可逆層(invertible sheaf)とは、環付き空間 $(X,\mathcal O_X)$ 上で局所的に $\mathcal O_X$ と同型になる階数1の局所自由加群層である。幾何的には適切な圏で直線束の切断の層に対応し、開被覆上の遷移関数(単数値のコサイクル)で同型類が決まる。双対層がテンソル積に関する逆元になり、可逆層の同型類はPicard群をなす。Cartier因子 $D$ から得られる $\mathcal O_X(D)$ では因子の加法がテンソル積に対応し、射影直線では $\mathcal O(n)$ の大域切断は次数 $n$ の斉次多項式である。
$(X,\mathcal O_X)$ を可換環の層をもつ環付き空間とする。$\mathcal O_X$-加群 $\mathcal L$ が可逆層(invertible sheaf)であるとは、各点 $x\in X$ に開近傍 $U$ が存在して
$$
\mathcal L|_U\cong\mathcal O_X|_U
$$
となることをいう。すなわち、可逆層とは階数 $1$ の局所自由 $\mathcal O_X$-加群である(Har77 第 II 章 §5、p. 109)。
局所的には可逆層は関数の層そのものに見える。大域的な違いは、局所生成元を重なり上で貼り合わせる単数によって生じる。開被覆 $X=\bigcup_iU_i$ 上で $\mathcal L|_{U_i}$ の生成元 $s_i$ を選ぶと、$U_i\cap U_j$ 上に
$$
s_i=g_{ij}s_j,\qquad g_{ij}\in\mathcal O_X^\times(U_i\cap U_j)
$$
があり、三重の重なりで $g_{ij}g_{jk}=g_{ik}$ を満たす。この貼り合わせの「ねじれ」が可逆層の大域的情報である。
$\mathcal O_X$-加群 $\mathcal L$ を、関手 $\mathcal F\mapsto\mathcal L\otimes_{\mathcal O_X}\mathcal F$ が $\mathcal O_X$-加群の圏の圏同値になるものとして「可逆」と定義する流儀もある(Stacks01CR Definition 17.25.1)。階数 $1$ の局所自由加群はこの意味でも可逆であり、すべての茎 $\mathcal O_{X,x}$ が局所環のとき(スキームや複素多様体のとき)二つの定義は一致する(同 Lemma 17.25.4)。一般の環付き空間では一致しない。この記事では上の定義を使う。
可逆層は、被覆ごとの「遷移関数」で完全に記述される。
$\mathfrak U=\{U_i\}_{i\in I}$ を $X$ の開被覆とし、$\mathcal L,\mathcal M$ を各 $U_i$ 上で自明な可逆層とする。$\mathcal L|_{U_i}$ の生成元 $s_i$、$\mathcal M|_{U_i}$ の生成元 $t_i$ を選び、$s_i=g_{ij}s_j$、$t_i=h_{ij}t_j$ で $g_{ij},h_{ij}\in\mathcal O_X^\times(U_i\cap U_j)$ を定める。
逆に、1 を満たす任意の族 $(g_{ij})$ に対して、$\mathcal O_{U_i}$ たちを $g_{ij}$ 倍で貼り合わせた可逆層が存在する(層の貼り合わせ、Stacks00AK Lemma 6.33.2)。したがって、$\mathfrak U$ の各開集合上で自明な可逆層の同型類は、Čech コサイクル $(g_{ij})$ をコバウンダリ $(a_ia_j^{-1})$ の差で割ったもの、すなわち Čech コホモロジー $\check H^1(\mathfrak U,\mathcal O_X^\times)$ と一対一に対応する。被覆を細かくする極限をとると、茎が局所環の環付き空間では $\operatorname{Pic}(X)\cong H^1(X,\mathcal O_X^\times)$ となる(Stacks09NT Lemma 20.6.1。この記事では証明しない)。
「可逆層」と「直線束」は対応するが、どの幾何の圏を考えるかを指定する必要がある。
可逆層 $\mathcal L$ の双対を
$$
\mathcal L^\vee:=\mathcal H\!om_{\mathcal O_X}(\mathcal L,\mathcal O_X)
$$
とおく。
$\mathcal L$ が可逆層なら $\mathcal L^\vee$ も可逆層であり、評価写像
$$
