Bruhat分解

同義語:ブリュア分解Bruhat decomposition

概要

Bruhat分解(Bruhat decomposition)とは、体 $K$ 上の一般線形群 $\mathrm{GL}_n(K)$ が、上三角行列の群 $B$ と置換行列 $P_w$ による $n!$ 個の両側剰余類 $BP_wB$($w\in S_n$)の交わらない和に分かれることである。各剰余類の元は $uP_wb$ とただ一通りに書け、$u$ は置換の転倒数 $\ell(w)$ 個の成分で決まるので、有限体上では $\lvert BP_wB\rvert=q^{\ell(w)}\lvert B\rvert$ となり、転倒数の母関数の積公式が得られる。旗の全体の Schubert 胞体への分割を与え、$B$ と単項行列の群は Tits 系をなし、一般の Tits 系や半単純群の分解の原型である。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 一般線形群, 対称群, 行基本変形, 行列の階数

可逆行列は、行基本変形と列基本変形で置換行列まで簡単にできる。ただし使える変形を「上の行に下の行の定数倍を足す」「左の列の定数倍を右の列に足す」「行・列の定数倍」に限ると、最後に残る置換行列は元の行列だけで決まる。これが Bruhat 分解 である。上三角行列の群を $B$ とすると、一般線形群 $\mathrm{GL}_n(K)$ は $n!$ 個の両側剰余類 $BP_wB$($P_w$ は置換行列)の交わらない和に分かれる。
Bruhat 分解は、行列群を 対称群 $S_n$ の元で分類する。その一つ一つの剰余類の大きさは置換の転倒数で測られ、有限体の上では $\lvert BP_wB\rvert=q^{\ell(w)}\lvert B\rvert$ となる。旗の全体はこの分解によって $n!$ 個の Schubert 胞体に分かれ(旗多様体)、群の側では $B$ と単項行列の群 $N$ の組が Tits系、BN対 をなす。一般の Tits 系での Bruhat 分解とその Weyl 群が Coxeter系 になることは Tits系、BN対 の記事の定理「Tits系の基本定理」で証明されている。この記事では、一般線形群について、任意の体の上で分解を掃き出し法で直接証明し、各剰余類の標準形、有限体上の元の個数、$(B,N)$ が Tits 系であることを証明する。

定義

$K$ を体、$n\ge1$、$G:=\mathrm{GL}_n(K)$ とする。$G$ の部分群を次のように定める。

  • $B$:可逆な上三角行列の全体
  • $U$:対角成分がすべて $1$ の上三角行列の全体
  • $U^-$:対角成分がすべて $1$ の下三角行列の全体
  • $T$:可逆な対角行列の全体
    $B=UT$ であり($b\in B$ の対角部分を $t$ とすると $bt^{-1}\in U$)、$B\cap U^-=\{1\}$ である。
    置換 $w\in S_n$ に対し、$P_we_j=e_{w(j)}$($e_j$ は標準基底)で定まる置換行列を $P_w$ と書く。$(P_w)_{ij}=1$ となるのは $i=w(j)$ のときだけで、$P_vP_w=P_{vw}$、$P_w^{-1}=P_{w^{-1}}$ である。行列単位 $E_{ik}$ について
    $$ P_w^{-1}E_{ik}P_w=E_{w^{-1}(i)\,w^{-1}(k)} $$
    が成り立つ。$w$ の 転倒数 を $\ell(w):=\#\{(j,l)\mid j< l,\ w(j)>w(l)\}$ とする。
Bruhat 胞体

$w\in S_n$ に対し、両側剰余類
$$ C(w):=BP_wB=\{b_1P_wb_2\mid b_1,b_2\in B\} $$
を $w$ に対応する Bruhat 胞体(Bruhat cell)という。

$t\in T$ について $P_w^{-1}tP_w\in T\subset B$ なので、$P_w$ を同じ $w$ に対応する単項行列 $P_wt$ に替えても $C(w)$ は変わらない。

主定理

一般線形群の Bruhat 分解

任意の体 $K$ について
$$ \mathrm{GL}_n(K)=\coprod_{w\in S_n}BP_wB $$
が成り立つ。すなわち、任意の $g\in\mathrm{GL}_n(K)$ は $b_1,b_2\in B$ と $w\in S_n$ によって $g=b_1P_wb_2$ と書け、$w$ は $g$ からただ一つに定まる。

