Moore空間(Moore space)とは、アーベル群 $G$ と $n\ge1$ に対し、被約ホモロジーが次数 $n$ でだけ $G$ と同型で他の次数では $0$ になる CW 複体 $M(G,n)$ のことであり、$n\ge2$ では単連結であることも課す。$S^n$ は $M(\mathbb{Z},n)$ で、写像度 $m\ge2$ の写像で胞体を貼った $S^n\cup_me^{n+1}$ は $M(\mathbb{Z}/m,n)$ である。任意の $G$ について、自由表示の関係式ごとに球面の一点和へ胞体を貼って $M(G,n)$ が作れる。普遍係数定理の分裂が自然にとれないことや、整数係数では同じで $\mathbb{Z}/p$ 係数で異なるコホモロジー環の例に使われる。
球面 $S^n$ は、被約ホモロジーが次数 $n$ にだけ $\mathbb{Z}$ をもつ空間である。$\mathbb{Z}$ を任意のアーベル群 $G$ に置き換えた空間が Moore 空間 $M(G,n)$ である。たとえば $m\ge2$ として、$S^n$ に写像度 $m$ の写像で $(n+1)$ 胞体を貼ると、次数 $n$ のホモロジーが $\mathbb{Z}/m\mathbb{Z}$ の空間になる。一般の $G$ でも、$G$ を自由アーベル群の商として表し、その関係式の数だけ胞体を貼れば Moore 空間が作れる。これがこの記事の主定理である。
Moore 空間は、ホモロジーの一つの次数だけを取り出した「ホモロジーの単位」として、例や反例に使われる。この記事では、普遍係数定理の分裂が自然にとれないことと、整数係数のコホモロジー環が同型でも $\mathbb{Z}/p$ 係数の環が区別する空間の例を、Moore 空間で示す。
$G$ をアーベル群、$n\ge1$ とする。CW複体 $X$ が次の条件を満たすとき、$X$ を型 $(G,n)$ の Moore 空間(Moore space)といい、$M(G,n)$ と書く。
Hat02 Example 2.40(p. 143)は条件 1 で Moore 空間を定義し、$n>1$ のときは単連結性を定義に含めるのがよいと注意している。この記事はその注意に従う。条件 2 があると、$n\ge2$ では、$i< n$ の被約ホモロジーが消えることから Hurewicz の定理(Hurewiczの定理 の記事の定理「Hurewicz の定理」)を次数の低い順に使って、$X$ は $(n-1)$ 連結で $\pi_n(X)\cong H_n(X)\cong G$ となる。
Moore 空間を作るには、球面の一点和に、指定した写像度で各球面を覆う写像で胞体を貼る。そのための写像を先に用意する。
$n\ge1$ とし、$(S^n_\alpha)_{\alpha\in\Lambda}$ を球面の族、$Y:=\bigvee_\alpha S^n_\alpha$ をその一点和、$q_\alpha\colon Y\to S^n_\alpha$ を $S^n_\alpha$ 以外の球面を基点につぶす写像とする。有限個を除いて $0$ の整数の族 $(d_\alpha)_{\alpha\in\Lambda}$ に対し、連続写像 $\varphi\colon S^n\to Y$ で、すべての $\alpha$ について $\deg(q_\alpha\circ\varphi)=d_\alpha$ となるものがある。
要点:$S^n$ に $N:=\sum_\alpha|d_\alpha|$ 個の小さな円板をとり、円板の外を基点に送り、各円板を一つの球面へ写像度 $\pm1$ で送る。
$N=0$ なら定値写像でよい。$S^n$ の互いに交わらない閉円板(小さな球冠)$B_1,\dots,B_N$ をとり、$c\colon S^n\to\bigvee_{k=1}^NS^n_k$ を、各 $B_k$ を $B_k/\partial B_k\cong S^n_k$ に写し、$B_k$ の外を基点に送る写像とする。$c_k\colon S^n\to S^n_k$ を $c$ と第 $k$ 球面への射影の合成とすると、$c_k$ は閉円板 $D_k:=S^n\setminus\operatorname{Int}B_k$ をつぶす商写像 $S^n\to S^n/D_k$ と同相 $S^n/D_k\cong B_k/\partial B_k$ の合成である。$(S^n,D_k)$ は CW 対なのでホモトピー拡張性質をもち(コファイブレーション の記事の例「CW 対と良い基点」)、$D_k$ は可縮なので、同記事の定理「可縮な部分空間をつぶす商写像」により $c_k$ はホモトピー同値で、写像度は $\pm1$ である。同相 $B_k/\partial B_k\cong S^n_k$ に鏡映を合成し直して(写像度 の記事の定理「鏡映の写像度」)、$\deg c_k=1$ とする。
