開近傍

同義語:open neighborhoodopen neighbourhood

概要

開近傍(open neighborhood)とは、位相空間の点を含む開集合である。一般の近傍は開近傍を含む集合で、点がその内部にあることと同値になる。有限交叉、距離空間での開球による近傍基、相対位相での形を説明し、閉包・連続性・点列収束を開近傍で判定する。関数の芽や局所的な性質を述べる際の基本単位でもある。

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前提知識: 位相空間, 開集合

開近傍とは

位相空間 $X$ の点 $x$ を含む開集合を、$x$ の開近傍(open neighborhood)という。点のまわりで成り立つ性質を述べるときの基本単位である。例えば「関数が $x$ の近くで零である」は、$x$ のある開近傍の全点で零になることを意味する。開近傍をいくら小さくしても点 $x$ を含むという条件は保たれ、局所的な議論の範囲を調整できる。
単に近傍というと、開でない集合を含める流儀がある。以下では、集合 $N\subseteq X$ が $x$ の近傍であるとは、$x\in U\subseteq N$ となる開集合 $U$ があることとする。この意味での近傍は開近傍を含むが、必ずしも開集合ではない。区別を明示すると、連続性や収束を近傍で言い換える際に曖昧さが残らない(StacksTop §5.2)。

定義

開近傍と近傍

$(X,\mathcal T)$ を位相空間、$x\in X$ とする。

  1. $U\in\mathcal T$ かつ $x\in U$ のとき、$U$ を $x$ の開近傍という。
  2. $N\subseteq X$ が $x$ の開近傍を一つ含むとき、$N$ を $x$ の近傍という。
    したがって $N$ が $x$ の近傍であることと $x\in\operatorname{int}_X N$ は同値である。$\operatorname{int}_X N$ は $N$ の $X$ における内部を表す。

開近傍と近傍は、点 $x$ が属する集合というだけではない。点を含んでも、その点のまわりに開集合を一つも含まなければ近傍ではない。例えば通常の実数直線で $\{0\}$ は $0$ を含むが、$0$ の近傍ではない。どの開区間 $(-\varepsilon,\varepsilon)$ も $\{0\}$ に収まらないからである。

開でない近傍

通常の位相を持つ $\mathbb R$ で、閉区間 $[-1,1]$ は $0$ の近傍である。実際、$0\in(-1,1)\subset[-1,1]$ である。しかし $[-1,1]$ は開集合でないため、$0$ の開近傍ではない。同じ集合も端点 $1$ の近傍ではない。$1$ を含むどの開区間も $1$ より大きい点を含むからである。

「近傍」を開集合だけに限って使う文献もある。ここでは開近傍と一般の近傍を分けるが、多くの定理はどちらの言い方でも同値になる。なぜなら一般の近傍には必ず開近傍が含まれるからである。
開近傍は小さい集合や連結な集合である必要はない。実数直線では $(-1,1)\cup(2,3)$ も $0$ の開近傍である。必要なら、その内側の $(-1/2,1/2)$ のようなより小さな開近傍へ狭められる。局所的な議論で「十分小さい開近傍を取る」と言うのは、この狭める操作を指す。

開近傍の基本性質

開近傍の交わりと拡大

$x\in X$ とする。

  1. $X$ は $x$ の開近傍である。
  2. $U,V$ が $x$ の開近傍なら、$U\cap V$ も $x$ の開近傍である。
  3. $U$ が $x$ の開近傍で、$U\subseteq W$ かつ $W$ が開なら、$W$ も $x$ の開近傍である。
  4. $N$ が $x$ の近傍で $N\subseteq M$ なら、$M$ も $x$ の近傍である。
開近傍の基本性質

位相の公理により $X$ は開である。有限個の開集合の交わりは開で、$x\in U\cap V$ だから 2 が従う。3 は $x\in U\subseteq W$ と $W$ が開であることから直ちに従う。4 では $x\in U\subseteq N$ となる開集合 $U$ を取り、$U\subseteq M$ を使えばよい。

近傍についても有限交叉は保たれる。$N_1,N_2$ が $x$ の近傍なら、それぞれに含まれる開近傍 $U_1,U_2$ を選べる。$U_1\cap U_2$ は $N_1\cap N_2$ に含まれる開近傍である。一方、無限個の開近傍の交わりは一般に開でない。実数直線の $(-1/n,1/n)$($n\ge1$)の交わりは $\{0\}$ で、$0$ の近傍にもならない。

