森田双対

同義語:Morita双対Morita duality

概要

森田双対(Morita duality)とは、環 $R$ の左加群の部分圏と環 $S$ の右加群の部分圏で、正則加群を含み部分加群・商加群・有限直和で閉じたものの間の双対である。森田紀一は、そのような双対がすべて両側加群 ${}_RU_S$ による $\operatorname{Hom}(-,U)$ で与えられ、$U$ が左右で入射的余生成子かつ平衡になることを示した。逆にこの条件のもとで、$U$ 反射的な加群の全体は有限生成加群を含み、$\operatorname{Hom}(-,U)$ はその間の双対になり、$R$ の左イデアルと $U$ の $S$ 部分加群が逆順に対応する。例は有限次元代数の $k$ 双対と完備局所環の Matlis 双対である。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 加群, 入射加群, 余生成子, 反変関手, 森田同値

森田双対(Morita duality)とは、環 $R$ 上の左加群の圏の一部と、環 $S$ 上の右加群の圏の一部とが、向きを逆にする関手によって対応しあうことをいう。典型は体 $k$ 上の有限次元ベクトル空間の双対 $V\mapsto\operatorname{Hom}_k(V,k)$ で、$V$ を 2 回双対にとると自然に元に戻る。森田紀一(Kiiti Morita)は、加群の圏の間のこのような双対がすべて、両側加群 ${}_RU_S$ による「$U$ への準同型をとる」関手 $\operatorname{Hom}(-,U)$ で与えられること、そしてそれが双対になるための条件が「$U$ が左右で入射的余生成子で、平衡している」ことであることを示した。
森田同値 が加群の圏の同値(向きを保つ対応)を有限生成射影生成子 $P$ による $\operatorname{Hom}(P,-)$ で記述するのに対し、森田双対は向きを逆にする対応を、入射的余生成子 $U$ による $\operatorname{Hom}(-,U)$ で記述する。ただし加群の圏全体の間の双対はなく、双対が働くのは有限生成加群などの一部の加群である。

結果内容仮定
lem-md-eval評価写像 $\Phi_N\colon N\to N^{**}$ の基本性質なし
prop-md-closure反射的な加群の部分加群と商加群は反射的$U$ が左右で入射的余生成子
thm-md-main$\operatorname{Hom}(-,U)$ は反射的な加群の間の双対で、有限生成加群を含む平衡、左右で入射的余生成子
thm-md-converse森田双対はすべて主定理の形の $U$ から来る森田双対
cor-md-lattice$R$ の左イデアルと $U$ の $S$ 部分加群が逆順に対応主定理の仮定

定義

この記事では、環は単位元をもち、加群は単位元が恒等的に作用するものとする。左 $R$ 加群の圏を $R\text{-}\mathbf{Mod}$、右 $S$ 加群の圏を $\mathbf{Mod}\text{-}S$ と書く。左 $R$ 加群かつ右 $S$ 加群で $(ru)s=r(us)$ を満たすものを $R$-$S$ 両側加群といい、${}_RU_S$ と書く。
両側加群 ${}_RU_S$ を固定する。左 $R$ 加群 $N$ について、$N^*:=\operatorname{Hom}_R(N,U)$ は $(\varphi s)(n):=\varphi(n)s$ で右 $S$ 加群になる。右 $S$ 加群 $M$ について、$M^*:=\operatorname{Hom}_S(M,U)$ は $(r\psi)(m):=r\psi(m)$ で左 $R$ 加群になる。準同型 $f$ には $f^*:=(-)\circ f$ を対応させる。こうして加法的な反変関手
$$ (-)^*=\operatorname{Hom}_R(-,U)\colon R\text{-}\mathbf{Mod}\to\mathbf{Mod}\text{-}S,\qquad (-)^*=\operatorname{Hom}_S(-,U)\colon \mathbf{Mod}\text{-}S\to R\text{-}\mathbf{Mod} $$
が得られる(両方を同じ記号で書く)。左 $R$ 加群 $N$ が $U$ で余生成されるとは、$0$ でない各 $n\in N$ について $\varphi(n)\neq0$ となる $\varphi\in N^*$ があることをいう。すべての左 $R$ 加群が $U$ で余生成されることは、$U$ が $R\text{-}\mathbf{Mod}$ の余生成子であることと同じである(余生成子 の命題「アーベル圏での言い換え」の 3)。

評価写像と反射性

左 $R$ 加群 $N$ の評価写像 $\Phi_N\colon N\to N^{**}$ を $\Phi_N(n)(\varphi):=\varphi(n)$($\varphi\in N^*$)で定める。右 $S$ 加群 $M$ についても $\Phi_M(m)(\psi):=\psi(m)$ と定める。$\Phi_N$ が同型であるとき、$N$ は $U$ 反射的であるという。

