特異ホモロジーのホモトピー不変性(homotopy invariance of singular homology)とは、ホモトピックな連続写像 $f\simeq g\colon X\to Y$ が特異ホモロジー群に同じ準同型 $f_*=g_*\colon H_n(X)\to H_n(Y)$ を誘導するという定理である。ホモトピー $F\colon X\times[0,1]\to Y$ から、特異単体の角柱 $\Delta^n\times[0,1]$ を $n+1$ 個の単体に分けて送る角柱作用素 $P$ を作り、鎖の等式 $\partial P+P\partial=g_\sharp-f_\sharp$ を示すことで証明される。帰結として、ホモトピー同値な空間のホモロジー群は同型であり、可縮な空間の被約ホモロジー群はすべて $0$ である。
連続写像 $f,g\colon X\to Y$ がホモトピックならば、$f$ と $g$ は特異ホモロジー群に同じ準同型 $f_*=g_*\colon H_n(X)\to H_n(Y)$ を誘導する。これが特異ホモロジーのホモトピー不変性である。ホモロジーによる議論の大半は、この定理を通って「写像を連続に変形してもホモロジーは変わらない」という形で使われる。可縮な空間のホモロジーが一点のそれに等しいこと、ホモトピー同値な空間のホモロジーが同型であること、球面の写像の写像度がホモトピーで変わらないことは、いずれもこの定理から従う。
証明の要点は、ホモトピー $F\colon X\times[0,1]\to Y$ から、鎖のレベルの「角柱作用素」$P$ を作ることにある。特異単体 $\sigma$ の角柱 $\sigma\times[0,1]$ を $n+1$ 個の単体に分けて $F$ で送り、その境界が「上面 $g\circ\sigma$」「底面 $f\circ\sigma$」「側面 $P(\partial\sigma)$」に分かれることを符号まで確かめる。この記事ではこの計算をすべて行う。
$n\ge0$ に対し $\Delta^n:=\{(t_0,\dots,t_n)\in\mathbb{R}^{n+1}\mid t_i\ge0,\ \sum_it_i=1\}$ を標準 $n$ 単体、$e_0,\dots,e_n$ をその頂点(標準基底)とする。$0\le i\le n$ に対し、$i$ 番目の位置に $0$ を挿入する写像
$$
d_i\colon\Delta^{n-1}\to\Delta^n,\qquad(t_0,\dots,t_{n-1})\mapsto(t_0,\dots,t_{i-1},0,t_i,\dots,t_{n-1})
$$
を $i$ 番目の面写像という。位相空間 $X$ の特異 $n$ 単体とは連続写像 $\sigma\colon\Delta^n\to X$ のことであり、それら全体を基底とする自由アーベル群を $C_n(X)$($n<0$ では $0$)とする。境界作用素 $\partial\colon C_n(X)\to C_{n-1}(X)$ を $\partial\sigma:=\sum_{i=0}^n(-1)^i\sigma\circ d_i$ と定めると $\partial\circ\partial=0$ であり(特異コホモロジー の記事の補題(境界の境界は零))、特異ホモロジー群 $H_n(X):=\ker\partial_n/\operatorname{im}\partial_{n+1}$ が定まる。
連続写像 $f\colon X\to Y$ に対し $f_\sharp(\sigma):=f\circ\sigma$ を線型に拡張した $f_\sharp\colon C_n(X)\to C_n(Y)$ は、$f\circ(\sigma\circ d_i)=(f\circ\sigma)\circ d_i$ により $f_\sharp\partial=\partial f_\sharp$ を満たす(鎖写像である)。したがって $f_\sharp$ は輪体を輪体へ、境界を境界へ送り、準同型 $f_*\colon H_n(X)\to H_n(Y)$ を誘導する。$(g\circ f)_*=g_*\circ f_*$、$(\mathrm{id}_X)_*=\mathrm{id}$ である。
