連立1次方程式

同義語:線形方程式系system of linear equationslinear system

概要

連立1次方程式(system of linear equations)とは、体 $K$ の元を係数とする $m$ 個の 1 次式を同時に満たす $n$ 個の未知数を求める問題であり、係数行列 $A$ と定数項 $b$ を使って $Ax=b$ と書ける。行基本変形は解集合を変えないので、拡大係数行列を簡約階段形に変形すれば解が読み取れる。解をもつことは $A$ と拡大係数行列 $(A\mid b)$ の階数が等しいことと同値で、解全体は 1 つの解と斉次方程式 $Ax=0$ の解全体の和であり、$n$ から階数を引いた個数の自由変数で表される。無限体の上では解は「ない」「ただ 1 つ」「無数」のいずれかであるが、式と未知数の数が同じでも解が一意とは限らず、有限体の上では解の個数は有限である。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 行列, 体, ベクトル空間

次の 3 つの式を同時に満たす $x,y,z$ を求めたい。
$$ \begin{cases} x+y+z=6\\ 2x-y+z=3\\ x+2y-z=2\end{cases} $$
第 2 式から第 1 式の $2$ 倍を引くと $-3y-z=-9$、第 3 式から第 1 式を引くと $y-2z=-4$ となり、$x$ が消える。後者から $y=2z-4$ を前者に入れると $-7z+12=-9$、すなわち $z=3$ であり、$y=2$、$x=1$ と決まる。解はただ 1 つ $(x,y,z)=(1,2,3)$ である。ところが第 3 式を第 1 式と第 2 式の和 $3x+2z=9$ に取り替えると、第 3 式は新しい情報をもたず、$(x,y,z)=(3-2s,\ 3-s,\ 3s)$($s$ は任意の数)がすべて解になる。右辺を $3x+2z=10$ に変えると、第 1 式と第 2 式から $3x+2z=9$ が従うので $9=10$ となり、解は 1 つもない。
このように、いくつかの 1 次式を同時に満たす未知数を求める問題が 連立1次方程式 である。実数や複素数のような無限体の上では、解は「ただ 1 つ」「無数」「1 つもない」のどれかになり、どれになるかは式の係数だけから判定できる(有限体の上では「無数」の代わりに、有限個の解をもつことがある)。本記事では、連立1次方程式を行列の式 $Ax=b$ として定式化し、行基本変形による消去法(Gauss–Jordan の消去法)がなぜ正しいか、解が存在するための条件(係数行列と拡大係数行列の階数(線形代数)が等しいこと)、解全体の形(1 つの解と斉次方程式の解全体の和)、未知数が式より多い斉次方程式が $0$ 以外の解をもつこと、解の個数を証明する。行列式による解の公式(Cramer の公式)は 行列式 の記事にあるので、そちらの結果を引用する。

定義

以下、$K$ は体($\mathbb{Q}$、$\mathbb{R}$、$\mathbb{C}$、有限体など)とし、$K$ の元を成分とする $m\times n$ 行列の全体を $M_{m,n}(K)$ と書く。$K^n$ の元は列ベクトルとする。

連立1次方程式と解

$m,n\ge1$ とし、$a_{ij}\in K$($1\le i\le m$、$1\le j\le n$)と $b_1,\dots,b_m\in K$ を与える。未知数 $x_1,\dots,x_n$ についての $m$ 個の式
$$ \begin{cases} a_{11}x_1+a_{12}x_2+\cdots+a_{1n}x_n=b_1\\ \qquad\vdots\\ a_{m1}x_1+a_{m2}x_2+\cdots+a_{mn}x_n=b_m\end{cases} $$
の組を、$K$ 上の 連立1次方程式(system of linear equations)という。$A:=(a_{ij})\in M_{m,n}(K)$ を 係数行列、$b:=(b_1,\dots,b_m)^{\top}\in K^m$ を 定数項のベクトル、$A$ の右に $b$ を 1 列付け加えた $m\times(n+1)$ 行列 $(A\mid b)$ を 拡大係数行列 という。行列の積を使うと方程式は
$$ Ax=b\qquad(x=(x_1,\dots,x_n)^{\top}) $$
と書ける。すべての式を満たす $x\in K^n$ を 解 といい、解の全体 $\{x\in K^n\mid Ax=b\}$ を 解集合 という。解が少なくとも 1 つあるとき方程式は 解をもつ(consistent、両立する)といい、1 つもないとき 解をもたない(inconsistent)という。$b=0$ のとき 斉次(homogeneous、同次)であるといい、$Ax=0$ を $Ax=b$ に付随する 斉次連立1次方程式 という。斉次方程式はつねに $x=0$ を解にもつ(自明な解)。