左から $B$ の元を掛けることは、行の $0$ でない定数倍と「行 $i$ に行 $k$($i< k$)の定数倍を足す」操作を組み合わせることである。右から $B$ の元を掛けることは、列の $0$ でない定数倍と「列 $l$ に列 $j$($j< l$)の定数倍を足す」操作を組み合わせることである。

掃き出しで存在を、左下の小行列の階数で一意性を示す

存在:$g$ に上の行操作と列操作を施し、列を左から順に処理する。第 $j$ 段の後に次の状態になっていることを、$j$ についての帰納法で示す。

相異なる行番号 $r_1,\dots,r_j$ があり、各 $m\le j$ について、第 $m$ 列は第 $r_m$ 行の成分 $1$ のほかは $0$ であり、第 $r_m$ 行は第 $m$ 列のほかは $0$ である。
第 $j$ 段では、行列は可逆なので第 $j$ 列は $0$ でない。第 $r_1,\dots,r_{j-1}$ 行の第 $j$ 列の成分は $0$ なので、第 $j$ 列の $0$ でない成分のうち最も下にあるものの行番号 $r_j$ は $r_1,\dots,r_{j-1}$ と異なる。第 $r_j$ 行を定数倍してその成分を $1$ にし、$i< r_j$ の各行 $i$ から第 $r_j$ 行の適当な定数倍を引いて、第 $j$ 列の第 $r_j$ 行より上を $0$ にする。第 $r_j$ 行は第 $1,\dots,j-1$ 列の成分が $0$ なので、これらの列は変わらない。次に $l>j$ の各列 $l$ から第 $j$ 列の適当な定数倍を引いて、第 $r_j$ 行の第 $j$ 列より右を $0$ にする。第 $j$ 列は第 $r_j$ 行の $1$ だけなので、この操作で変わるのは第 $r_j$ 行だけである。こうして第 $j$ 段の後の状態が得られる。
第 $n$ 段の後の行列は、$w(m):=r_m$ で定まる置換 $w$ の置換行列 $P_w$ である。使った操作をまとめると $b_1gb_2=P_w$($b_1,b_2\in B$)であり、$g=b_1^{-1}P_wb_2^{-1}\in BP_wB$ である。
一意性:$1\le i,j\le n$ について、$g$ の第 $i,\dots,n$ 行と第 $1,\dots,j$ 列からなる左下の小行列の階数を $r_{ij}(g)$ とし、$r_{i0}(g):=0$ とおく。$b\in B$ について、$bg$ の第 $i,\dots,n$ 行は「$b$ の右下の $(n-i+1)$ 次の可逆な上三角行列」と「$g$ の第 $i,\dots,n$ 行」の積であり($(bg)_{k\cdot}=\sum_{l\ge k}b_{kl}g_{l\cdot}$)、$gb$ の第 $1,\dots,j$ 列は「$g$ の第 $1,\dots,j$ 列」と「$b$ の左上の $j$ 次の可逆な上三角行列」の積である。可逆行列を掛けても階数は変わらないので
$$ r_{ij}(b_1gb_2)=r_{ij}(g)\qquad(b_1,b_2\in B) $$
である。一方、$P_w$ の左下の小行列の 0 でない成分は、$m\le j$ かつ $w(m)\ge i$ となる $(w(m),m)$ にある $1$ で、行も列も相異なるので、$r_{ij}(P_w)=\#\{m\le j\mid w(m)\ge i\}$ である。したがって
$$ r_{ij}(P_w)-r_{i,j-1}(P_w)=\begin{cases}1&(w(j)\ge i)\\0&(w(j)< i)\end{cases} $$
であり、$w(j)$ はこの差が $1$ となる最大の $i$ として、数 $r_{ij}(P_w)$ から決まる。$g\in BP_wB\cap BP_vB$ なら $r_{ij}(P_w)=r_{ij}(g)=r_{ij}(P_v)$ がすべての $i,j$ で成り立つので、$w=v$ である。$\square$

一意性の証明は、$g$ がどの胞体に属するかを、左下の小行列の階数だけで判定できることも示している。とくに逆順の置換 $w_0(j):=n+1-j$ について $r_{ij}(P_{w_0})=\min(j,n+1-i)$ は可能な最大値である。左下の小行列は、左下の正方小行列(第 $n-k+1,\dots,n$ 行と第 $1,\dots,k$ 列)のうち $k=\min(j,n+1-i)$ のものを含むので、$g\in BP_{w_0}B$ となるのは、左下の正方小行列の行列式がすべて $0$ でないとき、かつそのときに限る。