$X\neq\emptyset$ のとき、$\varepsilon\colon C_0(X)\to\mathbb{Z}$、$\varepsilon(\sum_in_i\sigma_i):=\sum_in_i$ を次数 $-1$ に付け加えた鎖複体(添加された鎖複体)のホモロジーを被約ホモロジー群 $\tilde H_n(X)$ という。$n\ge1$ では $\tilde H_n(X)=H_n(X)$ である。アーベル群 $G$ に対し $C_n(X;G):=C_n(X)\otimes_{\mathbb{Z}}G$ のホモロジーを $G$ 係数の特異ホモロジー群 $H_n(X;G)$ という。
鎖複体 $C_\bullet,D_\bullet$ の間の鎖写像 $\varphi,\psi\colon C_\bullet\to D_\bullet$ に対し、準同型の族 $P=(P_n\colon C_n\to D_{n+1})_n$ で、すべての $n$ について
$$
\partial_{n+1}P_n+P_{n-1}\partial_n=\psi_n-\varphi_n
$$
を満たすものを、$\varphi$ から $\psi$ への鎖ホモトピーという。存在するとき $\varphi$ と $\psi$ は鎖ホモトピックであるという。以下、添字を省いて $\partial P+P\partial=\psi-\varphi$ と書く。
$\varphi$ と $\psi$ が鎖ホモトピックならば、すべての $n$ で $\varphi_*=\psi_*\colon H_n(C_\bullet)\to H_n(D_\bullet)$ である。
$z\in C_n$ を輪体($\partial z=0$)とすると、$\psi(z)-\varphi(z)=\partial P(z)+P(\partial z)=\partial P(z)$ は境界である。よって $\psi(z)$ と $\varphi(z)$ は同じホモロジー類を表す。これは ホモロジー の記事の命題(鎖ホモトピックな鎖写像はホモロジー上等しい射を誘導する)と同じ主張である。
角柱作用素は、凸集合の中の「頂点を指定した単体」を組み合わせて作る。その記法と、面・合成についての 2 つの規則を用意する。
$K\subset\mathbb{R}^N$ を凸集合とし、$u_0,\dots,u_m\in K$ とする(重複してもよい)。連続写像
$$
[u_0,\dots,u_m]\colon\Delta^m\to K,\qquad(t_0,\dots,t_m)\mapsto\sum_{j=0}^mt_ju_j
$$
を、頂点 $u_0,\dots,u_m$ のアフィン単体という。$K$ が凸なので値は $K$ に入り、これは $K$ の特異 $m$ 単体である。$\hat u_j$ は $u_j$ を除くことを表す。
(i) $0\le j\le m$ に対し $[u_0,\dots,u_m]\circ d_j=[u_0,\dots,\hat u_j,\dots,u_m]$ である。
(ii) $L\colon\mathbb{R}^N\to\mathbb{R}^{N'}$ をアフィン写像(線型写像と平行移動の合成)とし、$L(K)\subset K'$($K'$ は凸)とすると、$L\circ[u_0,\dots,u_m]=[L(u_0),\dots,L(u_m)]$ である。
(i) $d_j(t_0,\dots,t_{m-1})$ は $j$ 番目の座標が $0$ で、$k< j$ なら $k$ 番目、$k\ge j$ なら $k+1$ 番目の座標が $t_k$ である。よって $[u_0,\dots,u_m](d_j(t))=\sum_{k< j}t_ku_k+\sum_{k\ge j}t_ku_{k+1}$ であり、これは右辺の値にほかならない。
(ii) $L(x)=Ax+b$($A$ は線型)とすると、$\sum_jt_j=1$ より $L(\sum_jt_ju_j)=\sum_jt_jAu_j+\sum_jt_jb=\sum_jt_jL(u_j)$ である。
$n\ge0$ とし、凸集合 $\Delta^n\times[0,1]\subset\mathbb{R}^{n+2}$ の点
$$
v_i:=(e_i,0),\qquad w_i:=(e_i,1)\qquad(0\le i\le n)
$$
をとる(底面と上面の頂点)。$0\le i\le n$ に対し、$n+2$ 個の頂点をもつアフィン単体
$$
\lambda_i:=[v_0,\dots,v_i,w_i,\dots,w_n]\colon\Delta^{n+1}\to\Delta^n\times[0,1]