\mathcal L\otimes_{\mathcal O_X}\mathcal L^\vee\longrightarrow\mathcal O_X,
\qquad s\otimes\varphi\longmapsto\varphi(s)
$$
は同型である。
主張は局所的に確かめられる。$\mathcal L|_U\cong\mathcal O_U$ となる開集合 $U$ 上では
$$
\mathcal L^\vee|_U
\cong\mathcal H\!om_{\mathcal O_U}(\mathcal O_U,\mathcal O_U)
\cong\mathcal O_U
$$
である。さらに評価写像は
$$
\mathcal O_U\otimes_{\mathcal O_U}\mathcal O_U\longrightarrow\mathcal O_U,
\qquad a\otimes b\longmapsto ab
$$
となり、逆写像 $c\mapsto c\otimes1$ をもつ。評価写像そのものは $X$ 全体で定義された層の射であり、その制限が各 $U$ 上で同型なので、全体で同型である。
$\mathcal L,\mathcal M$ が可逆層なら $\mathcal L\otimes\mathcal M$ も可逆層である。可逆層の同型類全体は、テンソル積を演算、$\mathcal O_X$ を単位元、$\mathcal L^\vee$ を逆元としてアーベル群をなし、これを $X$ のPicard群 $\operatorname{Pic}(X)$ という。
$\mathcal L$ と $\mathcal M$ が同時に自明になる開被覆をとる(それぞれの自明化の開集合の共通部分を取ればよい)。その各開集合 $U$ 上で
$$
(\mathcal L\otimes\mathcal M)|_U
\cong\mathcal O_U\otimes\mathcal O_U
\cong\mathcal O_U
$$
だから、テンソル積も可逆である。テンソル積の結合・交換の標準同型により、同型類上の演算は結合的かつ可換である。単位元は $\mathcal O_X$ の類であり、prop-invertible-sheaf-dual により $\mathcal L^\vee$ の類が $\mathcal L$ の類の逆元になる。
これは Har77 第 II 章 Proposition 6.12(p. 143)である。遷移関数で見ると、$\mathcal L\otimes\mathcal M$ の遷移関数は $g_{ij}h_{ij}$、$\mathcal L^\vee$ の遷移関数は $g_{ij}^{-1}$ であり、Picard 群の演算は遷移関数の積に当たる。
環付き空間の射 $f\colon X\to Y$ に対し、引き戻し $f^*$ は可逆層を可逆層へ移し($f^*\mathcal O_V\cong\mathcal O_{f^{-1}V}$ だから)、
$$
f^*(\mathcal L\otimes\mathcal M)\cong f^*\mathcal L\otimes f^*\mathcal M
$$
を満たす。したがって $f^*\colon\operatorname{Pic}(Y)\to\operatorname{Pic}(X)$ は群準同型である。
$k$ を体、$S=k[x_0,x_1]$ を次数付き多項式環、$X=\mathbb P^1_k=\operatorname{Proj}S$ とし、$U_i=D_+(x_i)$($i=0,1$)とおく。整数 $n$ に対し、$\mathcal O(n)$ を次数を $n$ だけずらした次数付き加群 $S(n)$ に付随する層とする。その $U_i$ 上の切断は、局所化 $S_{x_i}$ の次数 $n$ の元全体である(Har77 第 II 章 Proposition 5.11、p. 116)。
$t=x_1/x_0$ とおくと $U_0=\operatorname{Spec}k[t]$、$U_1=\operatorname{Spec}k[t^{-1}]$、$U_0\cap U_1=\operatorname{Spec}k[t,t^{-1}]$ であり、
$$
\Gamma(U_0,\mathcal O(n))=x_0^n\,k[t],\qquad
\Gamma(U_1,\mathcal O(n))=x_1^n\,k[t^{-1}]
$$
