代数的トーラス(algebraic torus)とは、体 $k$ 上のアフィン代数群で、$k$ の有限次分離拡大に上げると乗法群の直積 $\mathbb{G}_m^n$ と同型になるものであり、$k$ の上ですでに $\mathbb{G}_m^n$ と同型なものを分裂トーラスという。分裂トーラスの準同型は整数行列で与えられ、分解する有限次 Galois 拡大 $L$ を固定すると、$L$ で分解するトーラスの圏は、指標群に $\mathrm{Gal}(L/k)$ が作用した格子の圏と反変に同値になる。実数体上の円 $x^2+y^2=1$ は複素数体で分解するが分裂しないトーラスの例であり、トーラスは行列の群の構造論、Weil 制限、Néron モデル、トーリック多様体に現れる。
前提知識: 代数群, 乗法群, Hopf代数, Galois拡大, Hilbertの定理90
体 $k$ 上の 代数的トーラス とは、体を有限次の分離拡大まで広げると乗法群の直積 $\mathbb{G}_m^n=\operatorname{Spec}k[t_1^{\pm1},\dots,t_n^{\pm1}]$ と同型になるアフィン代数群のことである。$k$ の上ですでに $\mathbb{G}_m^n$ と同型なものを 分裂トーラス という。分裂トーラスは $n$ 個の 0 でない数の組 $(a_1,\dots,a_n)$ を成分ごとに掛ける群であり、その性質はほとんど整数の格子 $\mathbb{Z}^n$ の言葉に翻訳される。たとえば $\mathbb{G}_m^n$ の自己準同型は整数を成分とする $n\times n$ 行列と 1 対 1 に対応する。
分裂していないトーラスの典型は、実数体上の円 $x^2+y^2=1$ に複素数の積 $(x+iy)(x'+iy')$ で群構造を入れたものである。複素数体に上げると $u=x+iy$ と $u^{-1}=x-iy$ によって $\mathbb{G}_m$ と同型になるが、実数体の上では $\mathbb{G}_m$ と同型でない。この記事の主定理は、分解する体 $L$ を 1 つ固定すると、$L$ で分解するトーラスが「Galois 群 $\operatorname{Gal}(L/k)$ が作用する格子」によって完全に分類されることである。位相的な トーラス $(S^1)^n$ とは別の対象だが、$\mathbb{R}$ 上の分裂していないトーラスの実数点として円周の直積が現れる。
この記事を通して $k$ を体とし、代数群は 代数群 の定義「代数群」の意味($k$ 上有限型の群スキーム)とする。$k$ の拡大体 $K$ について、$k$ 上の代数群 $G$ の $K$ への底変換を $G_K$ と書く。乗法群 $\mathbb{G}_m=\operatorname{Spec}k[t,t^{-1}]$ の $n$ 個の直積を $\mathbb{G}_m^n$ と書く。$\mathbb{G}_m^n(R)=(R^\times)^n$ である(乗法群 の命題「乗法群スキームの値点」)。
$T$ が $K$ で分解すれば、$K$ を含む任意の拡大 $L$ でも $T_L=(T_K)_L\cong\mathbb{G}_{m,L}^n$ となって分解する。とくに $K$ の Galois 閉包をとれば、トーラスはつねに $k$ の有限次 Galois 拡大で分解する。分解する体を分離拡大に限らず、代数閉包 $\bar k$ の上で $T_{\bar k}\cong\mathbb{G}_m^n$ となることを定義にしても同じものが得られる(MilAG Theorem 14.24 の後の注意と Corollary 14.25、pp. 234–235。この記事では証明しない)。MilAG は第 14 章で代数群をアフィンとする約束のもと(p. 225)、Definition 14.14(p. 230)で分離閉包 $k^{\mathrm{sep}}$ の上で分裂するものをトーラスと定め、2.10(p. 41)では有限次分離拡大の上で $\mathbb{G}_m$ の直積と同型になるものとして述べている。
分裂トーラスは $\mathbb{G}_m^n$ と同型なのでアフィンであり、代数的トーラスもアフィン代数群として定義した。体の上のアフィン代数群は座標環の Hopf 代数で決まる(群スキーム の節「アフィン群スキームとHopf代数」)。トーラスの座標環 $\mathcal{O}(T)$ の余積・余単位・対蹠射を $\Delta,\varepsilon,S$ と書く。
体 $F$ 上の Hopf 代数 $A$ の元 $a$ で $\Delta(a)=a\otimes a$、$\varepsilon(a)=1$ を満たすものを 群的元(group-like element)という。$F$ 上のアフィン代数群 $G$ から $\mathbb{G}_m$ への準同型を $G$ の 指標(character)という。
