境界付き多様体

同義語:境界つき多様体境界をもつ多様体manifold with boundary

概要

境界付き多様体(manifold with boundary)とは、Hausdorff かつ第 2 可算な空間で、各点の近くが半空間 $\mathbb{H}^n=\{x\in\mathbb{R}^n\mid x^n\ge0\}$ の開集合と同相になるものである。縁 $\{x^n=0\}$ に写る点の全体が境界 $\partial M$ で、どの点も境界の点と内部の点の一方だけに属し、$\partial M$ は 1 つ次元の低い境界のない多様体になる。閉区間・閉球体・円環・Möbius の帯が例で、Stokes の定理 $\int_Md\omega=\int_{\partial M}\omega$ はこの $M$ と $\partial M$ について述べられる。位相空間の部分集合としての境界とは別の概念である。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 多様体, 局所座標

閉区間 $[0,1]$ や閉円板 $D^2=\{x\in\mathbb{R}^2\mid\lvert x\rvert\le1\}$ は多様体ではない。内側の点の近くは直線や平面の開集合と同じ形をしているが、端の点 $0\in[0,1]$ や円周上の点の近くは「半分に切った」形をしているからである。それでも、端の点の近くを半直線 $[0,\infty)$ や半平面の開集合で表すことを許せば、多様体と同じように座標を使って微分や積分ができる。こうして局所的なモデルを $\mathbb{R}^n$ から半空間に広げたものが 境界付き多様体(manifold with boundary)である。境界付き多様体 $M$ の「縁」の点の全体 $\partial M$ は、それ自身が 1 つ次元の低い多様体になる。微分積分学の基本定理を多様体へ広げた Stokesの定理 $\int_Md\omega=\int_{\partial M}\omega$ は、この $M$ と $\partial M$ の組について述べられる。

端の点のまわりが開区間と同相でない理由

$[0,1]$ における $0$ の開近傍 $U$ と、$\mathbb{R}$ の開集合 $V$ への同相写像 $h\colon U\to V$ があったとする。$\varepsilon>0$ を小さくとると $U':=[0,\varepsilon)$ は $U$ に含まれる $U$ の開集合である。同相写像は開集合を開集合に写し、$V$ は $\mathbb{R}$ の開集合なので、$h(U')$ は $\mathbb{R}$ の連結な開集合、すなわち開区間である。開区間から 1 点 $h(0)$ を除くと連結でなくなる。ところが $h$ は連結な $U'\setminus\{0\}=(0,\varepsilon)$ を $h(U')\setminus\{h(0)\}$ の上へ同相に写すので、後者は連結である。これは矛盾である。

定義

以下 $n\ge1$ とし、$\mathbb{R}^n$ の座標を $x=(x^1,\dots,x^n)$ と書く。半空間とその境界と内部を
$$ \mathbb{H}^n:=\{x\in\mathbb{R}^n\mid x^n\ge0\},\qquad\partial\mathbb{H}^n:=\{x\in\mathbb{R}^n\mid x^n=0\},\qquad\operatorname{Int}\mathbb{H}^n:=\{x\in\mathbb{R}^n\mid x^n>0\} $$
とおく(多様体 の記事の本文と同じ選び方)。$\mathbb{H}^n$ には $\mathbb{R}^n$ からの相対位相を入れ、「$\mathbb{H}^n$ の開集合」はこの位相での開集合、すなわち $\mathbb{R}^n$ の開集合 $O$ によって $O\cap\mathbb{H}^n$ と書ける集合を指す。$\mathbb{H}^1=[0,\infty)$ であり、$\mathbb{H}^2$ は上半平面に $x$ 軸を加えたものである。

境界付き多様体(位相的な場合)

位相空間 $M$ が $n$ 次元の境界付き多様体 であるとは、$M$ が Hausdorff かつ第 2 可算で、各点 $p\in M$ に対して、$p$ の開近傍 $U$ と、$U$ から $\mathbb{H}^n$ の開集合 $\varphi(U)$ への同相写像 $\varphi\colon U\to\varphi(U)$ があることをいう。組 $(U,\varphi)$ を $M$ の 座標近傍 という。
点 $p\in M$ は、$\varphi(p)\in\partial\mathbb{H}^n$ となる座標近傍 $(U,\varphi)$ があるとき 境界の点、$\varphi(p)\in\operatorname{Int}\mathbb{H}^n$ となる座標近傍があるとき 内部の点 という。境界の点の全体を $M$ の 境界 といい $\partial M$ と書き、内部の点の全体を $M$ の 内部 といい $\operatorname{Int}M$ と書く。

座標近傍の定義域 $U$ で $\varphi(U)\subset\operatorname{Int}\mathbb{H}^n$ となるものは、$\mathbb{R}^n$ の開集合と同相である。逆に、$p$ が $\mathbb{R}^n$ の開集合と同相な近傍をもてば、その同相写像の像を小さな開球に縮めて平行移動し、$\operatorname{Int}\mathbb{H}^n$ に入れることで、$p$ は内部の点になる。とくに多様体(境界のない多様体)は $\partial M=\emptyset$ の境界付き多様体である。すべての点は境界の点か内部の点のどちらかであり($\varphi(p)$ は $\partial\mathbb{H}^n$ か $\operatorname{Int}\mathbb{H}^n$ のどちらかに入る)、両方になる点がないことは下の thm-mwb-disjoint で示す。
滑らかな構造を入れるには、$\mathbb{R}^n$ の開集合とは限らない集合の上の写像の微分可能性を決めておく必要がある。

