可逆層

同義語:invertible sheaf可逆加群層

概要

可逆層(invertible sheaf)とは、環付き空間 $(X,\mathcal O_X)$ 上で局所的に $\mathcal O_X$ と同型になる階数1の局所自由加群層である。幾何的には適切な圏で直線束の切断の層に対応し、開被覆上の遷移関数(単数値のコサイクル)で同型類が決まる。双対層がテンソル積に関する逆元になり、可逆層の同型類はPicard群をなす。Cartier因子 $D$ から得られる $\mathcal O_X(D)$ では因子の加法がテンソル積に対応し、射影直線では $\mathcal O(n)$ の大域切断は次数 $n$ の斉次多項式である。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 環付き空間, 層, 加群, テンソル積, 因子

定義と直感

可逆層

$(X,\mathcal O_X)$ を可換環の層をもつ環付き空間とする。$\mathcal O_X$-加群 $\mathcal L$ が可逆層(invertible sheaf)であるとは、各点 $x\in X$ に開近傍 $U$ が存在して
$$ \mathcal L|_U\cong\mathcal O_X|_U $$
となることをいう。すなわち、可逆層とは階数 $1$ の局所自由 $\mathcal O_X$-加群である(Har77 第 II 章 §5、p. 109)。

局所的には可逆層は関数の層そのものに見える。大域的な違いは、局所生成元を重なり上で貼り合わせる単数によって生じる。開被覆 $X=\bigcup_iU_i$ 上で $\mathcal L|_{U_i}$ の生成元 $s_i$ を選ぶと、$U_i\cap U_j$ 上に
$$ s_i=g_{ij}s_j,\qquad g_{ij}\in\mathcal O_X^\times(U_i\cap U_j) $$
があり、三重の重なりで $g_{ij}g_{jk}=g_{ik}$ を満たす。この貼り合わせの「ねじれ」が可逆層の大域的情報である。

テンソル積について可逆という定義

$\mathcal O_X$-加群 $\mathcal L$ を、関手 $\mathcal F\mapsto\mathcal L\otimes_{\mathcal O_X}\mathcal F$ が $\mathcal O_X$-加群の圏の圏同値になるものとして「可逆」と定義する流儀もある(Stacks01CR Definition 17.25.1)。階数 $1$ の局所自由加群はこの意味でも可逆であり、すべての茎 $\mathcal O_{X,x}$ が局所環のとき(スキームや複素多様体のとき)二つの定義は一致する(同 Lemma 17.25.4)。一般の環付き空間では一致しない。この記事では上の定義を使う。

遷移関数とコサイクル

可逆層は、被覆ごとの「遷移関数」で完全に記述される。

遷移関数による分類

$\mathfrak U=\{U_i\}_{i\in I}$ を $X$ の開被覆とし、$\mathcal L,\mathcal M$ を各 $U_i$ 上で自明な可逆層とする。$\mathcal L|_{U_i}$ の生成元 $s_i$、$\mathcal M|_{U_i}$ の生成元 $t_i$ を選び、$s_i=g_{ij}s_j$、$t_i=h_{ij}t_j$ で $g_{ij},h_{ij}\in\mathcal O_X^\times(U_i\cap U_j)$ を定める。