となる。実際、$S_{x_0}$ の次数 $n$ の元は $h/x_0^m$($h$ は次数 $n+m$ の斉次多項式)であり、これは $x_0^n\cdot h(1,t)$ と書ける。よって $\mathcal O(n)$ は $U_i$ 上で $x_i^n$ を生成元とする可逆層であり、$x_0^n=(x_0/x_1)^n\,x_1^n$ から遷移関数は
$$
g_{01}=(x_0/x_1)^n=t^{-n}\in\mathcal O^\times(U_0\cap U_1)
$$
である。
$\Gamma(\mathbb P^1_k,\mathcal O(n))$ は次数 $n$ の斉次多項式全体 $S_n$ に等しい。特に、その $k$ 上の次元は $n\ge0$ なら $n+1$、$n<0$ なら $0$ である。
大域切断は、$U_0$ 上の切断と $U_1$ 上の切断で $U_0\cap U_1$ 上で一致するものの組である。$U_0\cap U_1$ 上の切断は $S_{x_0x_1}$ の次数 $n$ の元で、$x_0^nk[t,t^{-1}]$ に等しい。$U_0$ 上の切断 $x_0^nf(t)$($f\in k[t]$)と $U_1$ 上の切断 $x_1^ng(t^{-1})$($g\in k[u]$)が一致する条件は
$$
x_0^nf(t)=x_1^ng(t^{-1})=x_0^n\,t^ng(t^{-1}),\qquad\text{すなわち}\qquad f(t)=t^ng(t^{-1})
$$
である。$g(u)=\sum_{j=0}^mb_ju^j$ とすると右辺は $\sum_jb_jt^{n-j}$ であり、これが $t$ の多項式であるためには $b_j\neq0$ となる $j$ がすべて $j\le n$ を満たさなければならない。よって $f$ は次数 $n$ 以下の多項式で、逆に次数 $n$ 以下の任意の $f$ は $g(u)=u^nf(u^{-1})$ によってこの条件を満たす。$x_0^nf(x_1/x_0)$ は次数 $n$ の斉次多項式であり、この対応で大域切断は $S_n$ と一致する。$n<0$ なら $f=0$ しかない。$\square$
$m\neq n$ なら $\mathcal O(m)\not\cong\mathcal O(n)$ である。したがって $n\mapsto[\mathcal O(n)]$ は単射な群準同型 $\mathbb Z\to\operatorname{Pic}(\mathbb P^1_k)$ である。
遷移関数 $t^{-m}$ と $t^{-n}$ の積は $t^{-(m+n)}$ なので、prop-invertible-sheaf-cocycle と Picard 群の演算の記述から $\mathcal O(m)\otimes\mathcal O(n)\cong\mathcal O(m+n)$ であり、$n\mapsto[\mathcal O(n)]$ は群準同型である。$\mathcal O(m)\cong\mathcal O(n)$ とすると、両辺に $\mathcal O(-n)$ をテンソルして $\mathcal O(m-n)\cong\mathcal O(0)=\mathcal O_X$、同様に $\mathcal O(n-m)\cong\mathcal O_X$ である。$\Gamma(X,\mathcal O_X)=S_0=k\neq0$ なので、prop-invertible-sheaf-p1-sections から $m-n\ge0$ かつ $n-m\ge0$、すなわち $m=n$ である。$\square$
体 $k$ 上の射影直線 $\mathbb P_k^1$ では、整数 $n$ に対する $\mathcal O(n)$ が可逆層を与え、遷移関数の積から
$$
\mathcal O(m)\otimes\mathcal O(n)\cong\mathcal O(m+n),
\qquad
\mathcal O(n)^\vee\cong\mathcal O(-n)
$$
である。$\mathcal O(n)$ どうしは互いに同型でなく(系「射影直線の可逆層は互いに同型でない」)、実際には $\operatorname{Pic}(\mathbb P_k^1)\cong\mathbb Z$ で $\mathcal O(1)$ の類が生成元である(Har77 第 II 章 Corollary 6.17、p. 145。全射であることはこの記事では証明しない)。
