素イデアルの高さ(height of a prime ideal)とは、素イデアル $\mathfrak p$ を末尾にもつ厳密な素イデアルの鎖の長さの上限 $\operatorname{ht}\mathfrak p$ である。これは局所化の次元 $\dim A_{\mathfrak p}$ に等しく、$\dim A$ が有限なら $\operatorname{ht}\mathfrak p+\dim A/\mathfrak p\le\dim A$ が成り立つが、Noether環でも等号は一般に成り立たない。イデアルの高さはそれを含む素イデアルの高さの最小値として定め、Noether環では $r$ 個の元で生成されるイデアルの上の極小素イデアルの高さは $r$ 以下となる。特にNoether環の各素イデアルの高さは有限である。
以下、環は可換で単位元をもち、素イデアルは真のイデアルとする。高さの定義と素鎖の対応には Noether 性を仮定しない。有限生成イデアルに対する数値上界では Noether 性を明示して用いる。
素イデアルの高さは、その素点の下にどれだけ長い鎖があるかを測る。環全体の次元と違い、一つの素イデアルに付く数である。また $A/\mathfrak p$ の次元はその素イデアルの上にある鎖を数えるため、高さとは向きが逆である。この違いを曖昧にすると、局所化や商環での次元の式を誤用する。
幾何的には高さは余次元の代数的な指標となる。しかし任意の環で高さと商次元の和が環の次元に等しいという公式が成り立つわけではない。成分の次元が異なる場合や、鎖の長さに関する仮定がない場合には、鎖から確実に得られる不等式と、別の高さ公式を区別する必要がある。ここでは定義からの素対応、イデアルの極小成分、生成元数による上界を中心に扱う。
素イデアル $\mathfrak p\subset A$ の高さ $\operatorname{ht}_A(\mathfrak p)$ は、$\mathfrak p$ を末尾にもつ厳密素鎖
$$\mathfrak p_0\subsetneq\mathfrak p_1\subsetneq\cdots\subsetneq\mathfrak p_n=\mathfrak p$$
の長さ $n$ の上限である。無限に長い有限鎖がある場合は $\infty$ とする。包含する素の個数ではなく、厳密包含の段数を数える。
一つの素イデアルだけからなる鎖の長さは0である。高さ0は、まさに環の極小素イデアルであることを意味する。零環には素イデアルがなく、素の高さの値を与える対象がない。素イデアルは真であるため、単位イデアルの高さを素の高さとして定義しない。
任意の可換環と素イデアル $\mathfrak p$ について
$$\operatorname{ht}_A(\mathfrak p)=\dim A_{\mathfrak p}$$
である。一般の乗法的集合 $S$ に対し、$\mathfrak p\cap S=\emptyset$ なら $\operatorname{ht}_{S^{-1}A}(S^{-1}\mathfrak p)=\operatorname{ht}_A(\mathfrak p)$ となる。
局所化の素対応を直接確認する。$\mathfrak q\cap S=\emptyset$ なら $S^{-1}\mathfrak q$ は真であり、商 $S^{-1}A/S^{-1}\mathfrak q\simeq S^{-1}(A/\mathfrak q)$ は整域だから素である。その縮約が $\mathfrak q$ に戻るのは、$a/1\in S^{-1}\mathfrak q$ ならある $s\in S$ が $sa\in\mathfrak q$ を満たし、$s\notin\mathfrak q$ と素性から $a\in\mathfrak q$ となるためである。
逆に $Q\subset S^{-1}A$ が素なら、その縮約 $\mathfrak q$ は素であり、$S$ の像が単元なので $\mathfrak q\cap S=\emptyset$。$a/s\in Q$ は $a/1\in Q$ と同値だから $Q=S^{-1}\mathfrak q$。拡大と縮約は互いに逆で、包含を保ち、逆があるから厳密包含も保つ。