良い対 の記事の定理「ウェッジ和の被約ホモロジー」により、包含 $\iota_k$ の誘導写像の和 $\bigoplus_k\tilde H_n(S^n_k)\to\tilde H_n(\bigvee_kS^n_k)$ は同型で、射影 $p_k$ は $p_k\circ\iota_l$ が $k=l$ で恒等写像、$k\ne l$ で定値写像なので、$(p_{k*})_k$ がその逆写像である。よって生成元 $[S^n]$ について $c_*[S^n]=\sum_k\iota_{k*}[S^n_k]$ である。$\alpha$ ごとに $|d_\alpha|$ 個の $k$ を割り当て(割り当てを $k\mapsto\alpha(k)$ と書く)、$g_k\colon S^n_k\to S^n_{\alpha(k)}$ を $d_{\alpha(k)}>0$ なら恒等写像、$d_{\alpha(k)}<0$ なら鏡映とし、$\varphi:=(\bigvee_kg_k)\circ c$ とおく。$q_\alpha\circ(\bigvee_kg_k)\circ\iota_k$ は $\alpha(k)=\alpha$ なら $g_k$、そうでなければ定値写像なので、$(q_\alpha\circ\varphi)_*[S^n]=\sum_{\alpha(k)=\alpha}\deg(g_k)[S^n_\alpha]=d_\alpha[S^n_\alpha]$ である。$\square$
任意のアーベル群 $G$ と $n\ge1$ について、$0$ 胞体 1 個と、$n$ 胞体・$(n+1)$ 胞体だけからなる Moore 空間 $M(G,n)$ がある。
段 1:自由表示。 $G$ の生成系(たとえば $G$ の元全体)を基底とする自由アーベル群 $F$ から $G$ への全射 $F\to G$ をとり、その核を $K$ とする。自由アーベル群の部分群は自由なので(自由アーベル群 の記事の定理「自由アーベル群の部分群は自由」)、$K$ も自由アーベル群である。$F$ の基底 $(x_\alpha)_{\alpha\in\Lambda}$ と $K$ の基底 $(y_\beta)_{\beta\in\Lambda'}$ をとり、
$$
y_\beta=\sum_{\alpha\in\Lambda}d_{\beta\alpha}x_\alpha\qquad(d_{\beta\alpha}\in\mathbb{Z},\ \text{各 }\beta\text{ で有限個を除いて }0)
$$
と書く。
段 2:胞体を貼る。 $X^n:=\bigvee_{\alpha\in\Lambda}S^n_\alpha$ とする($\Lambda=\emptyset$ なら一点)。これは $0$ 胞体 1 個と $n$ 胞体 $e^n_\alpha$ からなる CW 複体である。各 $\beta$ について lem-moore-pinch で $\varphi_\beta\colon S^n\to X^n$ を $\deg(q_\alpha\circ\varphi_\beta)=d_{\beta\alpha}$ となるようにとり、$\varphi_\beta$ を接着写像として $(n+1)$ 胞体 $e^{n+1}_\beta$ を貼った空間を $X$ とする。接着写像は $n$ 骨格 $X^n$ に値をもつので、$X$ は CW 複体である。
段 3:ホモロジー。 胞体ホモロジー で計算する。胞体鎖群は $C_0=\mathbb{Z}$、$C_n=\bigoplus_\alpha\mathbb{Z}e^n_\alpha$、$C_{n+1}=\bigoplus_\beta\mathbb{Z}e^{n+1}_\beta$ で、ほかは $0$ である。$n+1\ge2$ なので、胞体境界公式(胞体ホモロジー の記事の定理「胞体境界公式」)により
$$
d_{n+1}(e^{n+1}_\beta)=\sum_\alpha\deg(q_\alpha\circ\varphi_\beta)\,e^n_\alpha=\sum_\alpha d_{\beta\alpha}e^n_\alpha
$$
である。$e^n_\alpha\mapsto x_\alpha$ で $C_n\cong F$ と同一視すると、$e^{n+1}_\beta\mapsto y_\beta$ による同型 $C_{n+1}\cong K$ のもとで $d_{n+1}$ は包含 $K\hookrightarrow F$ になる。$d_n\colon C_n\to C_{n-1}$ は $0$ である($n\ge2$ なら $C_{n-1}=0$、$n=1$ なら $1$ 胞体の両端は同じ $0$ 胞体)。したがって