指標 $\chi\colon G\to\mathbb{G}_m$ は Hopf 代数の準同型 $F[t,t^{-1}]\to\mathcal{O}(G)$ に対応し、$t$ の像は $\mathcal{O}(G)$ の群的元である。逆に群的元 $a$ は対蹠射の公理から $S(a)a=\varepsilon(a)=1$ を満たして単元になり、$t\mapsto a$ が指標を定める。こうして指標と群的元は 1 対 1 に対応し、指標の積は群的元の積に対応する(Cartier双対 の命題「指標群としての Cartier 双対」の証明、Hopf代数 の命題「群的元は群をなす」)。
$T$ を $k$ 上のトーラスとし、$L/k$ を $T$ が分解する有限次 Galois 拡大、$\Gamma:=\operatorname{Gal}(L/k)$ とする。$\mathcal{O}(T_L)=\mathcal{O}(T)\otimes_kL$ の群的元の全体を $X^*(T)$ と書き、$T$ の 指標群(character group)という。$X^*(T)$ の群演算は $\mathcal{O}(T_L)$ の積だが、加法的に書く。$\sigma\in\Gamma$ を $\mathcal{O}(T)\otimes_kL$ に $\mathrm{id}\otimes\sigma$ で作用させると、群的元は群的元に写る。これにより $\Gamma$ は $X^*(T)$ に群の自己同型として作用する。
$\mathrm{id}\otimes\sigma$ は $\mathcal{O}(T)\otimes_kL$ の環の自己同型で、余積 $\Delta\otimes\mathrm{id}_L$ と余単位 $\varepsilon\otimes\mathrm{id}_L$ のそれぞれと $\sigma$ が可換であること($(\mathrm{id}\otimes\mathrm{id}\otimes\sigma)\circ(\Delta\otimes\mathrm{id})=(\Delta\otimes\mathrm{id})\circ(\mathrm{id}\otimes\sigma)$、$\sigma\circ(\varepsilon\otimes\mathrm{id})=(\varepsilon\otimes\mathrm{id})\circ(\mathrm{id}\otimes\sigma)$)は、$a\otimes c$ の形の元で確かめればよい。$L$ をさらに大きな Galois 拡大に取り替えても、群的元は増えない(次の prop-atorus-split の 1 により、分解したトーラスの群的元は $\mathcal{O}(T)\otimes_kL$ の中ですでに基底をなし、大きな体で新しい群的元は生じない)ので、$X^*(T)$ は $L$ の取り方によらない。
自由 Abel 群 $M$ に対し、$F[M]$ を $\{e^m\mid m\in M\}$ を基底とし $e^me^{m'}=e^{m+m'}$ で積を定めた $F$ 代数(群環)とする。$\Delta(e^m)=e^m\otimes e^m$、$\varepsilon(e^m)=1$、$S(e^m)=e^{-m}$ により $F[M]$ は可換な Hopf 代数になる(Hopf代数 の例「群環のHopf代数の構造」)。$D(M):=\operatorname{Spec}F[M]$ とおく。$M$ の基底 $m_1,\dots,m_n$ をとり $t_i=e^{m_i}$ とすると $F[M]=F[t_1^{\pm1},\dots,t_n^{\pm1}]$ であり、余積は $t_i\mapsto t_i\otimes t_i$ なので、$D(M)\cong\mathbb{G}_m^n$ である。
$F$ を体、$M,M'$ を有限階数の自由 Abel 群とする。
要点:群的元を基底 $e^m$ で展開すると係数が互いに直交する冪等元になり、Hopf 代数の準同型は群的元を群的元に写す。
1:$a=\sum_mc_me^m$(有限和、$c_m\in F$)を群的元とする。$\{e^m\otimes e^{m'}\}$ は $F[M]\otimes F[M]$ の基底なので、$$\sum_mc_m\,e^m\otimes e^m=\Delta(a)=a\otimes a=\sum_{m,m'}c_mc_{m'}\,e^m\otimes e^{m'}$$の係数を比べて $c_m^2=c_m$、$m\ne m'$ なら $c_mc_{m'}=0$ である。よって各 $c_m$ は $0$ か $1$ で、$1$ になる $m$ は高々 1 つである。$\varepsilon(a)=\sum_mc_m=1$ なので、ちょうど 1 つの $m$ で $c_m=1$ となり、$a=e^m$ である。逆に $e^m$ は定義から群的元である。