$S=A\setminus\mathfrak p$ とすれば、対応する素はちょうど $\mathfrak p$ に含まれる素である。$A_{\mathfrak p}$ の最大の素は $\mathfrak pA_{\mathfrak p}$ で、これが唯一の極大イデアルである。任意の有限鎖の末尾がこれでなければ、末尾にこれを追加できる。従って全局所素鎖の長さの上限は、この極大イデアルを末尾にする鎖の長さの上限と同じになる。素対応でこれは $\operatorname{ht}_A\mathfrak p$ に等しい。
一般の $S$ が $\mathfrak p$ を避ければ、$\mathfrak p$ 以下の全ての素も $S$ を避ける。従ってその下の全鎖が保存され、二つの高さは一致する。これは有限高さの仮定なしに、有限鎖を一つずつ両方向へ送る議論である。
高さは局所化で単に小さくなるという量ではない。残った素点については、その下の素が全て残るから高さは正確に保存される。一方、環全体の次元は消えた素点の高さを含めなくなるため低下し得る。
$\mathfrak p\subsetneq\mathfrak q$ なら高さは非減少である。$\operatorname{ht}\mathfrak p$ が有限なら、$\operatorname{ht}\mathfrak q\ge\operatorname{ht}\mathfrak p+1$。また $\dim A$ が有限なら
$$\operatorname{ht}\mathfrak p+\dim(A/\mathfrak p)\le\dim A.$$
$\mathfrak p$ を末尾にする鎖の後ろに $\mathfrak q$ を追加すると、長さは一つ増える。有限の整数値を上限に持つ鎖長の集合では上限が実現するので、有限高さの場合の数値不等式が得られる。高さ無限でも、任意の有限長に対してこの操作ができるから $\mathfrak q$ の高さも無限である。
商環の素は $\mathfrak p$ を含む $A$ の素に対応する。これは逆像と商への像が互いに逆であり、商の商が整域であるという素性の定義から従う。商環の鎖の先頭に零イデアルを追加でき、従って次元を実現する鎖を $\mathfrak p$ から始めて選べる。有限次元の場合、$\mathfrak p$ 以下の最長鎖と、$\mathfrak p$ から始まる上の最長鎖を連結すると、長さは二つの和である。同じ素 $\mathfrak p$ は一度だけ数えるから、全環の次元がこの和以上となる。
真イデアル $I\subset A$ の高さを
$$\operatorname{ht}_A(I)=\inf\{\operatorname{ht}_A\mathfrak p:\mathfrak p\supset I,\ \mathfrak p\text{ は素}\}$$
とする。単位イデアルについては空の集合の下限として $\operatorname{ht}(A)=\infty$ とする規約を採る。この規約は生成元数の上界を単位イデアルへ適用するためのものではない。
真イデアルを含む素は存在する。真イデアルを含む真イデアルの鎖の合併は、1が入るなら鎖の一段に入るため真のままである。Zorn の補題によって極大イデアルが得られ、それは素である。極大性から商が体になるためである。
$I$ を含む素 $\mathfrak p$ の下に、$I$ 上極小な素 $\mathfrak q$ が存在する。従ってイデアルの高さは、その上の極小素の高さの下限である。また $\sqrt I$ は $I$ を含む全素イデアルの交叉である。
$I$ を含み $\mathfrak p$ に含まれる素の集合を逆包含順序で考える。包含について鎖を成す素族の交叉 $Q$ は素である。実際 $ab\in Q$ で $a,b\notin Q$ なら、$a$ を含まない素と $b$ を含まない素を選ぶ。鎖なので小さい方は両方を含まず、$ab$ を含むことと矛盾する。交叉は $I$ を含み $\mathfrak p$ に含まれる真イデアルだから、Zorn で極小素が得られる。高さの単調性から、上の任意の素を極小素へ下げても高さは増えない。二つの下限は一致する。
根基の一方の包含は、素が $a^n$ を含めば $a$ を含むことから従う。他方、$a\notin\sqrt I$ とする。$S=\{1,a,a^2,\ldots\}$ は $I$ と交わらない。$I$ を含み $S$ と交わらないイデアルの集合から、鎖の合併を用いて極大な $J$ を選ぶ。もし $uv\in J$ で $u,v\notin J$ なら、$J+(u)$ と $J+(v)$ はそれぞれ $S$ と交わる。その二つの表示を掛けると $uv\in J$ によって $S$ のある元が $J$ に入って矛盾する。従って $J$ は素で、$a\notin J$ である。根基に入らない元は全包含素の交叉にも入らないことが示された。
