表現行列(matrix representation)とは、有限次元のベクトル空間の間の線形写像 $T\colon V\to W$ について、$V$ の基底 $v_1,\dots,v_n$ と $W$ の基底 $w_1,\dots,w_m$ を選び、$T(v_j)$ の座標を第 $j$ 列に並べた $m\times n$ 行列のことである。ベクトルの像の座標は、元の座標にこの行列を掛けて得られ、線形写像の和・スカラー倍・合成・逆写像は行列の和・スカラー倍・積・逆行列に対応して、線形写像の空間は行列の空間と同型になる。表現行列は基底に依存し、基底変換行列 $P,Q$ によって $Q^{-1}AP$ に、線形変換なら $P^{-1}AP$ に変わる。基底を選んで表現行列を簡単にすることが、対角化や Jordan 標準形などの理論の出発点である。
有限次元のベクトル空間の間の線形写像は、基底の行き先で完全に決まる。そこで定義域と終域に基底を 1 つずつ選び、各基底ベクトルの像の座標を列に並べると、線形写像が 1 つの行列で表される。これが 表現行列 である。表現行列を使うと、抽象的な線形写像の計算(値・合成・逆写像・核・像)がすべて行列の計算に置き換わる。
表現行列は基底の選び方に依存し、基底を取り替えると正則行列で両側から挟んだ形に変わる。この記事では、表現行列と基底変換行列を定義し、座標による表示(thm-mr-coordinates)と、線形写像全体と行列全体の同型(thm-mr-isomorphism)、基底の基本的な取り替えと行列の基本変形の対応(prop-mr-elementary)を証明する。基底の取り替えの公式そのものは 線形代数学 の記事の定理「表現行列と基底の取り替え」にあり、ここでは使い方を例で示す。線形変換の表現行列どうしの関係は 相似(行列) の記事で扱う。
以下、$K$ は体、$V,W$ は $K$ 上の有限次元のベクトル空間で $\dim V=n$、$\dim W=m$ とする。基底はつねに並べた組として扱う。$V$ の基底 $v=(v_1,\dots,v_n)$ に対し、$x=\sum_jc_jv_j$ に係数の列 $(c_1,\dots,c_n)^{\top}\in K^n$ を対応させる写像を $\varphi_v\colon V\to K^n$ と書き、$v$ に関する 座標写像 という。$\varphi_v$ は線形な全単射で、$\varphi_v(v_j)=e_j$(標準基底のベクトル)である(線形写像 の記事の命題「座標写像による同型」)。
$v=(v_1,\dots,v_n)$ を $V$ の基底、$w=(w_1,\dots,w_m)$ を $W$ の基底とし、$T\colon V\to W$ を線形写像とする。各 $T(v_j)$ を $W$ の基底で
$$
T(v_j)=\sum_{i=1}^{m}a_{ij}w_i\qquad(j=1,\dots,n)
$$
と表したときの係数を並べた $m\times n$ 行列 $A=(a_{ij})$ を、基底 $v,w$ に関する $T$ の 表現行列(matrix representation、representation matrix)といい、$M_{v,w}(T)$ と書く。第 $j$ 列は $T(v_j)$ の座標 $\varphi_w(T(v_j))$ である。$V=W$ で同じ基底 $v$ を両側に使うときは $M_v(T):=M_{v,v}(T)$ と書く。
$W$ の基底 $w$ による表し方は一意なので、表現行列は $T$ と $v,w$ から 1 つに決まる。$V=K^n$、$W=K^m$ をそれぞれ標準基底でみたとき、表現行列の第 $j$ 列は $T(e_j)$ そのものであり、$T(x)=Ax$ が成り立つ。この場合の表現行列を $T$ の 標準行列 と呼ぶこともある(行列 の記事の定理「行列と線形写像の対応」)。
$v=(v_1,\dots,v_n)$ と $v'=(v'_1,\dots,v'_n)$ を $V$ の 2 つの基底とする。$v'_j=\sum_ip_{ij}v_i$ で定まる $n$ 次正方行列 $P=(p_{ij})$、すなわち恒等写像の表現行列 $P=M_{v',v}(\mathrm{id}_V)$ を、基底 $v$ から $v'$ への 基底変換行列(change-of-basis matrix)という。第 $j$ 列は新しい基底のベクトル $v'_j$ の、古い基底 $v$ に関する座標である。
