重根

同義語:多重根multiple rootrepeated root

概要

重根(multiple root)とは、体 $K$ 上の多項式 $f$ の根 $a$ のうち、$(x-a)^2$ が $f$ を割り切るもの、すなわち 1 次因数 $x-a$ が 2 回以上現れる根のことで、$(x-a)^m$ が $f$ を割り切る最大の $m$ を根の重複度という。$a$ が重根であることは $f(a)=f'(a)=0$ と同値であり、重複度は標数によらず $k$ 階の Hasse 微分 $D^{(k)}f$ の値が $a$ で初めて $0$ でなくなる $k$ として読み取れる。$f$ がどの拡大体でも重根をもたないことは $f$ と導関数 $f'$ の最大公約数が $1$ であることと同値であり、標数 $0$ では $f/\gcd(f,f')$ が $f$ の根を単根として集めた多項式になる。重根の有無は判別式・終結式でも判定でき、分離拡大の出発点になる。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 多項式, 多項式環, 体の拡大

$x^3-3x+2=(x-1)^2(x+2)$ の根 $1$ は、因数 $x-1$ が $2$ 回現れる根である。このように、多項式の 1 次因数として 2 回以上現れる根を 重根 という。グラフで見ると、$y=x^3-3x+2$ は $x=1$ で $x$ 軸に接し、$x=-2$ では $x$ 軸を横切る。係数を少し動かすと、重根は近くにある複数の根に分かれる。
重根は、方程式の解の個数を数える場面だけでなく、体論で中心的な役割をもつ。多項式が重根をもたないこと(分離的であること)は Galois拡大 の定義の一部であり、標数 $p$ の体では既約多項式でも重根をもつことがある。この記事では、根の重複度を定義したうえで、重複度を微分の値で読み取る方法(標数によらない形と、通常の微分による形)、多項式 $f$ と導関数 $f'$ の最大公約数による判定、$f/\gcd(f,f')$ が $f$ の根を重根なしに集めた多項式になることを証明する。

定義

以下、$K$ は体とし、$K[x]$ を $K$ 係数の 1 変数多項式環とする。$L$ が $K$ の拡大体なら $K[x]\subset L[x]$ である。

根の重複度・単根・重根

$0$ でない $f\in K[x]$ と、$K$ の拡大体 $L$ の元 $a$ について、$f(a)=0$ のとき $a$ を $f$ の根という。根 $a$ について、$L[x]$ の中で $(x-a)^m$ が $f$ を割り切るような最大の整数 $m\ge1$ を、$a$ の重複度(multiplicity)という。重複度が $1$ の根を単根(simple root)、$2$ 以上の根を重根(multiple root)という。重複度が $m$ の根を $m$ 重根ともいう。
$f$ がある拡大体 $L$ の中に重根をもつとき、$f$ は重根をもつという。

$f\ne0$ なので、$(x-a)^m\mid f$ なら $m\le\deg f$ であり、最大の $m$ は存在する。重複度が $m$ であることは、$L[x]$ の中で
$$ f=(x-a)^m q,\qquad q(a)\ne0 $$
と書けることと同じである。実際、$(x-a)^m\mid f$ で $f=(x-a)^mq$ と書いたとき、$(x-a)^{m+1}\mid f$ であることは、$L[x]$ が整域であることから両辺を $(x-a)^m$ で割って $(x-a)\mid q$、すなわち $q(a)=0$ と同値である(多項式 の記事の定理「剰余定理と因数定理」)。
重複度は $a$ を含む拡大体 $L$ のとり方によらない。$a$ を含む 2 つの拡大体 $L,L'$ があっても、$f$ を $(x-a)^m$ で割る計算は $K(a)[x]$ の中で行え、除法の商と余りはただ 1 つに決まるので(多項式 の記事の定理「多項式の除法」)、割り切れるかどうかは $L$ で見ても $L'$ で見ても同じである。重複度の定義と、異なる根の重複度の和が $\deg f$ 以下であることは 多項式 の記事の命題「根の重複度の総和」にもある。
方程式 $f(x)=0$ の解として見るときは、重根を重解ともいう。