$\mathrm{GL}_2$ と $\mathrm{GL}_3$ の胞体

$n=2$ では $S_2=\{1,s\}$ で、$r_{21}(g)$ は $(2,1)$ 成分が $0$ かどうかを表す。よって $C(1)=B$、$C(s)=\{g\mid g_{21}\ne0\}$ である。$n=3$ では 6 個の胞体があり、たとえば $g\in C(w_0)$ は $g_{31}\ne0$ かつ $g_{21}g_{32}-g_{22}g_{31}\ne0$ と同値で、$g\in C(1)=B$ は $g_{21}=g_{31}=g_{32}=0$ と同値である。

胞体の標準形と元の個数

$w\in S_n$ について、
$$ \Psi(w):=\{(i,k)\mid i< k,\ w^{-1}(i)>w^{-1}(k)\} $$
とし、$U_w$ を、$i< k$ かつ $(i,k)\notin\Psi(w)$ となる成分がすべて $0$ である $U$ の元の全体とする。$\Psi(w)$ は $w^{-1}$ の転倒の全体なので、$\lvert\Psi(w)\rvert=\ell(w^{-1})=\ell(w)$ である($(j,l)\mapsto(w(l),w(j))$ が $w$ の転倒と $w^{-1}$ の転倒の全単射を与える)。$P_w^{-1}E_{ik}P_w=E_{w^{-1}(i)w^{-1}(k)}$ なので、$P_w^{-1}U_wP_w\subset U^-$ である。

Bruhat 胞体の標準形

$w\in S_n$ とする。$U_w$ は $U$ の部分群であり、$C(w)$ の任意の元は
$$ g=uP_wb\qquad(u\in U_w,\ b\in B) $$
とただ一通りに書ける。とくに $K=\mathbb{F}_q$ が有限体なら $\lvert C(w)\rvert=q^{\ell(w)}\lvert B\rvert$ である。

$U$ を二つの部分群の積に分ける

要点:$\Psi'(w)$ を $\Psi(w)$ の補集合($i< k$ の対のうち)とし、$U'_w$ を同様に定めると、$U=U_wU'_w$ であり、$P_w^{-1}U'_wP_w\subset U$ なので $BP_wB=UP_wB=U_wP_wB$ となる。一意性は $P_w^{-1}U_wP_w\cap B=\{1\}$ による。

詳しい証明を開く

段 1(部分群):$\Phi\subset\{(i,k)\mid i< k\}$ が「$(i,k),(k,m)\in\Phi$ なら $(i,m)\in\Phi$」をみたすとき、$U_\Phi:=\{I+N\mid N\text{ は }\Phi\text{ の外の成分が }0\}$ は部分群である。$(I+N)(I+N')=I+N+N'+NN'$ で $(NN')_{im}=\sum_kN_{ik}N'_{km}$ の $0$ でない項は $(i,k),(k,m)\in\Phi$ からくるので $(i,m)\in\Phi$ であり、$N$ は冪零なので $(I+N)^{-1}=\sum_{m=0}^{n-1}(-N)^m$ も $U_\Phi$ に入る。$\Psi(w)$ も $\Psi'(w)$ もこの条件をみたす($w^{-1}(i)>w^{-1}(k)>w^{-1}(m)$ なら $w^{-1}(i)>w^{-1}(m)$、逆向きも同様)ので、$U_w=U_{\Psi(w)}$ と $U'_w:=U_{\Psi'(w)}$ は部分群である。

段 2($U=U_wU'_w$):$u\in U$ に対し、$z\in U'_w$ を $k-i$ についての帰納法で $(i,k)\in\Psi'(w)$ なら $z_{ik}:=-u_{ik}-\sum_{i< l< k}u_{il}z_{lk}$、$(i,k)\in\Psi(w)$ なら $z_{ik}:=0$ と定める。$i< k$ について $(uz)_{ik}=u_{ik}+z_{ik}+\sum_{i< l< k}u_{il}z_{lk}$ なので、$(i,k)\in\Psi'(w)$ では $(uz)_{ik}=0$ であり、$uz\in U_w$ である。よって $u=(uz)z^{-1}\in U_wU'_w$ である。

段 3(存在):$P_w^{-1}TP_w=T$ と、$(i,k)\in\Psi'(w)$ なら $w^{-1}(i)< w^{-1}(k)$ なので $P_w^{-1}U'_wP_w\subset U$ であることから、$BP_wB=UTP_wB=UP_wB=U_wU'_wP_wB=U_wP_w(P_w^{-1}U'_wP_w)B=U_wP_wB$ である。