$P$ は正則であり、座標は $\varphi_v(x)=P\varphi_{v'}(x)$ のように変わる(単位行列 の記事の定理「恒等写像の表現行列」の 2・3)。新しい座標は $\varphi_{v'}(x)=P^{-1}\varphi_v(x)$ で、基底の変わり方 $P$ とは逆向きになる。$V=K^n$ で $v$ が標準基底なら、$P$ は $v'_1,\dots,v'_n$ を列に並べた行列である(標準基底 の記事の定理「基底と正則行列の対応」)。
本によって記法は違う。DF04 は $M_{\mathcal{B}}^{\mathcal{E}}(\varphi)$(定義域の基底を下、終域の基底を上)、Axl24 は $\mathcal{M}(T,(v_1,\dots,v_n),(w_1,\dots,w_m))$ と書く。どの本も「第 $j$ 列が $T(v_j)$ の座標」という定義は同じである。
線形写像 $T$ は $T(\sum_jc_jv_j)=\sum_jc_jT(v_j)$ を満たすので、$n$ 個のベクトル $T(v_1),\dots,T(v_n)$ が分かれば全部分かる。表現行列はこの $n$ 個のベクトルの「座標の表」である。ベクトル $x$ の像を求めるには、$x$ の座標に表現行列を掛ければよい(thm-mr-coordinates)。次の図式で、横の矢印が $T$ と行列 $A$ の掛け算、縦の矢印が座標写像である。
$$
\xymatrix{
V \ar[r]^{T} \ar[d]_{\varphi_v} & W \ar[d]^{\varphi_w} \\
K^n \ar[r]_{A} & K^m
}
$$
図式が可換であるとは、$\varphi_w\circ T=A\circ\varphi_v$、すなわちすべての $x\in V$ で $\varphi_w(T(x))=A\,\varphi_v(x)$ が成り立つことである。
同じ線形写像でも、基底をうまく選べば表現行列は簡単になる。たとえば直線への射影は、直線の向きのベクトルと、射影でつぶれる向きのベクトルを基底にすると対角行列 $\mathrm{diag}(1,0)$ で表される(ex-mr-projection)。行列の標準形の理論は、「どの基底を選べば表現行列が最も簡単になるか」という問いに答えるものである。
$K[x]_{\le3}$ と $K[x]_{\le2}$ にそれぞれ標準基底 $(1,x,x^2,x^3)$、$(1,x,x^2)$ をとり、微分 $D(p):=p'$ を $D\colon K[x]_{\le3}\to K[x]_{\le2}$ とみる。$D(1)=0$、$D(x)=1$、$D(x^2)=2x$、$D(x^3)=3x^2$ の座標を列に並べると
$$
A=\begin{pmatrix}0&1&0&0\\0&0&2&0\\0&0&0&3\end{pmatrix}
$$
である。$p=2-7x+5x^3$ の座標は $(2,-7,0,5)^{\top}$ で、$A(2,-7,0,5)^{\top}=(-7,0,15)^{\top}$ は $p'=-7+15x^2$ の座標になっている($A$ は Axl24 3.33 の行列と同じ)。$D$ を $K[x]_{\le3}$ の線形変換とみると、表現行列は $A$ の下に零の行を加えた $4$ 次正方行列になる。どちらの空間で考えるかで行列の型が変わる。
$\mathbb{R}^2$ で、ベクトルを直線 $\ell=\mathbb{R}u_1$($u_1=(1,2)^{\top}$)へ直交射影する写像 $\pi(x):=\frac{x\cdot u_1}{u_1\cdot u_1}u_1$ を考える。$\pi(e_1)=\frac15(1,2)^{\top}$、$\pi(e_2)=\frac25(1,2)^{\top}$ なので、標準基底に関する表現行列は
$$
A=\frac15\begin{pmatrix}1&2\\2&4\end{pmatrix}
$$
である。一方、基底 $u=(u_1,u_2)$、$u_2=(-2,1)^{\top}$ をとると、$\pi(u_1)=u_1$、$\pi(u_2)=0$($u_1\cdot u_2=0$)なので $M_u(\pi)=\mathrm{diag}(1,0)$ である。標準基底から $u$ への基底変換行列は $P=\begin{pmatrix}1&-2\\2&1\end{pmatrix}$ で、実際に $P^{-1}AP=\mathrm{diag}(1,0)$ となる(線形代数学 の記事の定理「表現行列と基底の取り替え」の 3)。
$M_2(K)$ の線形変換 $\tau(X):=X^{\top}$ を、標準基底 $(E_{11},E_{12},E_{21},E_{22})$ で表す。$\tau(E_{11})=E_{11}$、$\tau(E_{12})=E_{21}$、$\tau(E_{21})=E_{12}$、$\tau(E_{22})=E_{22}$ なので