$$
を考える。$F\colon X\times[0,1]\to Y$ を連続写像とし、特異 $n$ 単体 $\sigma\colon\Delta^n\to X$ に対して $F_\sigma:=F\circ(\sigma\times\mathrm{id}_{[0,1]})\colon\Delta^n\times[0,1]\to Y$ とおく。
$$
P(\sigma):=\sum_{i=0}^n(-1)^i\,F_\sigma\circ\lambda_i\ \in C_{n+1}(Y)
$$
と定め、線型に拡張した $P\colon C_n(X)\to C_{n+1}(Y)$ を $F$ の角柱作用素(prism operator)という。$n<0$ では $P:=0$ とする。以下、頂点の列 $u_0,\dots,u_m$ に対し $F_\sigma[u_0,\dots,u_m]:=F_\sigma\circ[u_0,\dots,u_m]$ と書く。
$\lambda_i$ は、底面の頂点を $v_0$ から $v_i$ まで進み、そこで上面へ上がって $w_i$ から $w_n$ まで進む単体である。$\Delta^n\times[0,1]$ はこの $n+1$ 個の単体の和集合になっている(rem-shhi-prism-geometry)が、以下の証明で使うのは lem-shhi-affine による形式的な計算だけである。
$X,Y$ を位相空間、$f,g\colon X\to Y$ を連続写像とし、$F\colon X\times[0,1]\to Y$ を $f$ から $g$ へのホモトピー($F(x,0)=f(x)$、$F(x,1)=g(x)$)とする。$F$ の角柱作用素 $P$ は $f_\sharp$ から $g_\sharp$ への鎖ホモトピーである:
$$
\partial P+P\partial=g_\sharp-f_\sharp\colon C_n(X)\to C_n(Y)\qquad(n\in\mathbb{Z}).
$$
したがって、すべての $n$ で $f_*=g_*\colon H_n(X)\to H_n(Y)$ である。被約ホモロジー $\tilde H_n$ と、任意のアーベル群 $G$ を係数とする $H_n(-;G)$ についても $f_*=g_*$ である。
$n<0$ では両辺とも $0$ なので、$n\ge0$ と特異 $n$ 単体 $\sigma$ について $\partial P(\sigma)=g_\sharp(\sigma)-f_\sharp(\sigma)-P(\partial\sigma)$ を示せばよい。
段 1($\partial P(\sigma)$ の展開).$\lambda_i$ の頂点の列 $(v_0,\dots,v_i,w_i,\dots,w_n)$ から $k$ 番目を除くと、$k=j\le i$ なら $v_j$ が、$k=j+1$($j\ge i$)なら $w_j$ が除かれる。lem-shhi-affine (i) により
$$
\partial P(\sigma)=\sum_{i=0}^n\sum_{j=0}^{i}(-1)^{i+j}F_\sigma[v_0,\dots,\hat v_j,\dots,v_i,w_i,\dots,w_n]+\sum_{i=0}^n\sum_{j=i}^{n}(-1)^{i+j+1}F_\sigma[v_0,\dots,v_i,w_i,\dots,\hat w_j,\dots,w_n]
$$
である。
段 2($i=j$ の項:上面と底面).$0\le i\le n+1$ に対し $A_i:=F_\sigma[v_0,\dots,v_{i-1},w_i,\dots,w_n]$ とおく($A_0=F_\sigma[w_0,\dots,w_n]$、$A_{n+1}=F_\sigma[v_0,\dots,v_n]$)。第 1 の和の $j=i$ の項は $(+1)A_i$、第 2 の和の $j=i$ の項は $F_\sigma[v_0,\dots,v_i,w_{i+1},\dots,w_n]$ に符号 $-1$ を付けたもので、これは $-A_{i+1}$ である。よって $i=j$ の項の総和は
$$
\sum_{i=0}^n(A_i-A_{i+1})=A_0-A_{n+1}
$$
