無限次元射影空間

同義語:infinite-dimensional projective space

概要

無限次元射影空間(infinite-dimensional projective space)とは、実数・複素数・四元数の射影空間の増大列の和集合に弱位相を入れた空間 $\mathbb{RP}^\infty$、$\mathbb{CP}^\infty$、$\mathbb{HP}^\infty$ で、無限次元球面を絶対値 1 の元の掛け算で割った商空間に一致する。CW 複体で、射影は球面をファイバーとする束になる。全空間が可縮なので前の二つは Eilenberg–MacLane 空間 $K(\mathbb{Z}/2,1)$、$K(\mathbb{Z},2)$ になるが、$\mathbb{HP}^\infty$ はそうならない。コホモロジー環は($\mathbb{RP}^\infty$ は $\mathbb{Z}/2$ 係数、ほかの二つは整数係数で)多項式環である。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 射影空間, 無限次元球面, CW複体

実数・複素数・四元数の有限次元の射影空間 $\mathbb{F}\mathrm{P}^0\subset\mathbb{F}\mathrm{P}^1\subset\cdots$ の和集合に弱位相を入れたものが 無限次元射影空間(infinite-dimensional projective space)$\mathbb{RP}^\infty$、$\mathbb{CP}^\infty$、$\mathbb{HP}^\infty$ である。無限次元球面 $S^\infty$ を単位の掛け算で割った空間でもある。$S^\infty$ が可縮なので、そのホモトピー群は絶対値 $1$ の元の群 $S^0$、$S^1$、$S^3$ のホモトピー群を 1 次ずらしたものになる。とくに $\mathbb{RP}^\infty$ は $K(\mathbb{Z}/2,1)$、$\mathbb{CP}^\infty$ は $K(\mathbb{Z},2)$ である(Eilenberg–MacLane空間)。
この記事では、商の位相と有限段の弱位相が一致すること、Hausdorff 性と胞体の構造、単位球面からの射影が球面をファイバーとする束であることを証明し、ホモトピー群とコホモロジー環を計算する。コホモロジー環は多項式環 $\mathbb{Z}/2[\alpha]$、$\mathbb{Z}[c]$、$\mathbb{Z}[u]$ になり、どれも有限次元の CW 複体とはホモトピー同値でない。直線束を分類する空間としての性質は 分類空間 で扱われている。

定義

以下、$\mathbb{F}$ は $\mathbb{R}$、$\mathbb{C}$、四元数体 $\mathbb{H}$(四元数)のどれかとし、$d:=\dim_{\mathbb{R}}\mathbb{F}\in\{1,2,4\}$、共役を $a\mapsto\bar a$ と書く($\mathbb{H}$ では $\overline{ab}=\bar b\,\bar a$、$a\bar a=|a|^2$)。$S(\mathbb{F}):=\{\lambda\in\mathbb{F}\mid|\lambda|=1\}$ は $S^{d-1}$ である。

無限次元射影空間

有限個を除いて $0$ である $\mathbb{F}$ の元の列 $x=(x_0,x_1,\dots)$ の全体を $\mathbb{F}^\infty$ とし、$\mathbb{F}$ の元を右から掛けて右 $\mathbb{F}$ ベクトル空間とみる。$\mathbb{F}^{n+1}\subset\mathbb{F}^\infty$ を $k>n$ で $x_k=0$ となる列の全体とし、その単位球面 $S(\mathbb{F}^{n+1})\cong S^{d(n+1)-1}$ を $S(\mathbb{F})$ の右からの掛け算 $x\mapsto x\lambda$ で割った商空間を $\mathbb{F}\mathrm{P}^n$ とする。$\mathbb{F}\mathrm{P}^n\subset\mathbb{F}\mathrm{P}^{n+1}$ とみて、和集合
$$ \mathbb{F}\mathrm{P}^\infty:=\bigcup_{n\ge0}\mathbb{F}\mathrm{P}^n $$
に、すべての $\mathbb{F}\mathrm{P}^n$ との共通部分が閉であるような集合を閉集合とする弱位相を入れた空間を無限次元射影空間という。$\mathbb{F}=\mathbb{R},\mathbb{C},\mathbb{H}$ に応じて $\mathbb{RP}^\infty$、$\mathbb{CP}^\infty$、$\mathbb{HP}^\infty$ と書く。点は $\mathbb{F}^\infty$ の $1$ 次元右部分空間 $x\mathbb{F}$ であり、$[x]$ と書く。