$X$ をスキームとし、$\mathcal K_X$ を全商環の層とする(整スキームなら関数体 $K$ の定数層)。Cartier因子 $D$ は、開被覆 $\{U_i\}$ と $f_i\in\Gamma(U_i,\mathcal K_X^\times)$ で $f_i/f_j\in\mathcal O_X^\times(U_i\cap U_j)$ となるものの組 $\{(U_i,f_i)\}$ で表される(局所方程式)。符号を
$$
\mathcal O_X(D)|_{U_i}:=f_i^{-1}\mathcal O_{U_i}\subset\mathcal K_X|_{U_i}
$$
と固定する。$f_i^{-1}$ と $f_j^{-1}$ は重なり上で単数倍の差しかないので、これは $\mathcal K_X$ の部分 $\mathcal O_X$-加群 $\mathcal O_X(D)$ を定める。
Cartier因子 $D,E$ に対し $\mathcal O_X(D)$ は可逆層であり、関数の積から自然な同型
$$
\mathcal O_X(D)\otimes\mathcal O_X(E)
\xrightarrow{\sim}\mathcal O_X(D+E)
$$
が得られる。特に $\mathcal O_X(-D)\cong\mathcal O_X(D)^\vee$ である。
$U_i$ 上で $D$ の局所方程式を $f_i$、$E$ の局所方程式を $h_i$ とする。すると
$$
\mathcal O_X(D)|_{U_i}=f_i^{-1}\mathcal O_{U_i},
\qquad
\mathcal O_X(E)|_{U_i}=h_i^{-1}\mathcal O_{U_i}
$$
であり、$f_i^{-1}$ は $\mathcal K_X$ の単数なので $\mathcal O_{U_i}\to f_i^{-1}\mathcal O_{U_i}$、$a\mapsto af_i^{-1}$ は同型である。よって可逆である。積写像は
$$
f_i^{-1}\otimes h_i^{-1}\longmapsto(f_ih_i)^{-1}
$$
と書け、$D+E$ の局所方程式 $f_ih_i$ に対応する局所生成元を生成元へ送る同型である。積写像は $\mathcal K_X$ の中の掛け算として大域的に定義されているので、局所的な同型から大域的な同型を得る。$E=-D$ とすれば $\mathcal O_X(D)\otimes\mathcal O_X(-D)\cong\mathcal O_X$ であり、Picard 群の逆元の一意性と prop-invertible-sheaf-dual から最後の同型を得る。
遷移関数で言えば、$s_i=f_i^{-1}$ を生成元に選ぶと $s_i=(f_j/f_i)s_j$ なので、$\mathcal O_X(D)$ の遷移関数は $g_{ij}=f_j/f_i$ である。$D$ が主因子 $\operatorname{div}(f)$(すべての $i$ で $f_i=f$)なら $g_{ij}=1$ となり、$\mathcal O_X(D)$ は $f^{-1}$ で生成される自明な可逆層である。これと prop-invertible-sheaf-cocycle から、線形同値な Cartier 因子は同型な可逆層を与える。逆向きも含めて、$D\mapsto\mathcal O_X(D)$ は Cartier 因子類群から Picard 群への単射準同型を与え(Har77 第 II 章 Proposition 6.13・Corollary 6.14、p. 144)、$X$ が整スキームなら全単射である(同 Proposition 6.15、p. 145。この記事では証明しない)。さらに整・分離的・Noether で局所環がすべて一意分解整域(局所一意分解的)なスキームでは、Weil 因子と Cartier 因子が一致し、Weil 因子類群と Picard 群が一致する(同 Proposition 6.11、p. 141、Corollary 6.16、p. 145)。局所一意分解的でない正規スキームでは、Weil因子がCartier因子とは限らない(下の反例「反例:錐の母線のイデアル層」)。
Riemann 面 $X$ でも、$\mathcal O_X$ を正則関数の層、$\mathcal K_X$ を有理型関数の層として同じ構成ができる。1 次元なので Cartier 因子は点の整数係数の有限(局所有限)な形式和と同じものであり、$\mathcal O_X(D)$ は正則直線束の切断の層である。命題「Cartier因子の加法とテンソル積」と、主因子が自明な可逆層を与えることは、証明が局所的なのでそのまま成り立つ。