である。$[w_0,\dots,w_n](t)=\sum_jt_j(e_j,1)=(t,1)$ なので $A_0(t)=F(\sigma(t),1)=g(\sigma(t))$、同様に $A_{n+1}(t)=F(\sigma(t),0)=f(\sigma(t))$ である。すなわち $i=j$ の項の総和は $g_\sharp(\sigma)-f_\sharp(\sigma)$ である。
段 3($i\ne j$ の項:側面).$P(\partial\sigma)=\sum_{j=0}^n(-1)^jP(\sigma\circ d_j)$ を計算する。$\Delta^{n-1}\times[0,1]$ の頂点を $v'_k,w'_k$($0\le k\le n-1$)、その角柱の単体を $\lambda'_i$($0\le i\le n-1$)とすると
$$
F_{\sigma\circ d_j}=F\circ(\sigma\times\mathrm{id})\circ(d_j\times\mathrm{id})=F_\sigma\circ(d_j\times\mathrm{id})
$$
であり、$d_j\times\mathrm{id}$ はアフィン写像で、$v'_k$ を $k< j$ なら $v_k$、$k\ge j$ なら $v_{k+1}$ へ送る($w'_k$ も同様)。lem-shhi-affine (ii) により $F_{\sigma\circ d_j}\circ\lambda'_i$ は、$i< j$ なら $F_\sigma[v_0,\dots,v_i,w_i,\dots,\hat w_j,\dots,w_n]$、$i\ge j$ なら $F_\sigma[v_0,\dots,\hat v_j,\dots,v_{i+1},w_{i+1},\dots,w_n]$ である。後者で $i+1$ を改めて $i$ と書くと($j< i\le n$)、
$$
P(\partial\sigma)=\sum_{0\le i< j\le n}(-1)^{i+j}F_\sigma[v_0,\dots,v_i,w_i,\dots,\hat w_j,\dots,w_n]+\sum_{0\le j< i\le n}(-1)^{i+j-1}F_\sigma[v_0,\dots,\hat v_j,\dots,v_i,w_i,\dots,w_n]
$$
となる。段 1 の $i\ne j$ の項は、第 2 の和の $j>i$ の部分が符号 $(-1)^{i+j+1}$、第 1 の和の $j< i$ の部分が符号 $(-1)^{i+j}$ であり、同じ単体の上で上の式とちょうど符号が逆である。よって段 1 の $i\ne j$ の項の総和は $-P(\partial\sigma)$ である。
段 3 の添字の対応を確かめる。$P(\partial\sigma)$ に現れる組 $(i,j)$ は $0\le i\le n-1$、$0\le j\le n$ である。$i< j$ の組はそのまま段 1 の第 2 の和の $i< j\le n$ の組と一対一に対応する($i< j\le n$ なら自動的に $i\le n-1$)。$i\ge j$ の組は $i'=i+1$ とおくと $0\le j< i'\le n$ の組と一対一に対応し、これは段 1 の第 1 の和の $j< i'$ の組である。符号は $P(\partial\sigma)$ の側が $(-1)^j(-1)^i=(-1)^{i'+j-1}$、段 1 の側が $(-1)^{i'+j}$ で逆である。$n=0$ のときは $i\ne j$ の組がなく、$P(\partial\sigma)=0$ とも一致する。
$\Delta^n\times[0,1]$ は $n+1$ 個の $(n+1)$ 単体 $\lambda_i(\Delta^{n+1})$ の和集合であり、隣り合う $\lambda_i,\lambda_{i+1}$ は $n$ 単体の面 $[v_0,\dots,v_i,w_{i+1},\dots,w_n]$ で接する。$P(\sigma)$ はこの分割を $F_\sigma$ で送ったものなので、$\partial P=g_\sharp-f_\sharp-P\partial$ は「角柱の境界 $=$ 上面 $-$ 底面 $-$ 側面」という図形の関係を鎖で書いたものである(Hat02 p. 112 の図)。