  1. $g_{ii}=1$ であり、$U_i\cap U_j\cap U_k$ 上で $g_{ij}g_{jk}=g_{ik}$ が成り立つ。
  2. 生成元を $s_i'=a_is_i$($a_i\in\mathcal O_X^\times(U_i)$)に取り替えると、$g_{ij}$ は $g_{ij}'=a_ig_{ij}a_j^{-1}$ に変わる。
  3. $\mathcal L\cong\mathcal M$ であることと、ある $a_i\in\mathcal O_X^\times(U_i)$ について $U_i\cap U_j$ 上で $h_{ij}=a_i^{-1}g_{ij}a_j$ となることは同値である。
  1. $s_i=g_{ii}s_i$ で $s_i$ は $\mathcal L|_{U_i}$ の生成元($\mathcal O_{U_i}\to\mathcal L|_{U_i}$、$1\mapsto s_i$ が同型)だから $g_{ii}=1$ である。三重の重なりで $s_i=g_{ij}s_j=g_{ij}g_{jk}s_k$ と $s_i=g_{ik}s_k$ を比べ、同じ理由で $g_{ij}g_{jk}=g_{ik}$ を得る。
  2. $s_i'=a_is_i=a_ig_{ij}s_j=a_ig_{ij}a_j^{-1}s_j'$ である。
  3. 同型 $\varphi\colon\mathcal L\to\mathcal M$ があるとする。$\varphi|_{U_i}$ は生成元を生成元へ送るので、$\varphi(s_i)=a_it_i$ となる $a_i\in\mathcal O_X^\times(U_i)$ がある。$U_i\cap U_j$ 上で
    $$ a_it_i=\varphi(s_i)=\varphi(g_{ij}s_j)=g_{ij}a_jt_j,\qquad a_it_i=a_ih_{ij}t_j $$
    であり、$t_j$ が生成元なので $a_ih_{ij}=g_{ij}a_j$、すなわち $h_{ij}=a_i^{-1}g_{ij}a_j$ である。逆にこの関係があれば、$\varphi_i\colon\mathcal L|_{U_i}\to\mathcal M|_{U_i}$ を $s_i\mapsto a_it_i$ で定める。$U_i\cap U_j$ 上で
    $$ \varphi_i(s_j)=\varphi_i(g_{ij}^{-1}s_i)=g_{ij}^{-1}a_it_i=g_{ij}^{-1}a_ih_{ij}t_j=a_jt_j=\varphi_j(s_j) $$
    なので $\varphi_i$ と $\varphi_j$ は重なりで一致し、層の射の貼り合わせ(Stacks00AK Lemma 6.33.1)により $\varphi\colon\mathcal L\to\mathcal M$ が得られる。各 $\varphi_i$ は同型なので $\varphi$ も同型である。

逆に、1 を満たす任意の族 $(g_{ij})$ に対して、$\mathcal O_{U_i}$ たちを $g_{ij}$ 倍で貼り合わせた可逆層が存在する(層の貼り合わせ、Stacks00AK Lemma 6.33.2)。したがって、$\mathfrak U$ の各開集合上で自明な可逆層の同型類は、Čech コサイクル $(g_{ij})$ をコバウンダリ $(a_ia_j^{-1})$ の差で割ったもの、すなわち Čech コホモロジー $\check H^1(\mathfrak U,\mathcal O_X^\times)$ と一対一に対応する。被覆を細かくする極限をとると、茎が局所環の環付き空間では $\operatorname{Pic}(X)\cong H^1(X,\mathcal O_X^\times)$ となる(Stacks09NT Lemma 20.6.1。この記事では証明しない)。

直線束との対応

「可逆層」と「直線束」は対応するが、どの幾何の圏を考えるかを指定する必要がある。

  • スキーム $X$ では、可逆 $\mathcal O_X$-加群は階数 $1$ の代数的ベクトル束に対応する。
  • 複素多様体 $X$ では、正則関数の層 $\mathcal O_X$ 上の可逆層は正則直線束に対応する。
  • 位相空間上の連続関数の層を用いる場合は、連続な直線束との対応を考える。
    いずれの場合も、可逆層の局所生成元を束の局所枠とみなし、$g_{ij}$ を遷移関数として幾何的な直線束を貼り合わせる。逆に、直線束の局所切断の層は階数 $1$ の局所自由層になる。したがって「直線束」は幾何的対象、「可逆層」はその切断を層として表した対象である。任意の環付き空間に追加構造を指定せず、無条件に幾何的直線束と同一視してはいけない。

双対とテンソル逆

可逆層 $\mathcal L$ の双対を
$$ \mathcal L^\vee:=\mathcal H\!om_{\mathcal O_X}(\mathcal L,\mathcal O_X) $$
とおく。

双対はテンソル逆

$\mathcal L$ が可逆層なら $\mathcal L^\vee$ も可逆層であり、評価写像
$$ \mathcal L\otimes_{\mathcal O_X}\mathcal L^\vee\longrightarrow\mathcal O_X, \qquad s\otimes\varphi\longmapsto\varphi(s) $$
は同型である。