$$
M(\tau)=\begin{pmatrix}1&0&0&0\\0&0&1&0\\0&1&0&0\\0&0&0&1\end{pmatrix}
$$
であり、第 2・第 3 座標を入れ替える置換行列である。$\tau\circ\tau=\mathrm{id}$ に対応して $M(\tau)^2=I_4$ である(thm-mr-isomorphism の 2)。
$L=\mathbb{Q}(\sqrt2)=\{a+b\sqrt2\mid a,b\in\mathbb{Q}\}$ を $\mathbb{Q}$ 上の 2 次元のベクトル空間とみて、基底 $(1,\sqrt2)$ をとる。$\alpha=a+b\sqrt2$ を掛ける写像 $m_\alpha(z):=\alpha z$ は $\mathbb{Q}$ 上の線形変換で、$m_\alpha(1)=a+b\sqrt2$、$m_\alpha(\sqrt2)=2b+a\sqrt2$ なので
$$
M(m_\alpha)=\begin{pmatrix}a&2b\\b&a\end{pmatrix}
$$
である。$m_{\alpha\beta}=m_\alpha\circ m_\beta$、$m_{\alpha+\beta}=m_\alpha+m_\beta$ なので、thm-mr-isomorphism の 2 により $\alpha\mapsto M(m_\alpha)$ は単射な環準同型 $L\to M_2(\mathbb{Q})$ である。この行列の行列式 $a^2-2b^2$ は $\alpha$ と共役 $a-b\sqrt2$ の積、跡 $2a$ は $\alpha$ と共役の和に等しい。同じ方法で、$\mathbb{C}$ を $\mathbb{R}$ 上の基底 $(1,i)$ でみると、$a+bi$ を掛ける写像の表現行列は $\begin{pmatrix}a&-b\\b&a\end{pmatrix}$ であり、複素数の積が $2$ 次の実行列の積で表される。
$v$ を $V$ の基底、$w$ を $W$ の基底、$T\colon V\to W$ を線形写像とし、$A:=M_{v,w}(T)$ とおく。
1:$x=\sum_jc_jv_j$ とし、$c=\varphi_v(x)=(c_1,\dots,c_n)^{\top}$ とおく。線形性と表現行列の定義から
$$
T(x)=\sum_{j=1}^{n}c_jT(v_j)=\sum_{j=1}^{n}c_j\sum_{i=1}^{m}a_{ij}w_i=\sum_{i=1}^{m}\Bigl(\sum_{j=1}^{n}a_{ij}c_j\Bigr)w_i
$$
である。$w_i$ の係数 $\sum_ja_{ij}c_j$ は $Ac$ の第 $i$ 成分なので、$\varphi_w(T(x))=Ac$ である。
2:$x=v_j$ とおくと $\varphi_v(v_j)=e_j$ なので、$Be_j=\varphi_w(T(v_j))$ である。左辺は $B$ の第 $j$ 列(標準基底 の記事の例「行列の列・行・成分の取り出し」)、右辺は $A$ の第 $j$ 列なので、$B$ と $A$ は列がすべて等しく、$B=A$ である。
3:$\varphi_w$ は単射なので、$T(x)=0$ と $\varphi_w(T(x))=0$ は同値であり、1 により $A\varphi_v(x)=0$ と同値である。$\varphi_v$ は全単射なので、$\varphi_v(\ker T)=\{c\mid Ac=0\}$ である。同様に、$\varphi_w(\operatorname{im}T)=\{\varphi_w(T(x))\mid x\in V\}=\{A\varphi_v(x)\mid x\in V\}=\{Ac\mid c\in K^n\}$ である。最後の主張は、線形な全単射 $\varphi_v$ が部分空間 $\ker T$ を同じ次元の部分空間に写すことによる。$\square$
3 から、$T$ の階数 $\dim\operatorname{im}T$ は $A$ の列空間の次元、すなわち $\operatorname{rank}A$ に等しい。これは 階数(線形代数) の記事の命題「表現行列の階数」であり、基底の選び方によらない。
$\operatorname{Hom}_K(V,W)$ は $V$ から $W$ への線形写像全体のなすベクトル空間(線形写像 の記事の命題「線形写像のなすベクトル空間」)、$\operatorname{End}_K(V):=\operatorname{Hom}_K(V,V)$ は合成を積とする環である。