直感

重根は「2 つ以上の根がぶつかって 1 つになったもの」と考えるとよい。$f_\varepsilon(x)=(x-1)^2-\varepsilon^2=(x-1-\varepsilon)(x-1+\varepsilon)$ は $\varepsilon\ne0$ なら単根 $1\pm\varepsilon$ をもち、$\varepsilon\to0$ で 2 つの根が $1$ に合流して重根になる。根がぶつかる瞬間には、グラフは $x$ 軸に接する。接するとは傾き $f'(a)$ が $0$ になることであり、これが「重根では $f$ と $f'$ が同時に $0$ になる」という判定の由来である。代数的には、$f$ と $f'$ の共通因数を取り出す計算(Euclidの互除法)で、根を 1 つも求めずに重根の有無が分かる。

例

有理数係数の多項式の重根
  1. $f=x^3-3x+2=(x-1)^2(x+2)$ では、$1$ が重複度 $2$ の重根、$-2$ が単根である。$f'=3x^2-3=3(x-1)(x+1)$ であり、$f(1)=f'(1)=0$、$f'(-2)=9\ne0$ である。$f$ と $f'$ の最大公約数(モニックなもの)は $x-1$ である。
  2. $f=x^5-x^4-2x^3+2x^2+x-1=(x-1)^3(x+1)^2$ では、$1$ が 3 重根、$-1$ が 2 重根である。$f$ と $f'$ の最大公約数は $x^3-x^2-x+1=(x-1)^2(x+1)$ であり、$f$ をこれで割ると $(x-1)(x+1)$ が残る。この現象は thm-mr-squarefree-part で一般に説明する。
  3. $f=(x^2-2)^2$ は $\mathbb{Q}$ の中に根をもたないが、$\mathbb{R}$ の中では $\pm\sqrt2$ がどちらも 2 重根である。重根をもつかどうかは、係数の体の中に根があるかどうかとは別の問題である。
標数 $p$ の体での重根
  1. $p$ を素数とし、$\mathbb{F}_p$ を $p$ 元体とする。$\mathbb{F}_p[x]$ では $(x-1)^p=x^p-1$ である(二項係数 $\binom pk$($0< k< p$)が $p$ で割り切れるため)。よって $x^p-1$ の根は $1$ だけで、重複度は $p$ である。形式微分は $(x^p-1)'=px^{p-1}=0$ である。
  2. $t$ を変数とし、$\mathbb{F}_p$ 上の有理関数体 $K=\mathbb{F}_p(t)$ で $f=x^p-t$ を考える。$f$ は $K$ 上既約であるが、$t$ の $p$ 乗根 $u$ を添加した体では $f=x^p-u^p=(x-u)^p$ となり、$u$ は重複度 $p$ の重根である(正規拡大、完全体 でも扱われる例)。既約多項式でも重根をもつことがあるのは、標数 $p$ の体に特有の現象である。

微分による重複度の判定

形式微分 $f'$ は、$f=\sum_ia_ix^i$ に対して $f'=\sum_{i\ge1}ia_ix^{i-1}$ と係数だけで定める。積の公式 $(fg)'=f'g+fg'$ が成り立つ。多項式 の記事の命題「重根と形式微分」により、どの標数でも
$$ (x-a)^2\mid f\iff f(a)=f'(a)=0 $$
である。すなわち、根 $a$ が重根であるかどうかは $f'(a)$ で判定できる。では重複度そのものはどう読み取るか。標数 $0$ では高階の導関数の値を順に見ればよいが、ex-mr-char-p の 1 では $f=(x-1)^p$ の 1 階以上の導関数がすべて $0$ になり、通常の微分では重複度が見えない。そこで、$k$ 階導関数を $k!$ で割ったものを、割り算をせずに直接定義する。

Hasse 微分

$k\ge0$ とする。$f=\sum_ia_ix^i\in K[x]$ に対して
$$ D^{(k)}f:=\sum_{i\ge k}\binom ik a_ix^{i-k} $$
とおき、これを $f$ の $k$ 階の Hasse 微分という。ここで二項係数 $\binom ik$ は整数を $K$ の元と見たものである。

$D^{(0)}f=f$、$D^{(1)}f=f'$ であり、$x^i$ の $k$ 階導関数は $i(i-1)\cdots(i-k+1)x^{i-k}=k!\binom ikx^{i-k}$ なので、つねに
$$ f^{(k)}=k!\,D^{(k)}f $$
が成り立つ。$K$ の標数が $0$ なら $D^{(k)}f=f^{(k)}/k!$ である。