真イデアル上の高さの集合は非空で、その値は非負整数または無限大である。有限値があれば非負整数の整列性から最小があり、全て無限大ならその値自体が最小である。従って最小値の達成には Noether 性も極小素の有限性も要らない。Noether 環では各素が有限生成であり、以下の上界から各素の高さは有限となる。ただし極小成分ごとの高さが全て等しいとは限らず、最小の高さだけがイデアルの高さである。
$A$ が Noether 環、$I=(a_1,\ldots,a_r)$ なら、$I$ 上極小な各素イデアル $\mathfrak p$ について $\operatorname{ht}\mathfrak p\le r$ である。$r=0$ を含み、零元や重複した生成元も許す。真イデアルなら特に $\operatorname{ht}I\le r$ である。
この上界は任意の包含素の高さについてではなく、極小素についてのものである。局所化により $A_{\mathfrak p}$ の極大根基を持つイデアルへ移し、長さの増大を比較して証明する。以下では Hilbert–Samuel 次元定理を入力にせず、固定 Artin–Rees 定数と単項式の個数から直接上界を得る。以下の三補題の後で定理の証明を与える。
まず証明で使う有限性を確保する。Noether環上の有限生成加群の部分加群は有限生成である。この事実は有限自由加群の階数に関する帰納法で示せる。階数一では部分加群はイデアルだからNoether条件そのものである。階数 $s$ では第一座標への像が有限生成イデアルとなり、核は階数 $s-1$ の自由加群の部分加群となる。像の生成元の持上げと核の生成元を合わせればよい。一般の有限生成加群については有限自由加群からの全射の逆像に適用する。
Noether環 $R$ に対して、有限変数多項式環 $R[T_1,\ldots,T_s]$ はNoether環である。
一変数の場合を示す。$J\subset R[T]$ をイデアルとする。$J=0$ の場合は自明なので、以下では $J\ne0$ とする。$J$ の非零多項式の先頭係数が生成する $R$ のイデアルは有限生成だから、その生成に必要な先頭係数をもつ多項式 $f_1,\ldots,f_v\in J$ を選べる。$N$ をそれらの次数の最大値とする。
$g\in J$ の次数が $N$ 以上なら、その先頭係数を $f_i$ の先頭係数の線形結合で表す。それぞれの $f_i$ に適切な $T$ の冪を掛けて次数を $\deg g$ に合わせ、線形結合を引けば次数が真に下がる。この操作を有限回繰り返すと、$g$ は $f_i$ の多項式係数線形結合と、次数が $N$ 未満の $J$ の元との和になる。
次数が $N$ 未満の多項式全体は有限自由 $R$ 加群である。その中の部分加群 $J\cap R[T]_{< N}$ は有限生成である。この有限個の生成元と $f_i$ が $J$ をイデアルとして生成する。従って $R[T]$ はNoether環である。変数を一つずつ追加して有限変数の場合を得る。商環もNoetherなので、有限型 $R$ 代数にも同じ結論が成り立つ。
$R$ をNoether環、$M$ を有限生成 $R$ 加群、$N\subset M$ を部分加群、$\mathfrak a$ をイデアルとする。ある整数 $c\ge0$ が存在し、すべての $n\ge c$ について
$$N\cap\mathfrak a^nM=\mathfrak a^{n-c}(N\cap\mathfrak a^cM)$$
が成り立つ。特に左辺は $\mathfrak a^{n-c}N$ に含まれる。
$\mathfrak a=(u_1,\ldots,u_s)$ と書く。Rees環
$$S=R[u_1t,\ldots,u_st]\subset R[t]$$
は有限型 $R$ 代数だからNoether環である。次数付き加群
$$\mathcal M=\bigoplus_{n\ge0}\mathfrak a^nM t^n$$
は $M$ の有限生成元を次数零に置けば有限生成 $S$ 加群になる。その部分加群
$$\mathcal N=\bigoplus_{n\ge0}(N\cap\mathfrak a^nM)t^n$$
