衛星関手(satellite functor)とは、十分な入射対象をもつアーベル圏の上の加法関手 $F$ に対し、入射対象 $Q$ を中央にもつ短完全列 $0\to A\to Q\to N\to0$ から $S^1F(A)=\operatorname{coker}(F(Q)\to F(N))$ と定め、これを繰り返して得る関手の列 $S^nF$ である(射影対象からは同様に左衛星を作る)。衛星は短完全列ごとの連結射をもつ連結関手列をなし、0 次の自然変換が全次数へ一意に延びるという普遍性をもつ。$F$ が左完全なら右導来関手 $R^nF$ と同型になり、分解を使わずに Ext などを一段ずつ組み立てる方法を与える。
衛星関手(satellite functor)は、加法関手 $F$ から、入射対象を含む短完全列に $F$ を当てて余核をとる操作を繰り返し、関手の列 $S^1F,S^2F,\dots$ を作る構成である。$F$ が短完全列 $0\to A'\to A\to A''\to0$ を完全列に写さないとき、その欠けを測る射 $F(A'')\to S^1F(A')$ が自然に定まる。
導来関手は入射分解を使って全次数を一度に作るが、衛星関手は分解を使わず、一次の構成を繰り返して一段ずつ作る。この記事では、衛星関手が「0 次の自然変換が全次数へ一意に延びる」という普遍性をもつことを証明し、そこから $F$ が左完全関手なら右導来関手 $R^nF$ と一致することを導く。
この記事を通して $\mathcal A,\mathcal B$ はアーベル圏、関手はすべて共変な加法関手とする。短完全列 $e\colon 0\to A\xrightarrow{u}B\xrightarrow{v}C\to0$ と加法関手 $G\colon\mathcal A\to\mathcal B$ に対し、
$$
C_G(e):=\operatorname{coker}\bigl(G(v)\colon G(B)\to G(C)\bigr)
$$
とおき、射影を $\pi_e\colon G(C)\to C_G(e)$ と書く。
短完全列 $e_1\colon0\to A_1\xrightarrow{u_1}B_1\xrightarrow{v_1}C_1\to0$、$e_2\colon0\to A_2\xrightarrow{u_2}B_2\xrightarrow{v_2}C_2\to0$ と射 $g\colon A_1\to A_2$ をとる。
1:$v_2fu_1=v_2u_2g=0$ で、$v_1$ は $u_1$ の余核なので、$hv_1=v_2f$ となる $h$ がただ一つある。$G(h)G(v_1)=G(v_2)G(f)$ なので $G(h)$ は $G(v_1)$ の像を $G(v_2)$ の像へ写し、余核の間の射 $\sigma$ を誘導する。別の $\tilde f$ も $\tilde fu_1=u_2g$ を満たすとすると $(\tilde f-f)u_1=0$ なので、$\tilde f-f=kv_1$ となる $k\colon C_1\to B_2$ がある。対応する $\tilde h$ は $\tilde hv_1=v_2f+v_2kv_1=(h+v_2k)v_1$ を満たし、$v_1$ はエピ射なので $\tilde h=h+v_2k$ である。$G$ は加法的なので $G(\tilde h)=G(h)+G(v_2)G(k)$ であり、第 2 項の像は $G(v_2)$ の像に入るから、余核の上では $G(\tilde h)$ と $G(h)$ は同じ射を誘導する。
2:$u_1$ はモノ射なので、$B_2$ の入射性から $u_2g\colon A_1\to B_2$ は $f\colon B_1\to B_2$ に延びる。
3:$\mathrm{id}$ は $f=\mathrm{id}$ で計算できる。$f,f'$ がそれぞれ $g,g'$ の持ち上げなら $f'f$ は $g'g$ の持ち上げで、対応する $h$ も合成になる。$f+f_1$ は $g+g_1$ の持ち上げで、$G$ の加法性から和の式が出る。1 によりどの持ち上げで計算してもよい。$\square$
$\mathcal A$ が十分な入射対象をもつ(どの対象も入射対象へのモノ射をもつ)とき、各対象 $A$ に短完全列
$$
e_A\colon\ 0\to A\xrightarrow{j_A}Q_A\xrightarrow{q_A}N_A\to0\qquad(Q_A\ \text{は入射対象})
