共役点

同義語:conjugate point

概要

共役点(conjugate point)とは、Riemann 多様体の測地線 $\gamma$ に沿って、$0$ でない Jacobi 場が $t=a$ と $t=b$ の両方で消えるとき、$\gamma(a)$ に対する $\gamma(b)$ のことであり、1 点から出る測地線の族が 1 次の近似で再び集まる点を表す。$\exp_p(v)$ が $p$ に共役であることは $v$ が指数写像 $\exp_p$ の臨界点であることと同値で、重複度は微分の核の次元に等しい。内部に共役点をもつ測地線は端点間の最短曲線でなく(Jacobi の定理)、断面曲率が非正なら共役点は存在しない。Morse の指数定理や時空の特異点定理の議論の基礎になる。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: Jacobi場, 測地線, 曲線の変分論

球面上で北極 $p$ から出た測地線(経線)は、どの向きに出ても南極で再び出会う。このとき南極は北極に「共役」であるという。一般の Riemann 多様体でも、1 点から出る測地線の族が 1 次の近似で再び集まる点を 共役点 とよぶ。正確には、測地線に沿う Jacobi場 が 2 点で消えることで定義する。
共役点は二つの意味で重要である。一つは、共役点がちょうど指数写像 $\exp_p$ の臨界点の像であり、指数写像が局所微分同相でなくなる場所を表すこと。もう一つは、測地線が共役点を越えると、端点を固定した長さの最小性を失うこと(Jacobi の定理)である。この記事では、この二つの定理と、断面曲率が非正なら共役点がないことを証明する。逆に、最短でなくなる点が共役点とは限らないことも例で示す。

定義

以下、断らない限り $(M,g)$ は $n$ 次元の Riemann 多様体とし、記号と曲率の規約は Jacobi場 の記事に従う。$\gamma$ に沿う共変微分を $V'=D_tV$ と書く。

共役点

$\gamma\colon I\to M$ を測地線とし、$a,b\in I$、$a\neq b$ とする。$\gamma$ に沿う Jacobi 場 $J$ で、恒等的に $0$ ではなく $J(a)=J(b)=0$ を満たすものが存在するとき、$\gamma(b)$ は $\gamma$ に沿って $\gamma(a)$ に 共役(conjugate)であるといい、$\gamma(b)$ を $\gamma(a)$ の 共役点(conjugate point)という。そのような Jacobi 場(と $0$)全体のなす線形空間の次元を、共役の 重複度(multiplicity)という。

定義は対称なので、$\gamma(b)$ が $\gamma(a)$ に共役であることと $\gamma(a)$ が $\gamma(b)$ に共役であることは同じである。共役は点の組だけでなく、測地線 $\gamma$ とパラメータの値 $a,b$ によって決まる。同じ 2 点が別の測地線で結ばれていれば、そちらに沿っては共役でないことがある。測地線 $\gamma\colon[a,b]\to M$ について、ある $c\in(a,b)$ で $\gamma(c)$ が $\gamma(a)$ に共役であるとき、$\gamma$ は 内部に共役点をもつ という。

重複度の上限

定値でない測地線に沿う共役の重複度は $n-1$ 以下である。

$J(a)=J(b)=0$ となる Jacobi 場は、2 点で $\dot\gamma$ に直交するので法 Jacobi 場である(Jacobi場 の記事の命題「接成分と法成分への分解」の 4)。法 Jacobi 場で $J(a)=0$ となるものは、$J'(a)\in\dot\gamma(a)^\perp$ で決まるので(同記事の命題「Jacobi場の存在と一意性」)$n-1$ 次元の空間をなす。求める空間はその部分空間である。$\blacksquare$

