コンパクト台コホモロジー(cohomology with compact support)とは、位相空間 $X$ の特異余鎖のうち、あるコンパクト集合の外の特異単体で $0$ をとるものがなす部分複体のコホモロジー $H^k_c(X)$ であり、コンパクト集合 $K$ を動かした相対コホモロジー $H^k(X,X\setminus K)$ の帰納極限に等しい。コンパクトな空間では通常のコホモロジーと一致するがホモトピー不変でなく、$H^k_c(\mathbb{R}^n)$ は次数 $n$ にだけ現れる。固有写像で引き戻され、開集合からは零拡張で押し出され、無限遠の近傍がよければ一点コンパクト化の被約コホモロジーに等しい。向き付けられた多様体では Poincaré 双対 $H^k_c(M)\cong H_{n-k}(M)$ の相手になり、ℓ進版は Grothendieck の跡公式に現れる。
$\mathbb{R}^n$ は可縮なので、通常のコホモロジーは一点と同じで、$H^k(\mathbb{R}^n)$ は $k=0$ 以外で $0$ である。ところが $\mathbb{R}^n$ 上の「全積分が $1$ の小さな山形の $n$ 形式」や「原点を囲むコンパクトな領域の外で消える余鎖」は、$\mathbb{R}^n$ の次元 $n$ を確かに捉えている。台(値が $0$ でない部分)がコンパクトな余鎖だけを使って作るコホモロジーが コンパクト台コホモロジー(cohomology with compact support)$H^k_c(X)$ であり、$H^k_c(\mathbb{R}^n)$ は次数 $n$ にだけ現れる。
コンパクト台コホモロジーは、コンパクトでない多様体に対する Poincaré 双対 $H^k_c(M)\cong H_{n-k}(M)$ の相手方であり、閉多様体の Poincaré 双対もこの形を経由して証明される。コンパクトな空間では通常のコホモロジーと一致し、無限遠点の近傍がよい空間では一点コンパクト化の被約コホモロジーと一致する。代数幾何学では、有限体上の多様体の点の個数を数える Grothendieck の跡公式に、ℓ 進コホモロジーのコンパクト台版が現れる。
この記事では、特異コホモロジーのコンパクト台版を定義し、相対コホモロジーの帰納極限としての表示、固有写像と開集合の包含に関する関手性を示す。そのうえで $H^*_c(\mathbb{R}^n)$ を計算し、コンパクト空間から閉集合を除いた空間の $H^*_c$ を相対コホモロジーで表す定理を証明する。
以下、$G$ をアーベル群とし、係数を明示しないときも $G$ 係数とする。位相空間 $X$ の部分空間 $A$ に対し、$C^k(X,A;G)$ は $A$ 内の特異鎖の上で $0$ になる特異 $k$ 余鎖のなす部分群であり、そのコホモロジーが相対コホモロジー $H^k(X,A;G)$ である(特異コホモロジー の定義「相対コホモロジーと被約コホモロジー」)。
位相空間 $X$ の特異 $k$ 余鎖 $\varphi\in C^k(X;G)$ が コンパクト台をもつ とは、あるコンパクト集合 $K\subset X$ が存在して、$\varphi$ が $X\setminus K$ に含まれる特異鎖の上で $0$ になること、すなわち $\varphi\in C^k(X,X\setminus K;G)$ となることをいう。その全体を $C^k_c(X;G)$ と書く。$\varphi\in C^k(X,X\setminus K;G)$ なら $\delta\varphi\in C^{k+1}(X,X\setminus K;G)$ なので、$C^\bullet_c(X;G)$ は特異余鎖複体の部分複体である。そのコホモロジー
$$
H^k_c(X;G):=H^k\bigl(C^\bullet_c(X;G)\bigr)
$$
を $X$ の コンパクト台コホモロジー という。
ここでの「台がコンパクト」は、「$K$ の外にある単体の上で $0$」という弱い意味である。「$K$ に含まれない単体の上で $0$」という強い条件にすると、余境界をとる操作で閉じない。たとえば $\mathbb{R}$ の一点 $x_0$ だけで $1$ をとる $0$ 余鎖の余境界は、端点の一方が $x_0$ であるいくらでも長い $1$ 単体の上で $0$ でない(Hat02 §3.3, p. 243)。