滑らかな境界付き多様体

$A\subset\mathbb{R}^n$ を部分集合とする。写像 $f\colon A\to\mathbb{R}^m$ が $C^\infty$ 級 であるとは、各点 $a\in A$ に $\mathbb{R}^n$ における $a$ の開近傍 $W$ と $C^\infty$ 級写像 $F\colon W\to\mathbb{R}^m$ で、$W\cap A$ の上で $F=f$ となるものがあることをいう。
$n$ 次元の境界付き多様体 $M$ の座標近傍の族 $\{(U_\alpha,\varphi_\alpha)\}$ で、$M$ を覆い、座標変換
$$ \varphi_\beta\circ\varphi_\alpha^{-1}\colon\varphi_\alpha(U_\alpha\cap U_\beta)\to\varphi_\beta(U_\alpha\cap U_\beta) $$
がすべて $C^\infty$ 級であるものを $C^\infty$ 級アトラスという。極大な $C^\infty$ 級アトラスを 1 つ定めた境界付き多様体を 滑らかな境界付き多様体 といい、極大アトラスに属する座標近傍を滑らかな座標近傍という。$M$ 上の関数 $g$ が $C^\infty$ 級であるとは、すべての滑らかな座標近傍 $(U,\varphi)$ について $g\circ\varphi^{-1}\colon\varphi(U)\to\mathbb{R}$ が上の意味で $C^\infty$ 級であることをいう。

座標変換の定義域 $\varphi_\alpha(U_\alpha\cap U_\beta)$ は $\mathbb{H}^n$ の開集合であり、境界の点の像を含むときは $\mathbb{R}^n$ の開集合ではない。上の定義はそこでの微分可能性を「$\mathbb{R}^n$ の開集合への延長が $C^\infty$ 級」という形で決めている。$A$ が $\mathbb{R}^n$ の開集合なら、この意味の $C^\infty$ 級は通常の意味と一致する。境界のない場合の定義(可微分多様体)はこの定義の $\partial M=\emptyset$ の場合である。

定義の流儀

モデルにする半空間は文献によって違う。Stokesの定理 の記事は下半空間 $\{x^1\le0\}$ を使い(Nic26 Definition 3.4.17 と同じ)、Hat02 §3.3 は上の $\mathbb{H}^n$ と同じ $\{x^n\ge0\}$ を使う。線形同型 $L(x^1,\dots,x^n):=(x^2,\dots,x^n,-x^1)$ は $\{x^1\le0\}$ を $\mathbb{H}^n$ に、$\{x^1=0\}$ を $\partial\mathbb{H}^n$ に写すので、どちらを使っても同じ概念になる。「境界つき多様体」「境界をもつ多様体」とも書く。

ほかの流儀の違いを開く

Stokesの定理 の記事は、境界付き多様体を「外側の境界のない多様体 $\widetilde M$ の閉集合」として定義している。この定義の境界付き多様体がこの記事の意味の境界付き多様体であることは prop-mwb-stokes-definition で示す。第 2 可算性を仮定しない文献もある(Hat02 §3.3)。

半空間と閉区間
  1. $\mathbb{H}^n$ 自身は、恒等写像を座標近傍とする滑らかな境界付き多様体で、$\partial\mathbb{H}^n$ は定義の $\partial\mathbb{H}^n$ と一致する(thm-mwb-disjoint による)。
  2. 閉区間 $[a,b]$($a< b$)は、$[a,b)$ の上の $x\mapsto x-a$ と $(a,b]$ の上の $x\mapsto b-x$ を座標近傍とする 1 次元の滑らかな境界付き多様体である。どちらも $\mathbb{H}^1=[0,\infty)$ の開集合への同相写像で、座標変換 $u\mapsto(b-a)-u$ は $C^\infty$ 級である。$a$ と $b$ は $\partial\mathbb{H}^1=\{0\}$ に写るので境界の点であり、$\partial[a,b]=\{a,b\}$ である。
  3. 境界のない $n$ 次元の滑らかな多様体は、その局所座標の像を開球に縮めて平行移動し $\operatorname{Int}\mathbb{H}^n$ に入れることで、$\partial M=\emptyset$ の滑らかな境界付き多様体とみなせる。

内部の点と境界の点

左は閉円板 M と、内部の点 p・境界の点 q の近傍。右は半平面の中の像で、p の近傍は半平面の内側の開円板に、q の近傍は境界の直線を直径にもつ半円板に写る 左は閉円板 M と、内部の点 p・境界の点 q の近傍。右は半平面の中の像で、p の近傍は半平面の内側の開円板に、q の近傍は境界の直線を直径にもつ半円板に写る
境界付き多様体の点は、座標近傍の像が $\mathbb{H}^n$ の内側に入るか、縁 $\partial\mathbb{H}^n$ に乗るかで 2 種類に分けられる(図)。定義は「そうなる座標近傍が 1 つある」という形なので、ある座標近傍では内部の点、別の座標近傍では境界の点、ということが起こらないかを確かめなければならない。滑らかな場合の鍵は、半空間の開集合の間の微分同相写像が縁を縁に写すことである。

微分同相写像は縁を縁に写す

$U,V$ を $\mathbb{H}^n$ の開集合とし、$F\colon U\to V$ を全単射で、$F$ と $F^{-1}$ がともに $C^\infty$ 級(def-mwb-smooth の意味)であるものとする。このとき $F(U\cap\partial\mathbb{H}^n)=V\cap\partial\mathbb{H}^n$、$F(U\cap\operatorname{Int}\mathbb{H}^n)=V\cap\operatorname{Int}\mathbb{H}^n$ である。

