クラス(集合論)(class (set theory))とは、集合論の論理式 $\varphi(x)$ を満たすものの集まり $\{x\mid\varphi(x)\}$ のことで、集合であるとは限らない集まりを扱うための言葉である。ZFC ではクラスは論理式の言い換えにすぎず、集合でないクラスを真のクラスという。分出図式により集合に含まれるクラスは集合であり、置換図式により集合のクラス関数による像は集合であるが、すべての集合・すべての順序数のクラスや、空でない群・位相空間の同型類はつねに真のクラスである。正則性公理のもとでは、階数が最小の元だけを集めて真のクラスの代わりの集合を選べる(Scott の方法)。
「すべての集合」「すべての順序数」「すべての群」のような集まりは、数学のいたるところで自然に現れる。しかしこれらを集合と考えると矛盾が生じる。たとえばすべての集合からなる集合はない(ZFC公理系 の定理「すべての集合からなる集合はない」)。そこで、条件を満たすものの集まりを、集合であるかどうかを問わずに クラス(class)と呼び、集合でないクラスを 真のクラス と呼んで区別する。
ZFC ではクラスは対象ではなく、条件を表す論理式の言い換えである。この記事では、その立場でクラスを定義し、クラスが集合になるための判定(分出と置換による)、真のクラスの典型例(同型な構造の全体はつねに真のクラスであること)、そして真のクラスの代わりに集合を選ぶ Scott の方法を示す。クラスを対象として扱う体系(NBG・MK)にも触れる。
以下では ZF(選択公理を含まない)の中で考える。正則性公理を使う箇所はそのことを書く。
集合論の言語の論理式 $\varphi(x,p_1,\dots,p_k)$ と集合 $p_1,\dots,p_k$(パラメータ)が与えられたとき、
$$
\mathbf C=\{x\mid\varphi(x,p_1,\dots,p_k)\}
$$
を クラス という。$x\in\mathbf C$ は $\varphi(x,\vec p)$ の略記であり、$\mathbf D=\{x\mid\psi(x,\vec q)\}$ に対し、$\mathbf C=\mathbf D$ は $\forall x\,(\varphi\leftrightarrow\psi)$ の、$\mathbf C\subseteq\mathbf D$ は $\forall x\,(\varphi\to\psi)$ の略記である。
クラスは形式的には論理式そのものであり、ZFC の変数はクラスを動かない(Kun80 Ch. I, §9, pp. 23–24)。したがって「$\mathbf C\in a$」や「すべてのクラス $\mathbf C$ について」は、そのままでは文にならない。「すべてのクラスについて〜が成り立つ」という主張は、論理式 $\varphi$ ごとに一つの定理を述べる 定理図式 の略記である。たとえば 順序数 の命題「順序数の集まりの整列性と上限」の「順序数からなる空でない任意のクラスは最小元を持つ」は、論理式ごとに成り立つ無限個の定理をまとめたものである。
$\mathbf C=\{x\mid\varphi\}$、$\mathbf D=\{x\mid\psi\}$ をクラスとする。
$\mathbf C,\mathbf D$ をクラス、$\mathbf F$ をクラス関数とする。
$\mathbf C=\{x\mid\varphi(x,\vec p)\}$ とする。
1.分出図式を論理式 $\varphi$ に適用すると、集合 $b=\{x\in a\mid\varphi(x,\vec p)\}$ があり、$x\in b\leftrightarrow(x\in a\land x\in\mathbf C)$ が成り立つ。これは $\mathbf C\cap a$ が集合 $b$ であることを意味する。$\mathbf C\subseteq a$ なら $\mathbf C=\mathbf C\cap a$ なので $\mathbf C$ も集合である。
2.$\mathbf F$ を定める論理式を使って、$\theta(x,y)$ を「$x\in\operatorname{dom}\mathbf F$ かつ $y=\mathbf F(x)$、または $x\notin\operatorname{dom}\mathbf F$ かつ $y=\emptyset$」とする。各 $x\in a$ に対し $\theta(x,y)$ を満たす $y$ はちょうど一つなので、置換図式(Kun80 Ch. I, §6, Axiom 6, p. 12)により、各 $x\in a$ についてその $y$ を元にもつ集合 $Y$ がある。$\mathbf F[a]\subseteq Y$ なので、1 により $\mathbf F[a]=\mathbf F[a]\cap Y$ は集合である。
3.前半:$\mathbf D$ が集合 $d$ なら、$\mathbf C\subseteq d$ と 1 から $\mathbf C$ は集合になり、仮定に反する。後半:$\mathbf C$ が集合 $c$ なら 2 により $\mathbf F[c]$ は集合で、前半によりそれに含まれるクラスはすべて集合になり、仮定に反する。