$\Phi_N(n)$ は $\Phi_N(n)(\varphi s)=\varphi(n)s=\Phi_N(n)(\varphi)s$ なので $S$ 線形であり、$\Phi_N(rn)(\varphi)=r\varphi(n)$ なので $\Phi_N$ は $R$ 線形である。$f\colon N\to N'$ について $f^{**}\circ\Phi_N=\Phi_{N'}\circ f$ が成り立つ(両辺とも $n\mapsto(\varphi\mapsto\varphi(f(n)))$)ので、$\Phi$ は恒等関手から $(-)^{**}$ への自然変換である。
$r\in R$ について $\lambda_r(u):=ru$ は $U$ の右 $S$ 自己準同型であり、$s\in S$ について $\rho_s(u):=us$ は $U$ の左 $R$ 自己準同型である。$\lambda_{rr'}=\lambda_r\lambda_{r'}$、$\rho_{st}=\rho_t\rho_s$ である。

平衡な両側加群

両側加群 ${}_RU_S$ が平衡(faithfully balanced)であるとは、$r\mapsto\lambda_r$ が全単射 $R\to\operatorname{End}_S(U)$ であり、$s\mapsto\rho_s$ が全単射 $S\to\operatorname{End}_R(U)$ であることをいう。すなわち、$U$ の右 $S$ 自己準同型は $R$ の元の左からの掛け算でちょうど尽くされ、左 $R$ 自己準同型は $S$ の元の右からの掛け算でちょうど尽くされる。

加法的な反変関手 $F\colon\mathcal C\to\mathcal D$ と $G\colon\mathcal D\to\mathcal C$ と、自然同型 $GF\cong\mathrm{id}_{\mathcal C}$、$FG\cong\mathrm{id}_{\mathcal D}$ があるとき、$F$ と $G$ を互いに逆な双対といい、$\mathcal C$ と $\mathcal D$ は双対であるという。これは $\mathcal C$ と双対圏 $\mathcal D^{\mathrm{op}}$ の圏同値と同じことであり、$F$ と $G$ は射の集合の間に全単射を与える(圏同値 と同じ議論)。

森田双対

$\mathcal C\subset R\text{-}\mathbf{Mod}$、$\mathcal D\subset\mathbf{Mod}\text{-}S$ を充満部分圏とし、次を満たすとする。

  1. $\mathcal C$ は ${}_RR$ を含み、$\mathcal D$ は $S_S$ を含む。
  2. $\mathcal C$ と $\mathcal D$ は、同型な加群、部分加群、商加群、有限直和で閉じている。
    このとき、$\mathcal C$ と $\mathcal D$ の間の双対を森田双対という。$R$ と $S$ の間に森田双対があるともいう。

2 により、$\mathcal C$ の射 $f$ の核と余核は加群としての核と余核で与えられ、$\mathcal C$ の中の短完全列は加群の短完全列と同じものである。双対は核を余核に、余核を核に移す($\mathcal C\simeq\mathcal D^{\mathrm{op}}$ が極限と余極限を保つ)ので、森田双対の $F,G$ は短完全列 $0\to K\to N\to L\to0$ を短完全列 $0\to F(L)\to F(N)\to F(K)\to0$ に移す。

評価写像と反射的な加群

評価写像の性質

${}_RU_S$ を両側加群とし、$N,N_1,N_2$ を左 $R$ 加群とする。

  1. $\Phi_N$ が単射であることと、$N$ が $U$ で余生成されることは同値である。
  2. $(\Phi_N)^*\circ\Phi_{N^*}=\mathrm{id}_{N^*}$ である。とくに $N$ が $U$ 反射的なら $N^*$ も $U$ 反射的である。
  3. $N_1\oplus N_2$ が $U$ 反射的であることと、$N_1,N_2$ がともに $U$ 反射的であることは同値である。
  4. ${}_RR$ が $U$ 反射的であることと、$r\mapsto\lambda_r$ が全単射 $R\to\operatorname{End}_S(U)$ であることは同値である。
  5. $s\mapsto\rho_s$ が全単射 $S\to\operatorname{End}_R(U)$ なら、左 $R$ 加群 $U$ は $U$ 反射的である。
    左右を入れ替えた主張(右 $S$ 加群について、4 では $S_S$ と $s\mapsto\rho_s$、5 では $r\mapsto\lambda_r$ と右 $S$ 加群 $U$)も成り立つ。

要点:1 は定義の言い換えで、2 は $(\Phi_N)^*\Phi_{N^*}$ を元ごとに計算する。4 と 5 は、$R^*\cong U$ と $U^*\cong S$ の同一視のもとで、$\Phi_R$ が $r\mapsto\lambda_r$ に、$\Phi_U$ が恒等写像に当たることを確かめる。

詳しい証明を開く

1。 $\Phi_N(n)=0$ は、すべての $\varphi\in N^*$ で $\varphi(n)=0$ となることである。

2。 $\psi\in N^*$ について、$(\Phi_N)^*(\Phi_{N^*}(\psi))=\Phi_{N^*}(\psi)\circ\Phi_N$ は $n\mapsto\Phi_N(n)(\psi)=\psi(n)$ なので $\psi$ に等しい。$\Phi_N$ が同型なら $(\Phi_N)^*$ も同型なので、$\Phi_{N^*}=((\Phi_N)^*)^{-1}$ は同型である。

3。 $(-)^{**}$ は加法的なので有限直和を保ち、この同一視のもとで $\Phi_{N_1\oplus N_2}=\Phi_{N_1}\oplus\Phi_{N_2}$ である。直和写像が同型であることと各成分が同型であることは同値である。