段 4(一意性):$u_1P_wb_1=u_2P_wb_2$ なら $P_w^{-1}(u_2^{-1}u_1)P_w=b_2b_1^{-1}$ である。左辺は $P_w^{-1}U_wP_w\subset U^-$ に、右辺は $B$ に属し、$U^-\cap B=\{1\}$ なので $u_1=u_2$、$b_1=b_2$ である。

段 5(個数):$(u,b)\mapsto uP_wb$ は $U_w\times B$ から $C(w)$ への全単射で、$U_w$ の元は $\Psi(w)$ の $\ell(w)$ 個の成分を自由に選んで決まるので、$\lvert C(w)\rvert=q^{\ell(w)}\lvert B\rvert$ である。$\square$

転倒数の母関数

多項式の等式として
$$ \sum_{w\in S_n}q^{\ell(w)}=\prod_{i=1}^{n}(1+q+\cdots+q^{i-1}) $$
が成り立つ。とくに $\mathbb{F}_q^n$ の完全旗の個数はこの値に等しい。

二通りに数える

$q$ を素数の冪とし、$K=\mathbb{F}_q$ とする。$\lvert B\rvert=(q-1)^nq^{n(n-1)/2}$(対角成分が $(q-1)^n$ 通り、対角より上が $q^{n(n-1)/2}$ 通り)であり、一般線形群 の命題「有限体上の一般線形群の位数」により $\lvert\mathrm{GL}_n(\mathbb{F}_q)\rvert=\prod_{i=0}^{n-1}(q^n-q^i)=q^{n(n-1)/2}\prod_{i=1}^n(q^i-1)$ である。thm-bruhat-gln と thm-bruhat-normal-form から $\lvert\mathrm{GL}_n(\mathbb{F}_q)\rvert=\lvert B\rvert\sum_wq^{\ell(w)}$ なので、両辺を $\lvert B\rvert$ で割ると、$q$ が素数の冪のとき等式が成り立つ。両辺は $q$ の多項式で、無限個の値で一致するので多項式として等しい。完全旗の全体は $\mathrm{GL}_n(\mathbb{F}_q)/B$ と全単射に対応する(節「旗と Schubert 胞体」の冒頭の議論。体は任意でよい)ので、その個数は $\lvert\mathrm{GL}_n(\mathbb{F}_q)\rvert/\lvert B\rvert$ である。$\square$

たとえば $n=3$ では、転倒数が $0,1,1,2,2,3$ の 6 個の置換から $1+2q+2q^2+q^3=(1+q)(1+q+q^2)$ を得る。

Tits 系としての一般線形群

$N$ を単項行列(各行・各列に $0$ でない成分がちょうど 1 つある行列)の全体とし、$s_i\in S_n$ を隣接互換 $(i\ i+1)$、$S:=\{s_1,\dots,s_{n-1}\}$ とする。$N$ の元は $P_\sigma t$($\sigma\in S_n$、$t\in T$)とただ一通りに書け、$P_\sigma t\mapsto\sigma$ は全射準同型 $N\to S_n$ で、核は $T=B\cap N$ である。

$(B,N)$ は Tits 系をなす

$(G,B,N,S)$ は Tits 系(BN 対)であり、その Weyl 群 $N/T$ は $S_n$ と同一視される。したがって $(S_n,S)$ は Coxeter系 であり、その長さ関数は転倒数 $\ell$ に一致する。

公理 4 は 2 次の場合の計算に帰着する

要点:公理 1 は thm-bruhat-gln から、公理 2・3・5 は直接の計算から従う。公理 4 は、$BP_{s_i}B=BP_{s_i}X_i$($X_i:=\{I+tE_{i,i+1}\}$)と、2 次の等式 $\begin{pmatrix}1&0\\t&1\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}1&t^{-1}\\0&1\end{pmatrix}\begin{pmatrix}-t^{-1}&0\\0&t\end{pmatrix}\begin{pmatrix}0&1\\1&0\end{pmatrix}\begin{pmatrix}1&t^{-1}\\0&1\end{pmatrix}$ による。

