沈め込み的射(submersive morphism)とは、スキームの射 $f\colon X\to Y$ であって、底空間の写像が全射で、$Y$ の部分集合が開集合であることとその逆像が開集合であることが同値になるもの、すなわち全射な商写像になっているものである。任意の底変換がこの性質をもつとき普遍的に沈め込み的という。忠実平坦な環準同型のスペクトルの射は沈め込み的であり、平坦・全射・準コンパクトな射は普遍的に沈め込み的である。このとき $Y$ の位相は $X\times_YX\rightrightarrows X$ の余等化子として復元され、忠実平坦降下の位相の部分を担う。
スキームの射 $f\colon X\to Y$ から $Y$ について何かを知りたいとき、まず問題になるのは $Y$ の位相が $X$ から復元できるかどうかである。$f$ が全射で、$Y$ の部分集合が開集合であることが逆像を見ればわかるとき、$f$ を沈め込み的(submersive)という。位相空間の言葉では、$f$ が全射な商写像であることにほかならない。
この名前は可微分多様体の沈め込み(微分が全射な滑らかな写像)とは別の概念である。スキームで可微分多様体の沈め込みにあたるのは滑らかな射であり、沈め込み的射は位相だけにかかわる条件である。
代数幾何学で沈め込み的射が重要なのは、忠実平坦な射が(準コンパクト性のもとで)普遍的に沈め込み的になるからである。これによって、$X$ の上で開集合や閉集合であることを確かめれば、$Y$ の上でも開集合や閉集合であるとわかる。これは忠実平坦降下の位相の部分にあたる。この記事では定義と基本性質を述べ、平坦・全射・準コンパクトな射が普遍的に沈め込み的であることを証明する。
定義は Stacks Topology, Definition 5.6.3(Tag 0406)と Morphisms of Schemes, Definition 29.25.1(Tag 040H)による。底変換の底変換はまた底変換なので、普遍的に沈め込み的な射の底変換は普遍的に沈め込み的である(底変換 の命題「底変換の推移性」)。
$f\colon X\to Y$、$g\colon Y\to Z$ を位相空間の連続写像とする。
1 は 商写像 の命題「連続な開全射と閉全射」である。
2:全射性は明らかである。$U\subset Z$ について $(g\circ f)^{-1}(U)=f^{-1}(g^{-1}U)$ が開集合なら、$f$ が沈め込み的なので $g^{-1}U$ は開集合であり、$g$ が沈め込み的なので $U$ は開集合である。
3:$g\circ f$ が全射なので $g$ は全射である。$g^{-1}(U)$ が開集合なら、$f$ の連続性から $f^{-1}(g^{-1}U)$ は開集合なので、$g\circ f$ が沈め込み的であることから $U$ は開集合である。
4:$f$ が沈め込み的とする。$W\subset V_i$ について $f^{-1}(W)$ が $f^{-1}(V_i)$ の開集合なら、$f^{-1}(V_i)$ は $X$ の開集合なので $f^{-1}(W)$ は $X$ の開集合であり、$W$ は $Y$ の、したがって $V_i$ の開集合である。全射性も制限で保たれる。逆に各制限が沈め込み的とする。全射性は明らかである。$U\subset Y$ について $f^{-1}(U)$ が開集合なら、$f^{-1}(U\cap V_i)=f^{-1}(U)\cap f^{-1}(V_i)$ は $f^{-1}(V_i)$ の開集合なので、$U\cap V_i$ は $V_i$ の開集合、したがって $Y$ の開集合である。よって $U=\bigcup_i(U\cap V_i)$ は開集合である。$\square$
4 により、沈め込み的であるかどうかは $Y$ のアフィン開被覆の上で確かめればよい。
証明には 2 つの補題を使う。1 つは平坦性から素イデアルの下降が従うこと、もう 1 つは環準同型の像の閉包に関する事実である。
$\varphi\colon A\to B$ を平坦な環準同型とし、$\mathfrak{Q}$ を $B$ の素イデアル、$\mathfrak{p}=\varphi^{-1}(\mathfrak{Q})$ とする。$A$ の素イデアル $\mathfrak{p}'\subset\mathfrak{p}$ に対し、$\mathfrak{Q}'\subset\mathfrak{Q}$ かつ $\varphi^{-1}(\mathfrak{Q}')=\mathfrak{p}'$ をみたす $B$ の素イデアル $\mathfrak{Q}'$ が存在する。