4。 $\varepsilon\colon R^*\to U$、$\varphi\mapsto\varphi(1)$ は右 $S$ 加群の同型である(逆は $u\mapsto(x\mapsto xu)$)。よって $\xi\mapsto\xi\circ\varepsilon^{-1}$ は全単射 $R^{**}\to\operatorname{End}_S(U)$ である。$\Phi_R(r)\circ\varepsilon^{-1}$ は $u\mapsto\Phi_R(r)(x\mapsto xu)=ru$、すなわち $\lambda_r$ である。したがって $\Phi_R$ が全単射であることは $r\mapsto\lambda_r$ が全単射であることと同じである。

5。 $U^*=\operatorname{End}_R(U)$ の右 $S$ 加群の構造は $(\varphi t)(u)=\varphi(u)t$、すなわち $\varphi t=\rho_t\varphi$ である。$\sigma(s):=\rho_s$ とおくと $\sigma(st)=\rho_t\rho_s=\sigma(s)t$ なので、$\sigma\colon S_S\to U^*$ は右 $S$ 加群の同型である。$u\in U$ について $\Phi_U(u)(\sigma(s))=\rho_s(u)=us$ である。$\Phi_U(u)=0$ なら $s=1$ として $u=0$ であり、$\Phi_U$ は単射である。$\xi\in U^{**}$ について $u:=\xi(\sigma(1))$ とおくと、$\xi(\sigma(s))=\xi(\sigma(1)s)=us=\Phi_U(u)(\sigma(s))$ であり、$\sigma$ は全射なので $\xi=\Phi_U(u)$ である。よって $\Phi_U$ は全単射である。

左右を入れ替えた主張も同じ計算で示される。$\square$

2 の等式から、$\Phi_{N^*}$ はつねに分裂する単射であることも分かる。

部分加群と商加群の反射性

${}_RU_S$ を両側加群とし、$U$ は左 $R$ 加群として $R\text{-}\mathbf{Mod}$ の入射的余生成子、右 $S$ 加群として $\mathbf{Mod}\text{-}S$ の入射的余生成子であるとする。左 $R$ 加群 $N$ が $U$ 反射的なら、$N$ の任意の部分加群 $K$ と商加群 $N/K$ も $U$ 反射的である。右 $S$ 加群についても同じである。

$0\to K\xrightarrow{i}N\xrightarrow{p}N/K\to0$ に $(-)^*=\operatorname{Hom}_R(-,U)$ を当てると、${}_RU$ は入射的なので
$$ 0\to(N/K)^*\xrightarrow{p^*}N^*\xrightarrow{i^*}K^*\to0 $$
は完全である(入射加群 の定義)。これに $\operatorname{Hom}_S(-,U)$ を当てると、$U_S$ は入射的なので $0\to K^{**}\to N^{**}\to(N/K)^{**}\to0$ も完全である。$\Phi$ の自然性により、可換図式
$$ \begin{array}{ccccccccc} 0&\to&K&\xrightarrow{i}&N&\xrightarrow{p}&N/K&\to&0\\ &&\downarrow{\scriptstyle\Phi_K}&&\downarrow{\scriptstyle\Phi_N}&&\downarrow{\scriptstyle\Phi_{N/K}}&&\\ 0&\to&K^{**}&\xrightarrow{i^{**}}&N^{**}&\xrightarrow{p^{**}}&(N/K)^{**}&\to&0 \end{array} $$
の 2 行は完全である。蛇の補題 により完全列
$$ 0\to\ker\Phi_K\to\ker\Phi_N\to\ker\Phi_{N/K}\to\operatorname{coker}\Phi_K\to\operatorname{coker}\Phi_N\to\operatorname{coker}\Phi_{N/K}\to0 $$
がある。$\Phi_N$ は同型なので $\ker\Phi_N=\operatorname{coker}\Phi_N=0$ であり、$\ker\Phi_{N/K}\cong\operatorname{coker}\Phi_K$、$\ker\Phi_K=0$、$\operatorname{coker}\Phi_{N/K}=0$ である。${}_RU$ は余生成子なので $N/K$ は $U$ で余生成され、lem-md-eval の 1 により $\ker\Phi_{N/K}=0$ である。よって $\operatorname{coker}\Phi_K=0$ であり、$\Phi_K$ と $\Phi_{N/K}$ はともに同型である。右 $S$ 加群についても左右を入れ替えて同じである。$\square$

証明では、${}_RU$ の入射性を $N^*\to K^*$ の全射性に、$U_S$ の入射性を 2 回目の双対の完全性に、${}_RU$ の余生成性を $\Phi_{N/K}$ の単射性に使った。

森田の双対定理

森田の双対定理

${}_RU_S$ を平衡な両側加群とし、${}_RU$ は $R\text{-}\mathbf{Mod}$ の入射的余生成子、$U_S$ は $\mathbf{Mod}\text{-}S$ の入射的余生成子であるとする。$U$ 反射的な左 $R$ 加群の全体がなす充満部分圏を $\mathcal R_U$、$U$ 反射的な右 $S$ 加群の全体がなす充満部分圏を $\mathcal R'_U$ とする。