要点:内側の点 $a$ が縁の点 $F(a)$ に写ったとすると、$F^{-1}$ の延長との合成から $DF(a)$ は正則になり、逆関数定理により $F$ は $a$ の近くを $F(a)$ を含む $\mathbb{R}^n$ の開集合に写す。その開集合は $\mathbb{H}^n$ の外の点を含むので矛盾する。

詳しい証明を開く

まず、$a\in U\cap\operatorname{Int}\mathbb{H}^n$ なら $F(a)\in\operatorname{Int}\mathbb{H}^n$ であることを示す。$F(a)\in\partial\mathbb{H}^n$ と仮定する。$F^{-1}$ は $C^\infty$ 級なので、$F(a)$ の $\mathbb{R}^n$ における開近傍 $W$ と $C^\infty$ 級写像 $G\colon W\to\mathbb{R}^n$ で、$W\cap V$ の上で $G=F^{-1}$ となるものがある。$U\cap\operatorname{Int}\mathbb{H}^n$ は $\mathbb{R}^n$ の開集合なので、その上で $F$ は通常の意味で $C^\infty$ 級であり、$a$ を中心とする開球 $B\subset U\cap\operatorname{Int}\mathbb{H}^n$ を $F(B)\subset W$ となるようにとれる。$B$ の上で $G\circ F=\mathrm{id}$ なので、連鎖律により $DG(F(a))\,DF(a)$ は単位行列であり、$DF(a)$ は正則である。逆関数定理により、$a$ の開近傍 $B'\subset B$ で $F(B')$ が $\mathbb{R}^n$ の開集合となるものがある。$F(B')$ は $x^n$ 座標が $0$ の点 $F(a)$ を含む $\mathbb{R}^n$ の開集合なので、$x^n<0$ の点も含む。ところが $F(B')\subset V\subset\mathbb{H}^n$ であり、これは矛盾である。

同じことを $F^{-1}$ に使うと、$b\in V\cap\operatorname{Int}\mathbb{H}^n$ なら $F^{-1}(b)\in\operatorname{Int}\mathbb{H}^n$ である。したがって $F$ は $U\cap\operatorname{Int}\mathbb{H}^n$ を $V\cap\operatorname{Int}\mathbb{H}^n$ の上へ全単射に写し、補集合どうしの $U\cap\partial\mathbb{H}^n$ を $V\cap\partial\mathbb{H}^n$ の上へ写す。$\square$

内部の点と境界の点は交わらない

$M$ を $n$ 次元の境界付き多様体(位相的な場合を含む)とする。$M$ のどの点も、内部の点であり同時に境界の点であることはない。したがって $M=\operatorname{Int}M\sqcup\partial M$(交わらない和)であり、どの座標近傍 $(U,\varphi)$ についても
$$ U\cap\partial M=\varphi^{-1}(\partial\mathbb{H}^n),\qquad U\cap\operatorname{Int}M=\varphi^{-1}(\operatorname{Int}\mathbb{H}^n) $$
が成り立つ。

$p$ のまわりの座標近傍 $(U,\varphi)$、$(V,\psi)$ で $\varphi(p)\in\operatorname{Int}\mathbb{H}^n$、$\psi(p)\in\partial\mathbb{H}^n$ となるものがあったとする。$F:=\psi\circ\varphi^{-1}\colon\varphi(U\cap V)\to\psi(U\cap V)$ は $\mathbb{H}^n$ の開集合の間の同相写像で、$\varphi(p)$ を $\psi(p)$ に写す。
滑らかな場合は、$F$ と $F^{-1}=\varphi\circ\psi^{-1}$ は座標変換なので $C^\infty$ 級であり、lem-mwb-invariance-smooth により $F(\varphi(p))\in\operatorname{Int}\mathbb{H}^n$ となって矛盾する。
位相的な場合は、lem-mwb-invariance-smooth の証明の逆関数定理の代わりに 領域の不変性($\mathbb{R}^n$ の開集合から $\mathbb{R}^n$ への連続な単射の像は開集合である。Hat02 Theorem 2B.3)を使う。

詳細

$\varphi(p)$ を中心とする開球 $B\subset\varphi(U\cap V)\cap\operatorname{Int}\mathbb{H}^n$ をとると、$F|_B\colon B\to\mathbb{R}^n$ は連続な単射なので $F(B)$ は $\mathbb{R}^n$ の開集合である。$F(B)$ は $x^n$ 座標が $0$ の点 $\psi(p)$ を含むので $x^n<0$ の点も含むが、$F(B)\subset\mathbb{H}^n$ であり矛盾する。


後半:$p\in U$ について $\varphi(p)$ は $\partial\mathbb{H}^n$ か $\operatorname{Int}\mathbb{H}^n$ のどちらかに属する。$\varphi(p)\in\partial\mathbb{H}^n$ なら定義により $p\in\partial M$、$\varphi(p)\in\operatorname{Int}\mathbb{H}^n$ なら $p\in\operatorname{Int}M$ であり、前半によりこの 2 つは同時には起こらない。$\square$

位相的な場合の別の見分け方として、Hat02 §3.3(pp. 252–253)は局所ホモロジー群を使う。

局所ホモロジーによる区別を開く

境界の点 $x$ では $H_n(M,M\setminus\{x\};\mathbb{Z})=0$、内部の点では $\mathbb{Z}$ になるので、2 種類の点は位相だけで見分けられる。