$\mathbb{F}^\infty$ の単位球面 $S(\mathbb{F}^\infty)=\bigcup_nS(\mathbb{F}^{n+1})$ には弱位相を入れる。これは 無限次元球面 $S^\infty$ と同相である(同記事の命題「複素・四元数の単位球面」)。射影を $q\colon S(\mathbb{F}^\infty)\to\mathbb{F}\mathrm{P}^\infty$、$q(x)=[x]$、その制限を $q_n\colon S(\mathbb{F}^{n+1})\to\mathbb{F}\mathrm{P}^n$ と書く。$\mathbb{F}=\mathbb{R},\mathbb{C}$ では左右の区別はない。$\mathbb{H}$ で左からの掛け算を使っても、成分ごとの共役 $x\mapsto\bar x$ が二つの商の間の同相写像を与える。

位相と胞体の構造
  1. $\mathbb{F}\mathrm{P}^\infty$ の弱位相は、$q$ による商位相に一致する。
  2. $\mathbb{F}\mathrm{P}^\infty$ は Hausdorff である。各 $\mathbb{F}\mathrm{P}^n$ は閉集合で、相対位相は $\mathbb{F}\mathrm{P}^n$ のもとの位相に一致する。
  3. $\mathbb{F}\mathrm{P}^n$ は $\mathbb{F}\mathrm{P}^{n-1}$ に $q_{n-1}\colon S^{dn-1}\to\mathbb{F}\mathrm{P}^{n-1}$ を貼り付け写像として $dn$ 次元の胞体を 1 つ貼り付けた空間である。とくに $\mathbb{F}\mathrm{P}^\infty$ は次元 $0,d,2d,\dots$ に胞体を 1 つずつもつ CW 複体で、$\mathbb{F}\mathrm{P}^n$ はその $dn$ 骨格であり、$(d(n+1)-1)$ 骨格でもある。

1.$q(x)\in\mathbb{F}\mathrm{P}^n$ となるのは $x\in\mathbb{F}^{n+1}$ のときに限るので、$U\subset\mathbb{F}\mathrm{P}^\infty$ について $q^{-1}(U)\cap S(\mathbb{F}^{n+1})=q_n^{-1}(U\cap\mathbb{F}\mathrm{P}^n)$ である。よって
$$ q^{-1}(U)\text{ が開}\iff\forall n:\ q_n^{-1}(U\cap\mathbb{F}\mathrm{P}^n)\text{ が開}\iff\forall n:\ U\cap\mathbb{F}\mathrm{P}^n\text{ が開} $$
である。最初の同値は $S(\mathbb{F}^\infty)$ の弱位相の定義、次の同値は $\mathbb{F}\mathrm{P}^n$ が $q_n$ による商位相をもつことによる。左端は商位相で $U$ が開であること、右端は弱位相で開であることである。
2.$x\in S(\mathbb{F}^\infty)$ について $p_{ij}(x):=x_i\bar x_j\in\mathbb{F}$ とおく。$|\lambda|=1$ なら $(x_i\lambda)\overline{(x_j\lambda)}=x_i\lambda\bar\lambda\bar x_j=x_i\bar x_j$ なので、$p_{ij}$ は $q$ の各ファイバーで一定である。各段で連続なので $S(\mathbb{F}^\infty)$ 上で連続であり、1 により $\mathbb{F}\mathrm{P}^\infty$ 上の連続関数 $\bar p_{ij}$ を定める。$[x]\ne[y]$($\|x\|=\|y\|=1$)なら、ある $\bar p_{ij}$ の値が異なる。実際すべて一致したとし、$x_k\ne0$ となる $k$ をとると、$p_{kk}$ から $|x_k|=|y_k|$、$p_{ik}$ から $x_i\bar x_k=y_i\bar y_k$ である。$\lambda:=\bar y_k\bar x_k^{-1}$ とおくと $|\lambda|=1$ で、すべての $i$ について $x_i=y_i\lambda$、すなわち $x=y\lambda$ となり矛盾する。値を $\mathbb{F}\cong\mathbb{R}^d$ の互いに交わらない開集合で分け、$\bar p_{ij}$ で引き戻せば、互いに交わらない近傍が得られる。同じ議論で各 $\mathbb{F}\mathrm{P}^n$ も Hausdorff であり、コンパクト(球面の像)である。残りは 無限次元球面 の命題「有限段は閉部分空間」の証明と同じである。
3.$n\ge1$ とし、$w\in\mathbb{F}^n$、$|w|\le1$ について
$$ \Phi_n(w):=\bigl[w_0,\dots,w_{n-1},\sqrt{1-|w|^2}\,\bigr]\in\mathbb{F}\mathrm{P}^n $$
とおく($D^{dn}$ を $\mathbb{F}^n$ の単位閉球体とみる)。$x_n\ne0$ である点 $[x]$ は、$\lambda:=\bar x_n/|x_n|$ を掛けると第 $n$ 成分が正の実数 $|x_n|$ になり、そのような単位ベクトルの代表はただ 1 つである($x_n\lambda$、$x_n\mu$ がともに正の実数で絶対値が等しければ $\lambda=\mu$)。よって $\Phi_n$ は開球体を $\mathbb{F}\mathrm{P}^n\setminus\mathbb{F}\mathrm{P}^{n-1}$ の上へ全単射に写し、境界 $S(\mathbb{F}^n)=S^{dn-1}$ の上では $q_{n-1}$ に等しい。$\Phi_n$ と包含からなる写像 $D^{dn}\sqcup\mathbb{F}\mathrm{P}^{n-1}\to\mathbb{F}\mathrm{P}^n$ はコンパクト空間から Hausdorff 空間への連続な全射なので商写像であり、同一視されるのはちょうど $w\in\partial D^{dn}$ と $q_{n-1}(w)$ である。これが 3 の前半である。