$A\setminus\mathfrak{p}$ の元の像は $\mathfrak{Q}$ に入らないので $B_{\mathfrak{Q}}$ の単元であり、$B_{\mathfrak{Q}}$ は $A_{\mathfrak{p}}$ 代数になる。$B_{\mathfrak{Q}}$ は平坦 $A$ 加群 $B$ の局所化なので平坦 $A$ 加群であり、$A_{\mathfrak{p}}$ 加群 $M$ について $M\otimes_{A_{\mathfrak{p}}}B_{\mathfrak{Q}}=M\otimes_AB_{\mathfrak{Q}}$ だから、平坦 $A_{\mathfrak{p}}$ 加群でもある。$A_{\mathfrak{p}}\to B_{\mathfrak{Q}}$ は非零局所環の平坦な局所準同型なので忠実平坦であり、$\operatorname{Spec}B_{\mathfrak{Q}}\to\operatorname{Spec}A_{\mathfrak{p}}$ は全射である(忠実平坦 の命題「忠実平坦環写像と素イデアル」)。$\mathfrak{p}'A_{\mathfrak{p}}$ の上にある $B_{\mathfrak{Q}}$ の素イデアルを $B$ に引き戻したものを $\mathfrak{Q}'$ とすれば、$\mathfrak{Q}'\subset\mathfrak{Q}$ であり、$\varphi^{-1}(\mathfrak{Q}')=\mathfrak{p}'$ である。$\square$
$\psi\colon A\to C$ を環準同型、$I=\ker\psi$ とする。$I$ 上の極小素イデアル $\mathfrak{p}_0$ に対し、$\psi^{-1}(\mathfrak{R})=\mathfrak{p}_0$ となる $C$ の素イデアル $\mathfrak{R}$ が存在する。
$\bar A:=A/I$ とおくと $\bar A\to C$ は単射であり、$\bar{\mathfrak{p}}_0:=\mathfrak{p}_0/I$ は $\bar A$ の極小素イデアルである。局所化は完全なので $\bar A_{\bar{\mathfrak{p}}_0}\to C_{\bar{\mathfrak{p}}_0}$($C$ を $\bar A\setminus\bar{\mathfrak{p}}_0$ の像で局所化したもの)は単射である。$\bar A_{\bar{\mathfrak{p}}_0}$ は $0$ でなく、その素イデアルは $\bar{\mathfrak{p}}_0$ の極小性から $\bar{\mathfrak{p}}_0\bar A_{\bar{\mathfrak{p}}_0}$ ただ 1 つである。よって $C_{\bar{\mathfrak{p}}_0}\neq0$ であり、その素イデアルを 1 つとると、$\bar A_{\bar{\mathfrak{p}}_0}$ への引き戻しは素イデアルなので $\bar{\mathfrak{p}}_0\bar A_{\bar{\mathfrak{p}}_0}$ である。これを $C$ に引き戻したものが求める $\mathfrak{R}$ である。$\square$
$\varphi\colon A\to B$ を忠実平坦な環準同型とすると、$f\colon\operatorname{Spec}B\to\operatorname{Spec}A$ は沈め込み的である。
$f$ は全射である(忠実平坦 の命題「忠実平坦環写像と素イデアル」)。閉集合について示せば十分である。$F\subset\operatorname{Spec}A$ で $f^{-1}(F)$ が閉集合 $V(J)$($J\subset B$ はイデアル)とする。$f$ の全射性から $F=f(V(J))$ である。$I:=\varphi^{-1}(J)$ とおき、$F=V(I)$ を示す。
$\mathfrak{Q}\supset J$ なら $\varphi^{-1}(\mathfrak{Q})\supset I$ なので $F\subset V(I)$ である。
$F$ は特殊化で閉じている。 $\mathfrak{q}\in F$、$\mathfrak{q}\subset\mathfrak{q}'$ とする。$f$ の全射性から $\mathfrak{q}'$ の上の素イデアル $\mathfrak{Q}'$ があり、lem-sub-going-down により $\mathfrak{q}$ の上の素イデアル $\mathfrak{Q}\subset\mathfrak{Q}'$ がある。$\mathfrak{Q}\in f^{-1}(F)=V(J)$ なので $J\subset\mathfrak{Q}\subset\mathfrak{Q}'$、すなわち $\mathfrak{Q}'\in V(J)$ であり、$\mathfrak{q}'=f(\mathfrak{Q}')\in F$ である。