直感

$p=\gamma(0)$ から少しずつ向きを変えて出る測地線の族 $\gamma_s(t)=\exp_p(t(v+sw))$ を考えると、その変分ベクトル場は $J(0)=0$ の Jacobi 場である(Jacobi場 の記事の定理「Jacobi場は測地線による変分から生じる」)。$J(t_0)=0$ は、$\gamma_s(t_0)$ が $\gamma(t_0)$ から $s$ について 1 次の速さでは離れない、つまり「族が $t_0$ で 1 次の近似で再び集まる」ことを意味する。正の曲率は測地線を集め、負の曲率は散らすので、共役点は正の曲率の現れである。
共役点を越えると最短でなくなる理由は次のように理解できる。$p$ から $q=\gamma(t_0)$ まで、ほぼ同じ長さの測地線が 1 次の意味で 1 パラメータ族をなしているので、少しずれた経路で $q$ の手前まで行き、そこから角を丸めて $\gamma$ に合流すれば、長さを減らせる。下の thm-conjugate-jacobi はこの「角の丸め」を指数形式の計算として実行する。

指数写像の臨界点

共役点と指数写像の臨界点

$p\in M$、$v\in T_pM$ とし、$\exp_p(tv)$ が $t\in[0,1]$ で定義されているとする。$\gamma(t)=\exp_p(tv)$($0\le t\le1$)とおく。このとき、$\gamma(1)$ が $\gamma$ に沿って $p$ に共役であることと、$v$ が $\exp_p$ の臨界点である($(d\exp_p)_v$ が単射でない)こととは同値である。さらに共役の重複度は $\dim\ker(d\exp_p)_v$ に等しい。

$w\in T_pM$ に対し、$J_w$ を $J_w(0)=0$、$J_w'(0)=w$ を満たす $\gamma$ に沿う Jacobi 場とする。Jacobi場 の記事の命題「Jacobi場の存在と一意性」により $w\mapsto J_w$ は $T_pM$ から $\{J\in\mathcal{J}(\gamma)\mid J(0)=0\}$ への線形同型である。区間 $[0,1]$ はコンパクトなので、同記事の定理「Jacobi場は測地線による変分から生じる」の 2 により
$$ J_w(1)=(d\exp_p)_v(w) $$
である。したがってこの同型は、$\{J\mid J(0)=J(1)=0\}$ を $\ker(d\exp_p)_v$ に写す。前者の次元が共役の重複度であり、それが正であることが共役の定義なので、主張が従う。$\blacksquare$

$\exp_p$ は定義域の開集合から $n$ 次元多様体への滑らかな写像なので、逆関数定理 により、$v$ が臨界点でなければ $\exp_p$ は $v$ の近傍で微分同相である。したがって thm-conjugate-critical は「$\exp_p$ が局所微分同相でなくなる場所はちょうど $p$ の共役点(の初速度)である」と言い換えられる。とくに、$\exp_p$ が $0$ を含む星形の開集合 $U\subset T_pM$ 上で微分同相なら、$v\in U$ について $\exp_p(tv)$($0< t\le1$)は $p$ に共役でない。

球面の共役点

単位球面 $S^n$ の単位速さの測地線 $\gamma$ に沿って、$\gamma(0)=p$ の共役点はちょうど $\gamma(k\pi)$($k$ は $0$ でない整数)であり、重複度はいずれも $n-1$ である。実際、Jacobi場 の記事の命題「定曲率空間のJacobi場」により、$J(0)=0$ の法 Jacobi 場は $\sin t\cdot E(t)$($E$ は平行な法ベクトル場)の形であり、これが $t\neq0$ で消えるのは $t\in\pi\mathbb{Z}$ のときで、そのとき $n-1$ 次元の法 Jacobi 場がすべて消える。$\gamma(\pi)$ は $p$ の対蹠点、$\gamma(2\pi)=p$ である。thm-conjugate-critical によれば、$\exp_p$ は半径 $\pi$ の球面 $\{\lvert v\rvert=\pi\}\subset T_pS^n$ 上で臨界的であり、実際この球面全体が対蹠点 1 点に写される。

非正曲率と共役点

非正曲率なら共役点はない

$(M,g)$ のすべての断面曲率が $0$ 以下なら、どの測地線に沿っても共役点は存在しない。とくに $M$ が測地的に完備なら、各 $p\in M$ について $\exp_p\colon T_pM\to M$ は臨界点をもたず、局所微分同相である。