詳細

帰納法により各 $\mathbb{F}\mathrm{P}^n$ は次元 $0,d,\dots,dn$ に 1 つずつ胞体をもつ有限 CW 複体で、$\mathbb{F}\mathrm{P}^{n-1}$ はその部分複体である。$\mathbb{F}\mathrm{P}^\infty$ について、集合 $A$ の特性写像による逆像がすべて閉であることは、各閉胞体がある $\mathbb{F}\mathrm{P}^n$ に入り、各 $\mathbb{F}\mathrm{P}^n$ が有限個の閉胞体の和であることから、すべての $A\cap\mathbb{F}\mathrm{P}^n$ が閉であることと同値である。よって弱位相は CW 複体の位相であり、閉包有限性も成り立つ。$dn$ と $d(n+1)$ の間に胞体はないので、$\mathbb{F}\mathrm{P}^n$ は $dn$ 骨格であり $(d(n+1)-1)$ 骨格でもある。

$\mathbb{RP}^\infty$・$\mathbb{CP}^\infty$ の胞体の構造は Hat02 Examples 0.5・0.6(pp. 6–7)、$\mathbb{HP}^\infty$ は同書 p. 222 にある。2 の Hausdorff 性は、和集合であることだけからは従わないので、連続関数 $\bar p_{ij}$ で点を分けている。

直感

$\mathbb{F}\mathrm{P}^n$ は $S^{d(n+1)-1}$ を $S^{d-1}$ の作用で割った空間なので、球面のホモトピー群と絶対値 $1$ の元の群 $S^{d-1}$ のホモトピー群から計算できる。有限の $n$ では球面 $S^{d(n+1)-1}$ 自身のホモトピー群が次元 $d(n+1)-1$ で現れるが、$n\to\infty$ で球面が可縮になると、残るのは群 $S^{d-1}$ の寄与だけになる。コホモロジーでは逆に、有限段の切断 $\alpha^{n+1}=0$ が消えて多項式環になる。

性質

球面をファイバーとする束

単位球面からの射影は束

$q\colon S(\mathbb{F}^\infty)\to\mathbb{F}\mathrm{P}^\infty$ は、ファイバーを $S(\mathbb{F})=S^{d-1}$ とするファイバー束である。$\mathbb{F}=\mathbb{R}$ のときは 2 重の被覆空間である。