$X$ のコンパクト集合全体を包含関係で順序づけた有向集合 $\mathcal{K}(X)$ をとる。$K\subset L$ のとき包含 $(X,X\setminus L)\hookrightarrow(X,X\setminus K)$ が誘導する $H^k(X,X\setminus K;G)\to H^k(X,X\setminus L;G)$ により帰納系ができ、自然な同型
$$
H^k_c(X;G)\cong\varinjlim_{K\in\mathcal{K}(X)}H^k(X,X\setminus K;G)
$$
がある。$\mathcal{K}(X)$ の共終な部分族(任意のコンパクト集合がその成員に含まれる族)で極限をとっても同じである。とくに $X$ がコンパクトなら $H^k_c(X;G)=H^k(X;G)$ である。
コンパクト集合 2 つの和はコンパクトなので $\mathcal{K}(X)$ は有向集合である。$K\subset L$ なら $X\setminus L\subset X\setminus K$ なので、$X\setminus K$ 上で $0$ になる余鎖は $X\setminus L$ 上でも $0$ であり、$C^\bullet(X,X\setminus K;G)\subset C^\bullet(X,X\setminus L;G)$ である。この包含が上の帰納系の写像を誘導する。定義から $C^\bullet_c(X;G)=\bigcup_KC^\bullet(X,X\setminus K;G)$ であり、有向集合で添字づけられた部分複体の増大する和は、それらの帰納極限である。帰納極限は完全なのでコホモロジーをとる操作と交換し(帰納極限 の系「核・余核・ホモロジーとの交換」)、主張の同型を得る。共終な部分族で極限が変わらないことは帰納極限の一般的な性質である。$X$ がコンパクトなら $X$ 自身が $\mathcal{K}(X)$ の最大元なので、極限は $H^k(X,\emptyset;G)=H^k(X;G)$ である。$\square$
この表示は Hat02 §3.3(p. 244)にある。$X$ が Hausdorff 空間なら、コンパクト集合 $K$ は閉集合なので、切除定理により $H^k(X,X\setminus K;G)$ は $K$ の近傍だけで決まる(Hat02 p. 245)。$H^k_c$ は「コンパクト集合での局所コホモロジー」の極限である。
$H^0_c(X;G)$ は、$X$ の弧状連結成分の上で一定な関数 $f\colon X\to G$ であって、あるコンパクト集合の外で $0$ になるもの全体と同型である。とくに、$X$ が弧状連結でコンパクトでなければ $H^0_c(X;G)=0$ である。
$0$ 余鎖は関数 $f\colon X\to G$ のことであり、$\delta f=0$ は、すべての道 $\sigma\colon[0,1]\to X$ について $f(\sigma(1))=f(\sigma(0))$、すなわち $f$ が弧状連結成分の上で一定であることと同値である(特異コホモロジー の命題「0 次コホモロジーと弧状連結成分」)。次数 $0$ には余境界がないので、$H^0_c(X;G)$ は $C^0_c(X;G)$ の余輪体全体、すなわち弧状連結成分の上で一定で、あるコンパクト集合 $K$ の外の点で $0$ になる関数の全体である。$X$ が弧状連結なら $f$ は定数で、$X$ がコンパクトでなければ $X\setminus K\ne\emptyset$ なのでその定数は $0$ である。$\square$
たとえば正の整数の離散空間 $\mathbb{N}_{>0}$ では、$H^0_c(\mathbb{N}_{>0};G)$ は有限個の点でだけ $0$ でない関数の全体、すなわち直和 $\bigoplus_{n\ge1}G$ である。
通常のコホモロジーは任意の連続写像で引き戻せるが、コンパクト台コホモロジーで引き戻せるのは固有写像に限られる。その代わりに、開集合の包含に沿って「零拡張」で押し出すことができる。
1.$\varphi\in C^k(Y,Y\setminus K;G)$ とする。$X\setminus f^{-1}(K)$ に含まれる特異単体 $\sigma$ について、$f\circ\sigma$ は $Y\setminus K$ に含まれるので $(f^\sharp\varphi)(\sigma)=\varphi(f\circ\sigma)=0$ である。よって $f^\sharp\varphi\in C^k(X,X\setminus f^{-1}(K);G)$ であり、$f$ が固有なので $f^{-1}(K)$ はコンパクトである。$f^\sharp$ は $\delta$ と可換なので余鎖写像 $C^\bullet_c(Y;G)\to C^\bullet_c(X;G)$ を与える。関手性は余鎖の段階で $(g\circ f)^\sharp=f^\sharp\circ g^\sharp$ が成り立つことによる。