$v$ を $V$ の基底、$w$ を $W$ の基底とする。
1:全単射であることは 線形代数学 の記事の定理「表現行列と基底の取り替え」の 1 である。線形であることを示す。$S,T\in\operatorname{Hom}_K(V,W)$、$c\in K$ とし、$M_{v,w}(S)=(b_{ij})$、$M_{v,w}(T)=(a_{ij})$ とする。
$$
(S+cT)(v_j)=S(v_j)+cT(v_j)=\sum_{i}(b_{ij}+ca_{ij})w_i
$$
なので、$M_{v,w}(S+cT)=M_{v,w}(S)+cM_{v,w}(T)$ である。線形な全単射は線形同型であり(逆写像も線形。線形写像 の記事の命題「合成と逆写像」の 2)、線形同型は次元を保つ(同記事の命題「座標写像による同型」)。$M_{m,n}(K)$ は行列単位 $E_{ij}$ を基底にもち次元 $mn$ なので(基底と次元 の記事の例「行列の空間の基底」)、$\dim\operatorname{Hom}_K(V,W)=mn$ である。
2:1 で $W=V$、$w=v$ とすれば、$T\mapsto M_v(T)$ は加法とスカラー倍を保つ全単射である。$M_v(S\circ T)=M_v(S)M_v(T)$ は「表現行列と基底の取り替え」の 2 で $U=W=V$、すべての基底を $v$ としたものである。$\mathrm{id}_V(v_j)=v_j$ なので $M_v(\mathrm{id}_V)=I_n$ である。よって環の同型である。
3:$T$ が線形同型なら、$T^{-1}\circ T=\mathrm{id}_V$、$T\circ T^{-1}=\mathrm{id}_W$ に「表現行列と基底の取り替え」の 2 を当てて(基底は順に $v,w,v$ と $w,v,w$)
$$
M_{w,v}(T^{-1})\,A=M_v(\mathrm{id}_V)=I_n,\qquad A\,M_{w,v}(T^{-1})=M_w(\mathrm{id}_W)=I_n
$$
を得る。よって $A$ は正則で $A^{-1}=M_{w,v}(T^{-1})$ である。逆に $A$ が正則なら、1 により $M_{w,v}(S)=A^{-1}$ となる線形写像 $S\colon W\to V$ がある。同じ規則で $M_v(S\circ T)=A^{-1}A=I_n=M_v(\mathrm{id}_V)$ であり、2 の単射性から $S\circ T=\mathrm{id}_V$ である。同様に $M_w(T\circ S)=AA^{-1}=I_n$ から $T\circ S=\mathrm{id}_W$ である。よって $T$ は全単射で $T^{-1}=S$ である。$\square$
2 により、$V$ の線形変換についての等式(たとえば $T^2=T$、$T^k=0$、$f(T)=0$)は、基底を 1 つ選べば行列の等式と同値になる。線形変換の多項式 $f(T)$ について $M_v(f(T))=f(M_v(T))$ が成り立つのも 2 からである。ex-mr-field は、2 を体の元の掛け算に当てた例である。
基底を取り替えたときの表現行列の変わり方は、線形代数学 の記事の定理「表現行列と基底の取り替え」の 3 にある。この記事の記号で書くと、$P$ を $V$ の基底 $v$ から $v'$ への基底変換行列、$Q$ を $W$ の基底 $w$ から $w'$ への基底変換行列として
$$
M_{v',w'}(T)=Q^{-1}M_{v,w}(T)\,P
$$
であり、線形変換で $V=W$、$v=w$、$v'=w'$ なら $M_{v'}(T)=P^{-1}M_v(T)P$ である。これは次の図式の外周をたどったものである(縦の矢印は恒等写像 $\mathrm{id}_V,\mathrm{id}_W$ を座標で表した $P,Q$ の掛け算、上下の段はそれぞれ $M_{v',w'}(T)$ と $M_{v,w}(T)$ の掛け算)。
$$
\xymatrix{
K^n \ar[r]^{M_{v',w'}(T)} \ar[d]_{P} & K^m \ar[d]^{Q} \\
K^n \ar[r]_{M_{v,w}(T)} & K^m
}
$$
図式の可換性は $Q\,M_{v',w'}(T)=M_{v,w}(T)\,P$ という等式であり、どちらの辺も $\varphi_{v'}(x)$ を $\varphi_w(T(x))$ に送る行列である(thm-mr-coordinates の 2 と $\varphi_v=P\varphi_{v'}$、$\varphi_w=Q\varphi_{w'}$)。