$\gamma\colon I\to M$ を測地線、$J$ を Jacobi 場で $J(a)=J(b)=0$($a< b$)とし、$f(t):=g(J,J)$ とおく。計量両立性と Jacobi 方程式から
$$ f''=2g(J',J')+2g(J'',J)=2\lvert J'\rvert^2-2g\bigl(R(J,\dot\gamma)\dot\gamma,J\bigr) $$
である。$g(R(J,\dot\gamma)\dot\gamma,J)=\mathrm{Rm}(J,\dot\gamma,J,\dot\gamma)$ は、$J(t)$ と $\dot\gamma(t)$ が 1 次独立なら断面曲率 $K(J,\dot\gamma)\le0$ に正の Gram 行列式を掛けたもの(断面曲率 の記事の定義「断面曲率」)なので $0$ 以下であり、1 次従属なら曲率の反対称性により $0$ である。よって $f''\ge0$ で、$f$ は $[a,b]$ 上の凸関数である。$f\ge0$、$f(a)=f(b)=0$ なので $[a,b]$ 上で $f\equiv0$ となり、$J$ は $[a,b]$ で恒等的に $0$ である。すると $J(a)=J'(a)=0$ なので、Jacobi場 の記事の命題「Jacobi場の存在と一意性」により $J\equiv0$ である。よって共役点はない。後半は thm-conjugate-critical と 逆関数定理 による。$\blacksquare$

完備・連結で断面曲率が非正なら、$\exp_p\colon T_pM\to M$ は被覆写像になる(Cartan–Hadamard の定理。Lee18 Theorem 12.8、p. 352。この記事では証明しない)。上の定理はその証明の第一段である。

共役点を越えると最短でない

$\gamma\colon[a,b]\to M$ を測地線とする。$\gamma$ に沿う 区分的に滑らかな ベクトル場(連続で、分割 $a=a_0< a_1< \cdots< a_k=b$ があって、各 $[a_{i-1},a_i]$ への制限が滑らかなもの)$V,W$ に対しても
$$ I(V,W):=\int_a^b\Bigl(g(V',W')-g\bigl(R(V,\dot\gamma)\dot\gamma,W\bigr)\Bigr)dt $$
と定める(被積分関数は有限個の点を除いて定義される)。これは対称双線形形式であり(Jacobi場 の記事の節「指数形式との関係」)、滑らかな $V$ については $I(V,V)$ が 曲線の変分論 の記事の定理「エネルギーの第2変分」の指数形式である。

Jacobiの定理

$\gamma\colon[a,b]\to M$ を測地線とし、ある $c\in(a,b)$ で $\gamma(c)$ が $\gamma$ に沿って $\gamma(a)$ に共役であるとする。このとき次が成り立つ。

  1. $\gamma$ に沿う滑らかなベクトル場 $X$ で、$X(a)=X(b)=0$ かつ $I(X,X)<0$ となるものが存在する。
  2. $\gamma$ の両端点を固定する変分 $\gamma_s$ で、$0$ に十分近い $s\neq0$ について $E(\gamma_s)< E(\gamma)$ かつ $L(\gamma_s)< L(\gamma)$ となるものが存在する。とくに $\gamma$ は $\gamma(a)$ と $\gamma(b)$ を結ぶ最短の曲線ではない。