解を $K^n$ の中で考えていることに注意する。同じ方程式でも、$K=\mathbb{Q}$ と $K=\mathbb{R}$ では解集合が変わりうるが(実際には thm-sle-reading により、係数が $\mathbb{Q}$ に入っていれば解をもつかどうかは変わらない)、有限体の上では解の個数の数え方が変わる(ex-sle-finite-field)。

連立1次方程式の行基本変形

行列に対する次の 3 種類の操作を 行基本変形(elementary row operations)という。

  1. 2 つの行を入れ替える。
  2. ある行に $0$ でない $c\in K$ を掛ける。
  3. ある行に、別の行の $c$ 倍($c\in K$)を加える。
    行列 $M$ に行基本変形を有限回施して $M'$ が得られるとき、$M$ と $M'$ は 行同値 であるという。

拡大係数行列 $(A\mid b)$ への行基本変形は、方程式の式を入れ替える、式を $0$ でない数倍する、ある式に別の式の定数倍を加える、という操作にあたる。冒頭の計算はこの 3 番目の操作である。各操作には同じ種類の逆の操作がある(同じ 2 行をもう一度入れ替える、$c^{-1}$ 倍する、別の行の $c$ 倍を引く)ので、行同値は同値関係である。

簡約階段形と主変数

行列 $R\in M_{m,p}(K)$ の各行について、$0$ でない最初の成分をその行の 先頭成分 という。$R$ が次の 4 条件を満たすとき、$R$ は 簡約階段形(reduced row echelon form)であるという。

  1. 成分がすべて $0$ の行は、そうでない行よりも下にある。
  2. $0$ でない行の先頭成分は $1$ である。
  3. $0$ でない行が $r$ 個あり、第 $i$ 行の先頭成分が第 $j_i$ 列にあるとすると、$j_1< j_2<\cdots< j_r$ である。
  4. 先頭成分を含む列(主列、pivot column)では、先頭成分以外の成分はすべて $0$ である。
    連立1次方程式の拡大係数行列を簡約階段形に変形したとき、$A$ の部分の主列に対応する未知数を 主変数、それ以外の未知数を 自由変数 という。

たとえば
$$ \begin{pmatrix}1&2&0&1&2\\0&0&1&-2&1\\0&0&0&0&0\end{pmatrix} $$
は簡約階段形であり、主列は第 1 列と第 3 列である。

直感

連立1次方程式を解く作業は、「式を組み合わせて未知数を 1 つずつ消す」ことに尽きる。行基本変形はこの消去を記録する方法であり、変形の前後で解集合が変わらないので(prop-sle-row-operations)、最後に得られる簡約階段形から解を読み取ればよい。
幾何学的には、$\mathbb{R}^3$ の中で 1 つの 1 次式 $a_1x+a_2y+a_3z=b$(係数の少なくとも 1 つが $0$ でないもの)は平面を表し、連立1次方程式の解集合はいくつかの平面の共通部分である。3 枚の平面は 1 点で交わることも、1 本の直線を共有することも、共通部分が空になることもある。冒頭の 3 つの例はこの 3 通りにあたる。
線形代数の言葉では、$Ax=b$ は「$b$ を $A$ の列ベクトル $a_1,\dots,a_n$ の線形結合 $x_1a_1+\cdots+x_na_n$ として書け」という問題である。解があるかどうかは $b$ が列ベクトルの張る部分空間に入るかどうかで決まり(thm-sle-rank)、解がどれだけあるかは、$0$ を列ベクトルの線形結合として書く方法、すなわち斉次方程式 $Ax=0$ の解がどれだけあるかで決まる(thm-sle-structure)。