詳しい証明を開く

公理 1:thm-bruhat-gln により $G=\bigcup_wBP_wB\subset\langle B,N\rangle$ である。公理 2:単項行列は対角行列を共役で対角行列へ写すので、$T$ は $N$ の正規部分群である。公理 3:$N/T\cong S_n$ は $S$ で生成される(互換 $(i\ j)$($i< j$)は $s_{j-1}\cdots s_{i+1}s_is_{i+1}\cdots s_{j-1}$ に等しく、対称群 の定理「互換による生成」により互換が $S_n$ を生成する)。$s_i^2=1$ である。公理 5:$P_{s_i}(I+E_{i,i+1})P_{s_i}=I+E_{i+1,i}\notin B$ である。

公理 4:$s:=s_i$、$x(t):=I+tE_{i,i+1}$、$y(t):=I+tE_{i+1,i}$ とおく。$b\in B$ の $(i,i+1)$ 成分を右から $x(t)$ を掛けて消せるので $B=B_sX_i$($B_s:=\{b\in B\mid b_{i,i+1}=0\}$)であり、$P_sB_sP_s\subset B$ なので $BP_sB=BP_sB_sX_i=BP_sX_i$ である。よって $BP_sBP_wB=\bigcup_tBP_sx(t)P_wB$ であり、$P_w^{-1}x(t)P_w=I+tE_{w^{-1}(i)\,w^{-1}(i+1)}$ である。

(a) $w^{-1}(i)< w^{-1}(i+1)$ のとき、これは $B$ に属するので $BP_sx(t)P_wB=BP_sP_wB=BP_{sw}B$ である。

(b) $w^{-1}(i)>w^{-1}(i+1)$ のとき、$w':=sw$ は $w'^{-1}(i)=w^{-1}(i+1)< w^{-1}(i)=w'^{-1}(i+1)$ をみたす。$t=0$ の項は $BP_{sw}B$ である。$t\ne0$ なら、$P_sx(t)=y(t)P_s$ と要点の等式(第 $i,i+1$ 行・列に置いたもの)から、$h\in T$ を用いて $P_sx(t)P_w=y(t)P_{w'}=x(t^{-1})hP_sx(t^{-1})P_{w'}$ と書ける。(a) を $w'$ に当てると $x(t^{-1})P_{w'}=P_{w'}b'$($b'\in B$)なので、$P_sx(t)P_w=x(t^{-1})hP_{sw'}b'=x(t^{-1})hP_wb'\in BP_wB$ である。

以上で $BP_sBP_wB\subset BP_{sw}B\cup BP_wB$ である。$(S_n,S)$ が Coxeter 系であることは Tits系、BN対 の定理「Tits系の基本定理」による。長さについて:$ws_i$ は $w$ の第 $i,i+1$ 項の値を入れ替えたものなので、$\ell(ws_i)=\ell(w)\pm1$($w(i)< w(i+1)$ なら $+1$)である。よって $S$ の $m$ 個の積の転倒数は $m$ 以下で、$\ell(w)$ は $S$ による長さ以下である。逆に $w\ne1$ なら $w(i)>w(i+1)$ となる $i$ があり(なければ $w$ は増加列で $w=1$)、$\ell(ws_i)=\ell(w)-1$ なので、帰納法で $w$ は $S$ の $\ell(w)$ 個の積に書ける。$\square$

この命題により、Tits系、BN対 の定理「Tits系の基本定理」の 3 から、$\ell(s_iw)=\ell(w)+1$ なら $C(s_i)C(w)=C(s_iw)$、$\ell(s_iw)=\ell(w)-1$ なら $C(s_i)C(w)=C(s_iw)\cup C(w)$ となる。Weyl群 の記事の命題「一般線形群の Weyl 群」は、元を $3$ 個以上もつ体について、$N$ が対角行列の群 $T$ の正規化群に一致し、Weyl 群 $N/T$ が $S_n$ であることを示している。$\mathbb{F}_2$ では $T=\{1\}$ なのでこの一致は成り立たないが、上の命題は $N$ を単項行列の群として定めているので、どの体でも成り立つ。