点 $(x,t)$、$x=\sum_jx_je_j\in\Delta^n$ に対し $s_i:=x_i+x_{i+1}+\dots+x_n$($s_0=1$、$s_{n+1}:=0$)とおく。$\lambda_i$ の像の点は $\sum_{j\le i}a_jv_j+\sum_{j\ge i}b_jw_j$(係数は非負で総和 $1$)であり、$x_j=a_j$($j< i$)、$x_i=a_i+b_i$、$x_j=b_j$($j>i$)、$t=\sum_{j\ge i}b_j$ となるので $s_{i+1}\le t\le s_i$ を満たす。逆に $s_{i+1}\le t\le s_i$ なら、$b_j:=x_j$($j>i$)、$b_i:=t-s_{i+1}\in[0,x_i]$、$a_i:=x_i-b_i$、$a_j:=x_j$($j< i$)とおけば $(x,t)$ は $\lambda_i$ の像に入る。$1=s_0\ge s_1\ge\dots\ge s_{n+1}=0$ なので、$t\in[0,1]$ はある区間 $[s_{i+1},s_i]$ に入る。よって $\Delta^n\times[0,1]$ は $\lambda_i$ の像の和集合である。
$f\colon X\to Y$ がホモトピー同値写像ならば、すべての $n$ で $f_*\colon H_n(X)\to H_n(Y)$ は同型である($\tilde H_n$、$H_n(-;G)$ でも同じ)。
ホモトピー逆写像 $h\colon Y\to X$ をとると $h\circ f\simeq\mathrm{id}_X$、$f\circ h\simeq\mathrm{id}_Y$ である。thm-shhi-main と関手性により $h_*f_*=(h\circ f)_*=(\mathrm{id}_X)_*=\mathrm{id}$、同様に $f_*h_*=\mathrm{id}$ なので、$f_*$ は $h_*$ を逆にもつ同型である。
$X$ が可縮空間ならば、すべての $n$ で $\tilde H_n(X)=0$ である。すなわち $H_0(X)\cong\mathbb{Z}$、$H_n(X)=0$($n\ne0$)である。
cor-shhi-equivalence により一点 $\mathrm{pt}$ の場合に帰着する。$\mathrm{pt}$ の特異 $n$ 単体は定値写像 $\sigma_n$ だけであり、$\partial\sigma_n=\sum_{i=0}^n(-1)^i\sigma_{n-1}$ は $n$ が正の偶数なら $\sigma_{n-1}$、奇数なら $0$ である。添加された鎖複体は
$$
\cdots\xrightarrow{\ \mathrm{id}\ }\mathbb{Z}\sigma_3\xrightarrow{\ 0\ }\mathbb{Z}\sigma_2\xrightarrow{\ \mathrm{id}\ }\mathbb{Z}\sigma_1\xrightarrow{\ 0\ }\mathbb{Z}\sigma_0\xrightarrow{\ \varepsilon\ }\mathbb{Z}\to0
$$
で、$\varepsilon(\sigma_0)=1$ も同型である。恒等写像と零写像が交互に並ぶので、どの次数でも核と像が一致し、$\tilde H_n(\mathrm{pt})=0$ である。
角柱作用素は $F$ の値の範囲を広げない。この性質から、部分空間を保つホモトピーについての主張がすぐに得られる。
$F\colon X\times[0,1]\to Y$ の角柱作用素を $P$ とする。
(i) $A\subset X$、$B\subset Y$ が $F(A\times[0,1])\subset B$ を満たすならば、$P(C_n(A))\subset C_{n+1}(B)$ である。
(ii) 連続写像 $\varphi\colon Y\to Y'$ に対し、$\varphi\circ F$ の角柱作用素は $\varphi_\sharp\circ P$ である。連続写像 $\psi\colon X'\to X$ に対し、$F\circ(\psi\times\mathrm{id})$ の角柱作用素は $P\circ\psi_\sharp$ である。
(i) $\sigma(\Delta^n)\subset A$ なら、$P(\sigma)$ の各項 $F_\sigma\circ\lambda_i$ の像は $F(\sigma(\Delta^n)\times[0,1])\subset F(A\times[0,1])\subset B$ に入る。(ii) $(\varphi\circ F)_\sigma=\varphi\circ F_\sigma$、$(F\circ(\psi\times\mathrm{id}))_\sigma=F_{\psi\circ\sigma}$ を定義に代入すればよい。