離散位相と密着位相

離散位相ではすべての部分集合が開なので、$x$ を含むどの集合も $x$ の開近傍である。特に $\{x\}$ が最小の開近傍になる。密着位相 $\{\emptyset,X\}$ では、$x$ の開近傍は $X$ だけである。この二例は、開近傍の数や大きさが点の性質だけでなく空間の位相によって決まることを示す。

内部と閉包で読む

集合 $A\subseteq X$ の内部は、$A$ に含まれるすべての開集合の和である。従って $x\in\operatorname{int}_X A$ とは、$A$ に収まる開近傍が $x$ にあることを意味する。これは $A$ が $x$ の近傍であるという定義そのものになる。

閉包の近傍による判定

$A\subseteq X$、$x\in X$ とする。$x\in\overline A$ であることと、$x$ のすべての開近傍 $U$ が $A$ と交わることは同値である。

閉包の近傍判定

$x\notin\overline A$ なら $X\setminus\overline A$ は $x$ を含む開集合で、$A$ と交わらない。逆に、$x$ のある開近傍 $U$ が $A$ と交わらないなら、$U\subseteq X\setminus A$ である。$U$ は開なので $X\setminus A$ の内部に含まれ、$x\notin\overline A=X\setminus\operatorname{int}(X\setminus A)$ となる。

この判定は、点が $A$ にどれほど近いかを距離を使わずに述べる。$x$ 自身が $A$ に属さなくても、どの開近傍も $A$ と交わるなら $x$ は閉包に入る。実数直線で $A=(0,1)$ とすると $0$ は $A$ に属さないが、どの $0$ の開近傍も正の小さい数を含むので $0\in\overline A$ である。

開近傍基と距離空間

点 $x$ のすべての開近傍を毎回列挙する必要はない。それらの中で十分に小さいものを選べる族があれば、その族だけを調べればよい。

点の開近傍基

$x\in X$ とし、$\mathcal B_x$ を $x$ の開近傍の族とする。任意の $x$ の開近傍 $U$ に対して $B\in\mathcal B_x$ で $B\subseteq U$ となるものがあるとき、$\mathcal B_x$ を $x$ の開近傍基という。

開近傍基は、開集合を点の近くでより小さな標準形に取り替える道具である。位相の基底 $\mathcal B$ があるなら、そのうち $x$ を含む集合全体が $x$ の開近傍基になる(StacksBase Definition 5.5.1)。この二つの「基」は、空間全体の開集合を生成するか、一点で開近傍を十分に細かく代表するかという視点が異なる。

距離球は開近傍基をなす

距離空間 $(X,d)$ の点 $x$ に対し、開球 $B_d(x,r)=\{y\in X\mid d(x,y)< r\}$($r>0$)の全体は $x$ の開近傍基である。特に半径を $1/n$($n\ge1$)に限った可算族も開近傍基である。

距離球の近傍基

距離位相の定義により、各 $B_d(x,r)$ は $x$ を含む開集合である。$U$ が $x$ の任意の開近傍なら、開集合の定義からある $r>0$ があり $B_d(x,r)\subseteq U$ となる。自然数 $n$ を $1/n< r$ となるほど大きく選べば、$B_d(x,1/n)\subseteq B_d(x,r)\subseteq U$ である。

実数直線では $B(x,r)=(x-r,x+r)$ である。例えば $x=0$ のどんな開近傍にも $(-1/n,1/n)$ のどれかが含まれる。このため、$0$ のまわりで成り立つ性質を調べるときには、任意の開近傍の代わりにこの一列を使える。
距離を使わない位相空間には、可算な開近傍基が存在しない点もある。すべての点に可算な開近傍基がある性質を第1可算性という。開近傍の定義自体には第1可算性は不要であり、点ごとの局所的な議論は一般の位相空間で成立する。

相対位相の開近傍

$A\subseteq X$ に相対位相を入れ、$a\in A$ とする。$a$ の $A$ における開近傍は、$U\cap A$($U$ は $X$ における $a$ の開近傍)という形に書ける。例えば $A=[0,1]\subset\mathbb R$ では $[0,1/2)$ は $A$ における $0$ の開近傍である。実際、$(-1,1/2)\cap A=[0,1/2)$。しかしこれは実数直線全体では開集合でない。開近傍を述べる際には、どの空間の位相で開と判定しているかを指定する必要がある。