$M$ の部分集合としての $\partial M$ と $\operatorname{Int}M$ は、それ自身が多様体になる。

内部と境界の多様体構造

$M$ を $n$ 次元の境界付き多様体とし、$\pi\colon\partial\mathbb{H}^n\to\mathbb{R}^{n-1}$ を $(x^1,\dots,x^{n-1},0)\mapsto(x^1,\dots,x^{n-1})$ とする($n=1$ では $\mathbb{R}^0$ は 1 点)。

  1. $\operatorname{Int}M$ は $M$ の開集合、$\partial M$ は $M$ の閉集合である。
  2. $\operatorname{Int}M$ は、座標近傍の制限 $\varphi|_{U\cap\operatorname{Int}M}$ を座標近傍とする $n$ 次元の多様体(境界なし)である。
  3. $\partial M$ は、$\pi\circ\varphi|_{U\cap\partial M}$ を座標近傍とする $(n-1)$ 次元の多様体(境界なし)である。とくに $\partial(\partial M)=\emptyset$ であり、$n=1$ なら $\partial M$ は離散集合である。
  4. $M$ が滑らかなら、2 と 3 の座標近傍の族は $C^\infty$ 級アトラスであり、包含写像 $\operatorname{Int}M\hookrightarrow M$、$\partial M\hookrightarrow M$ は $C^\infty$ 級である。

要点:thm-mwb-disjoint により、各座標近傍の中で $\operatorname{Int}M$ と $\partial M$ はそれぞれ $\operatorname{Int}\mathbb{H}^n$ と $\partial\mathbb{H}^n$ の逆像なので、座標近傍を制限すれば $\mathbb{R}^n$ の開集合、$\mathbb{R}^{n-1}$ の開集合への同相写像が得られる。座標変換は元の座標変換の制限である。

詳しい証明を開く

1:$\operatorname{Int}M$ は座標近傍 $U$ ごとの $\varphi^{-1}(\operatorname{Int}\mathbb{H}^n)$ の和集合で、それぞれ $U$ の開集合、したがって $M$ の開集合である。$\partial M$ はその補集合である。

2:$\varphi(U)=O\cap\mathbb{H}^n$($O$ は $\mathbb{R}^n$ の開集合)と書くと、$\varphi$ は $U\cap\operatorname{Int}M$ を $O\cap\operatorname{Int}\mathbb{H}^n$ の上へ同相に写し、これは $\mathbb{R}^n$ の開集合である。Hausdorff 性と第 2 可算性は部分空間に遺伝する。

3:$\varphi$ は $U\cap\partial M$ を $O\cap\partial\mathbb{H}^n$ の上へ同相に写し、$\pi(O\cap\partial\mathbb{H}^n)=\{u\in\mathbb{R}^{n-1}\mid(u,0)\in O\}$ は連続写像 $u\mapsto(u,0)$ による $O$ の逆像なので $\mathbb{R}^{n-1}$ の開集合である。$\pi$ はこの上で同相写像なので、$\pi\circ\varphi$ は $U\cap\partial M$ から $\mathbb{R}^{n-1}$ の開集合への同相写像である。これらの座標近傍の像は $\mathbb{R}^{n-1}$ の開集合なので、$\partial M$ のすべての点は内部の点であり $\partial(\partial M)=\emptyset$ である。$n=1$ では各点が 1 点の開集合をもつので $\partial M$ は離散である。

4:$F:=\psi\circ\varphi^{-1}$ を座標変換とする。2 の座標変換は $F$ を $\mathbb{R}^n$ の開集合 $\varphi(U\cap V)\cap\operatorname{Int}\mathbb{H}^n$ に制限したもので、通常の意味で $C^\infty$ 級である。3 の座標変換は $u\mapsto\pi\bigl(F(u,0)\bigr)$ であり(lem-mwb-invariance-smooth により $F(u,0)\in\partial\mathbb{H}^n$)、点 $(u_0,0)$ の近くで $F$ の $C^\infty$ 級の延長 $\widetilde F$ をとれば $u\mapsto\pi\bigl(\widetilde F(u,0)\bigr)$ と書けるので $C^\infty$ 級である。包含写像を座標で書くと、$\operatorname{Int}M$ では恒等写像、$\partial M$ では $u\mapsto(u,0)$ なので $C^\infty$ 級である。$\square$

たとえば閉区間 $[a,b]$ の内部は開区間 $(a,b)$、境界は 2 点 $\{a,b\}$ である。閉円板 $D^n$ の境界は球面 $S^{n-1}$ になる(ex-mwb-regular-domains)。

関数の劣位集合としての境界付き多様体

具体的な境界付き多様体の多くは、境界のない多様体の中で不等式 $f\le0$ によって切り取られた部分として現れる。

正則な劣位集合は境界付き多様体

$N$ を $n$ 次元の滑らかな多様体(境界なし)、$f\colon N\to\mathbb{R}$ を $C^\infty$ 級関数とし、$f(p)=0$ となるすべての点 $p$ で $df_p\ne0$(局所座標で $\bigl(\partial f/\partial x^1(p),\dots,\partial f/\partial x^n(p)\bigr)\ne0$)であるとする。このとき $M:=\{p\in N\mid f(p)\le0\}$ は $N$ の閉集合であり、部分空間の位相で $n$ 次元の滑らかな境界付き多様体になる。その座標近傍として、$N$ の局所座標を $M$ に制限したもの(必要なら平行移動と線形同型を合成したもの)がとれ、
$$ \partial M=\{p\in N\mid f(p)=0\},\qquad\operatorname{Int}M=\{p\in N\mid f(p)<0\} $$
である。包含写像 $M\hookrightarrow N$ は $C^\infty$ 級である。