4.$\mathbf C$ が集合 $c$ なら、正則性公理 の定理「正則性と累積階層」により $c\in V_\gamma$ となる $\gamma$ があり、$V_\gamma$ は推移的なので $c\subseteq V_\gamma$ である。逆に $\mathbf C\subseteq V_\alpha$ なら 1 により集合である。階数については、正則性公理 の定義「階数」により $\operatorname{rank}(x)$ は $x\subseteq V_\beta$ となる最小の $\beta$ である。すべての $x\in\mathbf C$ で $\operatorname{rank}(x)<\alpha$ なら $x\in\mathcal P(V_{\operatorname{rank}(x)})=V_{\operatorname{rank}(x)+1}\subseteq V_\alpha$ なので $\mathbf C\subseteq V_\alpha$ である。逆に $\mathbf C\subseteq V_\alpha$ なら、同じ記事の補題「段階の中の元」により各 $x\in\mathbf C$ について $x\subseteq V_\gamma$ となる $\gamma<\alpha$ があり、$\operatorname{rank}(x)<\alpha$ である。$\square$
1 と 2 はそれぞれ分出図式・置換図式をクラスの言葉で言い換えたもので、Kun80 Ch. I, §9, p. 23 も「集合の部分クラスは集合である」という形で分出図式を言い換えている。4 は「大きすぎない」クラスが集合であることを正確に述べている。
1.$\mathbf R$ が集合 $r$ なら、$r\in r\leftrightarrow r\notin r$ となり矛盾する。$\mathbf R\subseteq\mathbf V$ なので、thm-class-set-criteria の 3 により $\mathbf V$ も真のクラスである。$\mathbf{On}$ については 順序数 の命題「Burali-Forti の逆理」による。
2.クラス関数 $\mathbf U$(ex-class-examples の 8)は $\mathbf U(\{y\})=y$ を満たすので $\mathbf U[\mathbf S]=\mathbf V$ であり、1 により $\mathbf V$ は真のクラスなので、thm-class-set-criteria の 3 により $\mathbf S$ は真のクラスである。
3.集合 $y$ ごとに $\{y\}\times A$ を考える。$a\mapsto\langle y,a\rangle$ は $A$ から $\{y\}\times A$ への全単射なので $\{y\}\times A\in[A]$ である。$A$ は空でないので、$\{y\}\times A$ の元の第 1 成分全体は $\{y\}$ であり、$\mathbf P(\{y\}\times A)=\{y\}$ となる($\mathbf P$ は ex-class-examples の 8)。よって $\mathbf P\bigl[\,[A]\,\bigr]\supseteq\mathbf S$ で、2 と thm-class-set-criteria の 3 により $[A]$ は真のクラスである。
4.集合 $y$ ごとに、$\iota_y(g)=\langle y,g\rangle$ による全単射 $\iota_y\colon G\to\{y\}\times G$ で演算を移す:$m_y(\langle y,g\rangle,\langle y,h\rangle):=\langle y,m(g,h)\rangle$。すると $\iota_y$ は $\langle G,m\rangle$ から $\langle\{y\}\times G,m_y\rangle$ への同型である。クラス関数 $\langle H,n\rangle\mapsto\mathbf P(H)$ はこの群を $\{y\}$ に送るので、同型な群の全体の像は $\mathbf S$ を含み、3 と同じく真のクラスである。位相空間 $\langle X,\tau\rangle$ では $\tau_y:=\{\iota_y[U]\mid U\in\tau\}$ とおけば $\iota_y$ は同相写像になり、同じ議論が通る。最後の主張は thm-class-set-criteria の 3 の前半による。$\square$
4 は、「群を同型を除いて考える」ときの同型類や、「位相空間を同相を除いて考える」ときの同相類(同相写像)が、元の構造が空でない限りつねに真のクラスであることを示している。したがって同型類を元とする集合を作ること(たとえば「位数 4 の群の同型類の集合」)はそのままではできない。圏 の言葉では、群の圏や位相空間の圏の対象の全体は真のクラスであり、このような圏を大きな圏という。
等濃度類 $[A]$ は真のクラスなので、「$A$ の濃度とは $[A]$ のことである」と定義すると、濃度は集合の元になれない。選択公理があれば $A$ と等濃度な最小の順序数を代表に選べる(基数 の定義「基数の定義」)。選択公理なしでも、正則性公理のもとで次の方法が使える。
正則性公理を仮定する。空でないクラス $\mathbf C$ に対し
$$
\mathbf C_*:=\{x\in\mathbf C\mid \text{すべての}\ y\in\mathbf C\ \text{について}\ \operatorname{rank}(x)\leq\operatorname{rank}(y)\}
$$
とおく。