例と反例

解が無数にある方程式の解き方

$K=\mathbb{R}$ 上の方程式
$$ \begin{cases} x_1+2x_2-x_3+3x_4=1\\ 2x_1+4x_2+x_3=5\\ 3x_1+6x_2+3x_4=6\end{cases} $$
の拡大係数行列に、第 2 行から第 1 行の $2$ 倍を引き、第 3 行から第 1 行の $3$ 倍を引き、第 3 行から第 2 行を引き、第 2 行を $\frac13$ 倍し、第 1 行に第 2 行を加えると
$$ \left(\begin{array}{cccc|c}1&2&-1&3&1\\2&4&1&0&5\\3&6&0&3&6\end{array}\right)\ \longrightarrow\ \left(\begin{array}{cccc|c}1&2&0&1&2\\0&0&1&-2&1\\0&0&0&0&0\end{array}\right) $$
となる。これは簡約階段形で、主変数は $x_1,x_3$、自由変数は $x_2,x_4$ である。第 3 行は $0=0$ なので何も課さず、方程式は $x_1+2x_2+x_4=2$、$x_3-2x_4=1$ と同値である。自由変数を $x_2=s$、$x_4=t$ とおくと
$$ x=\begin{pmatrix}2-2s-t\\ s\\ 1+2t\\ t\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}2\\0\\1\\0\end{pmatrix}+s\begin{pmatrix}-2\\1\\0\\0\end{pmatrix}+t\begin{pmatrix}-1\\0\\2\\1\end{pmatrix}\qquad(s,t\in\mathbb{R}) $$
が解のすべてである(元の 3 式に代入して確かめられる)。右辺の第 1 項は 1 つの解、残りの 2 項は斉次方程式 $Ax=0$ の解の全体であり、これは thm-sle-structure の形である。係数行列の階数は $2$、未知数は $4$ 個で、自由変数の個数 $2=4-2$ が解の「自由度」になる。

反例:式と未知数の数が同じでも解は一意とは限らない

$K=\mathbb{R}$ 上の 2 つの方程式
$$ \text{(i)}\ \begin{cases}x+y=1\\2x+2y=3\end{cases}\qquad\qquad \text{(ii)}\ \begin{cases}x+y=1\\2x+2y=2\end{cases} $$
はどちらも式が 2 個、未知数が 2 個である。(i) では第 2 式から第 1 式の $2$ 倍を引くと $0=1$ となり、解をもたない。(ii) では第 2 式が第 1 式の $2$ 倍なので、解集合は直線 $\{(x,1-x)\mid x\in\mathbb{R}\}$ であり、解は無数にある。この例は「式と未知数の数が等しい」を満たすが「解がただ 1 つである」を満たさないので、「式の数と未知数の数が同じなら解は一意に定まる」という含意は成り立たない。解が一意に定まるかどうかは係数行列が正則行列かどうかで決まる(rem-sle-square)。ここでは係数行列 $\begin{pmatrix}1&1\\2&2\end{pmatrix}$ の行列式が $0$ である。

反例:有限体の上では解の個数は有限

2 元体 $\mathbb{F}_2=\{0,1\}$($1+1=0$)の上の方程式 $x+y=1$ の解は $(x,y)=(1,0),(0,1)$ のちょうど 2 つである。この例は「解が 2 つ以上ある」を満たすが「解が無数にある」を満たさないので、「解が 2 つ以上あれば無数にある」という $\mathbb{R}$ 上でよく知られた含意は、係数の体が無限体であるという仮定なしには成り立たない。一般に $q$ 個の元からなる体の上では、解をもつ方程式の解の個数は $q^{n-r}$($r$ は係数行列の階数)である(thm-sle-count)。