$U_i:=\{[x]\mid x_i\ne0\}$ とおく。$q^{-1}(U_i)=\{x\mid x_i\ne0\}$ は開集合なので(座標は連続)、1 により $U_i$ は開集合で、$\bigcup_iU_i=\mathbb{F}\mathrm{P}^\infty$ である。$x\in q^{-1}(U_i)$ について $\sigma_i(x):=x\,\bar x_i/|x_i|$ とおくと、$|\lambda|=1$ のとき $\sigma_i(x\lambda)=x\lambda\bar\lambda\bar x_i/|x_i|=\sigma_i(x)$ である。$\sigma_i$ は連続で、開かつ飽和な集合への $q$ の制限は商写像なので、$s_i([x]):=\sigma_i(x)$ は連続な切断 $s_i\colon U_i\to q^{-1}(U_i)$ を定める。$s_i([x])$ の第 $i$ 成分は正の実数 $|x_i|$ である。
$$ \varphi_i\colon U_i\times S(\mathbb{F})\to q^{-1}(U_i),\qquad\varphi_i([x],\lambda):=s_i([x])\,\lambda $$
は連続で(右からの掛け算 $S(\mathbb{F}^\infty)\times S(\mathbb{F})\to S(\mathbb{F}^\infty)$ は、$S(\mathbb{F})$ がコンパクトなので Hat02 Theorem A.6(p. 524)により各段の連続性から連続)、$q\circ\varphi_i$ は第 1 成分への射影である。逆写像は $y\mapsto(q(y),\,y_i/|y_i|)$ で与えられ、連続である。実際 $s_i(q(y))\,y_i/|y_i|=y\,\bar y_i\,y_i/|y_i|^2=y$ である。よって $\varphi_i$ は局所自明化である。

$\mathbb{F}=\mathbb{C}$ の場合の同じ局所自明化は、分類空間 の例「円周群と無限次元複素射影空間」の証明にもある。

ホモトピー群

ホモトピー群

$k\ge2$ について、連結準同型により $\pi_k(\mathbb{F}\mathrm{P}^\infty)\cong\pi_{k-1}(S^{d-1})$ である。また $\pi_1(\mathbb{RP}^\infty)\cong\mathbb{Z}/2$、$\pi_1(\mathbb{CP}^\infty)=\pi_1(\mathbb{HP}^\infty)=0$ である。

ファイバー束は CW 対について、とくに円板 $D^k$ についてホモトピー持ち上げ性質をもつ(Hat02 Proposition 4.48, p. 379)。よって ipr-prop-bundle の束について、ファイバー $S(\mathbb{F})$、全空間 $S(\mathbb{F}^\infty)$ のホモトピー群の長完全列
$$ \cdots\to\pi_k(S(\mathbb{F}^\infty))\to\pi_k(\mathbb{F}\mathrm{P}^\infty)\xrightarrow{\partial}\pi_{k-1}(S(\mathbb{F}))\to\pi_{k-1}(S(\mathbb{F}^\infty))\to\cdots\to\pi_0(S(\mathbb{F}^\infty))\to0 $$
がある(同 Theorem 4.41, p. 376。$\mathbb{F}\mathrm{P}^\infty$ は連結な空間の像なので弧状連結)。$S(\mathbb{F}^\infty)$ は可縮(無限次元球面 の定理「無限次元球面の可縮性」)なので、そのホモトピー群はすべて $0$ であり、$k\ge2$ で $\partial$ は同型である。$k=1$ のとき、$d\ge2$ なら $\pi_0(S(\mathbb{F}))$ は一点なので、$\pi_1(\mathbb{F}\mathrm{P}^\infty)$ は $\pi_1(S(\mathbb{F}^\infty))=0$ の像に等しく $0$ である。$d=1$ なら $q$ は単連結な空間からの 2 重被覆であり、デッキ変換群 $\{\pm1\}$ が $\pi_1(\mathbb{RP}^\infty)$ と同型になる($S^\infty$ は CW 複体なので局所弧状連結である。Hat02 Proposition 1.40, p. 72、Proposition A.4, p. 522)。