旗と Schubert 胞体

$K^n$ の完全旗の全体 $\mathrm{Fl}_n$ には $G$ が推移的に作用し、標準旗 $F_\bullet$($F_i=\langle e_1,\dots,e_i\rangle$)の固定部分群は $B$ である(完全旗 $V_\bullet$ に対し、$V_i=\langle v_1,\dots,v_i\rangle$ となる基底 $v_1,\dots,v_n$ を列に並べた行列 $g$ は $gF_\bullet=V_\bullet$ をみたし、$gF_i=F_i$(すべての $i$)は $g$ が上三角であることと同値である。旗多様体 の命題「等質空間としての記述」の証明と同じで、体は任意でよい)。したがって $G/B\cong\mathrm{Fl}_n$ であり、thm-bruhat-gln は
$$ \mathrm{Fl}_n=\coprod_{w\in S_n}B\cdot P_wF_\bullet $$
を意味する。右辺の各項は、旗多様体 の定義「Schubert 胞体と Schubert 多様体」(代数閉体の上での定義)と同じ形の Schubert 胞体であり、thm-bruhat-normal-form により $u\mapsto uP_wF_\bullet$ は $U_w\cong K^{\ell(w)}$ からこの胞体への全単射である($uP_wF_\bullet=u'P_wF_\bullet$ なら $P_w^{-1}u'^{-1}uP_w\in B$ となり、標準形の一意性から $u=u'$)。これは 旗多様体 の定理「Bruhat 分解」の 1 と、2 のうち胞体が集合として $K^{\ell(w)}$ と全単射に対応する部分にあたる。

条件を外した反例

外す条件反例成り立たなくなること
係数が体(thm-bruhat-gln)$\mathrm{GL}_2(\mathbb{Z})$ と整数成分の可逆な上三角行列の群$\begin{pmatrix}1&0\\2&1\end{pmatrix}$ がどの両側剰余類 $BP_wB$ にも入らない
両側の群が $B$(thm-bruhat-gln、$n\ge2$)$B$ を対角行列の群 $T$ に替えた $TP_wT$単項行列しか得られず、$\mathrm{GL}_n(K)$ を覆わない
左の因子が $U_w$(thm-bruhat-normal-form、$n\ge2$)$U$ に替えた $uP_wb$($u\in U$)書き方の一意性
反例:表の各行の確かめ

各行は左の列の条件だけを替えている。

確かめを開く

1 行目:$\mathbb{Z}$ 上の可逆な上三角行列は対角成分が $\pm1$ である。$b_1=\begin{pmatrix}a_1&x\\0&d_1\end{pmatrix}$、$b_2=\begin{pmatrix}a_2&y\\0&d_2\end{pmatrix}$ について $b_1P_sb_2$ の $(2,1)$ 成分は $d_1a_2=\pm1$ であり、$b_1b_2$ の $(2,1)$ 成分は $0$ である。$\begin{pmatrix}1&0\\2&1\end{pmatrix}$ は行列式 $1$ で $\mathrm{GL}_2(\mathbb{Z})$ に属するが、$(2,1)$ 成分が $2$ なのでどちらにも入らない。

2 行目:$TP_wT$ の元は単項行列である。$n\ge2$ なら $I+E_{12}$ は単項行列でない可逆行列である。

3 行目:$w=1$ では $U_1=\{1\}$ であり、$U$ に替えると $1=u\cdot P_1\cdot u^{-1}$ がすべての $u\in U$ について成り立つ。$n\ge2$ なら $U\ne\{1\}$ なので書き方は一意でない。

補足

一般の群での Bruhat 分解

Bruhat 分解は、一般の Tits 系 $(G,B,N,S)$ で $G=\coprod_{w\in W}B\dot wB$ という形で成り立つ(Tits系、BN対 の定理「Tits系の基本定理」)。複素半単純 Lie 群では、Borel 部分群 $B$ と Cartan 部分群の正規化群の組から同じ形の分解が得られ、各胞体 $B\dot wB/B$ は複素アフィン空間 $\mathbb{C}^{\ell(w)}$ と同型になる(FH91 §23.4, Theorem 23.59・Corollary 23.60, pp. 396–397。同書は一般の証明を他書に譲り、古典群について確かめている。この記事では証明しない)。

文献

$\mathrm{SL}_m(\mathbb{C})$ の Bruhat 分解の、行基本変形による存在と一意性の証明の筋、および標準形 $U(w)\cdot n_w\cdot B$ とその次元は FH91 §23.4(pp. 396–397)にある。この記事の命題・定理は、引用した記事の定理と rem-bruhat-general の主張を除いて記事の中で証明した。

関連項目

参考文献

[1]
William Fulton, Joe Harris, Representation Theory: A First Course, Graduate Texts in Mathematics 129, Springer, 1991, §23.4(pp. 396–397、Theorem 23.59・Corollary 23.60:Bruhat 分解と胞体の標準形、$\mathrm{SL}_m(\mathbb{C})$ の場合の証明の筋)

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