$$
を一つずつ選んでおく。
$\mathcal A$ は十分な入射対象をもつとし、$G\colon\mathcal A\to\mathcal B$ を加法関手とする。一次の右衛星 $S^1G\colon\mathcal A\to\mathcal B$ を
$$
S^1G(A):=C_G(e_A)=\operatorname{coker}\bigl(G(Q_A)\to G(N_A)\bigr),\qquad S^1G(g):=\sigma(g;e_A,e_{A'})\quad(g\colon A\to A')
$$
で定める。$F$ の $n$ 次の右衛星(衛星関手)を $S^0F:=F$、$S^{n+1}F:=S^1(S^nF)$ で定める。
lem-satellite-lift の 2・3 により $S^1G$ は加法関手である。選ぶ短完全列 $e_A$ を別の $e'_A$ に替えると、$\sigma(\mathrm{id};e_A,e'_A)$ と $\sigma(\mathrm{id};e'_A,e_A)$ は互いに逆の同型になる(合成は $\sigma(\mathrm{id};e_A,e_A)=\mathrm{id}$)。したがって衛星は選び方によらず、標準的な同型を除いて定まる。
射影対象の側も同じである。$\mathcal A$ が十分な射影対象をもつとき、射影対象 $P$ を含む短完全列 $0\to K\to P\to A\to0$ を選び、一次の左衛星を $S_1G(A):=\ker\bigl(G(K)\to G(P)\bigr)$ とおき、$S_{n+1}F:=S_1(S_nF)$ とする。これは $\mathcal A,\mathcal B$ を反対圏に替えたときの右衛星にほかならないので、以下では右衛星だけを扱う。
$T^n(i)$ と $T^n(p)$ の合成は $T^n(pi)=T^n(0)=0$ なので、(C1) と合わせて、短完全列ごとの列 $\cdots\to T^n(A)\to T^n(A'')\to T^{n+1}(A')\to T^{n+1}(A)\to\cdots$ は複体になる。連結関手列はこの列の完全性を要求しない。完全性まで要求したものが δ-関手 である。
$\mathcal A$ は十分な入射対象をもつとし、$F\colon\mathcal A\to\mathcal B$ を加法関手とする。
$G=S^nF$ について $(G,S^1G)$ の場合を示せば、$n$ をずらして全体が従う。要点は、連結射がどれも lem-satellite-lift の $\sigma$ で書けるので、3 の合成則に帰着することである。
(C2):$(a',a,a'')\colon e\to\tilde e$ とする。$\pi_{\tilde e}G(a'')=\sigma(a';e,\tilde e)\pi_e$ である($\sigma(a';e,\tilde e)$ は持ち上げ $f=a$ で計算でき、そのとき $h=a''$)。よって $\partial_{\tilde e}G(a'')=\sigma(\mathrm{id};\tilde e,e_{\tilde A'})\sigma(a';e,\tilde e)\pi_e=\sigma(a';e,e_{\tilde A'})\pi_e$ であり、同様に $S^1G(a')\partial_e=\sigma(a';e_{A'},e_{\tilde A'})\sigma(\mathrm{id};e,e_{A'})\pi_e=\sigma(a';e,e_{\tilde A'})\pi_e$ である。
(C1):$\pi_eG(p)=0$ なので $\partial_eG(p)=0$。次に $S^1G(i)\partial_e=\sigma(i;e,e_A)\pi_e$ である。$\sigma(i;e,e_A)$ を持ち上げ $f=j_A\colon A\to Q_A$($fi=j_Ai$ を満たす)で計算すると、$hp=q_Aj_A=0$ と $p$ がエピ射であることから $h=0$ となり、$\sigma(i;e,e_A)=0$ である。
2:$e$ の中央が入射対象なので、lem-satellite-lift の 2 により $\sigma(\mathrm{id};e_A,e)$ も定義され、3 により $\sigma(\mathrm{id};e,e_A)$ はその逆の同型である。よって $\partial_e$ は $\pi_e\colon G(N)\to C_G(e)$ と同型を除いて一致し、$G(Q)\to G(N)\to S^1G(A)\to0$ は完全である。