  1. $\mathcal R_U$ は ${}_RR$ と ${}_RU$ を含み、同型な加群、部分加群、商加群、有限直和で閉じている。とくに、有限生成な左 $R$ 加群と、有限直和 $U^n$ の部分加群はすべて $U$ 反射的である。$\mathcal R'_U$ についても左右を入れ替えて同じである。
  2. $(-)^*=\operatorname{Hom}_R(-,U)$ は $\mathcal R_U$ を $\mathcal R'_U$ に、$(-)^*=\operatorname{Hom}_S(-,U)$ は $\mathcal R'_U$ を $\mathcal R_U$ に移し、評価写像 $\Phi$ を自然同型として、互いに逆な双対である。
    したがって $\operatorname{Hom}(-,U)$ は $\mathcal R_U$ と $\mathcal R'_U$ の間の森田双対である。

1。 $U$ は平衡なので、lem-md-eval の 4 により ${}_RR$ は、5 により ${}_RU$ は $U$ 反射的である。同型で閉じていることは $\Phi$ の自然性から明らかである。有限直和で閉じていることは lem-md-eval の 3、部分加群と商加群で閉じていることは prop-md-closure による。有限生成な左 $R$ 加群は $R^n$ の商加群なので $U$ 反射的であり、$U^n$ とその部分加群も $U$ 反射的である。$\mathcal R'_U$ についても、lem-md-eval と prop-md-closure の左右を入れ替えた主張から同じである。
2。 lem-md-eval の 2(とその左右を入れ替えた主張)により、$(-)^*$ は $\mathcal R_U$ と $\mathcal R'_U$ を互いに移す。2 つの $(-)^*$ の合成はどちら向きも $(-)^{**}$ であり、$\Phi$ は恒等関手から $(-)^{**}$ への自然変換で、$\mathcal R_U$ と $\mathcal R'_U$ の上では各成分が同型である。よって $(-)^*$ は互いに逆な双対である。1 により $\mathcal R_U,\mathcal R'_U$ は def-md-duality の条件を満たす。$\square$

主定理の仮定のうち、平衡性は ${}_RR$ と $S_S$ が反射的であるために、入射性と余生成性は反射的な加群の部分加群と商加群が反射的であるために使われている。
逆に、森田双対はすべてこの形をしている。次の定理の $\ell_s\colon S\to S$ は左からの掛け算 $t\mapsto st$、$\rho'_r\colon R\to R$ は右からの掛け算 $x\mapsto xr$ である。

森田双対を与える両側加群

$F\colon\mathcal C\to\mathcal D$、$G\colon\mathcal D\to\mathcal C$ を互いに逆な森田双対とする($\mathcal C\subset R\text{-}\mathbf{Mod}$、$\mathcal D\subset\mathbf{Mod}\text{-}S$)。$U:=G(S_S)$ とおき、$us:=G(\ell_s)(u)$ で右からの $S$ の作用を定める。

  1. $U$ は $R$-$S$ 両側加群であり、$s\mapsto\rho_s$ は全単射 $S\to\operatorname{End}_R(U)$ である。
  2. 右 $S$ 加群の自然同型 $F(N)\cong\operatorname{Hom}_R(N,U)$($N\in\mathcal C$)と、左 $R$ 加群の自然同型 $G(M)\cong\operatorname{Hom}_S(M,U)$($M\in\mathcal D$)がある。
  3. $r\mapsto\lambda_r$ は全単射 $R\to\operatorname{End}_S(U)$ である。したがって ${}_RU_S$ は平衡である。
  4. ${}_RU$ は $R\text{-}\mathbf{Mod}$ の入射的余生成子であり、$U_S$ は $\mathbf{Mod}\text{-}S$ の入射的余生成子である。
    とくに $U$ は thm-md-main の仮定を満たす。

要点:$\theta_N(y):=G(t\mapsto yt)\circ\eta_N$ が自然同型 $F(N)\cong\operatorname{Hom}_R(N,U)$ を与える。平衡性は $S$ と $R$ の自己準同型環を $G,F$ で移して得られ、入射性は左イデアルの短完全列の像と Baerの判定法 から、余生成性は単純加群 $T$ について $F(T)\neq0$ となることから従う。

詳しい証明を開く

自然同型 $\eta\colon\mathrm{id}_{\mathcal C}\to GF$ を固定する。

1。 $G(\ell_s)$ は $\mathcal C$ の射なので $R$ 線形であり、$U$ の $R$ の作用と $S$ の作用は可換である。$\ell_s\ell_t=\ell_{st}$ と $G$ が反変であることから $G(\ell_{st})=G(\ell_t)G(\ell_s)$、すなわち $u(st)=(us)t$ であり、$G(\ell_1)=\mathrm{id}$ と $G$ の加法性から $U$ は右 $S$ 加群である。定義から $\rho_s=G(\ell_s)$ である。右 $S$ 加群 $S_S$ の自己準同型 $f$ は $f(t)=f(1)t$ なので $f=\ell_{f(1)}$ であり、$s\mapsto\ell_s$ は全単射 $S\to\operatorname{End}_S(S)$ である。$G$ は全単射 $\operatorname{End}_{\mathcal D}(S)\to\operatorname{End}_{\mathcal C}(U)$ を与えるので、$s\mapsto\rho_s$ は全単射である。