$M=f^{-1}\bigl((-\infty,0]\bigr)$ は連続関数による閉集合の逆像なので閉集合であり、Hausdorff 性と第 2 可算性は $N$ から遺伝する。$f(p)<0$ の点は開集合 $\{f<0\}$ に含まれるので、$N$ の局所座標を平行移動して $\operatorname{Int}\mathbb{H}^n$ への座標近傍が作れる。

詳細

$p$ のまわりの $N$ の局所座標 $(U;x)$ で $U\subset\{f<0\}$、$x(U)$ が開球 $B(c,r)$ となるものをとる。平行移動 $T(y):=y-c+(r+1)e_n$($e_n$ は第 $n$ 基本ベクトル)と合成した $\varphi:=T\circ x$ は、$U$ から $\operatorname{Int}\mathbb{H}^n$ に含まれる開集合への同相写像である。


鍵になるのは $f(p)=0$ の点である。$p$ のまわりの $N$ の局所座標 $(x^1,\dots,x^n)$ をとる。$df_p\ne0$ なので、局所座標 の系「局所座標への補完」を $k=1$ として関数 $-f$ に使うと、添字 $i_1<\dots< i_{n-1}$ と $p$ の開近傍 $V$ で $(-f,x^{i_1},\dots,x^{i_{n-1}})$ が $V$ 上の局所座標となるものがとれる。成分を並べ替えた
$$ \varphi:=\bigl(x^{i_1},\dots,x^{i_{n-1}},\,-f\bigr) $$
も $V$ 上の局所座標である。$q\in V$ について $q\in M\iff-f(q)\ge0$ なので $\varphi(V\cap M)=\varphi(V)\cap\mathbb{H}^n$ であり、$\varphi(V)$ は $\mathbb{R}^n$ の開集合だから、これは $\mathbb{H}^n$ の開集合である。よって $\varphi|_{V\cap M}$ は $M$ の座標近傍であり、$\varphi(p)\in\partial\mathbb{H}^n$ である。
座標変換は、$N$ の座標変換と平行移動・成分の並べ替えの合成を $\mathbb{H}^n$ の開集合に制限したものなので、def-mwb-smooth の意味で $C^\infty$ 級である。上の作り方で $f(q)=0$ の点は $\partial\mathbb{H}^n$ に、$f(q)<0$ の点は $\operatorname{Int}\mathbb{H}^n$ に写るので、thm-mwb-disjoint により $\partial M=\{f=0\}$、$\operatorname{Int}M=\{f<0\}$ である。包含写像は座標で書くと $N$ の局所座標の恒等写像(に平行移動を合成したもの)なので $C^\infty$ 級である。$\square$

$\{f\le0\}$ の形の境界付き多様体を 正則な領域 ということがある(regular domain)。Nic26 Example 3.4.18(c) は同じ構成を陰関数定理の応用として述べ、Exercise 3.4.20 は、同書の定義(外側の多様体の閉集合として定義したもの)の境界付き多様体がどれもこの形のものと微分同相であることを演習としている。

劣位集合として得られる例

以下、$\lvert x\rvert$ は Euclid ノルムである。thm-mwb-regular-domain の条件は、$f=0$ の点で勾配が $0$ でないことを確かめればよい。

  1. 閉区間 $[a,b]=\{(x-a)(x-b)\le0\}\subset\mathbb{R}$:$f'(x)=2x-a-b$ は $x=a,b$ で $\pm(b-a)\ne0$ である。
  2. 閉球体 $D^n=\{\lvert x\rvert^2-1\le0\}\subset\mathbb{R}^n$:$\nabla f=2x$ は $\lvert x\rvert=1$ で $0$ でない。$\partial D^n=S^{n-1}$、$\operatorname{Int}D^n$ は開球である。
  3. 円環 $A=\{1\le\lvert x\rvert\le2\}\subset\mathbb{R}^2$:$f(x)=(\lvert x\rvert^2-1)(\lvert x\rvert^2-4)$ とおくと、$\lvert x\rvert^2-1>\lvert x\rvert^2-4$ なので $f\le0$ は $1\le\lvert x\rvert^2\le4$ と同値で、$\nabla f=2x(2\lvert x\rvert^2-5)$ は $\lvert x\rvert=1,2$ で $0$ でない。境界は 2 つの円周 $\{\lvert x\rvert=1\}\sqcup\{\lvert x\rvert=2\}$ である。
  4. 中身の詰まったトーラス:$0< r< R$ とし、$N:=\mathbb{R}^3\setminus\{x=y=0\}$($z$ 軸を除いた空間)、$\rho:=\sqrt{x^2+y^2}$、$f:=(\rho-R)^2+z^2-r^2$ とおく。$\nabla f=\bigl(2(\rho-R)x/\rho,\ 2(\rho-R)y/\rho,\ 2z\bigr)$ が $0$ になるのは $\rho=R$、$z=0$ のときだけで、そこでは $f=-r^2\ne0$ である。$\{f\le0\}$ は中身の詰まったトーラスで、境界はトーラスの曲面 $\{f=0\}$ である。