3:$Q$ が入射対象なら $e_Q$ として $0\to Q\xrightarrow{\mathrm{id}}Q\to0\to0$ を選べるので、$S^1G(Q)=\operatorname{coker}(G(Q)\to G(0))=0$ である。選び方によらないことは定義の後で見た。$\square$
衛星関手の要点は、次の性質 (C4) にある。連結関手列 $T$ が (C4) を満たすとは、$Q$ が入射対象である任意の短完全列 $e\colon0\to A\to Q\xrightarrow{q}N\to0$ と $n\ge1$ について、
$$
T^{n-1}(Q)\xrightarrow{T^{n-1}(q)}T^{n-1}(N)\xrightarrow{\delta_e^{n-1}}T^n(A)\to0
$$
が完全であることをいう。prop-satellite-connected の 2 は、衛星の列 $(S^nF)$ が (C4) を満たすことを述べている。
$\mathcal A$ は十分な入射対象をもつとする。連結関手列 $T=(T^n,\delta_T)$ が (C4) を満たすなら、任意の連結関手列 $U=(U^n,\delta_U)$ と任意の自然変換 $\varphi^0\colon T^0\to U^0$ に対し、$\varphi^0$ を 0 次の成分とする連結関手列の射 $\varphi\colon T\to U$ がただ一つ存在する。とくに、任意の加法関手 $F$ について、衛星の列 $(S^nF,\partial^n)$ はこの普遍性をもつ。
$n\ge1$ とし、自然変換 $\varphi^0,\dots,\varphi^{n-1}$ が、次数 $n-1$ 未満の連結射と可換になるように作られているとする。$\varphi^n$ を作り、それが自然で、次数 $n-1$ の連結射と可換であることを示す。以下、各対象 $A$ について選んだ短完全列 $e_A\colon0\to A\to Q_A\xrightarrow{q_A}N_A\to0$ を使い、連結射の次数は省く。
定義。 (C4) により、$\delta_T^{e_A}\colon T^{n-1}(N_A)\to T^n(A)$ は $T^{n-1}(q_A)$ の余核である。一方、$\varphi^{n-1}$ の自然性と $U$ の (C1) から
$$
\delta_U^{e_A}\,\varphi^{n-1}_{N_A}\,T^{n-1}(q_A)=\delta_U^{e_A}\,U^{n-1}(q_A)\,\varphi^{n-1}_{Q_A}=0
$$
である。余核の普遍性により、
$$
\varphi^n_A\,\delta_T^{e_A}=\delta_U^{e_A}\,\varphi^{n-1}_{N_A}
$$
を満たす射 $\varphi^n_A\colon T^n(A)\to U^n(A)$ がただ一つある。この等式を $(\ast)$ と呼ぶ。
自然性。 射 $g\colon A\to B$ をとる。$Q_B$ は入射対象なので、lem-satellite-lift の 2 により短完全列の射 $(g,f,h)\colon e_A\to e_B$ がある。(C2) を $T$ と $U$ に使うと、
$$
\varphi^n_BT^n(g)\delta_T^{e_A}=\varphi^n_B\delta_T^{e_B}T^{n-1}(h)=\delta_U^{e_B}\varphi^{n-1}_{N_B}T^{n-1}(h)=\delta_U^{e_B}U^{n-1}(h)\varphi^{n-1}_{N_A}=U^n(g)\delta_U^{e_A}\varphi^{n-1}_{N_A}=U^n(g)\varphi^n_A\delta_T^{e_A}
$$
である。$\delta_T^{e_A}$ はエピ射なので $\varphi^n_BT^n(g)=U^n(g)\varphi^n_A$ である。
連結射との可換性。 任意の短完全列 $e\colon0\to A'\to A\to A''\to0$ をとる。$Q_{A'}$ は入射対象なので、短完全列の射 $(\mathrm{id}_{A'},f,h)\colon e\to e_{A'}$ がある。(C2) から $\delta_T^{e}=\delta_T^{e_{A'}}T^{n-1}(h)$、$\delta_U^{e}=\delta_U^{e_{A'}}U^{n-1}(h)$ なので、