多項式の Taylor 展開

$f\in K[x]$、$a$ を $K$ の拡大体 $L$ の元とする。このとき $L[x]$ の中で
$$ f=\sum_{k\ge0}\bigl(D^{(k)}f\bigr)(a)\,(x-a)^k $$
が成り立つ(右辺は有限和)。さらに、$f=\sum_kc_k(x-a)^k$($c_k\in L$)と書く方法はこれ 1 通りである。

二項定理で展開する

両辺とも $f$ について線形なので、$f=x^i$ の場合に示せばよい。二項定理により
$$ x^i=\bigl((x-a)+a\bigr)^i=\sum_{k=0}^{i}\binom ik a^{i-k}(x-a)^k $$
であり、$\bigl(D^{(k)}x^i\bigr)(a)=\binom ika^{i-k}$($k\le i$)、$D^{(k)}x^i=0$($k>i$)だから、これは主張の式そのものである。
書き方が 1 通りであること:$\sum_kc_k(x-a)^k=\sum_kc'_k(x-a)^k$ で、ある $k$ について $c_k\ne c'_k$ とする。そのような最小の $k$ を $k_0$ とすると、差は $(x-a)^{k_0}\bigl((c_{k_0}-c'_{k_0})+(x-a)r\bigr)$($r\in L[x]$)となり、$0$ でない定数 $c_{k_0}-c'_{k_0}$ があるので $0$ にならない。これは矛盾である。$\square$

重複度と Hasse 微分

$0$ でない $f\in K[x]$ と、$K$ の拡大体の元 $a$ について、$a$ の $f$ における重複度($f(a)\ne0$ のときは $0$ と約束する)は、
$$ \bigl(D^{(k)}f\bigr)(a)\ne0 $$
となる最小の $k\ge0$ に等しい。すなわち、$a$ が $f$ の $m$ 重根であることは、$\bigl(D^{(k)}f\bigr)(a)=0$($0\le k< m$)かつ $\bigl(D^{(m)}f\bigr)(a)\ne0$ であることと同値である。この判定は $K$ の標数によらない。

Taylor 展開の最初の項を見る

$c_k:=\bigl(D^{(k)}f\bigr)(a)$ とおく。lem-mr-taylor により $f=\sum_kc_k(x-a)^k$ であり、$f\ne0$ なので $c_k\ne0$ となる $k$ がある。その最小のものを $m$ とすると
$$ f=(x-a)^m q,\qquad q:=c_m+c_{m+1}(x-a)+c_{m+2}(x-a)^2+\cdots $$
で、$q(a)=c_m\ne0$ である。定義の直後に述べたとおり、これは $a$ の重複度がちょうど $m$ であること($m=0$ なら $f(a)=c_0\ne0$、すなわち $a$ が根でないこと)を意味する。$\square$

標数 $0$ の体や、標数が大きい体では、Hasse 微分を通常の微分に置き換えられる。

通常の微分による重複度の判定

$m\ge1$ とし、$m!$ が $K$ で $0$ でない($K$ の標数が $0$ であるか、標数 $p$ が $p>m$ を満たす)とする。$0$ でない $f\in K[x]$ と拡大体の元 $a$ について、$a$ が $f$ の $m$ 重根であることは
$$ f(a)=f'(a)=\cdots=f^{(m-1)}(a)=0,\qquad f^{(m)}(a)\ne0 $$
と同値である。

$k!$ が可逆であることを使う

$0\le k\le m$ なら $k!$ は $m!$ を割り切るので、$k!\ne0$ である。$f^{(k)}=k!\,D^{(k)}f$ だから、$f^{(k)}(a)=0$ と $\bigl(D^{(k)}f\bigr)(a)=0$ は同値である。thm-mr-hasse の条件に現れる $k$ はすべて $0\le k\le m$ の範囲にあるので、主張が従う。$\square$

$m=2$ の場合、$f(a)=f'(a)=0$ かつ $f''(a)\ne0$ なら $a$ はちょうど 2 重根である。標数 $2$ ではこれが使えない:$\mathbb{F}_2$ 上の $f=x^2$ は $0$ を 2 重根にもつが、$f''=2=0$ である。Hasse 微分では $D^{(2)}x^2=\binom22=1$ なので、thm-mr-hasse のとおり重複度 $2$ が読み取れる。ex-mr-char-p の 1 の $f=(x-1)^p=x^p-1$ でも、$1\le k\le p$ について $D^{(k)}f=\binom pkx^{p-k}$ であり、$x=1$ での値は $1\le k< p$ で $\binom pk=0$、$k=p$ で $1$ である。$f(1)=0$ と合わせて、重複度 $p$ が正しく得られる。

