Dold–Kan対応(Dold–Kan correspondence)とは、環 $R$ 上の単体的加群の圏と、非負次数の $R$ 加群の鎖複体の圏が、正規化複体(Moore 複体)をとる関手 $N$ によって圏同値になるという定理である。逆関手 $K$ は各次数が $K(C)_n=\bigoplus_{[n]\twoheadrightarrow[k]}C_k$ の単体的加群を与え、単体的加群の各次数は正規化部分と退化部分の直和に分かれる。同じ対応は任意のアーベル圏の単体的対象でも成り立つ。単体的加群のホモトピー群は正規化複体のホモロジーに一致し、Eilenberg–MacLane 空間の単体的なモデルの構成や、ホモロジー代数を単体的な方法で扱う基礎になる。
Dold–Kan 対応(Dold–Kan correspondence)は、環 $R$ 上の単体的加群と、非負の次数だけをもつ $R$ 加群の鎖複体とが「同じもの」であるという定理である。単体的加群 $A$ に正規化複体(Moore 複体)$N(A)$ を対応させる関手が圏同値になり、逆向きには、複体 $C$ から各次数が $\bigoplus_{[n]\twoheadrightarrow[k]}C_k$ である単体的加群 $K(C)$ が作られる。Dold と Kan が独立に見いだした(Wei94 8.4、p. 270)。
この対応により、鎖複体のホモロジー代数は単体的な言葉に、単体的加群のホモトピー論は鎖複体の言葉に翻訳できる。たとえば、次数 $n$ にだけ $R$ を置いた複体からは、ホモトピー群が次数 $n$ にだけ現れる単体的加群が得られる。この記事では、単体的加群の各次数が「正規化部分」と「退化部分」の直和に分かれることを示し、それを使って対応を完全に証明する。主張は任意のアーベル圏の単体的対象についても成り立つ(単体的対象 の定理「正規化定理と Dold–Kan 対応」)が、ここでは元を使って議論できる加群の場合に限って証明する。
以下 $R$ を(単位元をもつ)環とし、加群は左 $R$ 加群とする。単体的 $R$ 加群とは $\Delta^{\mathrm{op}}$ から $R$ 加群の圏への関手のことで、その圏を $s\mathbf{Mod}_R$ と書く。非負次数の $R$ 加群の鎖複体の圏を $\mathrm{Ch}_{\ge0}(R)$ と書く。単体的 $R$ 加群 $A$ と $\Delta$ の射 $\theta\colon[m]\to[n]$ について $\theta^*:=A(\theta)\colon A_n\to A_m$ と書き、面射を $d_i:=(\delta^i)^*$、退化射を $s_j:=(\sigma^j)^*$ とする。これらは単体的対象の命題「単体的恒等式」の関係
$$
d_id_j=d_{j-1}d_i\ (i< j),\quad s_is_j=s_{j+1}s_i\ (i\le j),\quad d_is_j=\begin{cases}s_{j-1}d_i&(i< j),\\ \mathrm{id}&(i=j,\,j+1),\\ s_jd_{i-1}&(i>j+1)\end{cases}
$$
を満たす。
単体的 $R$ 加群 $A$ に対し、
$$
N_n(A):=\bigcap_{i=1}^{n}\ker\bigl(d_i\colon A_n\to A_{n-1}\bigr)\quad(N_0(A):=A_0),\qquad D_n(A):=\sum_{j=0}^{n-1}s_j(A_{n-1})\quad(D_0(A):=0)
$$
とおく。$N_n(A)$ に境界射 $d_0$ を入れた鎖複体 $N(A)$ を $A$ の正規化複体(Moore 複体)、$D_n(A)$ を退化部分という。
$d_0$ が $N_n(A)$ を $N_{n-1}(A)$ に写し、$d_0d_0=0$ が $N(A)$ の上で成り立つことは、単体的対象 の命題「交代和は複体をなす」の 2 にある($x\in N_n(A)$ なら $d_0d_0x=d_0d_1x=0$)。単体的写像 $f\colon A\to B$ は面射と可換なので $N_n(A)$ を $N_n(B)$ に写し、$N$ は関手 $s\mathbf{Mod}_R\to\mathrm{Ch}_{\ge0}(R)$ になる。
$\bigcap_{i=0}^{n-1}\ker d_i$ と $(-1)^nd_n$ で正規化複体を定める流儀もある(Wei94 Definition 8.3.6、p. 265)。$\Delta$ の自己同型 $[n]\ni i\mapsto n-i$ は $\delta^i$ を $\delta^{n-i}$ に移すので、二つの流儀はこの自己同型で入れ替わり、以下の議論はどちらでも同じように進む。