$$
\varphi^n_{A'}\delta_T^{e}=\varphi^n_{A'}\delta_T^{e_{A'}}T^{n-1}(h)=\delta_U^{e_{A'}}\varphi^{n-1}_{N_{A'}}T^{n-1}(h)=\delta_U^{e_{A'}}U^{n-1}(h)\varphi^{n-1}_{A''}=\delta_U^{e}\varphi^{n-1}_{A''}
$$
である。
一意性。 $\psi\colon T\to U$ が $\psi^0=\varphi^0$ を満たす連結関手列の射なら、$\psi^n$ は短完全列 $e_A$ について $(\ast)$ を満たす。$\delta_T^{e_A}$ はエピ射なので、$\psi^{n-1}=\varphi^{n-1}$ なら $\psi^n=\varphi^n$ である。$n$ についての帰納法で $\psi=\varphi$ となる。
最後の主張は、prop-satellite-connected により $(S^nF)$ が (C4) を満たす連結関手列であることから従う。$\square$
この証明で $T$ について使ったのは、入射対象を中央にもつ短完全列での (C4) と (C2) だけで、$U$ には完全性を求めていない。δ-関手 の定理「消去可能なδ-関手は普遍的」は、$T$ と $U$ をどちらも δ-関手に限った形の主張である。
$\mathcal A$ は十分な入射対象をもつとする。連結関手列 $T$ が (C4) を満たし、自然同型 $\theta^0\colon F\to T^0$ があれば、$\theta^0$ を 0 次の成分とする連結関手列の同型 $(S^nF)\to T$ がただ一つある。
thm-satellite-universal により、$\theta^0$ は射 $\theta\colon(S^nF)\to T$ に、$(\theta^0)^{-1}$ は射 $\theta'\colon T\to(S^nF)$ に延びる。$\theta'\theta$ は $(S^nF)$ の自己射で 0 次が恒等なので、一意性から恒等射である。$T$ も (C4) を満たすので、同じく $\theta\theta'$ も恒等射である。$\square$
$\mathcal A$ は十分な入射対象をもつとし、$F\colon\mathcal A\to\mathcal B$ を左完全な加法関手とする。このとき、自然同型 $F\cong R^0F$ を 0 次の成分とする連結関手列の同型 $S^nF\cong R^nF$($n\ge0$)がただ一つある。とくに、任意の短完全列 $0\to A'\to A\to A''\to0$ から長完全列
$$
0\to F(A')\to F(A)\to F(A'')\xrightarrow{\partial^0}S^1F(A')\to S^1F(A)\to S^1F(A'')\xrightarrow{\partial^1}S^2F(A')\to\cdots
$$
が得られる。
δ-関手 の命題「導来関手の $\delta$-関手構造」により、右導来関手 $(R^nF)_{n\ge0}$ は連結射とともにδ-関手をなし、$R^0F\cong F$ である。δ-関手の列は完全なので (C1) を満たし、自然性は (C2) である。よって $(R^nF)$ は連結関手列である。
(C4) を確かめる。$Q$ が入射対象である短完全列 $e\colon0\to A\to Q\to N\to0$ と $n\ge1$ について、長完全列の一部
$$
R^{n-1}F(Q)\to R^{n-1}F(N)\xrightarrow{\delta^{n-1}_e}R^nF(A)\to R^nF(Q)
$$
は完全で、導来関手 の命題「射影対象・入射対象での高次導来関手の消滅」により $R^nF(Q)=0$ である。よって (C4) が成り立つ。cor-satellite-unique から同型が得られる。
長完全列は、$(R^nF)$ のδ-関手としての長完全列をこの同型で移したものである。左端の $0\to F(A')$ の完全性は $F$ の左完全性による。$\square$