$$
H_n(X)\cong F/K\cong G,\qquad H_{n+1}(X)=\ker(K\hookrightarrow F)=0,\qquad H_0(X)\cong\mathbb{Z}
$$
で、ほかの次数は $0$ である(胞体ホモロジーと特異ホモロジーは同型。同記事の定理「胞体ホモロジーと特異ホモロジーの同型」)。$X$ は連結なので $\tilde H_0(X)=0$ であり、条件 1 が成り立つ。
段 4:単連結性。 $n\ge2$ なら $X$ の $1$ 骨格は一点なので、胞体近似定理 の記事の系「低い次元の情報」の 2 により $\pi_1(X)$ は一点の基本群の像で、$0$ である。$\square$
この構成は Hat02 Example 2.40(pp. 143–144)による。$G=\mathbb{Z}/m\mathbb{Z}$ で $F=\mathbb{Z}$、$K=m\mathbb{Z}$ とすれば ex-moore-basic の 2 になる。$G$ が有限生成なら、巡回群の直和に分けて、各因子の Moore 空間の一点和をとってもよい。
アーベル群の列 $G_1,G_2,G_3,\dots$ に対し、連結な CW 複体 $X$ で、すべての $n\ge1$ について $\tilde H_n(X)\cong G_n$ となるものがある。
thm-moore-existence の $M(G_n,n)$ を $0$ 胞体で一点和にした $X:=\bigvee_nM(G_n,n)$ をとる。CW 複体と $0$ 胞体の対は良い対なので(Hat02 Proposition A.5, p. 523)、良い対 の記事の定理「ウェッジ和の被約ホモロジー」により $\tilde H_k(X)\cong\bigoplus_n\tilde H_k(M(G_n,n))=G_k$ である。$\square$
$n\ge2$ では、単連結な $M(G,n)$ のホモトピー型は $G$ と $n$ だけで決まる(Hat02 Example 4.34, p. 368。この記事では証明しない)。$n=1$ では一意性は成り立たない(反例の表の 2 行目)。
普遍係数定理 により、空間 $Y$ のコホモロジーには自然な短完全列
$$
0\to\operatorname{Ext}(H_{k-1}(Y),\mathbb{Z})\to H^k(Y;\mathbb{Z})\to\operatorname{Hom}(H_k(Y),\mathbb{Z})\to0
$$
があり、この列は分裂する(普遍係数定理 の記事の定理「特異コホモロジーの普遍係数定理」)。しかし分裂は $Y$ について自然にはとれない。Moore 空間はその最も簡単な証拠である。以下 $n\ge1$、$m\ge2$ とし、$X:=S^n\cup_me^{n+1}$(ex-moore-basic の 2)、$j\colon S^n\hookrightarrow X$ を包含、$q\colon X\to X/S^n$ を商写像とする。$X/S^n$ は $D^{n+1}/S^n\cong S^{n+1}$ である。
$\tilde H_*(X)$ は次数 $n$ の $\mathbb{Z}/m$ だけで、$\tilde H_*(S^{n+1})$ は次数 $n+1$ の $\mathbb{Z}$ だけなので、$q_*$ はどの次数でも $0$ である。普遍係数定理と $\operatorname{Ext}(\mathbb{Z}/m,\mathbb{Z})\cong\mathbb{Z}/m$(同記事の命題「Ext の計算」)により、$H^{n+1}(X)\cong\mathbb{Z}/m\ne0$、$H^n(X)\cong\operatorname{Hom}(\mathbb{Z}/m,\mathbb{Z})\oplus\operatorname{Ext}(H_{n-1}(X),\mathbb{Z})=0$ である($H_{n-1}(X)$ は $0$ または $H_0=\mathbb{Z}$ で自由)。
1 の後半:$(X,S^n)$ は CW 対なので良い対で(Hat02 Proposition A.5, p. 523)、$q\colon(X,S^n)\to(S^{n+1},*)$ は相対ホモロジーの同型を誘導する(良い対 の記事の定理「良い対の相対ホモロジー」)。相対特異鎖複体は自由鎖複体なので、普遍係数定理 の記事の系「ホモロジー同型とコホモロジー」により $q^*\colon H^{n+1}(S^{n+1},*)\to H^{n+1}(X,S^n)$ も同型である。対 $(X,S^n)$ のコホモロジーの長完全列(特異コホモロジー の記事の定理「対の長完全列」)の