2:$e^{m'}\mapsto e^{\varphi(m')}$ は基底の行き先を決めて線形に延ばした写像で、$\varphi$ が準同型なので積を保つ環準同型である。基底の上で $\Delta,\varepsilon,S$ と可換なので Hopf 代数の準同型である。逆に $f\colon F[M']\to F[M]$ を Hopf 代数の準同型とすると、$\Delta(f(e^{m'}))=(f\otimes f)(\Delta(e^{m'}))=f(e^{m'})\otimes f(e^{m'})$ と $\varepsilon(f(e^{m'}))=\varepsilon(e^{m'})=1$ から $f(e^{m'})$ は群的元であり、1 によりある $\varphi(m')\in M$ で $e^{\varphi(m')}$ と書ける。$f$ は積を保つので $\varphi$ は準同型であり、$f$ は基底の行き先で決まるから $f$ は $\varphi$ から作った写像に等しい。アフィン代数群の準同型は座標環の Hopf 代数の準同型と逆向きに 1 対 1 に対応するので、主張が従う。
3:$M=M'=\mathbb{Z}^n$ として 2 を使う。$\operatorname{Hom}_{\mathbb{Z}}(\mathbb{Z}^n,\mathbb{Z}^n)=M_n(\mathbb{Z})$ で、合成は行列の積に対応するから、可逆なものは $\mathrm{GL}_n(\mathbb{Z})$ に対応する。$n=1$ では $\varphi(1)=d$ が $t\mapsto t^d$ を与える。$\square$
この命題は MilAG Lemma 14.4(p. 226)と Theorem 14.9 (a)(p. 227)の内容である。分裂トーラスの準同型は「連続なパラメータ」をもたず、整数のデータだけで決まる。分裂トーラスの商は再び分裂トーラスで、格子の部分群に対応する。一方、分裂トーラスの代数的部分群は分裂トーラスとは限らない。たとえば $\mu_n=\operatorname{Ker}(t\mapsto t^n)$ は $\mathbb{Z}\to\mathbb{Z}/n\mathbb{Z}$ に対応する(MilAG Definition 14.14 の後の注意、p. 230)。
以下、$L/k$ を有限次 Galois 拡大、$\Gamma:=\operatorname{Gal}(L/k)$ とする。有限階数の自由 Abel 群 $M$ に $\Gamma$ が群の自己同型として作用しているものを $\Gamma$ 格子 という。$\Gamma$ 格子の準同型は $\Gamma$ の作用と可換な群準同型とする。
$L$ 上のベクトル空間 $W$ に $\Gamma$ が加法的に作用し、$\sigma(cw)=\sigma(c)\sigma(w)$($c\in L$、$w\in W$)を満たすとき、この作用を 半線形 という。$W^\Gamma$ を $\Gamma$ で固定される元の全体とすると、$W^\Gamma$ は $k$ 上のベクトル空間である。
要点:有限次元の場合、基底の変換行列が $\Gamma$ の 1 コサイクルになり、Hilbertの定理90 でそれを消すと $\Gamma$ で固定される基底が得られる。
1:$U$ の $k$ 上の基底 $(u_i)$ をとると、$U\otimes_kL$ の元は $\sum_iu_i\otimes c_i$($c_i\in L$)とただ 1 通りに書け、$\sigma$ は $\sum_iu_i\otimes\sigma(c_i)$ に写す。固定されることはすべての $c_i$ が $\Gamma$ で固定されることと同値で、Galois 理論により $c_i\in k$ となる。
2:まず $W$ が有限次元の場合を示す。$L$ 上の基底 $w_1,\dots,w_n$ をとり、$\sigma(w_j)=\sum_i(a_\sigma)_{ij}w_i$ で行列 $a_\sigma\in\mathrm{GL}_n(L)$ を定める($\sigma$ は全単射で半線形なので $\sigma(w_j)$ も基底をなし、$a_\sigma$ は可逆である)。$\sigma\tau(w_j)=\sigma\bigl(\sum_l(a_\tau)_{lj}w_l\bigr)=\sum_{i,l}(a_\sigma)_{il}\,\sigma((a_\tau)_{lj})\,w_i$ なので、$a_{\sigma\tau}=a_\sigma\,\sigma(a_\tau)$ であり、$a$ は 1 コサイクルである。