2。 $N\in\mathcal C$ と $y\in F(N)$ について、$\hat y\colon S\to F(N)$、$t\mapsto yt$ とおき、$$\theta_N(y):=G(\hat y)\circ\eta_N\colon N\to GF(N)\to G(S)=U$$と定める。$y\mapsto\hat y$ は全単射 $F(N)\to\operatorname{Hom}_S(S,F(N))$、$G$ は全単射 $\operatorname{Hom}_{\mathcal D}(S,F(N))\to\operatorname{Hom}_{\mathcal C}(GF(N),U)$、$\eta_N$ との合成は全単射 $\operatorname{Hom}_{\mathcal C}(GF(N),U)\to\operatorname{Hom}_R(N,U)$ なので、$\theta_N$ は全単射である。$\widehat{ys}=\hat y\circ\ell_s$ なので $G(\widehat{ys})=\rho_s\circ G(\hat y)$、すなわち $\theta_N(ys)=\theta_N(y)s$ であり、$\theta_N$ は $S$ 線形である。$f\colon N\to N'$ と $y'\in F(N')$ について、$\widehat{F(f)(y')}=F(f)\circ\hat y'$ と $\eta$ の自然性 $GF(f)\circ\eta_N=\eta_{N'}\circ f$ から$$\theta_N(F(f)(y'))=G(\hat y')\circ GF(f)\circ\eta_N=G(\hat y')\circ\eta_{N'}\circ f=\theta_{N'}(y')\circ f$$であり、$\theta$ は自然である。

左右を入れ替えて同じ構成をすると、$V:=F({}_RR)$ に $r\cdot v:=F(\rho'_r)(v)$ で左 $R$ 加群の構造を入れて、左 $R$ 加群の自然同型 $G(M)\cong\operatorname{Hom}_S(M,V)$ が得られる。$V$ が $U$ と両側加群として同型であることを示す。$\varepsilon\colon\operatorname{Hom}_R(R,U)\to U$、$\varphi\mapsto\varphi(1)$ は右 $S$ 加群の同型なので、$\varepsilon\circ\theta_R\colon V\to U$ は右 $S$ 加群の同型である。$\theta$ の自然性から $\theta_R(F(\rho'_r)(v))=\theta_R(v)\circ\rho'_r$ であり、$\varepsilon(\varphi\circ\rho'_r)=\varphi(r)=r\varphi(1)$ なので、$\varepsilon\theta_R(r\cdot v)=r\,\varepsilon\theta_R(v)$ である。よって $V\cong U$ は両側加群の同型で、$G(M)\cong\operatorname{Hom}_S(M,U)$ である。

3。 $r\mapsto\rho'_r$ は全単射 $R\to\operatorname{End}_R(R)$ であり(1 と同じ理由)、$F$ は全単射 $\operatorname{End}_{\mathcal C}(R)\to\operatorname{End}_{\mathcal D}(V)$ を与える。$V$ の左 $R$ の作用の定義から $F(\rho'_r)$ は $r$ の作用であり、2 の両側加群の同型 $V\cong U$ でこれは $\lambda_r$ に移る。よって $r\mapsto\lambda_r$ は全単射 $R\to\operatorname{End}_S(U)$ である。

4。 入射性:$I$ を $R$ の左イデアルとする。$\mathcal C$ は ${}_RR$ を含み部分加群と商加群で閉じているので、$0\to I\to R\to R/I\to0$ は $\mathcal C$ の短完全列であり、$F$ はこれを短完全列 $0\to F(R/I)\to F(R)\to F(I)\to0$ に移す。2 の自然同型により $\operatorname{Hom}_R(R,U)\to\operatorname{Hom}_R(I,U)$(制限)は全射であり、Baerの判定法 の定理「Baer の判定法」により ${}_RU$ は入射的である。

余生成性:単純な左 $R$ 加群 $T$ は ${}_RR$ の商加群なので $\mathcal C$ に属する。$F(T)=0$ なら $T\cong GF(T)\cong G(0)=0$ となるので $F(T)\neq0$、すなわち $\operatorname{Hom}_R(T,U)\neq0$ である。左 $R$ 加群 $N$ と $0\neq n\in N$ をとる。巡回加群 $Rn$ は極大部分加群 $L$ をもつ($Rn\cong R/\operatorname{Ann}(n)$ で、$\operatorname{Ann}(n)$ を含む極大左イデアルが Zornの補題 により存在する)。$T:=Rn/L$ は単純で、$0$ でない $h\colon T\to U$ は単射なので、$g\colon Rn\to T\to U$ は $0$ でなく、$Rn$ を生成する $n$ について $g(n)\neq0$ である。${}_RU$ の入射性により $g$ は $N$ 全体からの準同型に延びる。よって $N$ は $U$ で余生成され、${}_RU$ は余生成子である。$U_S$ についても、2 の自然同型 $G\cong\operatorname{Hom}_S(-,U)$ を使い、左右を入れ替えて同じ議論をすればよい。$\square$

thm-md-converse の 2 は「$F(N)$ と $N^*$ が同型」と述べるだけで、$\mathcal C$ の加群が $U$ 反射的であること($\Phi_N$ 自身が同型であること)までは述べていない。森田は、任意の双対について評価写像 $\Phi_N$ が $\mathcal C$ と $\mathcal D$ のすべての加群で同型になることも示している(Mor58 Theorem 1.1, p. 88、Theorem 1.2, p. 93。この記事では証明しない)。これと thm-md-main を合わせると、$\mathcal C$ と $\mathcal D$ は $\mathcal R_U$ と $\mathcal R'_U$ に含まれる。