(i) により、空間対の写像 $f,g\colon(X,A)\to(Y,B)$ が対としてホモトピック(各時刻 $t$ で $F(A\times\{t\})\subset B$)ならば、$P$ は相対鎖複体 $C_\bullet(X)/C_\bullet(A)\to C_{\bullet+1}(Y)/C_{\bullet+1}(B)$ を誘導し、相対ホモロジーでも $f_*=g_*$ となる(相対ホモロジー の記事の命題(対のホモトピー不変性))。$\operatorname{Hom}(-,G)$ を施した $P^\sharp$ は余鎖ホモトピーを与え、特異コホモロジーのホモトピー不変性(特異コホモロジー の記事の定理(ホモトピー不変性))が得られる。
$n=0$ のとき、点 $x$(特異 $0$ 単体)に対し $P(x)=F_x[v_0,w_0]$ は道 $t\mapsto F(x,t)$ である($\Delta^1$ の点 $(1-t,t)$ を $t$ と同一視する)。$\partial P(x)=g(x)-f(x)$ であり、これは「$f(x)$ と $g(x)$ はホモトピーの軌跡で結ばれるので同じ弧状連結成分にある」ことを鎖で表している。
$n=1$ のとき、道 $\sigma$ に対し $P(\sigma)=F_\sigma[v_0,w_0,w_1]-F_\sigma[v_0,v_1,w_1]$ であり、正方形 $\Delta^1\times[0,1]$ を対角線 $v_0w_1$ で 2 つの三角形に切ったものである。直接計算すると
$$
\partial P(\sigma)=\bigl(F_\sigma[w_0,w_1]-F_\sigma[v_0,w_1]+F_\sigma[v_0,w_0]\bigr)-\bigl(F_\sigma[v_1,w_1]-F_\sigma[v_0,w_1]+F_\sigma[v_0,v_1]\bigr)
$$
で、対角線の項が打ち消し合い、$g\circ\sigma-f\circ\sigma-\bigl(F_\sigma[v_1,w_1]-F_\sigma[v_0,w_0]\bigr)$ が残る。最後の括弧は $P(\partial\sigma)=P(\sigma(e_1))-P(\sigma(e_0))$ にほかならない。
空でない凸集合 $K\subset\mathbb{R}^N$ は、一点 $p\in K$ への直線ホモトピー $(x,t)\mapsto(1-t)x+tp$ により可縮なので、cor-shhi-contractible により $\tilde H_n(K)=0$ である。$\mathbb{R}^N$、閉円板 $D^N$、標準単体 $\Delta^n$ がこの例である。星状集合(可縮空間 の記事の例(非空の星状集合))と、任意の空間 $X$ の錐 $CX$(錐(位相) の記事の命題(錐は可縮))も可縮なので、被約ホモロジーは $0$ である。$X$ は $CX$ の底面として埋め込まれる(錐(位相) の記事の命題(底面の埋め込みと頂点の補集合))ので、任意の空間は被約ホモロジーが $0$ の空間の部分空間になる。
$n\ge1$ のとき、$S^{n-1}$ は $\mathbb{R}^n\setminus\{0\}$ の強変位レトラクトである(変位レトラクト の記事の命題(穴あき空間の球面は強変位レトラクト))。したがって包含 $S^{n-1}\hookrightarrow\mathbb{R}^n\setminus\{0\}$ はホモトピー同値で、cor-shhi-equivalence により $H_k(\mathbb{R}^n\setminus\{0\})\cong H_k(S^{n-1})$ である。
Möbius の帯 $M:=[0,1]\times[-1,1]/\bigl((0,y)\sim(1,-y)\bigr)$ では、$H((x,y),t):=(x,(1-t)y)$ が同一視と両立する($(0,y)$ と $(1,-y)$ の行き先 $(0,(1-t)y)$ と $(1,-(1-t)y)$ はふたたび同一視される)ので、$M$ から中心線 $\{y=0\}$(円周と同相)への強変位レトラクションを与える。よって $H_k(M)\cong H_k(S^1)$ である。$M$ は曲面で $S^1$ は曲線なので、ホモロジーは「次元」を見ていないことが分かる。
