Michael直線(Michael line)とは、実数直線 $\mathbb{R}$ の位相を、無理数をすべて孤立点にし有理数には通常の近傍を残すように細かくした位相空間 $\mathbb{M}$ のことである。$\mathbb{M}$ は零次元で第1可算な Tychonoff 空間であり、任意の部分空間がパラコンパクトで正規であるが、可分でも Lindelöf でもない。無理数全体 $\mathbb{P}$ との直積 $\mathbb{M}\times\mathbb{P}$ は正規でなく、パラコンパクト Hausdorff 空間と可分な完全距離化可能空間の直積が正規とは限らない例である。名称は E. Michael にちなむ。
実数直線の位相を細かくする方法の一つに、一部の点を孤立点にしてしまうやり方がある。無理数をすべて孤立点にし、有理数には通常の近傍を残した空間が Michael 直線である。この空間はそれ自身はパラコンパクトで正規だが、完全距離化可能な空間である無理数全体 $\mathbb{P}$ との直積は正規でない。こうして「パラコンパクト Hausdorff 空間と可分距離化可能空間の直積は正規とは限らない」ことが分かる。
この記事では、Michael 直線を定義し、基本的な性質、任意の部分空間がパラコンパクトであること、$\mathbb{P}$ との直積が正規でないことを証明する。記述はおおむね Eng89 Example 5.1.22・Example 5.1.32(pp. 306・309)に従う。
以下、$\mathbb{Q}$ を有理数全体、$\mathbb{P}:=\mathbb{R}\setminus\mathbb{Q}$ を無理数全体とし、「通常の開集合」は $\mathbb{R}$ の Euclid 位相での開集合を指す。
$\mathbb{R}$ の部分集合族
$$
\tau_M:=\{U\cup K\mid U\text{ は通常の開集合},\ K\subset\mathbb{P}\}
$$
は $\mathbb{R}$ 上の位相である(prop-ml-topology)。位相空間 $\mathbb{M}:=(\mathbb{R},\tau_M)$ を Michael 直線(Michael line)という。名称は E. Michael にちなむ。
1:$\emptyset,\mathbb{R}$ は $\tau_M$ に属する。合併 $\bigcup_\lambda(U_\lambda\cup K_\lambda)=(\bigcup U_\lambda)\cup(\bigcup K_\lambda)$ は再び同じ形である。共通部分は
$$
(U_1\cup K_1)\cap(U_2\cup K_2)=(U_1\cap U_2)\cup\bigl((U_1\cap K_2)\cup(K_1\cap U_2)\cup(K_1\cap K_2)\bigr)
$$
であり、後ろの括弧は $\mathbb{P}$ に含まれる。よって $\tau_M$ は位相である。$K=\emptyset$ とすれば通常の開集合は $\tau_M$ に属する。
2:$U=\emptyset$、$K=\{x\}$ とすればよい。
3:$q\in U\cup K$ なら $q\notin\mathbb{P}$ なので $q\in U$ であり、$U$ は通常の開集合なので $(q-\varepsilon,q+\varepsilon)\subset U$ となる $\varepsilon>0$ がある。$\square$
1:$(a,b)$ は通常の開集合である。補集合は $(-\infty,a)\cup\{a\}\cup\{b\}\cup(b,\infty)$ で、$a,b\in\mathbb{P}$ なので $\tau_M$ に属する。
2:無理数 $x$ には開かつ閉な $\{x\}$ がある(補集合は $(\mathbb{R}\setminus\{x\})\cup\emptyset$ で開)。有理数 $q$ と $\varepsilon>0$ について、$q-\varepsilon< a< q< b< q+\varepsilon$ となる無理数 $a,b$ をとれば、1 により $(a,b)$ は $q$ を含む開かつ閉集合で $(q-\varepsilon,q+\varepsilon)$ に含まれる。prop-ml-topology の 2・3 とあわせて開かつ閉集合からなる開基を得る。通常の位相で一点集合は閉なので、より細かい $\tau_M$ でも閉であり $T_1$ である。点 $x$ と $x$ を含まない閉集合 $F$ について、開かつ閉集合 $B$ で $x\in B\subset\mathbb{R}\setminus F$ となるものをとれば、$B$ の補集合の特性関数が $x$ で $0$、$F$ で $1$ の連続関数になる。
3:無理数には $\{x\}$、有理数には $(q-1/n,q+1/n)$($n\ge1$)が可算な基本近傍系である。$\square$
$\mathbb{M}$ は可分空間でなく、Lindelöf空間でもない。とくに第2可算公理を満たさない。
孤立点は任意の稠密部分集合に含まれるので、$\mathbb{M}$ の稠密部分集合は非可算集合 $\mathbb{P}$ を含む。よって可分でない。