Stokesの定理 の記事の定義と、この記事の定義の関係は次のとおりである。

Stokes の定理の記事の定義との関係

$\widetilde M$ を $n$ 次元の滑らかな多様体、$M\subset\widetilde M$ を閉集合とし、$\widetilde M$ における $M$ の内点の全体 $M^\circ$ が空でなく、$M\setminus M^\circ$ の各点 $p$ に $\widetilde M$ の局所座標 $(W;x^1,\dots,x^n)$ で $M\cap W=\{q\in W\mid x^1(q)\le0\}$ となるものがあるとする(Stokesの定理 の記事の定義「境界付き多様体」)。このとき $M$ は、$\widetilde M$ の局所座標から作った座標近傍によって、この記事の意味の滑らかな境界付き多様体になり、$\partial M=M\setminus M^\circ$、$\operatorname{Int}M=M^\circ$ である。

要点:境界座標 $x$ に線形同型 $L(x^1,\dots,x^n):=(x^2,\dots,x^n,-x^1)$ を合成すると、$\{x^1\le0\}$ が $\mathbb{H}^n$ に写り、$\mathbb{H}^n$ への座標近傍が得られる。$M\setminus M^\circ$ の点は $x^1=0$ を満たすので縁 $\partial\mathbb{H}^n$ に写る。

詳しい証明を開く

$M^\circ$ の点には、thm-mwb-regular-domain の証明の前半と同じく、$M^\circ$ に含まれる $\widetilde M$ の局所座標を平行移動して $\operatorname{Int}\mathbb{H}^n$ への座標近傍を作る。$p\in M\setminus M^\circ$ と上の $(W;x)$ については、$L(x^1,\dots,x^n):=(x^2,\dots,x^n,-x^1)$ とおいて $\varphi:=L\circ x$ とすると、$\varphi(M\cap W)=\varphi(W)\cap\mathbb{H}^n$ は $\mathbb{H}^n$ の開集合である。$x^1(p)<0$ なら開集合 $\{q\in W\mid x^1(q)<0\}$ が $M$ に含まれる $p$ の近傍になり $p\in M^\circ$ となるので、$x^1(p)=0$、すなわち $\varphi(p)\in\partial\mathbb{H}^n$ である。座標変換が $C^\infty$ 級であることは thm-mwb-regular-domain の証明と同じである。$M^\circ$ の点は $\operatorname{Int}\mathbb{H}^n$ に、$M\setminus M^\circ$ の点は $\partial\mathbb{H}^n$ に写るので、thm-mwb-disjoint により主張の等式が成り立つ。$\square$

逆向きに、thm-mwb-regular-domain の $M=\{f\le0\}$ は、境界の点のまわりで $f$ を第 1 成分とする局所座標 $(f,x^{i_1},\dots,x^{i_{n-1}})$ をとれば $M\cap V=\{f\le0\}$ となるので、Stokesの定理 の記事の定義も満たす。したがって同記事の定理「Stokes の定理」は正則な領域にそのまま使える。同記事の注意「定義の流儀」が述べるとおり、その証明は局所座標と 1 の分割しか使わないので、この記事の定義の境界付き多様体に対しても同じ議論が通る。

積と貼り合わせ

境界のない多様体との積

$M$ を $m$ 次元の滑らかな境界付き多様体、$N$ を $k$ 次元の滑らかな多様体(境界なし)とする。$M\times N$ は $(m+k)$ 次元の滑らかな境界付き多様体であり、
$$ \partial(M\times N)=\partial M\times N,\qquad\operatorname{Int}(M\times N)=\operatorname{Int}M\times N $$
である。

要点:$M$ の座標近傍と $N$ の局所座標の積を作り、半空間の座標 $x^m$ を最後に回せば $\mathbb{H}^{m+k}$ への座標近傍になる。像の最後の成分は $M$ の側の縁の座標なので、境界は $\partial M\times N$ である。

詳しい証明を開く

線形同型 $\sigma(x^1,\dots,x^m,y^1,\dots,y^k):=(x^1,\dots,x^{m-1},y^1,\dots,y^k,x^m)$ は $\mathbb{H}^m\times\mathbb{R}^k$ を $\mathbb{H}^{m+k}$ の上へ写す。$M$ の座標近傍 $(U,\varphi)$ と $N$ の局所座標 $(U',\psi)$ について、$\sigma\circ(\varphi\times\psi)$ は $U\times U'$ から $\mathbb{H}^{m+k}$ の開集合 $\sigma\bigl(\varphi(U)\times\psi(U')\bigr)$ への同相写像である。これらは $M\times N$ を覆い、座標変換は $\sigma\circ(F\times G)\circ\sigma^{-1}$($F,G$ は $M,N$ の座標変換)なので $C^\infty$ 級である。Hausdorff 性と第 2 可算性は積に遺伝する。点 $(p,q)$ の像の最後の成分は $\varphi(p)$ の第 $m$ 成分なので、像が $\partial\mathbb{H}^{m+k}$ に入ることと $\varphi(p)\in\partial\mathbb{H}^m$ は同値であり、thm-mwb-disjoint から主張の等式が従う。$\square$

たとえば $S^1\times[0,1]$ は円柱面(円環と微分同相)で境界は 2 つの円周、$D^2\times S^1$ は中身の詰まったトーラスで境界はトーラス $S^1\times S^1$ である。2 つの境界付き多様体の積では、境界の点どうしの積のところに「角」ができる(ex-mwb-square)。

Möbius の帯

長方形 $[0,1]\times[-1,1]$ で、左端の点 $(0,t)$ と右端の点 $(1,-t)$ を同一視した商空間 $M$ を(閉じた)Möbius の帯という。$M$ は 2 次元の境界付き多様体で、境界は $t=\pm1$ の 2 辺の像がつながった 1 つの円周である。