定理の仮定と、その逆向きの主張がどこで崩れるかをまとめる。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| ホモトピーの各時刻で $A$ を $B$ へ送る | 線分 $(\Delta^1,\{e_0,e_1\})$ の恒等写像と定値写像 | 相対ホモロジーで $f_*=g_*$ |
| ホモトピー逆写像の両側の合成 | 一点 $\to S^1$ の包含と $S^1\to$ 一点 | $f_*$ が同型 |
| 逆向き:ホモロジー同型 $\Rightarrow$ ホモトピー同値 | Warsaw 円から一点への写像 | ホモトピー同値 |
| ホモロジーへ移ること | $[0,1]$ の恒等写像と定値写像 | 鎖写像として $f_\sharp=g_\sharp$ |
$X=Y=\Delta^1$(線分)、$A=B=\{e_0,e_1\}$ とし、$f=\mathrm{id}$、$g$ を値 $e_0$ の定値写像とする。どちらも対の写像 $(X,A)\to(Y,B)$ であり、$Y$ は凸なので直線ホモトピーにより $X\to Y$ の写像としてはホモトピックである。しかし相対ホモロジーでは $f_*\ne g_*$ である。実際、$H_1(X,A)\cong\mathbb{Z}$ であり(相対ホモロジー の記事の例(線分とその端点))、$f_*=\mathrm{id}$ である。一方 $g$ は対の写像 $(X,A)\to(B,B)$ と包含 $(B,B)\to(Y,B)$ の合成で、$H_1(B,B)=0$ なので $g_*=0$ である。満たす性質は「$X\to Y$ としてホモトピック」、満たさない性質は「各時刻で $A$ を $B$ へ送るホモトピーがある」ことで、破れる含意は「$X\to Y$ としてホモトピック $\Rightarrow$ 相対ホモロジーで同じ準同型」である。直線ホモトピーは時刻 $0< t<1$ で端点 $e_1$ を $B$ の外へ動かしている。
$i\colon\mathrm{pt}\to S^1$ を包含、$r\colon S^1\to\mathrm{pt}$ とする。$r\circ i=\mathrm{id}_{\mathrm{pt}}$ だが、$i\circ r$ は定値写像で $\mathrm{id}_{S^1}$ とホモトピックでない(ホモトピー の記事の注意(反例:ホモトピックでない写像))。$H_1(\mathrm{pt})=0$、$H_1(S^1)\cong\mathbb{Z}$(球面 の記事の定理(ホモロジー群とコホモロジー群)、Hat02 Corollary 2.14、p. 114)なので $i_*$ は同型でない。$r_*i_*=\mathrm{id}$ から分かるのは $i_*$ が単射であることだけである。この反例が破るのは「一方の合成が恒等写像にホモトピックなら誘導写像は同型」という含意である。
Warsaw 円 $W\subset\mathbb{R}^2$ は、特異ホモロジーが一点と同型で、しかも一点とホモトピー同値でない(特異コホモロジー の記事の例(反例:Warsaw 円))。したがって $W\to\mathrm{pt}$ はすべての $H_n$ に同型を誘導するが、ホモトピー同値写像ではない。cor-shhi-equivalence の逆「ホモロジー同型を誘導する写像はホモトピー同値」は成り立たない。$W$ が局所連結でないことが効いており、単連結な CW 複体の間では逆向きの主張が成り立つ(Whitehead の定理のホモロジー版、Hat02 Corollary 4.33、p. 367。この記事では証明しない)。
最後の行は、$f_\sharp$ と $g_\sharp$ が鎖写像として異なる例である。$[0,1]$ の恒等写像 $f$ と値 $0$ の定値写像 $g$ では、定値でない道 $\sigma$ について $f_\sharp(\sigma)=\sigma\ne g_\sharp(\sigma)$ である。$f_\sharp$ と $g_\sharp$ の差は角柱作用素による境界の分だけで、ホモロジーに移ってはじめて一致する。
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