単体的 $R$ 加群 $A$ と $n\ge0$ について $A_n=N_n(A)\oplus D_n(A)$ である。
$n=0$ では $D_0=0$ なので明らかである。$n\ge1$ とする。
和になること。$1\le j\le n$ について $P_j:=\mathrm{id}-s_{j-1}d_j\colon A_n\to A_n$ とおく。$d_js_{j-1}=\mathrm{id}$ なので $d_jP_j=d_j-d_j=0$ である。また $i>j$ のとき、$d_is_{j-1}=s_{j-1}d_{i-1}$ と $d_{i-1}d_j=d_jd_i$ から
$$
d_iP_jx=d_ix-s_{j-1}d_{i-1}d_jx=d_ix-s_{j-1}d_jd_ix
$$
となり、$d_ix=0$ なら $d_iP_jx=0$ である。よって $P:=P_1P_2\cdots P_n$ は $A_n$ を $\bigcap_{i=1}^n\ker d_i=N_n(A)$ に写す(まず $P_n$ が $d_n$ を消し、$P_{n-1}$ は $\ker d_n$ を保ったまま $d_{n-1}$ を消し、…)。各 $P_j$ は $x$ を $\operatorname{im}s_{j-1}$ の元だけ動かすので $x-Px\in D_n(A)$ であり、$x=Px+(x-Px)\in N_n(A)+D_n(A)$ である。
共通部分が $0$ であること。$x=\sum_{j=0}^{m}s_jy_j\in N_n(A)$($m\le n-1$)とする。$d_{m+1}x=0$ であり($1\le m+1\le n$)、$d_{m+1}s_m=\mathrm{id}$、$j< m$ では $d_{m+1}s_j=s_jd_m$ なので
$$
0=y_m+\sum_{j< m}s_jd_my_j
$$
である。これを $s_m$ で写し、$j\le m-1$ での $s_ms_j=s_js_{m-1}$ を使うと $s_my_m=-\sum_{j< m}s_js_{m-1}d_my_j$ となり、
$$
x=\sum_{j< m}s_j\bigl(y_j-s_{m-1}d_my_j\bigr)
$$
と、$s_m$ を使わない形に書き直せる。これを繰り返せば $m$ が下がり、最後に空の和になるので $x=0$ である。$\square$
退化部分はさらに、使う退化射の番号で細かく分けられる。$-1\le j\le n-1$ について $D^{(j)}_n(A):=\sum_{i=0}^{j}s_i(A_{n-1})$($D^{(-1)}_n:=0$)とおくと、$0=D^{(-1)}_n\subset D^{(0)}_n\subset\cdots\subset D^{(n-1)}_n=D_n(A)$ である。
$n\ge1$、$0\le j\le n-1$ とする。$s_j\colon A_{n-1}\to A_n$ は同型
$$
A_{n-1}/D^{(j-1)}_{n-1}(A)\xrightarrow{\ \sim\ }D^{(j)}_n(A)/D^{(j-1)}_n(A)
$$
を誘導する($n=1$ のときは $D^{(-1)}_0=0$ と読む)。
要点:単射性は $d_{j+1}$ を施して $s_j$ を外すことで示す。
$i\le j-1$ なら $s_js_i=s_is_{j-1}$ なので $s_j(s_iA_{n-2})\subset s_i(A_{n-1})\subset D^{(j-1)}_n$ であり、写像は定まる。$D^{(j)}_n=D^{(j-1)}_n+s_j(A_{n-1})$ なので全射である。単射を示す。$s_jy\in D^{(j-1)}_n$、すなわち $s_jy=\sum_{i< j}s_iz_i$ とする。$d_{j+1}$ を施すと、$d_{j+1}s_j=\mathrm{id}$ と、$i< j$ での $d_{j+1}s_i=s_id_j$ から $y=\sum_{i< j}s_id_jz_i\in D^{(j-1)}_{n-1}$ である。$\square$
単体的写像 $f\colon B\to A$ について、$N(f)\colon N(B)\to N(A)$ が鎖複体の同型なら、$f$ は同型である。
要点:次数 $n$ に関する帰納法で、正規化部分では $N(f)$ が、退化部分では lem-dk-filtration の濾過の各段で $f_{n-1}$ が全単射を与える。