主張は局所的に確かめられる。$\mathcal L|_U\cong\mathcal O_U$ となる開集合 $U$ 上では
$$ \mathcal L^\vee|_U \cong\mathcal H\!om_{\mathcal O_U}(\mathcal O_U,\mathcal O_U) \cong\mathcal O_U $$
である。さらに評価写像は
$$ \mathcal O_U\otimes_{\mathcal O_U}\mathcal O_U\longrightarrow\mathcal O_U, \qquad a\otimes b\longmapsto ab $$
となり、逆写像 $c\mapsto c\otimes1$ をもつ。評価写像そのものは $X$ 全体で定義された層の射であり、その制限が各 $U$ 上で同型なので、全体で同型である。

テンソル積とPicard群

$\mathcal L,\mathcal M$ が可逆層なら $\mathcal L\otimes\mathcal M$ も可逆層である。可逆層の同型類全体は、テンソル積を演算、$\mathcal O_X$ を単位元、$\mathcal L^\vee$ を逆元としてアーベル群をなし、これを $X$ のPicard群 $\operatorname{Pic}(X)$ という。

$\mathcal L$ と $\mathcal M$ が同時に自明になる開被覆をとる(それぞれの自明化の開集合の共通部分を取ればよい)。その各開集合 $U$ 上で
$$ (\mathcal L\otimes\mathcal M)|_U \cong\mathcal O_U\otimes\mathcal O_U \cong\mathcal O_U $$
だから、テンソル積も可逆である。テンソル積の結合・交換の標準同型により、同型類上の演算は結合的かつ可換である。単位元は $\mathcal O_X$ の類であり、prop-invertible-sheaf-dual により $\mathcal L^\vee$ の類が $\mathcal L$ の類の逆元になる。

これは Har77 第 II 章 Proposition 6.12(p. 143)である。遷移関数で見ると、$\mathcal L\otimes\mathcal M$ の遷移関数は $g_{ij}h_{ij}$、$\mathcal L^\vee$ の遷移関数は $g_{ij}^{-1}$ であり、Picard 群の演算は遷移関数の積に当たる。
環付き空間の射 $f\colon X\to Y$ に対し、引き戻し $f^*$ は可逆層を可逆層へ移し($f^*\mathcal O_V\cong\mathcal O_{f^{-1}V}$ だから)、
$$ f^*(\mathcal L\otimes\mathcal M)\cong f^*\mathcal L\otimes f^*\mathcal M $$
を満たす。したがって $f^*\colon\operatorname{Pic}(Y)\to\operatorname{Pic}(X)$ は群準同型である。

射影直線の可逆層

$k$ を体、$S=k[x_0,x_1]$ を次数付き多項式環、$X=\mathbb P^1_k=\operatorname{Proj}S$ とし、$U_i=D_+(x_i)$($i=0,1$)とおく。整数 $n$ に対し、$\mathcal O(n)$ を次数を $n$ だけずらした次数付き加群 $S(n)$ に付随する層とする。その $U_i$ 上の切断は、局所化 $S_{x_i}$ の次数 $n$ の元全体である(Har77 第 II 章 Proposition 5.11、p. 116)。
$t=x_1/x_0$ とおくと $U_0=\operatorname{Spec}k[t]$、$U_1=\operatorname{Spec}k[t^{-1}]$、$U_0\cap U_1=\operatorname{Spec}k[t,t^{-1}]$ であり、
$$ \Gamma(U_0,\mathcal O(n))=x_0^n\,k[t],\qquad \Gamma(U_1,\mathcal O(n))=x_1^n\,k[t^{-1}] $$
となる。実際、$S_{x_0}$ の次数 $n$ の元は $h/x_0^m$($h$ は次数 $n+m$ の斉次多項式)であり、これは $x_0^n\cdot h(1,t)$ と書ける。よって $\mathcal O(n)$ は $U_i$ 上で $x_i^n$ を生成元とする可逆層であり、$x_0^n=(x_0/x_1)^n\,x_1^n$ から遷移関数は
$$ g_{01}=(x_0/x_1)^n=t^{-n}\in\mathcal O^\times(U_0\cap U_1) $$
である。

射影直線上の大域切断

$\Gamma(\mathbb P^1_k,\mathcal O(n))$ は次数 $n$ の斉次多項式全体 $S_n$ に等しい。特に、その $k$ 上の次元は $n\ge0$ なら $n+1$、$n<0$ なら $0$ である。