Hilbertの定理90 の定理「一般線形群のコホモロジーの消滅(一般形)」により、$a_\sigma=b^{-1}\sigma(b)$ となる $b\in\mathrm{GL}_n(L)$ がある。$c:=b^{-1}$ とおき $w_j':=\sum_ic_{ij}w_i$ とすると、$w_1',\dots,w_n'$ も基底であり、$$\sigma(w_j')=\sum_{i,l}\sigma(c_{ij})(a_\sigma)_{li}\,w_l=\sum_l\bigl(a_\sigma\,\sigma(c)\bigr)_{lj}w_l=\sum_l\bigl(b^{-1}\sigma(b)\sigma(b)^{-1}\bigr)_{lj}w_l=w_j'$$となる。$w=\sum_jd_jw_j'$($d_j\in L$)が固定されることは、係数を比べてすべての $d_j\in k$ と同値なので、$W^\Gamma$ は $w_1',\dots,w_n'$ を $k$ 上の基底にもち、写像 $W^\Gamma\otimes_kL\to W$ は基底を基底に写して同型である。
一般の場合、$W$ は $\Gamma$ で保たれる有限次元の部分空間 $W_\lambda$ の和集合で、2 つの $W_\lambda$ はその和に含まれる。各 $W_\lambda$ で写像は同型 $W_\lambda^\Gamma\otimes_kL\cong W_\lambda$ であり、$W^\Gamma=\bigcup_\lambda W_\lambda^\Gamma$ なので、和集合をとって全体でも同型である。$\square$
$\Gamma$ が有限なので、群環 $L[M]$ の有限個の基底 $e^m$ の $\Gamma$ 軌道の和は有限であり、2 は次の定理で使う $L[M]$ に当てはまる。
$L/k$ を有限次 Galois 拡大、$\Gamma=\operatorname{Gal}(L/k)$ とする。
トーラス $T$ の座標環を $A=\mathcal{O}(T)$、$A_L:=A\otimes_kL$ とし、$\Gamma$ を $A_L$ に $\mathrm{id}\otimes\sigma$ で作用させる。lem-atorus-descent の 1 により $A_L^\Gamma=A$ である。
段 1:$A_L$ は $X^*(T)$ の群環である。 $T_L\cong\mathbb{G}_{m,L}^n$ なので $A_L$ は $L$ 上の Hopf 代数として $L[\mathbb{Z}^n]$ と同型であり、prop-atorus-split の 1 により、群的元の全体 $X^*(T)$ は $A_L$ の $L$ 上の基底で、その積は $X^*(T)$ の群演算である。すなわち $A_L=L[X^*(T)]$ である。$\mathrm{id}\otimes\sigma$ は半線形な環の自己同型で、定義により群的元 $\chi$ を $\sigma\chi$ に写すので、この同一視のもとで $\sigma(\sum c_\chi\chi)=\sum\sigma(c_\chi)\,\sigma\chi$ である。これは 2 の作用を $M=X^*(T)$ に当てたものである。
段 2:1 の証明。 準同型 $f\colon T\to T'$ は $k$ 上の Hopf 代数の準同型 $f^\sharp\colon A'\to A$ と 1 対 1 に対応する($A'=\mathcal{O}(T')$)。その底変換 $g=f^\sharp\otimes\mathrm{id}_L\colon A'_L\to A_L$ は $L$ 上の Hopf 代数の準同型で、$\Gamma$ の作用と可換である。逆に、$\Gamma$ と可換な $L$ 上の Hopf 代数の準同型 $g\colon A'_L\to A_L$ は、固定部分 $A'=(A'_L)^\Gamma$ を $A_L^\Gamma=A$ に写す。その制限 $g|_{A'}\colon A'\to A$ は $k$ 上の Hopf 代数の準同型であり($A'\otimes1$ 上の $\Delta,\varepsilon,S$ は $A'$ のものである)、底変換すると $g$ に戻る(どちらも $L$ 線形で、$A'_L$ を $L$ 上張る $A'\otimes1$ の上で一致する)。よって $f\mapsto g$ は、$\operatorname{Hom}(T,T')$ から「$\Gamma$ と可換な $L$ 上の Hopf 代数の準同型 $A'_L\to A_L$」の集合への全単射である。