$f_n\colon B_n\to A_n$ が全単射であることを $n$ に関する帰納法で示す。$n=0$ では $f_0=N_0(f)$ である。$f_m$($m< n$)が全単射とする。$f$ は退化射と可換なので $f_m(D^{(j)}_m(B))\subset D^{(j)}_m(A)$ であり、$1\le m$ なら $f_{m-1}$ が全射なので等号が成り立つ。とくに $f_{n-1}$ は各 $D^{(j)}_{n-1}$ の上の全単射を与え、商 $B_{n-1}/D^{(j-1)}_{n-1}(B)\to A_{n-1}/D^{(j-1)}_{n-1}(A)$ も全単射である。lem-dk-filtration の同型は $f$ と可換なので、$f_n$ は各 $D^{(j)}_n/D^{(j-1)}_n$ の上で全単射を誘導する。$j$ に関する帰納法で、短完全列 $0\to D^{(j-1)}_n\to D^{(j)}_n\to D^{(j)}_n/D^{(j-1)}_n\to0$ に五項補題を使えば、$f_n\colon D_n(B)\to D_n(A)$ は全単射である。$N_n(f)$ も全単射であり、lem-dk-decomposition の分解は $f$ と両立するので、$f_n$ は全単射である。$\square$
$\Delta$ の任意の射は、全射のあとに単射を合成した形にただ一通りに分解する(単体的対象 の補題「単体圏の射の標準分解」)。逆関手の構成はこの分解だけを使う。
$C$ を非負次数の $R$ 加群の鎖複体、境界射を $\partial$ とする。$\Delta$ の単射 $\mu\colon[p]\hookrightarrow[k]$ に対し、$R$ 線形写像 $c_\mu\colon C_k\to C_p$ を
$$
c_\mu:=\begin{cases}\mathrm{id}_{C_k}&(\mu=\mathrm{id}),\\ \partial\colon C_k\to C_{k-1}&(\mu=\delta^0\colon[k-1]\hookrightarrow[k]),\\ 0&(\text{それ以外})\end{cases}
$$
と定める。$n\ge0$ について
$$
K(C)_n:=\bigoplus_{\sigma\colon[n]\twoheadrightarrow[k]}C_k
$$
とおく。和は $\Delta$ の全射 $\sigma$($0\le k\le n$)の全体をわたり、$\sigma$ に対応する直和因子の元 $c\in C_k$ を $c[\sigma]$ と書く。$\theta\colon[m]\to[n]$ に対し、$\sigma\theta=\mu\tau$($\tau\colon[m]\twoheadrightarrow[p]$、$\mu\colon[p]\hookrightarrow[k]$)を全射と単射への分解として、
$$
\theta^*\bigl(c[\sigma]\bigr):=(c_\mu c)[\tau]
$$
と定め、これを線形に延ばして $\theta^*\colon K(C)_n\to K(C)_m$ とする。鎖写像 $g\colon C\to C'$ には $K(g)(c[\sigma]):=g(c)[\sigma]$ を対応させる。
全射 $[n]\twoheadrightarrow[k]$ は、値が $1$ 増える $k$ か所を $n$ か所の隣接対 $(j,j+1)$ から選べば決まるので、ちょうど $\binom nk$ 個ある。したがって $K(C)_n\cong\bigoplus_{k=0}^nC_k^{\oplus\binom nk}$ である。
$K(C)$ は単体的 $R$ 加群であり、$K$ は関手 $\mathrm{Ch}_{\ge0}(R)\to s\mathbf{Mod}_R$ である。
単射の合成と $c_\mu$。単射 $\mu'\colon[q]\hookrightarrow[p]$、$\mu\colon[p]\hookrightarrow[k]$ について $c_{\mu\mu'}=c_{\mu'}c_\mu$ を示す。単射 $\mu$ が $\mathrm{id}$ でも $\delta^0$ でもないことは、$\mu$ の像が $0$ 以外のある値 $i\ge1$ を含まないことと同値である(像が 1 つだけ値を欠くのは $\mu=\delta^i$ のときで、欠ける値が 2 つ以上あれば $1$ 以上のものがある)。$\mu$ か $\mu'$ が恒等射なら等式は明らかである。$\mu=\mu'=\delta^0$ なら $\mu\mu'$ は $0$ と $1$ を値にもたないので $c_{\mu\mu'}=0=\partial\partial$ である。$\mu$ が値 $i\ge1$ を欠くなら $\mu\mu'$ も $i$ を欠くので、両辺とも $0$ である。$\mu=\delta^0$ で $\mu'$ が値 $i\ge1$ を欠くなら、$\mu\mu'$ は $0$ と $i+1$ を欠くので、両辺とも $0$ である。
