局所分解的スキーム(locally factorial scheme)とは、すべての局所環が一意分解整域であるスキームのことである。Noether で分離的な正規整スキーム $X$ では、これはすべての素因子が各点の近くで 1 つの方程式で切り出されることと同値であり、このとき Weil 因子と Cartier 因子が一致して $\operatorname{Cl}(X)\cong\operatorname{Pic}(X)$ となる。正則スキームは局所分解的だが逆は成り立たず、体 $k$ 上の $k[a,b,c,d,e]/(ab+cd+e^2)$ は正則でない一意分解整域である。2 次錐 $uv=w^2$ は正規だが局所分解的でなく、類群が $\mathbb{Z}/2$ であるのに Picard 群は $0$ である。
スキームのすべての局所環が一意分解整域であるとき、そのスキームを局所分解的(locally factorial)という。正則スキーム、たとえば体上の射影空間や滑らかな多様体はこの性質をもつ。Noether で分離的な局所分解的整スキームの上では、余次元 $1$ の既約閉集合がどの点の近くでも 1 つの方程式で切り出される。そのため Weil因子 と Cartier因子 は同じものになり、因子類群と Picard群 が一致する。この記事では、局所分解性を「すべての素因子が局所的に主因子であること」で特徴づけ、素元による局所化から一意分解性を判定する方法を示し、それを使って正則でない局所分解的スキームを作る。2 次錐 $uv=w^2$ のように、正規であっても局所分解的でなければ類群と Picard 群はずれる。
スキーム $X$ が局所分解的(locally factorial)であるとは、すべての点 $x\in X$ について局所環 $\mathcal{O}_{X,x}$ が一意分解整域であることをいう。
一意分解整域は整域であることを含む。環 $A$ について $\operatorname{Spec}A$ が局所分解的であることは、$A$ のすべての素イデアル $\mathfrak{p}$ について局所化 $A_\mathfrak{p}$ が一意分解整域であることにほかならない。Hartshorne Har77 II.6.11(p. 141)はこの語を Noether で分離的な整スキームについて導入している。Bourbaki の用語では一意分解整域を factorial ring と呼ぶので(Mat86 §20、p. 161)、この名前がある。
1:$\pi$ を $A$ の素元とする。$\pi$ が $T$ のある元を割るなら、$\pi$ は $T^{-1}A$ の単元である。そうでないなら $\pi$ は $T^{-1}A$ の素元である。実際、$(a/s)(b/t)\in\pi T^{-1}A$ なら $s'ab=\pi c$ となる $s'\in T$、$c\in A$ があり、$\pi\nmid s'$ だから $\pi\mid a$ または $\pi\mid b$ である。また $\pi$ は $T^{-1}A$ の単元でない($\pi\cdot(c/s)=1$ なら $\pi c=s$ となり $\pi\mid s$)。$T^{-1}A$ の $0$ でない元 $a/s$ は、$a$ の $A$ での素元分解により「単元 × $T^{-1}A$ の素元の積」と書ける。$0$ でも単元でもない元がすべて素元の積になる整域は一意分解整域である。
2:$\mathcal{O}_{\operatorname{Spec}A,\mathfrak{p}}=A_\mathfrak{p}$ に 1 を使う。開部分スキームの局所環はもとの局所環と同じである。
3:一意分解整域 $R$ は整閉である。実際、商体の元 $a/b$($a,b\in R$ は共通の素因子をもたない)が $R$ 上整で $a^n+c_1a^{n-1}b+\dots+c_nb^n=0$ をみたすとき、$b$ を割る素元 $\pi$ があれば $\pi\mid a^n$、したがって $\pi\mid a$ となり矛盾するから、$b$ は単元で $a/b\in R$ である。
4:$\mathfrak{p}\subset\mathfrak{m}$ なら $A_\mathfrak{p}=(A_\mathfrak{m})_{\mathfrak{p}A_\mathfrak{m}}$ であり、どの素イデアルも極大イデアルに含まれるから、1 による。$\square$