最大公約数による判定

根を求めずに重根の有無を調べるには、$f$ と $f'$ の最大公約数を計算すればよい。以下、$f,g\in K[x]$ の少なくとも一方が $0$ でないとき、$\gcd(f,g)$ はモニックな最大公約数(多項式 の記事の定義「多項式の最大公約式」)を表す。$\gcd(f,0)$ は $f$ を最高次の係数で割ったものである。

最大公約数は係数の体によらない

$f,g\in K[x]$ の少なくとも一方が $0$ でないとし、$L$ を $K$ の拡大体とする。$K[x]$ で計算した $\gcd(f,g)$ と、$L[x]$ で計算した $\gcd(f,g)$ は一致する。

Bézout 表示を使う

$d$ を $K[x]$ での最大公約数、$e$ を $L[x]$ での最大公約数とする。多項式 の記事の定理「Euclid の互除法と Bézout 表示」により、$d=uf+vg$ となる $u,v\in K[x]$ がある。$d$ は $K[x]$ で $f,g$ を割り切るので $L[x]$ でも割り切り、$e$ の定義から $d\mid e$ である。一方 $e$ は $L[x]$ で $f,g$ を割り切るので、$uf+vg=d$ も割り切る。$d,e$ はどちらもモニックで互いに割り切り合うので $d=e$ である。$\square$

重根をもたないことの判定

$f\in K[x]$ を次数 $1$ 以上とする。次の 3 条件は同値である。

  1. $K$ のどの拡大体の中でも、$f$ は重根をもたない。
  2. $\gcd(f,f')=1$ である。
  3. $f$ が 1 次式の積に分解するような $K$ の拡大体 $L$ が 1 つあって、$L$ の中で $f$ は重根をもたない。
共通根を Bézout 表示で消す

2 ⇒ 1:$uf+vf'=1$ となる $u,v\in K[x]$ をとる。ある拡大体 $L$ の中に重根 $a$ があれば、多項式 の記事の命題「重根と形式微分」($L$ 上で適用する)により $f(a)=f'(a)=0$ であり、$x=a$ を代入すると $0=1$ となって矛盾する。
1 ⇒ 3:$f$ が 1 次式の積に分解する拡大体は存在する(分解体 の記事の定理「分解体の存在」)。1 によりその中で $f$ は重根をもたない。
3 ⇒ 2:$d:=\gcd(f,f')$ とおき、$\deg d\ge1$ と仮定する。lem-mr-gcd-field により $d$ は $L[x]$ での最大公約数でもある。$L[x]$ で $f=c\prod_i(x-a_i)$ と分解しているので、$f$ を割り切るモニックな $d$ は、$L[x]$ の一意分解により、いくつかの $x-a_i$ の積である。特に $d(a_i)=0$ となる $i$ がある。すると $f(a_i)=f'(a_i)=0$ であり、多項式 の記事の命題「重根と形式微分」により $a_i$ は $L$ の中の重根である。これは 3 に反する。$\square$

3 の条件は拡大体 $L$ を 1 つ選んで述べているが、1 と同値なので、$L$ のとり方によらない。この性質をもつ多項式を分離的な多項式、または分離多項式という(分離拡大 の記事の定義「分離多項式」、完全体 の記事の定義「分離的な多項式と拡大」)。
$f$ が既約なら、$\gcd(f,f')$ は $1$ か $f$ の定数倍であり、後者は $f\mid f'$、すなわち(次数を比べて)$f'=0$ のときに限る。こうして「既約多項式が重根をもつのは $f'=0$ のときに限り、標数 $0$ では起こらない」ことが分かる。これは 完全体 の記事の命題「既約多項式が分離的であるための条件」である。標数 $p$ で $f'=0$ となるのは、$f$ が $x^p$ の多項式であるときである(ex-mr-char-p の 2)。
次の定理は、$\gcd(f,f')$ が重根の情報をすべて持っていることを示す。