座標と境界のつながり方を開く

同一視の線の近くでは、$s\in(1-\varepsilon,1]$ の部分を $s-1\in(-\varepsilon,0]$ に移し、$t$ を $-t$ に取り替えて左側の部分とつなげば、$(-\varepsilon,\varepsilon)\times[-1,1]$ の形の座標がとれる。こうして $M$ は 2 次元の境界付き多様体になり、境界は $t=\pm1$ の辺の像である。その境界は 1 つの円周である。実際、辺 $t=1$ を $s=0$ から $s=1$ へ進むと点 $(1,1)$ に着き、これは $(0,-1)$ と同一視されているので、続けて辺 $t=-1$ を $s=0$ から $s=1$ へ進むと点 $(1,-1)$、すなわち出発点 $(0,1)$ に戻る。2 つの辺は 1 本の閉曲線としてつながる。

向きを反転しない同一視 $(0,t)\sim(1,t)$ で得られる円柱面 $S^1\times[-1,1]$ の境界は 2 つの円周である。

境界の向き

境界の点 $p$ のまわりの座標近傍 $(U,\varphi)$、$a:=\varphi(p)\in\partial\mathbb{H}^n$ をとる。$p$ における接ベクトルを、境界のない場合(接空間)と同じく局所座標での成分 $v=(v^1,\dots,v^n)\in\mathbb{R}^n$ で表し、座標を $\psi$ に取り替えたときは座標変換 $F=\psi\circ\varphi^{-1}$ の $a$ における Jacobi 行列 $DF(a)$ で $v\mapsto DF(a)v$ と変換されるものとする。

詳細

$DF(a)$ は $F$ の $C^\infty$ 級の延長の Jacobi 行列である。その成分は、$a$ に $\operatorname{Int}\mathbb{H}^n$ の側から近づく点での $F$ の偏微分の極限に等しいので、延長の取り方によらない。


成分が $v^n<0$ の接ベクトルを 外向き、$v^n>0$ のものを 内向き、$v^n=0$ のものを境界に接するベクトルという。

外向きかどうかは座標によらない

上の記号で、$F$ の第 $n$ 成分 $F^n$ について $a$ で $\partial F^n/\partial x^j(a)=0$($j< n$)かつ $\partial F^n/\partial x^n(a)>0$ である。したがって $\bigl(DF(a)v\bigr)^n=\dfrac{\partial F^n}{\partial x^n}(a)\,v^n$ は $v^n$ と同じ符号をもつ。

要点:$F$ は縁を縁に、内側を内側に写すので、$F^n$ は縁の上で $0$、縁から内側へ進むと正である。これから第 $n$ 行が $\bigl(0,\dots,0,\partial F^n/\partial x^n(a)\bigr)$ で、その成分が $0$ 以上と分かり、$DF(a)$ の正則性から正になる。

詳しい証明を開く

lem-mwb-invariance-smooth により $F$ は $\partial\mathbb{H}^n$ の点を $\partial\mathbb{H}^n$ に、$\operatorname{Int}\mathbb{H}^n$ の点を $\operatorname{Int}\mathbb{H}^n$ に写す。前者から、$a$ の近くのすべての $u\in\mathbb{R}^{n-1}$ で $F^n(u,0)=0$ なので、$u$ で偏微分して $\partial F^n/\partial x^j(a)=0$($j< n$)である。後者から、小さい $t>0$ で $F^n(a+te_n)>0=F^n(a)$ なので $\partial F^n/\partial x^n(a)\ge0$ である。$F^{-1}$ の延長を $G$ とすると $G\circ F=\mathrm{id}$ が $a$ の近くの $\mathbb{H}^n$ の点で成り立ち、内側からの極限をとると $DG(F(a))\,DF(a)$ は単位行列なので、$DF(a)$ は正則である。$DF(a)$ の第 $n$ 行は $\bigl(0,\dots,0,\partial F^n/\partial x^n(a)\bigr)$ なので $\partial F^n/\partial x^n(a)\ne0$、よって正である。$\square$

$M$ の 向き付け とは $\operatorname{Int}M$ の向き付けのことであり、向き付けられた $M$ の境界 $\partial M$ には「外向きのベクトルを先頭に置く」規約で向きを入れる:$T_p\partial M$ の基底 $(w_2,\dots,w_n)$ が正の向きであるのは、外向きのベクトル $\nu$ を先頭に置いた $(\nu,w_2,\dots,w_n)$ が正の向きのとき、と定める。この向きが well-defined であることは Stokesの定理 の記事の補題「誘導された向きは境界座標によらない」(下半空間 $\{x^1\le0\}$ の座標で書いたもの)で示されており、この規約のもとで Stokes の定理が $\int_Md\omega=\int_{\partial M}\omega$ の形で成り立つ(同記事の定義「向き付けられた境界付き多様体と境界の向き」)。たとえば平面の閉円板の境界の円周は反時計回りに、円環 $1\le\lvert x\rvert\le2$ では外側の円周が反時計回り、内側の円周が時計回りに向き付けられ、閉区間 $[a,b]$ の境界では $b$ に $+$、$a$ に $-$ の符号がつく。平面の場合、この向きは「進む向きの左側に $M$ がある」向きである。

反例と注意

境界付き多様体の境界は、位相空間の部分集合の境界(境界)とは別の概念であり、角のある図形は滑らかな境界付き多様体の典型例から外れる。取り違えやすい点を表にまとめる。