性質

消去法の正しさ

行基本変形は解集合を変えない

拡大係数行列 $(A\mid b)$ と $(A'\mid b')$ が行同値なら、$Ax=b$ と $A'x=b'$ の解集合は等しい。

新しい式は古い式の組み合わせである

1 回の行基本変形について示せば十分である。変形前の方程式の解集合を $S$、変形後の解集合を $S'$ とする。変形後の各式は、変形前の式を入れ替えたもの、$c$ 倍したもの、または「第 $i$ 式 $+\,c\times$ 第 $k$ 式」である。$x\in S$ なら $x$ は変形前のすべての式を満たすので、それらの定数倍や和である変形後の各式も満たす。よって $S\subset S'$ である。変形には同じ種類の逆の変形があり(def-sle-row-operations の後の段落)、変形後の方程式に逆の変形を施すと変形前の方程式に戻るので、同じ議論により $S'\subset S$ である。$\square$

簡約階段形の存在

任意の行列 $M\in M_{m,p}(K)$ は、行基本変形を有限回施して簡約階段形にできる。

列の数についての帰納法

列の数 $p$ についての数学的帰納法で示す。行が 0 個、または列が 0 個の「行列」は条件を空虚に満たすので簡約階段形とみなす。$p\ge1$ とし、$p-1$ 列以下では正しいとする。
第 1 列がすべて $0$ の場合。$M$ から第 1 列を除いた $m\times(p-1)$ 行列 $N$ に帰納法の仮定を使い、同じ行基本変形を $M$ に施す。行基本変形は各列に独立に作用し、第 1 列の $0$ は $0$ のままなので、得られる行列は「第 1 列が $0$、残りが簡約階段形」であり、これは簡約階段形である(先頭成分の位置が 1 列ずつ右にずれるだけである)。
第 1 列に $0$ でない成分がある場合。その成分をもつ行を第 1 行と入れ替え、第 1 行をその成分の逆数倍して $(1,1)$ 成分を $1$ にし、第 $i$ 行($i\ge2$)から第 1 行の $m_{i1}$ 倍を引く。すると
$$ M\ \longrightarrow\ \begin{pmatrix}1&u\\0&N\end{pmatrix}\qquad(u\in M_{1,p-1}(K),\ N\in M_{m-1,p-1}(K)) $$
の形になる。$N$ に帰納法の仮定を使い、同じ変形を第 2 行以下に施す。第 2 行以下の第 1 列はすべて $0$ なので、これらの変形で第 1 列と第 1 行は変わらず、$N$ は簡約階段形 $N'$ になる。最後に、$N'$ の各主列($M$ の第 $j$ 列とする。先頭成分が第 $i$ 行にあるとする)について、第 1 行から第 $i$ 行の $(1,j)$ 成分倍を引く。第 $i$ 行の第 1 列は $0$ で、第 $j$ 列の成分は $1$、他の主列の成分は $0$ なので、この操作で第 1 行の第 $j$ 列だけが $0$ になり、他の主列の第 1 行の成分や第 2 行以下は変わらない。こうして得られる行列は、第 1 行の先頭成分が第 1 列の $1$ で、第 2 行以下が簡約階段形 $N'$ に第 1 列の $0$ を付けたもの、主列の第 1 行の成分が $0$ なので、4 条件をすべて満たす。$\square$

この証明は、そのまま消去法の手順(Gauss–Jordan の消去法、掃き出し法)になっている。簡約階段形はもとの行列だけで一意に定まる(行同値な 2 つの簡約階段形は等しい)ことも知られている。本記事の議論はこの一意性を使わない。一意性の証明は Bee15 Section RREF の Theorem RREFU にある(同書は複素数を成分とする行列で述べている)。

簡約階段形からの解の読み取り

$(A\mid b)$ に行基本変形を施して簡約階段形 $(R\mid c)$ を得たとする。$R=(r_{ik})$、$c=(c_1,\dots,c_m)^{\top}$ とし、$R$ の $0$ でない行の個数を $r$、先頭成分の列を $j_1<\cdots< j_r$ とする。