段 1 と prop-atorus-split の 2($F=L$)により、$L$ 上の Hopf 代数の準同型 $g\colon L[X^*(T')]\to L[X^*(T)]$ は、群的元への制限 $\varphi=g|_{X^*(T')}$ と 1 対 1 に対応する。$g\circ\sigma$ と $\sigma\circ g$ はどちらも $\sigma$ 半線形で、基底 $\chi'$ での値はそれぞれ $\varphi(\sigma\chi')$ と $\sigma\varphi(\chi')$ なので、$g$ が $\Gamma$ と可換であることと $\varphi$ が $\Gamma$ 格子の準同型であることは同値である。$f$ に対応する $\varphi$ は群的元の引き戻し $f^*$ であり、合成は制限の合成に対応する。
段 3:2 の証明。 $\sigma(e^m)=e^{\sigma(m)}$ は $\sigma$ が $M$ の自己同型であることから積を保ち、$L[M]$ への作用は半線形な環の自己同型で、$\Gamma$ の作用になっている。$L[M]$ は有限個の $\Gamma$ 軌道で張られる有限次元の部分空間の和集合なので、lem-atorus-descent の 2 により
$$
A_M\otimes_kL\xrightarrow{\ \sim\ }L[M],\qquad a\otimes c\mapsto ca
$$
は同型である。この同型のもとで、$A_M\otimes_kL$ への $\mathrm{id}\otimes\sigma$ は $L[M]$ への $\sigma$ に対応する($a\in A_M$ は固定されるので $\sigma(ca)=\sigma(c)a$)。$\Delta,\varepsilon,S$ は $\sigma$ と可換なので、$A_M$ は $L[M]$ の Hopf 代数の構造を制限した $k$ 上の有限生成な Hopf 代数になる(細部は下の折りたたみ)。$T_M:=\operatorname{Spec}A_M$ について、$(T_M)_L=\operatorname{Spec}(A_M\otimes_kL)\cong\operatorname{Spec}L[M]\cong\mathbb{G}_{m,L}^n$ なので $T_M$ は $L$ で分解するトーラスである。その群的元は prop-atorus-split の 1 により $e^m$($m\in M$)で、$\mathrm{id}\otimes\sigma$ は $e^m$ を $e^{\sigma(m)}$ に写すから、$X^*(T_M)\cong M$ は $\Gamma$ 格子の同型である。
段 4:3 の証明。 1 により $X^*$ は充満忠実な反変関手であり、2 により任意の $\Gamma$ 格子が指標群として現れる。よって反変な圏同値である。$\Gamma$ 格子の同型 $X^*(T')\to X^*(T)$ は 1 により準同型 $T\to T'$ から来て、その逆も同様なので、$T\cong T'$ である。$\square$
余積:$L[M]\otimes_LL[M]$ に $\sigma\otimes\sigma$($x\otimes y\mapsto\sigma x\otimes\sigma y$、半線形なので well-defined)で $\Gamma$ を作用させると、$\Delta(\sigma(ce^m))=\sigma(c)e^{\sigma m}\otimes e^{\sigma m}=(\sigma\otimes\sigma)(\Delta(ce^m))$ から $\Delta\circ\sigma=(\sigma\otimes\sigma)\circ\Delta$ である。同型 $A_M\otimes_kA_M\otimes_kL\cong L[M]\otimes_LL[M]$($a\otimes a'\otimes c\mapsto ca\otimes a'$)のもとで $\mathrm{id}\otimes\mathrm{id}\otimes\sigma$ は $\sigma\otimes\sigma$ に対応するので、$a\in A_M$ なら $\Delta(a)$ は固定され、lem-atorus-descent の 1 により $A_M\otimes_kA_M$ に属する。同様に $\varepsilon\circ\sigma=\sigma\circ\varepsilon$ から $\varepsilon(A_M)\subset L^\Gamma=k$、$S\circ\sigma=\sigma\circ S$ から $S(A_M)\subset A_M$ である。Hopf 代数の公理の各等式は $L[M]$ で成り立ち、$A_M\otimes_kA_M\to L[M]\otimes_LL[M]$ などは単射なので、$A_M$ でも成り立つ。