有理数を $q_1,q_2,\dots$ と並べ、通常の開集合 $W:=\bigcup_n(q_n-2^{-n-2},q_n+2^{-n-2})$ をとる。$W$ は長さの和が $1/2$ 以下の区間の和なので、Lebesgue 測度は $1/2$ 以下であり、$[0,1]\setminus W$ は正の測度をもつ。とくに $\mathbb{R}\setminus W$ は非可算で、すべて無理数からなる。開被覆 $\{W\}\cup\{\{x\}\mid x\in\mathbb{R}\setminus W\}$ から $\{x\}$ を 1 つでも除くと $x$ が覆われないので、可算部分被覆はない。第 2 可算なら Lindelöf なので、第 2 可算公理も満たさない。$\square$
$S\subset\mathbb{R}$ とし、$S$ に $\mathbb{M}$ からの部分空間位相を入れる。$(U\cup K)\cap S=(U\cap S)\cup(K\cap S)$ なので、$S$ の開集合は「$U\cap S$($U$ は通常の開集合)と $S\cap\mathbb{P}$ の部分集合の合併」である。
$\mathcal{U}$ を $S$ の開被覆とする。各 $q\in S\cap\mathbb{Q}$ について、$q\in O_q\in\mathcal{U}$ をとり、prop-ml-topology の 3 により $q\in I_q\cap S\subset O_q$ となる通常の開区間 $I_q$ をとる。$W:=\bigcup_q(I_q\cap S)$ とおく。$W$ に通常の距離 $|x-y|$ から定まる位相を入れると距離空間であり、$\{I_q\cap S\}_q$ はその開被覆である。Stone の定理(パラコンパクト空間 の定理「Stone の定理」)により、この被覆は通常の位相について局所有限な開細分 $\mathcal{V}$ をもつ。$\mathcal{V}$ の元は通常の位相で $S$ の開集合なので、$\mathbb{M}$ からの位相でも $S$ の開集合である。
$S\setminus W$ の点は無理数($S$ の有理数はすべて $W$ に入る)なので、$\{x\}$($x\in S\setminus W$)は $S$ の開集合である。そこで
$$
\mathcal{V}':=\mathcal{V}\cup\bigl\{\{x\}\bigm| x\in S\setminus W\bigr\}
$$
とおく。$\mathcal{V}'$ は $S$ を覆い、各元は $\mathcal{U}$ のある元に含まれる($\{x\}$ は $x$ を含む $\mathcal{U}$ の元に含まれる)。局所有限性を示す。$x\in W$ なら、$x$ の通常の位相での近傍 $N\subset W$ で $\mathcal{V}$ の有限個の元としか交わらないものがあり、$N$ は $S\setminus W$ の点を含まないので $\mathcal{V}'$ の有限個の元としか交わらない。$x\in S\setminus W$ なら、近傍 $\{x\}$ は $\mathcal{V}'$ の元のうち $\{x\}$ だけと交わる($\mathcal{V}$ の元は $W$ に含まれる)。よって $S$ はパラコンパクトである。
$\tau_M$ は通常の位相より細かいので $\mathbb{M}$ は Hausdorff であり、パラコンパクト Hausdorff 空間は正規である(パラコンパクト空間 の命題「正則性と正規性」)。部分空間も Hausdorff かつパラコンパクトなので正規である。$\square$
一方、$\mathbb{M}$ は Lindelöf でない(prop-ml-not-lindelof)。パラコンパクト性は Lindelöf 性を含まないことの例でもある。
主定理は次である。$\mathbb{P}$ には $\mathbb{R}$ からの通常の位相を入れる。$\mathbb{P}$ は可分な距離化可能空間で、完全距離化可能空間でもある。
$\mathbb{P}$ は $\mathbb{R}$ の F_σ-集合でない。すなわち、$\mathbb{R}$ の閉集合の可算族 $(F_n)$ で $\mathbb{P}=\bigcup_nF_n$ となるものはない。
$\mathbb{P}=\bigcup_nF_n$($F_n$ は閉)と仮定する。$F_n\subset\mathbb{P}$ は区間を含まないので内部が空である。一点集合 $\{q\}$($q\in\mathbb{Q}$)も内部が空な閉集合である。すると $\mathbb{R}=\bigcup_nF_n\cup\bigcup_{q\in\mathbb{Q}}\{q\}$ は内部が空な閉集合の可算個の和になり、Baireのカテゴリー定理 の定理「Baire のカテゴリー定理」の 1 に反する。$\square$
直積空間 $\mathbb{M}\times\mathbb{P}$ において、
$$
A:=\{(y,y)\mid y\in\mathbb{P}\},\qquad B:=\mathbb{Q}\times\mathbb{P}
$$
は互いに交わらない閉集合であり、交わらない開集合で分離できない。したがって $\mathbb{M}\times\mathbb{P}$ は正規でない。
閉であること:$\mathbb{R}\setminus\mathbb{Q}=\mathbb{P}$ は $\tau_M$ で開なので $\mathbb{Q}$ は $\mathbb{M}$ で閉であり、$B$ は閉である。$A=\{(x,y)\in\mathbb{M}\times\mathbb{P}\mid x=y\}$ は、通常の位相の直積 $\mathbb{R}\times\mathbb{P}$ で閉な対角線との共通部分であり、$\mathbb{M}\times\mathbb{P}$ の位相はそれより細かいので閉である。$A$ の点の第 1 成分は無理数なので $A\cap B=\emptyset$ である。