$$
H^{n+1}(X,S^n)\to H^{n+1}(X)\to H^{n+1}(S^n)=0
$$
から、$H^{n+1}(X,S^n)\to H^{n+1}(X)$ は全射である。対の写像の可換性から、$q^*\colon H^{n+1}(S^{n+1})\to H^{n+1}(X)$ は「同型 $H^{n+1}(S^{n+1})\cong H^{n+1}(S^{n+1},*)$、同型 $q^*$、この全射」の合成に等しく、像は $H^{n+1}(X)\cong\mathbb{Z}/m\ne0$ 全体である。
2:$\tilde H^*(S^n)$ は次数 $n$ にしかなく、$H^n(X)=0$ なので $j^*$ は $0$ である。写像錐(位相) の記事の定理「写像錐のホモロジー完全列」の $H_n(S^n)\xrightarrow{m}H_n(S^n)\xrightarrow{j_*}H_n(X)\to\tilde H_{n-1}(S^n)=0$ から、$j_*$ は全射 $\mathbb{Z}\to\mathbb{Z}/m\ne0$ である。$\square$
すべての空間 $Y$ について、普遍係数定理の短完全列の分裂 $H^{n+1}(Y;\mathbb{Z})\cong\operatorname{Ext}(H_n(Y),\mathbb{Z})\oplus\operatorname{Hom}(H_{n+1}(Y),\mathbb{Z})$ を、連続写像が誘導する写像と両立するように選ぶことはできない。
そのような分裂があれば、$q^*\colon H^{n+1}(S^{n+1})\to H^{n+1}(X)$ は $\operatorname{Ext}(q_*,\mathbb{Z})\oplus\operatorname{Hom}(q_*,\mathbb{Z})$ と一致する。prop-moore-two-maps の 1 により $H_n$ と $H_{n+1}$ の $q_*$ は $0$ なので、$q^*=0$ となり、同命題に反する。$\square$
普遍係数定理 の記事の例「反例:分裂が自然でない」は、鎖複体の鎖写像で同じ現象を示している。ここでは空間の間の連続写像で起こることを示した。この命題は Hat02 Exercise 11(§3.1, p. 205)の主張である。$m=1$ では $X$ の被約ホモロジーがすべて消え、主張は成り立たないので、$m\ge2$ を仮定している(反例の表の 1 行目)。
Moore 空間は、整数係数のコホモロジー環では見えない違いを、有限体などの係数で見る例にもなる。
$p\ge2$ を整数とする。$X$ を $\mathbb{CP}^2$ に、写像度 $p$ の写像 $S^2\to\mathbb{CP}^1\subset\mathbb{CP}^2$ で $3$ 胞体を貼った空間とし、$Y:=M(\mathbb{Z}/p,2)\vee S^4$ とする($M(\mathbb{Z}/p,2)=S^2\cup_pe^3$)。$X$ と $Y$ は整数係数のコホモロジー環が同型だが、$\mathbb{Z}/p$ 係数のコホモロジー環は同型でない。とくに $X$ と $Y$ はホモトピー同値でない。
どちらも次元 $0,2,3,4$ に胞体を 1 つずつもつ CW 複体で、$3$ 胞体は写像度 $p$ で $2$ 骨格 $S^2$ に、$4$ 胞体は $2$ 骨格に値をもつ写像で貼られている($X$ では Hopf 写像 $S^3\to\mathbb{CP}^1$。Hat02 Example 0.6, pp. 6–7)。胞体境界公式で $d_3=p$、$d_4=0$(接着写像を $3$ 骨格から $2$ 骨格をつぶした $S^3$ へ送ると定値写像)なので、どちらも $H_2\cong\mathbb{Z}/p$、$H_3=0$、$H_4\cong\mathbb{Z}$ である。
整数係数:普遍係数定理から、どちらも $H^2=0$、$H^3\cong\mathbb{Z}/p$、$H^4\cong\mathbb{Z}$、$H^1=0$ で、$5$ 次以上は $0$ である。正の次数の元どうしの積は、次数 $3$ 以上の 2 つの元の積で次数 $6$ 以上に入るので $0$ である。よって次数ごとに群の同型を選べば、環の同型になる。