区分的に滑らかな場の構成。 $J$ を $0$ でない Jacobi 場で $J(a)=J(c)=0$ となるものとする。$J'(c)\neq0$ である。実際 $J'(c)=0$ なら $J(c)=J'(c)=0$ となり、Jacobi 場の一意性から $J\equiv0$ となる。区分的に滑らかなベクトル場 $V_0$ を
$$ V_0(t)=\begin{cases}J(t)&(a\le t\le c)\\ 0&(c\le t\le b)\end{cases} $$
で定める。$E$ を $\gamma$ に沿う平行なベクトル場で $E(c)=-J'(c)$ となるものとし、$\varphi(t):=\sin\bigl(\pi(t-a)/(b-a)\bigr)/\sin\bigl(\pi(c-a)/(b-a)\bigr)$ とおいて $W:=\varphi E$ とする。$W$ は滑らかで $W(a)=W(b)=0$、$W(c)=-J'(c)$ である。
指数形式の計算。 $[c,b]$ 上では $V_0=0$ なので、$I(V_0,\cdot)$ は $[a,c]$ 上の積分だけである。Jacobi場 の記事の命題「Jacobi場と指数形式」を区間 $[a,c]$ に当てると
$$ I(V_0,V_0)=\bigl[g(J',J)\bigr]_a^c=0,\qquad I(V_0,W)=\bigl[g(J',W)\bigr]_a^c=g(J'(c),W(c))=-\lvert J'(c)\rvert^2 $$
である($J(a)=J(c)=0$、$W(a)=0$)。$\varepsilon>0$ に対し $X_\varepsilon:=V_0+\varepsilon W$ とおくと、双線形性と対称性から
$$ I(X_\varepsilon,X_\varepsilon)=I(V_0,V_0)+2\varepsilon I(V_0,W)+\varepsilon^2I(W,W)=-2\varepsilon\lvert J'(c)\rvert^2+\varepsilon^2I(W,W) $$
であり、$\varepsilon$ が十分小さければ負になる。$X_\varepsilon$ は区分的に滑らかで、両端で $0$ である。
滑らかな場への近似。 区分的に滑らかで両端で消える $X$ が $I(X,X)<0$ を満たせば、滑らかで両端で消える $\tilde X$ で $I(\tilde X,\tilde X)<0$ となるものがある。要点は、平行な正規直交枠での成分を、微分が $L^2$ で近く値が一様に近い滑らかな関数で置き換えると、$I$ の値が少ししか変わらないことである。

詳しい証明を開く

$\gamma$ に沿う平行な正規直交枠 $E_1,\dots,E_n$ をとり、$X=\sum_ix_iE_i$ と書く。$x_i$ は連続で区分的に滑らか、$x_i(a)=x_i(b)=0$ である。$r_{ij}(t):=g(R(E_i,\dot\gamma)\dot\gamma,E_j)$ は連続であり、$I(X,X)=\int_a^b\bigl(\sum_i(x_i')^2-\sum_{i,j}r_{ij}x_ix_j\bigr)dt$ である。$h_i:=x_i'$ は有界で有限個の点を除いて連続であり、$\int_a^bh_i\,dt=x_i(b)-x_i(a)=0$ である。$h_i$ は、跳びの近くを短い線分でつないで得られる連続関数で $L^2$ ノルムについていくらでも近似でき、さらに連続関数は Weierstrassの近似定理 により多項式で一様に近似できる。こうして多項式 $q_{i,k}$ で $\| q_{i,k}-h_i\|_{L^2}\to0$($k\to\infty$)となるものがとれる。$m_{i,k}:=\frac{1}{b-a}\int_a^bq_{i,k}\,dt$ とおくと、Cauchy–Schwarz の不等式により $\lvert m_{i,k}\rvert\le(b-a)^{-1/2}\| q_{i,k}-h_i\|_{L^2}\to0$ である。$\tilde q_{i,k}:=q_{i,k}-m_{i,k}$、$x_{i,k}(t):=\int_a^t\tilde q_{i,k}\,ds$ とおくと、$x_{i,k}$ は滑らかで $x_{i,k}(a)=x_{i,k}(b)=0$、$x_{i,k}'\to x_i'$($L^2$)であり、$\sup_t\lvert x_{i,k}(t)-x_i(t)\rvert\le(b-a)^{1/2}\|\tilde q_{i,k}-h_i\|_{L^2}\to0$ である。したがって $X_k:=\sum_ix_{i,k}E_i$ について、$I(X_k,X_k)$ の第 1 項は $L^2$ 収束から、第 2 項は一様収束と $r_{ij}$ の有界性から $I(X,X)$ の対応する項に収束する。$I(X,X)< 0$ なので、十分大きな $k$ で $I(X_k,X_k)< 0$ である。