$k$ を代数閉体、$X$ を $k$ 上の完備非特異曲線とする。$X$ は局所一意分解的なので、因子 $D=\sum_Pn_PP$(閉点の有限形式和)と可逆層 $\mathcal O_X(D)$ を上のように対応させてよい。次数を $\deg D=\sum_Pn_P$ とする。大域切断空間を
$$
L(D):=\Gamma(X,\mathcal O_X(D))
$$
とおく。これは $k$-ベクトル空間であり、具体的には $0$ と、$\operatorname{div}(f)+D\ge0$ を満たす有理関数 $f$ からなる。
$0\ne f\in L(D)$ と仮定すると、
$$
A:=\operatorname{div}(f)+D
$$
は有効因子である。完備非特異曲線上の主因子は次数 $0$ なので(Har77 第 II 章 Corollary 6.10、p. 138)、$\deg A=\deg D$ である。有効因子の次数は非負だから、$\deg D<0$ の場合にはこのような $f$ は存在せず、1を得る。
$\deg D=0$ の場合には $\deg A=0$ である。次数 $0$ の有効因子は零因子だけなので $A=0$、すなわち
$$
D=-\operatorname{div}(f)=\operatorname{div}(f^{-1})
$$
である。したがって $D$ は主因子であり、主因子に付随する可逆層は自明なので $\mathcal O_X(D)\cong\mathcal O_X$ となる。ここでは「大域切断」を「零でない大域切断」と限定することが不可欠である。零切断ならすべての層が常にもつからである。
$X=\mathbb P^1_k$ で $P=(0:1)$ を取る。$P\notin U_0$ なので $U_0$ 上の $nP$ の局所方程式は $1$、$U_1$ 上では $u=x_0/x_1=t^{-1}$ が $P$ で位数 $1$ の零点をもつので局所方程式は $u^n$ である。したがって $\mathcal O_X(nP)$ の遷移関数は $u^n/1=t^{-n}$ で、$\mathcal O(n)$ のものと一致し、prop-invertible-sheaf-cocycle により $\mathcal O_X(nP)\cong\mathcal O(n)$ である。命題「射影直線上の大域切断」の次元 $0$($n<0$)は、この命題の 1 の具体例になっている。
$\mathcal O_X$ 自身は可逆層であり、Picard群の単位元を表す。可逆層 $\mathcal L$ が大域切断 $s$ で、各点の近傍で生成元になるものをもてば、$\mathcal O_X\to\mathcal L$、$1\mapsto s$ は局所的に同型なので $\mathcal L\cong\mathcal O_X$ である。
$k$ を代数閉体、$X$ を $k$ 上の非特異曲線とすると、微分形式の層 $\Omega_X=\Omega_{X/k}$ は階数 $1$ の局所自由層、すなわち可逆層である(Har77 第 II 章 Theorem 8.15、p. 177)。局所座標 $z$ の上では $dz$ が生成元になる。$X$ が種数 $g$ の完備曲線なら、標準因子 $K$($\Omega_X\cong\mathcal O_X(K)$ となる因子)の次数は $2g-2$ である(同 第 IV 章 Example 1.3.3、p. 296)。$\mathbb P^1_k$ では、$U_0$ 上の生成元 $dt$ と $U_1$ 上の生成元 $du$($u=t^{-1}$)が $dt=-t^2\,du$ で結ばれるので、遷移関数は $-t^{2}$ であり、$\Omega_{\mathbb P^1}\cong\mathcal O(-2)$ となって $2\cdot0-2=-2$ と合う。
$A=k[x,y]$、$X=\operatorname{Spec}A$ とし、原点のイデアル $\mathfrak m=(x,y)$ の層 $\widetilde{\mathfrak m}$ を考える。これは一般点では $1$ 次元($\mathfrak m\otimes_AK=K$、$K$ は関数体)だが、可逆層でない。これは「任意のイデアル層は可逆である」という含意を破る。
実際、原点で局所自由階数 $1$ なら、局所環 $A_{\mathfrak m}$ の極大イデアル $\mathfrak mA_{\mathfrak m}$ は $1$ 元で生成され、その像が $\mathfrak mA_{\mathfrak m}/\mathfrak m^2A_{\mathfrak m}$ を剰余体 $k$ 上張るので、これは $1$ 次元以下になる。しかし