$V(I)\subset F$。 $\mathfrak{p}\supset I$ とする。極小素イデアル の定理「極小素イデアルの存在」により、$I\subset\mathfrak{p}_0\subset\mathfrak{p}$ となる $I$ 上の極小素イデアル $\mathfrak{p}_0$ がある。合成 $A\to B\to B/J$ の核は $I$ なので、lem-sub-minimal により $B/J$ の素イデアル、すなわち $J$ を含む $B$ の素イデアル $\mathfrak{Q}_0$ で $\varphi^{-1}(\mathfrak{Q}_0)=\mathfrak{p}_0$ となるものがある。よって $\mathfrak{p}_0\in f(V(J))=F$ であり、特殊化で閉じていることから $\mathfrak{p}\in F$ である。
以上より $F=V(I)$ は閉集合である。$\square$
証明で全射性を使ったのは $F=f(V(J))$ と特殊化の持ち上げの 2 か所であり、平坦性を使ったのは下降性だけである。同じ議論は Stacks Morphisms of Schemes, Lemma 29.26.12 の証明にもある。
スキームの射 $f\colon X\to Y$ が平坦(平坦射)・全射・準コンパクト($Y$ の任意のアフィン開集合の逆像が準コンパクト)なら、$f$ は普遍的に沈め込み的である。
$Y'\to Y$ を任意の射とし、$f'\colon X':=X\times_YY'\to Y'$ が沈め込み的であることを示す($Y'=Y$ とすれば $f$ 自身も含まれる)。$Y'$ は、$Y$ のアフィン開集合 $V=\operatorname{Spec}A$ の中に写るアフィン開集合 $V'=\operatorname{Spec}C$ で被覆される。prop-sub-basic の 4 により、各 $V'$ について $f'^{-1}(V')\to V'$ が沈め込み的であることを示せばよい。
$f$ は準コンパクトなので、$f^{-1}(V)$ は有限個のアフィン開集合 $\operatorname{Spec}B_1,\dots,\operatorname{Spec}B_n$ で被覆される。ファイバー積の構成から $f'^{-1}(V')=f^{-1}(V)\times_VV'$ であり、これは開部分スキーム $\operatorname{Spec}B_i\times_VV'=\operatorname{Spec}(B_i\otimes_AC)$(底変換 の定理「アフィンスキームの底変換」)で被覆される。$B:=B_1\times\dots\times B_n$ とおくと $\operatorname{Spec}B=\coprod_i\operatorname{Spec}B_i$ であり、$\operatorname{Spec}(B\otimes_AC)=\coprod_i\operatorname{Spec}(B_i\otimes_AC)\to f'^{-1}(V')$ は全射連続写像である。
$A\to B_i$ は平坦(平坦射 の命題「平坦性の局所性」)なので、有限直積 $B$ も平坦 $A$ 加群である。$\coprod_i\operatorname{Spec}B_i\to f^{-1}(V)\to V$ は全射なので、$\operatorname{Spec}B\to\operatorname{Spec}A$ は全射であり、$A\to B$ は忠実平坦である(忠実平坦 の命題「忠実平坦環写像と素イデアル」)。その基底変更 $C\to B\otimes_AC$ も忠実平坦である(同じ記事の命題「任意の基底変更と合成による保存」)。thm-sub-ff により $\operatorname{Spec}(B\otimes_AC)\to V'$ は沈め込み的であり、これは $\operatorname{Spec}(B\otimes_AC)\to f'^{-1}(V')\to V'$ と分解するので、prop-sub-basic の 3 により $f'^{-1}(V')\to V'$ は沈め込み的である。$\square$
この定理は Stacks Morphisms of Schemes, Lemma 29.26.12 と Descent, Lemma 35.23.5 の証明にある主張にあたる。準コンパクトの仮定を外した反例は ex-sub-table の 1 行目である。
沈め込み的な射では、$Y$ の位相空間が $X$ と $X\times_YX$ から復元できる。
$f\colon X\to Y$ を沈め込み的なスキームの射とし、$p_1,p_2\colon X\times_YX\to X$ を射影とする。位相空間の圏で、$|Y|$ は $p_1,p_2$ の余等化子である。すなわち、連続写像 $u\colon|X|\to T$ が $u\circ p_1=u\circ p_2$ をみたすなら、$u=v\circ f$ となる連続写像 $v\colon|Y|\to T$ がただ 1 つ存在する。