線形変換の表現行列の行列式・跡・固有多項式は $P^{-1}AP$ の形の変換で変わらないので、基底によらない線形変換の量として定まる。このような 2 つの行列の関係を 相似(行列) という。一方、定義域と終域の基底を別々に取り替えられる $Q^{-1}AP$ の形の変換では、残る量は階数だけである(階数(線形代数) の記事の定理「階数による標準形」)。
基底を 1 つずつ取り替える操作は、表現行列の基本変形にあたる。
$A=M_{v,w}(T)$ とし、$j\ne k$、$c\in K$、$d\in K\setminus\{0\}$ とする。
置き換えた組が基底であることは、それぞれの操作が逆の操作($c$ を $-c$ に、$d$ を $d^{-1}$ に、入れ替えをもう一度)で元に戻り、生成する空間が変わらず、個数も変わらないことから分かる($n$ 個のベクトルで $n$ 次元の空間を生成すれば基底である。基底と次元 の記事の命題「有限次元空間における独立系と生成系」)。
1:表現行列の第 $l$ 列は基底の第 $l$ 番目のベクトルの像の座標である。$l\ne j$ の列は変わらない。第 $j$ 列は $T(v_j+cv_k)=T(v_j)+cT(v_k)$ の座標なので、$\varphi_w$ の線形性により $A$ の第 $j$ 列と第 $k$ 列の $c$ 倍の和である。$dv_j$ と入れ替えも同様である。
2:$y\in W$ を $y=\sum_ib_iw_i$ と書く。$w_k=w'_k-cw'_j$($w'_j=w_j$)なので
$$
y=\sum_{i\ne k}b_iw_i+b_k(w'_k-cw'_j)=\sum_{i\ne j,k}b_iw'_i+(b_j-cb_k)w'_j+b_kw'_k
$$
であり、$w'$ に関する座標は第 $j$ 成分だけが $b_j-cb_k$ に変わる。各列 $\varphi_w(T(v_l))$ にこれを当てると、第 $j$ 行から第 $k$ 行の $c$ 倍を引いた行列を得る。$w_j$ を $dw_j$ に置き換えると $b_jw_j=(d^{-1}b_j)(dw_j)$ から第 $j$ 成分が $d^{-1}$ 倍になり、入れ替えでは第 $j$ 成分と第 $k$ 成分が入れ替わる。$\square$
列の基本変形は定義域の基底の取り替え、行の基本変形は終域の基底の取り替えである。終域の基底の変化と行の変化が「逆向き」($w_k$ に $w_j$ を足すと、第 $j$ 行から第 $k$ 行を引く)になるのは、座標が基底と逆向きに変わるからである(def-mr-change の後の段落)。行と列の基本変形で任意の行列を $\begin{pmatrix}I_r&O\\O&O\end{pmatrix}$ の形にできることは、基底をうまく選べば任意の線形写像の表現行列がこの形になることと同じであり(階数(線形代数) の記事の定理「階数による標準形」)、行列の側からの証明は 基本変形 の記事の定理「行と列の基本変形による標準形」にある。
$T\colon V\to V$ が部分空間 $U$ を自分自身に写す($T(U)\subset U$)とき、$U$ の基底 $u_1,\dots,u_k$ を延長して $V$ の基底 $v=(u_1,\dots,u_k,u_{k+1},\dots,u_n)$ をとると、$T(u_j)$($j\le k$)は $u_1,\dots,u_k$ だけで書けるので、表現行列は
$$
M_v(T)=\begin{pmatrix}A_{11}&A_{12}\\O&A_{22}\end{pmatrix}
$$
の形になる。$A_{11}$ は $T$ を $U$ に制限した写像の表現行列、$A_{22}$ は商空間 $V/U$ に $T$ が引き起こす写像の表現行列である(商ベクトル空間 の記事の命題「誘導写像と区分上三角行列」)。$V$ が $T$ で保たれる 2 つの部分空間の直和なら、それぞれの基底を並べると $A_{12}=O$ となる(ブロック行列 の記事の例「直和に分かれる線形変換」)。この考え方を繰り返して表現行列を上三角にするのが 三角化(その記事の補題「上三角になる基底と不変部分空間の列」)、対角にするのが対角化である。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 基底の並べ方を固定する | $\mathrm{diag}(1,2)$ の表す変換を組 $(e_2,e_1)$ で表す | 表現行列が基底の集合だけで決まること |