以下、$X$ が Noether で分離的な正規整スキームのとき、$K$ をその関数体とし、Weil因子の記事の記号(素因子、$\operatorname{ord}_Y$、$\operatorname{div}(f)$、$\operatorname{Div}(X)$、$\operatorname{Cl}(X)$)を使う。正規性により、$X$ は同記事の条件 $(*)$ をみたす。
点 $x\in X$ を含む素因子 $Y$ には、$Y$ の生成点 $\eta_Y$ に対応する $\mathcal{O}_{X,x}$ の素イデアル $\mathfrak{p}_Y$ が対応する。$\operatorname{Spec}\mathcal{O}_{X,x}$ の点は $x$ の一般化($x$ をその閉包に含む点)と 1 対 1 に対応し、$\mathcal{O}_{X,\eta_Y}=(\mathcal{O}_{X,x})_{\mathfrak{p}_Y}$ だから、$Y\mapsto\mathfrak{p}_Y$ は「$x$ を含む素因子」と「$\mathcal{O}_{X,x}$ の高さ $1$ の素イデアル」の 1 対 1 対応であり、対応する離散付値環も一致する。したがって $f\in K^\times$ について
$$
\operatorname{div}_{\operatorname{Spec}\mathcal{O}_{X,x}}(f)=\sum_{Y\ni x}\operatorname{ord}_Y(f)\,V(\mathfrak{p}_Y)
$$
である。
$X$ を Noether で分離的な正規整スキームとする。次の 4 条件は同値である。
1 ⇔ 2:$\mathcal{O}_{X,x}$ は Noether 正規整域だから、Weil因子 の命題「一意分解性と因子類群」により、一意分解整域であることと $\operatorname{Cl}(\operatorname{Spec}\mathcal{O}_{X,x})=0$ であることは同値である。
1 ⇒ 3:素因子 $Y$ と点 $x$ をとる。$x\notin Y$ なら $U=X\setminus Y$、$f=1$ でよい。$x\in Y$ とする。$\mathcal{O}_{X,x}$ は一意分解整域なので高さ $1$ の素イデアル $\mathfrak{p}_Y$ は単項である(Mat86 Theorem 20.1)。$\mathfrak{p}_Y=(g)$ とすると、Weil因子 の補題「素因子が主因子であることと単項性」を $\operatorname{Spec}\mathcal{O}_{X,x}$ に適用して、$\operatorname{ord}_Y(g)=1$、および $x$ を含む他の素因子 $Y'$ で $\operatorname{ord}_{Y'}(g)=0$ を得る。Weil 因子 $Y-\operatorname{div}(g)$ に係数 $0$ でなく現れる素因子は有限個で、どれも $x$ を含まない。それらを $X$ から除いた開集合を $U$ とすれば $Y|_U=\operatorname{div}(g)|_U$ である。
3 ⇒ 1:$x\in X$ をとる。$\mathcal{O}_{X,x}$ は Noether 整域なので、高さ $1$ の素イデアルがすべて単項であることを示せば一意分解整域である(Mat86 Theorem 20.1)。高さ $1$ の素イデアルは素因子 $Y\ni x$ により $\mathfrak{p}_Y$ と書ける。3 により $x$ の近傍 $U$ で $Y|_U=\operatorname{div}(f)|_U$ となる $f$ がある。$x$ を含む素因子はすべて $U$ と交わるから、上の式により $\operatorname{Spec}\mathcal{O}_{X,x}$ の上で $V(\mathfrak{p}_Y)=\operatorname{div}(f)$ である。ふたたび補題「素因子が主因子であることと単項性」により $\mathfrak{p}_Y=f\,\mathcal{O}_{X,x}$ は単項である。
1 ⇒ 4:Cartier因子 の定理「CartierからWeilへ」の 3 である。
4 ⇒ 3:Cartier 因子 $D=\{(U_i,f_i)\}$ について、定義から $\varphi(D)|_{U_i}=\operatorname{div}(f_i)|_{U_i}$ だから、$\varphi$ の像の元は局所的に主因子である。$\varphi$ が全射なら、素因子 $Y$ もそうである。