取り違え・外す条件反例成り立たなくなること
位相的な境界と同じとみなす$\mathbb{R}^3$ の中の閉円板 $D^2\times\{0\}$$\mathbb{R}^3$ の中の位相的な境界が $\partial D^2=S^1$ に等しい
位相的な境界と同じとみなす$\mathbb{R}^2$ の開円板$\mathbb{R}^2$ の中の位相的な境界(円周)が多様体の境界(空)に等しい
境界が滑らか(角がない)$\mathbb{R}^2$ の正方形 $[0,1]^2$$\mathbb{R}^2$ の局所座標で $\{x^1\le0\}$ と表せる(Stokesの定理 の記事の定義)
境界がない閉球体 $D^n$Poincaré 双対 $H^0\cong H_n$
「閉」の意味閉球体 $D^n$$\mathbb{R}^n$ の閉集合でコンパクトなら閉多様体
反例の確認

正方形の行は ex-mwb-square で証明する。閉多様体(closed manifold)は「コンパクトで境界のない多様体」を指す用語であり、閉集合であることとは別である。$D^n$ は $\mathbb{R}^n$ のコンパクトな閉集合だが $\partial D^n=S^{n-1}\ne\emptyset$ なので閉多様体でない。

ほかの行の確認を開く
  • $D^2\times\{0\}\subset\mathbb{R}^3$ は $\mathbb{R}^3$ の閉集合で、$\mathbb{R}^3$ のどの開球も $z\ne0$ の点を含むので $\mathbb{R}^3$ における内部は空である。したがって $\mathbb{R}^3$ の中の位相的な境界は $D^2\times\{0\}$ 全体である(境界 の注意「多様体の境界との区別」、内部 の注意「周囲の空間への依存」)。一方、$D^2\times\{0\}$ は $D^2$ と同相で、同相写像は座標近傍を座標近傍に写すので、thm-mwb-disjoint により境界の点は境界の点に写り、多様体としての境界は円周である。
  • 開円板 $B$ は $\mathbb{R}^2$ の開集合なので境界のない多様体であり $\partial B=\emptyset$ だが、$\mathbb{R}^2$ における位相的な境界は円周である(境界 の例「平面の円板」)。
  • $D^n$ はコンパクトで向き付け可能だが、$H^0(D^n;\mathbb{Z})\cong\mathbb{Z}$、$H_n(D^n;\mathbb{Z})=0$ であり Poincaré 双対は成り立たない(Poincaré双対 の例「反例:境界をもつ多様体」。境界を相対化した Lefschetz 双対が正しい形である)。

正方形の角

$S:=[0,1]^2\subset\mathbb{R}^2$ とする。原点 $0$ のまわりに $\mathbb{R}^2$ の局所座標 $(W;x^1,x^2)$ で $S\cap W=\{q\in W\mid x^1(q)\le0\}$ となるものは存在しない。したがって $S$ は Stokesの定理 の記事の意味の($\widetilde M=\mathbb{R}^2$ の閉集合としての)境界付き多様体ではない。一方、$S$ は閉円板 $D^2$ と同相なので、位相的な境界付き多様体であり、境界は正方形の周である。

そのような $(W;x)$ があったとする。$\mathbb{R}^2$ における $S$ の内部は $(0,1)^2$ である。$q\in S\cap W$ で $x^1(q)<0$ なら、開集合 $\{x^1<0\}\cap W$ が $S$ に含まれる $q$ の近傍になるので、$q$ は $S$ の内点である。対偶により、周上の点 $q\in S\cap W$ では $x^1(q)=0$ である。小さい $t\ge0$ について $(t,0)$ と $(0,t)$ は周上の点なので $x^1(t,0)=x^1(0,t)=0$ であり、
$$ \frac{\partial x^1}{\partial x}(0)=\lim_{t\to+0}\frac{x^1(t,0)-x^1(0,0)}{t}=0,\qquad\frac{\partial x^1}{\partial y}(0)=\lim_{t\to+0}\frac{x^1(0,t)-x^1(0,0)}{t}=0 $$
となる。すると $(x^1,x^2)$ の原点での Jacobi 行列の第 1 行が $0$ になり、局所座標の座標変換の Jacobi 行列が正則であること(局所座標 の定義の後の説明)に反する。$\square$

角のある図形は Stokes の定理の記事の定理の仮定を満たさないが、積分定理そのものは成り立つことが多い。たとえば立方体についての Stokes の定理(Nic26 Remark 3.4.27)や、多角形についての Green の定理(Greenの定理)がある。

  • 境界付き多様体の間の同相写像 $h\colon M\to M'$ は境界を境界に写す($M$ の座標近傍 $(U,\varphi)$ から $(h(U),\varphi\circ h^{-1})$ が $M'$ の座標近傍になるので、thm-mwb-disjoint により $h(\partial M)=\partial M'$ である)。したがって境界 $\partial M$ と内部 $\operatorname{Int}M$ は $M$ の位相だけで決まり、$M$ がどの空間に入っているかにはよらない。これに対して 境界・内部 の記事の意味の境界・内部は、周りの空間に依存する。
  • Stokesの定理 の記事の定義の $M$ では、$\operatorname{Int}M$ は $\widetilde M$ における $M$ の内部 $M^\circ$ に一致する(prop-mwb-stokes-definition)。
  • de Rham の定理は境界付き多様体でも成り立つ(de Rhamの定理 の注意「境界付き多様体と層論的証明」)。

関連項目

参考文献

[2]
Allen Hatcher, Algebraic Topology, Cambridge University Press, 2002, §2.B Theorem 2B.3(p. 172、領域の不変性)、§3.3 Other Forms of Duality(pp. 252–253、境界付き多様体の定義と局所ホモロジーによる境界の特徴づけ)

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