完全交叉性の局所化と平坦下降(localization and flat descent of complete intersections)とは、Noether局所環の平坦局所準同型 $A\to B$ について $B$ が完全交叉であることと $A$ と閉ファイバー $B/\mathfrak m_AB$ がともに完全交叉であることが同値であり、完全交叉局所環の任意の素イデアルでの局所化が再び完全交叉になるという Avramov の結果である。底が正則局所環の場合、正則局所環の商とその平坦な基底変換の場合、正則局所環の商の局所化は、Koszulホモロジーによる判定と平坦局所準同型の次元公式から直接証明できる。
前提知識: 完全交叉局所環, Koszulホモロジーによる完全交叉の判定, 平坦局所準同型の次元公式と深さ公式, 正則局所環
完全交叉局所環 は完備化の提示で定義されるので、局所化 $A_{\mathfrak p}$ が再び完全交叉かどうかは定義からはすぐには分からない。完備化と局所化は交換しないからである。また、平坦な局所準同型 $A\to B$ で、底 $A$・閉ファイバー $B/\mathfrak m_AB$・全体 $B$ の完全交叉性がどう関係するかも自然な問いである。
答えは次のとおりである(Avramov)。
環は単位元をもつ可換環、局所環は Noether とする。Noether局所環の局所準同型 $\varphi\colon(A,\mathfrak m_A,k)\to(B,\mathfrak m_B,k')$ で $B$ が $A$ 上平坦なものを 平坦局所準同型、$F=B/\mathfrak m_AB$ を 閉ファイバー という(平坦局所準同型の次元公式と深さ公式 の定義「局所準同型と閉ファイバー」)。$\mu(M)$ は有限生成加群の最小生成元の個数、$\operatorname{edim}$ は埋め込み次元である。
正則局所環 $Q$ から $A$ への全射を 正則な提示 という。次の二つを繰り返し使う。
Noether局所環 $(A,\mathfrak m)$ と非零因子 $x\in\mathfrak m$ について、$A$ が完全交叉であることと $A/xA$ が完全交叉であることは同値である。
完備化へ移す。 $\widehat A$ は $A$ 上平坦なので $x$ は $\widehat A$ の非零因子であり($A\xrightarrow{x}A$ の単射を平坦な $\widehat A$ とテンソルする)、$(A/xA)^\wedge\cong\widehat A/x\widehat A$ である(完備化 の命題「完備化の完全性と $\hat{A}\otimes_AM$」の 2)。正則な提示 $Q\twoheadrightarrow\widehat A$(Cohenの構造定理。$Q$ の極大イデアルを $\mathfrak n$ とする)の核を $J$、$x$ の $Q$ への持ち上げを $\tilde x\in\mathfrak n$ とし、$J'=J+\tilde xQ$ と置くと $Q/J'=\widehat A/x\widehat A$ である。$\tilde x$ は $Q/J$ の非零因子であり、$\dim Q/J'=\dim Q/J-1$ である(Cohen–Macaulay環 の補題「有限加群の次元降下」)。
⇒: $J$ が $Q$ 正則列 $f_1,\ldots,f_c$ で生成されるなら、$f_1,\ldots,f_c,\tilde x$ は $J'$ を生成する $Q$ 正則列であり、$A/xA$ は完全交叉である。