相対位相の開近傍の表示

相対位相の定義から $A$ の開集合は $A\cap U$($U$ は $X$ の開集合)という形である。$a\in A\cap U$ なら $a\in U$ なので $U$ は $X$ における開近傍である。逆に $U$ が $a$ の $X$ における開近傍なら $A\cap U$ は $A$ で開であり、$a$ を含む。

直積空間 $X\times Y$ では、$(x,y)$ の開近傍 $W$ の中に $x$ の開近傍 $U$ と $y$ の開近傍 $V$ の積 $U\times V$ が入る。これは積位相の基底の定義による。二つの変数を同時に局所化するとき、任意の形の開近傍を矩形の開近傍へ狭められる。

連続性を開近傍で表す

写像 $f:X\to Y$ の $x\in X$ における連続性は、$f(x)$ の開近傍を引き戻すと $x$ の開近傍を含む、という形で述べられる。ここでは「逆像そのものが開」とは限らない。一点での連続性は、その点の近くに収まる開集合を見つけられるという局所条件である。

一点での連続性と開近傍

$f:X\to Y$、$x\in X$ とする。$f$ が $x$ で連続であることと、$f(x)$ の任意の開近傍 $V$ に対して $x$ の開近傍 $U$ があり $f(U)\subseteq V$ となることは同値である。

連続性の近傍判定

一点での連続性を、$f(x)$ の開近傍 $V$ の逆像 $f^{-1}(V)$ が $x$ の近傍になることと定めれば、近傍の定義から $x\in U\subseteq f^{-1}(V)$ となる開集合 $U$ が存在する。これは $f(U)\subseteq V$ と同値である。逆にすべての $V$ に対してそのような $U$ があれば $f^{-1}(V)$ は $x$ の近傍となり、$f$ は $x$ で連続である。

全ての点でこの条件が成り立つことと、すべての開集合の逆像が開であることも同値である。実際、$V\subseteq Y$ が開なら、各 $x\in f^{-1}(V)$ で上の条件から $x\in U_x\subseteq f^{-1}(V)$ となる開集合を選べる。$f^{-1}(V)=\bigcup_{x\in f^{-1}(V)}U_x$ なので逆像は開である。逆方向は $U=f^{-1}(V)$ と置けばよい。

実数関数の $\varepsilon$–$\delta$ 条件

実数直線の通常の位相で、$f:\mathbb R\to\mathbb R$ が $x$ で連続であることは、任意の $\varepsilon>0$ に対しある $\delta>0$ があり、$|t-x|<\delta$ なら $|f(t)-f(x)|<\varepsilon$ となることと同値である。開近傍基として区間 $(f(x)-\varepsilon,f(x)+\varepsilon)$ と $(x-\delta,x+\delta)$ を使えば、前の定理の包含 $f(U)\subseteq V$ がそのままこの不等式になる。

局所的な性質と開近傍

「各点のある開近傍で成り立つ」という形式の主張は、空間全体を開集合で覆って調べることを意味する。たとえば関数が各点のある開近傍で連続なら、その関数は全体で連続である。各点の連続性が前節の開近傍条件で与えられるためである。一方、各点のある開近傍で有界という条件から、空間全体で一つの共通上界が存在するとは限らない。実数直線上の $f(t)=t$ は各点の小さな区間では有界だが、全体では有界でない。

開集合は局所的に判定できる

$A\subseteq X$ とする。$A$ が開集合であることと、各 $x\in A$ に対し $x\in U_x\subseteq A$ となる開集合 $U_x$ が存在することは同値である。

開集合の局所判定

$A$ が開なら $U_x=A$ とすればよい。逆に各点で $U_x$ があれば $A=\bigcup_{x\in A}U_x$ であり、開集合の任意和は開だから $A$ は開である。$A=\emptyset$ でも空和は空集合で開である。

この命題は、開近傍を集めて空間全体の開集合を復元できることを示す。点ごとの開近傍がすべて分かれば、どの集合が開かも決まる。位相が細かいほど、各点で使える開近傍は増える。同じ集合上の二つの位相 $\mathcal T_1\subseteq\mathcal T_2$ については、$\mathcal T_1$ の開近傍はすべて $\mathcal T_2$ の開近傍でもある。