Eilenberg–MacLane 空間との関係
  1. $\mathbb{RP}^\infty$ は $K(\mathbb{Z}/2,1)$ である。
  2. $\mathbb{CP}^\infty$ は $K(\mathbb{Z},2)$ である。
  3. $\mathbb{HP}^\infty$ は $3$ 連結で $\pi_4(\mathbb{HP}^\infty)\cong\mathbb{Z}$ だが、$\pi_5(\mathbb{HP}^\infty)\cong\mathbb{Z}/2$ なので、Eilenberg–MacLane 空間でない。

ipr-thm-homotopy に球面のホモトピー群の値を入れる。$S^0$ は離散なので $\pi_j(S^0)=0$($j\ge1$)。$S^1$ の普遍被覆は $\mathbb{R}$ なので $\pi_1(S^1)\cong\mathbb{Z}$、$\pi_j(S^1)=0$($j\ge2$)。$\pi_j(S^3)=0$($j\le2$)、$\pi_3(S^3)\cong\mathbb{Z}$、$\pi_4(S^3)\cong\mathbb{Z}/2$ である($j\le3$ は n次元球面 の定理「ホモトピー群の値」、$\pi_4(S^3)$ は 球面のホモトピー群 の低次の計算表と Hat02 §4.1 の表(p. 339)による。$\pi_4(S^3)$ の値はこの記事では証明しない)。

これらは Hat02 Example 1B.3(p. 88)と Example 4.50(p. 380)にある。$\mathbb{CP}^\infty$ が $K(\mathbb{Z},2)$ であることから、CW 複体 $X$ について $[X,\mathbb{CP}^\infty]\cong H^2(X;\mathbb{Z})$ である(同 Theorem 4.57, p. 393。この記事では証明しない)。

コホモロジー環

係数環を、$\mathbb{F}=\mathbb{R}$ のとき $R_{\mathbb{F}}:=\mathbb{Z}/2$、$\mathbb{F}=\mathbb{C},\mathbb{H}$ のとき $R_{\mathbb{F}}:=\mathbb{Z}$ とおき、$H^*(-)$ で $R_{\mathbb{F}}$ 係数の特異コホモロジーを表す。有限の場合には、$H^d(\mathbb{F}\mathrm{P}^n)$ の生成元 $g_n$ について
$$ H^*(\mathbb{F}\mathrm{P}^n)\cong R_{\mathbb{F}}[g_n]/(g_n^{n+1}) $$
が成り立つ($\mathbb{R}$ は 実射影空間 の定理「$\mathbb{Z}/2$ 係数のコホモロジー環」、$\mathbb{C}$ は 複素射影空間 の定理「複素射影空間のコホモロジー環」と Hat02 Theorem 3.19(p. 220)、$\mathbb{H}$ は 四元数射影空間 の定理「四元数射影空間のコホモロジー環」)。

有限段への制限

包含 $i_n\colon\mathbb{F}\mathrm{P}^n\hookrightarrow\mathbb{F}\mathrm{P}^\infty$ は、$j\le d(n+1)-2$ のとき、任意の係数群 $G$ について同型 $i_n^*\colon H^j(\mathbb{F}\mathrm{P}^\infty;G)\to H^j(\mathbb{F}\mathrm{P}^n;G)$ を誘導する。

$m:=d(n+1)-1$ とおくと、ipr-thm-topology の 3 により $\mathbb{F}\mathrm{P}^n$ は $\mathbb{F}\mathrm{P}^\infty$ の $m$ 骨格である。CW 複体 $X$ とその $m$ 骨格 $X^m$ について、$j\le m$ なら $H^j(X,X^m;G)=0$ である(Hat02 p. 203、Theorem 3.5 の証明)。対の長完全列
$$ H^j(X,X^m;G)\to H^j(X;G)\to H^j(X^m;G)\to H^{j+1}(X,X^m;G) $$
の両端は $j\le m-1$ で $0$ なので、中央の写像は同型である。

無限次元射影空間のコホモロジー環

次数付き環として
$$ H^*(\mathbb{RP}^\infty;\mathbb{Z}/2)\cong\mathbb{Z}/2[\alpha],\qquad H^*(\mathbb{CP}^\infty;\mathbb{Z})\cong\mathbb{Z}[c],\qquad H^*(\mathbb{HP}^\infty;\mathbb{Z})\cong\mathbb{Z}[u] $$
であり、生成元の次数は $|\alpha|=1$、$|c|=2$、$|u|=4$ である。