⇐: 鍵は $\mu(J')\ge\mu(J)+1$ である。自然な写像 $J/\mathfrak nJ\to J'/\mathfrak nJ'$ が単射で、$\tilde x$ の類がその像に入らないことを示す。
単射性:$\mathfrak nJ'=\mathfrak nJ+\mathfrak n\tilde x$ である。$j\in J$ が $j=j_1+\tilde xy$($j_1\in\mathfrak nJ$、$y\in\mathfrak n$)と書けたとする。$\tilde xy=j-j_1\in J$ で $\tilde x$ は $Q/J$ の非零因子だから $y\in J$。すると $\tilde xy\in\tilde xJ\subset\mathfrak nJ$ なので $j\in\mathfrak nJ$ である。
像に入らないこと:$\tilde x=j+j_1+\tilde xy$($j\in J$、$j_1\in\mathfrak nJ$、$y\in\mathfrak n$)なら $(1-y)\tilde x\in J$、$1-y$ は単元なので $\tilde x\in J$、すなわち $\widehat A$ で $x=0$ となる。$\widehat A\ne0$ で $x$ は非零因子だからこれは起こらない。
$A/xA$ が完全交叉なら、核の判定から $\mu(J')=\dim Q-\dim Q/J'=\dim Q-\dim Q/J+1$。従って $\mu(J)\le\dim Q-\dim Q/J$ であり、下界と合わせて等号が成り立つ。核の判定により $J$ は正則列で生成され、$A$ は完全交叉である。$\square$
正則列 $x_1,\ldots,x_r\in\mathfrak m$ で割る場合も、この命題を一つずつ使えば同じ同値が成り立つ。
$A\to B$ を平坦局所準同型、$F=B/\mathfrak m_AB$ を閉ファイバーとし、$A$ を正則局所環とする。このとき $B$ が完全交叉であることと $F$ が完全交叉であることは同値である。
$d=\dim A$、正則パラメータ系を $y_1,\ldots,y_d$ とすると、$\mathfrak m_A=(y_1,\ldots,y_d)$ で、$y_1,\ldots,y_d$ は $A$ 正則列である(正則局所環 の命題「正則パラメータ系は正則列で、正則局所環は Cohen–Macaulay」)。$A/(y_1,\ldots,y_{i-1})\xrightarrow{y_i}A/(y_1,\ldots,y_{i-1})$ の単射に平坦な $B$ をテンソルすると、$B/(y_1,\ldots,y_{i-1})B$ 上の $y_i$ 倍も単射である。最後の商 $B/(y)B=F$ は $\mathfrak m_AB\subset\mathfrak m_B$ により零でない。従って $y_1,\ldots,y_d$ の像は $\mathfrak m_B$ に入る $B$ 正則列で、$F=B/(y_1,\ldots,y_d)B$ である。prop-cild-nonzerodivisor を $d$ 回使えば結論を得る。$\square$
底が正則でないときは、閉ファイバーが正則列による商として書けないので、この議論は使えない。次の定理は、底が正則局所環の商で、$B$ がそれと整合する正則な提示をもつ場合を扱う。
$R\to S$ を正則局所環の間の平坦局所準同型、$I\subset\mathfrak m_R$ をイデアルとし、$A=R/I$、$B=S/IS$ と置く。このとき $A\to B$ は平坦局所準同型で、その閉ファイバー $F=S/\mathfrak m_RS$ は完全交叉である。さらに
$$
B\text{ が完全交叉}\iff A\text{ が完全交叉}.