$\mathbb{Z}/p$ 係数:普遍係数定理から、どちらも $H^2$、$H^3$、$H^4$ は $\mathbb{Z}/p$ である。$Y$ では、$M:=M(\mathbb{Z}/p,2)$ への包含 $\iota$ と、$S^4$ をつぶすレトラクション $\rho\colon Y\to M$ について $\iota^*\rho^*=\mathrm{id}$ なので、$\rho^*\colon H^2(M)\to H^2(Y)$ は単射で、どちらも $\mathbb{Z}/p$ なので全単射である。$H^2(Y)$ の元は $\rho^*z$ の形で、$(\rho^*z)^2=\rho^*(z^2)$、$z^2\in H^4(M;\mathbb{Z}/p)=0$($M$ は $3$ 次元)なので、$H^2(Y)$ のすべての元の平方は $0$ である。
$X$ では、部分複体 $\mathbb{CP}^2$ との対の長完全列を使う。$X/\mathbb{CP}^2\cong S^3$ で、prop-moore-two-maps の証明の 1 の後半と同じ議論(係数を $\mathbb{Z}/p$ にする)により $H^k(X,\mathbb{CP}^2;\mathbb{Z}/p)$ は $k=3$ のときだけ $\mathbb{Z}/p$ である。よって制限 $H^4(X)\to H^4(\mathbb{CP}^2)$ は同型、$H^2(X)\to H^2(\mathbb{CP}^2)$ は単射で、どちらも $\mathbb{Z}/p$ なので同型である。$\mathbb{CP}^2$ では整数係数の生成元 $\alpha\in H^2$ について $\alpha^2$ が $H^4$ の生成元である(カップ積 の記事の例「代表的なコホモロジー環」の 4)。係数の還元 $r\colon H^*(\,\cdot\,;\mathbb{Z})\to H^*(\,\cdot\,;\mathbb{Z}/p)$ は余鎖の値を $p$ で割った余りに取り替える写像で、カップ積の定義式と可換なので環準同型である。特異鎖群は自由なので $0\to C^*(\,\cdot\,;\mathbb{Z})\xrightarrow{p}C^*(\,\cdot\,;\mathbb{Z})\to C^*(\,\cdot\,;\mathbb{Z}/p)\to0$ は完全で、その長完全列と $H^3(\mathbb{CP}^2;\mathbb{Z})=H^5(\mathbb{CP}^2;\mathbb{Z})=0$ から、$r$ は $H^2$、$H^4$ で全射である。よって $r(\alpha)$ は $H^2(\mathbb{CP}^2;\mathbb{Z}/p)$ の生成元で、$r(\alpha)^2=r(\alpha^2)\ne0$ である。$H^2(X;\mathbb{Z}/p)$ の生成元 $x$ の制限は $r(\alpha)$ の単元倍なので、$x^2$ の制限は $0$ でなく、$x^2\ne0$ である。
次数を保つ環同型 $H^*(X;\mathbb{Z}/p)\to H^*(Y;\mathbb{Z}/p)$ があれば、$x$ の像の平方は $0$ でないはずだが、$Y$ の $H^2$ にそのような元はない。$\square$
この例は Hat02 Exercise 8(§3.2, p. 229)の空間である。整数係数の環では $H^2=0$ のために $\mathbb{CP}^2$ の積の構造が消えるが、$\mathbb{Z}/p$ 係数では $H^2$ が生き残り、積が見える。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| $m\ge2$(prop-moore-two-maps) | $m=1$:$X=S^n\cup_1e^{n+1}$ | $H^{n+1}(X)=0$ なので、$q^*=0$ である |
| $n\ge2$($M(G,n)$ のホモトピー型の一意性) | $n=1$、$G=0$:一点と、Hat02 Example 2.38 の非輪状な 2 次元 CW 複体 | どちらも条件 1 を満たす $M(0,1)$ だが、基本群が異なり、ホモトピー同値でない |
| $p\ge2$(ex-moore-cup) | $p=1$ | 係数 $\mathbb{Z}/1$ は零環で、$X,Y$ の $\mathbb{Z}/1$ 係数のコホモロジー環はどちらも $0$ になり、同型である |
1 行目:$X$ は写像度 $1$ の写像 $f$ の写像錐で、写像錐(位相) の記事の定理「写像錐のホモロジー完全列」で $f_*$ が同型なので $\tilde H_*(X)=0$ であり、普遍係数定理から $H^{n+1}(X)=0$ である。2 行目の複体は基本群が位数 $120$ の群で、すべての被約ホモロジーが $0$ である(Hat02 Example 2.38, pp. 142–143。この記事では証明しない)。3 行目では整数係数の環の同型は成り立ったまま、結論の後半だけが成り立たなくなる。
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