1.$\{\operatorname{rank}(x)\mid x\in\mathbf C\}$ は空でない順序数のクラスなので、順序数 の命題「順序数の集まりの整列性と上限」の 5 により最小元 $\alpha$ をもつ。$\mathbf C_*=\{x\in\mathbf C\mid\operatorname{rank}(x)=\alpha\}$ であり、$\alpha$ を階数にもつ元があるので空でない。その元 $x$ は $x\subseteq V_\alpha$、すなわち $x\in V_{\alpha+1}$ を満たすので $\mathbf C_*\subseteq V_{\alpha+1}$ であり、thm-class-set-criteria の 1 により集合である。
2.$x\,\mathbf E\,y$ なら、対称律と推移律から $[x]_{\mathbf E}=[y]_{\mathbf E}$ であり、両辺の ${}_*$ も等しい。$x\,\mathbf E\,y$ でないなら、$z\in[x]_{\mathbf E}\cap[y]_{\mathbf E}$ があると $x\,\mathbf E\,z\,\mathbf E\,y$ となるので、$[x]_{\mathbf E}$ と $[y]_{\mathbf E}$ は交わらない。反射律から両者は空でなく、1 によりその ${}_*$ は空でない部分集合なので、互いに異なる。$\square$
$\mathbf E$ を「全単射がある」とすると、$([A])_*$ は $A$ と等濃度な集合のうち階数が最小のもの全体であり、選択公理なしで「$A$ の濃度」の役目を果たす集合になる。たとえば $A$ が一点集合なら、階数 $1$ の一点集合は $\{\emptyset\}$ だけなので $([A])_*=\{\{\emptyset\}\}$ である。同型類・同相類についても同様に、同値類の代わりに集合 $([x]_{\mathbf E})_*$ を使える。
ZFC の外に出て、クラスそのものを対象として扱う公理系もある。von Neumann–Bernays–Gödel 集合論(NBG)では変数がクラスを動き、あるクラスの元になるクラスを集合と呼ぶ。集合の変数だけを量化する論理式でクラスを作ることを認め、集合については ZFC の公理を課す。この内包を、クラスを量化する論理式にまで許したものが Morse–Kelley 集合論(MK)である(ZFC公理系 の定義「NBG と MK」、Kun80 Ch. I, §12, pp. 35–36)。NBG では「すべてのクラスについて」が一つの文として書け、NBG は有限個の公理で書ける。一方、集合についての文に関しては NBG は ZFC と同じことを証明する(ZFC公理系 の定理「ZFC の定理は NBG の定理である」と、そこで述べられている保存拡大性。保存拡大性はこの記事では証明しない)。MK は ZFC の無矛盾性を証明するので、ZFC より真に強い(ZFC公理系 の命題「MK は ZFC の無矛盾性を証明する」)。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 含まれる先が集合である(thm-class-set-criteria の 1) | $\mathbf R\subseteq\mathbf V$ | 含まれるクラスが集合であること |
| 像をとる定義域が集合である(同 2) | 恒等関数 $\{\langle x,x\rangle\mid x\in\mathbf V\}$ による $\mathbf V$ の像 | 像が集合であること |
| $\mathbf F$ の値が高々一つ(同 2) | クラス関係 $\{\langle\emptyset,y\rangle\mid y\in\mathbf V\}$ による集合 $\{\emptyset\}$ の像 | 像が集合であること |
| $A$ が空でない(thm-class-proper-examples の 3) | $A=\emptyset$ | $[A]$ が真のクラスであること |
| 階数が最小の元に限る(thm-class-scott の 1) | $\mathbf C=[A]$($A\neq\emptyset$)そのもの | $\mathbf C_*$ が集合であること |
1 行目の $\mathbf R$、2・3 行目の像、5 行目のクラスは、thm-class-proper-examples によりいずれも真のクラスである(3 行目の像は $\mathbf V$ である)。4 行目では、空集合への全単射をもつのは空集合だけなので $[\emptyset]=\{\emptyset\}$ は集合である。
集合かどうかを分ける目安。 実際の数学で現れる「すべての〜」は、構造の種類(群・環・位相空間・多様体など)の全体であれば、thm-class-proper-examples の 4 と同じ議論でつねに真のクラスである。一方、固定した集合の部分集合や、固定した集合の上の構造の全体(たとえば集合 $X$ 上の位相の全体)は冪集合の部分集合なので集合である。
宇宙を使う方法。 圏論では、真のクラスを避けるために Grothendieck宇宙 $U$ を一つ固定し、$U$ の元を「小さい集合」として扱うこともある。このとき「すべての小さい群」は集合になる。
クラスの扱いは Kun80 Ch. I, §9, Definition 9.1–Theorem 9.3(pp. 23–25)に、すべての集合の集合とすべての順序数の集合がないことは同 Theorem 5.2(p. 11)・Theorem 7.4(p. 17)に、累積階層と階数は Ch. III, §2, Definition 2.1・2.4、Lemma 2.5(p. 95)と §4, Theorem 4.1(p. 101)にある。同型類が真のクラスであることと Scott の方法の定理の形は、この記事で示した。
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