関数の芽

$x$ の近くで定義された二つの関数 $f,g$ が、$x$ のある開近傍 $U$ 上で一致するとき、$x$ で同じ芽を持つという。例えば実数直線で $f(t)=t^2$ とし、$g$ が $(-1,1)$ 上では $t^2$、その外では別の値を取るなら、$f$ と $g$ は $0$ で同じ芽を持つ。$0$ から離れた場所で値が違っていても、$0$ の局所情報としては同じである。層や局所環を扱うとき、開近傍をさらに小さくして代表を比較するこの考え方を使う。

芽の一致は同値関係である。反射律と対称律は明らかで、$f=g$ が $x$ の開近傍 $U$ で、$g=h$ が別の開近傍 $V$ で成り立てば、$U\cap V$ も $x$ の開近傍なので、その上で $f=h$ となる。ここで開近傍の有限交叉が再び開近傍になる性質が、局所的な一致の推移律を支えている。

点列と開近傍

点列 $x_n$ が $x$ に収束するとは、$x$ の任意の開近傍 $U$ について、十分大きい $n$ では $x_n\in U$ となることである。距離空間では開球が開近傍基なので、これは任意の $\varepsilon>0$ に対し十分大きい $n$ で $d(x_n,x)<\varepsilon$ となる通常の定義に一致する。開近傍による定義は距離がない位相空間でも通用する。

点列の極限は閉包に入る

$A\subseteq X$ の点からなる点列 $x_n\in A$ が $x$ に収束するなら、$x\in\overline A$ である。

点列の極限と閉包

$x$ の任意の開近傍 $U$ を取る。収束の定義から、十分大きい $n$ で $x_n\in U$ となる。しかも $x_n\in A$ なので $U\cap A$ は空でない。閉包の近傍判定により $x\in\overline A$ である。

逆向きは任意の位相空間では成立しない。点 $x$ が第1可算な場合は、可算な開近傍基 $B_1,B_2,\ldots$ を取り、$x\in\overline A$ なら各 $n$ について $A\cap B_1\cap\cdots\cap B_n$ から点 $x_n$ を選べる。有限交叉は開近傍だから閉包の判定で空でない。任意の開近傍 $U$ はどれかの $B_j$ を含むので、$n\ge j$ では $x_n\in U$ となり $x_n\to x$ である。距離空間では先に示した $B(x,1/n)$ があるため、閉包の点は点列の極限として表せる。

条件を外したときの反例

開近傍についての命題は、「有限個」「開であること」「どの空間での開か」「第1可算」などの条件に依存する。

外す条件反例成り立たなくなること
交わりが有限個$\mathbb R$ の $(-1/n,1/n)$($n\ge1$)全体の交わり開近傍の交わりは開近傍
集合が開$\mathbb R$ の $[-1,1]$ と点 $0$$x$ の近傍は $x$ の開近傍
開を判定する空間が同じ$[0,1/2)$($[0,1]$ では開、$\mathbb R$ では開でない)部分空間での開近傍は全体でも開近傍
第1可算$\mathbb R$ の補可算位相と $A=\mathbb R\setminus\{0\}$閉包の点は $A$ の点列の極限
性質が各点で局所的$\mathbb R$ 上の $f(t)=t$各点の開近傍で有界なら全体で有界

補可算位相の行のほかは本文で確かめた。

補可算位相での閉包と点列

$\mathbb R$ に、空集合と補集合が可算な集合を開集合とする位相(補可算位相)を入れる。有限個の交わりや任意個の和で補集合の可算性は保たれるので、これは位相である。$A=\mathbb R\setminus\{0\}$ とする。$0$ の任意の開近傍 $U$ は補集合が可算なので非可算個の点を含み、$A$ と交わる。閉包の近傍判定により $0\in\overline A$ である。
一方、$A$ の点列 $x_n$ を取り、項の集合を $S=\{x_n:n\ge1\}$ とする。$S$ は可算で $0$ を含まないので、$\mathbb R\setminus S$ は $0$ の開近傍であり、列のどの項も含まない。従って $x_n$ は $0$ に収束しない。閉包の点 $0$ は $A$ の点列の極限として表せない。$0$ の開近傍の可算族 $U_1,U_2,\ldots$ を取っても、それらの補集合の和は可算で、そこに入らない点 $p\ne0$ について $\mathbb R\setminus\{p\}$ はどの $U_k$ も含まない。よって $0$ は可算な開近傍基を持たず、本文の証明で使った第1可算性が成り立たない。

関連項目

参考文献

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