も有限生成である。$N=0$ の場合は $\mathcal N=0$ であり、$c=0$ とすれば結論は自明である。以下では $N\ne0$ とする。有限個の生成元を斉次成分に分け、そのすべてを生成元に取り直す。これらの次数の最大値を $c$ とする。
次数 $n\ge c$ の成分は、次数 $i\le c$ の生成元に $\mathfrak a^{n-i}$ を掛けたものの和である。$\mathfrak a^{c-i}$ を掛けた段階で $N\cap\mathfrak a^cM$ に入るので、全体は $\mathfrak a^{n-c}(N\cap\mathfrak a^cM)$ に含まれる。逆包含は $N$ が部分加群であることと冪の積から直ちに従う。
ここで $c$ は固定した三つのデータ $M,N,\mathfrak a$ から一度だけ選ぶ。$n$ ごとに別の定数を選んではいない。この一様性が次の長さ評価の反復を可能にする。
非零Noether局所環 $(R,\mathfrak m)$ に対して
$$\chi_R(n)=\operatorname{length}_R(R/\mathfrak m^n)\qquad(n\ge1)$$
と置く。極大イデアルは有限生成であり、各 $\mathfrak m^i/\mathfrak m^{i+1}$ は剰余体上有限次元なので、この長さは有限である。局所環の有限長加群の単純因子はすべて剰余体である。従って剰余環を加群の作用環として使っても、同じ単純因子を数える長さは変わらない。
$(R,\mathfrak m)$ に長さ $d$ の素イデアルの厳密な鎖があるなら、正実数 $C$ と整数 $n_0$ が存在して
$$\chi_R(n)\ge Cn^d\qquad(n\ge n_0)$$
となる。鎖の末尾が極大イデアルであることは必要ない。
$d$ に関して帰納する。$d=0$ では $R/\mathfrak m^n$ が剰余体に全射するので $\chi_R(n)\ge1$ である。
$d>0$ とし、鎖を $\mathfrak p_0\subsetneq\cdots\subsetneq\mathfrak p_d$ と書く。$R/\mathfrak p_0$ への全射は各極大イデアルの冪による商にも全射を与える。従って商の長さを下から評価すれば元の長さも下から評価される。そこで $C_0=R/\mathfrak p_0$ と置き、局所整域の場合へ移る。その極大イデアルを $\mathfrak n$ と書く。$\mathfrak p_1/\mathfrak p_0$ から非零元 $z$ を選ぶ。$D=C_0/(\mathfrak p_1/\mathfrak p_0)$ には長さ $d-1$ の鎖が残るので、帰納によりある $c_1>0$ について $\chi_D(n)\ge c_1n^{d-1}$ が十分大きい $n$ で成り立つ。
完全列による長さの加法性から
$$\chi_{C_0}(n)=\operatorname{length}C_0/(zC_0+\mathfrak n^n)+\operatorname{length}zC_0/(zC_0\cap\mathfrak n^n).$$
第一項の商は $D/\mathfrak m_D^n$ に全射するので $\chi_D(n)$ 以上である。第二項では固定部分加群 $zC_0\subset C_0$ にArtin–Reesを適用する。ある固定整数 $a\ge1$ について、すべての十分大きい $n$ で
$$zC_0\cap\mathfrak n^n\subset z\mathfrak n^{n-a}$$
となる。$z$ は整域の非零元だから消去でき、
$$(\mathfrak n^n:z)\subset\mathfrak n^{n-a}$$
を得る。従って第二項は $\chi_{C_0}(n-a)$ 以上である。以上より
$$\chi_{C_0}(n)\ge\chi_{C_0}(n-a)+c_1n^{d-1}$$
が十分大きい $n$ で成立する。
この不等式を $n,n-a,n-2a,\ldots$ について反復する。$n$ が十分大きければ、少なくとも $n/(3a)$ 個の項について引数は $n/2$ 以上に保てる。従って
$$\chi_{C_0}(n)\ge\frac{c_1}{3a\,2^{d-1}}n^d.$$
各帰納段階で用いた $a$ は $n$ に依存しない。これで帰納が閉じる。