関手性。$\mathrm{id}^*=\mathrm{id}$ は $\sigma\,\mathrm{id}=\mathrm{id}\,\sigma$ から従う。$\varphi\colon[l]\to[m]$、$\theta\colon[m]\to[n]$ とし、$\sigma\theta=\mu\tau$、$\tau\varphi=\mu'\tau'$ をそれぞれの分解とする。すると $\sigma\theta\varphi=(\mu\mu')\tau'$ で、$\mu\mu'$ は単射、$\tau'$ は全射なので、分解の一意性からこれが $\sigma\theta\varphi$ の分解である。よって
$$
(\theta\varphi)^*\bigl(c[\sigma]\bigr)=(c_{\mu\mu'}c)[\tau']=(c_{\mu'}c_\mu c)[\tau']=\varphi^*\bigl((c_\mu c)[\tau]\bigr)=\varphi^*\theta^*\bigl(c[\sigma]\bigr)
$$
である。鎖写像 $g$ は $\partial$ と可換なので各 $c_\mu$ と可換であり、$K(g)$ は単体的写像で、$K$ は合成と恒等射を保つ。$\square$
$c\mapsto c[\mathrm{id}_{[n]}]$ は、$C$ について自然な鎖複体の同型 $C\xrightarrow{\sim}N(K(C))$ を与える。さらに $D_n(K(C))=\bigoplus_{\sigma\ne\mathrm{id}}C_k[\sigma]$ である。
退化部分。$s_j=(\sigma^j)^*$ は、全射 $\tau\colon[n-1]\twoheadrightarrow[k]$ の因子の元を $s_j(c[\tau])=c[\tau\sigma^j]$ に写す($\tau\sigma^j$ は全射なので分解の単射部分は恒等射)。$\tau\sigma^j$ は単射でないので恒等射ではない。逆に恒等射でない全射 $\sigma\colon[n]\twoheadrightarrow[k]$ には $\sigma(j)=\sigma(j+1)$ となる $j$ があり、$\sigma$ は $\sigma^j$ を経由して $\sigma=\tau\sigma^j$($\tau$ は全射)と書けるので、$c[\sigma]=s_j(c[\tau])$ である。よって $D_n(K(C))=\bigoplus_{\sigma\ne\mathrm{id}}C_k[\sigma]$ である。
正規化部分。$c\in C_n$ について $\mathrm{id}\circ\delta^i=\delta^i\circ\mathrm{id}$ なので $d_i(c[\mathrm{id}])=(c_{\delta^i}c)[\mathrm{id}]$ であり、これは $i=0$ なら $(\partial c)[\mathrm{id}]$、$i\ge1$ なら $0$ である。よって $C_n[\mathrm{id}]\subset N_n(K(C))$ で、その上の境界射 $d_0$ は $\partial$ である。いま
$$
K(C)_n=C_n[\mathrm{id}]\oplus D_n(K(C))=N_n(K(C))\oplus D_n(K(C))
$$
(後者は lem-dk-decomposition)で $C_n[\mathrm{id}]\subset N_n(K(C))$ だから、$N_n(K(C))$ の元 $a$ を $a=a'+e$($a'\in C_n[\mathrm{id}]$、$e\in D_n$)と書くと $e=a-a'\in N_n\cap D_n=0$ となり、$C_n[\mathrm{id}]=N_n(K(C))$ を得る。自然性は $K(g)$ の定義から明らかである。$\square$
$R$ を環とする。
$\psi_A$ は単体的写像。$\theta\colon[m]\to[n]$ と $x\in N_k(A)$ をとり、$\sigma\theta=\mu\tau$ を分解とする。このとき
$$
\theta^*\psi_A(x[\sigma])=\theta^*\sigma^*x=(\sigma\theta)^*x=\tau^*\mu^*x,\qquad\psi_A\bigl(\theta^*(x[\sigma])\bigr)=\tau^*(c_\mu x)