左イデアルと部分加群の対応

左イデアル $I\subset R$ について $\operatorname{ann}_U(I):=\{u\in U\mid Iu=0\}$ とおき、右 $S$ 部分加群 $W\subset U$ について $\operatorname{ann}_R(W):=\{r\in R\mid rW=0\}$ とおく。$\operatorname{ann}_U(I)$ は $U$ の $S$ 部分加群、$\operatorname{ann}_R(W)$ は $R$ の左イデアルである。

左イデアルの束の反転

thm-md-main の仮定のもとで、次が成り立つ。

  1. $I\mapsto\operatorname{ann}_U(I)$ と $W\mapsto\operatorname{ann}_R(W)$ は、$R$ の左イデアルの全体と $U$ の右 $S$ 部分加群の全体の間の、包含の向きを逆にする互いに逆な全単射である。
  2. $R$ が左 Artin環であることと、$U_S$ が Noether 加群であることは同値である。$R$ が左 Noether環であることと、$U_S$ が Artin 加群であることは同値である。
    左右を入れ替えて、$S$ の右イデアルと $U$ の左 $R$ 部分加群についても同じことが成り立つ。

要点:$r\notin I$ なら ${}_RU$ の余生成性で $R/I\to U$ を作り、$u\notin W$ なら $U_S$ の余生成性で作った $U\to U/W\to U$ を平衡性で $\lambda_r$ と書く。

詳しい証明を開く

1。 $I\subset\operatorname{ann}_R(\operatorname{ann}_U(I))$ と $W\subset\operatorname{ann}_U(\operatorname{ann}_R(W))$ は定義から明らかであり、2 つの写像が包含の向きを逆にすることも明らかである。

$r\notin I$ とする。$R/I$ の元 $\bar r$ は $0$ でなく、${}_RU$ は余生成子なので、$\varphi(\bar r)\neq0$ となる $\varphi\colon R/I\to U$ がある。$u:=\varphi(\bar1)$ とおくと $Iu=\varphi(I\bar1)=0$ なので $u\in\operatorname{ann}_U(I)$ であり、$ru=\varphi(\bar r)\neq0$ である。よって $r\notin\operatorname{ann}_R(\operatorname{ann}_U(I))$ であり、$\operatorname{ann}_R(\operatorname{ann}_U(I))=I$ である。

$u\notin W$ とする。$U/W$ の元 $\bar u$ は $0$ でなく、$U_S$ は余生成子なので、$\psi(\bar u)\neq0$ となる右 $S$ 準同型 $\psi\colon U/W\to U$ がある。商写像との合成 $U\to U/W\to U$ は $U$ の右 $S$ 自己準同型で、平衡性によりある $r\in R$ について $\lambda_r$ に等しい。$\lambda_r$ は $W$ を $0$ に送るので $r\in\operatorname{ann}_R(W)$ であり、$ru=\psi(\bar u)\neq0$ である。よって $u\notin\operatorname{ann}_U(\operatorname{ann}_R(W))$ であり、$\operatorname{ann}_U(\operatorname{ann}_R(W))=W$ である。

2。 1 の全単射は包含の向きを逆にするので、左イデアルの減少列は $U$ の $S$ 部分加群の増加列に、増加列は減少列に対応する。よって左イデアルの降鎖条件は $U_S$ の昇鎖条件と、昇鎖条件は $U_S$ の降鎖条件と同値である(Artin加群、Noether加群)。$\square$

1 の証明で使ったのは、${}_RU$ と $U_S$ の余生成性と、$r\mapsto\lambda_r$ の全射性だけである。2 を $S$ の側で使うと、$S$ が右 Artin環であることと ${}_RU$ が Noether 加群であることも同値である。

例

ベクトル空間の双対

$R=S=U=k$(体)とする。$k$ はベクトル空間の圏の入射的余生成子であり(余生成子 の例)、$\operatorname{End}_k(k)=k$ なので $U$ は平衡である。thm-md-main により、有限次元ベクトル空間は $U$ 反射的であり、$V\mapsto V^*=\operatorname{Hom}_k(V,k)$ は有限次元ベクトル空間の間の森田双対である。これは 双対空間(線形代数) の定理「二重双対への自然な写像」の、有限次元の場合と同じものである。無限次元のベクトル空間は $U$ 反射的でない(ex-md-counterexamples の 1 行目)。

有限次元代数の双対

$A$ を体 $k$ 上の有限次元の結合代数とし、$U:=D(A):=\operatorname{Hom}_k(A,k)$ に $(a\varphi b)(x):=\varphi(bxa)$ で $A$-$A$ 両側加群の構造を入れる。