この証明は実際に与えられた有限鎖から下界を得た。次元が有限であること、Hilbert多項式の次数が次元に等しいこと、主イデアル定理のいずれも仮定していない。
$(R,\mathfrak m)$ を非零Noether局所環とする。$I=(u_1,\ldots,u_r)\subset\mathfrak m$、$\sqrt I=\mathfrak m$ とする。$r\ge1$ なら $L=\operatorname{length}(R/I)$ は有限で、
$$\chi_R(n)\le L\binom{n+r-1}{r}$$
がすべての $n\ge1$ で成り立つ。
$\mathfrak m$ の有限生成元を $v_1,\ldots,v_s$ とする。各 $v_i$ の適当な正整数冪は $I$ に属する。十分高い次数の $v_i$ の単項式は、そのいずれかの冪を因子にもつので $I$ に入る。従ってある $h$ について $\mathfrak m^h\subset I$ である。$R/I$ は $R/\mathfrak m^h$ の商なので有限長である。
$I^j/I^{j+1}$ は、$u_1,\ldots,u_r$ の総次数 $j$ の単項式で生成される。その個数は $\binom{j+r-1}{r-1}$ である。また $I$ はこの商を零化するから、対応する個数の $R/I$ の直和から全射がある。従って
$$\operatorname{length}(I^j/I^{j+1})\le L\binom{j+r-1}{r-1}.$$
$R/I^n$ の有限フィルトレーションに長さの加法性を適用し、$j=0,\ldots,n-1$ について和を取ると
$$\operatorname{length}(R/I^n)\le L\binom{n+r-1}{r}.$$
$I^n\subset\mathfrak m^n$ なので $R/I^n$ は $R/\mathfrak m^n$ に全射する。これで主張を得る。
上で述べた一般高さ定理を証明する。まず局所環 $(R,\mathfrak m)$ で $r$ 元生成イデアル $I$ が極大根基をもつ場合を考える。$r\ge1$ なら前の補題が $\chi_R(n)$ に次数 $r$ の多項式による上界を与える。一方、長さ $d>r$ の厳密素鎖があれば成長下界の補題によって $Cn^d$ が下界になる。$n$ を大きくすると両者は両立しない。従って長さ $r+1$ の鎖はなく、$\dim R\le r$ である。$r=0$ なら $\sqrt0=\mathfrak m$ である。すべての素イデアルは冪零元を含むから $\mathfrak m$ を含み、局所環では $\mathfrak m$ しかない。従って次元は零である。
一般の $A,I,\mathfrak p$ に戻る。$R=A_{\mathfrak p}$ とする。局所化による素イデアル対応で、$IR$ を含む素イデアルは $I$ を含み $\mathfrak p$ に含まれる素イデアルに対応する。極小性から該当する素イデアルは $\mathfrak p$ だけであり、$\sqrt{IR}=\mathfrak pR$ となる。局所化でNoether性は保たれる。実際、局所化環のイデアル $J$ は縮約 $H=\{a\in A:a/1\in J\}$ の拡大に等しい。$a/s\in J$ は $a/1\in J$ と同値であることから従う。縮約の有限生成元の像が $J$ を生成するので、局所化環の全イデアルは有限生成である。$IR$ は元と同じ $r$ 元で生成される。局所の場合より
$$\operatorname{ht}_A\mathfrak p=\dim A_{\mathfrak p}\le r$$
を得る。主イデアル定理は $r=1$ とした場合である。
Noether環の任意の素イデアル $\mathfrak p$ は有限生成である。そのイデアル自身の上で極小な素イデアルは $\mathfrak p$ だから、一般高さ定理を適用すると $\operatorname{ht}\mathfrak p$ は有限になる。これは一つの素イデアルの高さについての主張である。すべての素イデアルの高さに共通する有限の上界が存在するとまでは言っていない。一般Noether環は無限次元であり得るので、二つの量化を交換してはいけない。
局所Noether環 $(R,\mathfrak m)$ では極大イデアルの有限生成元の個数が次元の上界になる。例えば $\mathfrak m$ が $s$ 元で生成されるなら $\dim R\le s$ である。これは正則局所環の定義で、極大イデアルの最小生成元の個数と次元を比較する際の基礎となる。ただしこの不等式だけから等号や正則性は出ない。