  1. $Ax=b$ が解をもつことと、$(R\mid c)$ の最後の列(第 $n+1$ 列)が主列でないこととは同値である。
  2. 解をもつとき、自由変数 $x_k$($k\notin\{j_1,\dots,j_r\}$)の値を任意に与えると、主変数は
    $$ x_{j_i}=c_i-\sum_{k\notin\{j_1,\dots,j_r\}}r_{ik}x_k\qquad(i=1,\dots,r) $$
    によってただ 1 通りに定まり、これで解がすべて得られる。したがって解集合は $K^{n-r}$ と 1 対 1 に対応する。
簡約階段形の方程式を書き下す

prop-sle-row-operations により、$Ax=b$ と $Rx=c$ の解集合は等しい。まず、$(R\mid c)$ から最後の列を除いた $R$ も簡約階段形であることに注意する。実際、最後の列が主列なら、その先頭成分をもつ行は $(0,\dots,0\mid1)$ であり、条件 3 によりそれは最後の $0$ でない行なので、最後の列を除いてもすべて $0$ の行は下にそろったままである。
1 を示す。最後の列が主列なら、方程式 $Rx=c$ の中に $0x_1+\cdots+0x_n=1$ という式があり、どんな $x$ もこれを満たさないので解はない。最後の列が主列でないなら、主列はすべて $R$ の中にあり、$R$ の $0$ でない行は $r$ 個、$c$ の第 $r+1$ 成分以下は $0$ である(第 $r+1$ 行以下で $c_i\ne0$ なら、その行の先頭成分は最後の列にあり、最後の列が主列になってしまう)。このとき下の 2 の議論により解が存在する。
2 を示す。最後の列が主列でないとする。第 $r+1$ 行以下の式は $0=0$ なので何も課さない。第 $i$ 行($i\le r$)の式では、条件 4 により主列 $j_{i'}$($i'\ne i$)の成分は $0$、条件 2 により第 $j_i$ 列の成分は $1$ なので、この式は
$$ x_{j_i}+\sum_{k\notin\{j_1,\dots,j_r\}}r_{ik}x_k=c_i $$
である。各主変数はちょうど 1 つの式に現れ、その式は自由変数と $x_{j_i}$ だけを含む。よって自由変数の値を任意に与えれば、各式から $x_{j_i}$ がただ 1 つに定まり、こうして得た $x$ はすべての式を満たす。逆にどの解も自由変数の値によってこの形に書ける。自由変数の値の組 $(x_k)_{k\notin\{j_i\}}\in K^{n-r}$ に解を対応させる写像は、自由変数の成分を読み取る写像を逆にもつので全単射である。$\square$

階数による判定

$A$ の列ベクトル $a_1,\dots,a_n\in K^m$ が張る部分空間 $\operatorname{span}\{a_1,\dots,a_n\}$ を $A$ の 列空間 といい、その次元(基底と次元)を $A$ の 階数 といって $\operatorname{rank}A$ と書く。列空間は線形写像 $x\mapsto Ax$ の像である($Ax=x_1a_1+\cdots+x_na_n$)。

解の存在と階数

連立1次方程式 $Ax=b$ が解をもつことと、$\operatorname{rank}A=\operatorname{rank}(A\mid b)$ であることは同値である。

定数項が列空間に入るかどうか

$C:=\operatorname{span}\{a_1,\dots,a_n\}$、$C':=\operatorname{span}\{a_1,\dots,a_n,b\}$ とおく。$Ax=x_1a_1+\cdots+x_na_n$ なので、$Ax=b$ が解をもつことは $b\in C$ と同値である。
$b\in C$ なら $C'=C$ なので階数は等しい。$b\notin C$ なら、$C$ の基底 $u_1,\dots,u_s$($s=\operatorname{rank}A$)に $b$ を付け加えた $u_1,\dots,u_s,b$ は線形独立であり(線形独立 の記事の命題「一ベクトルの追加」)、$C'$ を生成する($C'$ の元は $a_j$ と $b$ の線形結合であり、各 $a_j$ は $u_1,\dots,u_s$ の線形結合である)。よってこれは $C'$ の基底であり、$\operatorname{rank}(A\mid b)=s+1\ne\operatorname{rank}A$ である。$\square$

階数は先頭成分の個数に等しい

$A$ に行基本変形を施して簡約階段形 $R$ を得たとき、$\operatorname{rank}A$ は $R$ の $0$ でない行の個数 $r$ に等しい。とくに行基本変形は階数を変えない。