2.$K$ は Hausdorff 空間 $X$ のコンパクト集合なので閉集合であり、$X\setminus K$ は開集合である。$Z:=X\setminus U$ は閉集合で $Z\subset X\setminus K$ なので、$\overline{Z}=Z\subset\operatorname{Int}(X\setminus K)$ が成り立つ。$(X\setminus Z,(X\setminus K)\setminus Z)=(U,U\setminus K)$ なので、コホモロジーの切除定理(Hat02 §3.1, p. 201。ホモロジーの 切除定理 から普遍係数定理と五項補題で従う)により制限は同型である。あとは帰納極限をとればよい。
$K\subset L\subset U$ について、制限写像と帰納系の写像はどれも対の包含が誘導するので可換な四角形をなし、逆写像も帰納系の写像と可換である。よって帰納極限をとって $\varinjlim_{K\in\mathcal{K}(U)}H^k(U,U\setminus K)\cong\varinjlim_{K\in\mathcal{K}(U)}H^k(X,X\setminus K)\to\varinjlim_{K\in\mathcal{K}(X)}H^k(X,X\setminus K)$ を得る。prop-cs-limit により、これが $j_!$ である。$U\subset V\subset X$ のとき、$K\subset U$ について制限 $H^k(X,X\setminus K)\to H^k(V,V\setminus K)\to H^k(U,U\setminus K)$ の合成は直接の制限に等しいので、逆写像についても同じ関係が成り立ち、零拡張は合成と両立する。$\square$
零拡張という名前は、余鎖の段階で「$U$ の外では $0$ として延ばす」ことに当たるからである。一点コンパクト化 の系「商による一点コンパクト化の帰結」の潰し写像 $X^+\to U^+$ は、同じ向きの写像を空間の段階で与える。
コンパクト台コホモロジーは ホモトピー不変でない。$\mathbb{R}^n$ と一点はホモトピー同値だが、次の定理のとおり $H^n_c(\mathbb{R}^n;G)\cong G$、$H^n_c(\text{一点};G)=0$($n\ge1$)である。定数写像 $\mathbb{R}^n\to\text{一点}$ は固有でないので、1 の引き戻しは定義されない。実際、一点の $0$ 余鎖 $1$ の引き戻しは $\mathbb{R}^n$ のすべての点で $1$ をとり、コンパクト台をもたない。
$n\ge0$ とする。
$$
H^k_c(\mathbb{R}^n;G)\cong\begin{cases}G&(k=n)\\0&(k\ne n)\end{cases}
$$
である。
$n=0$ では $\mathbb{R}^0$ は一点でコンパクトなので、prop-cs-limit により $H^k_c=H^k(\text{一点};G)$ であり、主張のとおりである。$n\ge1$ とする。原点を中心とする半径 $r>0$ の閉球 $B_r$ の族は $\mathcal{K}(\mathbb{R}^n)$ で共終なので、prop-cs-limit により $H^k_c(\mathbb{R}^n)=\varinjlim_rH^k(\mathbb{R}^n,\mathbb{R}^n\setminus B_r)$ である。
各項の計算:$\mathbb{R}^n$ は可縮なので、対の被約コホモロジーの長完全列(特異コホモロジー の定理「対の長完全列」、Hat02 p. 200)により、連結準同型 $\tilde H^{k-1}(\mathbb{R}^n\setminus B_r)\to H^k(\mathbb{R}^n,\mathbb{R}^n\setminus B_r)$ は同型である。$\mathbb{R}^n\setminus B_r$ は半径 $s>r$ の球面 $S_s:=\{\lvert x\rvert=s\}$ を変位レトラクトにもつ($x\mapsto x\bigl((1-t)+ts/\lvert x\rvert\bigr)$ は動径方向の移動なので $\lvert x\rvert>r$ を保つ)。よって