さらに、$\mathfrak m$ を根基にもつ $r$ 元のイデアルが存在すれば $\dim R\le r$ である。局所環のパラメータを選ぶときに必要な下限、すなわちパラメータの個数は次元より少なくできない、という向きがここから得られる。逆向きのパラメータの存在は素回避を用いる別の構成であり、本定理の証明には持ち込んでいない。
以下の多項式の例では $k$ を体とする。$A=k[X_1,\ldots,X_r]$、$\mathfrak m=(X_1,\ldots,X_r)$ と置く。各 $i$ について $(X_1,\ldots,X_i)$ による商は残りの変数の多項式環だから整域である。従って
$$0\subsetneq(X_1)\subsetneq\cdots\subsetneq(X_1,\ldots,X_r)$$
は長さ $r$ の素鎖である。上界は一般高さ定理から $r$、下界はこの鎖から $r$ なので、$\operatorname{ht}\mathfrak m=r$ となる。一般高さ定理の数値上界は改善できない。
二変数環 $k[X,Y]$ の $I=(X)$ を考える。$I$ 自身は素イデアルで、上で極小な素イデアルは $(X)$ である。鎖 $0\subsetneq(X)$ と主イデアル定理から高さは $1$。一方 $I$ を含む $\mathfrak m=(X,Y)$ は、鎖 $0\subsetneq(X)\subsetneq(X,Y)$ と二元の上界から高さ $2$ をもつ。従って「主イデアルを含む素イデアルはすべて高さ高々一」という言い換えは誤りである。
零因子の例として $A=k[X,Y]/(XY)$ を取る。$\overline X$ は非零の零因子であるが、$(\overline X)$ は商 $k[Y]$ をもつ素イデアルであり、環の極小素イデアルの一つである。高さは零となる。したがって非零元が生成する主イデアルの極小素イデアルに、一般環で必ず高さ $1$ を要求することはできない。整域なら非零元を含む素イデアルは零イデアルより真に大きいので、主イデアル定理の上界と合わせて極小素の高さは $1$ になる。ここで整域仮定が担う役割が分かる。
体 $k$ と $K=k((t))$ を取り、二つの形式変数を使って
$$R=k\llbracket t\rrbracket+uK\llbracket u\rrbracket\subset K\llbracket u\rrbracket$$
と置く。これは定数項だけを $k\llbracket t\rrbracket$ に制限した整域である。定数項が $k\llbracket t\rrbracket$ の単元なら、$K\llbracket u\rrbracket$ 内の逆元の定数項も $k\llbracket t\rrbracket$ に属するので、その逆元は $R$ に属する。定数項が $t$ で割れる元は $tR$ に属する。実際、$u$ を含む尾部を $t$ で割っても $uK\llbracket u\rrbracket$ に属する。従って $R$ は唯一の極大イデアル $\mathfrak m=tR$ をもつ局所環である。
$t$ を反転すると $R[1/t]=K\llbracket u\rrbracket$ になる。右辺は一変数の冪級数環で、非零元は $u$ の有限冪と単元の積だから、その素イデアルは零と $(u)$ だけである。従って $t$ を避ける $R$ の素イデアルは零と $\mathfrak p=uK\llbracket u\rrbracket$ の二つである。$t$ を含む素イデアルは $R/tR=k$ の素イデアルに対応するから $\mathfrak m$ だけである。以上より
$$0\subsetneq\mathfrak p\subsetneq\mathfrak m$$
が全体の最長素鎖となり、$\dim R=\operatorname{ht}\mathfrak m=2$ である。
ところが主イデアル $(t)$ は $\mathfrak m$ そのものであり、その上の極小素イデアルの高さは $2$ である。これがNoether条件を外した主イデアル定理の反例となる。Noether性が実際に失われることも直接分かる。元 $u/t^n$ はすべて $R$ に属し、