列の間の線形関係が保たれる

$A$ と $R$ の列をそれぞれ $a_1,\dots,a_n$、$\rho_1,\dots,\rho_n$ とする。$x\in K^n$ について $\sum_jx_ja_j=0$ は $Ax=0$、$\sum_jx_j\rho_j=0$ は $Rx=0$ であり、prop-sle-row-operations($b=0$ の場合)によりこの 2 つの解集合は等しい。したがって、列番号の集合 $J\subset\{1,\dots,n\}$ について、$(a_j)_{j\in J}$ が線形独立であることと $(\rho_j)_{j\in J}$ が線形独立であることは同値である(係数が $J$ の外で $0$ の $x$ に上のことを使う)。
$(a_j)_{j\in J}$ が線形独立で、$J$ にどの番号 $k\notin J$ を付け加えても線形独立でなくなるような $J$ をとる($J=\emptyset$ から始めて、線形独立を保つ限り番号を付け加えればよい)。このとき各 $a_k$($k\notin J$)は $\operatorname{span}\{a_j\mid j\in J\}$ に入る($a_k$ が $(a_j)_{j\in J}$ のどれかに等しければ明らかで、そうでなければ 線形独立 の記事の命題「一ベクトルの追加」による)ので、$(a_j)_{j\in J}$ は列空間を生成し、その基底である。よって $\operatorname{rank}A=|J|$ である。上で示したことから、同じ $J$ について $(\rho_j)_{j\in J}$ も線形独立で、どの $k\notin J$ を付け加えても線形独立でなくなるので、同様に $\operatorname{rank}R=|J|$ である。よって $\operatorname{rank}A=\operatorname{rank}R$ である。$R$ の主列は $K^m$ の標準基底のベクトル $e_1,\dots,e_r$ であり(条件 2 と 4)、$R$ のどの列も第 $r+1$ 成分以下が $0$ なので $\operatorname{span}\{e_1,\dots,e_r\}$ に入る。よって $R$ の列空間は $\operatorname{span}\{e_1,\dots,e_r\}$ で、$\operatorname{rank}R=r$ である。$\square$

thm-sle-reading の 1 と thm-sle-rank は同じ事実の 2 つの見方である。$(A\mid b)$ の簡約階段形で最後の列が主列であることは、prop-sle-rank-pivots により $\operatorname{rank}(A\mid b)=\operatorname{rank}A+1$ であることにあたる。

解全体の形

解全体は特殊解と斉次方程式の解の和

$x_0\in K^n$ を $Ax=b$ の 1 つの解とする。このとき $Ax=b$ の解集合は
$$ x_0+\ker A:=\{x_0+v\mid v\in K^n,\ Av=0\} $$
である。ここで斉次方程式の解集合 $\ker A$ は $K^n$ の部分空間であり、$\dim\ker A=n-\operatorname{rank}A$ である。

2 つの解の差は斉次方程式の解

$Av=0$ なら $A(x_0+v)=Ax_0+Av=b$ なので $x_0+v$ は解である。逆に $x$ が解なら $A(x-x_0)=b-b=0$ なので $v:=x-x_0\in\ker A$ で $x=x_0+v$ である。$\ker A$ は線形写像 $x\mapsto Ax$ の核なので部分空間であり(線形写像 の記事の命題「核と像は部分空間」)、線形代数学 の記事の定理「次元定理」により $n=\dim K^n=\dim\ker A+\dim\operatorname{im}A=\dim\ker A+\operatorname{rank}A$ である。$\square$

$x_0$ を 特殊解(particular solution)という。この定理は、解を 1 つ見つければ、残りは斉次方程式を解くだけで求まることを示す。ex-sle-parametric では $x_0=(2,0,1,0)^{\top}$、$\ker A$ は $(-2,1,0,0)^{\top}$ と $(-1,0,2,1)^{\top}$ を基底とする 2 次元の部分空間である。Bee15 Section LC の Theorem PSPHS が同じ主張である。

未知数が式より多い斉次方程式

$n>m$ なら、斉次連立1次方程式 $Ax=0$($A\in M_{m,n}(K)$)は $x=0$ 以外の解をもつ。

核の次元を下から評価する

列空間は $K^m$ の部分空間なので $\operatorname{rank}A\le m$ である(線形代数学 の記事の補題「部分空間の基底と基底の延長」の 1)。thm-sle-structure($b=0$、$x_0=0$)により $\dim\ker A=n-\operatorname{rank}A\ge n-m>0$ なので、$\ker A\ne\{0\}$ である。$\square$