$$
H^k(\mathbb{R}^n,\mathbb{R}^n\setminus B_r)\cong\tilde H^{k-1}(S^{n-1};G)\cong\begin{cases}G&(k=n)\\0&(k\ne n)\end{cases}
$$
である(特異コホモロジー の例「球面のコホモロジー」)。
帰納系の写像はすべて同型であり、同型からなる帰納系の極限は各項と同型なので、主張が従う。
$r< r'$ とし、$s>r'$ をとる。$S_s$ は $\mathbb{R}^n\setminus B_{r'}$ と $\mathbb{R}^n\setminus B_r$ の両方の変位レトラクトなので、包含 $S_s\hookrightarrow\mathbb{R}^n\setminus B_{r'}$ と $S_s\hookrightarrow\mathbb{R}^n\setminus B_r$ はホモトピー同値であり、後者は前者と包含 $\mathbb{R}^n\setminus B_{r'}\hookrightarrow\mathbb{R}^n\setminus B_r$ の合成なので、この包含もコホモロジーの同型を誘導する。長完全列の自然性と五項補題により、$H^k(\mathbb{R}^n,\mathbb{R}^n\setminus B_r)\to H^k(\mathbb{R}^n,\mathbb{R}^n\setminus B_{r'})$ は同型である。$\square$
これは Hat02 Example 3.34(p. 244)である。微分形式で同じことを見ると、コンパクト台の $n$ 形式 $\omega$ に積分 $\int_{\mathbb{R}^n}\omega$ を対応させる写像が同型 $H^n_{dR,c}(\mathbb{R}^n)\cong\mathbb{R}$ を与え(BT82 Corollary 4.7.1, p. 39、コンパクト台の Poincaré の補題)、全積分 $1$ の山形の $n$ 形式が生成元になる。$n=1$ では、コンパクト台の $1$ 形式 $g(x)\,dx$ が完全形式 $df$($f$ もコンパクト台)であることは $\int_{\mathbb{R}}g\,dx=0$ と同値である(BT82 Example 1.6, p. 18)。
$Y$ をコンパクト空間とすると、すべての $k$ について $H^k_c\bigl(Y\times[0,\infty);G\bigr)=0$ である。とくに $H^*_c([0,\infty);G)=0$ である。
$X:=Y\times[0,\infty)$ とおく。$X$ のコンパクト集合 $C$ の第 2 成分への射影の像はコンパクトなので、ある $r$ で $C\subset K_r:=Y\times[0,r]$ となり、$K_r$ はコンパクトである。よって $\{K_r\}$ は共終で、$H^k_c(X)=\varinjlim_rH^k(X,X\setminus K_r)$ である。$X\setminus K_r=Y\times(r,\infty)$ と $X$ は、どちらも $Y\times\{r+1\}$ を変位レトラクトにもつ($(y,t)\mapsto(y,(1-u)t+u(r+1))$ は $t>r$ を保つ)。よって包含 $X\setminus K_r\hookrightarrow X$ はホモトピー同値で、コホモロジーの同型を誘導する。対の長完全列により $H^k(X,X\setminus K_r)=0$ であり、極限も $0$ である。$\square$
$[0,\infty)$、$\mathbb{R}$、一点は互いにホモトピー同値だが、コンパクト台コホモロジーは順に $0$、次数 $1$ に $G$、次数 $0$ に $G$ と、すべて異なる。同相写像 $h$ は固有で、逆写像も固有なので、prop-cs-functoriality の 1(関手性)により $h^*$ は同型である。一方、ホモトピー同値では $H^*_c$ は保たれない。
コンパクトな空間から閉集合を除いた空間のコンパクト台コホモロジーは、除いた集合の近傍がよければ、相対コホモロジーで計算できる。