  • 準Frobenius環 の補題「双対加群の入射性」により、${}_AD(A)$ と $D(A)_A$ は入射的であり、左 $A$ 加群 $N$ について $\operatorname{Hom}_A(N,D(A))\cong\operatorname{Hom}_k(N,k)$ である。$N\neq0$ なら右辺は $0$ でないので、余生成子 の命題「アーベル圏での言い換え」の 4 により ${}_AD(A)$ は余生成子である。右加群についても同じである。
  • $b\mapsto\rho_b$ は単射 $A\to\operatorname{End}_A({}_AD(A))$ である。実際、すべての $\varphi$ で $\varphi b=0$ なら $\varphi(b)=(\varphi b)(1)=0$ がすべての $\varphi$ で成り立ち、$b=0$ である。一方 $\dim_k\operatorname{End}_A(D(A))=\dim_k\operatorname{Hom}_k(D(A),k)=\dim_kA$ なので、$b\mapsto\rho_b$ は全単射である。左右を入れ替えて $a\mapsto\lambda_a$ も全単射であり、$D(A)$ は平衡である。
    よって thm-md-main により、$\operatorname{Hom}_A(-,D(A))\cong\operatorname{Hom}_k(-,k)$ は有限次元の左 $A$ 加群と有限次元の右 $A$ 加群の間の森田双対である。cor-md-lattice の 2 では、$A$ と $D(A)$ がともに有限次元なので両辺が成り立つ。この双対は有限次元代数の表現論の基本の道具で、中山代数 では、これが射影加群と入射加群を入れ替えることを使う。
完備局所環の入射包による双対

$(A,\mathfrak m,k)$ を完備 Noether 局所環、$E:=E_A(k)$ を剰余体の入射包絡とする。$E$ は入射的で、ただ 1 つの単純加群 $k$ を含むので、thm-md-converse の証明の 4 の後半と同じ議論で余生成子である。Matlis双対 の定理「完備化上の入射包と自己準同型環」により $A\to\operatorname{End}_A(E)$ は同型で、$A$ は可換なので $E$ は $A$-$A$ 両側加群として平衡である。よって thm-md-main により $\operatorname{Hom}_A(-,E)$ は森田双対を与え、反射的な加群には有限生成加群と $E^n$ の部分加群が含まれる。Matlis双対 の定理「Matlis 双対定理」は、Noether 加群と Artin 加群がちょうど互いに移り合うことを示している。

ほかに、左右の Artin環 $R$ について、$\operatorname{Hom}_R(-,R)$ と $\operatorname{Hom}_R(-,R)$(右加群から)が有限生成の左加群と有限生成の右加群の間の双対を与えることと、$R$ が準Frobenius環であることは同値である(Mor58 Theorem 14.1, pp. 124–125。この記事では証明しない)。

反例:仮定を外すと崩れること

外す条件反例成り立たなくなること
加群が有限生成(thm-md-main の 1)$R=S=U=k$、無限次元の $V$$\Phi_V$ は全射でなく、$V$ は $U$ 反射的でない
$r\mapsto\lambda_r$ の全射性(平衡性の半分)$R=\mathbb{Z}_{(p)}$、$U=\mathbb{Z}(p^\infty)$、$S=\operatorname{End}_R(U)$ほかの仮定はすべて成り立つが、${}_RR$ は $U$ 反射的でない
$\mathcal C$ が ${}_RR$ を含む(def-md-duality の 1)$R=S=\mathbb{Z}$、$U=\mathbb{Q}/\mathbb{Z}$、有限アーベル群の圏$\operatorname{Hom}(-,U)$ は双対だが、$U$ は平衡でない(thm-md-converse の 3 が崩れる)
反例の確かめ

1 行目は座標の線形形式が $V^*$ を張らないこと、2 行目は $\mathbb{Z}_p$ が非可算集合であること、3 行目は有限アーベル群の位数の比較と 2 準素成分への射影を使う。

各行の確かめを開く

1 行目。 $V$ の基底 $(e_i)_{i\in I}$($I$ は無限集合)をとり、座標の線形形式 $e_i^*$ が張る $V^*$ の部分空間を $W$ とする。すべての $i$ で $f(e_i)=1$ となる $f\in V^*$ は、有限個の $e_i^*$ の線形結合が有限個の $e_i$ を除いて $0$ になることから $W$ に属さない。よって $h(W)=0$、$h(f)=1$ となる $h\in V^{**}$ がある($W+kf$ の上で定め、基底を延ばして延長する)。$h=\Phi_V(v)$ なら、すべての $i$ で $e_i^*(v)=h(e_i^*)=0$ なので $v=0$ となり、$h=0$ に反する。