$$
$B=S\otimes_RA$ は $A$ 上平坦である(平坦加群 の命題「平坦加群の基底拡大」)。$\mathfrak m_AB$ は $\mathfrak m_R$ の像で生成されるので $F=B/\mathfrak m_AB=S/(I+\mathfrak m_R)S=S/\mathfrak m_RS$ であり、これは $R\to S$ の閉ファイバーでもある。$S$ は正則なので完全交叉であり、thm-cild-regular-base を $R\to S$ に使えば $F$ は完全交叉である。
$\mu$ の比較。 $S$ の平坦性から $I\otimes_RS\cong IS$ であり、
$$
IS/\mathfrak m_SIS\cong(I\otimes_RS)\otimes_Sk_S=I\otimes_Rk_S=(I/\mathfrak m_RI)\otimes_{k_R}k_S
$$
となる($k_R,k_S$ は剰余体)。従って $\mu_S(IS)=\mu_R(I)$ である。
次元の比較。 平坦局所準同型の次元公式と深さ公式 の定理「平坦局所準同型の次元公式と深さ公式」を $R\to S$ と $A\to B$ に使うと、二つの閉ファイバーはともに $F$ なので
$$
\dim S-\dim B=(\dim R+\dim F)-(\dim A+\dim F)=\dim R-\dim A
$$
である。
結論。 核の判定により、$A$ が完全交叉 $\iff\mu_R(I)=\dim R-\dim A$、$B$ が完全交叉 $\iff\mu_S(IS)=\dim S-\dim B$。上の二つの比較により右辺どうしは同じ条件である。$\square$
$A=R/I$($R$ は正則局所環)とする。
$R$ を正則局所環、$I\subset R$ をイデアル、$A=R/I$ とする。$A$ が完全交叉なら、$A$ の任意の素イデアル $\mathfrak p$ について $A_{\mathfrak p}$ は完全交叉である。
核の判定により、$I$ は $R$ 正則列 $f_1,\ldots,f_c$ で生成される。$\mathfrak p$ の $R$ での逆像を $\mathfrak P$ とすると $I\subset\mathfrak P$ で、$A_{\mathfrak p}\cong R_{\mathfrak P}/IR_{\mathfrak P}$ である。$R_{\mathfrak P}$ は正則局所環である(正則局所環 の定理「正則局所環の局所化は正則」)。局所化は完全なので $f_1,\ldots,f_c$ の各段の掛算の単射性は保たれ、最後の商 $A_{\mathfrak p}$ は零でないから、$f_1,\ldots,f_c$ は $R_{\mathfrak P}$ 正則列である(正則列 の命題「正則列の局所化」)。正則な提示 $R_{\mathfrak P}\twoheadrightarrow A_{\mathfrak p}$ の核が正則列で生成されるので、核の判定から $A_{\mathfrak p}$ は完全交叉である。$\square$
この定理が使える $A$ は多い。完備局所環は Cohenの構造定理 により正則局所環の商であり、体上有限型の環の素イデアルでの局所化は多項式環の局所化(正則局所環。Cohen–Macaulay環 の補題「体上の多項式環の素局所環」)の商である。
正則な提示を仮定しない一般の Noether局所環 $A$ では、上の議論は完備化 $\widehat A$ にしか使えず、$\widehat A$ から $A$ へ戻すには平坦下降が要る。一般の平坦局所準同型についての結論は Avramov が示した。
$A\to B$ を Noether局所環の平坦局所準同型、$F=B/\mathfrak m_AB$ を閉ファイバーとする。$B$ が完全交叉であることと、$A$ と $F$ がともに完全交叉であることは同値である。
この記事では一般の場合を証明しない。一般の場合の完全な証明は Avramovの定理(完全交叉の平坦下降) にある。所在は StacksAvramov(Proposition 23.8.4)と StacksCIFlat(Lemma 23.8.9)であり、Mat89 p. 171 は、局所化の問題が Avramov により André のホモロジー論を使って肯定的に解かれたことを記している。Stacks Project の証明は、完備化へ移したあと、$A$ と $B$ の正則な提示 $R\twoheadrightarrow\widehat A$、$S\twoheadrightarrow\widehat B$ を平坦局所準同型 $R\to S$ と整合するように選び、核の正則列を $S$ から $R$ と閉ファイバーへ下ろすものである。thm-cild-base-change は、整合する提示で $B$ の核がちょうど $IS$ になる場合にあたり、このときは核を下ろす操作が $\mu$ と次元の比較だけで済む。