有限生成:$L[M]$ は $L$ 代数として有限個の元 $e^{\pm m_i}$($m_i$ は $M$ の基底)で生成される。各 $e^{\pm m_i}$ を $\sum_jc_ja_j$($a_j\in A_M$、$c_j\in L$)と書き、現れる有限個の $a_j$ が生成する $k$ 部分代数を $A'\subset A_M$ とする。$L$ は $k$ 上自由なので $A'\otimes_kL\to A_M\otimes_kL$ は単射であり、その像は生成元をすべて含む $L$ 部分代数なので全体である。よって $(A_M/A')\otimes_kL=0$ で、$A_M=A'$ は有限生成である。
MilAG Theorem 14.17(p. 231)は、分離閉包 $k^{\mathrm{sep}}$ の絶対 Galois 群が連続に作用する有限生成 Abel 群と、乗法型の代数群との反変な圏同値を述べ、スキームの Galois 降下(同書 A.55–A.56、p. 502)から導いている。トーラスは指標群に捩れがないものに当たる(同書 p. 231)。この記事の thm-atorus-classification は、分解する体を有限次 Galois 拡大 $L$ に固定してトーラスに限った場合を、ベクトル空間の降下(lem-atorus-descent)だけで示したものである。
$k=\mathbb{R}$、$L=\mathbb{C}$、$\sigma$ を複素共役とし、$M=\mathbb{Z}$ に $\sigma$ を $m\mapsto-m$ で作用させる。$L[M]=\mathbb{C}[u,u^{-1}]$ への作用は $\sigma(\sum c_ju^j)=\sum\bar c_ju^{-j}$ である。
$$
x:=\frac{u+u^{-1}}{2},\qquad y:=\frac{u-u^{-1}}{2i}
$$
は $\sigma$ で固定され、$x^2+y^2=1$ を満たす。$u\mapsto x+iy$、$u^{-1}\mapsto x-iy$ は $\mathbb{C}[u,u^{-1}]\to\mathbb{C}[x,y]/(x^2+y^2-1)$ の逆写像を与えるので、$\mathbb{R}[x,y]/(x^2+y^2-1)\otimes_{\mathbb{R}}\mathbb{C}\cong\mathbb{C}[u,u^{-1}]$ であり、prf-atorus-classification の折りたたみの有限生成の議論と同じく $A_M=\mathbb{R}[x,y]/(x^2+y^2-1)$ である。$\Delta(u)=u\otimes u$ から $\Delta(x)=x\otimes x-y\otimes y$、$\Delta(y)=x\otimes y+y\otimes x$ となり、群演算は $(x,y)(x',y')=(xx'-yy',\,xy'+yx')$、すなわち複素数の積である。
$T_M(\mathbb{R})$ は単位円周で、$(-\tfrac12,\tfrac{\sqrt3}{2})$ は位数 $3$ の元である。$\mathbb{G}_m(\mathbb{R})=\mathbb{R}^\times$ の有限位数の元は $\pm1$ だけなので、$T_M$ は $\mathbb{G}_m$ と同型でなく、$\mathbb{C}$ で分解するが分裂していないトーラスである。$\mathbb{R}$ の有限次分離拡大は $\mathbb{R}$ と $\mathbb{C}$ だけで、$\mathbb{Z}$ の自己同型は $\pm1$ だけなので、thm-atorus-classification により $\mathbb{R}$ 上の 1 次元トーラスは $\mathbb{G}_m$ と $T_M$ のどちらかと同型である(MilAG Example 14.19、p. 232)。同じ方程式を $\mathbb{Q}$ 上で考えると $\mathbb{Q}(i)$ で分解するトーラスになり、その有理点は Hilbertの定理90 の例「単位円の有理点」で求められる。
$K/k$ を $d$ 次の分離拡大、$L$ をその Galois 閉包とし、$T:=R_{K/k}(\mathbb{G}_m)$ とおく。$T(R)=(K\otimes_kR)^\times$ である(Weil制限 の例「有限代数の単数群」)。$K=k(\theta)$ と書くと $\theta$ の最小多項式は $L$ で相異なる 1 次式の積に分かれるので、中国剰余定理により
$$
K\otimes_kL\xrightarrow{\ \sim\ }\prod_{\tau}L,\qquad a\otimes c\mapsto(\tau(a)c)_\tau