| 線形変換に同じ基底を両側で使う | $\mathrm{id}_{K^2}$ を $v=(e_1,e_2)$、$w=(2e_1,e_2)$ で表す(標数 $2$ でない) | 表現行列の跡・行列式が写像だけで決まること |
| 有限次元 | $K[x]$ 上の微分 $D$ | 有限の型の行列で表されること |
| 写像が線形 | 平行移動 $f(x)=x+b$($b\ne0$) | $\varphi(f(x))=A\varphi(x)$ となる行列 $A$ の存在 |
| 像の座標を列に並べる | 行に並べた行列($M(T)^{\top}$)で $S,T$ を $E_{12}$、$E_{11}$ とする | 合成が同じ順の積に対応すること |
1 行目:$T=\mathrm{diag}(1,2)$ の表す $K^2$ の線形変換は $Te_2=2e_2$、$Te_1=e_1$ なので、組 $u=(e_2,e_1)$ に関する表現行列は $M_u(T)=\mathrm{diag}(2,1)\ne\mathrm{diag}(1,2)$ である。基底の集合 $\{e_1,e_2\}$ は同じでも、並べ方で行列が変わる。
2 行目:$\mathrm{id}(e_1)=e_1=\frac12(2e_1)$、$\mathrm{id}(e_2)=e_2$ なので $M_{v,w}(\mathrm{id})=\mathrm{diag}(\frac12,1)$ である。その跡 $\frac32$ と行列式 $\frac12$ は、$M_v(\mathrm{id})=I_2$ の跡 $2$、行列式 $1$ と異なる。両側で同じ基底を使う $M_v(T)$ の跡や行列式は基底によらない(「基底の取り替え」の節)が、別々の基底を許すと、恒等写像でさえ任意の正則行列で表される($M_{v',v}(\mathrm{id})$ は基底変換行列)。
3 行目:$K[x]$ の基底 $1,x,x^2,\dots$ は無限個なので、$D$ を $m\times n$ 行列で表すことはできない。基底 $x^k$ の像 $kx^{k-1}$ の係数を並べると、$(k-1,k)$ 成分が $k$ でほかが $0$ の、行も列も無限個ある表になる。各列には $0$ でない成分が有限個しかない(像は有限個の基底ベクトルの線形結合)。
4 行目:$f(0)=b\ne0$ だが、任意の行列 $A$ と座標写像 $\varphi$ について $A\varphi(0)=0$ なので、$\varphi(f(0))=A\varphi(0)$ は成り立たない。
5 行目:$K^2$ の線形変換 $S(x)=E_{12}x$、$T(x)=E_{11}x$ について、列に並べる定義では $M(S\circ T)=E_{12}E_{11}=O$ で、これは $M(S)M(T)$ に等しい。行に並べる流儀の行列を $R(\cdot):=M(\cdot)^{\top}$ とすると $R(S\circ T)=O$ だが、$R(S)R(T)=E_{21}E_{11}=E_{21}\ne O$ である。行に並べる流儀では $R(S\circ T)=R(T)R(S)$ と積の順序が逆になる。
線形写像 $T\colon V\to W$ の双対写像 $T^{*}\colon W^{*}\to V^{*}$ の、双対基底に関する表現行列は、$T$ の表現行列の転置行列である(双対空間(線形代数) の記事の定理「双対写像の性質と転置行列」の 2)。$T\mapsto T^{*}$ が合成の順序を逆にする($(S\circ T)^{*}=T^{*}\circ S^{*}$)ことは、$(BA)^{\top}=A^{\top}B^{\top}$ と対応している。
表現行列の定義は Axl24 3.31(§3C、p. 69)、微分の表現行列の例は 3.33(p. 70)、和・スカラー倍・積との対応は 3.35・3.38(pp. 71–72)と 3.43(p. 74)、$\operatorname{Hom}$ と行列の空間の同型と次元は 3.71・3.72(§3D、p. 87)、ベクトルの座標と座標による表示は 3.73–3.76(pp. 88–89)、恒等写像の表現行列と基底の取り替えの公式は 3.82・3.84(pp. 92–93)、逆写像の表現行列は 3.86(p. 93)にある。DF04 §11.2(pp. 415–419)は、定義域と終域で基底を別にとる記法 $M_{\mathcal{B}}^{\mathcal{E}}(\varphi)$ で同じ内容を述べている。
Mathpediaは寄付と、参考文献の書籍リンク(Amazonアソシエイト)の紹介料で運営されています。 支援について / 寄付する