分離できないこと:$U$ を $A$ を含む開集合とし、$B\cap\overline U\ne\emptyset$ を示す。これが示せれば、$B$ を含む開集合 $V$ は $\overline U$ の点を含むので $U$ と交わり、分離は不可能である。
$\mathbb{P}$ の可算な稠密部分集合 $\{p_1,p_2,\dots\}$ をとる。各 $y\in\mathbb{P}$ について $(y,y)\in U$ であり、$\{y\}$ は $\mathbb{M}$ の開集合なので、$\mathbb{P}$ の開集合 $V_y\ni y$ で $\{y\}\times V_y\subset U$ となるものがある。$V_y$ は空でない開集合なので、$p_{i(y)}\in V_y$ となる番号 $i(y)$ がとれる。$P_i:=\{y\in\mathbb{P}\mid i(y)=i\}$ とおくと $\mathbb{P}=\bigcup_iP_i$ である。
$\overline{P_i}^{\mathbb{R}}$ を $\mathbb{R}$ での閉包とする。すべての $i$ で $\overline{P_i}^{\mathbb{R}}\subset\mathbb{P}$ なら $\mathbb{P}=\bigcup_i\overline{P_i}^{\mathbb{R}}$ は $F_\sigma$-集合になり、lem-ml-not-fsigma に反する。よって、ある $i_0$ と有理数 $q_0\in\overline{P_{i_0}}^{\mathbb{R}}$ がある。点 $(q_0,p_{i_0})\in B$ が $\overline U$ に属することを示す。その基本近傍は $(q_0-\varepsilon,q_0+\varepsilon)\times G$($G$ は $p_{i_0}$ を含む $\mathbb{P}$ の開集合)の形である。$q_0\in\overline{P_{i_0}}^{\mathbb{R}}$ なので $y\in P_{i_0}\cap(q_0-\varepsilon,q_0+\varepsilon)$ がある。$i(y)=i_0$ なので $p_{i_0}\in V_y$、したがって $(y,p_{i_0})\in\{y\}\times V_y\subset U$ であり、これは上の近傍に属する。よって $(q_0,p_{i_0})\in\overline U$ である。$\square$
証明で使った $\mathbb{P}$ と $\mathbb{Q}$ の性質は、互いの補集合であること、$\mathbb{P}$ が可分であること、$\mathbb{P}$ が $F_\sigma$ でないことの 3 つだけである(Eng89 Example 5.1.32 の末尾の注意、p. 309)。
1:thm-ml-hered-paracompact と thm-ml-product、およびパラコンパクト Hausdorff 空間は正規であること(パラコンパクト空間 の命題「正則性と正規性」)による。$\mathbb{M}\times\mathbb{P}$ は Hausdorff なので、パラコンパクトなら正規になってしまう。
2:$\mathbb{M}$ が距離化可能なら、$\mathbb{M}\times\mathbb{P}$ は距離化可能空間の直積として距離化可能(距離化可能空間 の定理「距離化可能空間の可算積」)であり、距離化可能空間は正規(正規空間 の定理「距離空間は正規」)なので thm-ml-product に反する。$\square$
Sorgenfrey直線 $\mathbb{R}_L$ も $\mathbb{R}$ の通常の位相を細かくした空間で、直積で正規性が壊れる例を与える。両者の違いは次のとおりである。
| 性質 | Michael 直線 $\mathbb{M}$ | Sorgenfrey 直線 $\mathbb{R}_L$ |
|---|---|---|
| 細かくする仕方 | 無理数を孤立点にする | 近傍を右半開区間 $[x,x+\varepsilon)$ にする |
| 可分性・Lindelöf 性 | どちらも満たさない | どちらも満たす |
| 任意の部分空間のパラコンパクト性 | 満たす(thm-ml-hered-paracompact) | 満たす(Sorgenfrey直線 の系「任意の部分空間の強パラコンパクト性」) |
| 正規でない直積 | $\mathbb{M}\times\mathbb{P}$(相手は距離化可能) | $\mathbb{R}_L\times\mathbb{R}_L$ |
パラコンパクト性の直積についての定理の仮定を外すと、次の反例になる。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 一方の因子がコンパクト(パラコンパクト空間 の命題「コンパクト空間との直積」) | $\mathbb{M}\times\mathbb{P}$($\mathbb{P}$ はコンパクトでない) | パラコンパクト空間との直積がパラコンパクト |
| 両方の因子が距離化可能(距離化可能空間 の定理「距離化可能空間の可算積」) | $\mathbb{M}\times\mathbb{P}$($\mathbb{M}$ は距離化可能でない) | 直積が正規 |
| 第2可算(Urysohnの距離化定理) | $\mathbb{M}$(第1可算なパラコンパクト Hausdorff 空間) | 正則空間が距離化可能 |
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