$$
である($\tau$ は $k$ 上の埋め込み $K\to L$ の $d$ 個)。$L$ 代数 $R$ について $T_L(R)=T(R)=((K\otimes_kL)\otimes_LR)^\times\cong(R^\times)^d$ が $R$ について自然なので、$T_L\cong\mathbb{G}_{m,L}^d$ であり、$T$ は $L$ で分解する $d$ 次元トーラスである。指標群は埋め込み全体を基底とする自由 Abel 群 $\mathbb{Z}^{\operatorname{Hom}_k(K,L)}$ で、$\Gamma$ は $\tau\mapsto\sigma\circ\tau$ で基底を置換する(MilAG Lemma 14.39、p. 238。この記事では証明しない)。$K=\mathbb{C}$、$k=\mathbb{R}$ でのノルム $T\to\mathbb{G}_m$ の核が ex-atorus-circle の円である。
$k$ の標数を $p>0$、$a\in k\setminus k^p$、$K=k(a^{1/p})$ とする。$T:=R_{K/k}(\mathbb{G}_m)$ はアフィン代数群だが(Weil制限 の例「有限代数の単数群」)、トーラスでない。実際、トーラス $T'$ は分解する体 $K'\subset\bar k$ を経由して $T'_{\bar k}\cong\mathbb{G}_m^n$ となるので、$T'(\bar k)=(\bar k^\times)^n$ は位数 $p$ の元をもたない($x^p=1$ なら $(x-1)^p=0$ で $x=1$)。一方 $\alpha^p=a$ となる $\alpha\in\bar k$ をとると $K\otimes_k\bar k=\bar k[X]/((X-\alpha)^p)$ であり、$\epsilon:=X-\alpha$ について $(1+\epsilon)^p=1+\epsilon^p=1$、$1+\epsilon\ne1$ なので、$T(\bar k)=(K\otimes_k\bar k)^\times$ は位数 $p$ の元をもつ。Weil制限 が「$L/K$ が分離的でないと $R_{L/K}(\mathbb{G}_m)$ はトーラスにならない」と述べるのはこの現象である。
ex-atorus-weil・prop-atorus-split・thm-atorus-classification の条件を 1 つずつ外すと、次のように結論が成り立たなくなる。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| Weil 制限する拡大 $K/k$ が分離的(ex-atorus-weil) | $R_{K/k}(\mathbb{G}_m)$、$K=k(a^{1/p})$ | $\bar k$ の上でも $\mathbb{G}_m^n$ と同型にならず、トーラスでない(ex-atorus-inseparable) |
| 格子に捩れがない(thm-atorus-classification の 2) | $M=\mathbb{Z}/n\mathbb{Z}$($n\ge2$、作用は自明)、$\operatorname{Spec}k[M]=\mu_n$ | 座標環は $n$ 次元で、$\mathbb{G}_m^r$ の座標環($r\ge1$ なら無限次元、$r=0$ なら 1 次元)と次元が合わず、どの体に上げてもトーラスにならない |
| 準同型であること(prop-atorus-split の 2) | 多様体の射 $\mathbb{G}_m\to\mathbb{G}_m$、$t\mapsto ct^d$($c\ne1$) | 単位元を保たず、射の全体は $\mathbb{Z}$ でなく $k^\times\times\mathbb{Z}$ になる |
| トーラスであること(thm-atorus-classification の 3) | 加法群 $\mathbb{G}_a=\operatorname{Spec}k[t]$ | 群的元は $1$ だけで指標は自明だが、$\mathbb{G}_a$ は自明な群でない。指標で群が決まらない |
3 行目:$k[t,t^{-1}]$ の単元は $ct^d$($c\in k^\times$)に限るので、多様体の射 $\mathbb{G}_m\to\mathbb{G}_m$ はこの形で、準同型になるのは $c=1$ のときだけである。4 行目:群的元 $a\in k[t]$ は単元なので定数で、$\varepsilon(a)=1$ から $a=1$ である。
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