大域切断は、$U_0$ 上の切断と $U_1$ 上の切断で $U_0\cap U_1$ 上で一致するものの組である。$U_0\cap U_1$ 上の切断は $S_{x_0x_1}$ の次数 $n$ の元で、$x_0^nk[t,t^{-1}]$ に等しい。$U_0$ 上の切断 $x_0^nf(t)$($f\in k[t]$)と $U_1$ 上の切断 $x_1^ng(t^{-1})$($g\in k[u]$)が一致する条件は
$$ x_0^nf(t)=x_1^ng(t^{-1})=x_0^n\,t^ng(t^{-1}),\qquad\text{すなわち}\qquad f(t)=t^ng(t^{-1}) $$
である。$g(u)=\sum_{j=0}^mb_ju^j$ とすると右辺は $\sum_jb_jt^{n-j}$ であり、これが $t$ の多項式であるためには $b_j\neq0$ となる $j$ がすべて $j\le n$ を満たさなければならない。よって $f$ は次数 $n$ 以下の多項式で、逆に次数 $n$ 以下の任意の $f$ は $g(u)=u^nf(u^{-1})$ によってこの条件を満たす。$x_0^nf(x_1/x_0)$ は次数 $n$ の斉次多項式であり、この対応で大域切断は $S_n$ と一致する。$n<0$ なら $f=0$ しかない。$\square$

射影直線の可逆層は互いに同型でない

$m\neq n$ なら $\mathcal O(m)\not\cong\mathcal O(n)$ である。したがって $n\mapsto[\mathcal O(n)]$ は単射な群準同型 $\mathbb Z\to\operatorname{Pic}(\mathbb P^1_k)$ である。

遷移関数 $t^{-m}$ と $t^{-n}$ の積は $t^{-(m+n)}$ なので、prop-invertible-sheaf-cocycle と Picard 群の演算の記述から $\mathcal O(m)\otimes\mathcal O(n)\cong\mathcal O(m+n)$ であり、$n\mapsto[\mathcal O(n)]$ は群準同型である。$\mathcal O(m)\cong\mathcal O(n)$ とすると、両辺に $\mathcal O(-n)$ をテンソルして $\mathcal O(m-n)\cong\mathcal O(0)=\mathcal O_X$、同様に $\mathcal O(n-m)\cong\mathcal O_X$ である。$\Gamma(X,\mathcal O_X)=S_0=k\neq0$ なので、prop-invertible-sheaf-p1-sections から $m-n\ge0$ かつ $n-m\ge0$、すなわち $m=n$ である。$\square$

射影直線

体 $k$ 上の射影直線 $\mathbb P_k^1$ では、整数 $n$ に対する $\mathcal O(n)$ が可逆層を与え、遷移関数の積から
$$ \mathcal O(m)\otimes\mathcal O(n)\cong\mathcal O(m+n), \qquad \mathcal O(n)^\vee\cong\mathcal O(-n) $$
である。$\mathcal O(n)$ どうしは互いに同型でなく(系「射影直線の可逆層は互いに同型でない」)、実際には $\operatorname{Pic}(\mathbb P_k^1)\cong\mathbb Z$ で $\mathcal O(1)$ の類が生成元である(Har77 第 II 章 Corollary 6.17、p. 145。全射であることはこの記事では証明しない)。

因子から作る可逆層

$X$ をスキームとし、$\mathcal K_X$ を全商環の層とする(整スキームなら関数体 $K$ の定数層)。Cartier因子 $D$ は、開被覆 $\{U_i\}$ と $f_i\in\Gamma(U_i,\mathcal K_X^\times)$ で $f_i/f_j\in\mathcal O_X^\times(U_i\cap U_j)$ となるものの組 $\{(U_i,f_i)\}$ で表される(局所方程式)。符号を
$$ \mathcal O_X(D)|_{U_i}:=f_i^{-1}\mathcal O_{U_i}\subset\mathcal K_X|_{U_i} $$
と固定する。$f_i^{-1}$ と $f_j^{-1}$ は重なり上で単数倍の差しかないので、これは $\mathcal K_X$ の部分 $\mathcal O_X$-加群 $\mathcal O_X(D)$ を定める。