有限段の環から読み取る

各 $j$ について、$n$ を $d(n+1)-2\ge j$ となるように大きくとると、ipr-lem-restriction により $H^j(\mathbb{F}\mathrm{P}^\infty)\cong H^j(\mathbb{F}\mathrm{P}^n)$ である。よって $H^j(\mathbb{F}\mathrm{P}^\infty)$ は、$j$ が $d$ の倍数なら $R_{\mathbb{F}}$ に同型で、そうでなければ $0$ である。$g\in H^d(\mathbb{F}\mathrm{P}^\infty)$ を生成元とする。
$k\ge1$ を固定し、$n:=k+1$ とおく($k=0$ では $g^0=1$ が $H^0(\mathbb{F}\mathrm{P}^\infty)\cong R_{\mathbb{F}}$ を生成する)。$d(k+2)-2\ge dk\ge d$ なので $i_n^*$ は次数 $d$ と $dk$ で同型であり、$i_n^*g$ は $H^d(\mathbb{F}\mathrm{P}^n)$ の生成元 $g_n$($\mathbb{Z}$ 係数では符号を除いて)である。$i_n^*$ は環準同型なので $i_n^*(g^k)=(i_n^*g)^k=\pm g_n^k$ であり、$k\le n$ だから $g_n^k$ は $H^{dk}(\mathbb{F}\mathrm{P}^n)$ を生成する。$i_n^*$ が次数 $dk$ で同型なので、$g^k$ は $H^{dk}(\mathbb{F}\mathrm{P}^\infty)$ を生成する。
以上により、$g\mapsto g$ で定まる次数付き環準同型 $R_{\mathbb{F}}[g]\to H^*(\mathbb{F}\mathrm{P}^\infty)$ は、各次数 $dk$ で $R_{\mathbb{F}}g^k\cong R_{\mathbb{F}}$ を $H^{dk}$ の上へ同型に写し、その他の次数では両辺が $0$ である。よって同型である。

有限次元のホモトピー型をもたない

$\mathbb{F}\mathrm{P}^\infty$ は、どの有限次元 CW 複体ともホモトピー同値でない。

$X$ を次元 $m$ の CW 複体とすると、任意の係数で $j>m$ のとき $H^j(X;G)=0$ である(Hat02 p. 203、Theorem 3.5 の証明)。一方 ipr-thm-ring により、すべての $k$ で $H^{dk}(\mathbb{F}\mathrm{P}^\infty;R_{\mathbb{F}})\ne0$ である。コホモロジーはホモトピー不変なので、ホモトピー同値にはなりえない。

$\mathbb{RP}^\infty$ については、有限次元の CW 複体が $K(G,1)$ なら $G$ は捩れをもたないという結果(Hat02 Proposition 2.45, p. 149)からも同じ結論が出る。

分類空間としての性質

直線束の分類

$q\colon S(\mathbb{F}^\infty)\to\mathbb{F}\mathrm{P}^\infty$ は全空間が可縮な主 $S(\mathbb{F})$ 束なので、普遍束になる。したがって $\mathbb{RP}^\infty\simeq B(\mathbb{Z}/2)$、$\mathbb{CP}^\infty\simeq BS^1=BU(1)$、$\mathbb{HP}^\infty\simeq BS^3=BSU(2)$ であり、パラコンパクト Hausdorff 空間 $X$ 上の実直線束・複素直線束の同型類は、それぞれ $[X,\mathbb{RP}^\infty]$、$[X,\mathbb{CP}^\infty]$ と一対一に対応する。普遍束であることの証明は 分類空間 の定理「普遍束の可縮性による判定」と例「位数 2 の群と無限次元実射影空間」「円周群と無限次元複素射影空間」にあり、この記事では証明しない。$X$ が CW 複体なら、これと ipr-cor-em の後の注意を合わせて、複素直線束の同型類は $H^2(X;\mathbb{Z})$ と一対一に対応する。