同じ主張は Axl24 3.26(§3B、p. 65)にある。同書の 3.28(同頁)は、式が未知数より多い($m>n$)なら、ある定数項 $b$ に対して $Ax=b$ が解をもたないことを示している。これも $\operatorname{rank}A\le n< m$ から列空間が $K^m$ 全体にならないことによる。

解の個数

$Ax=b$ が解をもつとし、$r:=\operatorname{rank}A$ とする。

  1. $r=n$ なら解はただ 1 つである。
  2. $r< n$ で $K$ が無限体なら、解は無数にある。
  3. $K$ が $q$ 個の元からなる有限体なら、解はちょうど $q^{n-r}$ 個ある。
    とくに無限体の上では、連立1次方程式の解は「ない」「ただ 1 つ」「無数」のいずれかである。
自由変数の個数を数える

行基本変形で $(A\mid b)$ を簡約階段形 $(R\mid c)$ にする(thm-sle-rref-existence)。解をもつので最後の列は主列でなく(thm-sle-reading の 1)、$R$ の $0$ でない行の個数は prop-sle-rank-pivots により $r$ である。thm-sle-reading の 2 により解集合は $K^{n-r}$ と 1 対 1 に対応する。$r=n$ なら $K^0$ は 1 点なので解はただ 1 つ、$r< n$ で $K$ が無限なら $K^{n-r}$ は無限集合、$K$ が $q$ 元体なら $K^{n-r}$ の元は $q^{n-r}$ 個である。$\square$

正方行列の場合と Cramer の公式

係数行列が正方行列の場合

$m=n$ のとき、任意の $b\in K^n$ について $Ax=b$ がただ 1 つの解をもつことは、$A$ が正則行列であることと同値であり、そのとき解は $x=A^{-1}b$ である(正則行列 の記事の定理「正則性の同値条件」)。これは $\operatorname{rank}A=n$ とも $\det A\ne0$ とも同値である。$A$ が正則でないときは $\operatorname{rank}A< n$ なので、解をもたないか、解をもてば thm-sle-count により解は 2 つ以上ある($K$ が無限体なら無数にある)。どちらになるかは $b$ による。ex-sle-square-not-unique はこの場合である。

Cramerの公式の所在

$A\in M_n(K)$ で $\det A\ne0$ なら、$A$ の第 $i$ 列を $b$ で置き換えた行列を $A_i$ として、$Ax=b$ のただ 1 つの解は $x_i=\det A_i/\det A$($i=1,\dots,n$)で与えられる。これが Cramerの公式 であり、証明は 行列式 の記事の定理「余因子行列と逆行列の公式」の 3 にある(同記事は $n\ge2$ で述べている。$n=1$ では $a_{11}x_1=b_1$ から $x_1=b_1/a_{11}$ で、公式はそのまま成り立つ)。冒頭の方程式では $\det A=7$ で、$A_1,A_2,A_3$ の行列式は順に $7,14,21$ なので $(x,y,z)=(1,2,3)$ である。Cramer の公式は解を式で表すのに便利だが、未知数が多いときの計算には消去法のほうがはるかに手数が少ない。

補足

文献

行基本変形・簡約階段形・消去法による解法は Bee15 の Chapter SLE(Section RREF の Definition RO・RREF、Theorem REMES・REMEF・RREFU、Section TSS の Theorem RCLS・FVCS・PSSLS・CMVEI、Section HSE の Theorem HSC・HMVEI)にある。同書は複素数を成分とする行列で述べているが、本記事の証明は四則演算だけを使うので任意の体でそのまま成り立つ。線形写像の立場からの扱い(斉次方程式の非自明解、解をもたない定数項の存在)は Axl24 §3B(Null Spaces and Ranges、pp. 59–68)の 3.26・3.28 にある(同書は $\mathbf{F}=\mathbb{R},\mathbb{C}$ の場合として述べている)。

関連項目

参考文献

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