これで 1 が示された。
2 の証明。 1 の $X$ に対し、曲線の変分論 の記事の命題「沿うベクトル場の変分としての実現」により、$X$ を変分ベクトル場とする両端点固定の変分 $\gamma_s$ がある。$\gamma$ は測地線なので、同記事の定理「エネルギーの第1変分」により $\frac{d}{ds}E(\gamma_s)|_{s=0}=0$ であり、定理「エネルギーの第2変分」により $\frac{d^2}{ds^2}E(\gamma_s)|_{s=0}=I(X,X)<0$ である。よって $0$ に近い $s\neq0$ で $E(\gamma_s)< E(\gamma)$ である。$\gamma$ の速さは一定なので、同記事の命題「エネルギーと長さの不等式」の等号の場合から $E(\gamma)=L(\gamma)^2/(2(b-a))$ である。もし $L(\gamma_s)\ge L(\gamma)$ なら同じ不等式から $E(\gamma_s)\ge L(\gamma_s)^2/(2(b-a))\ge E(\gamma)$ となり矛盾するので、$L(\gamma_s)< L(\gamma)$ である。$\blacksquare$

単位球面の大円弧で長さが $\pi$ を超えるものは、内部に対蹠点という共役点をもつので最短でない。これは 曲線の変分論 の記事の例「反例:球面の長い大円弧」で直接計算した事実の一般化である。

部分的な逆とMorseの指数定理

逆向きには次が知られている(この記事では証明しない)。$\gamma\colon[a,b]\to M$ が内部に共役点をもたなければ、両端で消える区分的に滑らかな法ベクトル場 $V$ について $I(V,V)\ge0$ であり、等号は $V$ が Jacobi 場のときに限る(Lee18 Theorem 10.28、p. 304)。さらに Morse の指数定理により、両端で消える場の空間上で $I$ が負定値となる部分空間の最大次元(指数)は、$\gamma(a)$ の共役点 $\gamma(t)$($a< t< b$)の個数を重複度込みで数えたものに等しい(Mil63 Theorem 15.1、p. 83)。これは Morse理論 を測地線の空間に当てはめるときの要であり、Morse指数 の幾何学的な意味を与える。

最短性が失われる点は共役点とは限らない

Jacobi の定理の逆、すなわち「最短でなくなるなら共役点がある」は成り立たない。

円柱の測地線

円柱 $M=S^1\times\mathbb{R}$($S^1$ は半径 $1$ の円)に積計量を入れる。$M$ は平坦なので(Riemann曲率テンソル の記事の例「積多様体」)、thm-conjugate-nonpositive によりどの測地線にも共役点はない。一方、測地線 $\gamma(t)=(e^{it},0)$($0\le t\le\ell$)は、$\pi<\ell<2\pi$ なら端点 $(1,0)$ と $(e^{i\ell},0)$ を逆回りの長さ $2\pi-\ell<\ell$ の弧でも結べるので最短でない。最短性は、別の測地線との「大域的な競合」によっても失われる。

完備で連結な $M$ において、測地線 $t\mapsto\exp_p(tv)$($\lvert v\rvert=1$)が $[0,t]$ で最短であるような $t$ の上限を切断時刻、それが有限のときの点 $\exp_p(t_{\mathrm{cut}}v)$ を切断点という。切断点は、$p$ の共役点であるか、$p$ からの単位速さの最短測地線が 2 本以上あるかの少なくとも一方を満たす(Lee18 Proposition 10.32、p. 308。この記事では証明しない)。