$Y$ をコンパクト Hausdorff 空間、$Z\subset Y$ を閉集合とし、$X:=Y\setminus Z$ とおく。$Z$ の開近傍の族 $\mathcal{N}$ が次の 2 条件をみたすとする。
$N\in\mathcal{N}$ に対し $K_N:=Y\setminus N$ とおく。$K_N$ はコンパクト空間 $Y$ の閉集合なのでコンパクトで、$X$ に含まれる。$X$ の任意のコンパクト集合 $C$ について、$C$ は $Y$ で閉なので $Y\setminus C$ は $Z$ の開近傍であり、条件 1 によりある $N\subset Y\setminus C$、すなわち $C\subset K_N$ となる。よって $\{K_N\}$ は $\mathcal{K}(X)$ で共終であり、prop-cs-limit により $H^k_c(X)=\varinjlim_NH^k(X,X\setminus K_N)$ である。
各 $N$ について次の 2 つの同型がある。
条件 2 は外せない。$X=\mathbb{N}_{>0}$ を離散空間とし、$Y=X^+$ を $\{1/n\mid n\ge1\}\cup\{0\}$ と同一視する(一点コンパクト化 の例「半開区間と収束列」)。prop-cs-degree-zero により $H^0_c(X;G)\cong\bigoplus_{n\ge1}G$ である。一方 $Y$ の弧状連結成分は一点ずつなので、$\tilde H^0(Y;G)=H^0(Y,\{0\};G)$ は $0$ で $0$ になる任意の関数 $\{1/n\}\to G$ の全体、すなわち直積 $\prod_{n\ge1}G$ である。証明と同じく対の包含が誘導する比較写像 $H^0_c(X;G)\to\tilde H^0(Y;G)$ は包含 $\bigoplus G\hookrightarrow\prod G$ であり、$G\ne0$ なら全射でない。$G=\mathbb{Z}$ なら、$\bigoplus\mathbb{Z}$ は自由アーベル群で可算、$\prod\mathbb{Z}$ は非可算なので、抽象的にも同型でない。$0$ のどの近傍 $\{0\}\cup\{1/n\mid n\ge m\}$ も弧状連結でなく、$H^0(N,\{0\})\ne0$ なので条件 2 が破れている。
コンパクト台コホモロジーのいちばん重要な使い道は、コンパクトでない多様体の Poincaré 双対である。$R$ を可換環、$M$ を $R$ 向き付けられた $n$ 次元位相多様体とすると、基本類 の局所版 $\mu_K\in H_n(M,M\setminus K;R)$($K$ はコンパクト)とのキャップ積の帰納極限
$$
D_M\colon H^k_c(M;R)\longrightarrow H_{n-k}(M;R)
$$
はすべての $k$ で同型である(Poincaré双対 の定理「コンパクトでない多様体の双対」、Hat02 Theorem 3.35, p. 245)。$M$ が閉多様体なら $H^k_c=H^k$ であり、閉多様体の Poincaré 双対になる。たとえば連結でコンパクトでない $M$ では $H^0_c(M;R)\cong H_n(M;R)=0$ であり(右の消滅は Hat02 Proposition 3.29, p. 239)、prop-cs-degree-zero と一致する。また $H^n_c(M;R)\cong H_0(M;R)\cong R$ である。ex-cs-complement の 2 で $G=R$ とすると、$H_{n-1}(S^n\setminus P;R)\cong R^{m-1}$ は $m$ 個の穴を囲む $m$ 個の小球面(それらの和は境界になる)が張る群である。
この定理は、多様体の開集合 $U,V$ について、コンパクト台コホモロジーの Mayer–Vietoris 完全列
$$
\cdots\to H^k_c(U\cap V)\to H^k_c(U)\oplus H^k_c(V)\to H^k_c(U\cup V)\to H^{k+1}_c(U\cap V)\to\cdots
$$
を、ホモロジーの Mayer–Vietoris 完全列と $D$ で結んで証明される(Hat02 Lemma 3.36, p. 246。Poincaré双対 の節「証明」の段 3)。この列の写像は prop-cs-functoriality の 2 の零拡張であり、通常のコホモロジーの Mayer–Vietoris 完全列(特異コホモロジー の定理「Mayer–Vietoris の完全列」)とは矢印の向きが逆になる。