$$
なので、$x\in N_k(A)$ について $\mu^*x=c_\mu x$ を示せばよい。ここで $c_\mu$ は複体 $N(A)$ について def-dk-k で定めた写像である。$\mu=\mathrm{id}$ なら両辺は $x$ である。$\mu=\delta^0$ なら $\mu^*=d_0$ は $N(A)$ の境界射そのものである。それ以外のとき、$\mu$ はある値 $i\ge1$ を欠くので $[k]\setminus\{i\}$ を経由して $\mu=\delta^i\mu''$ と書け、$\mu^*x=\mu''^*d_ix=0=c_\mu x$ である。単体的写像 $f\colon A\to B$ は $\sigma^*$ と可換で $N_k(A)$ を $N_k(B)$ に写すので、$\psi$ は $A$ について自然である。
$\psi_A$ は同型。prop-dk-nk により $N_n(K(N(A)))=N_n(A)[\mathrm{id}]$ であり、$\psi_A(x[\mathrm{id}])=x$ である。よって $N(\psi_A)$ は、同型 $N(A)\cong N(K(N(A)))$ の逆写像に一致し、同型である。lem-dk-detect により $\psi_A$ は同型である。
圏同値。$\psi\colon KN\Rightarrow\mathrm{id}$ と、prop-dk-nk の $\mathrm{id}\Rightarrow NK$ はどちらも自然同型なので、$N$ と $K$ は互いに逆の圏同値を与える。最後の主張は $\psi_A$ が同型であることの言い換えである。$\square$
主定理の 2 は、単体的加群が正規化複体だけで完全に決まることを具体的に述べている。$A_n$ の元は、次数 $k\le n$ の正規化部分の元を全射 $[n]\twoheadrightarrow[k]$ に沿って「退化」させたものの和として、ただ一通りに書ける。証明に使ったのは、単体的恒等式・$\Delta$ の射の分解・正規化部分と退化部分の分解だけである。
$[1]\twoheadrightarrow[0]$ は $\sigma^0$ だけなので $K(C)_1=C_1[\mathrm{id}]\oplus C_0[\sigma^0]$ である。$\sigma^0\delta^0=\sigma^0\delta^1=\mathrm{id}_{[0]}$ だから、def-dk-k により
$$
d_0(c_1[\mathrm{id}]+c_0[\sigma^0])=\partial c_1+c_0,\qquad d_1(c_1[\mathrm{id}]+c_0[\sigma^0])=c_0,\qquad s_0(c_0)=c_0[\sigma^0]
$$
である($K(C)_0=C_0$ と同一視した)。$d_0s_0=d_1s_0=\mathrm{id}$ が確かめられ、$N_1=\ker d_1=C_1[\mathrm{id}]$ の上で $d_0=\partial$ となる。次数 $2$ では、全射 $[2]\twoheadrightarrow[1]$ が $\sigma^0$(値 $0,0,1$)と $\sigma^1$(値 $0,1,1$)の 2 つ、$[2]\twoheadrightarrow[0]$ が 1 つなので、$K(C)_2=C_2\oplus C_1\oplus C_1\oplus C_0$ である。
$n\ge0$ と $R$ 加群 $M$ について、次数 $n$ にだけ $M$ を置いた複体を $M[n]$ とする。$K(M[n])_m=\bigoplus_{[m]\twoheadrightarrow[n]}M\cong M^{\oplus\binom mn}$ であり($m< n$ では $0$)、prop-dk-nk により正規化複体は $M[n]$ である。単体的加群 $A$ の $n$ 次ホモトピー群を $\pi_n(A):=H_n(N(A))$ と定めると(単体的対象 の定義「付随複体と Moore 複体」)、$\pi_i(K(M[n]))$ は $i=n$ で $M$、それ以外で $0$ になる。単体的群の基礎の単体的集合は Kan複体 であり(GJ09 Lemma I.3.4、p. 12)、単体的アーベル群 $A$ では Kan 複体としてのホモトピー群が $H_n(N(A))$ に一致する(GJ09 Corollary III.2.7、p. 153)。この記事ではこの 2 つを証明しない。これにより $K(\mathbb Z[n])$ は、ホモトピー群が次数 $n$ にだけ $\mathbb Z$ をもつ単体的集合、つまり Eilenberg–MacLane空間 $K(\mathbb Z,n)$ の単体的なモデルになる。たとえば $K(\mathbb Z[1])_m\cong\mathbb Z^{m}$ である。