最後の主張:4 の全単射は主因子を主因子に移し(定理「CartierからWeilへ」の 1)、その逆も同じ定理の 2 の単射性から主因子を主因子に移すので、$\operatorname{CaCl}(X)\cong\operatorname{Cl}(X)$ を誘導する。$X$ は整だから、Cartier因子 の定理「Cartier因子類群とPicard群」により $\operatorname{CaCl}(X)\cong\operatorname{Pic}(X)$ である。$\square$
条件 3 は「余次元 $1$ の既約閉集合がどこでも 1 つの方程式で切り出せる」という幾何的な言い方である。正規な $X$ では、Cartier 因子の像はちょうど局所的に主因子である Weil 因子からなる(Har77 Remark 6.11.2、p. 142)。したがって正規な $X$ について $\operatorname{Pic}(X)\subset\operatorname{Cl}(X)$ であり、この差が局所分解性の欠如を測る。
正則局所環は一意分解整域である(Auslander–Buchsbaum の定理。Mat86 Theorem 20.3、p. 163。証明は 正則局所環の一意分解性 の定理「正則局所環の一意分解性」にある)。したがって正則スキームは局所分解的である(Har77 Remark 6.11.1A、p. 142)。体 $k$ 上の射影空間 $\mathbb{P}^n_k$、アフィン空間 $\mathbb{A}^n_k$、$k$ 上の滑らかな多様体がその例である。Dedekind整域 $A$ の $\operatorname{Spec}A$ は、局所環が体または離散付値環(単項イデアル整域)なので、この定理を使わずに局所分解的と分かる。
逆は成り立たない。正則でない局所分解的スキームを作るには、次の判定法が便利である。
$A$ を Noether 整域、$s\in A$ を素元とする。局所化 $A[s^{-1}]$ が一意分解整域なら、$A$ も一意分解整域である。
Mat86 Theorem 20.1 により、$A$ の高さ $1$ の素イデアル $\mathfrak{p}$ が単項であることを示せばよい。
$s\in\mathfrak{p}$ の場合:$(s)$ は $0$ でない素イデアルで $(s)\subset\mathfrak{p}$、$\operatorname{ht}\mathfrak{p}=1$ だから $\mathfrak{p}=(s)$ である。
$s\notin\mathfrak{p}$ の場合:$\mathfrak{p}A[s^{-1}]$ は $A[s^{-1}]$ の高さ $1$ の素イデアルだから単項であり、分母を払って生成元 $a\in\mathfrak{p}$ をとれる。Noether 整域では $\bigcap_{m\ge0}s^mA=0$(Krullの交叉定理)なので $a=s^mg$($g\in A$、$s\nmid g$)と書ける。$s^m$ は $A[s^{-1}]$ の単元だから $g$ も $\mathfrak{p}A[s^{-1}]$ を生成し、$s\notin\mathfrak{p}$ と $s^mg\in\mathfrak{p}$ から $g\in\mathfrak{p}$ である。$\mathfrak{p}=gA$ を示す。$b\in\mathfrak{p}$ をとると $b=gc/s^n$($c\in A$、$n\ge0$)と書け、このような表示で $n$ が最小のものをとる。$n>0$ なら $s^nb=gc$ で、$s$ は素元で $s\nmid g$ だから $s\mid c$ となり、$n$ の最小性に反する。よって $n=0$、$b\in gA$ である。$\square$
幾何的には、$\operatorname{Spec}A$ を開集合 $D(s)$ と素因子 $V(s)$ に分け、$D(s)$ の一意分解性と「$V(s)$ が 1 つの方程式 $s$ で切り出されること」から全体の一意分解性を得ている。Mat86 Theorem 20.2(p. 162)は、素元の集合が生成する乗法的閉集合による局所化について同じ主張を述べている。
$k$ を任意の体とし、
$$
A:=k[a,b,c,d,e]/(ab+cd+e^2),\qquad X:=\operatorname{Spec}A
$$
とする。$A$ は一意分解整域であり、したがって $X$ は局所分解的である。しかし原点 $\mathfrak{m}=(a,b,c,d,e)$ で $A_\mathfrak{m}$ は正則局所環でない。