Cartier因子の加法とテンソル積

Cartier因子 $D,E$ に対し $\mathcal O_X(D)$ は可逆層であり、関数の積から自然な同型
$$ \mathcal O_X(D)\otimes\mathcal O_X(E) \xrightarrow{\sim}\mathcal O_X(D+E) $$
が得られる。特に $\mathcal O_X(-D)\cong\mathcal O_X(D)^\vee$ である。

$U_i$ 上で $D$ の局所方程式を $f_i$、$E$ の局所方程式を $h_i$ とする。すると
$$ \mathcal O_X(D)|_{U_i}=f_i^{-1}\mathcal O_{U_i}, \qquad \mathcal O_X(E)|_{U_i}=h_i^{-1}\mathcal O_{U_i} $$
であり、$f_i^{-1}$ は $\mathcal K_X$ の単数なので $\mathcal O_{U_i}\to f_i^{-1}\mathcal O_{U_i}$、$a\mapsto af_i^{-1}$ は同型である。よって可逆である。積写像は
$$ f_i^{-1}\otimes h_i^{-1}\longmapsto(f_ih_i)^{-1} $$
と書け、$D+E$ の局所方程式 $f_ih_i$ に対応する局所生成元を生成元へ送る同型である。積写像は $\mathcal K_X$ の中の掛け算として大域的に定義されているので、局所的な同型から大域的な同型を得る。$E=-D$ とすれば $\mathcal O_X(D)\otimes\mathcal O_X(-D)\cong\mathcal O_X$ であり、Picard 群の逆元の一意性と prop-invertible-sheaf-dual から最後の同型を得る。

遷移関数で言えば、$s_i=f_i^{-1}$ を生成元に選ぶと $s_i=(f_j/f_i)s_j$ なので、$\mathcal O_X(D)$ の遷移関数は $g_{ij}=f_j/f_i$ である。$D$ が主因子 $\operatorname{div}(f)$(すべての $i$ で $f_i=f$)なら $g_{ij}=1$ となり、$\mathcal O_X(D)$ は $f^{-1}$ で生成される自明な可逆層である。これと prop-invertible-sheaf-cocycle から、線形同値な Cartier 因子は同型な可逆層を与える。逆向きも含めて、$D\mapsto\mathcal O_X(D)$ は Cartier 因子類群から Picard 群への単射準同型を与え(Har77 第 II 章 Proposition 6.13・Corollary 6.14、p. 144)、$X$ が整スキームなら全単射である(同 Proposition 6.15、p. 145。この記事では証明しない)。さらに整・分離的・Noether で局所環がすべて一意分解整域(局所一意分解的)なスキームでは、Weil 因子と Cartier 因子が一致し、Weil 因子類群と Picard 群が一致する(同 Proposition 6.11、p. 141、Corollary 6.16、p. 145)。局所一意分解的でない正規スキームでは、Weil因子がCartier因子とは限らない(下の反例「反例:錐の母線のイデアル層」)。
Riemann 面 $X$ でも、$\mathcal O_X$ を正則関数の層、$\mathcal K_X$ を有理型関数の層として同じ構成ができる。1 次元なので Cartier 因子は点の整数係数の有限(局所有限)な形式和と同じものであり、$\mathcal O_X(D)$ は正則直線束の切断の層である。命題「Cartier因子の加法とテンソル積」と、主因子が自明な可逆層を与えることは、証明が局所的なのでそのまま成り立つ。

大域切断と次数

$k$ を代数閉体、$X$ を $k$ 上の完備非特異曲線とする。$X$ は局所一意分解的なので、因子 $D=\sum_Pn_PP$(閉点の有限形式和)と可逆層 $\mathcal O_X(D)$ を上のように対応させてよい。次数を $\deg D=\sum_Pn_P$ とする。大域切断空間を
$$ L(D):=\Gamma(X,\mathcal O_X(D)) $$
とおく。これは $k$-ベクトル空間であり、具体的には $0$ と、$\operatorname{div}(f)+D\ge0$ を満たす有理関数 $f$ からなる。