$$
\mathfrak m/\mathfrak m^2\cong\mathfrak mA_{\mathfrak m}/\mathfrak m^2A_{\mathfrak m}
$$
は $x,y$ の像を基底とする $2$ 次元 $k$-ベクトル空間である($\mathfrak m^2$ は次数 $2$ 以上の多項式からなり、次数 $1$ の $ax+by$ は $a=b=0$ でなければ入らない)。よってこのイデアル層は原点で局所自由階数 $1$ ではない。
$k$ を体、$A=k[x,y,z]/(xy-z^2)$、$X=\operatorname{Spec}A$(2 次錐面)とし、母線 $V(y,z)$ の素イデアル $\mathfrak p=(y,z)$ の層 $\widetilde{\mathfrak p}$ を考える。これは余次元 $1$ の閉部分の定義イデアルで、一般点では $1$ 次元だが、頂点 $\mathfrak n=(x,y,z)$ で局所自由でなく、可逆層でない。したがって母線は Weil 因子だが Cartier 因子でない(Har77 第 II 章 Example 6.11.3、p. 142)。
$A$ は $x,y,z$ に次数 $1$ を与えて次数付き環であり、$\mathfrak p$ と $\mathfrak n$ は斉次イデアルである。$A/\mathfrak p\cong k[x]$ なので $x\notin\mathfrak p$ であり、$\mathfrak p$ の次数 $1$ の部分は $ky+kz$ である($A$ の次数 $1$ の部分は $kx+ky+kz$ で、関係式は次数 $2$ なので $x,y,z$ は一次独立)。一方 $\mathfrak n\mathfrak p$ は次数 $2$ 以上の元からなる。よって $\mathfrak p/\mathfrak n\mathfrak p$ は $y,z$ の像で張られる $2$ 次元以上の $k=A/\mathfrak n$-ベクトル空間である。$\widetilde{\mathfrak p}$ が頂点で局所自由階数 $1$ なら、$\mathfrak pA_{\mathfrak n}/\mathfrak n\mathfrak pA_{\mathfrak n}=\mathfrak p/\mathfrak n\mathfrak p$ は $1$ 次元でなければならず、矛盾する。一般点では $\mathfrak p\otimes_A\operatorname{Frac}A=\operatorname{Frac}A$ である。$\square$
$X$ が空でないスキームのとき、$\mathcal O_X^{\oplus2}$ は局所自由だが可逆層でない。双対とのテンソル積 $\mathcal O_X^{\oplus2}\otimes(\mathcal O_X^{\oplus2})^\vee\cong\mathcal O_X^{\oplus4}$ は $\mathcal O_X$ と同型でなく(点での剰余体上の次元が $4$ と $1$)、命題「双対はテンソル逆」の結論が成り立たない。
外した条件ごとにまとめる。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 局所自由性(余次元 $2$) | $\mathbb A^2$ の原点のイデアル層 | 一般点で $1$ 次元なら可逆 |
| 局所一意分解性 | 2 次錐面の母線のイデアル層 | Weil 因子は Cartier 因子で、$\mathcal O_X(D)$ は可逆 |
| 階数 $1$ | $\mathcal O_X^{\oplus2}$ | 双対がテンソル逆になる |
| 零でない切断 | 零切断 | $\deg D=0$ で切断があれば $D$ は主因子 |
最後の行は、命題「負次数と零次数」の 2 で「零でない」を落とすと、次数 $0$ の主因子でない $D$ でも零切断はあるため結論が崩れる、という意味である。そのような $D$ は実際に存在する。例えば標数 $2$ でない代数閉体上の非特異 3 次曲線 $y^2z=x^3-xz^2$ では、次数 $0$ の因子類の群が曲線の閉点全体と一対一に対応し、特に $0$ でない(Har77 第 II 章 Example 6.10.2、p. 139)。
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