$x_1,x_2\in X$ が $f(x_1)=f(x_2)=y$ をみたすとする。$X\times_YX$ の点で $x_1,x_2$ に写るものは $\kappa(x_1)\otimes_{\kappa(y)}\kappa(x_2)$ の素イデアルに対応し(普遍同相写像 の定義のあとの注意)、体上の $0$ でないベクトル空間のテンソル積は $0$ でないので、そのような点 $z$ が存在する。$u(x_1)=u(p_1(z))=u(p_2(z))=u(x_2)$ だから、$u$ は $f$ のファイバーの上で一定である。$f$ は全射なので写像 $v$ で $u=v\circ f$ となるものがただ 1 つあり、$W\subset T$ が開集合なら $f^{-1}(v^{-1}W)=u^{-1}(W)$ が開集合なので、$f$ が沈め込み的であることから $v^{-1}(W)$ は開集合である。$\square$
この命題は位相空間についての降下である。構造層や準連接層の降下には、沈め込み性だけでは足りず、忠実平坦性そのものを使う(忠実平坦降下)。
有限射は普遍閉である(有限射 の命題「閉集合の像」)。全射な射の底変換は全射である(普遍同相写像 の定義のあとの注意)。したがって有限な全射の底変換は閉な全射であり、prop-sub-basic の 1 により沈め込み的である。すなわち有限な全射は普遍的に沈め込み的である。たとえば尖点 $y^2=x^3$ の正規化 $\mathbb{A}^1_k\to\operatorname{Spec}k[x,y]/(y^2-x^3)$(普遍同相写像 の例「尖点の正規化」)や、有限群 $G$ が環 $A$ に作用するときの $\operatorname{Spec}A\to\operatorname{Spec}A^G$(有限群による商 の定理「アフィンスキームの有限群による商」の 3。この射は全射な閉写像である)がそうである。
$k$ を体とし、$f\colon\mathbb{A}^2_k=\operatorname{Spec}k[t,x]\to\mathbb{A}^1_k=\operatorname{Spec}k[t]$ を射影とする。$k[t,x]$ は自由 $k[t]$ 加群なので $k[t]\to k[t,x]$ は忠実平坦であり(自由加群のテンソルは完全性と非零性を保つ)、thm-sub-fpqc により $f$ は普遍的に沈め込み的である。一方、閉集合 $V(tx-1)$ の像は $D(t)=\mathbb{A}^1_k\setminus\{0\}$ で閉集合ではない($t=a\neq0$ の上には点 $x=a^{-1}$ があり、$t=0$ の上の点は $tx-1=-1$ で消えない)。よって $f$ は沈め込み的だが閉写像ではない。
thm-sub-fpqc の 3 つの仮定は、どれも外せない。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 準コンパクト | $X=\coprod_p\operatorname{Spec}\mathbb{Z}_{(p)}\to\operatorname{Spec}\mathbb{Z}$($p$ は素数全体) | 沈め込み的であること |
| 平坦 | $\operatorname{Spec}\mathbb{F}_p\amalg\operatorname{Spec}\mathbb{Q}\to\operatorname{Spec}\mathbb{Z}_{(p)}$ | 沈め込み的であること |
| 全射 | 開埋め込み $\operatorname{Spec}\mathbb{Q}\to\operatorname{Spec}\mathbb{Z}_{(p)}$ | 沈め込み的であること |
1 行目:各 $\mathbb{Z}\to\mathbb{Z}_{(p)}$ は局所化なので平坦であり、生成点 $(0)$ と閉点 $(p)$ はどちらも像に入るので全射である。成分が無限個あるので準コンパクトでない。$F=\{(0)\}$ とすると、$f^{-1}(F)$ は各成分 $\operatorname{Spec}\mathbb{Z}_{(p)}$ の生成点 $\{(0)\}=D(p)$ の和で開集合だが、$\operatorname{Spec}\mathbb{Z}$ の空でない開集合は有限個を除くすべての閉点を含むので、$F$ は開集合でない。
2 行目:$\mathbb{Z}_{(p)}\to\mathbb{F}_p$ は $p$ 倍写像の単射性を保たないので平坦でなく、射は全射かつ準コンパクトである。閉点 $\{(p)\}$ の逆像は成分 $\operatorname{Spec}\mathbb{F}_p$ で開集合だが、$\{(p)\}$ は $\operatorname{Spec}\mathbb{Z}_{(p)}$ の開集合でない(開集合 $D(p)=\{(0)\}$ の補集合である)。
3 行目:局所化なので平坦、1 点の空間からの射なので準コンパクトだが、閉点 $(p)$ が像に入らないので全射でない。
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