thm-cild-avramov のもとで、完全交叉局所環 $A$ の任意の素イデアル $\mathfrak p$ について $A_{\mathfrak p}$ は完全交叉である。
$A\to\widehat A$ は忠実平坦なので(完備化 の定理「Noether 環の完備化は平坦」)、$\mathfrak q\cap A=\mathfrak p$ となる $\widehat A$ の素イデアル $\mathfrak q$ がある(忠実平坦加群 の命題「忠実平坦環写像と素イデアル」)。$A_{\mathfrak p}\to\widehat A_{\mathfrak q}$ は局所準同型で、平坦である。
$A_{\mathfrak p}$ 加群 $U$ について $U\otimes_{A_{\mathfrak p}}\widehat A_{\mathfrak q}\cong(U\otimes_A\widehat A)_{\mathfrak q}$ であり、$U\mapsto U\otimes_A\widehat A$ は平坦性から、局所化は完全性から単射を保つ。
この系は StacksCILocalization(Lemma 23.8.6)にある。
Noether環 $R$ のすべての素イデアル $\mathfrak p$ について $R_{\mathfrak p}$ が完全交叉局所環であるとき、$R$ を 局所完全交叉環 という。
cor-cild-general-localization により、$R$ が局所完全交叉環であるためには、すべての極大イデアル $\mathfrak n$ で $R_{\mathfrak n}$ が完全交叉であれば十分である($R_{\mathfrak p}$ は $\mathfrak p\subset\mathfrak n$ となる $R_{\mathfrak n}$ の局所化だから)。$R$ が正則環の商なら、thm-cild-localization-quotient だけでこの判定が従う。
$k$ を体とし、$C=k[\![x,y]\!]/(x^2,xy)$、$A=k[\![s]\!]$、$B=C[\![s]\!]=k[\![x,y,s]\!]/(x^2,xy)$ とする。$s$ は $B$ の非零因子で、$A$ は離散付値環で、$A$ の零でない元は $s$ の冪と単元の積なので $B$ は捩れをもたず、$A$ 上平坦である(平坦加群 の系「単項イデアル整域上の平坦加群」)。閉ファイバーは $B/sB=C$ で、$C$ は完全交叉でない(完全交叉局所環 の例「反例:方程式の数は余次元以上だが順に非零因子にならない」)。thm-cild-regular-base により $B$ も完全交叉でない。
$C=k[\![x,y]\!]/(x^2,xy)$ の素イデアル $\mathfrak p=(x)$ を取る。$C/\mathfrak p=k[\![y]\!]$ は整域だから $\mathfrak p$ は素イデアルである。$C_{\mathfrak p}$ では $y$ が可逆なので $xy=0$ から $x=0$ となり、$C_{\mathfrak p}=k[\![y]\!]_{(0)}=k(\!(y)\!)$ は体、従って完全交叉である。$C$ の極小素イデアルは $\mathfrak p$ だけなので、極大イデアル以外のすべての素イデアルで局所化が完全交叉なのに $C$ 自身は完全交叉でない。局所完全交叉性の判定で極大イデアルを省けないことを示す。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| $A\to B$ が平坦 | $A=k[\![x,y]\!]\to B=k[\![x,y]\!]/(x^2,xy)$(全射):$A$ は正則、$F=B/\mathfrak m_AB=k$ も正則だが、$B$ は完全交叉でない | 上昇「$A$ と $F$ が完全交叉 ⇒ $B$ が完全交叉」 |
| $x$ が非零因子(prop-cild-nonzerodivisor) | $A=k[\![x,y]\!]/(x^2,xy)$、$y\in\mathfrak m$:$xy=0$ で $y$ は零因子。$A/yA=k[\![x]\!]/(x^2)$ は完全交叉だが $A$ は違う | 「$A/xA$ が完全交叉 ⇒ $A$ が完全交叉」 |
| 局所完全交叉性を極大イデアルでも調べる | ex-cild-converse の $C$:極大でない素イデアルでは局所化が完全交叉 | 「極大でない素イデアルで完全交叉 ⇒ $C$ が完全交叉」 |
一行目の全射 $A\to B$ は局所準同型だが、$x$ 倍が $B$ 上で単射でないので平坦でない(平坦なら $A$ の非零因子 $x$ は $B$ の非零因子になる)。
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