$F$ が左完全でないときも、0 次の自然変換 $F\to R^0F$(入射分解の増大射から決まる)は射 $S^nF\to R^nF$ に一意に延びる(CE56 Ch. V, Theorem 6.1, p. 90)。この記事では右導来関手を左完全関手に対してだけ使うので、この一般形は証明しない。
$F$ が左完全でなくても、衛星の列が長完全列を与えることはある。この記事の設定($\mathcal A$ が十分な入射対象をもつ)では、$F$ が短完全列の中央で完全であれば、衛星の列は長完全列を与える(加群の圏では CE56 Ch. III, Theorem 3.1, p. 39)。より一般の仮定の下での必要十分条件は Gro57 Théorème 2.2.2(pp. 141–142)にあり、$F$ が短完全列の中央で完全であることに加えて、部分対象 $P\subset Q'\subset R$ について $F(Q'/P)\to F(R/P)$ の核が $F(Q')\to F(Q'/P)$ の像に含まれることを求める。この追加の条件は、どの対象も入射対象の部分対象になるときには自動的に満たされる(Gro57 p. 142 の注)。この記事ではこれらを証明しない。
$R$ を環、$M$ を左 $R$ 加群とし、$F=\operatorname{Hom}_R(M,-)\colon R\text{-}\mathbf{Mod}\to\mathbf{Ab}$ とする。$F$ は左完全で、$R\text{-}\mathbf{Mod}$ は十分な入射対象をもつ(入射対象 の定理「加群の圏は十分な入射対象をもつ」)。thm-satellite-derived により $S^nF\cong R^nF=\operatorname{Ext}^n_R(M,-)$(Ext関手)である。
具体的に、$R=\mathbb Z$、$M=\mathbb Z/m$($m\ge2$)、$A=\mathbb Z$ とし、短完全列 $0\to\mathbb Z\to\mathbb Q\to\mathbb Q/\mathbb Z\to0$ を使う。$\mathbb Q$ は可除群なので入射的である。$\operatorname{Hom}(\mathbb Z/m,\mathbb Q)=0$ であり、$\operatorname{Hom}(\mathbb Z/m,\mathbb Q/\mathbb Z)$ は $1$ の行き先 $x$($mx=0$ を満たす元)で決まるので、位数 $m$ の巡回群 $\frac1m\mathbb Z/\mathbb Z$ と同型である。よって
$$
S^1F(\mathbb Z)=\operatorname{coker}\bigl(0\to\operatorname{Hom}(\mathbb Z/m,\mathbb Q/\mathbb Z)\bigr)\cong\mathbb Z/m
$$
である。
任意の加法関手 $F$ と、$Q$ が入射対象である短完全列 $0\to A\to Q\to N\to0$ について、$n\ge1$ なら
$$
S^{n+1}F(A)\cong S^nF(N)
$$
である。実際、prop-satellite-connected の 2 の完全列 $S^nF(Q)\to S^nF(N)\to S^{n+1}F(A)\to0$ で、3 により $S^nF(Q)=0$ だからである。
$\mathcal A=\mathbf{Ab}$ のとき、可除群の商は可除で、アーベル群について可除であることと入射的であることは同値なので、$N=Q/A$ も入射対象である。よって、どんな加法関手 $F\colon\mathbf{Ab}\to\mathcal B$ についても $S^2F(A)\cong S^1F(N)=0$ となり、上の同型から $S^nF=0$($n\ge2$)である。これは $\mathbb Z$ が遺伝環であることの反映である(CE56 Ch. III, Proposition 1.5, p. 37)。
$F$ が右完全なら、$Q\to N$ がエピ射なので $F(Q)\to F(N)$ もエピ射であり、$S^1F=0$、したがって $S^nF=0$($n\ge1$)である。右完全関手の欠けは左衛星が測る。たとえば右 $R$ 加群の圏上の $-\otimes_RN$ について、左衛星 $S_n(-\otimes_RN)$ は Tor 関手 $\operatorname{Tor}_n^R(-,N)$(Tor関手)と同型である。これは thm-satellite-derived を反対圏で読み替えた主張である。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 中央の項が入射対象であること(def-satellite-right) | $F=\operatorname{Hom}(\mathbb Z/2,-)$ と短完全列 $0\to\mathbb Z\xrightarrow{\mathrm{id}}\mathbb Z\to0\to0$ | 余核が $S^1F(\mathbb Z)\cong\mathbb Z/2$ に一致すること(余核は $0$) |