$k$ を体、$B:=k[u,v,w]/(uv-w^2)$、$C:=\operatorname{Spec}B$(2 次錐)とする。$C$ は Noether 正規整スキームである(Weil因子 の補題「2次錐の正規性」)。直線 $L=V(u,w)$ は素因子で、その素イデアル $(u,w)$ は頂点 $o=(u,v,w)$ の局所環で単項にならない(Cartier因子 の例「反例:2次錐の上の直線」)。したがって thm-locally-factorial-scheme-criterion の条件 3 が破れ、$C$ は頂点で局所分解的でない。実際 $\operatorname{Cl}(C)\cong\mathbb{Z}/2$(Weil因子 の例「2次錐の因子類群」)、$\operatorname{Pic}(C)=0$(Picard群 の例「反例:正規でも局所分解的でないと類群と一致しない」)である。
一方、頂点を除いた $C^\circ:=C\setminus\{o\}$ は局所分解的である。$V(u,v)=V(u,v,w^2)=\{o\}$ だから $C^\circ=D(u)\cup D(v)$ であり、$B[u^{-1}]=k[u,u^{-1},w]$($v=u^{-1}w^2$)は一意分解整域、$D(v)$ も対称である。$o$ の余次元は $2$ なので $\operatorname{Cl}(C^\circ)=\operatorname{Cl}(C)=\mathbb{Z}/2$(Weil因子 の定理「開集合への制限の完全列」)であり、thm-locally-factorial-scheme-criterion により $\operatorname{Pic}(C^\circ)\cong\mathbb{Z}/2$ となる。余次元 $2$ の点を除いても類群は変わらないが、Picard 群は $0$ から $\mathbb{Z}/2$ に変わる。
局所分解性は局所環の性質であり、大域的な環の一意分解性を意味しない。$A=\mathbb{Z}[\sqrt{-5}]$ は Dedekind 整域なので $\operatorname{Spec}A$ は局所分解的だが、素イデアル $(2,1+\sqrt{-5})$ の類は $\operatorname{Pic}(A)=\operatorname{Cl}(A)$ の位数 $2$ の元である(Picard群 の例「Dedekind整域とイデアル類群」)。射影空間 $\mathbb{P}^n_k$($n\ge1$)も局所分解的で $\operatorname{Cl}=\operatorname{Pic}\cong\mathbb{Z}$ である。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 局所環の一意分解性(正規性は保つ) | 2 次錐 $\operatorname{Spec}k[u,v,w]/(uv-w^2)$ | 素因子 $V(u,w)$ が頂点の近くで主因子でなく、$\operatorname{Cl}=\mathbb{Z}/2\ne0=\operatorname{Pic}$ |
| 大域的な一意分解性(局所分解性は保つ) | $\operatorname{Spec}\mathbb{Z}[\sqrt{-5}]$ | $\operatorname{Cl}=0$ は従わない(位数 $2$ の元がある) |
| 局所化する元が素元であること(thm-locally-factorial-scheme-prime-element) | $B=k[u,v,w]/(uv-w^2)$ と $u$ | $B[u^{-1}]$ は一意分解整域だが $B$ はそうでない($B/(u)\cong k[v,w]/(w^2)$ は整域でない) |
局所分解的でない正規スキームでは、Weil 因子の類群と Picard 群の差を点ごとに測ることができる。thm-locally-factorial-scheme-criterion の条件 2 のとおり、点 $x$ で局所分解性が破れることは $\operatorname{Cl}(\operatorname{Spec}\mathcal{O}_{X,x})\ne0$ で測られ、正規曲面の点ではこの群が 局所Picard群 と一致する(同記事の定理「局所Picard群と因子類群」)。次元 $1$ 以上で余次元 $1$ で正則な射影多様体 $V$ の上の錐の類群は $V$ の類群と超平面切断の類から計算できる(射影錐)。正規でないスキームでは Weil 因子との比較そのものが崩れるので、Picard 群は Cartier 因子と正規化を使って計算する(特異曲線のPicard群)。
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