de Rham コホモロジーでも同じ構造がある。可微分多様体 $M$ のコンパクト台の微分形式の複体のコホモロジー $H^k_{dR,c}(M)$ について、向き付けられた $M$ が有限個の開集合からなる良い開被覆をもつなら、積分の対 $H^k_{dR}(M)\times H^{n-k}_{dR,c}(M)\to\mathbb{R}$ は完全対である(Poincaré双対 の定理「de Rham コホモロジーの双対」)。$M$ が連結なら $H^0_{dR}(M)=\mathbb{R}$ なので、$\omega\mapsto\int_M\omega$ が同型 $H^n_{dR,c}(M)\cong\mathbb{R}$ を与える。
局所コンパクト Hausdorff 空間上の層 $F$ に対しては、コンパクト台をもつ大域切断の関手 $\Gamma_c$ の導来関手としてコンパクト台の層コホモロジー $H^k_c(X,F)$ が定まり、開集合 $U$ と補集合の閉集合 $Z$ について長完全列 $\cdots\to H^k_c(U,F)\to H^k_c(X,F)\to H^k_c(Z,F)\to H^{k+1}_c(U,F)\to\cdots$ がある(コンパクト台の順像 の系「コンパクト台のコホモロジーの長完全列」)。
代数幾何学では、位相空間のコンパクト性の代わりにスキームの射の固有性を使う。代数閉体 $k$ 上分離的で有限型のスキーム $X$ を、開埋め込み $j\colon X\hookrightarrow\bar X$ で固有な $\bar X$ に埋め、ねじれ層 $F$ について $H^i_c(X,F):=H^i(\bar X,j_!F)$ と定める。これは埋め込みの選び方によらない(SGA4h Arcata IV §5, (5.1)・(5.2))。$\mathbb{Z}/\ell^\nu$ 係数の極限をとり $\mathbb{Q}_\ell$ を係数にしたものが ℓ進コホモロジー のコンパクト台版である。有限体 $\mathbb{F}_q$ 上の多様体の有理点の個数は、Frobenius 写像の $H^i_c$ への作用のトレースの交代和に等しい(Lefschetz跡公式 の定理「Grothendieck の跡公式」)。たとえばアフィン直線では $H^2_c(\mathbb{A}^1_{\bar{\mathbb{F}}_q},\mathbb{Q}_\ell)$ だけが $0$ でなく 1 次元で、Frobenius は $q$ 倍で作用し、$\#\mathbb{A}^1(\mathbb{F}_q)=q$ が再現される(合同ゼータ関数 の例「反例:固有でない場合に破れる関数等式」)。$\mathbb{A}^1$ の複素数点 $\mathbb{C}$ の $H^*_c$ が次数 $2$ にだけ現れることの類似である。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| $X$ のコンパクト性 | $\mathbb{R}^n$($n\ge1$) | $H^k_c(X)=H^k(X)$($H^n_c(\mathbb{R}^n)\cong G$、$H^n(\mathbb{R}^n)=0$) |
| 写像の固有性 | 定数写像 $\mathbb{R}^n\to\text{一点}$ | 余鎖の引き戻しがコンパクト台を保つこと |
| 同相(ホモトピー同値に弱める) | $[0,\infty)$ と $\mathbb{R}$ | $H^*_c$ が一致すること(prop-cs-half-line) |
| 弧状連結性 | $\mathbb{R}\sqcup\{\text{一点}\}$ | 「コンパクトでなければ $H^0_c=0$」(prop-cs-degree-zero) |
| 近傍の条件 2 | $\mathbb{N}_{>0}\subset\mathbb{N}_{>0}^+$ | $H^k_c(X)\cong H^k(Y,Z)$(thm-cs-complement) |
4 行目では、孤立した一点の上で $1$、$\mathbb{R}$ の上で $0$ をとる関数が $H^0_c$ の $0$ でない元である。他の行の確認は本文の各所(prop-cs-functoriality の後の段落、prop-cs-half-line の後の段落、ex-cs-complement の後の段落)にある。
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