| 十分な入射対象(def-satellite-right) | 有限アーベル群の圏 | 零でない対象の右衛星の定義(入射対象を中央にもつ短完全列がない) |
| (C4)(thm-satellite-universal) | $\mathbf{Ab}$ 上の $T^0=0$、$T^1=\mathrm{Id}$、$T^n=0$($n\ge2$)、連結射はすべて $0$ | 0 次からの延長の一意性 |
| $F$ の左完全性(thm-satellite-derived) | $\mathbf{Ab}$ 上の $F=-\otimes_{\mathbb Z}\mathbb Z/2$ | 0 次で $S^0F(\mathbb Z)$ と入射分解のコホモロジーが一致すること |
1 行目:ex-satellite-ext と同じ計算で $S^1F(\mathbb Z)\cong\mathbb Z/2$ だが、この短完全列では $\operatorname{coker}(F(\mathbb Z)\to F(0))=0$ である。
2 行目:有限アーベル群の圏では、零でない入射対象がない。実際、零でない有限アーベル群 $I$ が入射的だとし、素数 $p$ と、$I$ の元の位数に現れる $p$ の冪の最大値 $p^k$($k\ge1$)をとる。位数 $p^k$ の元 $x$ を選び、モノ射 $\mathbb Z/p^k\to\mathbb Z/p^{k+1}$($1\mapsto p$)に沿って準同型 $\mathbb Z/p^k\to I$($1\mapsto x$)を延ばすと、$py=x$ となる $y\in I$ が得られ、$y$ の位数は $p^{k+1}$ になって矛盾する。よって $A\ne0$ に対し、入射対象 $Q$ へのモノ射 $A\to Q$ は存在しない。
3 行目:この組は連結関手列であり、δ-関手 の記事で普遍的でない例として挙げられている。$A\ne0$ と、$Q$ が入射対象である短完全列について、(C4) の $n=1$ の列は $0\to0\to A\to0$ となり完全でない。1 次の恒等変換と零変換は、どちらも 0 次の零変換を延長する自己射なので、延長は一意でない。
4 行目:入射分解 $\mathbb Z\to Q^\bullet$ の各項 $Q^i$ は可除群で、$q\in Q^i$ を $q=2q'$ と書けば $q\otimes1=q'\otimes2=0$ なので $Q^i\otimes\mathbb Z/2=0$ である。よって複体 $F(Q^\bullet)$ は $0$ で、0 次のコホモロジーは $0$ だが、$S^0F(\mathbb Z)=F(\mathbb Z)=\mathbb Z/2$ である。
衛星関手は Cartan と Eilenberg が導入した(CE56 Ch. III, §§1–5, pp. 33–47)。そこでは右衛星と左衛星を $S^{-n}T=S_nT$ として全整数の次数の一つの列にまとめ、共変関手と反変関手を並べて扱う。連結関手列(connected sequence of functors)の定義は同書 Ch. III, §4(p. 43)、0 次からの一意延長は §5 の Proposition 5.2(pp. 46–47)にある。
Grothendieck は連結関手列を $\partial$-関手と呼び、0 次の自然変換が一意に延びるという普遍性をもつ $\partial$-関手の成分として衛星関手を定義した(Gro57 §§2.1–2.2, pp. 139–141)。この記事の thm-satellite-universal により、二つの定義は同型を除いて一致する。導来関手を経由せず、普遍性から Ext などを特徴づけるこの考え方は、δ-関手 の記事の普遍δ-関手へ受け継がれている。
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