負次数と零次数
  1. $\deg D<0$ なら $L(D)=0$ である。
  2. $\deg D=0$ で $L(D)$ が零でない切断をもつなら $D$ は主因子であり、$\mathcal O_X(D)\cong\mathcal O_X$ である。

$0\ne f\in L(D)$ と仮定すると、
$$ A:=\operatorname{div}(f)+D $$
は有効因子である。完備非特異曲線上の主因子は次数 $0$ なので(Har77 第 II 章 Corollary 6.10、p. 138)、$\deg A=\deg D$ である。有効因子の次数は非負だから、$\deg D<0$ の場合にはこのような $f$ は存在せず、1を得る。
$\deg D=0$ の場合には $\deg A=0$ である。次数 $0$ の有効因子は零因子だけなので $A=0$、すなわち
$$ D=-\operatorname{div}(f)=\operatorname{div}(f^{-1}) $$
である。したがって $D$ は主因子であり、主因子に付随する可逆層は自明なので $\mathcal O_X(D)\cong\mathcal O_X$ となる。ここでは「大域切断」を「零でない大域切断」と限定することが不可欠である。零切断ならすべての層が常にもつからである。

$X=\mathbb P^1_k$ で $P=(0:1)$ を取る。$P\notin U_0$ なので $U_0$ 上の $nP$ の局所方程式は $1$、$U_1$ 上では $u=x_0/x_1=t^{-1}$ が $P$ で位数 $1$ の零点をもつので局所方程式は $u^n$ である。したがって $\mathcal O_X(nP)$ の遷移関数は $u^n/1=t^{-n}$ で、$\mathcal O(n)$ のものと一致し、prop-invertible-sheaf-cocycle により $\mathcal O_X(nP)\cong\mathcal O(n)$ である。命題「射影直線上の大域切断」の次元 $0$($n<0$)は、この命題の 1 の具体例になっている。

例と反例

自明可逆層

$\mathcal O_X$ 自身は可逆層であり、Picard群の単位元を表す。可逆層 $\mathcal L$ が大域切断 $s$ で、各点の近傍で生成元になるものをもてば、$\mathcal O_X\to\mathcal L$、$1\mapsto s$ は局所的に同型なので $\mathcal L\cong\mathcal O_X$ である。

曲線の標準層

$k$ を代数閉体、$X$ を $k$ 上の非特異曲線とすると、微分形式の層 $\Omega_X=\Omega_{X/k}$ は階数 $1$ の局所自由層、すなわち可逆層である(Har77 第 II 章 Theorem 8.15、p. 177)。局所座標 $z$ の上では $dz$ が生成元になる。$X$ が種数 $g$ の完備曲線なら、標準因子 $K$($\Omega_X\cong\mathcal O_X(K)$ となる因子)の次数は $2g-2$ である(同 第 IV 章 Example 1.3.3、p. 296)。$\mathbb P^1_k$ では、$U_0$ 上の生成元 $dt$ と $U_1$ 上の生成元 $du$($u=t^{-1}$)が $dt=-t^2\,du$ で結ばれるので、遷移関数は $-t^{2}$ であり、$\Omega_{\mathbb P^1}\cong\mathcal O(-2)$ となって $2\cdot0-2=-2$ と合う。

反例:点のイデアル層

$A=k[x,y]$、$X=\operatorname{Spec}A$ とし、原点のイデアル $\mathfrak m=(x,y)$ の層 $\widetilde{\mathfrak m}$ を考える。これは一般点では $1$ 次元($\mathfrak m\otimes_AK=K$、$K$ は関数体)だが、可逆層でない。これは「任意のイデアル層は可逆である」という含意を破る。
実際、原点で局所自由階数 $1$ なら、局所環 $A_{\mathfrak m}$ の極大イデアル $\mathfrak mA_{\mathfrak m}$ は $1$ 元で生成され、その像が $\mathfrak mA_{\mathfrak m}/\mathfrak m^2A_{\mathfrak m}$ を剰余体 $k$ 上張るので、これは $1$ 次元以下になる。しかし
$$ \mathfrak m/\mathfrak m^2\cong\mathfrak mA_{\mathfrak m}/\mathfrak m^2A_{\mathfrak m} $$
は $x,y$ の像を基底とする $2$ 次元 $k$-ベクトル空間である($\mathfrak m^2$ は次数 $2$ 以上の多項式からなり、次数 $1$ の $ax+by$ は $a=b=0$ でなければ入らない)。よってこのイデアル層は原点で局所自由階数 $1$ ではない。