擬Riemann多様体と時空

共役点の定義は、擬リーマン多様体、とくに 時空 の測地線に対しても同じ文言で与えられる(MS08 Definition 2.32、p. 15)。thm-conjugate-critical の証明は計量の正定値性を使っておらず、そのまま成り立つ(Lee18 Proposition 10.20、p. 299 は擬 Riemann の場合も含めて述べている)。一方、thm-conjugate-nonpositive と thm-conjugate-jacobi の証明は正定値性を使う。
光的測地線に沿って両端で消える Jacobi 場は $\dot\gamma$ に直交する(Jacobi場 の記事の命題「接成分と法成分への分解」の 1 による)。2 次元の時空では光的な $\dot\gamma$ に直交するベクトルは $\dot\gamma$ の実数倍に限るので、そのような Jacobi 場は $h\dot\gamma$ の形で、Jacobi 方程式から $h''=0$ となり、2 点で消えれば $0$ である。よって 2 次元の時空の光的測地線は共役点の対をもたない(MS08 Proposition 2.34、p. 16)。時空での Jacobi の定理に当たる事実として、端点を結ぶ因果曲線の中で長さを最大にする曲線は、パラメータを取り替えれば、端点を除いて共役点をもたない因果的測地線である(この記事では証明しない。MS08 Theorem 2.27、p. 14。Lorentz 幾何では時間的曲線の長さは最小でなく最大が意味をもつ)。Generic条件(Lorentz幾何) とエネルギー条件の下では完備な因果的測地線が必ず共役点の対をもち(この記事では証明しない。Generic条件(Lorentz幾何) の記事の注意「特異点定理の出典と generic 条件の役割」)、この二つの事実の衝突が特異点定理の論法になる。

条件を外したときの反例

外す条件反例成り立たなくなること
共役点が区間の内部にあること単位球面 $S^2$ の長さ $\pi$ の大円弧共役点をもつ測地線が最短でないこと
断面曲率が非正であること単位球面 $S^n$共役点が存在しないこと
指数写像の微分の退化(単射でないことで置き換える)円柱 $S^1\times\mathbb{R}$ の $\exp_p$単射でない点の像が共役点であること

1 行目:長さ $\pi$ の大円弧の両端は対蹠点で、ex-conjugate-sphere により共役であるが、球面上の 2 点の距離は大円の短い方の弧の長さなので、対蹠点を結ぶ長さ $\pi$ の弧は最短である。共役点が端点にあるだけでは最短性は失われない。2 行目:ex-conjugate-sphere による。3 行目:$p=(1,0)$ について $\exp_p(\theta,0)=(e^{i\theta},0)$ なので $\exp_p(0,0)=\exp_p(2\pi,0)$ であり $\exp_p$ は単射でないが、ex-conjugate-cylinder のとおり共役点はなく、$\exp_p$ に臨界点はない。

文献

共役点の定義と重複度の上限、指数写像の臨界点との対応は Lee18 Chapter 10 の pp. 298–299 と Proposition 10.20(p. 299)、Jacobi の定理は同 Theorem 10.26(p. 303。区分的に滑らかな変分を用いる証明)、非正曲率で共役点がないことは同 Theorem 11.12(p. 333。非正曲率の場合の証明は同書 Problem 10-7(p. 314)に委ねられている)にある。Mil63 §14(p. 77)は共役点を Jacobi 場で定義し、エネルギーの Hessian の零空間と結びつける。時空の共役点については MS08 §2.5–2.6 を見よ。

関連項目

参考文献

[1]
John M. Lee, Introduction to Riemannian Manifolds, Graduate Texts in Mathematics 176, Springer, 2018, pp. 298–299(共役点の定義と重複度)、Proposition 10.20(p. 299)、Theorem 10.26(p. 303)、Theorem 10.28(p. 304)、Proposition 10.32(p. 308)、Problem 10-7(p. 314)、Theorem 11.12(p. 333)、Theorem 12.8(p. 352)
[2]
John W. Milnor, Morse Theory, Annals of Mathematics Studies 51, Princeton University Press, 1963, §14(Jacobi 場と共役点、p. 77)、Theorem 15.1(Morse の指数定理、p. 83)
[3]
Ettore Minguzzi and Miguel Sánchez, The causal hierarchy of spacetimes, Recent Developments in Pseudo-Riemannian Geometry (ESI Lectures in Mathematics and Physics), European Mathematical Society, 2008, arXiv 版(v3):Theorem 2.27(p. 14)、Definition 2.32(p. 15)、Proposition 2.34(p. 16)

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