2 行目。 $U=\mathbb{Z}(p^\infty)$ は可除なので離散付値環 $R=\mathbb{Z}_{(p)}$ の上で入射的であり(入射加群 の例「入射加群の例」の 2)、$R$ のただ 1 つの単純加群 $\mathbb{F}_p$ は $U$ の位数 $p$ の部分群として $U$ に入るので、thm-md-converse の証明の 4 の後半と同じ議論で ${}_RU$ は余生成子である。$U$ の加法群の自己準同型は、$p$ と素な整数の掛け算と可換なので $R$ 線形であり、Prüfer群 の命題「自己準同型環は $p$ 進整数環」により $S=\operatorname{End}_R(U)\cong\mathbb{Z}_p$(p進整数)である。$s\mapsto\rho_s$ は定義から全単射である。$S$ は可換なので、各 $s\in S$ の作用は右 $S$ 線形であり、$S\subset\operatorname{End}_S(U)$ である。$\mathbb{Z}_p$ は非可算集合で $\mathbb{Z}_{(p)}$ は可算集合なので、$r\mapsto\lambda_r$ は全射でない。よって lem-md-eval の 4 により ${}_RR$ は $U$ 反射的でない。最後に $U_S$ を調べる。$\mathbb{Z}_p$ の $0$ でない元は $p^n$ と単元の積で、$p$ 倍は $U$ の上で全射、単元は $U$ の上で全単射に作用するので、$U$ は単項イデアル整域 $\mathbb{Z}_p$ の上の可除加群であり、入射的である(入射加群 の例「入射加群の例」の 2)。$\mathbb{Z}_p$ の単純加群は $\mathbb{Z}_p/p\mathbb{Z}_p\cong\mathbb{F}_p$ だけで、$U$ の位数 $p$ の部分群がこれと同型なので、$U_S$ も余生成子である。

3 行目。 $\mathbb{Q}/\mathbb{Z}$ は $\mathbf{Ab}$ の入射的余生成子である(余生成子 の定理「加群の圏の入射的余生成子」)。有限アーベル群 $A$ は巡回群 $\mathbb{Z}/n_i$ の直和であり(単項イデアル整域上の有限生成加群の構造定理)、$\operatorname{Hom}(\mathbb{Z}/n,\mathbb{Q}/\mathbb{Z})\cong\frac1n\mathbb{Z}/\mathbb{Z}\cong\mathbb{Z}/n$ なので、$A^*$ は $A$ と同じ位数の有限アーベル群である。よって $A^{**}$ も同じ位数で、単射 $\Phi_A$(lem-md-eval の 1)は全単射である。有限アーベル群の圏は同型、部分群、商群、有限直和で閉じているので、$(-)^*$ はこの圏の自分自身との双対である。一方、$\mathbb{Q}/\mathbb{Z}$ の 2 準素成分への射影 $\pi$(各元を位数が 2 冪の成分と奇数の成分に一意に分けて前者をとる写像)は $\mathbb{Z}$ 線形だが、整数 $m$ の掛け算ではない。実際 $\pi$ が $m$ 倍なら、$\pi(\tfrac12)=\tfrac12$ から $m$ は奇数、すべての $j$ で $\pi(3^{-j})=0$ から $3^j\mid m$ となり、$m=0$ に反する。よって $s\mapsto\rho_s$ は全射 $\mathbb{Z}\to\operatorname{End}_{\mathbb{Z}}(U)$ でなく、$U$ は平衡でない。$\square$

2 行目の $R=\mathbb{Z}_{(p)}$ を完備化 $\mathbb{Z}_p$ に替えると、$U=\mathbb{Z}(p^\infty)$ は平衡になり、ex-md-matlis の場合になる。

補足

歴史と一般化
  1. 森田紀一(Kiiti Morita)は 1958 年の論文 Mor58 で、${}_RR$ を含む左加群のクラスと $S_S$ を含む右加群のクラスの間の任意の双対が、両側加群 $U$ による $\operatorname{Hom}(-,U)$ と自然に同型であり、そのとき評価写像がすべて同型になることを示した(Theorem 1.1, p. 88)。さらに、$R,U$ から有限直和・部分加群・商加群で作られる加群のクラスの上で $\operatorname{Hom}(-,U)$ が双対になるための条件として、平衡性と、左右の入射性と、真の左イデアル $I$ ごとに $R/I$ の $0$ でない準同型像が $U$ に入ること(入射性のもとで余生成子であることと同値。合わせて thm-md-main の仮定と同じもの)を含む同値な条件を与えた(Theorem 2.4, p. 94)。同じ論文では、左右の Artin環の有限生成加群の間の双対と、その準Frobenius環への応用も扱われている。
  2. 森田双対に現れる加群は線形コンパクトである。すなわち、部分加群による剰余類の族で有限個ずつは共通部分をもつものは、全体でも共通部分をもつ(Wis91 47.3 の 1、p. 426)。$0$ でない加群の無限直和は線形コンパクトでないので、加群の圏全体 $R\text{-}\mathbf{Mod}$ と $\mathbf{Mod}\text{-}S$ の間に双対はない(Wis91 47.3 の後の注意、p. 427)。thm-md-main の仮定を、${}_RU$ の側の線形コンパクト性などで言い換えた形は Wis91 47.12(p. 439)にある。この記事ではこれらを証明しない。
  3. 2 つの双対の合成は向きを保つ対応、すなわち圏同値である(Mor58 序文の 8、p. 86)。この意味で、森田双対は 森田同値 と対になる理論である。

関連項目

参考文献

[1]
Kiiti Morita, Duality for modules and its applications to the theory of rings with minimum condition, Science Reports of the Tokyo Kyoiku Daigaku, Section A 6 (1958), no. 150, 83–142, 1958, 序文の 8(p. 86)、Theorem 1.1(p. 88)、Theorem 1.2(p. 93)、Theorem 2.4(p. 94)、Theorem 14.1(pp. 124–125)

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