反例:錐の母線のイデアル層

$k$ を体、$A=k[x,y,z]/(xy-z^2)$、$X=\operatorname{Spec}A$(2 次錐面)とし、母線 $V(y,z)$ の素イデアル $\mathfrak p=(y,z)$ の層 $\widetilde{\mathfrak p}$ を考える。これは余次元 $1$ の閉部分の定義イデアルで、一般点では $1$ 次元だが、頂点 $\mathfrak n=(x,y,z)$ で局所自由でなく、可逆層でない。したがって母線は Weil 因子だが Cartier 因子でない(Har77 第 II 章 Example 6.11.3、p. 142)。

$A$ は $x,y,z$ に次数 $1$ を与えて次数付き環であり、$\mathfrak p$ と $\mathfrak n$ は斉次イデアルである。$A/\mathfrak p\cong k[x]$ なので $x\notin\mathfrak p$ であり、$\mathfrak p$ の次数 $1$ の部分は $ky+kz$ である($A$ の次数 $1$ の部分は $kx+ky+kz$ で、関係式は次数 $2$ なので $x,y,z$ は一次独立)。一方 $\mathfrak n\mathfrak p$ は次数 $2$ 以上の元からなる。よって $\mathfrak p/\mathfrak n\mathfrak p$ は $y,z$ の像で張られる $2$ 次元以上の $k=A/\mathfrak n$-ベクトル空間である。$\widetilde{\mathfrak p}$ が頂点で局所自由階数 $1$ なら、$\mathfrak pA_{\mathfrak n}/\mathfrak n\mathfrak pA_{\mathfrak n}=\mathfrak p/\mathfrak n\mathfrak p$ は $1$ 次元でなければならず、矛盾する。一般点では $\mathfrak p\otimes_A\operatorname{Frac}A=\operatorname{Frac}A$ である。$\square$

反例:階数 2 の自由加群

$X$ が空でないスキームのとき、$\mathcal O_X^{\oplus2}$ は局所自由だが可逆層でない。双対とのテンソル積 $\mathcal O_X^{\oplus2}\otimes(\mathcal O_X^{\oplus2})^\vee\cong\mathcal O_X^{\oplus4}$ は $\mathcal O_X$ と同型でなく(点での剰余体上の次元が $4$ と $1$)、命題「双対はテンソル逆」の結論が成り立たない。

外した条件ごとにまとめる。

外す条件反例成り立たなくなること
局所自由性(余次元 $2$)$\mathbb A^2$ の原点のイデアル層一般点で $1$ 次元なら可逆
局所一意分解性2 次錐面の母線のイデアル層Weil 因子は Cartier 因子で、$\mathcal O_X(D)$ は可逆
階数 $1$$\mathcal O_X^{\oplus2}$双対がテンソル逆になる
零でない切断零切断$\deg D=0$ で切断があれば $D$ は主因子

最後の行は、命題「負次数と零次数」の 2 で「零でない」を落とすと、次数 $0$ の主因子でない $D$ でも零切断はあるため結論が崩れる、という意味である。そのような $D$ は実際に存在する。例えば標数 $2$ でない代数閉体上の非特異 3 次曲線 $y^2z=x^3-xz^2$ では、次数 $0$ の因子類の群が曲線の閉点全体と一対一に対応し、特に $0$ でない(Har77 第 II 章 Example 6.10.2、p. 139)。

関連項目

参考文献

[1]
Robin Hartshorne, Algebraic Geometry, Graduate Texts in Mathematics 52, Springer, 1977, Chapter II §5 (p. 109), Propositions 5.11 (p. 116), 6.11 (p. 141), 6.12 (p. 143), 6.13 (p. 144), 6.15 (p. 145), Corollaries 6.10 (p. 138), 6.14, 6.16, 6.17, Examples 6.10.2, 6.11.3, Theorem 8.15 (p. 177); Chapter IV Example 1.3.3 (p. 296)

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