反例

外す条件反例成り立たなくなること
無限個の段の和をとること$\mathbb{RP}^n$($2\le n< \infty$)$\mathbb{RP}^\infty$ が $K(\mathbb{Z}/2,1)$ であること(ipr-cor-em の 1)
ファイバー $S(\mathbb{F})$ が Eilenberg–MacLane 空間であること($\mathbb{F}=\mathbb{R},\mathbb{C}$)$\mathbb{HP}^\infty$(ファイバー $S^3$)無限次元射影空間が Eilenberg–MacLane 空間であること
係数を $\mathbb{Z}/2$ にとること($\mathbb{F}=\mathbb{R}$)$\mathbb{Z}$ 係数の $H^*(\mathbb{RP}^\infty;\mathbb{Z})$コホモロジー環が多項式環であること(ipr-thm-ring)
反例の確かめ
  1. 被覆 $S^n\to\mathbb{RP}^n$ は $k\ge2$ で $\pi_k$ の同型を誘導する(Hat02 Proposition 4.1, p. 342)ので、$\pi_n(\mathbb{RP}^n)\cong\pi_n(S^n)\cong\mathbb{Z}\ne0$ であり、$\mathbb{RP}^n$ は $K(\mathbb{Z}/2,1)$ でない。
  2. ipr-cor-em の 3 により $\pi_4(\mathbb{HP}^\infty)$ と $\pi_5(\mathbb{HP}^\infty)$ がともに $0$ でない。
  3. ipr-thm-homotopy と Hurewicz の定理により $H_1(\mathbb{RP}^\infty;\mathbb{Z})\cong\mathbb{Z}/2$ である。普遍係数定理から $H^2(\mathbb{RP}^\infty;\mathbb{Z})$ は $\operatorname{Ext}(\mathbb{Z}/2,\mathbb{Z})\cong\mathbb{Z}/2$ を部分群として含み、位数 $2$ の元をもつ。$\mathbb{Z}$ 上の多項式環は捩れをもたないので、$H^*(\mathbb{RP}^\infty;\mathbb{Z})$ はどの次数の生成元についても多項式環でない。実際には $H^*(\mathbb{RP}^\infty;\mathbb{Z})\cong\mathbb{Z}[\beta]/(2\beta)$、$|\beta|=2$ である(Hat02 p. 222。この記事では証明しない)。

補足

関連する構成

$\mathbb{F}=\mathbb{C}$ で $S(\mathbb{C}^\infty)$ を $S^1$ 全体でなく $1$ の $m$ 乗根の群で割ると、無限次元のレンズ空間 $K(\mathbb{Z}/m,1)$ が得られる(Hat02 Example 1B.4, p. 88)。八元数では結合法則が成り立たないので、関係 $x\sim x\lambda$ が推移律を満たさず($\mathbb{O}^2$ の段ですでに起こる)、同じ割り算で八元数の射影空間を作ることはできない(四元数射影空間 の反例の節、八元数)。

文献

胞体の構造は Hat02 Examples 0.5・0.6(pp. 6–7)と p. 222、$\mathbb{RP}^\infty=K(\mathbb{Z}/2,1)$ は Example 1B.3(p. 88)、束の長完全列は Theorem 4.41(p. 376)と Proposition 4.48(p. 379)、$\mathbb{CP}^\infty=K(\mathbb{Z},2)$ と $\mathbb{HP}^\infty$ の注意は Example 4.50(p. 380)、射影空間のコホモロジー環は Theorem 3.19(p. 220)にある。ipr-thm-topology の 1・2 と ipr-thm-ring の証明は、この記事で組み立てたものである。

関連項目

参考文献

[1]
Allen Hatcher, Algebraic Topology, Cambridge University Press, 2002, Examples 0.5・0.6(pp. 6–7)、Proposition 1.40(p. 72)、Examples 1B.3・1B.4(p. 88)、Proposition 2.45(p. 149)、Theorem 3.5 の証明(p. 203)、Theorem 3.19(p. 220)、p. 222(四元数射影空間と H*(RP^∞;Z))、§4.1 の表(p. 339)、Proposition 4.1(p. 342)、Theorem 4.41(p. 376)、Proposition 4.48(p. 379)、Example 4.50(p. 380)、Theorem 4.57(p. 393)、Proposition A.4(p. 522)、Theorem A.6(p. 524)

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