできない(作図可能数 の記事の例「反例:古典的な 3 つの作図問題」)。

関連項目

参考文献

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