$f$ と $f'$ の最大公約数

次数 $1$ 以上の $f\in K[x]$ が、$K$ の拡大体 $L$ の中で
$$ f=c\prod_{i=1}^{r}(x-a_i)^{m_i}\qquad(c\in K\setminus\{0\},\ a_1,\dots,a_r\in L\text{ は相異なる},\ m_i\ge1) $$
と分解しているとする。各 $m_i$ が $K$ で $0$ でない($K$ の標数が $0$ なら常に成り立ち、標数 $p$ なら $p\nmid m_i$ を意味する)とき、
$$ \gcd(f,f')=\prod_{i=1}^{r}(x-a_i)^{m_i-1} $$
である。したがって $f/\gcd(f,f')=c\prod_{i=1}^r(x-a_i)$ は $K[x]$ の元で、$f$ と同じ根をもち、その根はすべて単根である。

各根で微分の最初の項を見る

$h:=\prod_i(x-a_i)^{m_i-1}$、$f_i:=\prod_{j\ne i}(x-a_j)^{m_j}$ とおく。積の微分公式により
$$ f'=c\sum_{i=1}^{r}m_i(x-a_i)^{m_i-1}f_i $$
である。右辺の第 $i$ 項は $(x-a_i)^{m_i-1}$ と、$j\ne i$ について $(x-a_j)^{m_j}$ を因子にもつので、$h$ で割り切れる。よって $h$ は $L[x]$ で $f$ と $f'$ を割り切る。
$e$ を $L[x]$ での $\gcd(f,f')$ とする。$e\mid f$ なので、$L[x]$ の一意分解により $e=\prod_i(x-a_i)^{e_i}$($0\le e_i\le m_i$)と書け、$h\mid e$ から $e_i\ge m_i-1$ である。$e_i=m_i$ となる $i$ があったとすると、$(x-a_i)^{m_i}\mid f'$ である。上の和の第 $j$ 項($j\ne i$)は $f_j$ を通じて $(x-a_i)^{m_i}$ を因子にもつので、残る第 $i$ 項 $cm_i(x-a_i)^{m_i-1}f_i$ も $(x-a_i)^{m_i}$ で割り切れ、$x-a_i$ が $cm_if_i$ を割り切る。ところが
$$ c\,m_i\,f_i(a_i)=c\,m_i\prod_{j\ne i}(a_i-a_j)^{m_j}\ne0 $$
である($c\ne0$、仮定により $m_i\ne0$、$a_j$ は相異なる)。これは矛盾なので、すべての $i$ で $e_i=m_i-1$、すなわち $e=h$ である。
lem-mr-gcd-field により $h$ は $K[x]$ での $\gcd(f,f')$ でもあり、$K[x]$ の元である。$f$ を $h$ で割った商は $K[x]$ の元で、$L[x]$ では $c\prod_i(x-a_i)$ に等しい。$\square$

相異なる根の個数

$K$ の標数が $0$ のとき、次数 $1$ 以上の $f\in K[x]$ が 1 次式の積に分解する拡大体の中での $f$ の相異なる根の個数は $\deg f-\deg\gcd(f,f')$ である。

次数を数える

thm-mr-squarefree-part の記号で、$\deg f=\sum_im_i$、$\deg\gcd(f,f')=\sum_i(m_i-1)=\deg f-r$ である。$\square$

ex-mr-rational の 2 では $\deg f=5$、$\deg\gcd(f,f')=3$ で、相異なる根は $1,-1$ の $2$ 個である。この個数は、根を 1 つも求めずに、$K[x]$ の中の互除法だけで計算できる。

実数係数の場合:グラフとの関係

符号の変化と重複度

$f\in\mathbb{R}[x]$ を $0$ でない多項式、$a\in\mathbb{R}$ を重複度 $m$ の根とする。このとき $\delta>0$ があって、$0<|x-a|< \delta$ の範囲で $f(x)$ は $0$ にならず、

  1. $m$ が奇数なら、$f(x)$ の符号は $x< a$ と $x>a$ で逆になる。
  2. $m$ が偶数なら、$f(x)$ の符号は $x< a$ と $x>a$ で同じである。
    また、$y=f(x)$ のグラフが点 $(a,0)$ で $x$ 軸に接する($f'(a)=0$)ことは、$m\ge2$ と同値である。
残りの因子は符号を変えない