$$(u)\subsetneq(u/t)\subsetneq(u/t^2)\subsetneq\cdots$$
は厳密なイデアルの上昇列である。包含は $t$ 倍によって成立し、逆包含があれば整域内の消去から $1/t\in R$ が従うが、その定数項は $k\llbracket t\rrbracket$ にない。
この反例は整域であり、極大イデアルも主イデアルである。したがって「整域だから」「極大イデアルが有限生成だから」という理由だけではNoether条件を取り除けない。証明で必要なのは部分加群の有限性と、それに由来する固定Artin–Rees定数である。
体 $k$ に対し $A=k[x]\times k[y,z]$ とする。直積環の素は、二つの冪等元 $(1,0)$、$(0,1)$ の積が零であることから、どちらか一方を含む。従って $\mathfrak p\times k[y,z]$ または $k[x]\times\mathfrak q$ の形であり、鎖は一方の成分内にしか続かない。
$P=(x)\times k[y,z]$ の下の鎖は $k[x]$ の $(x)$ の下の鎖に対応する。$k[x]$ の非零素は、最小次数の非零多項式を選んで割り算すれば主イデアルで、素性から既約多項式で生成される。既約多項式で割った商は体なので、その下の素は零だけである。従って $\operatorname{ht}_A P=1$、$A/P\simeq k$ なので $\dim A/P=0$。
一方、第二成分には $0\subsetneq(y)\subsetneq(y,z)$ があり、$\dim A\ge2$ である。従って $\operatorname{ht}P+\dim A/P=1<\dim A$。等号の否定には上界を新たに仮定する必要がない。全環は Noether である。各因子の有限性は本文の多項式環の補題による。直積のイデアル $J$ は二つの冪等元で分けると $J=J_1\times J_2$ となり、各因子の有限生成元を $(a,0)$、$(0,b)$ として集めれば $J$ の有限生成元となる。Noether 性だけでは高さと商次元の和を全体の次元と同一視できない。
体 $k$、$A=k[x,y]$、$I=(xy,x(x-1))$ を取る。$I$ を含む素 $P$ は、$xy\in P$ により $x\in P$ または $y\in P$ を満たす。$x\notin P$ の場合は $x(x-1)\in P$ から $x-1\in P$ なので $(x-1,y)\subset P$。従って包含素は $(x)$ の上か $(x-1,y)$ の上にあり、両者は互いに包含しない素である。これらが $I$ の上の極小素となる。
$(x)$ は長さ1の鎖と主イデアル定理から高さ1である。$(x-1,y)$ は $0\subsetneq(x-1)\subsetneq(x-1,y)$ と二元生成の上界から高さ2。従って $\operatorname{ht}I=1$ であるが、全ての極小成分の高さが1ということではない。高さ2の成分を最小値の定義から消してしまわないようにする必要がある。
素の高さは常にその下の鎖で定義する。局所環の極大イデアルであれば環の次元と一致するが、一般環の任意の極大イデアルでその高さが全環の次元に等しいとは限らない。局所化した素の高さは変わらず、商環に移すと数える鎖の向きが変わる。
方程式の数から上界を得るときは、環の Noether 性とイデアル上の極小性を確認する。高さが生成元数以下であることは、その生成元が正則列であることを意味しない。零因子の例では主イデアルの極小素の高さが0となった。正則列や Cohen–Macaulay 性に関する高さ判定は、さらに仮定を持つ別の命題である。
また、各素の高さが有限であることと、全ての素の高さに一つの有限上界があることは異なる。前者は Noether 環の一般高さ定理から得たが、後者をここで結論していない。無限次元の Noether 環を排除するものではない。高さ公式や等次元性を使用する場合にも、その定理の環・体・有限型などの仮定を別途確認する。
素鎖と局所次元、高さ定理の位置づけは AM69 Chapter 11 と MatCRT §13 にある。本文の上界は必要な有限性・Rees 環・長さの上下界を展開して証明した。一般の鎖状性や全ての有限型高さ公式を、ここでの鎖の不等式だけから推論するものではない。
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