$R$ 加群 $M$ を各次数に置き、面射と退化射をすべて恒等写像とした定値の単体的加群 $\underline M$ では、$n\ge1$ で $N_n=\ker d_1\cap\cdots=0$ なので $N(\underline M)=M[0]$ である。逆に $K(M[0])_n=M[\,[n]\twoheadrightarrow[0]\,]\cong M$ で、def-dk-k の $c_\mu$ はすべて恒等射なので $K(M[0])=\underline M$ である。主定理の対応は、次数 $0$ だけの複体と定値の単体的加群を結ぶ。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 正規化($\bigcap_{i\ge1}\ker d_i$ に制限すること) | 次数 $0$ だけの複体 $\mathbb Z[0]$ | 付随複体をとる関手 $A\mapsto C(A)$ が圏同値であること($\mathbb Z[0]$ がどの $C(A)$ とも同型でない) |
| 退化射(半単体的加群で考えること) | $A_0=A_1=\mathbb Z$、$d_0=d_1=\mathrm{id}$、$A_n=0$($n\ge2$)と、$B_0=\mathbb Z$、$B_n=0$($n\ge1$) | 正規化複体が同型なら元の対象も同型であること(lem-dk-detect) |
どちらの行も、主定理の証明のどこが使えなくなるかを示している。
1 行目:付随複体 $C(A)$ は $C(A)_n=A_n$、境界射 $\sum_i(-1)^id_i$ の複体である(単体的対象 の定義「付随複体と Moore 複体」)。$C(A)\cong\mathbb Z[0]$ なら $A_0\cong\mathbb Z$、$A_1=0$ であるが、$d_0s_0=\mathrm{id}$ より $s_0\colon A_0\to A_1$ は単射なので矛盾する。よって $\mathbb Z[0]$ はどの $C(A)$ とも同型でない。
2 行目:面射だけをもち面射の恒等式 $d_id_j=d_{j-1}d_i$($i< j$)を満たすものを半単体的加群という。$A$ では $A_2=0$ なので恒等式は自明に成り立つ。$N_1(A)=\ker d_1=0$ なので $N(A)=\mathbb Z[0]=N(B)$ である。次数 $0$ で恒等写像、次数 $1$ 以上で $0$ からの写像となる包含 $f\colon B\to A$ は面射と可換で($B_1=0$ なので確かめることはない)、$N(f)$ は同型だが、$A_1\ne0=B_1$ なので $f$ は同型でない。単体的加群では lem-dk-decomposition により $A_1=N_1\oplus s_0(A_0)$ となってこうしたことは起こらない。実際 $A$ に $s_0$ を付けようとしても、$A_2=0$ では $d_0s_0=\mathrm{id}_{A_1}$ が成り立たない。
Dold–Kan 対応のもとで、単体的写像の単体的ホモトピーは鎖写像の鎖ホモトピーに対応し、単体的加群のホモトピー群は正規化複体のホモロジーに対応する(Wei94 Theorem 8.4.1 の主張、pp. 270–271、GJ09 Corollary III.2.7、p. 153)。正規化複体と付随複体はホモロジーが一致する(単体的対象 の定理「正規化定理と Dold–Kan 対応」の 1)。この記事ではホモトピーの対応を証明しない。
この対応のため、鎖複体の言葉で考えにくい構成(環やアーベル群の単体的分解、余接複体など)を単体的加群の側で行い、最後に正規化複体へ戻すことができる。$\infty$ 圏では、安定∞圏 $\mathcal C$ について、$\mathcal C$ の単体的対象の $\infty$ 圏が、$\mathcal C$ の対象と射の列 $X_0\to X_1\to X_2\to\cdots$ のなす $\infty$ 圏と同値になる(HA17 Theorem 1.2.4.1、p. 66)。これは Dold–Kan 対応の $\infty$ 圏版とみなされる。
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