$f=(x-a)^mq$、$q(a)\ne0$ と書く。$q$ は連続なので、$\delta>0$ を十分小さくとれば、$|x-a|< \delta$ で $q(x)$ は $q(a)$ と同じ符号をもつ。$0<|x-a|< \delta$ では $(x-a)^m\ne0$ であり、その符号は $m$ が偶数なら常に正、$m$ が奇数なら $x-a$ の符号と一致する。$f(x)=(x-a)^mq(x)$ の符号はこれらの積なので 1 と 2 が従う。最後の主張は 多項式 の記事の命題「重根と形式微分」($f(a)=0$ のもとで $f'(a)=0\iff(x-a)^2\mid f$)そのものである。$\square$

たとえば $x^2$ は $0$ の前後で正のまま、$x^3$ は $0$ で負から正に変わる。3 次関数のグラフが $x$ 軸に接することと 3 次方程式が重解をもつことの関係は、高校数学の範囲で 3次方程式と多項式の判別式 でも扱われている。

反例:条件を外すと何が崩れるか

外す条件反例成り立たなくなること
係数が体であること$\mathbb{Z}/4\mathbb{Z}$ 係数の $x^2$$x^2=(x-2)^2$ なので、根 $0$ と $2$ がどちらも 2 回現れる。重複度の和が次数を超え、重複度が因数分解から一通りに決まらない
$m!\ne0$(cor-mr-derivative)$\mathbb{F}_p$ 係数の $(x-1)^p$1 階以上の導関数がすべて $0$ になり、通常の微分では重複度 $p$ が読み取れない(Hasse 微分では読み取れる)
重複度が $K$ で $0$ でないこと(thm-mr-squarefree-part)$\mathbb{F}_3$ 係数の $f=(x-1)^3(x+1)$$f'=(x-1)^3$ なので $\gcd(f,f')=(x-1)^3$ となり、$f/\gcd(f,f')=x+1$ から根 $1$ が消える
標数が $0$ であること(既約なら重根なし)$\mathbb{F}_p(t)$ 係数の $x^p-t$既約なのに重根をもつ
すべての拡大体で見ること(thm-mr-gcd の 1)$\mathbb{Q}$ 係数の $(x^2-2)^2$$\mathbb{Q}$ の中には根がなく重根もないが、$\gcd(f,f')=x^2-2\ne1$ であり、$\mathbb{R}$ の中では重根をもつ

1 行目で $\mathbb{Z}/4\mathbb{Z}$ は整域でないため、$(x-0)^2$ と $(x-2)^2$ という異なる因数分解が同じ多項式を与える。3 行目では $f'=3(x-1)^2(x+1)+(x-1)^3$ の第 1 項が係数 $3=0$ で消えており、prf-mr-squarefree-part の「第 $i$ 項の係数 $m_i$ が $0$ でない」ことが使えなくなっている。

補足

判別式・終結式との関係

$f$ が重根をもつことは、$f$ の判別式 $\Delta(f)$ が $0$ になることと同値である(判別式 の記事の命題「判別式が 0 になる条件」)。判別式は $f$ と $f'$ の終結式 $\operatorname{Res}(f,f')$ で書ける(判別式 の記事の系「判別式と終結式」)。終結式は $f$ と $f'$ が共通根をもつかを係数の多項式 1 つで判定する量であり、thm-mr-gcd を係数の式で言い直したものと見ることができる。

重根の現れる場面

線形漸化式の特性方程式が重解をもつと、一般項に $n\lambda^n$ の形の項が現れ、対応する行列は対角化できず Jordan 細胞が現れる(重解とJordan細胞)。Newton法 の記事では、根で導関数が $0$ になる例として $f(x)=x^2$ の零点 $0$ を扱っている。複素関数の零点の位数は重複度の一般化である(零点の位数)。

文献

重複度の定義と、重根が $f'(a)=0$ で判定できること、標数 $p$ で $f'=0$ となる条件は Lan02 Chapter IV §1 の Proposition 1.11・1.12(pp. 178–179)にある。分離的な多項式の定義と、$\gcd(f,f')=1$ による判定は DF04 §13.5 の Proposition 33 と Corollary 34(pp. 546–547)にある。

関連項目

参考文献

[1]
[2]
David S. Dummit, Richard M. Foote, Abstract Algebra, 3rd ed., Wiley, 2004, §13.5, Proposition 33・Corollary 34(pp. 546–547)

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